IPEの果樹園2019

今週のReview

6/17-22

***************************** 

トランプの貿易戦争 ・・・関税と金融政策 ・・・イタリアの並行通貨 ・・・アメリカを再び恐れられる国にする ・・・シンガポールの自信と慢心 ・・・トランプの関税と金融政策 ・・・香港の送還条例と抗議デモ ・・・ECB新総裁

長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランプの貿易戦争と新しい冷戦

NYT June 8, 2019

Is It Too Late to Stop a New Cold War With China?

By Stephen Wertheim

オーウェルGeorge Orwellは、第2次世界大戦の勝利を祝うとともに、「冷戦」がすぐに始まると警告した。1945年のエッセー“You and the Atomic Bomb”で、彼は冷戦を「平和ではない平和」と書いた。核兵器は直接的な侵略を防ぐだろうが、超大国は他の方法で和解できない世界秩序を導く。そして、それぞれが他方を遮断し、敗退させようとする。アメリカの外交官、ケナンGeorge Kennanは、ソビエト国家を、それが崩壊するまで、封じ込めるべきだ、と進言して、冷戦のコンセンサスを形成した。

最終的にソ連は崩壊した。しかしオーウェルは、冷戦が第3国の介入をもたらす、と予測した。すなわち、「中国が支配する東アジア」だ。最近まで、彼の予測は間違いのように見えた。

今、トランプ大統領は中国との貿易戦争をエスカレートさせている。政治家、政策担当者、評論家たちは、両党から、彼にもっと先へ進むよう求めている。われわれは中国内遠野連戦の始まりを目撃しているようだ。

もしそうであれば、トランプはハリー・トルーマンだ。トランプの方がもっと辛らつだ。彼は「われわれの国をレイプした」奴らに復讐する、と誓う。それが制裁や関税だ。

オバマ政権の最後にも、ワシントンの官僚たちは中国が自由化と協力から離れることを懸念した。特に、ウイグル人の扱いだ。こうした懸念は正当なものだが、オバマは協力の利益を強調した。

トランプ政権になって、特にこの1年で、冷戦のパニックがワシントンに広がった。国務省のKiron Skinnerは、ケナン的な理論で、「まったく異なる文明」である中国との長い「戦い」を描いた。アメリカが反中国の姿勢に向かったのは、アメリカ側の不安が大きな理由であった。

トランプは排外的で、アメリカの問題の原因を、1980年代の日本や、その後は中国のような非西側の国に求めた。オルト・ライトの総帥であるバノンSteve Bannonが、中国はアメリカが直面する生存に対する脅威である、と断言したのは当然だ。

トランプの選出は、外交専門家たちをパニックに陥らせた。彼らは「孤立主義」を恐れ、アメリカのパワーを救出しようとした。それが、中国封じ込め、である。北京は理想的な敵である。地球規模の反撃を組織する理由になり、しかし、直ちに戦争が起きるわけではない。中国への強硬姿勢は、民主党と共和党が協力できる数少ない問題である。

これは、タカ派の共謀が不正直であるとか、不合理であるという意味ではない。アメリカがその利益を定義し、グローバルな支配を維持しようとするなら、中国はそれを脅かす。中国封じ込めは、かつてのソ連に対する十字軍と同じように、現時点で、すべてのものの利益である。貿易の利益、資本主義の拡大、組織労働者の利益。少なくとも、冷戦が行き詰まり、ベトナムで多くの死者を出すときまでは。

当時のコストは甚大であった。今もそうなるだろう。例えば、トランプは地球温暖化を否定しており、世界最大の温暖化ガス排出国、中国を非難している。しかし、温暖化を止めるなら米中は協力し、地球を救うための競争に資源を用いるべきだ。アメリカ人は権威主義的な中国と我慢して生きることができる。しかし、地球が生存不可能な状態になれば、死滅する。

リベラルはタカ派は、自由が生き残るために、という。しかし彼らは、トランプが権力を握ることも阻止できなかったのだ。中国を支配し、自分たちの意志に従わせると思うのか。冷戦は、非リベラルな勢力を抑制するより、むしろ蔓延させるだろう。トランプのようなデマゴーグたちが、「赤(中国)の脅威」を「イエロー・ペリル」に転化し、自国民の安全を守ると称して権力を集中する。

かつてウォレスHenry Wallace商務長官をトルーマンは解任した。ウォレスは再軍備や世界中の軍事基地に反対したのだ。それはソ連を不安にし、抑えるべき戦争を招くから、と。そして第1次冷戦がはじまった。

われわれは第2次冷戦を回避できるのか?


 イタリアの並行通貨

FT June 9, 2019

How Matteo Salvini could blow up the eurozone

Wolfgang Münchau

先週、イタリア議会で奇妙なことが行われた。並行通貨の導入に関する代議員たちの無記名投票だ。いわゆる、ミニBOTである。多くの代議士はその意味を理解しなかった、と私は疑っている。連立政権が「少額の政府債」を発行するとは、どういう意味なのか。

ミニBOTは、本物の貨幣のように見える。その額面はユーロ紙幣と同じになる。そのデザインによるが、イタリア人はミニBOTで納税できるだろう。それが理由となり、ミニBOTは支払い手段として受け入れられる十分な見込みがあるのだ。

ドラギは先週、もしそれが貨幣なら違法であり、もし債券なら債務を増やすことになる。それ以外ではない、と答えた。私は、この点で同意できない。ミニBOTは、貨幣のような性格を持った債券である。

ブリュッセルでは、欧州委員会がイタリアについて、過度の赤字国に対する手続きの最初の段階を進めている。それは最終的に、多くの段階を経て、財政的な罰金を科すものだ。財務大臣のEU理事会がこの問題をあつかわないとしても、秋に必ず再燃する。サルヴィーニは大型の所得税減税を主張しているからだ。

経済状態から見て、短期的な財政刺激策を支持されるだろう。しかし、大型の恒久的な減税は、イタリアの構造的赤字を追加する。明らかなEUルールの違反である。この対立は、財政危機を伴う可能性がある。イタリアの連立政権は崩壊するのか? しかし、2011年にベルルスコーニが失脚し、官僚に政権を奪われたのは、議会の多数支配を失っていたからだ。サルヴィーニは違う。現政権は大幅に多数を占めており、もし解散すれば、新しい選挙でサルヴィーニが勝利するかもしれない。

そこでミニBOTが問題になる。イタリアは、単独の劇的な行動でユーロ圏を離脱できない。それを試みる政治家は失脚するだろう。

サルヴィーニは何を望むのか? ユーロ圏を離脱することか。ミニBOTで財源を得て、減税する。そして、ユーロ圏を離脱する欠かせないステップを進める。財政政策は各国の主権に属しており、欧州委員会はイタリア政府がミニBOTを発行しても止めることはできない。しかし、もしミニBOTで納税できるなら、それはユーロ建の税収を減らす。債務に対する罰金や、即座に金融危機になるかもしれない。

ミニBOTは、ローマとブリュッセルとの対立を新しい水準に引き上げる。加盟国が独自通貨を発行し始めるなら、ユーロ圏の統一は失われる。それこそ、イタリア政府のユーロ懐疑論者の目的だ。

EUは問題を慎重に扱うべきだ。サルヴィーニを政治的に追い詰めるほど、ミニBOTを利用するかもしれない。そうなればユーロ危機が再来する。そして、再びECBが救出してくれることはない。

PS Jun 10, 2019

Europe Must Fix Its Fiscal Rules

OLIVIER BLANCHARD

金利が極端に低く、投資家たちが公的債務は安全だとみなす、すなわち、財政的、経済的に債務のコストが低い、そのような国で、金融政策の限界を補うために、より大きな財政赤字が必要とされるだろう。

2008年の金融危機後、それに続くユーロ危機で、金融政策はユーロ圏の安定化に重要な役割を果たした。しかし、金融政策の余地は小さくなっており、同じような役割は果たせないだろう。他方、財政政策は、ケインズ主義的なマクロ政策の重要な政策でありながら、景気変動には使用されてこなかった。その結果、なお、ユーロ圏の生産は潜在的な水準に達していない。その解決には、1国ではなく、ユーロ圏の諸国が協力する必要がある。

また、ユーロ圏の財政ルールを変更することも重要だ。金利が非常に低いとき、債務/GDP比率の60%は間違った目標だ。もっと高く設定するだけでなく、その水準を超えた加盟国が赤字削減するスピードも遅くするべきだ。予算赤字もGDP比で3%を超えてもよい。

政府がいくらでも借りてよい、というのではないが、その手をあまりに難く縛るのもよくない。新しい政策ルールは、第1に、欧州委員会が加盟国の財政政策に細かいチェックをしないことだ。真に持続不可能な大量の債務を生じつつある政府に対してだけ、介入すべきである。

財政政策の余地を決めるのは市場、すなわち、投資家たちだ。日本には巨額の国債残高があるけれど、投資家たちは懸念していない。他方、イタリアの債務は、投資家たちに大きなプレミアを要求されている。問題は、欧州委員会が満足することではなく、投資家たちである。

2に、金融政策は単独で機能しない。刺激は、ECBにできないような、財政支出の増大という形になる。しかし、それは輸入増として波及し、効果が消えてしまうので、どの国も自分たちの負担で行わない。

必要なことは、それ自体で財源を生み出すような大規模な財政刺激策を協力して行うことであり、あるいは、(より論争的だが)ユーロ債を発行して、共通財源から各国の財政支出を金融することである。

それらがない限り、財政政策は引き締め過ぎで、経済活動が沈滞し、単純な解決策を主張するポピュリストが支持されるリスクを高めてしまう。


 アメリカを再び恐れられる国にする

FT June 10, 2019

Donald Trump is making America scary again

Gideon Rachman

ドナルド・トランプの国内の批判者は、しばしば、彼をマフィアのボスにたとえる。

トランプの外交は、モッブの行動に負うものがある。彼は、「アメリカを再び偉大にする」と言う。それは、いわば、抑止力の回復だ。

彼らの理論によれば、オバマはあまりにも専門家的で、理詰めだった。マフィアの親分のように、モスクワのプーチンのモッブ、北京の習近平一家は、オバマ政権を弱腰と見て、自由にふるまった。だからアメリカは、もっと恐ろしい大統領を必要としている。喜んで野球のバットを振り回すような。

トランプを支持する部族集団は、これが有効に働いている、と思っている。たとえば、先週のメキシコだ。トランプが関税を上げると脅せば、メキシコ政府は、すぐに、なだめるための行動を起こした。すなわち、より多くの治安維持部隊を国境線に送り、メキシコ国内で難民手続きを増やした。

イランとの核合意を離脱したこともそうだ。そして、中国にも適用しようとする。フアウェイの幹部をカナダで逮捕させ、フアウェイと取引する外国企業まで制裁する、と主張している。国境を超える強制力の行使だ。

アメリカを訪れるビジネスマンは、逮捕されるかもしれないし、入国を拒否されるかもしれない。アメリカを回避してビジネスを行うことは、アメリカ市場の規模と技術的なつながりのために、非常に困難だ。トランプの武器は関税であり、彼の気分で選択される。また、ドルは世界の準備通貨であるという事実から、ドル建の取引を行うすべての国が、遠くから、アメリカの法律を強制される。

このアメリカに対する脆弱さをどうするべきか、他の諸国は頭を痛めている。ドルを世界通貨から追い出すことは、長く、困難な過程である。それに代わる通貨には欠陥がある。ロシアのルーブルも、中国の人民元も。中国の通貨当局は、人民元が完全な交換性を持てば、中国から大規模な資本逃避が起きて、自分たちのシステムに何か恐ろしいことが起きると心配する。

EUは法の支配を提供し、ユーロこそ十分な市場規模と、完全な交換性を持つ。しかし、ユーロの制度はまだ建築途中で、危機の記憶も生々しい。

こうして「アメリカを再び恐ろしい国にする」というトランプ政権は、それが成功するほど、人々から嫌われる。市場規模と並んで、アメリカのシステムに対する信頼こそが、グローバル経済の中心的役割をアメリカに与えてきた。しかし、トランプの経済的破壊力が増すほど、その信頼は損なわれ、外国人はアメリカを避ける道を探すだろう。

最終的には、それが見つかるはずだ。


 鴻海と台湾大統領選挙

FT June 10, 2019

Foxconn: why the world’s tech factory faces its biggest tests

Kathrin Hille in Taipei

世界最大の電機製品契約製造会社、鴻海Hon Hai、もしくは、Foxconn Technology Groupほどグローバリゼーションの時代を示す企業はない。豊富な低賃金労働力の供給を受けて巨大な工場を経営し、近接するサプライヤーの群、自由貿易、電子機器の大衆市場が示す飽くことのないグローバルな需要を前提していた。

過去15年間、Foxconnは、さまざまなブランド、Apple, Dell and Huaweiなどから、パソコン、スマホの製造依頼を受けてきた。しかし、台北郊外で、このApplei-Phoneを組み立てる世界最大の企業、中国における最大の民間雇用主であるFoxconnは、生存の計画を示した。

45年前にこの会社の創設したTerry Gouが、引退して、台湾大統領選挙に立候補する、と発表した。しかし、さらに大きな挑戦は、政治からの脅威と、AIからの脅威という、2つに対抗して生き残ることだ。それらは台湾のビジネスモデルを破壊する力がある。

Foxconnは、米中貿易戦争のど真ん中にいる。その懸念から、鴻海の株価は2年間で半分に下落した。台湾の契約製造業企業は工場を中国から移転させ始めた。「第1の問題は、十分な労働供給がないこと。第2に、サプライヤーのネットワークがないことだ。」

台湾企業は決して多様化をしなかったし、少量でマージンの高いもの、高い技術のものを作ろうとしなかった。

Pegatronは、インドネシアやベトナムに工場を建設している。しかし、将来のことは予想できない。移動するより、自動化やロボットかもしれない。Foxconnも、巨大な工場で農村からの女子労働者が続けて自殺してから、工場の自動化を試みてきた。しかし、目標を下回っている。

テリー・ゴウは、演説で、台湾のハイテク産業が米中の橋渡しになる。アメリカに行ってその再工業化を助ける、と述べた。

彼の選挙運動は容易でない。しかし、彼は闘う気だ。


 シンガポールの自信と慢心

FT June 10, 2019

Singapore, Singapura: From Miracle to Complacency by Nicholas Walton

Review by Victor Mallet

シンガポールはリベラルな作家や政治学者にとって謎である。ほとんど、苦悩だ。

この島は、都市国家であり、マレーシアとインドネシアに挟まれ、東南アジアの赤道に近くにある。戦略的には西側寄りで、経済は資本主義的だが、政治的には権威主義的で、社会的にも国家介入主義である。

シンガポールは大きな成果を収めた。自由を支持する西側の人々も、北朝鮮やベネズエラの非リベラルな体制を批判するのに比べて、シンガポールのリー・クアンユーとその後継者たちを管理型民主主義について批判するのはむつかしい。

2015年のPISAランキングで、シンガポールは3つの科目(数学、科学、読解)で1位だった。幼児死亡率はアメリカの半分だ。しかしここでは、著者のWaltonによると、1843年だけでも300人が虎に食われた。島の発展に最も寄与した発明はエアコンだ、とリー・クアンユーは言った。

Waltonは、1日で、島の端から反対側まで歩いた。このやり方で、ふつうは見えないものまで書こうとした。そして、正しい問題を立てる。「シンガポールの成功がもたらす人的、環境的コストは何か?」 「それは持続可能なのか?」

この島のメリトクラシーは不完全だ。特に、マレー人やインド人から見て。市民へのプレッシャーはあまりに強く、ときには亡命することになるほどだ。人口の85%は公共住宅に暮らしている。派手な邸宅も一部にはある。市民の多くは親の世代より豊かになった。本当に貧しいものは珍しい。しかし、シンガポール人は怒っている。大衆と、ガラスの天井に隔てられた、富裕層とのギャップだ。

Waltonは、シンガポールのエコロジカル・フットプリントを見る。シンガポールによる砂の輸入で、インドネシアの24の島が消滅した。Hong Lim Parkのスピーカーズ・コーナーには誰もいない。与党である人民行動党は政治権力を維持することに容赦ない姿勢でのぞみ、敵対者を告発する。

しかし、指導者たちは過去の成果をもたらした適応力と革新力を失った、と示唆する。


 トランプの関税と金融政策

FP JUNE 10, 2019

The Fed Is Trump’s Secret Ally in the Trade War

BY CHRIS MILLER

貿易戦争においてトランプ大統領はますます同盟者を失っている。しかし、1つ、決定的な同盟者が彼を守っている。それはアメリカ連銀だ。

経済学の教科書は、関税が物価を引き上げ、企業の競争力や消費者の購買力を失わせる、という。しかし、大統領とその顧問たちはこれを重視しない。特に、ナヴァロやライトハイザーは、貿易において関税が重要だ、と長年主張してきた。

連銀のエコノミストたちは、もちろん、経済学を学んだ。トランプとは逆に、関税が成長を損なうと考えている。これは大統領にとって素晴らしいことだ。なぜなら経済が減速するとき、(インフレが抑えられているなら)連銀は金利を低くして成長を刺激するからだ。過去6か月間、連銀は金利引き上げを抑制してきた。

連銀には、インフレを抑え、失業率を低くする、という2つの目標がある。1年前には、この2つに関して、金利を引き上げる兆候があった。経済の拡大が非常に長期に及び、失業率も歴史的な低水準であったからだ。しかも2017年の財政赤字による大型減税は、経済刺激を減らすべきときに行われた。実際、2018年のインフレは過去5年間で最高になった。

1年後、いくつもの関税引き上げを経て、事態は異なって見える。アメリカ企業と消費者は貿易に深く関わっているからだ。関税はサプライ・チェーンを妨げ、費用を高くする。短期的には経済にとって何も良いことがない。これに対して、金利引き下げが需要の減少を緩和する。また、連銀と同じように、トランプの関税を恐れる株式市場を支える。

これは危険である。トランプが関税を引き上げ、脅すほど、連銀は金利を下げる。それがますます、トランプの脅しを助長する。

連銀の金融緩和は、経済条件だけでなく、2020年の大統領選挙にも決定的な要因としてかかわってくる。連銀が経済状態を維持するほど、トランプの再選を助けてしまう。

連銀はその使命を果たしているだけだ。たとえトランプのツイッターが原因としても、関税(の脅し)が失業やインフレをもたらす(という不安を高める)なら、連銀は金利を下げる。政治から「独立」すべきだと言われるが、ホワイトハウスの命令に従うのではない。連銀が経済の減速、雇用や賃金の減少を許すよう、求める者はいない。

トランプは、この空前の経済成長を自分の手柄と主張する。


 香港の送還条例と抗議デモ

NYT June 10, 2019

Hong Kong’s Government May Cave In to China. Its People Will Not.

By Yi-Zheng Lian

もし香港が、約束された2047年より前に、解体するとしたら、それは殺人で終わるラブ・ストーリーだからである。

日曜日、数十万人、もしかすると100万人が、政府による小さな事件の扱いで、北京の権威主義体制に香港を服従させる試みに、抗議するためデモ行進した。

香港の若い男性が、そのガールフレンドを、休暇旅行先の台湾で絞殺した事件があった。彼は香港に戻っていたが、香港と台湾の間に送還協定がないため、殺人容疑の裁判のために香港から台湾へ送還できない。香港でも、香港の外の事件を裁けない。

香港行政長官のCarrie Lamは、ファスト・トラック(修正なしに承認/否承認だけを求める)方式で、既存の送還条例の修正を求めた。彼女はこれを、法の支配を改善する、と述べた。香港と中国の間の抜け穴をふさぐもの、とも述べた。

しかし、多くの香港人にとって、この修正案は政治的な爆弾であった。まるで香港の誰でも、何か理由をつけて、中国から狙い撃ちにできるように見えた。過去において、中国当局は彼らの反対者を香港から誘拐するために、明らかに非合法な、汚い手を使う必要があったのだ。

さまざまな民主的団体、法律の専門家たちが、直ちに手を組んだ。ビジネス界からも一部が参加した。キリスト教会は、聖書を本土に送っても中国では重罪になる、と訴えた。最近の中国から移民してきた者も声を上げた。雨傘革命から5年経っても、自由、正義、民主主義を求めた、市民的抵抗の精神は生きている。

送還条例は過去に遡及適用されるだろう、と多くの香港ビジネスマンは懸念する。彼らは今も、かつても、中国のビジネスをするために賄賂を支払っている。あるいは、土地の有力者がするように、売春宿を利用し、ほかにも中国の法を犯した。

香港ビジネスマンは、今、さらに懸念することがある。彼らがアメリカと関係を持ち、米中貿易戦争が続くなら、中国当局による報復や強奪にさらされる恐れがあるのだ。Lamは、ホワイトカラーやビジネスに関連する犯罪を除外する、という修正を示したが、ビジネス界でもなお反対する者がいる。

もし修正を強行するなら、Lamは、北京のマスターに忠誠を尽くすあまり、行き過ぎたのだ。日曜日の群衆を見れば、香港人の北京政府に対する非難は新しいピークに達した。北京はこうした事態を望まなかった。

NYT June 13, 2019

Hong Kong and the Future of Freedom

By Bret Stephens

想像してみよう。2018年、トランプ政権が、国中の秘密の場所で起きた不正行為について、アメリカ人を何の理由もなく拘束し、裁判にかけ、投獄できる、という法律を提案したとしたら。さらに、4300万人のアメリカ人が抗議のために立ち上がり、催涙ガスとゴム弾を浴びるだけで、ミッチェルとライアンが議会通過を図ったとしたら。しかも、それを阻止する司法や憲法はない。

それは、ほぼ、香港で今週、起きていることだ。

2015年、中国当局は5人の香港人を誘拐した。彼らはその書店で政治的に微妙な書籍を販売することで知られていた。彼らは何カ月も独房に監禁され、いくつかの罪で有罪となった。2017年には、億万長者のXiao Jianhuaが香港のフォー・シーズンズ・ホテルから誘拐された。それ以来、彼は公式の場に現れず、会社は解体された。

送還条例はその趨勢に続くものである。そして、最後のものでもないだろう。

1989年、当時は強固に思われたホーネッカーの体制も東ドイツで崩壊した。それは小さな西ベルリンに自由を許していただけだった。中国の最高指導者、習近平は、香港から同じことが起きるのを許しはしない。

しかし、彼はそれほど心配することはない。1980年代、自由世界は政治的に団結し、道義的な高さを保っていた。今は違う。ドナルド・トランプは、香港のデモについて、「何とかするだろう」と述べただけだ。それはポーランドの大統領との会談後に行われた記者会見だった。2人は、新しいポピュリスト的なナショナリズムの代表者だ。サウジアラビアでジャーナリストが殺害されても、北朝鮮で誰もが恐怖の下で暮らしても、気にしない。

トランプにとって、香港は中国の国内問題である。つまり、習近平は香港デモを好きなように処理することができる。国際的な批判を気にすることはない。トランプのアメリカは、あるとき関税をかけて脅すが、次には取引する。自由の女神のために拳を振り上げることはない。

世界の民主主義は衰退を続けている。アメリカ大統領の無視はそれを加速する。しかし、永久には続かない。権威主義体制の最大の恐怖は、香港でデモに参加する人々の良心だ。


 ECB新総裁

FT June 12, 2019

Jens Weidmann casts a shadow over the ECB

Martin Wolf

マリオ・ドラギを継ぐ、次のECB総裁はだれか? これはヨーロッパ諸国の政府が決定するもっとも重要な問題である。UK離脱も、トランプの扱いも、欧州委員会や大統領の決定も、これに劣っている。次のECB総裁が、その任期の最後、2027年に、ユーロ圏が存在するか、おそらくはEUが存在するか、それを決定するだろう。

ユーロ圏全体をあつかうことができる唯一の機関として、ECBだけがその力を持っていた。ECBは旧弊を破って、最後の貸し手として行動した。ドラギは20127月に、「われわれの権限において、ユーロを守るために何でもする用意がある」と宣言した。ECBは、20128月に、OMTを、20151月から、量的緩和を始めた。

同じ要求を満たせる候補が誰か、決めるのはむつかしい。しかし、最も危険な候補は、断然、ドイツ連銀総裁のJens Weidmannヴァイトマンである。ヴァイトマンは、QEを含む、多くのドラギの革新的手法に反対した。ドイツ憲法裁判所で、OMTを批判する証言までした。

しかし、もしドイツ人の多くが同じように考えているなら、彼は真実を国民に説明する必要がある。特に、ドイツ連銀より、ECBの下で、インフレ率は低かった。世界の低インフレは、一般に、非常に低い金利を意味しており、彼らの貯蓄には大きな価値がない、ということだ。

ドイツ人総裁は、ドイツの民間部門が投資を超える過剰貯蓄を、日本に匹敵するほど多く持っている、と追加して説明するべきだ。ドイツは大幅な経常収支黒字があるから、完全雇用と財政黒字を出すことが可能だ。しかし、もしドイツがユーロ圏に入っていなかったら、それは非常にむつかしいだろう。ドイツ・マルクは変動し、大幅に増価するだろうから。ドイツは今やデフレの中にあり、輸出部門はドイツ国外に移転し、その金融政策は日本のようになる。

要するに、ドイツはユーロ圏から大きな利益を受けてきたのだ。そしてヴァイトマンはECBの行動を何度も支持するだろう。

残念ながら、証拠が示すのは、そうではない。ECBに懐疑的なドイツ人か、より広い視点を持つ人物か。それは国民性の問題ではない。前者なら破滅であり、後者なら祝福に終わる。

******************************** 

The Economist June 1st 2019

The next to blow

The trade war and big tech: One thousand and one sleepless nights

The British constitution: The referendums and damage done

Recession planning: Automatic for the people

Bello: Export or stagnate

Nigeria’s economy (1): More misery ahead

The European Parliament elections (1)

Charlemagne: And they’re off!

Free exchange: The bonds that tie

(コメント) 議会が爆発し、あるいは、政治エネルギーが充満して、その出口を求めています。貧困層は新興経済が成長を実現する瞬間を待っています。貿易、投資、債券市場、それらを組み合わせて、人々が生産的に富を実現し、消費できる仕組みを、分割された各地の政治は求めています。

****************************** 

IPEの想像力 6/17/19

ニュースやコラムは<世界>の鼓動を伝えます。

1997年から50年間、香港の「一国二制度」を保障する基本法は、香港返還時に成立しました。2047年に、自分は生きているだろうか? と思いました。もし中国からの介入が続くなら、もっと早い時期に、システムは崩壊し始めます。

中国は、香港の条例が認めるなら、その住民を、中国の法律によって強制的に送還させる力があります。他方、アメリカは、世界中の国・銀行・企業に対して、関税を引き上げて、情報ネットワークや、金融システムを介する制裁・遮断により、強制力を発揮します。

香港から台湾へ、中国共産党の秩序再編は、民主的なガバナンスと対決します。台湾大統領選挙には、米中市場統合に依拠して急速に拡大してきたFoxconnの創立者、テリー・ゴウTerry Gouが、国民党候補として立つようです。台湾の独立ではない、高度な自治と民主制を、国民党は共産党に対抗して保障できるのでしょうか。

アメリカの2020年大統領選挙は、すでに民主党、共和党の、それぞれの候補者指名争いが始まっています。トランプは、アメリカ連銀を組み込んだ成長の拡大を前提に、貿易・関税による脅しが有効である、と満悦します。他方、民主党には、中国に負けない、産業政策・地域振興銀行=貯蓄機関への資金供給、雇用や中産階級、地方の復活に向けた、新しいQEを行うというアイデアがあります。

イタリアは新しい少額債券、あるいは、「通貨」を発行するかもしれません。ユーロ紙幣そっくりで、イタリアだけが発行し、政府に対して税金として支払うことができる「債券」という話です。それは、おそらく、支払い手段として流通することになるでしょう。ECBとは別に、イタリア財務省が「通貨」を供給し、その通貨は独自の金利や為替レートを生じます。

ユーロ圏はこれをどうするのか? ユーロ圏の財政赤字規制は批判されています。低インフレやデフレ、ゼロ金利に応じて、積極的な財政刺激策をルールに組み込む必要があります。欧州委員会の強いる財政規律に対抗して、各地のポピュリストが財政刺激策を主張することは、民主主義がEUを解体する道です。

****

ナイジェリアでは、輸出収入の9割を占める、石油価格の下落だけでなく、政策によっても経済の悪化を続けている、とThe Economistの記事が紹介しています。失業率は23%、インフレ率は11%11.90ドル以下で生活する人々が9400万人もいます。

ナイジェリアの通貨価値を下落させるより、政府はドルの固定レートと割り当てを実施しました。中央銀行は多くの産業にドルを供給しません。輸入を高関税で阻止して、国内生産を求めます。しかし、ドルが無ければ設備も動かなくなり、工場が閉鎖されます。労働者は失業し、不況になりました。

中央銀行は複数の為替レートを採用して、事態を悪化させた、と言います。一部の優遇された複数の為替レートと、国民が闇市場で交換する、もっと条件の悪いレートがあります。

アジアのような輸出型の成長を目指す政策はありません。政府は、道路も、学校も、電力も供給せず、民間投資家は、自分たちですべて負担しなければなりません。ガソリン価格の補助金を削れば財政赤字を解消できるとしても、かつて抗議デモが起きたことを恐れて、政府は放置しています。

学校も社会保障もありません。

****

われわれが問われているのは、こうした世界に生きる自分たちの展望です。日本の政治は、無風状態、に見えます。地方都市の首長選挙は、30%が無風です。他方、地球温暖化は自然災害を増やします。

何かが破裂したら、日本人は無風状態を後悔すると思います。もっと若者を加えて、新しいアイデアを積極的に議論する政治が、200万人のデモのあとの香港と同様、この国にも必要です。

******************************