IPEの果樹園2019

今週のReview

7/1-6

***************************** 

イスタンブール市長選挙 ・・・米中新冷戦の将来 ・・・イランとアメリカ ・・・トランプの間違った政策 ・・・香港民主化デモ ・・・ユーロ圏改革 ・・・Brexitの幻想と現実 ・・・Libraデジタル通貨の時代 ・・・社会契約の再建 ・・・トランプとウォレンのドル安政策 ・・・民主党の大統領候補者争い

長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 イスタンブール市長選挙

PS Jun 25, 2019

Istanbul Shows How Democracy Is Won

DARON ACEMOGLU , JAMES A. ROBINSON

フィリピン、ブラジル、ハンガリー、ポーランドなど、他のポピュリスト指導者たちと同様、エルドアンも選挙によって権力を獲得し、その後、権威主義的な政策や制度の変更を進めてきた。現代のポピュリストたちが、以前のピノチェトのような独裁者と違うのは、権力を軍事クーデタや敵対者の拷問、投獄、殺害によって獲得するのではないことだ。

しかし、現代のポピュリストたちの弱点は明らかだ。それは投票である。エルドアンは、権力獲得後も、17年間の連続する選挙勝利を続けてきた。それは、敵陣営を分断し、経済的に収奪し、文化的に追い詰める中で、組織的に支持者を動員して選挙の環境を勝利にむけて固めたからだ。

それでも国民の不満は高まっていた。野党が、従来は伝統的なイデオロギーに制約されていたが、もっとプラグマティックな目標を掲げる、柔軟な候補者を立てたことで、さまざまな反対派が協力したのだ。その目標とは、社会福祉、市民サービス、無駄の解消、汚職撲滅、そして、再選挙を求めた政府に対して、民主主義の再生、である。


 米中新冷戦の将来

PS Jun 21, 2019

The Coming Sino-American Bust-Up

NOURIEL ROUBINI

米中の新冷戦は世界経済の重要な不確実性要因になっている。世界の2大経済が、たとえアメリカ連銀や他の中央銀行が金融緩和を行っても、2020年までに世界不況や金融危機を生じるだろう。

大阪のG20サミットで米中首脳の短い会談が予定されている。貿易戦争の停戦が実現するだろうか?

2020年のアメリカ大統領選挙まで、3つのシナリオが考えられる。

1に、トランプと習が停戦に合意することだ。中国はアメリカからもっと輸入する。関税と非関税障壁を下げ、金融やサービス分野で外国からの直接投資を受け入れ、通貨価値の安定性と外国為替取引に関するデータの透明性を確保する。

2は、この半年から1年で、米中が通商、技術、新冷戦の全面的な戦いを始めることだ。交渉再開後、急速に立場は離反していく。アメリカは残る3000億ドルの中国からの輸入に対して関税率を25%に引き上げる。中国の、ファーウェイその他のハイテク企業が、アメリカ企業から部品やソフトウェアを購入することを禁止する。

このシナリオでは、地政学的、軍事的な対立が激化する。東シナ海、南シナ海、台湾。北朝鮮、新疆、イラン、香港で、衝突が起きることも排除できない。

3は、停戦が成立しないが急激な悪化もせず、米中は緩やかに紛争の水準を引き上げていく。新しい分野に追加するとしても関税率は10%にとどめ、ファーウェイのアメリカ製部品購入は一時的に認めることで、遮断のオプションを温存する。中国の指導者たちは、極端な報復措置を取らないが、経済的なダメージを抑える介入を続ける。

3のシナリオの起きる可能性が最も高い。202011月に、もっと公平な立場で交渉できるアメリカ大統領が現れることを、中国は待っている。

しかし、こうした戦略は安定したものではなく、数か月で第1か第2のシナリオに代わる。停戦合意の方が両国の経済は改善するだろう。しかも交渉が不確実さを残す限り、連銀は金融緩和を行う。その効果が経済に及ぶまでに時間がかかるからだ。トランプは、貿易のディールを成功させ、しかも好景気を自慢できる。

G20で、表面的には、米中の一時的休戦が達成できるかもしれない。しかし、数か月で、第2のシナリオ(全面戦争)に代わる可能性が高い。アメリカは中国の約束を疑っている。しかし、中国の法律を変えることは、主権の問題として中国が拒んでいる。それは中国人にとって、19世紀の帝国主義的干渉を意味する。

政治的に、中国は長期的な視点を採る。習は1930年代の「長征」に言及し、自身を国旗に包み、ナショナリズムを助長するだろう。全面的な経済戦争は、トランプ再選を阻む手段になる。エスカレーションが、事実上の、アメリカにおける体制転換を求めることである。

トランプも、弱い合意よりも、全面的な貿易・ハイテク戦争を好む。譲歩すれば、民主党に責められ、右派の評論家に融和策と非難され、ブルーカラー労働者への裏切りと言われる。トランプ政権の安全保障強硬派は、まるでDr. Strangeloveのように、中国の体制は脆弱で、経済ショックによる政治の崩壊、体制転換ができる、と信じているようだ。その結果、政府はコストを無視して封じ込めに突き進む。

合意より、全面戦争。それが米中関係の将来である。


 イランとアメリカ

NYT June 26, 2019

This Isn’t About Iran. It’s About China.

By Robert D. Kaplan

世界金融危機、5G通信機器とネットワーク、サイバー戦争の時代でも、地理がなお支配している。ホルムズ海峡で起きたタンカー襲撃がそうだ。湾岸諸国が世界の原油と生産能力のおよそ半分を占めている。

オマーン湾は、オマーンとイランとを隔てるだけでなく、オマーンとパキスタンとを隔てている。パキスタンには、すでに中国が進出し、国有企業がグワダルGwadar港にコンテナの拠点を築いている。北京は、道路、鉄道、パイプラインで、中国西部と結ぶ計画である。

言い換えれば、中国はすでに中東に入っているのだ。オマーン湾は、アメリカが中東から原油を輸入する航路であるだけではない。それは、中東と、インド亜大陸、東アジアとを統合する、中国の一帯一路の結節点である。


 トランプの間違った政策

PS Jun 24, 2019

Trump’s Art of the Spin

STEPHEN S. ROACH

株価は上昇し、失業率も50年ぶりの低さである。アメリカの経済政策を批判する者はいない。客観的な、原則に基づく分析は無視される。それは大きな間違いだ。

時期を間違った財政刺激策、攻撃的な関税引き上げ、連銀への前例のない攻撃、こうした有毒な政策ミックスTrumponomicsには、もっと批判的な評価が必要だ。

政治家や評論家はいつでも政策論争を都合よく捻じ曲げるが、トランプは新しい水準を示している。連邦政府の財政赤字は今後10年間で推定15000億ドルも増える。連邦債務は、2029年までに、第2次世界大戦後の最高水準、GDP比で92%を超えるだろう。こうしたことは重視されない。そして、「アメリカを再び偉大にする」として正当化された。

関税は消費者への課税であり、グローバル・サプライ・チェーンの効率性を損なう障害物だ。しかし、貿易相手国にアメリカの扱いをもっと有利にする、交渉のテコとして、それらが「武器」とみなされる。連銀の独立性に対する攻撃も、連銀の使命(雇用と物価安定の確保)を妨げるものとしてではなく、大統領のけん制として容認される。

こうした政策アプローチには3つの欠陥がある。1.意図とその影響とが結びつかない。減税は税制改革ではない。スムート=ホーリー関税法の教訓が学ばれていない。関税を「美しい」と言うのは無知である。1970年代の高インフレを鎮静化したのは、ポール・ボルカーが連銀の独立性を前提できたからだ。

2.故M.フェルドスタインが長く主張してきたように、財政赤字、関税、金融政策には関係がある。財政赤字は国内貯蓄を減らし、それが資本流入と大きな貿易赤字をもたらす。この関係を観ずに、アメリカは貿易赤字について中国を攻撃する。中国への関税は、効率的な中国の生産者から、もっとコストの高いサプライヤーに代える。それは増税と同じようにインフレのリスクを高め、金融引き締め策をもたらす。もし連銀が独立しているなら。

3.政策の影響は常に遅れる。低金利は債務への支払い負担を減らすが、だから財政赤字を増やすと、財政赤字の超過額が債務として累積する。長期的に、低金利は続かない。同様に、関税や金融政策の影響も、そのすべてが現れるには12-18カ月かかる。

現在のアメリカ政府に特徴的なことは、大統領が短期的な方便に流れることではなく、政策の効果をよく知る者がそれを抑制できないことだ。1990年代初めに設立された国家経済会議は、その役割を果たしていたが、現在の議長Larry Kudlowは自由貿易を支持しているが、トランプ関税や連銀攻撃を擁護する。共和党も自由化を支持してきたが、大統領には迎合する。

政府が歴史や政策の合理性を無視するとき、その結末は快適なものではないだろう。


 香港民主化デモ

FT June 24, 2019

Hong Kong protesters have learnt from their 2014 predecessors

Alice Woodhouse

数千人の若者たちが黒い服を着て香港のメインストリートを埋めた。審議を中断した送還条例に抗議するためだ。それは以前の抗議運動、失敗に終わった2014年の雨傘革命の遺産であることが明白だ。

デモに集まった10代、20代前半の若者たちは、香港行政府の隣の同じ通りに集まった。それは2014年に普通選挙権を求めた3カ月に及ぶ占拠の焦点であった。再び、デモ隊に軽食を提供する拠点が現れ、催涙ガスを防ぐゴーグルや、バリケードを築くためのワイヤが供給された。群衆の奥から水を求める声が届くと、手から手へ、水のボトルが渡された。今回、デモ隊は認証を避ける手術用マスクをしていた。それは2014年の指導者たちが投獄されたからだ。

6月のデモは、香港の史上最大規模に達した。組織した者たちは、週末、2つの平和的デモが、100万人、200万人を集めた、という。しかし、612日の行政府に向かうデモには、150発の催涙弾、ゴム弾が撃たれた。

市民的不服従の思想が、彼らに広がっている。2014年のデモに参加し、今も投獄されている方角教授Benny Taの広めた考えだ。彼らのモットーは、格闘家ブルース・リーの言葉、“Be water, my friend”である、日常生活を維持しながら、民衆とともに抵抗を続ける、水のように柔軟な姿勢を表している。

先週、雨傘革命の指導者の1人、Joshua Wongが釈放された。しかし、彼は今回のデモを指導していない。集団討議の後、決定はメッセージアプリで伝達された。われわれは自分の意志に従う。自分で決断する。


 ユーロ圏改革

FT June 24, 2019

Macron holds on to hope for shrunken eurozone budget plan

Martin Sandbu

フランスのマクロン大統領は、不況期に需要を維持する財政安定化装置をユーロ圏が持つことを願った。エコノミストたちは、ユーロ圏が需要を安定化できなかったことでユーロ危機は悪化した、という点で一致している。しかし、独仏やユーロ圏諸国間の話し合いが1年以上も続いた末に、「安定化」の言葉は消滅した。

金曜日のEUサミットで残ったのは、「収れんと競争力」のために投資と構造改革を融資する計画だ。その規模はまだ決まっていないが、小さなものになりそうだ。昨年12月に、オランダの財務大臣Wopke Hoekstraが「巨象のように始まった提案が、小さなネズミになって、今や、かごに入った。」と述べたが、彼らの勝利である。

ユーロ予算の経済機能を削減するハンザのキャンペーンは成功した。しかし、パリの戦いは政治の舞台に移行する。政府債務危機が示したように、政治家たちは何かしなければならないとき、利用可能な道具を創造的に駆使するだろう。

ネズミがかごを抜け出すかもしれない。


 Brexitの幻想と現実

FT June 24, 2019

Brexit is an idea for a bygone era

Gideon Rachman

戦略家は、権威主義的な中国、法を無視するロシア、中東や北朝鮮の戦争を懸念する。エコノミストは貿易戦争を、弁護士は国際条約を破棄するトランプ政権の「アメリカ・ファースト」を、環境保護論者と多くの有権者は気候変動を重視する。

ドイツが、もしくは、ヨーロッパの統合がイギリスにとって最大の脅威だ、とはっきり主張する者は少ない。しかし30年前には、多くの者がそう考えた。2016年のEU離脱投票でも、彼らがBrexitの知的、情緒的な基盤であった。

1989年のベルリンの壁崩壊後にドイツが再統一し、ヨーロッパ通貨が誕生し、政治統一が議論されたことは、1990年代初め、イギリスの保守党に衝撃を与えた。ドイツの支配という旧来の恐怖がよみがえったのだ。Brexit推進派の主要人物Boris Johnson, Nigel Farage and Michael Goveは、この時代の政治に参加した。1989年、ブリュッセルで特派員となったジョンソンは、「ヨーロッパ連邦」に関する保守党の部族的な恐怖心をあおった。

30年経って、ドイツの率いるEU帝国を恐れるのは愚かである。今やドイツは、繰り返し、その平和主義を西側同盟諸国に批判されている。ブリュッセルやパリが求める経済同盟の深化を、ドイツが拒んでいる。

現代のBrexit支持者が唱える「グローバル・ブリテン」のスローガンも、その前提は1990年代の世界だ。EUは世界経済で重要ではなくなり、アジアや新興市場に多くの機会がある。自由貿易を目指し、グローバルな金融が拡大し、アメリカはアンカーとして信頼でき、ロシアはおとなしく、中国が新興市場を刺激してくれる。

どれ1つ今では正しくない。「合意なき離脱」によっても、WTOルールがあるから大丈夫、という主張も間違っている。アメリカはWTOの紛争解決メカニズムを妨げている。米中紛争が激化する最悪のタイミングで、UKEUを離脱することになる。

もしジョンソンが首相になるなら、30年前の幻想を捨てるときだ。EUの集団的な力を利用して、ロシアの攻勢や気候変動、貿易戦争に対処するべきであり、EU離脱を最優先する、というのは暴論だ。


 Libraデジタル通貨の時代

FT June 24, 2019

BoE’s new policy sets its course for a digital future

デジタル・バンキングがシティの金融街に入ってきた。カーニーMark Carney総裁は、イングランド銀行BoEが金融ハイ的企業に口座開設を認め、オーバーナイトの資金を提供する。それは金融の起業家たちに金融システムの聖域を開放することだ。

カーニーは支払い・決済システムの近代化を進めるべきだ。フィンテック企業にBoEがアクセスを許せば、金融部門に必要な競争を刺激することができる。また、彼らも旧来の銀行業と同じように精査されるだろう。

FT June 24, 2019

Facebook’s full-frontal assault on finance

Richard Waters and Hannah Murphy

こうしたアイデアは以前からあった。しかしAppleなど、ハイテク大企業は銀行からの攻撃を受けて制限していた。Facebookは、すべての戦線で反撃する計画を示した。デジタル通貨、Libra1年以内に発行し、Visaやマスター、UbereBayなどが参加する。

Facebookは、自身のソーシャル・メッセージに新しい支払アプリを加える。利用者は簡単かつ安価に資金を友人に送り、あるいは、支払うことができる。24億人の利用者が、暗号通貨を一気に主要通貨とする。既存銀行ビジネスに対する脅威は深刻だ。

多くの批判は、3つの問題に集約される。第1に、Facebookそれ自体の信認が失われている。アメリカ大統領選挙に介入したとき、ロシアはFacebookを利用した。

Facebook幹部は、銀行ではない、と考えている。融資ではなく、他の金融サービスを提供する。銀行のように、利子をつけない。Facebookのターゲット広告に利用することはないか。他の分野で競争的な優位を利用しないか。

2に、通貨に関する問題だ。通貨が、少数のハイテク大企業の幹部たちに握られる。ブロックチェーンが前提する、分散した記録や認証は実現するのか。Libraが処理する取引は膨大であるから、ブロックチェーンでは処理できない。Libra100社ほどの支援企業によって取引されるだろう。

Libraは、それでも非常に効率的なシステムになるが、ブロックチェーンの分散型システムではなく、摩擦のないシステムでもない。Facebookや少数の大企業による独占を強化する、銀行システムや政治的通貨に依拠したもの、オープンでグローバルな理想に向かう中間段階である。

3に、金融システムへのリスクである。中央銀行のシステムに対する介入や金融政策の効果が失われるかもしれない。また、並行した支払システムがあれば、アメリカは経済制裁にドルのシステムを使用しにくいだろう。

計画では、Libraは政府貨幣で完全な準備を持つ。新通貨を発行することではない。それでも、Libraにはシステムをかく乱する要素がある。発展途上諸国の多くの人々が、自国通貨よりLibraを使うだろう。各国は金融問題に対する支配力を失う。

イングランド銀行など、いくつかの中央銀行はデジタル貨幣の新時代に参加する用意をしている。たとえ中央銀行がLibraを拒んでも、その取引は容易にオフショアで行われるだろう。国境を越える送金がコストを大幅に下げる、と指摘されている。しかし、発達した諸国の銀行業にも、まだ多くの革新の余地がある。

金融における真に破壊的な革新の波は、これから始まるだろう。


 社会契約の再建

PS Jun 24, 2019

How to Renew the Social Contract

KEMAL DERVIŞ, CAROLINE CONROY

2次世界大戦後の西側民主主義の成功は、各国の社会契約に依拠するものだった。市民は税金を支払い、国家は安定的な経済進歩の条件を提供した。それは、雇用の安定性、社会的なセーフティーネット、所得格差を抑える再分配政策をともなった。

この数十年、グローバリゼーションが国民国家を弱めて、戦後の社会契約を崩壊させた。貿易や金融取引の増加は繁栄をもたらすが、敗者も創りだす。多くの国で所得の不平等が拡大し、富裕層への富の集中は我慢できないものになっている。2008年の世界金融危機は、着実な経済進歩という人々の確信を掘り崩した。

民主的政府には、社会契約を復活させる上で、2つの課題があった。社会と労働の新しい環境に応じて、強力かつ効率的なセーフティーネットを築くこと。そして、気候変動を防ぐような、グローバルな公共財の供給を具体的に前進させる、国際協調への国内の支持を高めることだ。

フランスでは、各個人が、再教育や再訓練を受けた時間をポイントとして貯める、デジタル・アカウントを設けている。失業保険、(有給・出産・育児など)休暇、年金給付も口座に組み込む。ポイント・システムが、新しい条件で社会契約再生の基礎になるだろう。

労働の変化やグローバリゼーションがもたらす不安、怒りを減らし、民主主義の将来を確実にする。2つの目標を政策に掲げる政党は、若者たちにも強く支持されるだろう。


 トランプとウォレンのドル安政策

NYT June 24, 2019

Why Are Elizabeth Warren and Donald Trump Trying to Weaken the Dollar?

By Ruchir Sharma

エリザベス・ウォレンの「経済的愛国主義」とドナルド・トランプの経済ナショナリズムは全く異なっている。しかし、ドル安を望む点では同じである。いかなる政治的党派によっても、それは自滅的な政策だ。

ウォレンもトランプも、中国や新興市場が通貨を安くして輸出と雇用を増やしている、と主張し、アメリカも同じようにするべきだ、という。それができない理由がある。アメリカは新興市場ではないからだ。

もしベトナムや韓国が通貨価値を安く操作して、輸出を増やしても、それに報復する貿易相手国は少ない。しかし、アメリカが同じことをしたら、世界中が反応する。なぜなら、ドルが国際基準であるからだ。ドル安戦略は、世界中に競争的切り下げの波を生じる。

1次世界大戦後に、アメリカはイギリスからその地位を奪ったが、ドルが各国中央銀行の準備通貨として保有されることは、長く、帝国の権力そのものだった。多くの資金が主として政府債券への投資として流入し、この特権的な国は収入を超える支出を、安価な借り入れで実行できた。

トランプとウォレンは、衰退する製造業に一時的な輸出や雇用をもたらすために、この特権を失うリスクを冒す。

支持者たちは、これはロナルド・レーガンが行ったことである、と言うだろう。1985年、プラザ合意で、レーガン政権は日本などの同盟諸国に圧力をかけて、大幅に増価していたドルに対する、協調的なドル安政策を採った。それでもドルへの信認は失われなかった。

しかし、今は違う。アメリカの債務が大幅に増えたからだ。準備通貨の地位は、外国人がその国の債務返済力を信用することにかかっている。1985年、アメリカの対外債務は1040億ドル、GDP比で2.5%であった。今は、97000億ドル、GDP50%に近づいている。

準備通貨の歴史は、15世紀半ばから6世紀しかないが、ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、イギリスを経て、アメリカがその地位を得た。平均94年が、これまでの記録だ。1985年には若かったドルも、今では99歳である。中国の人民元は資本規制を行っているし、ユーロは将来に疑いが残る。しかし、人々はすでにドルに代わるものを探し始めている。金価格が上昇し、Facebookは独自の暗号通貨を計画している。

アメリカが世界のGDPに占める割合は、1980年と変わらず、約4分の1である。しかし、銀行の金融取引におけるドルのシェアは90%近い。ドルへの需要が強いことから、中国、メキシコ、ヨーロッパ、イランなどへ、制裁として、アメリカの銀行から遮断するとトランプは脅した。

このむつかしい時期に、ドル安を導く政策は、アメリカ経済やドルの地位を破壊するような効果をもたらすだろう。


 民主党の大統領候補者争い

FT June 27, 2019

Too many Democrats are chasing one goal

Edward Luce

民主党大統領候補をめぐる最初の討論会で、1つ議論されない問題があった。それは、候補者が多すぎることだ。当選する見込みがない者を早く減らす方が、トランプに対抗して勝利するチャンスが増える。

これほど多くの候補者指名争いを行ったのは、2016年の共和党討論会だった。論争のたびに彼らは分裂し、最終的に勝利したのは、ドナルド・トランプだ。ステージに多くの候補が並びすぎると、議論をぶち壊す動機が強くなる。民主党討論会の後、トランプは「退屈だ!」とツイートした。残念だが、その通りだ。2時間の討論会が終わるころには、だれが何を主張したのか、ほとんどの視聴者が忘れてしまっただろう。

民主党の将来にとって、2つの構造的問題が示された。1つは、「ウェスト・ウィング症候群」だ。人気のあったテレビ番組を観た世代が、政治家になり、ドラマでは民主党とみなされるバートレット大統領にあこがれて、皆が大統領になろうとしている。共和党よりも民主党の方が、上院議員や知事ではなく、大統領になりたがるのだ。現職の候補者たちは、その地位を辞することが多く、次の選挙で民主党は苦しむ。

もう1つが、「ミッチ・マコーネル問題」である。アメリカの政策を決めるのはホワイトハウスではなく、議会である。社会保障法案も、グリーン・ニュー・ディールも、最高裁判事指名も、多くの問題でマコーネルの統括する上院はオバマを苦しめた。候補者たちのだれも、大統領になったとき、マコーネルに勝つ方法を示さなかった。

民主党はこれらから学ぶべきだ。

******************************** 

The Economist June 15th 2019

Hong Kong

The European Central Bank: Presidential credentials

Sudan: Stop the war before it starts

Protests in Hong Kong: A palpable loss

Crisis in Khartoum: Sudan on the brink

Iraq Kurdistan: Comeback Kurds

Prostitution: The new puritans

France: Emmanuel Macron’s Act II

The European Central Bank: Constrained optimisation

Free exchange: Voters of confidence

(コメント) 香港のデモに感銘を受け、スーダンの流血にも注目します。

ECBの新しい総裁が、今なお改革をあきらめないマクロン大統領と、ユーロ圏を変えるかもしれません。民主主義という政治的意志の形成過程は、現代世界でも理想的な社会を実現するメカニズムなのか、問われ続けています。

難民、売春、麻薬、同性婚、カジノ ・・・リベラリズムとは何か? 政治経済モデルであり、同時に、社会的な価値観を示すのか?

****************************** 

IPEの想像力 7/1/19

G20の大阪。

土曜日、京都で仕事が終わってから、私は京阪電車で大阪へ向かいました。少しすいているな、と思いました。大阪の地下鉄は、いつものように混んでいました。しかし、地上は「戒厳令」か、征服された都市のように、自動車も歩行者も減ったようです。

私たちは地下住民になった。そう思いました。そして、SF「折り畳み式の北京」や、シュワルツェネッガーの旧い映画「トータルリコール」を思い出しました。

****

香港デモは何を訴えるのでしょうか。

100万人とも、200万人ともいわれた、整然と進む、平和的なデモこそ、香港民主主義の強さだ、と感動しました。雨傘革命とその後の弾圧によって、すっかり意志をくじかれたように見えても、SNSで呼びかけたデモ行進に、自ら参加したのです。市民生活に政治が介入することを拒むために、中国の司法・裁判システムに対する不満・不信を示して、香港市民は声を上げました。

しかし、香港の警察は厳しい姿勢で学生たちを排除しました。3人の若者が、香港政庁の対応に絶望して自殺した、あるいは、北京政府を支持するデモが組織され、民主化デモに暴力を行使したことが契機となったのか? デモ隊の一部は建物を破壊し、立法部会の議場に侵入・占拠しました。その映像は、パリの街頭で商店街のガラスを破壊していた、覆面姿の暴徒たちを連想させます。

スーダンで、平和的な民主化要求デモが、特殊部隊RSFによって弾圧された、という報道を並行して読みました。大統領の辞任を求め、軍事評議会に民主的な政権への移行を求めて、何カ月にも及ぶ首都での座り込み、兵舎前の占拠、平和的集会が持たれた末に、軍は一方的に交渉を打ち切ったのです。

FTThe Economistが伝えたように、軍事評議会と前大統領の関係者はつながっており、権力や利権を手放す気はなかったのでしょう。しかし、全面的な軍事弾圧をすることには、迷いがあった、というわけです。特殊部隊は、スーダン西部、ダルフールで住民を虐殺してきた殺人集団であり、首都の警察や軍の兵士たちが、市民を助けようとした、とも言われます。

また、アメリカからの経済援助や、サウジアラビア、UAE、エジプトなどから、援助が約束されている、ということです。アフリカ連合UAの仲介も期待されましたが、市民側の代表がUAと接触して話し合ったことが、弾圧につながったようです。

それが実現するまで、不可能だと言われていた。・・・ネルソン・マンデラの言葉を描いたシャツを、香港のデモ参加者の1人が着ていた、と記事にあります。

もしLibraがあれば、ジンバブエやイタリアだけでなく、スーダンも、ベネズエラも、アルゼンチンや香港でも、銀行から預金が減り、リアルな世界から資本逃避が起きるかもしれません。多くの日本人は、資産の多くを円預金や日本国債ではなく、Libraで持つのか。若者たちが、電車の中でも、写真や音楽を交換して楽しむように。

****

世界主要国は訴える?

G20は、指導者たちの思惑で、地域の平和や国際秩序を語る場となっています。その主張を、他国のメディアを通じて、世界市民に訴えるチャンスではないか?

トランプのためのG20は、G1G19の映像です。

米中貿易戦争への強い関心は、G2世界分割の姿です。

気候変動への沈黙。欧州の分裂。中東の分裂。アジア、アフリカ、ラテンアメリカ。

トランプは、朝鮮半島の軍事境界線を越えて「歴史的」な快挙を自慢する。ツイッターで提案し、2日間で境界線を越え、世界を変えた。・・・朝鮮戦争なんて、すごく、簡単だ。

****

世界の都市は、革新の波を超えて、新しい政治秩序を模索しています。香港デモ隊の苦しみも、スーダンの集会参加者たちが流した血も、その一部です。平和的解決への力強い支援を、本当なら、G20の共同声明、もしくは、議長声明が告げたでしょう。

******************************