IPEの果樹園2019
今週のReview
6/10-15
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スーパースター市場 ・・・トランプのイギリス訪問 ・・・米中の冷戦 ・・・中国と戦うな ・・・ユーロの資本市場同盟 ・・・モディの勝利 ・・・イギリス保守党の党首選 ・・・2つの1989年 ・・・金融政策の評価 ・・・トランプの関税 ・・・グリーン・ニュー・ディールと21世紀 ・・・ナショナリズム ・・・アフリカ豚コレラ
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● スーパースター市場
NYT June 1, 2019
The Economics of Rihanna’s Superstardom
By Alan
B. Krueger
スウェーデンのアバが“The
Winner Takes It All”を発売したのが1980年だった。その年は、また、経済不平等に向かう転換点でもあった。アメリカでは、1980年以降の成長のすべてより、さらに多くの所得を上位10%の家族が得た。全所得の3分の2が、最上位1%のものになった。底辺から90%の人々は、実際、所得が縮小したのだ。
音楽産業を観察することが、スーパースター市場の理解に役立つ。
19世紀後半の経済学者、アルフレッド・マーシャルが、スーパースター経営者と他の人々との所得の差が拡大することを、新しい通信技術、当時の電信によって、説明した。彼らが、その建設的な、あるいは、投機的な才能を一層広い地域に拡大できるからだ。
しかしマーシャルは、専門的な職業にスーパースター効果が適用できるのは限られている、と音楽家の例を挙げた。非常に優れた歌手になる才能は希少であるが、その聴衆の数は限られている、と考えたからだ。
聴衆の規模が拡大できれば、優れた才能がもたらす所得は増大する。スーパースター市場を形成する条件は、規模と特異性である。
しかし、デジタル・レコーディング技術とインターネットの登場により、1990年代以降、レコードの販売による収入が急減した。音楽産業は、音楽を広めたり加工したりする技術の進歩、参入コストの低下で、全体として平等化するだろう。しかし、個々の音楽家の所得は、一層不平等になる。
Spotifyは3500万曲を提供する。その場合、ファンの嗜好がネットワークによって形成される。友人の助言やラジオ番組による紹介だ。Twitter のフォロワーや, YouTube、Facebookが重要になる。
1980年以降、アメリカはスーパースター経済に移行してきた。音楽産業では、1%の音楽家が全所得の60%を得る。最も裕福なアメリカ人は、ハイテク、金融、大規模小売業から生まれている。最も規模の拡大できる産業だ。
スーパースター企業、Google,
Apple and Amazonは、技術革新を大規模に利用している。しかし、その影響は競争を抑圧する恐れがある。彼らは優れた才能ある者を高い給与で集めることができる。また、安い給与で働く外部の生産者に委託する。
都市や州が、最低賃金を引き上げることで、安い給与の労働者の所得を増やし、不平等を緩和することができる。
● トランプのイギリス訪問
The Guardian, Sun 2 Jun 2019
The Guardian view on Trump’s state visit:
the president is not welcome
Editorial
トランプは、平和、民主主義、地球の気候を脅かすデマゴーグである。イギリスの緊密な同盟国で大統領に選ばれた人物を無視することはできない。しかし、彼と、彼の妻、4人の子供を、女王のゲストに迎えることは、その破滅的な政策、クローニズム、専制体制を好む性格に、正当性を与える危険がある。
トランプの虚栄心は、彼を攻撃するものにとってはジョークである。今週、再び、トランプ・ベイビーの大風船がロンドンに現れた。
FT June 3, 2019
Donald Trump deserves a state visit to the
UK
イギリスの世論はアメリカ大統領を嫌っている。しかも、トランプが来るのはイギリスの政治危機が極まった時期である。
しかし、イギリス人は正しく歓迎する姿勢を示すべきだ。トランプは、さまざまなセレモニーに加えて、Dデイの75周年記念式典にも参加する。トランプを批判する者は、こうした行事に反対する。しかし国賓を迎えるのは、彼個人ではなく、アメリカという国家に対する姿勢である。エリザベス女王が習近平主席を歓迎するなら、トランプにも当然に敬意を示すべきだ。
確かに、トランプの外交には意見の違いがある。西側で最も論争となるのは、Huaweiの排除などを含む米中対立だ。合理的でない政策なら反対するべきだ。しかし、Huaweiに対するアメリカの主張には十分な根拠がある。また、イギリスでロシアの亡命が暗殺された事件では、アメリカも(EUも)直ちにロシア外交官を追放した。
アメリカとの特別な関係を軽視してはいけない。
● 米中の冷戦
FP JUNE 2, 2019
THE REAL ORIGINS OF THE U.S.-CHINA COLD WAR
BY
CHARLES EDEL AND HAL BRANDS
ワシントンは、全体主義体制の影響が海外で拡大していること、また国内で市民を弾圧していることに、どのように対応するべきか? これは、今、私たちが直面している、習近平の中国についての問題だ。しかし、第2次世界大戦後のアメリカも、別の全体主義国家に直面していた。それは冷戦、すなわち、パワー、影響力、グローバル秩序の形をめぐる40年間の競争だった。
北京とワシントンの間で緊張が高まる中、米中の新しい冷戦がはじまる、という不安が大きくなっている。
1945-47年、米ソ関係は緊張していたが、第2次世界大戦中の生産的なパートナーシップから、数十年に及ぶ、深刻な地政学的・イデオロギー的な対決となった。その起源に関する歴史家たちの解釈は4つあった。
第1に、冷戦の責任はソ連にある、という考えだ。第2次世界大戦後、ヨーロッパやアジアの広大な地域を支配しようとする、ロシアの膨張主義、マルクス=レーニン主義のイデオロギー、スターリンの途方もない偏執狂が働いた。アメリカは、当初、戦時の協力関係を続けることに関心があった。モスクワの凶悪さを理解することができなかった。しかし、1946-47年に、より対決的に姿勢に変わった。それはさらに攻撃的な、一連の行動をソ連に取らせた。
第2に、1950年代後半、ベトナム戦争のもたらした幻滅により、リビジョニストたちが従来の解釈に挑戦した。モスクワではなく、ワシントンに責任があった、と。彼らによれば、アメリカは本来的に膨張主義的なパワーであった。経済圏を拡大し、市場資本主義のシステムを広め、世界にその価値観を普及させた。この発想が、スターリンの、東欧に関する優先的な関心を緩衝地帯として求める理由を無視させた。その結果、モスクワは、安全保障を失うか対決か、選択を迫られた。William Appleman Williamsは、「門戸開放が冷戦をもたらした」と主張した。
第3の説明は、これら2つの解釈を合わせたものだ。ベトナム戦争とリビジョニストの後、歴史家たちはアメリカが間違いを犯したことを認めた。しかし、冷戦は、避けられない悲劇であった。アメリカとソ連は世界で最強の2大国であり、両国の間にはパワーの真空状態があったからだ。この条件が競争を生んだ。政治システムが異なり、歴史的経験が異なり、どのように安全保障を得るかの方法が違う。それが冷戦となった。
冷戦終結後、ソ連側の資料が公開されたわずかに時期に、新しい証拠から第4の解釈が現れた。John Lewis Gaddisなどの歴史家が、初期の解釈を強化したのだ。すなわち、ソ連が、特に、スターリンが有罪である、と。「スターリンが戦後に目指したものは、彼自身の安全、その体制、国家、イデオロギーの安全だった。しかも、正確に、この順番で。」 あれほど無慈悲な、攻撃的で、信頼できない指導者の下にあるソ連と、アメリカが協力し続けることは不可能だった。スターリンの疑念は解けず、西側が弱いと確信し、アメリカの影響の限界を引こうとする彼の行動は、戦時の同盟関係を終わらせた。
確かに中国とソ連は違う。しかし、もしアメリカが全面的な反撃に出た場合、彼らは敗退するだろう。彼らにとって重要なことは、アメリカが反撃を抑制する形でだけ、攻撃することだ。戦いが限定された条件であれば、アメリカは全力を費やすことがふさわしくないと考える。ワシントンの同盟関係の脆弱な部分を攻撃しても、核戦争の時代に、戦争の危険を冒すことは考えないだろう。
現代の米中関係を、冷戦のリビジョニスト的視点で説明することはない。むしろアメリカは、WTO加盟や市場開放で、中国の台頭を助けてきたのだから。北京の関与を高め、地域やグローバルなレベルで外交に影響することを求めてきた。
リビジョニストの解釈(アメリカの膨張主義)を用いることは、米中関係の悪化と一致しない。それは、中国の姿勢が2008年、2009年に「新しい攻撃性」を示したことで始まった。世界金融危機で、中国がアメリカの弱さを認識したことが重要だった、という研究者もいる。南シナ海、東シナ海など、オバマ政権は中国の姿勢を正そうとした。
習近平の個性や政策に、対立の原因を求める考え方もある。習は、明確に、地域の覇権を求め、一帯一路やAIIB、RCEP、中国製造2025、などを推進した。その姿勢はイデオロギー的な対抗でもある。
第3の考えは、ポスト・リビジョニストの解釈であり、パワー・シフトと国際条件が米中の対決を強いた、というものだ。中国の過去30年間の成長は前例のないものだった。1998-2014年に、GDPが1.9兆ドルから8.3兆ドルに増大した。中国の経済・軍事的パワーの増大が、アメリカの警戒を生んだ。特に、冷戦が終わって、1995-1996年の台湾海峡の危機が、米中双方に明確な軍事的対決姿勢を取らせた。
中国が、他のすべての挑戦国と異なるのは、その政治体制が専制的な一党独裁であることだ。この事実こそ、冷戦の最初の説明で非常に重要な要素であった。中国の支配者たちは、リベラルな価値やリベラルな超大国が、自分たちの安全と関係ないとは確信できないのだ。なぜなら、リベラルなシステムが自分たちの権威を損なうことを恐れるから。
アジア太平洋における安全保障の確立は、単にアメリカと中国とが影響圏を再分割する合意によっては不可能である。地域の防衛体制とその国家の意志が問われる。かつてアメリカが西ベルリンの自由を守るために、戦争を恐れず行動したことで平和は確立された。インド太平洋は、同様に重大な局面にある。
それは、地政学的であると同時に、イデオロギー的な挑戦だ。習近平の中国は、民主主義を弱め、権威主義的な抑圧体制、技術的な高度な管理体制を広めている。ワシントンは、もっと明確に、民主主義を擁護しなければならない。現政権では望めないことだ。新疆におけるイスラム教徒の監視や拘束、再教育キャンプを批判するべきだ。
中国に対するこうした反撃が効果的であるためには、「すべての国家」を集めるアプローチではなく、「すべての社会」を集めるアプローチに依拠するべきである。アメリカは、繁栄する、自由なグローバル・コミュニティーによって支持されたことで、冷戦に勝利した。中国に対してもそうだ。
● 中国と戦うな
PS Jun 3, 2019
Trump’s Trade-War Miscalculation
ZHANG
JUN
要するに、アメリカの対中貿易交渉はやり過ぎだ。中国側の法律を変えさせる。Huaweiへの制裁と、Huaweiとの取引をブラックリストに載せて、基本的な技術からも切り離す。
それはHuaweiの利益を損なうが、他の急速に成長するハイテク企業とともに、中国は回復するだろう。そして、世界に対して深刻な結果をもたらす。中国はグローバル・サプライ・チェーンに深く一体化しており、単に取り除けるものではない。14億人の消費市場もそうだ。
アメリカ政府は、中国に対抗策がない、と考えている。ハード・ランディングを避けるしかない、と。それは間違いだ。中国は、アメリカの農産物や飛行機の輸出に報復し、資本規制を強化し、アメリカの財務省証券を売却できる。また、人民元の減価を促せる。
しかし、中国の対応は抑制されている。なぜなら、穏健なアプローチが中国の長期的な利益になるからだ。すなわち、成長を維持し、社会的安定性を保ち、国家統一を強化する。また、さらなる世界経済の混乱を避ける。皮肉なことに、それは、アメリカが要求している、中国の改革にもつながる。
中後港の指導者たちは、資本主義的なグローバリゼーションがすぐに逆転するとは考えていない。アメリカはなお自由市場の最大の推進者だ。しかし、米中は対立する結果として、中国も独自のコア技術に向かうだろう。また、経済発展のために主要な戦略部門を自国に育成する。そのような方針は、中国の改革を不可避とする。特に、知的財産権と効率的な資本市場だ。
中国は対米貿易交渉を拒否するより、むしろ米中貿易の構造的不均衡を是正しようとするだろう。中国もそれを望むからだ。しかし、トランプ政権のように、一方的な中国の輸入増加を求めるのは無神経で、無謀である。中国は段階的な解決を主張しており、世界もそれを支持するだろう。特にアメリカは、中国向けの輸出規制を緩和し、中国からのアメリカ向け投資を推進することだ。
米中間には多くの共通課題がある。気候変動、核拡散の脅威、テロ、貧困、金融市場など。アメリカ政府が、中国との協力の必要性を認める視野と知恵を取り戻すよう望む。
FT June 5, 2019
The looming 100-year US-China conflict
Martin
Wolf
アメリカが必要とする、イデオロギー的、軍事的、経済的な敵が、ようやく、ここに見つかった。それが、Bilderberg会合に出席した私の感想だ。
アメリカ大統領には、ナショナリストの、保護主義的なガッツがある。細部は、他の者たちが提供する。その目標は、アメリカの支配。そのための手段は、中国の管理、もしくは、分離である。この対立において、ルールに依拠した多角的世界、グローバル化した経済、国際関係の調和を信じる者は、生き残れない。
米中貿易摩擦について中国政府が発行した報告書は、多くの点で、私には残念だが、正しい。アメリカの中国に対する交渉姿勢は、「力は正義だ」というものだ。アメリカが、米中合意の、判事、裁判官、検察官となる、ことを主張している。
市場開放や知的財産の保護は、周到に交渉すれば、中国の利益になる。しかし、アメリカの論争は、ますます、中国の国家指導経済と統合することを問題にしている。Huaweiへの不安は、安全保障や技術の自立性を問う。リベラルな通商は、「敵との交易」とみなされる。こうしたゼロ・サムの姿勢を、かつてケナンGeorge Kennanが就いていた地位the US state department’s policy planning
directorにあるKiron
Skinnerが「異なる文明、異なるイデオロギーとの戦い」と主張している。
中国のイデオロギーは、ソ連と同じような意味で、リベラルな民主主義の脅威ではない。右派のデマゴーグの方が危険である。中国の経済・技術における台東を阻む試みは必ず失敗する。むしろ、それが中国国民に強い敵意を生じる。長期的には、ますます繁栄し、教育を受けた人々が、自分たちの生活をコントロールしたいという要求が強まる。しかし、もし中国の自然な台頭を脅かされるなら、それは実現する見込みが減るのだ。
中国の台頭は、西側の経済衰退の重要な原因ではない。むしろ国内エリートたちの無関心、無能力が原因だ。知的財産の窃盗を責めることは、その大部分が、支配的な技術に追いつく経済なら必ず試みていることだ。そもそも、人類のわずか4%の支配をその他の人々に押し付けるのは、不当な主張である。
それは、中国のやることや主張をすべて受け入れる、という意味ではない。西側にとって最善の道は、中国が自由や民主主義の価値を受け入れ、ルールに依拠した多国間協調、グローバルな協力に参加することだ。今日、多くの中国人がそれを受け入れるだろう。
中国の台頭を管理するには、リベラルな諸価値を共有する諸国が緊密に協力し、中国に敬意を持って対応することだ。しかしアメリカ政府は、米中貿易戦争をはじめ、同盟諸国を攻撃し、戦後のアメリカが指導した国際秩序を破壊している。
● 2つの1989年
PS Jun 2, 2019
Deng Xiaoping’s Victory
IAN
BURUMA
1989年春、中国の大規模な抗議デモは、北京の天安門広場に集まったが、反共産主義革命は失敗したように見えた。6月3-4日の弾圧と並行して、中欧では政治的自由が勝利した。最初はポーランドとハンガリーで、その後、政権崩壊は東欧全体に広がった。2年以内に、ゴルバチョフの改革によって亀裂を生じたソ連邦も内部から崩壊した。
これらの民主化革命は、その数年前に起きた北東アジアや東南アジアの「人民パワー」反乱に続くものだった。リベラルな民主主義が永久に勝利した、と考えた者は多かった。資本主義と開かれた社会とは共生関係にある。それに代わるものはない。
中国は異常値だと思われた。しかし、ケ小平は資本主義を受け入れたのではなかった。それは権威主義的な資本主義であった。ケは、「先に豊かになる」、「裕福であること」を称賛したが、それは天安門広場に戦車を導入したイデオロギーと同じであった。そして、外国投資家が去ることを心配したが、世界は13億人の市場をあきらめないだろう、と共産党は考えた。
その後の経済の拡大は、都市の教育を受けた住民に大きな利益をもたらした。彼らの多くが1989年のデモに参加した学生だった。シンガポールの裕福な市民、あるいは日本の市民が示すように、それは同じ取引だ。もちろん、これら2国は独裁国家ではないが。・・・政治にかかわるな。一党支配体制の権威を疑うな。お前たちが豊かになる条件を守ってやる、と。
今や、中国の人々は、天安門事件のことを聞かれると、ナショナリズムによって反発する。ロシアのプーチンは、中国ほど成功していないが、同じモデルを採用した。ハンガリーなど、中東欧でも、一党支配体制の資本主義が繁栄している。
中国は異常値ではなかった。非リベラルな資本主義が、世界中の専制支配者に、魅力的なモデルになった。30年前に共産主義体制を倒した諸国でもそうだ。中国がその先駆者である。
● 金融政策の評価
FT June 6, 2019
Investors are counting on Jay Powell to
save them
Gillian
Tett
ニューヨークでアメリカの金利に関して金融関係者の会合で質問した。9割以上が、次は金利引き下げを予想した。4分の3が、これから1年間で、2度か3度の切り下げを予想していた。
これは驚きだ。1か月前に、今年の金利引き下げを予想する声は3分の1だった。6か月前なら、多くの投資家は金利引き上げを考えていた。
明確な景気後退も、金融危機もないまま、これほどの変化が起きた。それを説明するのは、基礎的なデータだけではなく、心理的な要因だろう。
1つは、地政学。産業の国有化を支持するジェレミー・コービンがイギリス首相になる可能性。規制の強化を主張するエリザベス・ウォーレンが民主党大統領候補になる可能性。反エスタブリッシュメントの政治集団がヨーロッパでさらに多くの政権を執る可能性。さらに、2020年にドナルド・トランプが再選される可能性。
市場の誰もが知っている行動規範はなく、こうした場合に、投資家は国債を買う。
第2は、連銀そのものだ。パウエルがトランプの金利引き下げ要求に従うか、という政治劇を予想してきた。しかし、それだけではない。金融政策のアプローチが変わったのだ。構造的変化が起きた、と連銀は確信しつつある。人口変動や技術革新により、インフレは長期的に低く維持されるだろう。金利の「中立的な」水準が低下した。
投資家たちが見方を変えるのは当然だ。彼らは、「パウエル・プット」の時代に入った、と考えている。株価の下落を避けるために、連銀は何でもするだろう。この話が1990年代の悪名高い「グリーンスパン・プット」より良い結末を迎えるように希望する。当時、アラン・グリーンスパン議長は世界金融危機の条件を生み出す手伝いをした。
● グリーン・ニュー・ディールと21世紀
The Guardian, Tue 4 Jun 2019
The climate crisis is our third world war.
It needs a bold response
Joseph
Stiglitz
「グリーン・ニュー・ディール」を提唱することは、気候変動危機への対応の緊急性、必要な規模と範囲を示すものだ。大恐慌に対応したF.D.ルーズベルトの「ニュー・ディール」という言葉を選んだのは正しい。しかし、第2次世界大戦のための動員がさらにふさわしい言葉だ。
そんなことができるのか? 財源はあるか? 合意を形成できるか? そのような批判は間違いだ。
正しい財政政策と合意があれば、われわれは実行できる。気候変動による生存の危機は、第3次世界大戦である。勝利しなければならない。第2次世界大戦の間、だれも「戦争する財源はあるか?」と問うことはなかった。
最近の洪水、ハリケーン、森林火災など、その被害はGDPの2%である。健康被害も莫大であり、犠牲者の数はまだ推定もされていない。気候変動との戦いは、正しい財政政策によって実行可能であり、しかも、経済にとって好ましい。「ニュー・ディール」は、最高の成長率と繁栄の共有という、第2次世界大戦後の黄金時代をもたらした。
「グリーン・ニュー・ディール」は需要を刺激し、資源の完全利用とグリーン・エコノミーへの移行で、経済ブームを実現する。トランプは石炭のような過去の産業を刺激し、風力や太陽・エネルギーへの移行をくじいた。
アメリカの失業率は低いと言うが、多くの資源が低雇用もしくは非効率に配置されている。家族の育児・介護のための適切な政策、フレキシブルな労働時間が可能であれば、もっと多くの女性と65歳以上の高齢者が労働市場に参加できる。教育・医療のための適切な政策があれば、インフラや技術への投資があれば、すなわち、真のサプライサイド政策で、経済の生産能力は高まり、気候変動と戦い、適応するための、十分な経済資源を供給できる。
化石燃料への補助金をやめて、クリーン・エネルギーの生産支援に移行させる、といった容易な変更もある。幸い、アメリカのひどい税制を改善する余地は大きい。税制の抜け穴を閉じることは、財源を得て、同時に、経済効率を改善する。国立のグリーン・バンクを創れば、気候変動と戦う民間部門に資金提供できる。
第2次世界大戦の動員は社会を転換した。農業経済、地方の社会が、製造業と都市社会に移行した。女性は解放されて労働市場に参加した。
「グリーン・ニュー・ディール」が、21世紀の革新的なグリーン・エコノミーを実現する。
● ナショナリズム
YaleGlobal, Thursday, June 6, 2019
Goals for Global Society Go Into Retreat
Humphrey
Hawksley
文化の相違と富の格差が大きい、インドとヨーロッパにおける最近の選挙は、価値を共有する「グローバルな社会」という概念が後退し、主権や国民国家が支配的であることを示す新たな証拠となった。
インドのモディは、ヒンドゥー・ナショナリズムを駆使して多数派支配を拡大し、欧州議会選挙では、ポピュリスト政党が、この20年間で得票率を10%から29%まで伸ばした。
ヨーロッパ、南アジア、北東アジアで、交流するナショナリズムがグローバルな安全保障を転換するだろう。トランプとBrexitはNATOを弱めている。EU離脱を進めるイギリスでは、政治家たちがEUを敵や脅威として非難するようになっている。
アメリカはインドとの戦略的な同盟関係を強化し、アジアにおける西側の影響力を維持し、インド洋と南シナ海の安全を確保しようとしている。しかし、インドの選挙で焦点となったのは、隣国パキスタンとの敵対関係だった。
政治家たちが、選挙に勝つため、宗教やナショナリズムに頼って強硬な発言をするほど、アメリカやヨーロッパの調停する影響力は失われていく。
北東アジアでもそうだ。日本と韓国は、ヨーロッパの外で民主主義が繁栄する隣国である。その優れた工業力は、「アジアの世紀」をけん引してきた。権威主義的な中国の影響力が増す中で、東京とソウルがアジアにおける政治・安全保障の同盟形成を指導するのは自然である。アメリカとの現在の2国間同盟を補完するべきだ。この3国同盟は、タイやフィリピンなどを加えて、アジア全体の安全保障同盟に向かう。
しかし、両国政府の関係は、「従軍慰安婦」のような歴史問題で、悪化している。
3地域に共通するのは、1.隣国との敵対関係を重視する。2.富や生活水準にマイナスだという証拠があっても、有権者はナショナリストたちを支持する。
ドイツにとってナショナリズムはホロコーストを、インドにとっては国家分離の大混乱を、北東アジアにとっては太平洋戦争と原子爆弾を意味する。若者たちが歴史を学び、今すぐ新しい戦略を考えるべきだ。
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The Economist May
25th 2019
The great jobs boom
Big Tech and the trade war: Circuit breaker
Climate of fear: How to think about global warming and war
Labour markets: Working it
Farming: A porkalypse now
Theresa May: The bitter end
Bagehot: Double or nothing
Global warming: How climate change can fuel wars
Technology wars: Inglorious isolation
Global markets: Late in the day
Zimbabwe’s currency: A mouthful of zollars
Free exchange: The plaza discord
(コメント) 労働市場に関する特集記事に驚きました。失業率が下がっている。それは景気回復だけでなく、さまざまな労働市場の規制や法律、社会保障の給付厳格化、など、市場機能が改善されたからだ。何より、インターネットによる労働のマッチングが失業者を減らした。不安定で、生活できないような低賃金に縛られている状態は、いつの時代にもあったし、解決するべきだが、労働市場の改善を見失ってはならない。ギグエコノミーは決して重要な割合を占めていない。
この報告とは逆に、市場の機能が脅かされる懸念は、気候変動を放置していることです。世界の脆弱な土地から戦争が広がることを示します。
米中貿易戦争が、技術分野の分断におよぶこと、Huaweiへの制裁を支持する論調も意外でした。他方、世界の資本市場は下降局面を待っています。ジンバブエの通貨、プラザ合意の評価、ともに、現代の迷走の先を示す中身ではない点が残念です。
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IPEの想像力 6/10/19
天安門事件とは何だったのか? ケ小平と趙紫陽の民主化をめぐる方針の対立が背景にあった、という趙紫陽の元側近の声を、NHKの番組は伝えました。
1989年、ゴルバチョフは失敗し、ケ小平は成功した、と、現在の結果からみて、その「政治」は評価されるわけです。天安門事件30周年に多くの市民が集会に参加した香港で、その「一国二制度」が北京からの介入によって無効になるかもしれない。そのような不安が強くなりました。
香港政庁の民主的な選挙をめぐって、大きな反対運動が起きました。2014年、雨傘革命です。かつて「愛国教育」に反対した学生指導者たちが、北京による香港の教育への介入、行政長官や議会の選挙に対する介入に抗議したのです。学生たちは実際に模擬選挙を行い、市民たちに、自分たちの政府を持つべきだ、と集会を開いて熱烈に訴えました。
一部、香港政府から対話を模索する動きはあったものの、香港中心部の占拠を催涙ガスと放水車で解散させました。その後も、中国からの投資やビジネスの影響が強まり、次第に運動家たちを議会から排除してきたようです。市民運動家の間にも、完全な分離・独立を主張する者や、中国本土の民主化に取り組む者など、方針の違いが現れ、選挙における支持も減りつつある、という記事を読みました。
上海から香港への高速鉄道開通にも反対運動がありました。しかし、今回、中国本土に容疑者を送還することを認める条例は、一気に反対運動「反送中」への支持を広げました。BBCやNYTのサイトを見ると、推定100万人の市民が通りを埋めつくす情景に、深い感銘を覚えます。参加者の1人は語っています。・・・中国本土の法律や司法システムは信用できない。恣意的に罪を負わす。政治的な理由で、だれでも送還されることが恐ろしい。人々に沈黙を強いるものだ、と。
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米中貿易戦争の背景には、市場競争というより、中国の「権威主義的」システムに対する不信感があります。
香港は、新しい世界議会なのです。
アメリカや西側諸政府が拒む中国とは、天安門事件や香港の抗議活動から、政府が民衆のエネルギーを吸収しない姿勢です。硬直的な権力が、人々に暴力による沈黙を強いるのです。反対運動を弾圧することによって、多くの才能ある人々が抹殺され、中国を去ってしまうでしょう。
グローバリゼーションは問われています。民主主義はどこにあるのか? 帝国と強権指導者が、グローバルなハイテク企業と組むことで、高い成長率を実現できるのか? 一握りの都市富裕層が成長の果実を独占し、それに反発する人々はポピュリズムに向かい、あるいは、ナショナリズム、人種差別主義、排外主義、宗教指導者などを支持します。
経済圏が国境を超えて貿易や投資の流れを拡大するのであり、社会的・政治的な価値を共有できる豊かな民主主義諸国が、もっと柔軟に、世界の変化の衝撃を吸収する必要があります。それは化石燃料からの離脱や、移民・難民に対するグローバルな合意を制度化する試みとして始まると思います。
次の金融危機は迫っているのに、政府も中央銀行も、従来の政策手段は使えないか、大きな逆効果を生じそうです。
安全保障、社会的な防衛、治安活動、それらを提供する、グローバルな都市化、グローバルな選挙権・発言力を、香港だけでなく、世界が組織しなければなりません。技術革新とともに、雇用と教育に対する権利を、環境に対する十分な配慮を求めています。
市民革命と社会主義革命とが、双方から秩序を作り変えて、米中貿易戦争は終幕に向かうのでしょう。
アニメの好きな日本人は、「風の谷の民主主義」が世界不況によって、静かに、各地で広まることを想像します。
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