IPEの果樹園2019

今週のReview

5/20-25

***************************** 

トランプ政権のアメリカ ・・・米中貿易戦争 ・・・イギリス政治の渦巻き ・・・瀉血より選挙制度改革 ・・・アメリカとイランの軍事的緊張 ・・・トランプとオルバンの記念撮影 ・・・アジア社会に学ぶべきだ ・・・ドルの時代は終わるか ・・・マクロ経済政策のリバランス

長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランプ政権のアメリカ

NYT May 9, 2019

Trump Is Terrible for Rural America

By Paul Krugman

先月、農務省経済調査局のエコノミスト6人が同じ日に辞職した。トランプの政策をほめるような報告書を発表するよう脅されていたからだ。

アメリカの農村はトランプの重要な支持基盤だ。しかし、彼らはトランプの政策で最も損害を受けている。

トランプ主義とは何か? 2016年の選挙では、彼は共和党の伝統的な経済政策を実行するようなふりをしていた。企業と富裕層に減税し、社会福祉を削る、ということだ。1つ、大きな違いは、保護主義だった。

これら3つの政策は、すべて農村部を傷つける。

減税は農家の利益になっていない。農家は企業ではなく、富裕な者も少ないからだ。セーフティーネットの削減も農家に不利益だった。フード・スタンプや、オバマによるメディケイドの拡大をトランプがつぶそうとしているからだ。

保護主義はどうか? 農業部門は、アメリカ経済全体よりも、はるかに大きく輸出に依存している。大豆農家は、生産量の約半分を輸出する。小麦も46%だ。特に、中国は主要な輸出先だ。また、関税はドル高につながる。

農家は、トランプの政策の最大の犠牲者だ。しかし、トランプを支持している。なぜか?

1つは、文化的要因だ。農村の有権者は特に移民に敵意を持つ。また、海岸に住むエリートたちを軽蔑している。トランプは彼らの不満を操作するのだ。

それでも農村の痛みが現れると、トランプ主義者は何をするか? 1つは、真っ赤な嘘を繰り返す。もう1つは、真実を抑圧し、嘘の報告書を作ることだ。


 米中貿易戦争

FT May 13, 2019

America is the revisionist power on trade

Gideon Rachman

アメリカと中国は、既存の世界秩序に不満である。アメリカのトランプ大統領は、それがアメリカに不利で、中国の台頭を助けた、と考えている。他方、中国の習近平主席は、それがアメリカの政治・経済支配と結びついており、アメリカがアジア・太平洋地域で支配的国家であることを支えている、と考える。

アメリカは、経済秩序を転換し、地政学的地位を維持したい。中国は、世界貿易を維持したまま、地政学的な地位を転換したい。習近平は、中国がグローバルな大国になる、という願いを明言するようになった。

両者の違いは、Graham Allisonが「ツキディデスの罠」と呼んだ状態に似ている。しかし、貿易戦争は、現実に戦争になるわけではない。中国は、経済システムの本質を維持しながら台頭するために、譲歩するだろうか?

中国は、日本がアメリカの圧力で1985年に受け入れたプラザ合意を特に注目している。多くの中国人は、それがアメリカによる日本の台頭を阻んだ具体的ケースである。トランプ政権は、同様のジレンマに直面している。

トランプは、いまだに習近平との「友好的な関係」を頼っているように見える。しかし、第1次世界大戦の前にも、ドイツの皇帝ヴィルヘルムとロシアのニコライは友人であった。しかし、それは戦争を防ぐことができなかった。

NYT May 16, 2019

What’s Our China Endgame?

By Bret Stephens

19771月、ロナルド・レーガンは語った。「ソ連に対するアメリカ外交の私の見解は単純だ。」・・・「われわれは勝利する。彼らは敗北する。」 レーガンが大統領になる4年前のことだ。

今、アメリカは中国との貿易戦争、そして、おそらくは新しい冷戦に入る。われわれがこの戦争をどのように終わるのか、考えておくべきだ。

それはレーガンのような終わり方にはならない。

ソ連とその衛星諸国は、国家テロの機関であり、階級憎悪のイデオロギーに依拠し、その国民が望むものではなかった。それは常に砂上の楼閣house of cardsでしかなかった。中国は違う。それは体制としてあり、国民や文明としてある。しかも、これら3つは固く結び付いている。それはどこかに向けて変化するだろうが、単に崩壊するようなことはない。

それはドナルド・トランプが考えるような終わり方でもない。

大統領は、「貿易戦争は良いことだ。勝つのは容易だ。」と述べた。われわれはそれを見ている。彼は、民主主義国であれば耐えられないような経済的損害を、中国人民に与えるよう、独裁者たちの意志を試した。たとえワシントンと北京が新しい条件に合意するとしても、その戦略上の対抗関係は何も変わらない。

結局、ニクソンからオバマまで、中国との紛争が終わったような形で、もはや終われないのだ。彼らは、北京が「平和的台頭」により経済大国となり、同時に、国際問題において「責任ある利害関係者」になる、と思った。

しかし、2012年から権力の座にある習近平は、ますます悪辣な形で行動した。国内では、一党支配から個人支配へ、監視国家を固め、罪のない人々を何万人も収容所に監禁している。海外では、情報を除き、盗み、誘拐し、詐欺し、汚染し、破壊し、汚職を広め、協力者を増やし、嫌がらせをする。「習近平思想」の目標は、国際秩序の擁護ではなく、支配だ。「なぜ共産党を問うのか?」・・・「それに代わるものはカオスと腐敗であるのに。」

中国を敗退させることはできない。挑発は危険であり、宥和は良心を損なう。TPPによる、一種の封じ込めが、対中政策であった。トランプは離脱したが。


 イギリス政治の渦巻き

FT May 10, 2019

Nigel Farage, changing British history from the margins

Sebastian Payne and George Parker

彼はイギリス政治から忘れ去られた人間だった。しかし、今週、ピーターバラで演説すると、熱狂的支持者が1500人も集まった。人々は、ヨーロッパの歴史を変え、イギリスのエリートたちを失神するほど怒らせた、この人物の名を呼んだ。「ナイジェル! ナイジェル! ナイジェル!」

2013年、当時のDavid Cameronキャメロン首相が、イギリスのEU加盟に関する国民投票を行う、と発表した時、保守党議員たちは、これでNigel Farageナイジェル・ファラージの脅迫は無効になる、と喜んだ。しかし、ファラージは知っていた。「奴らは私の舞台に立つのだ。」

6年後、キャメロンは去り、保守党はバラバラになったが、ファラージは残っている。彼は保守党を完全に破壊すると決めたのだ。

その人物を、嫌悪する者も、称賛する者もある。しかし、その影響は誰でも認めている。ある保守党の幹部は言った。「彼は、トニー・ブレア以来、最も影響力のある政治家だ。もしかすると、マーガレット・サッチャー以来。」 また、親ヨーロッパの自由民主党の元指導者Nick Cleggクレッグは、「イギリスの、反欧州、反移民をまとめる人物が求められていたのは明らかだ」と述べて、ファラージを重視する。

ファラージの政治的情熱とは、保守党を破壊すること、イギリスの2大政党を完全に打倒する発射台になることだった。その夢が実現するかもしれない。


 瀉血より選挙制度改革

YaleGlobal, Friday, May 10, 2019

Stop the Bloodletting in Politics

Frances McCall Rosenbluth and Ian Shapiro

古代の医療として瀉血はさまざまな方法で行われた。その目的は、ある種の血液を取り除いて、それにより「悪い気質」を切り離し、病気を治すことだった。多くの患者は生き延びたが、瀉血が役立った者はいない。

政治も独自の瀉血治療を行う。医療と違って、瀉血は今も続いている。世界中の民主主義で、大衆の不満を鎮めるために、政府を民衆に近づけようとする。国民投票、住民投票、比例代表、その他。それらに共通する目的は、政治家を有権者の要求に一致させることだ。有権者の怒りが増すだけであれば、それは分権化が必要となる。

アメリカの選挙は地方州に偏って議員を多く出している、という問題に対して、(人口の多い選挙区で)定数を増やすことが主張される。しかし、この治療は事態を悪化させる。複数の当選者が出る選挙制度では、議会の多数を得るために、各政党が多くの選挙区で複数の候補者を出す。そのため、有権者が候補を選ぶとき、政党の政策綱領が重要でなくなってしまう。

それは、党派性を薄め、超党派で法律を作るから、良いことではないか? 妥協の悪と、穏健化の善を、混同してはならない。政党の違いがなくなるような妥協は間違いだ。単なる票集め、政治家たちの取引になる。妥協が最終目的になれば、あとで妥協を有利にするため、より極端な立場を示すことになる。妥協の予想が穏健化を否定し、極端な主張を強める。

有権者は、選挙区や州の利益になるものを選ぶが、それは国益にならないだろう。最悪の場合、政治は何の意味も持たなくなる。

われわれに必要なものは強い政党だ。多くの有権者に支持されるような政策を提案する動機を持ち、候補者たちはその政策綱領を支持する動機を持つ。

アメリカの政党はすでに弱い。候補者たちは、同じ政党の候補者と予備選挙を戦うために莫大な金を使う。選挙では個人的な利点を宣伝するために金を使う。しかし、政策綱領を示す政党がしっかりしている国では、イギリスやドイツのように、選挙に金がかからない。強い政党があるほど、選挙における金の影響は低下する。

患者を殺すことなく、アメリカの選挙制度を改善することは可能だ。上院は、人口の多い州(California, Texas, Florida and New York)を分割して小さくする。Puerto Rico and the District of Columbiaを州として認める。下院は、独立した選挙区整理委員会が、各選挙区をできるだけ各地区全体のまとまりを包括するように決める。

議員たちは、長期的に、最も多くの人々にアピールするような政策を提案する者を、政党指導者に選ぶ動機を持つ。そうすれば議会は、われわれが望むもの、すなわち、銃規制、他の発展した民主主義国家と協力するような環境政策、機能し、手に入るような医療保険、K-12教育制度改革、を実現するだろう。


 アメリカとイランの軍事的緊張

NYT May 14, 2019

It’s Time for the Leaders of Saudi Arabia and Iran to Talk

By Hossein Mousavian and Abdulaziz Sager

私たちは市民として、2国の外交官として、これを書く。イランとサウジアラビアは、何十年間も代理戦争と冷たい関係を過ごしたが、この地域に持続的な平和の新しい基礎を据える時期が来た、と私たちは確信する。

私たちはどちらも、夢見る理想家ではない。互いを信頼しない、タカ派のリアリストである。双方の政府幹部には不信感が共有されている。しかし同時に、それぞれの政府が巻き込まれている権力をめぐる争いが、破滅的な結果をもたらす危機を生じていることもわかっている。たとえば、イエメン、シリア、レバノン、バーレーン、イラクだ。私たちは互いを非難し合うが、その結果を合わせれば、統治する人民の信頼を失い、資源と人命を失うという意味で、コストが大きい。それらは、地域を引き裂くよりも、新しい中東を建設するために費やすべきであった、と合意する。

今や、対話のときだ。歴史的に紛争が続く地域で、外交のための条件が熟している。

NYT May 15, 2019

How to Stop the March to War With Iran

By Wendy R. Sherman

戦争は不可避ではない。トランプ大統領は、選挙戦で米軍を自国に戻すと主張したのであり、中東に数万員を派遣すると約束したのではない。中東の戦争は、これまでに学んだように、迅速に終わるものではないし、目的を達成することもない。

戦争を回避する最善の策は、イランと対話することだ。捕虜の交換で、重要なコミュニケーションのチャンネルを開く。しかし、指導者の階段は、イランの核合意をアメリカが認める場合だけ可能である。残念ながら、トランプは認めない。

幸い、議会、同盟国、その他の介入で、破滅的な戦争を避けることができる。超党派で、政権の戦争計画に関する聴聞会を開くことだ。

議会や上院はまた、大統領がイランと戦争を始める権限を問うべきだ。国民は、その過程で、ブッシュ大統領がサダム・フセインとの戦争を正当化した時の論争を思い出すだろう。

中東の平和を促す、もっと静かな方法もある。議会は、アメリカ、ヨーロッパ、中東の、学者、オピニオンリーダーを呼んで、対話の場を設けるべきだ。政府の代表も加わることができるし、紛争に向かうエスカレーションを抑える。

議会はまた、軍事行動よりも外交圧力と国際合意による非核化の方が望ましいことを示すために、イランとの核合意を結んだ、フランス、ドイツ、イギリスの外務大臣、防衛大臣を呼ぶことだ。

最後に、アメリカや世界のニュース・メディアが、イランに関して行われている事実を正しく伝えるべきだ。

それでも、イランの体制転換を唱えるボルトンと、選挙戦を有利にすると計算したトランプ大統領が、戦争を始めるかもしれない。しかし、イランとの戦争は、アメリカの安全保障を損ない、経済を損ない、世界におけるアメリカの地位を損なう。


 トランプとオルバンの記念撮影

FT May 14, 2019

Trump’s Orban boost lands another blow on Europe

Edward Luce

スティーブ・バノンはかつてビクトル・オルバンを「トランプ以前のトランプ」と呼んだ。月曜日、ハンガリーの首相は大統領執務室において最大限の歓待を受けた。ドナルド・トランプは、2人の関係が深い敬意に根ざすことを明確にした。それはトランプが、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、その他の同盟諸国を代表する仲間たちに示す、空疎な関係とは対照的だ。トランプは、まさに称賛する意味で、オルバンを「非リベラルな」強権指導者と呼ぶ。

オルバンは非常に尊敬すべき指導者である、とトランプは語った。「あなたはキリスト教コミュニティーから見て偉大であった。あなたは(非キリスト教徒の移民たちを)まさに阻止したのだ。」

もうすぐ欧州議会選挙が始まる。トランプはどのような政党がヨーロッパで彼と信念を共有するか、明確なメッセージを送ったのだ。彼らはその優位を生かすだろう。イギリスのBrexit党を指導するファラージ。マクロンと接戦を演じるRassemblement Nationalのマリーヌ・ル・ペン。イタリアにおけるほとんどの議席を得るであろう北部同盟のサルヴィーニ。トランプとオルバンとの会談は非常に有益であった、とバノンはFTに語った。「来週、各地の主権回復政党が指導的な地位を占めれば、われわれはヨーロッパの覚醒を見るだろう。」

トランプが、これまで3世代にわたって続いたアメリカの大西洋政策を破壊したことは、どれほど強調しても足りないほど重要だ。マーシャル・プランでヨーロッパ諸国が援助の配分を共同で決めるように求めて以来、アメリカ政府はヨーロッパの協力を促した。EUを支持する意味で、ジョージ・W・ブッシュもオバマも、オルバンがワシントンに来たとき、面談することを拒んだ。トランプは、その姿勢を全く逆転したのだ。

トランプがブダペストに送ったハンガリー大使David Cornsteinは雑誌the Atlantic Monthlyに、語った。トランプはハンガリーの指導者をねたんでいる。「私はあなたに言うが、もし大統領が25年か30年も統治できるとしたら、トランプはオルバンが得ている条件を喜んで得たはずだ。残念だが、それはできないのだ。」

政治の潮流は多くの点で変化しつつある。今やマクロンは、ル・ペンのネオ・ファシスト政党に劣る。イタリアはトランプ支持のポピュリストたちによって運営され、ファラージはイギリスで上げ潮に乗っている。オルバンはヨーロッパ全体に影響力を広げる国民指導者である。トランプはモラー特別検察官の捜査を乗り切った。再選への準備が進む。

トランプとオルバンの記念撮影は、世界のポピュリストたちに激励となった。


 アジア社会に学ぶべきだ

PS May 10, 2019

Can the East Save the West?

PARAG KHANNA

この20年間は、最善の時代か、あるいは、最悪の時代か? それはあなたがいる場所による。グローバル・イーストがグローバル・ウェストと収れんする時代に、2つに地域は心理的にかい離した。欧米は内向きになり、アジアは自信と楽観主義を持ってグローバリゼーションを受け入れた。

アジア人は新しい統治の原理を編み出した。それは人類の多数を統治し、西側の民主主義や開発パラダイムより、急速に広まっている。世界のパワー・バランスは変わったが、それは経済でも、政治でもなく、知的なバランスだ。911テロから、トランプの大統領選挙まで、歴史的な破断が起きた。もはや西側の政治経済的な優位は過去のものだ。

多くの西側社会が望ましくない状態だ。債務に苦しみ、拡大する不平等に怒り、政治的、文化的に、社会が分極化している。アメリカの、2000年以降に生まれた世代は、テロとの戦い、実質賃金の停滞、人種間の緊張、銃の暴力、インターネットが拡散する政治的なデマゴギー、その中で育った。ヨーロッパの若者たちも、経済的な緊縮、高い失業率、ますます遠くない政治家たち、という不満を抱えている。

他方、数十億人のアジア人は、この20年間を成長し、地政学的な安定性、急速に拡大する繁栄、高まる国民的なプライドを経験している。1997年のアジア金融危機以降、ほとんどの国は変動レート制に移行し、貿易黒字、外貨準備を増やして安定した。インフラを整備し、直接投資の流入が増えた。グローバリゼーションのおかげで、アジアは世界の経済成長の最大の部分を占めた。それは西側の支配ではなく、アジアの台頭によって描かれる時代だった。

現在、すべての社会が困難な挑戦に直面している。地政学、経済、技術、社会、環境において複雑な変化が起きているからだ。西側の政府がこれらの点で優れているという証拠はない。西側指導者の多くが好む考えとは逆に、民主主義でも、資本主義でもなく、適応力こそが成功する社会の最も重要な特徴だ。

すべての社会が、繁栄と安定、開放と保護、市民的代表制と効果的な支配、個人主義と結束、自由な選択と社会的厚生、そのバランスを模索する。人々は、その社会が「民主的である」から支持するのではない。都市の暮らしが安全か、住宅を得られるか、雇用は安定しているか、老後の貯蓄はできるか、友人や家族とのつながりを維持できるか、といった視点で判断する。

社会的・経済的なグッズ(財)の追求は、さまざまな程度で、アジア社会に規範を発展させている。21世紀の社会は、3つのタイプによる統治へ向かうだろう。混合型資本主義、テクノクラート型ガバナンス、社会的保守主義である。

新しいアジア国家を知るには、中国やベトナム、シンガポールを見ることだ。戦略的な部門を育成するだけでなく、技術革新を管理する。彼らは、工業化や都市化の西側が示すマイナス面を飛び越え、デジタル・サービス化に進む。その膨大な人口が、多国籍企業による豊富な実験を可能にする。労働者たちへの再訓練を政府は支援し、成長が国民に波及するように保証する。

市場を政府が積極的に誘導するからこそ、アジア諸国では国民がグローバリゼーションを支持している。トランプの最初の方向転換がTPPからの離脱であり、アジア諸国がそれを支持していることは重要だ。彼らはすぐに、もっと大きな合意、東アジア地域的包括連携協定(RCEP)を結ぶだろう。

アジア諸国で政府が支持されるのは、指導者が積極的に、民主的選挙、デジタル調査、ソーシャル・メディアのよるモニタリング、など、市民たちに相談するからだ。中国のような権威主義体制でも、これは正しい。西側メディアが敵視するソーシャル・クレジット・システムも、多くの市民が支持している。

アジアの台頭は、西側が描くような単純な現象、権威主義体制による脅威、ではない。もっとはるかに複雑だ。中国は地域の人口の3分の1でしかなく、民主主義の下で生きる人々の方が多い。

シンガポールは、アジア的な価値観と、混合型資本主義、テクノクラート型ガバナンス、社会的保守主義を融合している。こうした知的趨勢と地理的趨勢の合流点である。毎週、the Lee Kuan Yew School of Public PolicyUrban Redevelopment Authorityとが、アジア諸国(India, China, Saudi Arabia, Kazakhstanなど)の公共政策スタッフたちの訪問を受け入れている。出席者たちが学ぶのは、持続可能なアーキテクチュア、公共住宅部門の管理、衛生・循環システムのアップグレイド、政府と民間と大学のパートナーシップ、技術革新を促す産業集積、などだ。

これらこそが21世紀の高いパフォーマンスを示すガバナンスの根幹である。中東やアフリカの政府にもアジア型のマスター・プランは広まっている。世界人口の多数は、西側モデルではなく、アジア・モデルに向かっている。


 ドルの時代は終わるか

FT May 17, 2019

The dollar will dominate for a while yet

Gillian Tett

今週、中国がアメリカ財務省証券を売ったことが債券市場で緊張を生んだ。それは205億ドルであり、大きな額ではない。しかし貿易戦争の中で、次の疑念を生じる。資本市場や通貨の戦争になるのか? その結果、アメリカドルの支配は終わるのか?

今週初め、チューリッヒでthe IMF and Swiss National Bankが主催する中央銀行の会合があった。それはBarry Eichengreenの研究から始まった。USドルが国際通貨システムの実質的なアンカーであることに関して、学者たちの間には意見の対立がある。

Eichengreenは、ドルによる支配は最終的に終わり、世界が複数通貨によるシステムに移行する、と考える。19世紀のスターリングもそうだった。新興市場はドル建債務を増やし過ぎだし、アメリカの金融政策にとっても不利益だ。アメリカでは過度のドル高や低金利を生じる。

他方で、Gita GopinathIMF主任エコノミスト)を含むハーヴァード大学のエコノミストたちは、ドルの優位が「粘着的」であるという実証的な議論を示す。世界の貿易や融資に占めるドル建の比率が非常に高い。特に、人民元が国際的な利用を制限している限り、この状態は続くだろう。

20177月から20187月、ロシアの中央銀行は、ドルの外貨準備を減らして、ユーロと人民元に代えようとした。ロシアとアメリカの貿易額はGDP1.5%でしかなく、EUと中国と合わせたロシアの貿易額は24.3%だった。しかし、貿易の契約は55%がドル建であり、ロシア企業の債務や収入も54%はドル建だった。

ロシアは特別だが、新興市場の傾向はドルに依存している現状を認めている。どの政府もドル準備を減らすことを考えていない。

しかし、会議に参加したFintech企業の姿勢は違った。彼らはブロックチェーンや暗号通貨が支配的になると確信している。もしドルの支配が終わる予兆を探すなら、中国ではなく、シリコンバレーを見るべきだ。


 マクロ経済政策のリバランス

VOX 13 May 2019

Evolution or revolution: An afterword

Olivier Blanchard, Lawrence H. Summers

1970年代の不況とインフレーションでそうだったように、マクロ政策の見直しが進むだろう。通貨、財政、金融政策のバランスが変わる。

ゼロに近い水準では金融政策の効果に限界がある。財政政策がもっと重視されるだろう。日本の例が示唆的だ。ゼロ金利、積極的な量的緩和、財政支出の拡大は、失敗とみなされてきたが、正しかった。

ゼロ近辺まで下がらない国でも、同じような見直しが必要だ。しかし、日本の債務がGDP比で150%を超えても増大したことには、疑問が生じている。投資家たちは高い金利を求めるだろう。その場合の対策には何があるか。

******************************** 

The Economist May 4th 2019

Tech’s ride on the banks

India’s election: Agent orange

Crisis in the Sahel: The West’s forgotten war

Political demonstrations: Tiananmen in 1919

Bagehot: The followership problem

Banking: A bank in your pocket

The Sahel: The new war on jihadism

Global meat-eating is on the rise, bringing surprising benefits

(コメント) スマートフォンがあれば、他は何にも要らないような生活に慣れてしまった世代が増えてくるなら、銀行業も視点で待っているのでは死滅します。スマホのアプリで金融サービスを売るしかありません。

もう1つ、驚く記事は、世界の肉食化です。それは環境に負担となりますが、中国だけでなく、おそらく中東やインドも、そしてアフリカも、何億人が鶏や豚、牛肉を食べるようになるのです。

アフリカのサヘル地方では、西側の支援を受けて、破綻国家が再建され、聖戦主義者の浸透と暴力の蔓延を抑え込もうとしています。

****************************** 

IPEの想像力 5/20/19

The Economist May 4th 2019の特集記事Bankingを読めば、人によっては、目が覚めるでしょう。あるいは、息が止まるかもしれません。

Bagehotの考察と、サヘルに広がるイスラム国についても、優れた、思わず考え込む記事です。

****

イギリス政治の「指導力の危機」が言われます。日本など、多くの豊かな国でも、それに同意する人がいるでしょう。現代では、さまざまな有権者の気持ちに応える人間でなければ、指導者になるのはむつかしい。

しかし、かつてPeter Druckerは、「指導力Leadership」ではなく、「支持者の姿勢Followership」こそが問題だ、と主張しました。イギリス議会には多くの優れた政治家がいるけれど、これほど敵意に満ちた有権者の声に応えることはできません。

Walter Bagehotによれば、政治体制が生き残るには、市民から権威・権力を得て、それを行使することで政府が成果を示さねばなりません。イギリス政府が伝統的に権威を得る方法は3つありました。1.有権者の地位を守ってやる。2.階級的な忠誠心を満たす。3.政府が問題を解決できる。政府はこれら3つを組み合わせました。

しかし、現代はそれができません。地位を守ることはむつかしい。階級意識は薄れた。そして、戦争でも金融危機でも、Brexit交渉でも、政府は多くの失敗を重ねた。

権威や指導力の崩壊は、支持者の姿勢の変化によって強まった、と記事は「政治文化」を指摘します。1963年の重要な研究は、イギリス人の政治制度に寄せる信頼が、ローカルな市民生活の繁栄と結びついている、と論じていたからです。今や、労働組合はすたれ、行政は中央集権化し、地域の産業も空洞化してしまいました。

誰も指導者を信用しない。それは政治に、シニシズム(冷笑)や突発的な過激化をもたらします。怒り、失望、そして暴力が結びつく「怨嗟の政治」が広まるのです。記事は、欧州議会選挙で最大支持率を得たのがBrexit党であり、「怨嗟」を操縦するNigel Farageの才能を憂慮します。

****

銀行Bankingの特集記事はどうか? ネットによる銀行業の浸食・解体が進んでいることを記事は紹介します。特に、中国、韓国、インドネシアであり、シンガポールやイギリスに注目します。

アメリカや日本では、多くの複雑な規制や行政が、自国の銀行業を保護しています。

しかし、銀行業の優位は、そもそも、根本から失われてしまうでしょう。若い人たちは、常に、スマホを駆使して生活しています。Amazonで何でも買うように、銀行のサービスもスマホで利用できなければ無意味です。銀行業がAmazonAlibabaになるか、その逆の方が早いか、と問うなら、答えは明白です。巨大な組織、プライド、老人たちの支配する銀行は、滅びる恐竜です。

すでに、中国のスマホでは支払いや預金ができるし、韓国のスマホのアプリには楽しいアイコンで銀行サービスが並んでいます。発展途上諸国の、貧しい、数十億の人々は、これまで銀行と全く縁のない暮らしでした。しかし、安価な携帯電話で、支払いや口座を通じた少額の借入れができるのです。ややこしい暗証番号ではなく、QRコードや顔認証などが組み合わされます。

コストのかかる支店網やスタッフに支出することなく、ネットの「銀行」業は新しいアプリや顧客の開拓で優位に立ち、利用者への魅力を高めることに集中し、既存の銀行が提供するサービスを仲介して収入を得ます。旧銀行は、顧客を提供してもらうために競って価格を下げ、注文に応じてサービスを改善します。超巨大スーパーに農作物を売る、農家のような存在になるかもしれません。

旧銀行の支店が町から消滅し、ネットで仲介するネオバンクたちの消費者優先時代に、シンガポールやイギリスのような、有能で、積極的な銀行行政のセンターに「ネオバンク」は集まります。

******************************