IPEの果樹園2019

今週のReview

6/3-8

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民主主義と選挙 ・・・Brexitとファラージ ・・・欧州議会選挙 ・・・モディの勝利 ・・・アメリカの貿易戦争 ・・・安倍外交と日銀 ・・・ドラギの遺産 ・・・現代貨幣理論(MMT) ・・・新しいグローバル・ガバナンス

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 民主主義と選挙

NYT May 24, 2019

How Trump Wins Next Year

By Bret Stephens

6億人以上のインド人が、この6週間に投票し、世界最大の民主的選挙が行われた。ドナルド・トランプが勝った。

1週間前、数百万人のオーストラリア人が投票した。ドナルド・トランプが勝った。

EU加盟諸国の市民たちが、おおむね効果のない、しかし、シンボリックに重要な欧州議会の選挙を行っている。ここでも、トランプ主義が領土を得るだろう。

フィリピンではドゥテルテが、イスラエルではネタニヤフが、ブラジルではボルソナーロが、イタリアではサルヴィーニが勝利した。そして、過去の趨勢が正しければ、イギリス保守党でもっともトランプ的な、ボリス・ジョンソンがテリーザ・メイを継いでイギリス首相になるだろう。

ここに共通するのは、単に右派ポピュリズムの脅威ではない。それは、われわれのイデオロギーに対する侮辱である。すなわち、自国生まれより移民を重視するイデオロギー。国民的な利益やローカルな利益より、グローバルな、あるいは、トランスナショナルな利益を重視するイデオロギー。多数派よりも、人種、エスニック、性差のマイノリティーを重視するイデオロギー。ノーマルな者より、罪深い者を重視するイデオロギー。

それは、長期的な、見えない善のために、直ちに、目に見える代価を支払え、と言う者たちへの犯行である。温暖化対策として、マクロンの示したガソリン価格引き上げに、反対した「黄色いベスト」のスローガンがそうだ。「マクロンが心配するのは地球の終わりだが、われわれは月末の支払いが心配だ。」

だから私は、トランプが経済の崩壊や外交ショックを招いても、来年、再選されるのではないか、と思う。もちろん、トランプ政権は毎日のように恥知らずなカーニバルを示している。保守派は、99%の人々よりも1%の富裕層を重視し、庶民ではなく大企業に奉仕する点で、リベラルや進歩派よりも罪深い。

しかし、左派には一層深刻な問題がある。左派のアプローチは、政治を利己的な行動に反対することとみなす。気候変動や、移民の問題でも、柔軟さを欠く。それは、道義的な優位の感情に従って、政治的敗北の山を築く。

この30年間で、最も成功した中道左派の指導者は、ビル・クリントンとトニー・ブレアであった。彼らは自由市場の利益を信じ、法と秩序の重要さ、西側の価値の優位、庶民のモラルを健全な意味で尊重していた。この枠組みでは、リベラルが勝利したのだ。

しかし、トランプのような人物と闘わなかった。

アメリカで、トランプを倒せる人物を見つけることだ。トランプ主義者たちの勝利は、デマゴギーや偏見によるものだ。文化、社会、経済の不確実さがポピュリスト的な不安を高める。そして、トランプたちの競争相手には、魅力がない。


 Brexitとファラージ

NYT May 28, 2019

Nigel Farage Is the Most Dangerous Man in Britain

By Richard Seymour

ナイジェル・ファラージは、人間の姿をしたイギリス危機である。UKIPを率いて保守党支持層を破壊し、離脱派の勝利を得た。今また、Brexit党を率いて復活し、欧州議会選挙で躍進した。

それは最高のタイミングだった。庶民の生活水準と賃金が低下し、議会やメディアへの信頼は底にあった。

彼は矛盾した存在だ。資本主義的ポピュリストである。金融街でキャリアを積んだが、浮動的な金融資本主義によって打ちのめされた人々から支持を得ている。彼の人種差別は、特に東欧の移民労働者に向けられている。しかし、労働者階級が支持基盤であるとは限らない。多くの高齢者、白人労働者、中枢から見放された地方の人々から支持を集めている。

ファラージは、保守党のような政党組織を築かない。イタリアの5つ星運動に刺激されて、インターネットにおけるシェアリングや投票を基礎にする「デジタル・プラットフォーム」を唱えている。伝統的なUKIPを捨てて、クラウド・ファンディング、政治の起業家に徹している。

ソーシャル・メディアによるゲーム、関心の株式市場で、敏捷に動き回る。クリックを集めて、敵を倒す。議会はあまりにも弱く、信頼を失っているから、こうした攻撃が「民主主義」の復活に見える。

まるでシティの金融取引だ。彼は政治の危機を、自分のイメージで作り変え、利益を得ている。


 モディの勝利

FP MAY 25, 2019

The Modi Mystery

BY SUMIT GANGULY, HIMANSHU JHA, RAHUL MUKHERJI

多くの点で、モディNarendra Modiは政権を続けるべきではなかった。失業率は高く(データの公表を拒んでいる)、高額紙幣の廃貨は国民の大多数に大きな苦痛を与えた。税制改革も中小企業を破滅させた。

それにもかかわらず市民たちはモディに次期政権をゆだねた。インドでは、政権党が敗北するのが普通であるから、その意味でもこの勝利は注目に値する。

投票率は通常よりも高い67.11%であった。与党BJP374%を得た。最大野党の国民会議派は、わずか19.5%であり、この20年間で最低だ。

この差は選挙戦術の結果である。モディは、早速、テレビの演説で、政教分離を無意味だと宣言した。選挙戦を通じて、モディは、非合法移民、安全保障、テロリズムに関して発言し、国民の不安を刺激した。

他方、会議派は3つの失敗を犯した。1.モディに代わる指導者を示さなかった。ガンディーRahul Gandhiは、家柄はあっても、政治的な知恵とカリスマ性を欠いた。2.地方政党との連携に失敗した。3.最近、州選挙で勝利したRajasthan and Madhya Pradeshで、勝利できなかった。

それ以上に、会議派は、モディとBJPが示すヒンドゥー・ナショナリズムを倒す、多元的で世俗的な、政教分離主義の魅力的なインドを示せなかった。インドの政教分離主義とは、国家と宗教との完全な分離を求める西側と異なり、すべての信仰に平等な敬意を払うことだ。

BJPは、国家と宗教との関係を異なる意味に理解している。より偏狭な、ヒンドゥー教だけのインドを主張し、イスラム教徒は単なる準市民だ。彼らの母国はバングラデシュやパキスタンである。西ベンガル州では、非合法移民問題を利用して、18議席も取った。

今後数年で、議会で多数の占める与党と、反対派の分裂状態のため、BJPがヒンドゥー・ナショナリズムの制度化を進めるだろう。インドの多元主義を守る、新しい指導者が必要だ。


 アメリカの貿易戦争

NYT May 26, 2019

Donald Trump’s Great Patriotic Wars

By Michelle Cottle

トランプ政権は貿易戦争の新しいスローガンを国民に示し始めた。愛国心は犠牲を求める。

関税戦争に地方で支持が低下したことを意識して、ツイッターに「愛国者農民」が最大の勝者になる、と書いた。そのときまで、トランプは農民への補助金を用意した。160億ドルだ。「大きな関税を支払うのは、中国やその他のアメリカとビジネスをする者たちだ。」

彼はいつも、経済や文化の変化について、不安に駆られるアメリカ人を救う大胆な、実行できそうにない、選択をする。トランプは、アメリカを再び偉大にするMAGA、と公約した。それは決して未来ではない。より快適な過去なのだ。

トランプに解決できない問題はない。すぐに、痛みもなく、解決できる、と自慢してきた。オバマケアをやめて、もっと良いものに替える。製造業の最盛期を取り戻す。ガソリン価格を下げる。麻薬問題を終わらせる。中国と合意する。どれも簡単だ。そして、巨大な、美しい壁を建設して、しかも、その費用をメキシコ人が支払い、文化的・経済的な安全性を確立する。そんなことは、ケーキを1切れ食べるように簡単だ。

これらは夢であり、実現したものはない。

すばらしい、容易に勝てる、貿易戦争もそうだ。まったく中身はない。苦しむのは農民だけではない。製造業も高いコストを支払う。不安定化が市場を損なう。それでもトランプ政権の新しいスローガンは支持者の怒りを高め、批判の声を抑える。国家のプライドを刺激して、彼は支持者たちに、外国の競争相手や国内のグローバリストたちと、政府が闘っている、と宣伝する。

トランプは、こうした不可能な約束を振りまく性格を改めない。アメリカ産業を救済することを彼は演説し続けている。「昔を思い出そう。われわれが作っていたのだ。」 そして大統領は、NAFTAのあと、何千、何万の工場が閉鎖された、と嘆く。「全て戻ってくるぞ!」と、勝利を叫ぶ。

本当に? 大統領、あなたはそう思うのか?

PS May 27, 2019

How Will the US-China Trade War End?

ANDREW SHENG , XIAO GENG

貿易戦争は、まだ大きな痛みをもたらしていないようだ。なぜなら金融市場は中央銀行がQEで自分たちを救済してくれると仮定しているからだ(おそらく間違いであるが)。しかし、117か月間も連続して景気拡大が続いていることは、歴史的な平均は48カ月であるから、アメリカ経済がまもなく痛みのともなう景気後退に入ることを意味している。それはトランプの貿易戦争が引き金になるだろう。たぶん、そのときに米中の休戦がなるだろう。

PS May 27, 2019

Japan Then, China Now

STEPHEN S. ROACH

「政府は偽造品やコピー商品を許さない。それはわれわれの未来を盗むものだ。もはや自由貿易ではない。」 ロナルド・レーガン大統領が日本についてそう言ったのは、19859月にプラザ合意が成立した後だ。今、多くの点でよく似たことが起き、1980年代の同じ映画を見ているような気がする。ただし、ハリウッド映画ではなくリアリティー番組であり、日本に代わって新しい悪役がいる。

1980年代、日本はアメリカの最大の経済的脅威だった。知的財産を盗んだという告発だけでなく、通貨価値の操作、国家が支援する産業政策、アメリカ製造業の空洞化、2国間の貿易不均衡があまりにも拡大していた。アメリカが不満を示すと、日本はそれを受け入れたが、大きな代償を支払った。それは、経済停滞とデフレの、およそ30年に及ぶ「失われた時代」だ。

日本と中国には、反対された重商主義だけでなく、他の類似点がある。両国は、アメリカが自国の経済問題に対するスケープゴートを外国に求める、その不幸な習慣の犠牲者であった。1980年代の日本たたきと同じく、現在の中国たたきでも、それはアメリカで、マクロ経済の不均衡が膨張していることから生じた。30年の時を隔てて、アメリカの国内貯蓄が急激に減少し、経常収支や貿易収支の赤字が膨らみ、アジアの経済的大国に紛争を仕掛ける舞台ができた。

1981年に、レーガンが政権に就いたとき、国内貯蓄率は7.8%で、経常収支は基本的に均衡していた。しかし2年半で、大幅減税により、貯蓄率は3.7%に急落した。経常収支も、財の貿易も、継続して赤字になっていた。つまり、アメリカの貿易問題とは、まさに自作自演であった。

しかし、レーガン政権はそれを否定し、日本を標的にした。日本は、1980年代前半、アメリカの貿易赤字の48%を占めたからだ。日本は、不公正で、非合法な貿易慣行を責められたが、当時の通商代表は、若きライトハイザーRobert Lighthizerであった。

2017年に、ドナルド・トランプが大統領になったときは、レーガンと違って、豊富な国内貯蓄がなかった。しかし、同様に、大幅減税を行った。今度は、「アメリカを再び偉大にする」ためだ。その結果は、景気循環による民間貯蓄の増加を打ち消して、連邦財政の大幅赤字になった。国内貯蓄率は2.8%に低下し、国際収支は深刻な赤字になった。

中国は、1980年代の日本であった。2018年のアメリカの貿易赤字は、その48%が中国に対してであった。ただし、現在はグローバル・サプライ・チェーンがあるため、米中貿易の赤字の35-40%は中国の外から輸入され、組み立てられたものだ。それゆえ中国のシェアは日本より小さい。

今の中国たたきも、アメリカのマクロ経済不均衡と関係がある。アメリカの国内貯蓄が増えなければ、中国からの輸入が、他の貿易相手国に移るだけだ。世界中のコストの高い国に移転され、アメリカの消費者は増税されたのと同じ影響を受ける。

こうしてわれわれはアメリカの同じ映画を見ている。他国を叩いて、今度は日本ではなく中国だが、財政の限度を守る気はない。ただし、映画の結末は非常に異なるかもしれない。


 安倍外交と日銀

FT May 27, 2019

Shinzo Abe takes his Donald Trump charm offensive the extra mile

Demetri Sevastopulo

日本の首相、安倍晋三ほどアメリカ大統領を喜ばせるのがうまい政治指導者はいないだろう。

トランプは2016年の選挙戦で、しばしば日本を攻撃していたが、その日本に着いたトランプは、「日の昇る国に戻ってきた」と上機嫌だった。

即位したばかりの天皇成仁の迎える最初の国賓であり、ゴルフを一緒にして、国技館で大相撲を見て、アメリカ大統領杯を優勝力士に与えた。新しい天皇の時代に最初の国賓となることを、多くの指導者は喜ぶはずだ。そして、日本にはトランプの期限を取る多くの懸念材料がある。

エア・フォース・ワンから東京を見れば、スカイツリーは星条旗の色に輝いているのを観ることができた。マクロン大統領やメルケル首相に、トランプの接待コンテストで、安倍は勝利した。

「エンターテインメント外交」と呼んで日本の新聞は騒いだが、批判する声もあった。安倍はトランプの怒りを回避できたが、貿易摩擦を有利に解決したわけではない。

FT May 28, 2019

Japan’s dormant central bank may have to rouse itself once more

Takuji Okubo

日銀にはまだ何ができるか?

日銀は、1999年、近代史で最初にゼロ金利を採用した中央銀行である。2001年に量的緩和、2010年にETFで株式を購入し始めた。2016年後半、日銀はイールドカーブを管理して長期金利を目標にする新しい分野を築いた。

しかし、この2年間は休眠状態であった。世界経済が好調であったし、日銀は一層の緩和が持つ深刻な副作用を認識していたからだ。すでに日本の金融機関は日銀の政策を批判している。マイナス金利は銀行のマージンを失わせた。日銀のETF保有額は全体の80%に達し、株式市場をゆがめている。

しかし、平和なときは終わった。日銀は行動に備えておくべきだ。

日本の輸出が、特にアジア向けで、急速に減少してきた。民間消費や投資も減少している。日銀にはまだ何ができるか?

マイナス金利をさらに進めるとしたら、日本の銀行システムに対する保護が必要だ。その活力を失わせる恐れがある。1つのメカニズムは、ECBが行った「TLTRO」(貸出条件付きの流動性供給オペ)である。日銀が、ゼロコストの融資を行う。それを銀行は企業や家計に融資するのだ。

それでも銀行の利潤は低いままであり、自己資本も不足している。日銀は流通市場で銀行の発行する劣後債を購入する計画を検討すべきだ。10年前に行ったことだ。そのような銀行への資本供給には批判がある。しかし、そうしなければ破壊的な円高が進む。これまで積み重ねた、デフレからの脱却は無駄になってしまう。


 ドラギの遺産

FT May 29, 2019

Mario Draghi’s policy bazooka may be his most precious legacy

Megan Greene

多くのアナリストによれば、マリオ・ドラギの最大の遺産は、彼がユーロを守るためにECBは「何でもする」と発表したことだ。

しかし、それから何年かたって、考えてみると、もっと重要な遺産があるとわかった。TLTROsとよばれる低コストローンの特別プログラムだ(発音は“teltrows”)。

ECBには、銀行が預金を保有している。ECBは、マイナス金利で銀行に融資し、この銀行の預金を増やすのだ。市場金利を下回る、望みのマイナス金利を付けることができる。それが事実上、銀行への補助金だ。他方で、銀行は市場金利や、マイナス金利で民間に融資できる。ECBは、貯蓄を促すために、預金金利を上げることもできる。

それは資源配分をゆがめる副作用や、ECBの資産を大きく損なう危険もある。もしECBが資産を失えば、デフォルトすることはないが、政府は資本増強をすることになり、政治的な反対があるだろう。次に不況やユーロ危機が起きるなら、こうしたことを考慮して、ECBTLTROsを使う決断をするだろう。


 現代貨幣理論(MMT

PS May 27, 2019

Modern Monetary Inevitabilities

ROBERT DUGGER

現代貨幣理論MMTにとって最も重要な問題は、その政治的条件を明確にすることだ。

MMTは、インフレではなくデフレが、中央銀行の主要な関心になった、という新しい認識から生まれた。アメリカのような、高債務、高赤字経済において、デフレは特に深刻な脅威である。なぜなら、デフレが消費を減らし、債務者の不安を強めるからだ。デフレの圧力は支出を減らし、株価を下げ、全般的な債務の縮小を引き起こす。

連銀が2%のインフレ目標を達成できないことは、経済のディスインフレ傾向を抑える手段が連銀にないことを意味する。産業の集中、労働者の交渉力低下、分配の不平等化、高齢化、インフラや気候変動に対する投資不足、技術革新による失業、など。他方で、アメリカ政治は、教育など、長期の成長を促す投資より、富裕層への減税のような、戦略を欠くものになっている。

MMTが必要な変化を示す。政府は自国通貨で必要なだけ投資を行い、中央銀行はそれを必要なだけ国債購入により融資できる。受け入れられないような高いインフレを生じない限り。

1940年代初め、アメリカは第2次世界大戦に参加し、戦争に勝つための最優先課題に政治的合意があった。連銀はMP3を実行した。アレクサンダー・ハミルトンは、1781年、国家の富を追加するための国債は「過度の債務」ではない、と答えた。

今も、アメリカの将来世代から見て、持続的成長をもたらす高速鉄道建設を融資するなら、MMTを実行できる。


 新しいグローバル・ガバナンス

PS May 29, 2019

Closing the Global Governance Gap

KEMAL DERVIŞ

技術革新の波及が社会・政治変化と進歩、経済成長をもたらす。グーテンベルグの印刷術がそうだった。教会が独占してきたコミュニケーションを民主化し、印刷術を禁止したオスマントルコは衰退した。その後の蒸気機関、鉄道などもそうだ。

現在の技術革新も体制を転換させる力がある。新技術とその社会・政治・経済的な帰結を効果的に統治する方法を発見することが、21世紀の最大の課題である。

技術革新の中核を占めるのは、AI、インターネットと、それを補完するサイバー・アプリ、バイオテクノロジー、ビッグデータである。これらはグローバル・バリュー・チェーンを確立してグローバリゼーションを拡大し、情報の急速な拡散、金融フローの増大を導いた。また、その規模の経済は、Amazon, Huawei, and Facebookのように、多くの分野で企業収益をほとんどの国家のGDPよりも大きくした。

政治制度はこの展開に遅れている。普通の市民たちによる革命がエジプトのムバラク大統領を失脚させたが、それは必ずしも民主主義を強化しなかった。デジタル・プラットフォームは独裁体制やテロリストたちに悪用され、でたらめなニュースが流れた。選挙過程に介入され、深刻な分断と混乱を社会にもたらした。

また、グローバル企業による準独占もしくは独占状態のパワーは、低税率の土地へ利潤を移す能力とともに、各国の規制や政府の力を弱めた。

テクノロジーと結びつく公共財の「最も弱いリンク」が、さまざまな問題を生じている。たった1つか少数の国が従わないことで、すべての国に影響する問題を解決する集団的な努力は破壊されてしまう。たとえば、企業による税回避、サイバー犯罪、核拡散、テロ組織とその資金調達、伝染病だ。グローバル・ガバナンスは価値ある公共財である。

「囚人のジレンマ」を解決するには、多次元・多チャンネルのガバナンスを築くべきだ。多次元ガバナンスは、たとえば、EUが実現している。近年、ナショナリストやEUに懐疑的なポピュリストの勢力が増大したが、欧州議会選挙はヨーロッパ規模の政治空間をもたらした。ナショナリスト政党がある一方で、親EUの諸政党が投票の3分の2以上を得ている。

EUの成功が意味するのは、補完性の原理に対する要求が強いことだ。政策の決定を、効果的な実施に合わせて、低レベルの政治単位にゆだねる。他方で、小国はグローバルな大国や大企業に対して、より大きな多国間の構造に依拠することができる。多国間の協力と、国家主権の譲渡は、効果的なグローバル公共財を供給するために必要だ。

このアプローチを補完するものとして、多チャンネルのガバナンスが必要だ。すなわち、非政府の、領土に縛られないガバナンスである。Liav Orgadは、「クラウド・コミュニティー」の確立を呼びかけている。グローバルなレベルを含めて、デジタル・アイデンティティーと電子投票を行う集団だ。「ブロックチェーン」技術を用いれば、政府とは独立に、国連がアイデンティティーを付与することも可能になる。

グローバル投票は、示唆的な意味を持つだけで、各国の主権を否定するものではない。しかし、政府への圧力になるだろう。この試みにも、意見の妥協よりも両極化を促し、小国の市民が影響を持たない、などの欠陥がある。それでも、多くの若者たちはグローバルな思考を受け入れている。

技術革新や市場の変化を社会に「埋め込む」ための多次元・多チャンネル型ガバナンスが、これから起きる変化を吸収するもっとも大きなチャンスを有する。

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The Economist May 18th 2019

A new kind of cold war

Fiscal policy: Cocked and ready

The EU elections: Changing parliamentary perspectives

China and America: A new kind of cold war

Bagehot: The return of Mr. Brexit

Chinese business: The daughter rose in the East

Free exchange: Out there

(コメント) 米中貿易戦争を超えて、アメリカは中国を世界市場から遮断する、と決めたように見えます。これをどのように理解するべきか? しかし特集記事の要点は、私にはわかりにくい、失望するものでした。

欧州議会選挙も終わり、破滅でもなく、希望でもなく、長い政治論争が始まったようです。Brexitにおとらぬ紛糾と醜態を示すことも考えられます。ファラージやサルヴィーニは既存政治を破壊しつくす意欲満々です。

しかし、中身に感心したのは、中国の女性実業家・富豪が多いことと、Amazonのベゾスが月への集団移住計画を発表したことです。

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IPEの想像力 6/3/19

The Economist May 18th 2019の特集記事は、アメリカが示す警戒感を認め、中国との衝突が避けられないことを示します。それは、単に中国が追いついたからではなく、中国の追いつき方が受け入れられないものだからです。

すなわち、1.産業スパイ、国有企業への補助金、企業買収・合併、技術や情報を国家が組織的に盗むこと、2.情報通信技術をめぐる安全保障上の妥協できない疑念、3.民主化を拒む一党支配体制、監視国家を強化し、アジアにおける覇権を目指し、アメリカの軍事的な関与を排除する攻撃的姿勢に転じたこと、がそうです。

アメリカ、もしくは、西側の同盟諸国は、世界市場に包摂することで、中国が市場による成長を実現し、政治や社会の改革を受け入れるよう促すつもりでした。それは失敗だった、とアメリカは考えます。

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しかし、民主主義も資本主義も、深く動揺し、改革の要求にさらされている時代です。米中の対立が、グローバルな秩序の構築に向けて積極的な条件になればよい、と私は思います。

IPEの講義で、受講生たちに話しました。国際秩序は、資本の空間編成、長期変動として、技術革新の波及と、その背後で進む構造変化、分配の対立を反映する、と。そのように考えるなら、米中貿易戦争は、違った視点から理解できるでしょう。

技術革新と貿易パターンが分配問題として関係するのは、特殊要素説です。「石油の呪い」に代表されるように、その国のガバナンスが構造変化の諸対立を吸収し、雇用や分配を新しいパターンに移行させる能力が問われます。

そして、技術革新の波及という意味では、二重経済とルイス・モデルが重要です。生産性が高まる部門に労働力や生産資源が移動することで、高い成長率が実現します。世界には、常に、新しい成長の極が生まれ続けるのです。

米中貿易戦争が、世界経済の成長を組織するために優位を争うであれば、軍事的な脅威ではなく、市場統合を活かして、互いに参加する企業や諸国の同意を集めるために、最も貧しい地域や人々にも、多くの機会を提供する開放的な競争を呼びかけることでしょう。

1.製品を分解し、その技術を取り入れることは、いずれの企業でも研究・開発の基本でしょう。ある意味、国家の諜報活動もそうです。しかし、それらについて、守るべきルールがあり、企業に与える特許制度がグローバルに合意されねばなりません。その基本は、グローバル社会にとって望ましい、公平な競争条件を実現する、ということです。

2.情報通信システムが(金融システムや宇宙開発と並んで)グローバルな性格を持つのは当然です。それはアメリカか中国か、と問う冷戦にするべきではないでしょう。情報通信技術の主要企業と国家は協力し、市場だけでなく、国家の安全保障においても十分な制度を確立することです。

3.ある意味では、民主化と「一党独裁」とは矛盾せず、「監視国家」とも矛盾しません。公的秩序に対する信頼を高め、脱税や違反行為を取り締まること、積極的な社会変化と安定した秩序を両立させることは、政治的な価値が何であれ、その融合した政治形態が模索され、共有されるからです。

技術革新が波及し、サプライ・チェーンが境界を越えて広がる世界を、どのように実現するのか。一方は、市場統合と「資本」のロジックで。他方は、社会的な合意と正義・政治のルールで。

これらは一致しませんが、必ずしも対立するばかりではありません。大国間の覇権争いという形で、何か、優れた答えを出せると思うのは深刻な間違いです。

富や権力に固執しない、柔軟な社会に生きる人々。あるいは、それらが急速に拡大することで自由を確保できる時代。アメリカも、中国も、現代の冷戦を、自国の政治経済秩序の延長として戦うのでしょう。その善良な部分が勝利するために、軍事的な戦争は不要です。

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朝日新聞の付録『GLOBE』。

イエメンの内戦と食糧危機を報道する写真に目が留まりました。食料は意外なほど売店に積んである。でも外から見つめる親子は店に入れない。

「出自」に支配される社会、AIによる監視社会がなぜ生まれるのか、ドイツの本と小説が紹介されています。

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