IPEの果樹園2019

今週のReview

6/10-15

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スーパースター市場 ・・・トランプのイギリス訪問 ・・・米中の冷戦 ・・・中国と戦うな ・・・ユーロの資本市場同盟 ・・・モディの勝利 ・・・イギリス保守党の党首選 ・・・2つの1989 ・・・金融政策の評価 ・・・トランプの関税 ・・・グリーン・ニュー・ディールと21世紀 ・・・ナショナリズム ・・・アフリカ豚コレラ

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 スーパースター市場

NYT June 1, 2019

The Economics of Rihanna’s Superstardom

By Alan B. Krueger

スウェーデンのアバが“The Winner Takes It All”を発売したのが1980年だった。その年は、また、経済不平等に向かう転換点でもあった。アメリカでは、1980年以降の成長のすべてより、さらに多くの所得を上位10%の家族が得た。全所得の3分の2が、最上位1%のものになった。底辺から90%の人々は、実際、所得が縮小したのだ。

音楽産業を観察することが、スーパースター市場の理解に役立つ。

19世紀後半の経済学者、アルフレッド・マーシャルが、スーパースター経営者と他の人々との所得の差が拡大することを、新しい通信技術、当時の電信によって、説明した。彼らが、その建設的な、あるいは、投機的な才能を一層広い地域に拡大できるからだ。

しかしマーシャルは、専門的な職業にスーパースター効果が適用できるのは限られている、と音楽家の例を挙げた。非常に優れた歌手になる才能は希少であるが、その聴衆の数は限られている、と考えたからだ。

聴衆の規模が拡大できれば、優れた才能がもたらす所得は増大する。スーパースター市場を形成する条件は、規模と特異性である。

しかし、デジタル・レコーディング技術とインターネットの登場により、1990年代以降、レコードの販売による収入が急減した。音楽産業は、音楽を広めたり加工したりする技術の進歩、参入コストの低下で、全体として平等化するだろう。しかし、個々の音楽家の所得は、一層不平等になる。

Spotify3500万曲を提供する。その場合、ファンの嗜好がネットワークによって形成される。友人の助言やラジオ番組による紹介だ。Twitter のフォロワーや, YouTubeFacebookが重要になる。

1980年以降、アメリカはスーパースター経済に移行してきた。音楽産業では、1%の音楽家が全所得の60%を得る。最も裕福なアメリカ人は、ハイテク、金融、大規模小売業から生まれている。最も規模の拡大できる産業だ。

スーパースター企業、Google, Apple and Amazonは、技術革新を大規模に利用している。しかし、その影響は競争を抑圧する恐れがある。彼らは優れた才能ある者を高い給与で集めることができる。また、安い給与で働く外部の生産者に委託する。

都市や州が、最低賃金を引き上げることで、安い給与の労働者の所得を増やし、不平等を緩和することができる。

FT June 2, 2019

Old economists can teach us new tricks

Rana Foroohar


 トランプのイギリス訪問

The Guardian, Sun 2 Jun 2019

The Guardian view on Trump’s state visit: the president is not welcome

Editorial

メイは、世界の指導者の中で最初に、宣誓後のアメリカ大統領を最初に訪問した。あれから2年半がたって、彼女の首相任期の最後に、本当はすべきでない、国賓としてのトランプのイギリス訪問が行われる。

首相は、そのまずい政治判断と強情さにより、3年の在任期間を彩ってきたが、これから3日間の演出は特に恐るべき終幕となるだろう。トランプは、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマに次いで、国賓となる3人目のアメリカ大統領であるが、そもそも彼を招待したのが大失敗であった。UKの深刻な政治危機のさなかに、こうした行事を行うのはとんでもなく無責任だ。

トランプは、平和、民主主義、地球の気候を脅かすデマゴーグである。イギリスの緊密な同盟国で大統領に選ばれた人物を無視することはできない。しかし、彼と、彼の妻、4人の子供を、女王のゲストに迎えることは、その破滅的な政策、クローニズム、専制体制を好む性格に、正当性を与える危険がある。

トランプの虚栄心は、彼を攻撃するものにとってはジョークである。今週、再び、トランプ・ベイビーの大風船がロンドンに現れた。

FT June 2, 2019

There is no justification for the Trump state visit

Vince Cable

特別な儀式をともなう国賓として招待されたアメリカ大統領はごくわずかだ。Brexitの国民投票後に、弱体化したイギリス政府が、アメリカ大統領の虚栄心を満たして、EU市場へのアクセスを失う分、いくらかでもアメリカ市場を有利にしてもらおうと考えている。

トランプに媚を売るのは、珍しいことではない。安倍晋三が特にそうだ。Dデイを祝うマクロンも。しかし、日本国民にとっての利益は明らかでない。

しかしトランプは、イギリスの繁栄に欠かせない、国際ルールや多国間主義を破壊する指導者だ。女性や人種に対する彼の態度は、最低だ。彼が引き起こした中国との貿易戦争で、イギリスは大きな被害をこうむっている。王室と並んでも、彼が世界とイギリスにとって深刻なリスクである事実は変わらない。

The Guardian, Mon 3 Jun 2019

Brexiters beware: Donald Trump will trample all over our sovereignty

Zoe Williams

FT June 3, 2019

Donald Trump deserves a state visit to the UK

イギリスの世論はアメリカ大統領を嫌っている。しかも、トランプが来るのはイギリスの政治危機が極まった時期である。

しかし、イギリス人は正しく歓迎する姿勢を示すべきだ。トランプは、さまざまなセレモニーに加えて、Dデイの75周年記念式典にも参加する。トランプを批判する者は、こうした行事に反対する。しかし国賓を迎えるのは、彼個人ではなく、アメリカという国家に対する姿勢である。エリザベス女王が習近平主席を歓迎するなら、トランプにも当然に敬意を示すべきだ。

確かに、トランプの外交には意見の違いがある。西側で最も論争となるのは、Huaweiの排除などを含む米中対立だ。合理的でない政策なら反対するべきだ。しかし、Huaweiに対するアメリカの主張には十分な根拠がある。また、イギリスでロシアの亡命が暗殺された事件では、アメリカも(EUも)直ちにロシア外交官を追放した。

アメリカとの特別な関係を軽視してはいけない。

NYT June 4, 2019

Mr. Trump Storms the U.K.

By The Editorial Board

暴言やつぶやきは相変わらずだが、2年前ほどの威力はない。衝撃と恐怖は失われた。トランプと並ぶ、小柄なエリザベス女王は、彼とその家族に宮殿を案内して楽しそうだった。似合わない白いネクタイの大統領はにやりとした。後継者もわからないまま政権を去るメイ首相が迎えた、巨額の費用をかけた饗宴だ。

トランプの自慢とは違って、イギリス国民の多くが彼を嫌い、こうした行事を欠席する者もいた。ロンドンでは抗議デモが、おむつをしたトランプ・ベイビーの巨大風船をともなって、彼の異常さにも、むしろ慣れてしまったようだ。

FT June 5, 2019

No disrespect in the Queen’s speech for Donald Trump

Sam Leith


 米中の冷戦

FP JUNE 2, 2019

THE REAL ORIGINS OF THE U.S.-CHINA COLD WAR

BY CHARLES EDEL AND HAL BRANDS

ワシントンは、全体主義体制の影響が海外で拡大していること、また国内で市民を弾圧していることに、どのように対応するべきか? これは、今、私たちが直面している、習近平の中国についての問題だ。しかし、第2次世界大戦後のアメリカも、別の全体主義国家に直面していた。それは冷戦、すなわち、パワー、影響力、グローバル秩序の形をめぐる40年間の競争だった。

北京とワシントンの間で緊張が高まる中、米中の新しい冷戦がはじまる、という不安が大きくなっている。

診断が違えば、処方箋も違う。もしアメリカの行動が不況をもたらせば、ワシントンは北京と対立する行動を避けるようになるだろう。もし習が、米中の衝突コースについて非難すれば、アメリカはおそらく、習の退任を待つか、習を避けて、周りの人間を動かすだろう。しかし、そうではなく、もし中国共産党の権威主義的支配、そして、国際システムをめぐる競争的な2大国が生じる不可避の緊張、その必然的な副産物として、米中対立が起きているなら、アメリカは、この対決が避けられないことを受け入れ、もっと集中的な、同盟諸国との協力的な対抗戦略をとるだろう。

これらの違いを考えるために、冷戦の起源に関する論争へさかのぼることは有益である。歴史家たちは論争してきた。米ソのどちらに冷戦開始の責任はあるのか?

1945-47年、米ソ関係は緊張していたが、第2次世界大戦中の生産的なパートナーシップから、数十年に及ぶ、深刻な地政学的・イデオロギー的な対決となった。その起源に関する歴史家たちの解釈は4つあった。

1に、冷戦の責任はソ連にある、という考えだ。第2次世界大戦後、ヨーロッパやアジアの広大な地域を支配しようとする、ロシアの膨張主義、マルクス=レーニン主義のイデオロギー、スターリンの途方もない偏執狂が働いた。アメリカは、当初、戦時の協力関係を続けることに関心があった。モスクワの凶悪さを理解することができなかった。しかし、1946-47年に、より対決的に姿勢に変わった。それはさらに攻撃的な、一連の行動をソ連に取らせた。

2に、1950年代後半、ベトナム戦争のもたらした幻滅により、リビジョニストたちが従来の解釈に挑戦した。モスクワではなく、ワシントンに責任があった、と。彼らによれば、アメリカは本来的に膨張主義的なパワーであった。経済圏を拡大し、市場資本主義のシステムを広め、世界にその価値観を普及させた。この発想が、スターリンの、東欧に関する優先的な関心を緩衝地帯として求める理由を無視させた。その結果、モスクワは、安全保障を失うか対決か、選択を迫られた。William Appleman Williamsは、「門戸開放が冷戦をもたらした」と主張した。

3の説明は、これら2つの解釈を合わせたものだ。ベトナム戦争とリビジョニストの後、歴史家たちはアメリカが間違いを犯したことを認めた。しかし、冷戦は、避けられない悲劇であった。アメリカとソ連は世界で最強の2大国であり、両国の間にはパワーの真空状態があったからだ。この条件が競争を生んだ。政治システムが異なり、歴史的経験が異なり、どのように安全保障を得るかの方法が違う。それが冷戦となった。

冷戦終結後、ソ連側の資料が公開されたわずかに時期に、新しい証拠から第4の解釈が現れた。John Lewis Gaddisなどの歴史家が、初期の解釈を強化したのだ。すなわち、ソ連が、特に、スターリンが有罪である、と。「スターリンが戦後に目指したものは、彼自身の安全、その体制、国家、イデオロギーの安全だった。しかも、正確に、この順番で。」 あれほど無慈悲な、攻撃的で、信頼できない指導者の下にあるソ連と、アメリカが協力し続けることは不可能だった。スターリンの疑念は解けず、西側が弱いと確信し、アメリカの影響の限界を引こうとする彼の行動は、戦時の同盟関係を終わらせた。

確かに中国とソ連は違う。しかし、もしアメリカが全面的な反撃に出た場合、彼らは敗退するだろう。彼らにとって重要なことは、アメリカが反撃を抑制する形でだけ、攻撃することだ。戦いが限定された条件であれば、アメリカは全力を費やすことがふさわしくないと考える。ワシントンの同盟関係の脆弱な部分を攻撃しても、核戦争の時代に、戦争の危険を冒すことは考えないだろう。

現代の米中関係を、冷戦のリビジョニスト的視点で説明することはない。むしろアメリカは、WTO加盟や市場開放で、中国の台頭を助けてきたのだから。北京の関与を高め、地域やグローバルなレベルで外交に影響することを求めてきた。

リビジョニストの解釈(アメリカの膨張主義)を用いることは、米中関係の悪化と一致しない。それは、中国の姿勢が2008年、2009年に「新しい攻撃性」を示したことで始まった。世界金融危機で、中国がアメリカの弱さを認識したことが重要だった、という研究者もいる。南シナ海、東シナ海など、オバマ政権は中国の姿勢を正そうとした。

習近平の個性や政策に、対立の原因を求める考え方もある。習は、明確に、地域の覇権を求め、一帯一路やAIIBRCEP、中国製造2025、などを推進した。その姿勢はイデオロギー的な対抗でもある。

3の考えは、ポスト・リビジョニストの解釈であり、パワー・シフトと国際条件が米中の対決を強いた、というものだ。中国の過去30年間の成長は前例のないものだった。1998-2014年に、GDP1.9兆ドルから8.3兆ドルに増大した。中国の経済・軍事的パワーの増大が、アメリカの警戒を生んだ。特に、冷戦が終わって、1995-1996年の台湾海峡の危機が、米中双方に明確な軍事的対決姿勢を取らせた。

中国が、他のすべての挑戦国と異なるのは、その政治体制が専制的な一党独裁であることだ。この事実こそ、冷戦の最初の説明で非常に重要な要素であった。中国の支配者たちは、リベラルな価値やリベラルな超大国が、自分たちの安全と関係ないとは確信できないのだ。なぜなら、リベラルなシステムが自分たちの権威を損なうことを恐れるから。

アジア太平洋における安全保障の確立は、単にアメリカと中国とが影響圏を再分割する合意によっては不可能である。地域の防衛体制とその国家の意志が問われる。かつてアメリカが西ベルリンの自由を守るために、戦争を恐れず行動したことで平和は確立された。インド太平洋は、同様に重大な局面にある。

それは、地政学的であると同時に、イデオロギー的な挑戦だ。習近平の中国は、民主主義を弱め、権威主義的な抑圧体制、技術的な高度な管理体制を広めている。ワシントンは、もっと明確に、民主主義を擁護しなければならない。現政権では望めないことだ。新疆におけるイスラム教徒の監視や拘束、再教育キャンプを批判するべきだ。

中国に対するこうした反撃が効果的であるためには、「すべての国家」を集めるアプローチではなく、「すべての社会」を集めるアプローチに依拠するべきである。アメリカは、繁栄する、自由なグローバル・コミュニティーによって支持されたことで、冷戦に勝利した。中国に対してもそうだ。

NYT June 4, 2019

The U.S. and Chinese Presidents Should Go on a Weekend Retreat

By Thomas L. Friedman


 中国と戦うな

FT June 3, 2019

How markets are reacting to the US-China trade war

Gavyn Davies

FT June 3, 2019

Is China about to change the global oil trade?

Nick Butler

PS Jun 3, 2019

Trump’s Trade-War Miscalculation

ZHANG JUN

要するに、アメリカの対中貿易交渉はやり過ぎだ。中国側の法律を変えさせる。Huaweiへの制裁と、Huaweiとの取引をブラックリストに載せて、基本的な技術からも切り離す。

それはHuaweiの利益を損なうが、他の急速に成長するハイテク企業とともに、中国は回復するだろう。そして、世界に対して深刻な結果をもたらす。中国はグローバル・サプライ・チェーンに深く一体化しており、単に取り除けるものではない。14億人の消費市場もそうだ。

アメリカ政府は、中国に対抗策がない、と考えている。ハード・ランディングを避けるしかない、と。それは間違いだ。中国は、アメリカの農産物や飛行機の輸出に報復し、資本規制を強化し、アメリカの財務省証券を売却できる。また、人民元の減価を促せる。

しかし、中国の対応は抑制されている。なぜなら、穏健なアプローチが中国の長期的な利益になるからだ。すなわち、成長を維持し、社会的安定性を保ち、国家統一を強化する。また、さらなる世界経済の混乱を避ける。皮肉なことに、それは、アメリカが要求している、中国の改革にもつながる。

中後港の指導者たちは、資本主義的なグローバリゼーションがすぐに逆転するとは考えていない。アメリカはなお自由市場の最大の推進者だ。しかし、米中は対立する結果として、中国も独自のコア技術に向かうだろう。また、経済発展のために主要な戦略部門を自国に育成する。そのような方針は、中国の改革を不可避とする。特に、知的財産権と効率的な資本市場だ。

中国は対米貿易交渉を拒否するより、むしろ米中貿易の構造的不均衡を是正しようとするだろう。中国もそれを望むからだ。しかし、トランプ政権のように、一方的な中国の輸入増加を求めるのは無神経で、無謀である。中国は段階的な解決を主張しており、世界もそれを支持するだろう。特にアメリカは、中国向けの輸出規制を緩和し、中国からのアメリカ向け投資を推進することだ。

米中間には多くの共通課題がある。気候変動、核拡散の脅威、テロ、貧困、金融市場など。アメリカ政府が、中国との協力の必要性を認める視野と知恵を取り戻すよう望む。

FT June 5, 2019

The looming 100-year US-China conflict

Martin Wolf

アメリカが必要とする、イデオロギー的、軍事的、経済的な敵が、ようやく、ここに見つかった。それが、Bilderberg会合に出席した私の感想だ。

アメリカ大統領には、ナショナリストの、保護主義的なガッツがある。細部は、他の者たちが提供する。その目標は、アメリカの支配。そのための手段は、中国の管理、もしくは、分離である。この対立において、ルールに依拠した多角的世界、グローバル化した経済、国際関係の調和を信じる者は、生き残れない。

米中貿易摩擦について中国政府が発行した報告書は、多くの点で、私には残念だが、正しい。アメリカの中国に対する交渉姿勢は、「力は正義だ」というものだ。アメリカが、米中合意の、判事、裁判官、検察官となる、ことを主張している。

市場開放や知的財産の保護は、周到に交渉すれば、中国の利益になる。しかし、アメリカの論争は、ますます、中国の国家指導経済と統合することを問題にしている。Huaweiへの不安は、安全保障や技術の自立性を問う。リベラルな通商は、「敵との交易」とみなされる。こうしたゼロ・サムの姿勢を、かつてケナンGeorge Kennanが就いていた地位the US state department’s policy planning directorにあるKiron Skinnerが「異なる文明、異なるイデオロギーとの戦い」と主張している。

中国のイデオロギーは、ソ連と同じような意味で、リベラルな民主主義の脅威ではない。右派のデマゴーグの方が危険である。中国の経済・技術における台東を阻む試みは必ず失敗する。むしろ、それが中国国民に強い敵意を生じる。長期的には、ますます繁栄し、教育を受けた人々が、自分たちの生活をコントロールしたいという要求が強まる。しかし、もし中国の自然な台頭を脅かされるなら、それは実現する見込みが減るのだ。

中国の台頭は、西側の経済衰退の重要な原因ではない。むしろ国内エリートたちの無関心、無能力が原因だ。知的財産の窃盗を責めることは、その大部分が、支配的な技術に追いつく経済なら必ず試みていることだ。そもそも、人類のわずか4%の支配をその他の人々に押し付けるのは、不当な主張である。

それは、中国のやることや主張をすべて受け入れる、という意味ではない。西側にとって最善の道は、中国が自由や民主主義の価値を受け入れ、ルールに依拠した多国間協調、グローバルな協力に参加することだ。今日、多くの中国人がそれを受け入れるだろう。

中国の台頭を管理するには、リベラルな諸価値を共有する諸国が緊密に協力し、中国に敬意を持って対応することだ。しかしアメリカ政府は、米中貿易戦争をはじめ、同盟諸国を攻撃し、戦後のアメリカが指導した国際秩序を破壊している。

PS Jun 5, 2019

What to Do About China?

J. BRADFORD DELONG

アメリカのすべての政治的立場で、中国に対する強硬姿勢が合意されている。アメリカは相対的な地位を維持し、中国を後退させるべきだ、と。

それはアメリカの課題に対する間違ったアプローチである。短い期間(1-4年)では、関税、技術の使用禁止、その他で、アメリカは中国の大きな損害を与えることができる。しかし、アメリカにも有害であり、最終的には、中国の痛みの方が少ない。中国政府は売れなくなった中国製品を購入し、失業や社会不安を抑える。他方、アメリカ政府は、中国市場を失って発生する失業者に、同じことができない。

中期的には(5-10年)、中国がアメリカのサプライヤーや市場に代わるものをヨーロッパと日本に見出し、アメリカの問題が増大する。それゆえ、アメリカの「強硬姿勢」は、アメリカの相対的な産業衰退を加速するだろう。そして中国に準覇権国の地位を早く明け渡す。アメリカに、地政学的、軍事的な選択肢は少ない。トランプ政権の2年半の行動が、中国を封じ込める他国の協力を得られない状態にした。

トランプが2016年に予想外の勝利をした後、自由貿易やソフトパワーを主張する議会共和党が、トランプ政権を制限するはずだった。しかし、彼らはトランプのカルト支持者たちに同調し、ごますりに徹している。

トランプが、代理戦争を含めて、どのような軍事的選択肢を持つか、誰にもわからない。21世紀の冷戦を本当に理解している者はいない。クラウゼヴィッツがかつて述べたように、大国間の紛争は「他の手段による政治」である。

では、アメリカは中国にどのように対応すべきか?

まず、アメリカは中国よりも有能で、汚職のない政府、健全な民主主義と法の支配があることを示す。世界中から労働者やアイデアを高報酬で歓迎し、ハイテク部門を改善する。国民医療保険、インフラ投資、新しいエネルギーの開発に投資する。超富裕層の政治的影響力を制限し、市民の生活水準を前世代より改善し、成長の果実をもっと平等に分配する。

要するに、アメリカは、2000年にアル・ゴアが勝利し、ヒラリー・クリントンがトランプに勝利し、共和党が愛国心を放棄しなかった場合の、アメリカになるのだ。世界の敬意を集めて、アメリカ外交は建設的な、戦略的にも健全な、中国との合意を結ぶ。

今世紀の地政学的課題に応えるには、海外ではなく、国内を見ることだ。

FT June 6, 2019

America is surrendering the moral high ground over Huawei

Jacob Lew

FT June 6, 2019

China’s discreet option on trade

Maximilian Kärnfelt

NYT June 6, 2019

Who Will Survive the Trade War?

By Margaret O’Mara

FP JUNE 6, 2019

Vietnam Can’t Be the Next China

BY BENNETT MURRAY


 ユーロの資本市場同盟

FT June 2, 2019

How not to select the next European Central Bank president

Wolfgang Münchau

FT June 2, 2019

The EU needs to pick up the pace on capital markets union

ユーロ圏の資本市場同盟(CMU)はまだ多くの問題が残されている。ヨーロッパの分断された債券・株式市場を統合することは、企業の資金調達源を多様化し、大陸規模の投資チャンネルとなる。それはリスク分散と自国依存の削減につながる。企業間の借り入れコストは均等化するだろう。

CMUBrexitにも関係する。UKの流動的な資本市場がEU金融のハブとして機能することがなくなるからだ。CMU実現の緊急性がさらに高まった。


 モディの勝利

FT June 2, 2019

Social division will only erase India’s infrastructural gains

Devesh Kapur

モディNarendra Modi2期目の首相を務めるが、そのインドでは、インフラの統合化と、社会的な分裂の、両方が進んでいる。

インドには膨大な市場があるが、実際には、深く分断されている。それは亜大陸の規模だけでなく、およそ60万の村落をつなぐことができなかったからだ。この事態は急速に改善されている。

インドは、中国の成功モデルに倣って、輸送や通信のインフラ投資を進めている。世界最大の生体認証システム、Aadhaarが、市民と国家との関係を強めた。ついに、財・サービスの単一市場が登場するだろう。

しかし、社会的なコネクションは改善していない。特に、最大のマイノリティーであるイスラム教徒や、その他の低カーストの人々は、選挙によって強まったアイデンティティー政治のせいで、分断化に苦しんでいる。

選挙後、ヒンドゥー至上主義は示していないが、モディの姿勢が重要だ。

FP JUNE 5, 2019

The Time Is Right for Modi to Make Peace with Pakistan

BY MOSHARRAF ZAIDI

FT June 6, 2019

Foreign investors should be wary of the seductive India story

Henny Sender


 イギリス保守党の党首選

FT June 2, 2019

Lessons in top office politics from the Tory leadership race

Pilita Clark

The Guardian, Mon 3 Jun 2019

The wrangling to become Tory leader is turning Britain into an oligarchy

Simon Jenkins

ドナルド・トランプは43%、もしくは6300万人のアメリカ人によって選ばれた。しかし、イギリスの指導者は、わずか124000人の保守党員が選ぶ。しかも彼らは、314人の保守党議員の決めた2人の候補者から選ぶ。これは寡頭制支配である。もし彼らがEU離脱の「国民投票を守れ」と執着するなら、首相も国民投票にすればどうか?

しかし、議会の政党が政府を組織するほうが一般にうまく機能する。現在の問題は、EUに関する国民投票が議会の安定性を破壊したことだ。保守党は、頭では理解しているように、ソフトなBrexit案を交渉するために、メイを辞任させた。しかし、彼らは感情に支配されて、豚が空を飛ぶと信じ、その後継者を選ぶだろう。13人の候補者から残るのは、強硬派のボリス・ジョンソンとマイケル・ゴーブである。

ジョンソンがハードBrexitを捨てない限り、彼がメイに示したように、保守党は彼を裏切って苦しめる。議会は合意なしのBrexitを繰り返し否定したから、ジョンソンの信任は得られない。つまり、分裂した総選挙になるわけだ。

保守党、労働党の内紛を前提すれば、単独過半数を得る政党はなく、自民党やスコットランド国民党との連立政権になるだろう。国民投票、保守党の寡頭制、そして、連立政権を経て、ようやく、Brexitは現実的な道へ進む。2度目の国民投票に合意するか、メイの合意案を復活させる。

SPIEGEL ONLINE 06/04/2019

A Nixon in China Moment?

What Boris Johnson Could Mean for Brexit

By Jörg Schindler in London

ジョンソンは保守党員に愛されている。彼は、悪ふざけ、スキャンダル、虚言で有名だ。

ブリュッセルにとって、ジョンソンがイギリス首相になるには最悪のシナリオだ。しかし、イギリスの政治はそれを気にしない。

ジョンソンが首相になっても、議会は彼の一方的な合意なしの離脱を認めない。それは、直ちに不信任案の可決につながる。ジョンソンは総選挙か、第2の国民投票を求めるしかない。

ロンドンでは、ジョンソンが「中国訪問のニクソン・ショック」になる可能性が語られている。Brexit強硬派のジョンソンが、Brexitを止めるのだ。

FT June 6, 2019

The truth and lies of Donald Trump and Boris Johnson

Philip Stephens


(後半へ続く)