(前半から続く)


 Libraデジタル通貨の時代

FT June 24, 2019

BoE’s new policy sets its course for a digital future

デジタル・バンキングがシティの金融街に入ってきた。カーニーMark Carney総裁は、イングランド銀行BoEが金融ハイ的企業に口座開設を認め、オーバーナイトの資金を提供する。それは金融の起業家たちに金融システムの聖域を開放することだ。

カーニーは支払い・決済システムの近代化を進めるべきだ。フィンテック企業にBoEがアクセスを許せば、金融部門に必要な競争を刺激することができる。また、彼らも旧来の銀行業と同じように精査されるだろう。

商業銀行が排他的にBoEの預金を開設し、安価な銀行サービスを提供する上で優位を得た。BoEは無限に貨幣を創りだせるから、彼らは安価な銀行サービスを提供できた。市場より有利な金利を提供することもできた。

Facebookのデジタル通貨、Libraが現れれば、カーニーの決断は両刃の剣となる。一方で、人工的なトークンが、BoEの、金利付き、手数料なしの、安全な口座を持つ。他方で、Facebookのような政治力を持たない、疑わしいブロックチェーン技術に依拠しない、競争的なデジタル銀行を支援する。

カーニーは以前から伝統的な銀行行を越えてBoEの活動を目指してきた。グリーン・エコノミーへの転換や、中小企業への資金供給もそうだ。しかし、政策転換は預金による商業銀行の終わりを意味しないだろう。オンラインだけの銀行業には限界があった。デジタル・バンキングもそうだ。しかし、旧来の機能を再考することが迫られる。

政策には巧みな手腕が求められる。銀行業の資格なしにBoEの口座を得るには、デジタル・バンキングは従来の規制が自分たちに必要ないことを示さねばならない。BoEは平坦な競争条件を目指している。

しかし、BoEの決定は正しい。Brexitをめぐる不確実さが強まる中で、金融センターとして生き延びる大胆な行動が求められるからだ。経済がキャッシュレスになるときも、中央銀行が支払いシステムに関与する必要がある。

FT June 24, 2019

Facebook’s full-frontal assault on finance

Richard Waters and Hannah Murphy

こうしたアイデアは以前からあった。しかしAppleなど、ハイテク大企業は銀行からの攻撃を受けて制限していた。Facebookは、すべての戦線で反撃する計画を示した。デジタル通貨、Libra1年以内に発行し、Visaやマスター、UbereBayなどが参加する。

Facebookは、自身のソーシャル・メッセージに新しい支払アプリを加える。利用者は簡単かつ安価に資金を友人に送り、あるいは、支払うことができる。24億人の利用者が、暗号通貨を一気に主要通貨とする。既存銀行ビジネスに対する脅威は深刻だ。

多くの批判は、3つの問題に集約される。第1に、Facebookそれ自体の信認が失われている。アメリカ大統領選挙に介入したとき、ロシアはFacebookを利用した。

Facebook幹部は、銀行ではない、と考えている。融資ではなく、他の金融サービスを提供する。銀行のように、利子をつけない。Facebookのターゲット広告に利用することはないか。他の分野で競争的な優位を利用しないか。

2に、通貨に関する問題だ。通貨が、少数のハイテク大企業の幹部たちに握られる。ブロックチェーンが前提する、分散した記録や認証は実現するのか。Libraが処理する取引は膨大であるから、ブロックチェーンでは処理できない。Libra100社ほどの支援企業によって取引されるだろう。

Libraは、それでも非常に効率的なシステムになるが、ブロックチェーンの分散型システムではなく、摩擦のないシステムでもない。Facebookや少数の大企業による独占を強化する、銀行システムや政治的通貨に依拠したもの、オープンでグローバルな理想に向かう中間段階である。

3に、金融システムへのリスクである。中央銀行のシステムに対する介入や金融政策の効果が失われるかもしれない。また、並行した支払システムがあれば、アメリカは経済制裁にドルのシステムを使用しにくいだろう。

計画では、Libraは政府貨幣で完全な準備を持つ。新通貨を発行することではない。それでも、Libraにはシステムをかく乱する要素がある。発展途上諸国の多くの人々が、自国通貨よりLibraを使うだろう。各国は金融問題に対する支配力を失う。

イングランド銀行など、いくつかの中央銀行はデジタル貨幣の新時代に参加する用意をしている。たとえ中央銀行がLibraを拒んでも、その取引は容易にオフショアで行われるだろう。国境を越える送金がコストを大幅に下げる、と指摘されている。しかし、発達した諸国の銀行業にも、まだ多くの革新の余地がある。

金融における真に破壊的な革新の波は、これから始まるだろう。

FT June 24, 2019

A pound of flesh for your Libra inclusion

By: Izabella Kaminska

FP JUNE 24, 2019

Facebook’s New Currency Has Big Claims and Bad Ideas

BY DAVID GERARD

LibraBitcoinのような暗号通貨ではない。これはFacebook上のPayPalだ。便利さこそが王様だ。Libraは外国為替のデリバティブだ。各国通貨のバスケットに等しい。Libraはシャドーバンクとして機能する。

Libraは、特に、多くのFacebook利用者がいる、不安定な通貨の国を対象にしている。言い換えれば、銀行から逃げた資金を再び取り込むのだ。しかし、ドル化のように、それは現地経済のLibra化を、はるかに急速に促す。

FT June 26, 2019

Facebook enters dangerous waters with Libra cryptocurrency

Martin Wolf

先週、イングランド銀行が金融の将来について報告書を発表したが、あたかもその重要性を証明するように、Facebook27社のパートナーが、Libraという名の、グローバルなデジタル通貨の計画を発表した。

情報革命が金融に革命を起こすことは確実であり、潜在的な利益は莫大だ。中国ではAlipayに指導されて、支払技術の革命が起きている。Facebookは、これに対抗する試みである。この分野では、アメリカが中国を追っているのだ。

金融は決定的に重要なインフラである。金融システムが崩壊すれば深刻な経済危機が生じる。第1に、そのような重要な革新技術を提供する主体を、われわれは信用できるのか? Facebookの信用は損なわれている。彼らは、ジュネーブに独立した会社を設立して管理する、と答える。しかし、支配的な影響力を持つだろう。

支払システムだけでなく、通貨を発行するのではないか? 完全な準備を保有して、Libraそれ自体の価値を維持する、という。しかし、為替レートの変動や金融的ショック(そして資本規制)に脆弱になる。

Libraのシステムは利用者の情報を使って、融資も行うのか? 最悪の場合、Facebookによる世界単一銀行システムになってしまう。Facebookが、自分の中央委銀行や、金融監督にもなるのか?

その技術貨物意味を十分に理解しなければ、Libraの利用を許すべきではない。

FT June 26, 2019

Why cryptocurrencies cannot fix financial exclusion

Patrick Jenkins

PS Jun 26, 2019

The Bard and the Bank Regulators

HOWARD DAVIES

PS Jun 27, 2019

Why Policymakers Should Fear Libra

KAUSHIK BASU

Facebookの新しい世界通貨、Libraが、早くも2020年に誕生する。それは世界を変えるだろうが、だれもその影響を十分に予測できない。特に、金融政策の関係者は懸念している。Libraが広まる世界では、失業やインフレを管理する彼らの力が弱められるだろう。

すでにジュネーブに存在する非営利のLibra協会が、デジタル通貨を管理しており、その設立メンバーである企業、Uber, eBay, Lyft, Mastercard, and PayPalが利用するだろう。それゆえLibraは支配的な世界通貨になる。ただし、それを運営するのは中央銀行ではなく、民間企業だ。

Facebookは、Libraシステムが毎秒1000の取引をあつかい、利用者に優しい、事実上、取引コストがゼロになる、と約束する。

コンピューターの能力や、データの管理、プライバシー、違法行為、などについて批判する声がある。しかし、もっと関心を向けるべきことは、グローバルな金融政策に与える劇的な影響だ。その効果は予測がむつかしい。設計ミスにより、人工通貨であるユーロが深刻な金融危機を生じたことと同じである。

たとえば、もしLibraが支持されて多くの利用者が自国通貨をLibraに交換した場合、そのまま取引にも利用すれば、その国の通貨が利用されなくなる。FacebookLibra協会は、シニョレッジ(発行者利益)を得ることに魅力を感じるかもしれない。

並行してLibraが利用できるから、金融引き締めは効果がなく、中央銀行がインフレを抑える力も失われる。Libra自体が、利用の効率を高めて、インフレ圧力を生むだろう。インフレは発展途上国の問題だ、と思うかもしれないが、歴史上、最も破壊的なインフレが起きたのは1946年のハンガリーと1923年のドイツであった。

しかし、Libraを禁止することは間違いだ。そのような法律も明確ではない。商品券や入場券と大きく異ならない。また、グローバル化した世界で、ある国がLibraを拒むなら、他の取引から次第に孤立していくかもしれない。

政府や中央銀行は、民間のデジタル世界貨幣が何をもたらすか、至急、検討しなければならない。そして、新しい法律や条約を整備して、潜在的な欠陥を是正し、こうした新通貨を発行する民間組織の支配力を抑制することだ。


 日本の投資

FT June 24, 2019

Norway and Japan show the conflicting approaches to ESG investment

John Plender

FT June 26, 2019

Uniqlo founder toys with breaking Japan’s age-based promotions

Leo Lewis in Tokyo

FT June 26, 2019

Japan warms to shareholder activism


 社会契約の再建

PS Jun 24, 2019

How to Renew the Social Contract

KEMAL DERVIŞ, CAROLINE CONROY

2次世界大戦後の西側民主主義の成功は、各国の社会契約に依拠するものだった。市民は税金を支払い、国家は安定的な経済進歩の条件を提供した。それは、雇用の安定性、社会的なセーフティーネット、所得格差を抑える再分配政策をともなった。

この数十年、グローバリゼーションが国民国家を弱めて、戦後の社会契約を崩壊させた。貿易や金融取引の増加は繁栄をもたらすが、敗者も創りだす。多くの国で所得の不平等が拡大し、富裕層への富の集中は我慢できないものになっている。2008年の世界金融危機は、着実な経済進歩という人々の確信を掘り崩した。

民主的政府には、社会契約を復活させる上で、2つの課題があった。社会と労働の新しい環境に応じて、強力かつ効率的なセーフティーネットを築くこと。そして、気候変動を防ぐような、グローバルな公共財の供給を具体的に前進させる、国際協調への国内の支持を高めることだ。

それは容易でない。経済混乱、移民・難民危機を利用して、各地でナショナリスト、ポピュリストの指導者が権力を握った。グローバルなルールや多国間の制度を侮辱する指導者が、各国政府の経済や安全保障の問題解決をさらに困難にする。AIなどの技術革新や、中国との国際競争激化も、先進諸国の人々を不安にさせる。

政府が第1に優先すべきことは、デジタル経済化が進む中で、社会政策や労働市場政策を革新することである。その場合、ユニバーサル・ベーシック・インカムより、「負の所得税」の方が、財政負担を抑えて、実行可能な政策である。

フランスでは、各個人が、再教育や再訓練を受けた時間をポイントとして貯める、デジタル・アカウントを設けている。失業保険、(有給・出産・育児など)休暇、年金給付も口座に組み込む。ポイント・システムが、新しい条件で社会契約再生の基礎になるだろう。

2に、政府はグローバルな公共財の供給に努め、他国を犠牲にして短期的な自国の利益を図り、報復を招く、「近隣窮乏化」政策を防ぐ。多くの政策は国内で効果を示すものだが、グローバリゼーションは、国際協力によってしか達成できない目標を増やした。

グローバルな公共財の供給には、「最も弱いリンク」の問題解決を重視する。伝染病、核拡散、税の引き下げ競争など、1国、あるいは数カ国の反対で、グローバルな努力がくじかれる。各国政府は、合意されたグローバルな目標に対して、自国の状態や政策を説明する責任を負わねばならない。すなわち、それが国内の社会契約の一部となる。

労働の変化やグローバリゼーションがもたらす不安、怒りを減らし、民主主義の将来を確実にする。2つの目標を政策に掲げる政党は、若者たちにも強く支持されるだろう。

NYT June 24, 2019

Whatever Happened to Moral Capitalism?

By Michael Kazin


 トランプとウォレンのドル安政策

NYT June 24, 2019

Why Are Elizabeth Warren and Donald Trump Trying to Weaken the Dollar?

By Ruchir Sharma

エリザベス・ウォレンの「経済的愛国主義」とドナルド・トランプの経済ナショナリズムは全く異なっている。しかし、ドル安を望む点では同じである。いかなる政治的党派によっても、それは自滅的な政策だ。

ウォレンもトランプも、中国や新興市場が通貨を安くして輸出と雇用を増やしている、と主張し、アメリカも同じようにするべきだ、という。それができない理由がある。アメリカは新興市場ではないからだ。

もしベトナムや韓国が通貨価値を安く操作して、輸出を増やしても、それに報復する貿易相手国は少ない。しかし、アメリカが同じことをしたら、世界中が反応する。なぜなら、ドルが国際基準であるからだ。ドル安戦略は、世界中に競争的切り下げの波を生じる。

1次世界大戦後に、アメリカはイギリスからその地位を奪ったが、ドルが各国中央銀行の準備通貨として保有されることは、長く、帝国の権力そのものだった。多くの資金が主として政府債券への投資として流入し、この特権的な国は収入を超える支出を、安価な借り入れで実行できた。

トランプとウォレンは、衰退する製造業に一時的な輸出や雇用をもたらすために、この特権を失うリスクを冒す。

支持者たちは、これはロナルド・レーガンが行ったことである、と言うだろう。1985年、プラザ合意で、レーガン政権は日本などの同盟諸国に圧力をかけて、大幅に増価していたドルに対する、協調的なドル安政策を採った。それでもドルへの信認は失われなかった。

しかし、今は違う。アメリカの債務が大幅に増えたからだ。準備通貨の地位は、外国人がその国の債務返済力を信用することにかかっている。1985年、アメリカの対外債務は1040億ドル、GDP比で2.5%であった。今は、97000億ドル、GDP50%に近づいている。

準備通貨の歴史は、15世紀半ばから6世紀しかないが、ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、イギリスを経て、アメリカがその地位を得た。平均94年が、これまでの記録だ。1985年には若かったドルも、今では99歳である。中国の人民元は資本規制を行っているし、ユーロは将来に疑いが残る。しかし、人々はすでにドルに代わるものを探し始めている。金価格が上昇し、Facebookは独自の暗号通貨を計画している。

アメリカが世界のGDPに占める割合は、1980年と変わらず、約4分の1である。しかし、銀行の金融取引におけるドルのシェアは90%近い。ドルへの需要が強いことから、中国、メキシコ、ヨーロッパ、イランなどへ、制裁として、アメリカの銀行から遮断するとトランプは脅した。

このむつかしい時期に、ドル安を導く政策は、アメリカ経済やドルの地位を破壊するような効果をもたらすだろう。


 G20の成果は?

FP JUNE 24, 2019

Experts Get Multipolarity All Wrong

BY MARK Y. ROSENBERG

FT June 26, 2019

Donald Trump and Xi Jinping should make political sacrifices

YaleGlobal, Thursday, June 27, 2019

Authoritarians Fool the World, But for How Long?

David Dapice

The Guardian, Thu 27 Jun 2019

The Guardian view of the Osaka G20 summit: bad as he is, Trump is not the only problem

Editorial

気候変動に対する合意と、それに基づく行動が、最も顕著なケースである。しかし、トランプ大統領のパリ協定からの離脱で、その成果はG20で何も示せない。

どんなグローバル・ガバナンスであれ、ないよりはましだ。

FP JUNE 27, 2019

The United States Needs Japan-South Korea Reconciliation

BY ANDREW INJOO PARK, ELLIOT SILVERBERG

FT June 28, 2019

G20 cannot run away from climate change

ヨーロッパが溶解している。今秋、熱波が大陸を襲って、温度計は40度を超えた。各地で記録を塗り替えている。スペインの気象学者は「地獄がやってくる」とツイートした。

温度計と同じく、大阪G20サミットで「地球温暖化」が議論され、共同文書に「脱カーボン」をうたうことを、アメリカへの配慮から、日本は排除した。先週、オレゴン州の共和党上院議員たちは、隣のカリフォルニア州と同じように温暖化ガス排出量の野心的な削減を求める法案を、排除した。

気候変動との闘いは国際的な前進を止めつつある。政治指導者と再生可能エネルギーが求められる。フランスのマクロン大統領は、2015年のパリ協定に言及しないG20共同声明には署名しない、と表明した。先月の欧州議会選挙でも、最大の勝者は環境保護政党であった。

イギリス、フランス、カリフォルニア、すべて大きな経済規模であるが、気候変動を止めるには最大の排出国が行動する必要がある。中国、アメリカ、インド、EUだ。グローバルな政策協力が欠かせない。

気候変動の現実は政治家たちに追いつくだろう。通りを埋める群衆の怒りか、諸都市を居住できなくし、収穫を失わせる苛烈な気象として。オレゴン州の上院議員たちも、G20に集まる政治指導者たちも、自分たちの選択肢が尽きたことを知るだろう。


 スーダン民主化の武力弾圧

FT June 25, 2019

Atrocities in Sudan are a reminder the regime never left

Yousra Elbagir

Omar al-Bashir大統領は辞任したが、支配層は去らなかった。弾圧の暴力装置は、油を指して磨かれていた。支配者の顔が変わると、弾圧が始まった。

2か月間のシット・インと交渉を暴力で排除したあと、軍事評議会はインターネットを遮断した。殺害され、傷つけられ、強姦された者の家族や友人たちの悲しみは世界から孤立させられる。体制の監視下で、特殊鎮圧部隊RSFが町を制圧した。

その野蛮さにもかかわらず、抵抗の動きは国中に広がっている。彼らはもはや対抗する支配者たちに幻想を持っていない。


 アルゼンチン

FT June 26, 2019

Argentina: can Fernández capitalise on Macri’s failings?

Benedict Mander in Buenos Aires


 民主党の大統領候補者争い

NYT June 26, 2019

Big Night for Dems? It’s Debatable

By Gail Collins

FT June 27, 2019

Too many Democrats are chasing one goal

Edward Luce

民主党大統領候補をめぐる最初の討論会で、1つ議論されない問題があった。それは、候補者が多すぎることだ。当選する見込みがない者を早く減らす方が、トランプに対抗して勝利するチャンスが増える。

これほど多くの候補者指名争いを行ったのは、2016年の共和党討論会だった。論争のたびに彼らは分裂し、最終的に勝利したのは、ドナルド・トランプだ。ステージに多くの候補が並びすぎると、議論をぶち壊す動機が強くなる。民主党討論会の後、トランプは「退屈だ!」とツイートした。残念だが、その通りだ。2時間の討論会が終わるころには、だれが何を主張したのか、ほとんどの視聴者が忘れてしまっただろう。

民主党の将来にとって、2つの構造的問題が示された。1つは、「ウェスト・ウィング症候群」だ。人気のあったテレビ番組を観た世代が、政治家になり、ドラマでは民主党とみなされるバートレット大統領にあこがれて、皆が大統領になろうとしている。共和党よりも民主党の方が、上院議員や知事ではなく、大統領になりたがるのだ。現職の候補者たちは、その地位を辞することが多く、次の選挙で民主党は苦しむ。

もう1つが、「ミッチ・マコーネル問題」である。アメリカの政策を決めるのはホワイトハウスではなく、議会である。社会保障法案も、グリーン・ニュー・ディールも、最高裁判事指名も、多くの問題でマコーネルの統括する上院はオバマを苦しめた。候補者たちのだれも、大統領になったとき、マコーネルに勝つ方法を示さなかった。

民主党はこれらから学ぶべきだ。

NYT June 27, 2019

Elizabeth Warren Aced the First Democratic Debate

By Frank Bruni


 ドイツの極右

FT June 27, 2019

German radical right threatens the survival of democracy

Constanze Stelzenmüller


 ポピュリストの時代

FT June 27, 2019

Why democratic government is showing strains in the US and UK

Martin Wolf

イギリスの首相はボリス・ジョンソンになりそうだ。かつての上司、The Telegraph Max Hastings 編集長が彼について、「悪人なのか、単なる無頼漢なのか、議論の余地はあるが、その道徳が破綻し、真実を侮辱することは、まったく明らかだ」と書いた。イギリス史上で、これほど首相にふさわしくない人物を見つけることはむつかしい。

ジョンソンだけではない。反EUの熱狂的指導者ナイジェル・ファラージ、チャベスを崇拝する70年来の左派指導者ジェレミー・コービン、UKに先行してUSでは、常習的な嘘つきで、性格破綻者のドナルド・トランプが大統領になっている。

20世紀にリベラルな民主主義を救出した2国が、その道徳的な座標軸を失った。多くの市民は、指導者が悪人であっても、気にしない。長年、民主主義の成功モデルであった国が、いまやアメリカはいじめっ子、イギリスは愚か者、とみられている。トランプもジョンソンも、軽蔑すべき人物か、嘲笑すべき人物か、あるいは、その両方である。

なぜこうなったのか? いくつか考えられる。

成功したこと。20世紀の破壊は抑えられたこと。その恐怖を忘れたこと。過去の偉大さを懐かしむこと。文化的な闘い。中間層の没落。脱工業化。人々の所得が伸びないこと。レーガン=サッチャーの自由化モデルが失敗したこと。金融の崩壊。緊縮策の痛み。エリートたちの公共心が失われたこと。富裕層の政治支配。メディアの共謀。政治システムの機能マヒ。

かつて、同様の時代はマッカーシーの魔女狩りに向かい、その後、より成熟した政治家たちが再生した。しかし、マッカーシーは大統領にならなかった。

FT June 27, 2019

Boris, Corbyn and other English archetypes

Simon Kuper

PS Jun 27, 2019

Putin Doesn’t Care About Economic Growth

VLADISLAV INOZEMTSEV

FT June 28, 2019

Vladimir Putin says liberalism has ‘become obsolete’

Lionel Barber and Henry Foy in Moscow


 サルヴィーニの変身

FT June 27, 2019

Dysfunction in Italy has deep roots

Tony Barber

イタリアの政府債務に関する財政規律のルールは、ブリュッセルとの論争になっている。サルヴィーニはルールを重視せず、ユーロ圏解体につながる「ミニBOT」案も否定しない。

しかし、サルヴィーニを責めるより、イタリアの債務危機は、その文化や制度の非常に深い根を持つものだと知るべきだ。中央銀行家でもあったエコノミストのTommaso Padoa-Schioppaは、イタリアはサッチャー主義の自由市場、もしくは、ルイ14世の財務官であったコルベールの、国家管理経済を必要とする、と考えた。しかし、前者は国民に支持されず、後者はイタリア国家の非効率さによって実行できない。

サルヴィーニには2つの政治目標がある。1つは、イタリア政治に右派の地位を確立すること。もう1つは、EUの舞台で影響力を拡大することだ。後者の場合、EUの中枢でも一定の経緯を得なければならない。もしサルヴィーニが政権を維持して、イタリア国家の効率を改善できるなら、その可能性を閉じるべきではないだろう。

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The Economist June 15th 2019

Hong Kong

The European Central Bank: Presidential credentials

Sudan: Stop the war before it starts

Protests in Hong Kong: A palpable loss

Crisis in Khartoum: Sudan on the brink

Iraq Kurdistan: Comeback Kurds

Prostitution: The new puritans

France: Emmanuel Macron’s Act II

The European Central Bank: Constrained optimisation

Free exchange: Voters of confidence

(コメント) 香港のデモに感銘を受け、スーダンの流血にも注目します。

ECBの新しい総裁が、今なお改革をあきらめないマクロン大統領と、ユーロ圏を変えるかもしれません。民主主義という政治的意志の形成過程は、現代世界でも理想的な社会を実現するメカニズムなのか、問われ続けています。

難民、売春、麻薬、同性婚、カジノ ・・・リベラリズムとは何か? 政治経済モデルであり、同時に、社会的な価値観を示すのか?

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IPEの想像力 7/1/19

G20の大阪。

土曜日、京都で仕事が終わってから、私は京阪電車で大阪へ向かいました。少しすいているな、と思いました。大阪の地下鉄は、いつものように混んでいました。しかし、地上は「戒厳令」か、征服された都市のように、自動車も歩行者も減ったようです。

私たちは地下住民になった。そう思いました。そして、SF「折り畳み式の北京」や、シュワルツェネッガーの旧い映画「トータルリコール」を思い出しました。

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香港デモは何を訴えるのでしょうか。

100万人とも、200万人ともいわれた、整然と進む、平和的なデモこそ、香港民主主義の強さだ、と感動しました。雨傘革命とその後の弾圧によって、すっかり意志をくじかれたように見えても、SNSで呼びかけたデモ行進に、自ら参加したのです。市民生活に政治が介入することを拒むために、中国の司法・裁判システムに対する不満・不信を示して、香港市民は声を上げました。

しかし、香港の警察は厳しい姿勢で学生たちを排除しました。3人の若者が、香港政庁の対応に絶望して自殺した、あるいは、北京政府を支持するデモが組織され、民主化デモに暴力を行使したことが契機となったのか? デモ隊の一部は建物を破壊し、立法部会の議場に侵入・占拠しました。その映像は、パリの街頭で商店街のガラスを破壊していた、覆面姿の暴徒たちを連想させます。

スーダンで、平和的な民主化要求デモが、特殊部隊RSFによって弾圧された、という報道を並行して読みました。大統領の辞任を求め、軍事評議会に民主的な政権への移行を求めて、何カ月にも及ぶ首都での座り込み、兵舎前の占拠、平和的集会が持たれた末に、軍は一方的に交渉を打ち切ったのです。

FTThe Economistが伝えたように、軍事評議会と前大統領の関係者はつながっており、権力や利権を手放す気はなかったのでしょう。しかし、全面的な軍事弾圧をすることには、迷いがあった、というわけです。特殊部隊は、スーダン西部、ダルフールで住民を虐殺してきた殺人集団であり、首都の警察や軍の兵士たちが、市民を助けようとした、とも言われます。

また、アメリカからの経済援助や、サウジアラビア、UAE、エジプトなどから、援助が約束されている、ということです。アフリカ連合UAの仲介も期待されましたが、市民側の代表がUAと接触して話し合ったことが、弾圧につながったようです。

それが実現するまで、不可能だと言われていた。・・・ネルソン・マンデラの言葉を描いたシャツを、香港のデモ参加者の1人が着ていた、と記事にあります。

もしLibraがあれば、ジンバブエやイタリアだけでなく、スーダンも、ベネズエラも、アルゼンチンや香港でも、銀行から預金が減り、リアルな世界から資本逃避が起きるかもしれません。多くの日本人は、資産の多くを円預金や日本国債ではなく、Libraで持つのか。若者たちが、電車の中でも、写真や音楽を交換して楽しむように。

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世界主要国は訴える?

G20は、指導者たちの思惑で、地域の平和や国際秩序を語る場となっています。その主張を、他国のメディアを通じて、世界市民に訴えるチャンスではないか?

トランプのためのG20は、G1G19の映像です。

米中貿易戦争への強い関心は、G2世界分割の姿です。

気候変動への沈黙。欧州の分裂。中東の分裂。アジア、アフリカ、ラテンアメリカ。

トランプは、朝鮮半島の軍事境界線を越えて「歴史的」な快挙を自慢する。ツイッターで提案し、2日間で境界線を越え、世界を変えた。・・・朝鮮戦争なんて、すごく、簡単だ。

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世界の都市は、革新の波を超えて、新しい政治秩序を模索しています。香港デモ隊の苦しみも、スーダンの集会参加者たちが流した血も、その一部です。平和的解決への力強い支援を、本当なら、G20の共同声明、もしくは、議長声明が告げたでしょう。

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