IPEの果樹園2019

今週のReview

6/24-29

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2020年アメリカ大統領選挙 ・・・アメリカとイラン ・・・香港人の自由 ・・・ボリス・ジョンソン ・・・アメリカと世界経済 ・・・ギリシャとイタリアの並行通貨案 ・・・中国消費者のボイコット ・・・スーダンの弾圧 ・・・Facebookの世界通貨発行

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 2020年アメリカ大統領選挙

The Guardian, Thu 20 Jun 2019

Trump's 2020 kick-off proves he lacks the self-awareness to change

2015年、ドナルド・トランプの立候補声明は、トランプタワーのエスカレーターを見下ろして、雇われた支持者の群れが、メキシコは国境を越えて強姦犯どもを輸出している、という野蛮な非難で記憶されている。

4年経って振り返れば、それはもはや同じ恐怖の予感を呼ぶものではないが、トランプ・ワールドの内部の聖域として、再選をめざすトランプのスピーチライターが種子を見出すだろう。

そのセリフは、今も、トランプの発信するメッセージだ。「われわれの国には偉大な指導者が必要だ。仕事を取り戻し、製造業を取り戻し、軍隊を取り戻し、退役軍人たちの面倒を見る指導者だ。」

彼はまた好調な経済を自慢する。それはオバマの遺産だ。再選に向けた、一片の雲もない青空に、まっすぐ勝利を見る。

しかし、レーガンに比べて、トランプには柔軟さや変化への自覚がない。半世紀前のローリングストーンズの曲が鳴り響く会場で、トランプはノスタルジアの政治に閉じこもっている。彼に欠けているのは、神話的なアメリカの黄金時代ではなく、2016年の勝利からの自由である。

トランプの終末論的な世界観では、敵が門を破ってなだれ込む危機を、すべてのことが示している。彼の「美しい」壁は保護するためのものだ。そして悪夢のような視線が続く。「想像してみよ。バリアも壁もないまま、難民たちのキャラバンがやってくる。・・・あなたの想像を超えた混乱が、この国を襲うだろう。」

恐怖はなおトランプの大統領制を動かす基本原理だ。しかしトランプは間違っている。恐怖をあおる行為は、権力の外にある候補者がもっとも有利に利用できるのだ。

現職であるトランプが、「凶悪なヒラリー」や不幸なオバマの亡霊と再びうまく戦うことはないだろう。しかし、トランプは同じことを主張している。メキシコ国境を超える絶望した難民の脅威、あるいは、ホルムズ海峡のイラン海軍の脅威、そんなものを個人的に感じないであろう中西部の有権者に、恐怖をあおろうとして。


 アメリカとイラン

PS Jun 14, 2019

Taking on Tehran

RICHARD N. HAASS

アメリカのトランプ政権は、ロシア、中国、北朝鮮よりも、イランをとりわけ、2年半にわたり、持続的な圧力にさらしてきた。

アメリカの政策は機能している。ほとんどの国が(トランプの政策に反対する国も含めて)、イランより、アメリカとの貿易・投資の関係を維持するほうが良いと判断しているからだ。イランの石油輸出は急速に減少し、その経済的孤立が深まっている。経済は2018年に4%縮小し、今年も6%縮小すると予測される。通貨価値は急落し、物価が上昇し、食料や医薬品も不足している。

しかし、その政策の目的は明らかではない。トランプ政権には、イランの体制転換を望むものが多くいる。しかし、これは起こりそうにない。革命から40年を経て、イランの特異な宗教・政治体制は十分に強固であり、アメリカの圧力や経済困難を耐えることができるだろう。

もっと起きそうな事態は、経済戦争が現実に軍事的な戦争になることだ。イランはその意図を、苦痛を我慢するだけではない、と明確に示している。イランと、その1つもしくはそれ以上の近隣諸国、そしてアメリカと、戦争になるリスクは高まっている。紛争はエスカレートし、拡大して、アメリカ、イスラエル、イランが苦境になる。

戦争と体制転換との間に、第3の可能性がある。それはトランプが北朝鮮に示したように、外交による打開だ。

JCPOAには、トランプが指摘したように、そもそも問題があった。イランの核開発を制限するのは、比較的短期の合意、もとから10年で効果が失われる、と考えられていた。これは、アメリカが一方的に離脱したことを正当化するわけではない。しかし、再交渉は必要だ。

外交交渉の可能性はある。なぜなら制裁が効いているからだ。イランは当面対話を拒否しているが、アメリカが制裁の緩和をテーブルに載せれば、姿勢を変えるだろう。

JCPOA2.0は、イランのウラン濃縮や弾道ミサイル開発を制限し、アメリカは制裁を解除する。アメリカは、体制転換ではなく、政策の変更を求める。ヨーロッパ諸国が仲介するだろう。

アメリカはほかにも多くのことを求めるかもしれない。シリアやイエメンでイランが関与しないこと、テロ集団への支援を辞めること、国内でさまざまな改革を進めること。しかし、こうした要求をすべて求める外交は失敗につながる。それはイランの行動を何でも容認することではない。イスラエルは今後もイランの影響が周辺に及ぶことに軍事的な攻撃で対応するだろう。アメリカ軍はペルシャ湾か、その近隣地域に駐留させ、シリアやイランでも軍事力を保持する。

その結果、JCPOA2.0は地域の戦争や、核拡散のエスカレーションを止めるだろう。


 香港人の自由

FP JUNE 14, 2019

How Hong Kong’s Unrest Plays to Beijing’s Hawks

BY MELINDA LIU

ラムCarrie Lam行政長官は「裏切者」と呼ばれた。香港警察は、平和的なデモに対して、ゴム弾、放水車、催涙ガス、ペッパー・スプレイを使用した。

危機の根源はラムではなく、1200マイル以上離れた北京にある。香港の混乱は、住民たちが習近平国家主席の権威主義体制について抱く強い不信感を示した。彼らは北京の司法システムが不明確で、政治的なものであるとみなしている。送還条例は、香港の人々を中国本土の裁判所で、政治犯やその他の理由で、裁かれるために送り出す。

香港の騒乱は、ワシントンとの緊張関係をエスカレートさせる、北京の強硬派によって利用されるかもしれない。強硬派は、どこでも外国勢力の見えない手が伸びていると考える。

1997年に中国へ主権が返還されてから、行政長官の仕事はますます不可能な課題になっている。ラムは地域住民の夢をくじいてしまった。資本主義的経済、独立した司法制度、報道機関の自由。北京はますます高圧的に支配するようになった。

香港に長く住むアメリカ人のコンサルタントは、「ナットを(回さず)ハンマーで叩く」ような警察の戦術を批判した。若者たちの間で、ラムへの信認は失墜した。

北京は、今このとき、香港の危機を望まない。中国の官僚たちは、特に101日の中華人民共和国創設70周年記念に向けて、何も起こさないことに熱心だ。北京の強硬派も、香港を強く弾圧することで国際的な孤立を招くことは避けたいと考える。香港に対するアメリカの特別な枠組みも見直される懸念がある。

ワシントンが香港を米中貿易戦争に利用するのは、北京が最も嫌うことだ。中国は、アメリカのハイテク技術や部品、サービスに対する依存を減らし、貿易・投資の再グループ化を進めている。アメリカも、中国も、貿易戦争を戦略的に、「スプートニク・ショック」として利用している。

香港は、その戦いが続く、長い、長い前線の一部である。


 ボリス・ジョンソン

FT June 14, 2019

Boris Johnson, the great pretender finally on the cusp of power

George Parker

ジョンソンBoris Johnsonはダウニング街10番地(イギリス首相官邸)に半分はいった。テリーザ・メイの後継者として、現代の政治家の中で、最もカリスマ的で、破滅的な、国家を分断する政治家が権力を目指す位置についた。

「われわれにはまだ多くのなすべきことがある。」と、ジョンソンは語った。保守党の党首選において第1回投票に勝利したときだ。彼は114人の保守党議員から最多数票を、彼に次ぐ3人の票を合わせたよりも多くの票を得た。

ジョンソンが政界のスターであるとしても、この分断された国を和解させる人物にはならないだろう。この元ロンドン市長が、2016年の国民投票でEU離脱を勝ち取り、もし首相となれば、国民を分断しているEU離脱を実現する任務に就く。世論調査は、ジョンソンが最も支持される、同時に、最も嫌われる政治家であることを示す。

ジョンソンがBrexitの行き詰まりを打開する方策は想像しがたい。首相候補としてジョンソンと、2008年にロンドン市長候補であったジョンソンは、非常に異なった人物だ。労働党支持者の多いロンドンで、保守党のエキセントリックな市長候補として、社会的にリベラルな、モダンで、コスモポリタンなイギリスを、熱心に支持する人物だった。

ジョンソンは市長として非合法移民に市民権を与え、その後、EU離脱のキャンペーンでは外国人への敵意を広め、モダニティと社会変化への不安をあおった。どちらのジョンソンが首相になるのか?

ジョンソンの答えは、「どちらのジョンソンがお好みか?」であった。彼は非公開の保守党議員の会合で語った。自分は合意なしの離脱を歓迎するBrexit強硬派であるとともに、EUからの非常にソフトな離脱を熱心に導く思いやりのある保守主義者である、と。

彼の友人であるドナルド・トランプに似て、ジョンソンは矛盾した性格を同時に帯びる。しかし、保守党員の多くが彼を支持する理由は単純だ。彼が勝つと思ったから。大混乱の中で失速する保守党にとって、彼だけが政治の嵐を打ち破る候補だと思ったから。誰もボリスが何をするのか知らない。しかし、彼に乗ることを好んだ。


 ギリシャとイタリアの並行通貨案

PS Jun 17, 2019

Fiscal Money Can Make or Break the Euro

YANIS VAROUFAKIS

自分のプランを見ているようだが、その意図は反対である、と感じた。イタリア政府が、2015年にギリシャが提案した財政的貨幣の一種を計画している。

私のアイデアは、税金に裏付けされたデジタル支払システムを創って、ギリシャやイタリアのように、財政政策の余地を必要としている諸国に利用させることだった。イタリアの計画は、対照的に、並行支払システムであり、ユーロ圏を破壊することになる。

私の計画では、すべての個人と企業は財務省に納税口座(TA)と暗証番号を自動的に与えられ、個々のTA間で、また国家との間で、資金を移転できる。あるTAに対して、納税の遅れを国家が融資することで、この仕組みにより、他のTAへの支払いが清算されることになる。また、個人や企業は他のTA納税額を、ウェブ・バンキングを通じて、割り引いて購入することができる。すると税金の割引になる。公的債務の非仲介化された市場が形成される。

ユーロ圏加盟国の財務省は自由に債券を発行できる。また、民間企業が貨幣のようなトークンを発行し、相互に取引することも合法である。違法であるのは、その財務省デジタル・クレジットを民間の支払いとして強制することだ。

私は並行通貨を否定した。それは望ましくないし、目的にかなわない。新しい国民通貨を創って、国民に支払っても、その価値は急速に失われ、個人や企業の債務はユーロ建のままである。それは債務の支払い不能、ユーロ圏解体に至る。銀行の取り付け、資本逃避、それゆえユーロ圏離脱を強いられるからだ。

当時、ECBがギリシャ債務に融資するのを止めると脅し、ギリシャの国民が第3次救済融資を受け入れるように迫っていた。もし私の並行・ユーロ建支払システムが実現していたら、支払いは銀行からTA口座に大幅に移転し、ECBの脅迫の力を削いでいただろう。そして政府は、新通貨発行の開始ボタンを得たのだ。

それが新ドラクマの引き金になったのか? あるいは、トロイカがECBを使って救済融資を強制するのを阻止できたのか? どちらになるかは政治が決めただろう。われわれはギリシャがユーロ圏に残り、交渉力を得ることを望んでいた。経済成長を回復し、長期的な財政の持続可能性を確保するために、債務の大幅削減を求めただろう。ECBとギリシャ財務省は協力して、並行支払システムを支持すればよかった。

イタリアのミニBOTは違う。第1に、ミニBOTは、私が反対した、印刷された債券である。第2に、ミニBOTは金利の付かない永久債である。決定的な違いは、その政治的な意味だ。私の提案は、ユーロ圏離脱のコストを下げ、ユーロ圏の意思決定を文明化するものだった。他方、イタリアはユーロ圏の破壊に至る。

PS Jun 20, 2019

From Versailles to the Euro

ROBERT SKIDELSKY

今月はヴェルサイユ条約成立から100年である。ある意味で、その立場が入れ替わった。条約は膨大な賠償金をドイツに課したが、今のドイツは、ユーロ圏の仲間であるギリシャに多額の債務支払いを求める指導国である。

そのゲームは同じだ。債権者は生身(現金支払い)を求め、債務者はそれを避けたい。債務者は債務免除を求め、債権者は「モラル・ハザード」を警戒し、その不安定化や、債務国を貧しくすることで生じる感染は無視する。残念ながら、ユーロ圏はヴェルサイユ条約から何も学ばなかった。J.M.ケインズの警告を無視してきた。

1次大戦が終わったとき、勝利した連合諸国はドイツが戦争によって生じた損害を「賠償」するべきだと決めた。しかし、その額は合意できず、1921年までに賠償委員会が決める、とした。

ケインズは、1921年の論争的な『平和の経済的帰結』で、ドイツが消費を抑えれば、その貿易黒字額を25000万ドル、国民所得の2%と考え、賠償額は30年間で75億ドルである、とした。

19215月、委員会は賠償額を330億ドルと確定した。しかし、実質的には125億ドルに減額し、年35000万ドルの支払いを求めた。その仕組みは、ドイツが3種類の債券を発行し、そのABの利子・元本を返済するだけで、Cへの支払いは無視することだった。

この膨大な賠償額のフィクションは、1920年代の現実的な少額の支払いによって維持された。実際は、現実の債務を支払う準備もしなかった。新しい融資を得られる限りで返済したのだ。1926年にケインズは容赦なく述べた。「アメリカはドイツに金を貸し、ドイツはそれを連合諸国に移転し、連合諸国はアメリカ政府に払い戻す。実際は何も進まない。」

その後アメリカの株価が暴落し、大恐慌になって、ドイツへの融資はなくなった。増税と政府支出の削減で、ドイツは1929-31年の債務支払いを行ったが、不況を強め、経済は25%縮小し、失業率が35%に達した。ブリューニングHeinrich Brüning首相の「責任遂行」政策は、債務を拒否するアドルフ・ヒトラーへと至る。

現在のユーロ圏は、第1次大戦後のヨーロッパと多くの点でそっくりだ。

1919年にケインズは書いた。「数百万の人間の生活を悪化させる、その国全体の幸福を破壊する政策は、恐ろしく、嫌悪すべきものだ。」 また、緊縮策は理論的にも間違いだ、と彼は論じていた。ある国の所得減少は他の国でも所得を減らす。不況が拡大し、回復は遅れる。

1世紀を隔てた2つの例が示す教訓は、各国が債権者・債務者の関係を脱するべきだ、ということだ。そして、社会的・政治的な平和を保つのに必要な公平な取引を行う。


 中国消費者のボイコット

FT June 20, 2019

US companies should fear China’s consumers more than its government

Peter Vanham

一見、アメリカは中国との貿易戦争で優位に立っている。2国間のアメリカ貿易赤字は、昨年、4190億ドルもあり、中国の製品にそれだけ多くの関税を課すことができるからだ。

しかし、もっと重要な数字がある。それは中国の消費者がアメリカ製品をボイコットする力だ。もし彼らが動けば、アメリカ企業は即座に、しかも永久に、重大な打撃を受ける。中国市場の競争は厳しく、競争企業がボイコットの影響をアメリカ企業の追放に変える。

たとえば、韓国のロッテがそうだ。ロッテは大型小売店として、2017年に中国で112店を展開していた。しかし、韓国政府がアメリカからTHAADアンチ・ミサイル・システムの導入を決定し、中国政府はそれに反対した。ロッテがその用地を政府に売却した後、消費者たちはボイコットを始めた。主要メディアやSNSがボイコットを広めた。

2012年には、日本の自動車がボイコットされて、中国での売り上げは11%減少した。当時、日中間で尖閣諸島の領有権が紛争となっていた。

フィリピンの前政権は、南シナ海で、中国と領有権争いを生じていた。バナナ生産者は、その最大の市場で買い手を失ったことを知った。しかし、ドゥテルテが大統領に当選し、中国との関係を改善すると、消費者は戻ってきた。2017年、中国向けのバナナ輸出は前年比50%増加して、28800万ドルに達した。

人民大学のJin Canrong教授は、the Global Timesのコラムに書いた。アメリカ企業は早くから中国市場で多くの利潤を得た。それは中国企業がアメリカ市場であげた利潤より多い。アメリカ企業へのボイコットは、レアアースの輸出禁止、アメリカ財務省証券の大量売却とともに、中国の交渉カードである、と。

すでにStarbucks, AppleGMなどが、中国市場で競争相手に厳しく追い上げられている。もしボイコットが始まれば、アメリカ企業は世界最大の市場を失うだろう。


 スーダンの弾圧

NYT June 15, 2019

Sudan’s Uncertain Path to Democracy

By The Editorial Board

独裁者が大衆の怒りによって失脚すると、しばしばその仲間たちは騒ぎが鎮まるまで静かにしている。それは将軍たちや秘密警察、彼の家族だ。彼らは反政府抗議をなだめるために独裁者を非難するが、可能な限り速やかに、権威主義体制を再建する。それはスーダンで起きていることだ。アメリカ政府は民主的政府への平和的移行を仲介するために、彼らを阻止するべきだ。

選挙が実施されるまで、暫定軍事評議会が権力を握ると将軍たちが発表したとき、抗議運動は軍の司令部に向かった。そして民間人が移行期を責任あるものにするよう要求した。双方の間で緊迫した対話が数週間続いたあと、軍は弾圧に動いた。ダルフールの虐殺にかかわった準軍事組織が、63日、抗議運動のキャンプを襲撃し、数十人を殺害、数百人を傷つけた。死者の数を隠すために、多数の死体がナイル川に流された。分散した指導者たちが、ゼネラル・ストライキを呼びかけた。

軍が虐殺を止めたのは、アメリカ政府が平和的な解決を要求したからだ。アメリカは数十億ドルの人道支援を行っており、スーダンをテロ支援国家として指定し、外国投資を止めている。それはアメリカに効果的な仲介の役割を可能にするテコである。

しかし、将軍たちにも強力な支援者がいる。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトだ。その権威主義体制は「人民のパワー」に強く反対する。しかも、彼らはドナルド・トランプの同盟者である。


 ドイツ・モデル

FT June 17, 2019

Germany’s economic model is not the problem

Marcel Fratzscher

ドイツの経済モデルではなく、2つの幻想による政策の失敗が問題である。

ドイツ経済は、その輸出を地理的にも、部門間でも、多様化してきた。輸出は、高齢化や新興市場の追い上げにもかかわらず、ドイツの所得を増やし、安定化に貢献した。その強さは、弾力的で、高度に技術革新的な、特化した、中規模の家族経営企業にある。雇用者と組合との社会的パートナーシップや社会福祉国家が、それを支えてきた。

1の危険な幻想は、ドイツが改革を実施し、他のユーロ圏諸国も同じように改革すれば問題は焼結できる、というものだ。ドイツは、過去10年間、重要な改革を行わなかった。公的・私的な投資不足は生産性の上昇を、特に非貿易部門で損なっている。2017年、経常収支黒字がGDP8%に達した。

低生産性が低賃金部門を拡大している。地域間不平等や社会の分極化が進んでいるのに、政府は既得権の懐柔に努め、好況を経済モデルの改革に利用しなかった。

2の危険な幻想は、ドイツがヨーロッパを必要としない、EUやユーロ圏をドイツの税金が奪われる移転同盟だ、とみなすことだ。これはドイツ国民がマクロン大統領のユーロ圏改革を支持しない理由となった。しかし、ユーロ圏から最も多くの利益を受けているのがドイツである。米中の地政学的な対立において、ドイツはより一層の統合化、強いEUを必要としている。

ドイツの政治エリートはそのことを認めない。


 ポピュリズムと政治の回復

YaleGlobal, Thursday, June 20, 2019

On Restoring Responsible Political Parties

Frances McCall Rosenbluth and Ian Shapiro

有権者たちは政治から疎外され、政治に対する不満や怒りが高まるのには、多くの理由があった。黄金時代と言われながら、一部の超富裕層に富が集中した。2008年の世界金融危機で、何百万のもの人々が貯蓄や住宅を失った。汚職のスキャンダル、反西側のテロ、低成長と高齢化は財政赤字を増やし、医療費や年金の不安を強めた。

有権者からの支持を高めるために、政治家たちは権力を分散し、有権者との距離を縮めようとした。しかし、それは政府の能力を削ぐ結果になった。議会と2大政党による政治、ウェストミンスター・モデルが崩壊し、権力分散がシステムを全体として弱め、選挙はますます小さな問題に強い関心を示すマイノリティーが代表を決めた。

むしろ、集権化された政治システムにおける中心的な存在、代表制民主主義の悪意も多く持つが中核的な制度を復活させるべきだ。すなわち、それは政党である。政党は、異なる選挙区のさまざまな代表から、全体の政策綱領を形成して選挙に挑む。党首は候補者に対する強い権限を持ち、政党として選挙の勝利を指導する。政党の政策綱領は、その国全体の長期的な改革を目標に、その実現を競うのだ。


 Facebookの世界通貨発行

NYT June 19, 2019

Launching a Global Currency Is a Bold, Bad Move for Facebook

By Matt Stoller

火曜日、Facebookは、Uber, Spotify, PayPal and VISAのような大企業と並んで、Libraと呼ばれる新しい世界通貨を創る、と発表した。世界は、安定した、インフレにならない、広く世界中で受領され、交換可能な、デジタル通貨を必要としている、と。

Facebookの子会社Calibraが、個人や企業に、貯蓄、支払い、送金のような金融サービスを提供する。通貨価値の基準、中央銀行、準備を設定する。

すでにBitcoinRippleなど、暗号通貨cryptocurrenciesが多く存在する。しかし、暗号通貨は利用者の意志に依拠するだけで、それ自体の価値はなく、政府も価値を保証しない。それゆえ価値が不安定だ。Libraの価値は、準備によって保証される。準備は、ドルとしてどこかに保有される。しかも、暗号通貨が実際には使用しにくいのに対して、LibraFacebookWhatsAppで使用でき、利用者に優しい。

Facebookの新通貨について、問題は4つある。第1に、もっとも単純なことだが、システム開発には莫大な投資が必要だ。銀行には多くの規制がある。資金洗浄、テロ活動の資金調達、脱税、偽造通貨を防がねばならない。

2に、アメリカでは南北戦争以来、銀行業と商業とを分離してきた。銀行業や支払業務は特殊なビジネスであり、顧客の秘密情報に直接かかわる。銀行が互いに顧客をめぐって激しく競争することを、アメリカは歴史的に好まなかった。

3に、システム・リスクが生じる。Libraの準備として保有される結果、債券市場や金融資産の価格が変動する。もしシステムに侵入されたり、準備を盗まれたりしたらどうなるのか? 利用者がLibraを売ったとき、準備資産が一斉に売却されたらどうなるのか? 大き過ぎて潰せない、民間国際決済ネットワークを創って、税金で救済するような事態は避けるべきだ。

4に、Libraは国家安全保障や主権を侵す。市場の開放性は常に正しいものではない。その判断は政治に求められる。たとえば、アメリカは自国の金融システムの利用を拒むことで、個人や企業、国家に対して制裁を行う。もし並行して民間の国際決済システムがあれば、制裁の効果は失われるだろう。ベンチャー企業やFacebookの重役たちが北朝鮮に対する制裁の成否を決める。

数年前、ザッカーバーグMark Zuckerbergは、Facebookが企業ではなく、ますます政府のような存在になる、と述べた。「われわれが本当に政策を決めている。」 彼は、あたかも主権国家のように行動してきた。たとえば、Facebookのコンテンツを最高裁判所に似た独立の法廷で決める。

今、彼は世界通貨を創出しつつある。

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The Economist June 8th 2019

Weapons of mass disruptiom

Economic geography: Flyover country v coastal elite

Chaguan: China courts the world

People power meets bullets: Sudan’s Tiananmen?

The war in Syria: Yet more misery

Global technology (1): Pinch points

Global technology (2): The silicon tightrope

(コメント) アメリカ政府は相互依存を深める世界経済を脅しに利用する。他方、中国は一帯一路において中国から司法システムを国際化するようです。

スーダンでは、首都に集まった民主化デモに対して軍が弾圧を開始しました。弾圧した特殊部隊に、軍や警察は反対する可能性があり、内戦の危機が近づいています。他方、シリア内戦が終わるとロシア、トルコ、イランの合意が成立するはずが、さらに戦闘は悪化しています。

相互依存する世界経済が、高度な技術とサプライ・チェーンを紹介します。それを分断するアメリカ政府の行動にも、正しい理由がある、と指摘します。

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IPEの想像力 6/24/19

2国間の貿易不均衡を、トランプにとって有利に解決できなければ、日米安全保障条約も破棄すると脅します。それほど、アメリカの安全保障は頼りないものとなりました。

国際秩序が失われると、さまざまな問題が専門分野の合理的交渉で決まらず、粗野な脅しと取引、強制によって、その場その場の妥協を重ねる世界になります。

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2018623日の「慰霊の日」の沖縄全戦没者追悼式で、沖縄県浦添(うらそえ)市立港川中学校3年相良倫子(さがらりんこ)さん(14)が読んだ平和の詩「生きる」がすばらしい。朝日新聞デジタル版で知りました。

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・・・私の生きる、この今よ。

・・・七十三年前、/私の愛する島が、死の島と化したあの日。/小鳥のさえずりは、恐怖の悲鳴と変わった。/優しく響く三線は、爆撃の轟(とどろき)に消えた。/青く広がる大空は、鉄の雨に見えなくなった。/草の匂いは死臭で濁り、/光り輝いていた海の水面(みなも)は、/戦艦で埋め尽くされた。/火炎放射器から吹き出す炎、幼子の泣き声、/燃えつくされた民家、火薬の匂い。/着弾に揺れる大地。血に染まった海。/魑魅魍魎(ちみもうりょう)の如(ごと)く、姿を変えた人々。/阿鼻叫喚(あびきょうかん)の壮絶な戦の記憶。

・・・みんな、生きていたのだ。/私と何も変わらない、/懸命に生きる命だったのだ。

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言葉の11つが、よく考えて選ばれ、感性と想像力、痛みを想う彼女の声を伝えます。

しかし、彼女の詩が示す答は、おそらく、戦争を止められない。海底に沈む小さな貝のように、だれも戦争を止められない。彼女の声は、戦争を叫ぶ者たちに聞こえない。

安倍首相は、今年の式典を、人々に答えることなく去りました。

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「こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。」

「全ての人間が、国境を越え、人種を越え、宗教を越え、あらゆる利害を越えて、平和である世界を目指すこと。」

「平和を創造する努力を、厭(いと)わないことを。」

「戦争の無意味さを。本当の平和を。/頭じゃなくて、その心で。/戦力という愚かな力を持つことで、/得られる平和など、本当は無いことを。」

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Facebookは世界通貨Libraを発行しようとしています。デジタル通貨・決済システムの時代、銀行業が、ますます、スマホのアプリに吸収されていく時代です。グローバル・ハイテク大企業が競って仮想通貨を発行し、現実の金融ビジネスから、トレーダーや投機家の莫大な利益を消滅させるのは良いことだ、と思います。

しかし、ゼロ金利、量的(質的)緩和、QEQQEが続く世界では、だれでも通貨を容易に手に入れられる、と錯覚するのではないか? 特に、グローバルなハイテク大企業にとって、多くの国家よりも信用があり、世界中のいかなる国家よりも多くの利用者に支持されるのだから。

国債や株式を中央銀行が大量に購入する時代です。デフレの下で金融資産の膨張を人々は喜び、日銀と政治家との結託を支持し続ける。

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戦争は、許してもらうことを望んでいない。戦争は、平和を目指す者たちによって始められる。戦争には、平和に負けない意味がある。戦力によってしか得られない平和は、愚かであることも、愚かでないこともある。

香港と日本と、どちらが民主主義なのか? 香港の議会は半分しか住民によって選出されず、行政長官は中国共産党の候補者リストから選ばれます。しかし、香港人は天安門事件を記念する集会を開き、送還条例に反対して100万人以上の抗議デモを行いました。

日米安保に頼ることで、沖縄戦や辺野古埋め立てについて何も答えない姿勢を、トランプのツイートは刺激します。なぜ首相や外相、官房長官は、否定するだけで終わりなのか? トランプは正確に、自分が言いたいことを言ったのに。

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