IPEの果樹園2019

今週のReview

5/27-6/1

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米中貿易戦争の悪化 ・・・Huawei制裁 ・・・ボルトンとバノン ・・・ボリス・ジョンソンのBrexit ・・・金融市場・インフラ投資・電気自動車 ・・・ギリシャとハゲタカ資本主義 ・・・人の移動と欧州議会選挙 ・・・モディの勝利とポスト真実の時代 ・・・イランの正常化交渉 ・・・デフレからインフレ再現

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 米中貿易戦争の悪化

FT May 18, 2019

US-China trade war: who will blink first?

Sam Fleming and James Politi in Washington and Tom Mitchell in Beijing

木曜日の朝、ウォルマートは明確に警告した。ドナルド・トランプの中国に対する貿易戦争はアメリカ消費者にとって価格の引き上げをもたらす、と。しかし、ヴァージニアの店の前で、John Flynnは大統領を擁護した。「彼は正しいことをしていると思う。アメリカは非常に多くの物資を中国からの輸入に頼っている。」 彼は55歳の不動産業者で、ペンシルベニア州西部の鉄鋼の町で育った。

「もし価格が上がるなら、上がればいい。それは長期的には彼ら(中国人)を苦しめる。つまり、どちらが先に降参するか、ということだ。」 そういって、彼は自分のホンダ・アコードに乗った。

2週間前、トランプは両国で合意する予定だった通商交渉に噛みついた。北京の役人たちが約束を破った、と。そして合意よりも、新しい数十億ドルの関税を中国製品に課して、世界経済、金融市場、そして、自分の2020年再選に向けた賭け金を増やしたのだ。

今秋、アメリカがHuaweiを輸出禁止のブラックリストに載せて攻撃したとき、対立が長引くという不安はさらに高まった。「われわれはルビコン川を渡ったのだ。」 アナリストであるChris Kruegerは言った。「キッシンジャー・コンセンサスは死んだ。中国は戦略的なライヴァルだ。それがすべてだ。」

トランプの賭けはアメリカ経済の好調さによる。第1四半期の成長率は、年率で3.2%だった。中国との貿易戦争の痛みは耐えられる、と考えたのだ。しかし、ディールがすぐに成立しないなら、アメリカ経済は関税のコストを負わされ、広い範囲で増税したように作用する。来年、GDP0.5%が失われ、消費者たちもインフレを感じる。

金融市場には重大な下振れのリスクがある。さらに、長期的な懸念がある。ビジネスマンはすでに、サプライ・チェーンを中国から外へ移し始めており、2つの緊密に結びついた経済を切り離す懸念が強まっている。競争を抑え、海外市場を閉ざす、こうした行動はアメリカ経済を損なうだろう。Mary Lovely the Peterson Institute for International Economics)は、「われわれは後ろ向きであり、アメリカの技術革新と成長は遅くなる。」と言う。

トランプの戦略が将来の貿易で正当化されることはない。しかし、マクロ経済の悪化によって対立がすぐに終わる、ということもないだろう。

25%の関税がすべて適用された場合、中国の方が大きな打撃を受けるだろう。しかし、中国の財政には刺激策をとる余裕がある。人民元とドルとの為替レートや、様々な分野で国有企業や銀行が経済を管理している。トランプの行動は中国側の姿勢を硬化させ、ナショナリズムを強めた。

ライトハイザーや、トランプ政権のタカ派は、知的財産の保護や補助金カットを目指しており、中国が降伏するまで続ける、と言う。

しかし、ウォルマートの買い物客は心配している。気まぐれにツイートするだけで、トランプには戦略がない。

FT May 22, 2019

The US-China conflict challenges the world

Martin Wolf

米中貿易戦争は、他の世界、そしてアメリカの同盟諸国を何に向けるだろうか?

ドナルド・トランプの下で、アメリカは無法の超大国になった。通商システムや国際機関に対して敵意を示し、ルールに従わない。アメリカの同盟諸国も、アメリカの嫌がらせの標的である。

アメリカの保守派の思考が大きく変化した。かつて、R.ゼーリックは、中国が国際システムの「責任ある大国」になるよう求めた。しかし、今、ポンぺオ国務長官の発言は全く違う。アメリカはもはや、国際システムの「責任ある大国」ではないのだ。19世紀の大国による支配、強者が弱者を食い物にする世界である。

米中貿易戦争により、アメリカは保護主義の国になった。TPPからの離脱が、それを示している。EUや日本は、中国との貿易や技術に関する対立で、アメリカを支持できる点を示すだろう。しかし、WTOの下で、多角的な通商システムを維持しようとする。米中の利益を優先しない、リベラルな貿易の可能性を追求する。日本とカナダはTPPに変わる合意を結んだ。

さらに、諸国は「グローバルFTA」を有志連合として築くべきである。


 Huawei制裁

NYT May 17, 2019

America Needs Huawei

By Catherine Chendirector of the board at Huawei

最も重要な点は、禁止によって、国家のデジタル・ネットワークを安全にする、という目的が達成できないことだ。

もしHuaweiの本社が中国にあることを理由にHuaweiを攻撃するのであれば、それは意味がない。Nokia でも Ericssonでも、情報通信企業は、グローバル・サプライ・チェーンを利用している。Huaweiと同じだ。彼らも中国の製品や部品を利用する。それは、インターネットや情報通信のアメリカのネットワークに、現時点でも装備されている。1つの企業をブラックリストに載せても、安全は得られず、コストが増すだけだ。

アメリカ政府はNokia Ericssonと、政府が監視するリスク抑制の協定を結んでいる。彼らはヨーロッパに依拠し、その合意によってアメリカでも利用されているが、中国でも広く利用されている。Huaweiは、同様の合意を話し合う機会があれば歓迎する。

企業の排除は、ましてや、指導的なHuaweiを排除することは、競争を弱め、5Gの採用を遅らせ、技術革新を抑えて、アメリカの消費者と企業が世界の最先端技術にアクセスすることを妨げるものだ。


 ボルトンとバノン

NYT May 18, 2019

Steve Bannon Is a Fan of Italy’s Donald Trump

By Roger Cohen

イタリアは政治の実験室だ。冷戦時代には、問題はアメリカが共産党に権力を執らせないことだった。その後、イタリアはベルルスコーニSilvio Berlusconiを生んだ。アメリカでドナルド・トランプが選出される前の、スキャンダルにまみれたショーマンの政治である。今、欧州議会選挙の前だが、その結果は右派に傾くだろう。反移民、ポピュリスト政府の強力な指導者、Matteo Salviniサルヴィーニは、支持者たちが「キャプテン」と呼ぶ、新しい非リベラリズムの魅力に富んだ演技者だ。

トランプの元主任戦略家であったバノンSteve Bannonは、しばらく、サルヴィーニの友人であった。当然だ。バノンは、グローバルなナショナリスト運動、反エスタブリッシュメントの、傑出した理論家でプロパガンダの発信者であるのだから。彼は、ポピュリスト・インターナショナルのトロツキーだ。彼は西側民主主義をむしばむ病気に、だれよりも気づいていた。すなわち、グローバル化したエリートが労働者階級や後背地を見捨てたことだ。彼は見えない市民を見えるようにした。彼が「全体主義的経済覇者」と呼んだ中国人から、製造業の雇用を救済するように求めて反乱を起こした。

バノンは、ヨーロッパが半年から1年、すべてにおいてアメリカよりも進んでいる、と確信する。Brexitがトランプの当選を予見したように、ヨーロッパにおける右派の勝利は2020年に向けてわれわれの支持基盤を強化するだろう、と。

「われわれには支持者を動員することが必要だ。」と、バノンは私に言った。「説得の時代ではなく、動員の時代である。今や人々は部族として移動する。説得は過大評価されている。」

思想の雪崩が起きている。彼はアメリカ政治を簡潔に解剖した。・・・ブルーカラー労働者の家族は職場が消えた。彼らの息子や娘は勝利できない戦争で死んだ。保有した株式の価値は2008年の崩壊で蒸発し、「金融の大量破壊兵器」で壊された。彼らの仕事は中国に移ったのだ。誰かが彼らにわかる言葉で発言すべきだった。無制限な移民の流入を止める、アメリカの偉大さを回復する、と約束する必要があった。それがトランプだ。

イタリアがEUから離脱するとか、ファシストがよみがえるというのが危険なのではない。むしろ、「オルバン化」である。サルヴィーニは、オルバンやプーチンのような権力を求めており、オルバンは独立したチェック・アンド・バランスを無視している。EUのオルバンに対する攻撃は効果がなかった。トランプのアメリカのように、EUは高徳的な崩壊が進んでいる。サルヴィーニは、「ポスト・ファシスト」であり、21世紀の聴衆に向けてその手法を洗練させている。


 ボリス・ジョンソンのBrexit

The Guardian, Mon 20 May 2019

Boris Johnson in No 10 will be a fitting finale to this dark decade

Polly Toynbee

破滅が待っている。ジョンソンBoris Johnsonが首相官邸に入ろうとしている。どれほど不正直で、悪評を得た、スキャンダルに満ちた人物でも、保守党が彼を選ぶのを止めることはできない。保守党員たちは、彼の嘘、怠慢、うぬぼれを知っているが、そんなことは気にしない。木曜日の欧州議会選挙で屈辱的な敗北を喫した後(保守党からは一桁しか当選しないだろう)、この落ち目の政党は、ファラージ主義者たちの攻勢から自分たちを救済するために、麦わら帽のショーマンに頼るのだ。まあ、この真っ暗な10年を閉じるために、ジョンソン首相が登場するのはふさわしいのかもしれないが。

ジョンソンが保守党の党首になったら、何が起きるのか? 彼は「合意なしの離脱」で議会の承認を得ることはできないだろう。ハロウィーンになっても、UKは何の合意案もないまま、衝突の期限が来る。カレー海峡では国境が閉ざされ、アイルランドの国境でも同じだ。アイルランドは統一のための住民投票に向かう。同様に、スコットランドも独立を問うだろう。すべてが襲いかかってくるが、ブリテンはジョンソンの無謀な指示に頼るしかない。燃料も、食糧も、医薬品も、ビザも、輸送トラックの列も、ポンド急落も。

ジョンソンには何の計画もない。彼は首相になりたいだけだ。衝動を抑えて、その結果を彼が見るなら、1031日までに、労働党が不信任決議案を提出することがわかるだろう。反対派の保守党議員がそれに賛成し、彼は議会を解散して選挙を要求する。そうなることが分かってしまえば、ジョンソンは確実に、自分で選挙を要求する。首相になってすぐだ。最も短い在任期間というリスクを冒しても、彼は慢心の極みにあるだろうから。ファラージは保守党の議席(そして労働党からも)を奪い、自民党は残留派と穏健派から支持を吸収する。どう考えても、ジョンソンの破滅は避けがたい。数年後、保守党がそれに続く。しかし、それはこの国全体の破滅ではない。

総選挙で労働党が勝利するとは思えない。労働党の支持者たちは大規模に残留派の政党に移るだろう。コービンは、党内の説得を無視して、2度目の国民投票を避け、あいまいな姿勢を続けてきた。たとえ勝利しても、コービンはもう1人のBrexitに苦しむ首相となる。

保守党はジョンソンを党首に選出することで自ら破滅するが、労働党は、コービンがその生涯においてヨーロッパに関して主張したことは嘘だった、と認めるしか、ジョンソンに勝てないのだ。


 ギリシャとハゲタカ資本主義

PS May 17, 2019

A Greek Canary in a Global Goldmine

YANIS VAROUFAKIS

ユーロ圏諸国の債務支払い不能であったものが、今ではある人々にとっての宝の山になっている。

2013年、ドイツ国債を買った者には7%の利回りがあるけれど、ギリシャが債務危機の頂点にあった2012年にその国債を買った者には231%の利回りがある。

印象的な数字にかかわらず、ギリシャ危機が終わったというのは幻想であると言いたくなる。ギリシャ国債や株式は、憂鬱な経済の現実と、持続不可能な、高揚する金融市場との間にある、大きな裂け目を示しているからだ。

なぜアテネ株式市場は高騰するのか? 経済活動を害する高課税、不良債権が累積する中での銀行業、労働者の海外流出と不安定な職場が増えたことを反映するだけの失業率低下、高付加価値の貿易財を生産するような民間投資が欠如したままであるのに。

ギリシャ債務の最初の2度にわたる救済融資は、債務負担を民間からヨーロッパの納税者に移した。その結果、ギリシャ債務の85%は市場の外にある。その返済は2032年まで延期されている。投資家たちは、民間の手に残されたごく一部に注目している。

彼らが見逃しているのは、債権者たちが付けた厳しい条件だ。それは、ギリシャ政府が2060年まで永久にGDP2.2-3.5%の黒字予算(元利払いを除く)を続ける、という不可能なほどの緊縮財政である。ギリシャ企業は利潤の75%を納税し続けねばならない。

ギリシャはユーロ危機の爆心地であったが、EU諸機関による管理失敗の顕著な例であり、金融的な利益が経済的困難を条件としていかに潤沢に得られるかを示す完璧な例でもある。

アメリカ連銀によれば、過剰なレバレッジン位夜貸し出しが2018年には20.1%も増えた。融資の基準が下げられている、という報告もある。格付けの低い、多くの債務を負った企業に融資が流れて、より安全な高利回りの債券市場を圧倒する。

ギリシャはこの傾向の最先端にある。慎重な投資家なら、経済が回復しているとは見ない。2008年以後、ギリシャはグローバル資本主義の、融資や貿易を均衡させる点での失敗を象徴してきた。今、経済の現実と金融的な利回りとの差が拡大するとき、新しいグローバル危機の明白な危険がある。

ハゲタカは死体に群がるが、彼らが再生をもたらすことはない。


 人の移動と欧州議会選挙

PS May 17, 2019

The Roots of European Division

FEDERICO FUBINI

人の移動の自由はEUの原則の1つである。しかし、EUの周辺部にある政府は、ナショナリズムによって移民流入に激しく反対している。同時に、彼らの国から、その国民、家族や友人が流出することを心配している。

1989-2017年、外国で暮らすか働く人口は、ルーマニアの20%、ブルガリアの12%、ポーランドの7%、ハンガリーの5%イタリアの3%である。その実際の数字はもっと高いだろう。最大の行き先はドイツである。

EU最強の経済を持つドイツは、2つの点で、新加盟諸国から利益を受けている。第1に、中東欧からの移民はドイツの人口減少を補っている。第2に、若い労働者への教育や訓練への投資を通じて、ドイツは1000億ユーロも利益を受けている。EU内の頭脳流出もそうだ。

2018年、ドイツの労働者の時間当たり労働コストは、ブルガリアの6倍、ルーマニアの5倍、ポーランドやハンガリーの3倍、チェコの2倍以上であった。

ドイツの自動車メーカー、アウディのサプライ・チェーンを考えてみる。ハンガリー工場でエンジンを生産し、ドイツのバヴァリアの工場に運んで自動車を組み立てている。ハンガリーでもドイツでも、労働者の生産性はほとんど同じである。しかし、ハンガリーの月当たり基本給与は、ドイツの工場労働者の、1日の1人当たり総コストより少ない。しかもアウディは、特別な税免除を得ており、ハンガリーにほとんど税金を支払わない。

鉄のカーテンの東側が低賃金であることは、西側で一般的な集団交渉による最低賃金の取り決めを無意味にしてしまった。

EUの国家補助に関するルールが、さらに事態を悪化させている。欧州委員会は、低開発地域で補助金となる税免除を許してきた。雇用創出や成長を促すためだ。かつてはイタリア南部やその他の貧しい地域がこの特例の対象だった。しかし、今では東欧である。

その意図しない結果を、BMWの工場誘致をめぐる、ハンガリーとスロバキアの優遇策の提示競争に見ることができる。

外国企業の投資は知識やスキルをもたらし、雇用や追加の所得をもたらす。中東欧諸国が境界を閉鎖し、保護主義で競争しようとは考えていない。しかし、その結果には是正すべき点が多い。地方のエリートは、ドイツ企業を誘致するために、地域の利益を無視して政策をゆがめている。

ゆがんだ税制は、東欧の賃金水準を上げず、むしろ中産階級の空洞化をもたらした。職場を失った労働者の生産性が大幅に低いわけではないのに、西側のような財・サービスも利用できないことを、人々は知っている。失望した有権者たちの多くが、「支配を取り戻せ」と叫ぶ政治家たちに投票するだろう。


 モディの勝利とポスト真実の時代

NYT May 23, 2019

How Narendra Modi Seduced India With Envy and Hate

By Pankaj Mishra

モディが政権を執った5年間、インドは彼の感覚に苦しんだ。特に、201611月の流通貨幣額を90%も廃止したときだ。インド経済の破壊から、南アジアの核戦争リスクまで、世界最大の民主国家の指導者として、モディは危険なまでに無能である。この春の選挙戦でも、エスニック・宗教の分断を絶対視する主張を行い、恐怖や嫌悪を政治的武器とした。

モディ政権下のインドは継続的な暴力の爆発によって特徴づけられた。モディを支持するテレビのアンカーは「アンチ国民派」を攻撃し、ソーシャル・メディアで軍に暴行を促し、女性は強姦で脅され、群衆のリンチがイスラム教徒や低カーストの人々を犠牲にした。

ヒンドゥー至上主義者は、軍隊から司法、ニュース・メディア、大学まで、占領し、介入して、反対する学者やジャーナリストは暗殺や恣意的な拘束のリスクが高まった。古代のヒンドゥー教徒が遺伝子組み換えや飛行機を発明したという暴論を熱狂的に主張するにおよんで、モディとヒンドゥー・ナショナリストたちはインドを狂気の炎に投げ込んだ。

モディは選挙のために、トイレ、低利融資、住宅、電気など、さまざまな利益供与を行い、大企業からの巨額の献金を受け、かつて公正であった選挙委員会にも党派的に介入した。しかし、何より若者たちから支持されたことは重要だ。

インド憲法は、すべての個人が平等で、教育や就労の機会について、同じ権利を持つという考えを掲げている。しかし多くのインド人が経験する日々の現実は、この原理をあまりにも踏みにじるものだ。民主主義の輝く理想と、汚れた非民主主義の現実との大きな差に、インド人は住むことを強いられた。不正義と弱者、劣等者、尊厳の否定、満たされず、ねたみに沈む、深い感情が蓄積されてきたのだ。

大都市に住む支配階級との対話の可能性は、まったくないだろう。歴史が穏やかな形で、繁栄する西側と収れんする、ということはない。この見捨てられたという感覚は、1990年代にインドがグローバル資本主義を受け入れ、地方から都市圏に移動した膨大な数の人々に、アメリカ的な個人主義がもたらされると、ますます強まった。衛星テレビやインターネットは、かつては考えられないような、民間の富と消費の妄想を拡大した。同時に、インドでは不平等、汚職、縁故主義が強まり、社会的なピラミッド構造が拡大したように見えた。

しかし、インドの永久に支配し続ける植民地後の政治家たち、彼らに対する休火山のような怒りを利用する、あるいは、社会的な上昇をくじかれて沸騰する不満を自分の支持層に流し込む、そんな政治家はいなかった。2010年代の初めに、モディが現れて、そのメリトクラシー(能力主義)の讃美、伝来の特権に対する強烈な攻撃を行ったことで、彼らを政治に動員したのだ。

インドの、英語を話す旧来のエスタブリッシュメントたち、西側の諸政府は、モディを排除していた。モディが統治していたグジャラート州で、2002年、数百人のイスラム教徒が殺害された犯罪に対する悪意ある無関心、直接的な監督責任を、彼は負っていたからだ。しかし、一部の最も富裕なインド人たちに支持され、政界に復帰すると、2014年の選挙前に、インド人が苦しい過去から離れて、影響の未来に向かう、という高揚する物語で魅了したのだ。インドを国際的な覇権国家に変える、ヒンドゥーの歴史的な前進が起きる、と約束した。

それ以来、小説家のように物語を創りだす彼の能力は、ソーシャル・メディアや新聞、テレビとの相乗効果で、着実に、高まってきた。モディ政権の5年間で、インターネットを利用する人口は倍増した。安価なスマートフォンが最貧層にも普及し、Facebook, Twitter, YouTube and WhatsAppのフェイク・ニュースにさらされた。彼が選挙で最も有権者を喜ばせたのは、空爆でパキスタン人数百人を殺害し、おびえたパキスタンは捕虜のパイロットを返した、という嘘の解説だった。


 イランの正常化交渉

NYT May 23, 2019

A Deal for Iran: Normalization for Normalization

By Bret Stephens

アメリカとイランの、公平で、対照的な合意は、その異なる立場を反映したものである。完全な正常化と交換に、完全な正常化を。

トランプは、戦争を望んでいないが、戦争になるかもしれない。しかし、両国の目標は、正常化である。・・・正常化normalizationとは何か?

アメリカから見れば、それは経済制裁や外交の制裁を直ちにやめることだ。アメリカ大使館をテヘランに開き、イラン大使館をワシントンに開く。イランとアメリカの諸都市を結ぶ直行便が飛ぶ。双方向の貿易と直接投資、イランと取引する企業への制裁もやめる。数万人のイラン人留学生がアメリカの大学に入学し、数万人のアメリカ人旅行者がイランの都市を訪れる。

イランから見れば、正常化とは、イランが普通の国家として行動することだ。世界第4位の石油埋蔵量を持つ、普通の国家として、イランは地下工場で進めたウランやプルトニウムの濃縮計画を取りやめる。普通の国家なら、アルゼンチンのテロリストによる殺害、ワシントンのレストランにおけるサウジアラビア大使暗殺、デンマークやフランスにおける暗殺や爆破を行わない。シリアのアサド政権に対する軍事・財政・輸送支援を行わず、タリバンへの武器や兵員補充の支援を行わず、特に、イエメンの反政府勢力に対して、最近、メッカに向けて発射されたようなミサイルを提供しない。ゲイの人々を処刑したり、女性を投獄したり、アメリカのジャーナリストを含む、外国人を逮捕したりしない。

要するに、正常化と正常化の交換とは、イランが、アメリカの圧力によってではなく、自ら核武装を放棄し、人権を守り、国際的に認められた行動を取ることを意味する。

体制転換を空爆によって達成するのではなく、時間をかけて正常化することだ。


 デフレからインフレ再現

PS May 22, 2019

How Inflation Could Return

MOHAMED A. EL-ERIAN

先進経済諸国におけるインフレ論争は、この10年間で大きく変化した。今や、低インフレが成長を損なうことが議論されている。

11兆ドルにおよぶグローバルな債券市場、マイナス金利は、将来の資源配分の悪化や、資産価格上昇、金融不安をもたらすだろう。投資家たちはあまりにも大きく中央銀行に頼っている。

インフレをもたらそうとする政策担当者たちの思考は、景気循環や総需要の不足を解決することに限定されている。欧米の金融政策担当者がQEに頼り、「日本化Japanification」を懸念することがそうだ。しかし、それは現状を正しく見ていない。

中長期の変化を見るなら、インフレを抑える強力な構造的諸力が働いている。私はこれをthe Amazon/Google/Uber effectと呼ぶ。AIやビッグ・データ、移動性の技術革新は、市場を通じてデフレ圧力を広めている。伝統的な経済関係を破壊し、価格支配力を溶解したのだ。Amazonは、高い価格を要求する中間業者を避けて、消費者が商品を購入できるようにし、価格を下げた。Googleは、検索のコストを引き下げて、またUberは、既存の資産を市場化することで、確立された大企業の価格支配力を掘り崩した。

それはグローバリゼーションの加速と並行してインフレの低下をもたらした。低コストの生産がインターネット上で利用でき、先進経済の組織労働者のパワーが失われた。こうした傾向はしばらく続くが、その先にはインフレ的な影響が生じるだろう。労働市場にはゆるみがなくなり、特に技術分野では、生産の集中と価格支配力が高まっている。

現在の政治的な変化も影響する。不平等に対する怒りが高まるのは当然であり、ますます多くの政治家がポピュリズムを受け入れ、財政政策による積極的な刺激を支持し、労働者に比べて強い資本のパワーを抑えるようになる。中央銀行は、(QEのように)資産市場を通じてではなく、もっと直接に経済を刺激するよう求められる。

グローバリゼーションに反対する政治的主張も強くなる。関税などの経済政策が政治的武器として利用され、グローバルな経済・金融関係が分割される。それはより価格の高い経済、企業や消費者にとって(分断化への)保険となるようなコストのかかる行動を促す。

つまり、政策担当者や企業はインフレが再現することを無視してはならない、ということだ。当面は、the Amazon/Google/Uber effectが優勢かもしれないが、労働市場のひっ迫、ポピュリストたちのナショナリズム、産業の集中が新技術の影響を超える第2の局面に変わるだろう。そして第3の局面で、インフレの高進に驚いた政策担当者や投資家が、極端な反応を示して、事態を悪化させる。

インフレは、循環的要因だけでなく、もっと広い範囲で、ダイナミックな可能性がすべて検討されねばならない。

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The Economist May 11th 2019

Collision course

Trade talk: Deal or no deal

Latin America: Under the volcano

Latin America: The 40-year itch

Lexington: Peace in the Middle East

Russia: Workers of Russia, unite!

Charlemagne: Between somewhere and anywhere

US-China trade (1): Speaking softly

US-China trade (2): Shock therapy

(コメント) いまのところ、衝突を予想させるのはアメリカとイランです。中国ではありません。しかし、米中貿易の関税は何を意味するのか? アメリカはどこまで要求するのか? 中国はどこまで報復するのか? 中国は国内の成長や債務の削減、改革の見通しと一致すれば妥協できます。他方、アメリカは交渉を有利にするための過剰な要求をしている、と中国は長期戦を好むでしょう。

ラテンアメリカの民主主義に限界が見え始めました。他方、ロシアでは非政府系の労働組合が再生し、プーチンを批判する声を集めます。

欧州議会選挙で、選挙戦の最前線はどこにあるのか? それは都市と農村の間、富裕層のクラス都市中心部や、階級対立、懐古趣味、その他の支配が確立せず、混在した郊外である、と。ポピュリストたちはそれを知っており、最初に、ここで成功します。

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IPEの想像力 5/27/19

トランプのアメリカは、開放型の市場・経済統合や、多国間合意と国際機関が監督するルール、リベラルな価値を重視する市民的な秩序を否定し、2国間のパワーによる支配、特権的な地位と一方的な介入、嫌がらせや制裁・軍事的圧力による利益の再分配を要求しています。

米中間の対立が、通商摩擦から、次第に経済体制や政治体制の根本原理をめぐる、譲れない対立に変わろうとしています。もし、今、キッシンジャーがヨーロッパから亡命するとしたら、アメリカではなく、中国に向かうかもしれません。あるいは、Mr. Xの長文電報が、ソ連の政治経済体制は長期的に崩壊する、と分析し、封じ込めを唱えたように、ワシントンの中国大使館から北京に長文電報が送られるでしょう。

中国は、保有するアメリカ財務省証券を貿易戦争の武器にすることはないだろう、と言われます。しかし、Huaweiの制裁は、次のステージを開きました。その結果、中国はその外貨準備を着実にドルから他の資産に移すでしょう。ドルに依存する国際通貨システムは終わるに違いない、と皆が知っており、それが明確になるほど、改革は公然と議論され始めます。

このようなときに、トランプの言動は、すべての参加者に最も嫌われるでしょう。ボリス・ジョンソンが合意なきBrexitを実行するときも同じです。

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「なぜアメリカでもイギリスでも、反対する勢力がほぼ等しい割合に維持されるのか?」 BS-TBSの「報道1930」で、松原耕二が2人の解説者に問いました。これでは民主主義が機能しない。・・・しかし、答えはありません。

単純化した国民投票という形が、極論を掲げるポピュリスト政治家に有利な条件を与えました。複雑な、中間的な、現実的選択肢の支持を弱めた、と思います。しかも、失われたコミュニティーの代わりに、人々は主権・国籍という再分配や雇用の「特権」を強調します。実際にはそれが答えにならないのに。民主的な政治の条件として、代表たちの議会ではなく、工場や銀行をスマートフォンが飲み込み、生産や市民の組織化を溶解するグローバリゼーションの圧力に、現状を拒否する投票で、対抗しているのです。

2つの均衡する政治勢力・理念とは、一方に、もっとローカルな部族主義、それを利用するポピュリストたち。リベラルな経済・社会再編成のグローバル化と、それを利用する超富裕層の政治介入です。他方で、国民国家政府に依拠する国際機関と、空洞化するグローバリズム。民主的な制度や政治介入の再生、ポピュリストや超資産家に対する批判が強まります。

インターネットとスマホ、Amazon/Google/Uber効果、Facebook/Twitter/Instagram効果、ソーシャル・メディア、・・・経済と政治を組織化する条件が大きく変化しました。

ローカルなコミュニティーとリベラルな経済再編成とを調整できる、市民的秩序の協議体制を、グローバルな政治は求めています。その限界は、各地において、グローバル・サプライ・チェーンの海に浮かぶ群島のように、打破され始めるのではないでしょうか?

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