IPEの果樹園2019

今週のReview

5/13-18

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Brexitと新しい政治的断層 ・・・大企業、富裕層の改革論 ・・・インドのソーシャル・メディア選挙 ・・・米中通商合意と為替レート ・・・進歩的資本主義の再建 ・・・トランプの文化戦争 ・・・2つの54運動 ・・・欧州議会選挙 ・・・世界経済の低金利状態 ・・・アメリカとイランの危機 ・・・台湾民主主義とアメリカ

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexitと新しい政治的断層

The Guardian, Fri 3 May 2019

The Guardian view on local elections: national lessons for Brexit

Editorial

FT May 4, 2019

Something is rotten in Britain’s political system

イギリスの政治システムが世界で受けていた尊敬は、3年前から失われた。

今週、防衛大臣が解任された。国家安全保障会議の内容を漏らしたことがその理由だ。また、地方選挙が行われて、保守党は多数の議席を失ったが、同時に、労働党も議席を減らした。それは、メイ首相がBrexitの扱いに失敗した、という有権者の厳しい評価であり、また、労働党党首の自称する、革命を担う姿勢に、ビジネス界が持つ強い不満だ。

Brexit投票は、分断、不満、機能不全を示すものだったが、その修復にはまだ数年を要するだろう。たとえ、メイとコービンが合意しても、それが議会で多数に支持されるか、また、その後に国民投票を必要とするかもしれない。そして、Brexitが実現しても、将来のEUとの関係を決めるには、地域補助金、農業、漁業に関する政策を争うむつかしい仕事が待っている。

イギリスの政治文化、議会制度の近代化、ガバナンスの改革が何より必要だ。

The Guardian, Sun 5 May 2019

A cynical Westminster fix won’t end the Brexit nightmares of May and Corbyn

Andrew Rawnsley

The Observer, Sun 5 May 2019

The Observer view on the local elections

Observer editorial

サンダーランドはBrexitの投票結果が最初に示された選挙区の1つであった。しかもその離脱派の優位の大きさは、政治エスタブリッシュメントと金融市場に衝撃となった。その時以来、サンダーランドはBrexitのシンボルとなり、かつての鉱山町、反移民、反ヨーロッパの、「取り残された」コミュニティー感情を示す典型になった。

木曜日の地方選挙では、何か興味深いことが起きていた。サンダーランドで労働党は票を得らしたが、それはBrexitを支持するからではなかった。労働党から自民党への票の移動が起きたのだ。自民党は2議席増やし、グリーンは初めて1議席を得た。

その結果を2大政党がBrexitを実行できないことへの批判とみなすことは、間違いだ。離脱派が不満であるだけでなく、労働党の支持者の多くは残留派だが、残留派も不満である。

政府は全く機能していない。首相の権威は粉砕された。閣僚たちは国家の運営ではなく、自分の地位に強い関心がある。メイは最悪の首相であることが分かった。離脱と残留の僅差の結果を妥協させるのではなく、Brexit交渉が保守党のヨーロッパ懐疑派の人質になることを許したのだ。

メイは何年にもわたって公共サービスを削減し続けた。それは家庭に重い負担となったのだ。子供の貧困は記録的水準に達すると予測されている。学校は金曜日の午後を閉鎖するしかなくなった。140万人の高齢者たちが基本的な日々の支援を受けられない。

これらは野党である労働党が議席を伸ばすことを意味していた。しかし、労働党は議席を失った。先週、われわれはジェレミー・コービンに、Brexitについて労働党の立場を明確に示すよう求めた。しかし、労働党はそれを避けていた。彼らは、EU加盟国としての利益を残し、職場を守り、総選挙する(労働党政権に代わる)、という、実現不可能な、好ましい結果を求めていた。

保守党と労働党はBrexit案の取り引きを行っている。それがメイの利益になることは明白だ。辞任するまでにBrexitを何とか実現したい彼女にとって、労働党との取引は、おそらく、唯一の可能な道である。もし合意した案を労働党議員が十分に支持しなくても、保守党はBrexitを邪魔したと労働党を責めることができる。

しかし、メイと取引するのは労働党にとって、不可解なほどまずい戦略だ。メイの次の首相がそれを守る保証はない。しかも、それはヨーロッパ懐疑派の人物だろう。将来、保守党がより強硬なBrexitを実現するために連立政権を組むことを妨げない。

さまざまな証拠から見て、労働党支持者の4分の3は離脱に投票するのを間違いと思っているだろう。離脱派の労働党議員の選挙区でも、労働党支持者の多くは残留派である。欧州議会選挙で労働党がなすべきことは、国民投票を支持する小党と連携することだ。その意味で、自由民主党が新しい政治グループを拒んだことは非常に残念だ。彼らは主要政党への不満を吸収する、傲慢な戦略を取った。

労働党は、いますぐ、新しい合意案と国民投票を支持する立場を明確にするべきだ。欧州議会選挙では、国民投票を支持する党派が分裂せず、協力することが重要だ。

FT May 5, 2019

Brexit dangerously overshadows the UK’s social mobility crisis

Alan Milburn

The Guardian, Mon 6 May 2019

I’m a Labour MP, and a second referendum was a difficult sell on the doorstep

Andrew Gwynne

FT May 6, 2019

A new Brexit divide is driving the UK to a second vote

Robert Shrimsley

イギリス政治には新しい分断が現れている。重要な亀裂は、もはや、残留派と離脱派の間にない。それは、純粋派とプラグマティストの間にある。

Brexitがすべてを変えると信じる者と、普通の生活を取り戻すべきだと考える者。なんかBrexitを実現する道があると思う者と、それを求めない者。

保守党と労働党の指導部はBrexitを実現する道を探す。それによって支持者と議員たちを指導部に従わせることができるから。Brexitの妥協案を模索する過程に力を注ぐ。

他方で、純粋なBrexitを求める者たちと、第2の国民投票を求める残留派とが、妥協案と闘う。どちらの政党でも、残念ながら、純粋派が増えている。そして中間地帯は減少し、プラグマティストは弾圧される。

Brexitがイギリス政治の主要な分断線であることはなくなるだろう。しかし、Brexitの答えはないまま、速やかにイギリス政治を正常化する、という2大政党の願いはかなわない。

PS May 7, 2019

Stories That Can’t End Well

HAROLD JAMES

フェイク・ニュース、不誠実な政治の時代に、新しい協議が現れた。すべてが物語で決まる。

現在の政治は、かつて社会科学を重視してガバナンスを議論した100年間とは、まったく異なっている。政策の経験的な根拠は重視されなくなった。

特に、1970年代にケインズ主義が政策担当者から支持されなくなり、今や、大規模な金融政策の実験が始まっている。2008年の金融危機が、政策の根拠を失わせた。多くの原因を持つ複雑な事態に関して、もはや説明として受け入れられるのは、単純なストーリである。

歴史から話を取り出して、政策論争において売り歩く者が増えている。イギリスのEU離脱投票は、ヘンリー8世がカトリック教会から離脱したのと似ている、と。しかし、それは混乱を生じ、不和の種をまき、激しい抗争に至る。

The Guardian, Wed 8 May 2019

Brexit has robbed Labour of its insurgency. It’s time to claw it back

Owen Jones

FT May 8, 2019

UK far-right extremism: hate spreads from the fringe

David Bond and Helen Warrell in London

FT May 9, 2019

Why life in the UK feels better than ever

Simon Kuper


 大企業、富裕層の改革論

FT May 3, 2019

The flood of tech IPOs risks worsening inequality

Merryn Somerset

NYT May 3, 2019

Why the Rich Don’t Get Audited

By Jesse Eisinger and Paul Kiel

FT May 5, 2019

Bosses must dare to leave their bubble

Andrew Edgecliffe-Johnson

先週、世界で最も裕福な投資家と起業重役たち4000人が、the Milken Instituteの年次会合に集まって「繁栄を分かち合う方法」を議論した。

ミルケンMichael Milkenは、1980年代にジャンクボンドで企業買収を推進したころ、略奪者(捕食者)の祭典、として知られた年次会合を主催していた。しかし、今ではパウエル連銀議長も出席している。連銀のハト派的な姿勢はアメリカの強気相場をさらに延長する意味で、和やかなムードが支配していた。

しかし、2008年の金融危機以降、ダヴォスからアスペンまで、こうした会合には不安があった。二層化した経済の頂点にある者たちの不安だ。特に、2016年、Brexitとドナルド・トランプが選挙で勝利したことが、彼ら、略奪者たちを不安にしたのだ。ポピュリズム、不平等、保護主義などの、不安定化する諸力が、次にどんな衝撃を与えるか、彼らは理解しようと努めてきた。

アメリカの若者たちが社会主義や左派の政治家を支持し始めている。階級戦争が迫っている、という報告者もいた。資本主義を、より包摂的な、持続可能な方向へ修正するべきだ、というのがコンセンサスになりつつある。しかし、反対派のアウトサイダーから、その改善策を聞くのはむつかしい。

だからCEOたちは、イヴァンカ・トランプが呼びかける、ブルーカラー労働者たちの再訓練、鉱夫であれ、労働組合指導者であれ、自動化によって職場を破壊される者たちへの救済プログラムに同意する。ソ連崩壊後に生まれた若者たちは、社会主義を誤解している、と言う者もいるが、彼らは若者の意見を聞かない。

オランダの作家Rutger Bregmanは、1月のダヴォスでパネリストたちを見て、富裕層による脱税を議論せずに不平等について語るのは、水の話をしない消防士たちみたいだ、とソーシャル・メディアに書き込んだ。批判者が参加する会合を嫌うCEOが多い。エリートたちのそのような集団思考は、反動を回避するうえでマイナスだ。彼らはもっと不満をじかに聞くべきだ。

毎年、ミルケンの会合では、そのような攻撃的な批判家にも出席を求めている。資本主義に反対する活動家たち、規制当局、富裕層を批判する者、極端な政治党派など、彼らと同席する時間を持つことで、他者が自分たちをどのように見ているか、システムが改革に向けて責任を果たすと、どのように示すべきか、考えることを強いるだろう。

NYT May 9, 2019

It’s Time to Break Up Facebook

By Chris Hughes

NYT May 9, 2019

Chris Hughes’s Call to Break Up Facebook: 5 Takeaways

By The Editorial Board

Facebookを共同で立ち上げたChris Hughesは、その分割を主張した。その要点を整理すれば5つある。

1.ザッカーバーグMark Zuckerbergのパワーが異常に大きい。それは市場支配と、規制の欠如による。2.創設者たちは、情報メディアが社会に及ぼすパワーを意識していなかった。3.そのパワーと影響力はシリコンバレーにとどまらない。4Facebookに代替する手段がない。それこそが問題だ。5.政府はFacebookを規制する手段を持っているが、その意志がない。

HughesFacebookの分割を要求する。政治にも、その動きはある。民主党の大統領候補Elizabeth Warren は、明確に、Amazon, Apple, Google and Facebookのようなハイテク大企業を分割するよう求めてきた。


 インドのソーシャル・メディア選挙

PS May 3, 2019

Turbocharging India’s Digital Economy

ALOK KSHIRSAGAR , ANU MADGAVKAR

インドはデジタル化による経済の躍進に成功しつつある。コアのデジタル産業、そして多くのデジタル化による機会を、農業、教育、エネルギー、金融サービス、医療、ロジスティクスなどでも、多くのビジネスが育っている。労働者の利益にもなるように、政府は多くのことを求められる。

FT May 5, 2019

India: the WhatsApp election

Madhumita Murgia in London, Stephanie Findlay in New Delhi and Andres Schipani in São Paulo

インドの与党BJPBharatiya Janata Party)は、WhatsAppを使ってヒンドゥー・ナショナリズムを広める、世界で最も先進的なデジタル政治キャンペーンを駆使している。それはモディを熱狂的に支持するボランティアの若者たちが担っている。

インドにおけるインターネット・アクセスはスマートフォンと安価なデータ通信の普及で、WhatsApp の利用者は3億人を超えている。彼らの世界最大の市場だ。

昨年10月の大統領選挙で、極右の候補者Jair Bolsonaroがブラジル大統領に選ばれたが、その選挙戦で有害なうわさや情報操作がWhatsAppに依拠して大規模に行われた。今や、インドがメッセージ・アプリによる環境変化を受け、数百万の小グループが匿名で情報を共有することが、世界最大の民主主義をどう変えるか、試されている。

これらがフェイク・ニュースの媒体になる、と警告する声が多くある。「WhatsAppは、未確認の虚偽情報、フェイクやでたらめ、などの汚水溜めになっている。」

スマートフォン利用者が増えた、ブラジル、ナイジェリア、インドのような国では、WhatsAppが主要な情報源である。それは、スペインやUKなど、ヨーロッパでも広まっている。

Facebook2014年にWhatsApp220億ドルで買収した。その後、Facebookグループで最も重要な通信媒体になっている。そして、利用者たちが情報操作されることに弱い立場を放置している、と批判する声が強い。特に、それは選挙において深刻だ。

FT May 8, 2019

West Bengal’s communist past lingers amid India’s election fight

Henny Sender

NYT May 8, 2019

Modi Reminds India of Indira Gandhi. Will He Share Her Electoral Fate?

By Gyan Prakash


 米中通商合意と為替レート

PS May 3, 2019

Leave the Renminbi Out of US-China Trade Talks

KENNETH ROGOFF

米中の通商合意は、グローバルな景気変動を強めるのか、あるいは、次のアジア金融危機に向かう火種となるのか? もし合意は、言われているようなものとして、中国の為替レート体制を切り刻んで、時代遅れの、極端に固定した為替レートを強いるなら、その答えはYesだろう。

人民元の為替レートをUSドルに対して安定化するということは、中国の通貨当局にアメリカと合わせて金利を変更するか、あるいは、為替レートへの圧力を避けるために資本規制することを求める。しかし、中国経済は、要するに、あまりにも巨大で、グローバル化しており、小国・開放経済にふさわしい、そのような為替レート政策を守ることはできない。

さらに、人民元をドルに対して安定化するアプローチは、中国とアメリカの景気変動がめったに一致しないのだから、意味がない。景気が悪化するなら、住宅部門の過剰な投資、地方政府の債務依存がある中で、中国は必ずむつかしい政治問題に直面する。そのとき、中国人民銀行は、為替レートを維持することにこだわらず、金融緩和する必要がある。

金融的、あるいは、マクロ経済の深刻な圧力にさらされた国が、非弾力的な為替レートを維持するのは、よく知られた「破滅の処方箋」である。そのような為替レート合意が、他の通商上の「ウィン・ウィン」の要素に加わるかもしれない。

たとえば、知的財産を厳しく守る、という合意だ。この分野の合意は、当面、アメリカ企業やヨーロッパ企業の利益だが、長期的には、中国の製造業やハイテク部門の競争力と技術革新を刺激するだろう。それは、1800年頃にアメリカが、今の中国企業と同じく、主にイギリス企業の知的財産を奪っていたのだ。アメリカ人は広く外国企業のアイデアや設計図をコピーしていた。

もう1つの「ウィン・ウィン」は、中国政府が企業への補助金をやめることだ。中国の市場改革は、以前に比べて、後退している。政府高官も、中国では危機がないと改革できない、と認めていた。その意味では、成長を維持する機関車として、アメリカの消費者に頼るな、と要求するトランプ大統領は、中国経済の「救世主」である。

しかし、人民元の為替レートを人為的に安くしている、という主張は有害であり、そもそも間違いだ。それは、中国が独立した金融政策を取るため、為替レートのより大きな弾力性を認める、という正しい改革に反している。

人民元レートが安すぎる、と批判したのは、中国製品の競争力が低賃金によるものだと認めない、アメリカ側の発想が間違っていた。また近年、中国当局は、人民元レートの減価を抑えるために、市場圧力より高く維持する介入を行っている。急激な資本流出を恐れているからだ。

経常収支の不均衡に関するトランプ政権の理解も間違いだ。それは国内貯蓄と国内投資の差額であるから、もし2国間で中国に対する経常収支赤字が減っても、国内不均衡がそのままなら、アメリカは他のアジアの国、たとえば、ベトナムに対して大幅な赤字となるだろう。

中国をグローバルな通商ルールに従うよう圧力をかけるのは、世界全体によって重要なことだ。しかし、その金融政策の自立性を損なうなら、それはアメリカ政府の交渉チームがパワーを誇示したとしても、その愚かさの証拠でしかない。


 進歩的資本主義の再建

PS May 3, 2019

The Economy We Need

JOSEPH E. STIGLITZ

アメリカは、そして、それをモデルとした西欧諸国は、ネオリベラリズムの失敗を示している。労働者たちの生活水準は停滞し、寿命は短縮した。

資本主義は規制を必要とする。略奪と富の生産を区別しなければならない。中国の台頭と技術革新は世界中に影響を及ぼした。しかし、アメリカのような大きな不平等を、北欧は示していない。

「進歩的な資本主義」は、医療、年金、教育、住宅、十分な賃金をもたらす、21世紀の社会契約に依拠するだろう。

PS May 6, 2019

Why Capitalism Needs Populism

RAGHURAM G. RAJAN

アメリカで大企業が攻撃されている。アマゾンはニューヨークの新本社計画を撤回し、共和党上院議員Lindsey Grahamは、Facebookの市場における競争相手がないことに懸念を示し、民主党上院議員Elizabeth Warrenは、その分割を求めた。またWarrenは、企業の執行委員会の40%は労働者が占める法制化を語った。

自由市場の国、アメリカで、そのような提案は場違いだ。しかし、論争は本物だ。アメリカ史における資本主義批判は、経済権力の集中とその政治的影響力に反対する闘いとして存在した。少数の企業が経済を支配すれば、彼らは必然的に国家の統制手段を使って団結し、民間と政府のエリートたちが「神聖ならざる同盟」を創りだす。

それはロシアで起きていることだ。ロシアの民主主義や資本主義は名ばかりだ。採取産業や銀行業はオリーガーキーたちが完全に支配し、クレムリンと結託して、いかなる経済・政治競争も許さない。それはまさに、アメリカのアイゼンハワー大統領が1961年に退任演説で懸念した「軍産複合体」だ。

すでに多くのアメリカ産業が少数の「スーパースター」企業によって支配されている。「民主的社会主義者」やポピュリスト的な抵抗運動が、アイゼンハワーの警告を引き継いでいる。しかしロシアと違って、アメリカのスーパースター企業が強力であるのは、彼らが非常に生産的であるからだ。それゆえ、彼らを破壊するのではなく、慎重に改造しなければならない。

グローバル・サプライ・チェーンの時代である。アメリカ企業は、範囲の利益、ネットワーク効果、リアル・タイムのデータ処理で、生産過程のすべての段階でパフォーマンスと効率を高める。こうした企業は政府の圧力も恐れない。だからアマゾンは、トランプ政権を批判するThe Washington Postを支援できる。

ただし、スーパースター企業の高い生産効率が永久に続く保証はない。特に、市場で十分な競争が行われないと、ロビー活動が増えて、既存企業に有利な規制を求める。また、金融危機後の銀行のように規制強化を避ける。それどころか、生産性ではなく、知的財産のような法律や規制、障壁に依拠して、彼らは利潤を増やしている。

資本主義を競争的に保つよう、政府に圧力をかけるべきだ。普通の市民たちが、コミュニティーにおいて、民主的に組織することだ。アメリカでは、19世紀後半のポピュリスト運動、20世紀前半の改革運動が、鉄道や銀行のような、重要産業における独占に反対して現れた。1890年、シャーマン反トラスト法、1933年、グラス=スティーガル法のような法制度は、(間接的だが)その成果であった。

現在、最も良い職場は、スーパースター企業にあり、少数の有名大学卒業生が占めている。中小企業は成長する道を支配的企業によって阻まれ、小都市や、巨大都市の周辺部から、経済活動が失われている。その結果、ポピュリズムが再現している。

政治家たちは集まってくるが、問題を解決するとは限らない。1930年代が示したように、代替案は現状維持よりも悪いものだった。有権者たちが、衰退するフランスの村や、アメリカの小さなタウンで、絶望し、市場経済に希望を失うなら、エスニックなナショナリズムや全面的な社会主義の誘惑に負けるだろう。、

正しい対応は、革命ではなくリバランス(再調整)だ。反トラスト規制のように、資本主義は上からの改革を必要とする。また、草の根の改革運動による政策要求も重要だ。そして、荒廃したコミュニティーを再生し、市場経済に生きる人々の信頼を取り戻す。

ポピュリストたちの批判をよく聴くべきだ。それは活力ある市場と民主主義にとって欠かせない。

FT May 7, 2019

Public options are the key to restoring the middle-class life

Joseph Stiglitz

不完全な、非対称的な情報により、私的な市場はうまく機能しない。十分な規制があるから、競争が行われる。住宅融資も、医療保険も、年金もそうだ。

PS May 7, 2019

Keeping US Workers in the Game

LAURA TYSON , LENNY MENDONCA

PS May 8, 2019

Is America Ready for a Welfare State?

JORGE G. CASTAÑEDA

PS May 8, 2019

An Industrial Policy for Good Jobs

DANI RODRIK , CHARLES SABEL

発展した経済でも、発展途上の経済でも、いたるところに二重経済(生産性の二重構造)が広がっている。先進的な生産者が大都市圏に集中し、生産性の低い活動とコミュニティーの多くと併存している。それこそが現代の病気を生じている。すなわち、不平等、排除、統治するエリートたちへの不信、権威主義的なポピュリストへの投票。

多くの政策論は、こうした諸問題の源泉を見逃している。たとえば、税金によって財政的な移転・再分配を行うのは、生産性の二重構造を前提し、それを受け入れたまま、給付によって、その結果を緩和するだけである。また、教育投資、ユニバーサル・ベーシック・インカム、社会的な投資基金、は職場の改善を助けるが、改善された条件が活用されるとは限らない。ケインズ主義的な需要管理では、良い職場を増やすことが見逃されている。

新しい「生産性重視の政策」と「生産的雇用の拡大」とを、現実の経済で直接に交わるような組み合わせが求められる。3つの要素が相互に強め合うだろう。1.既存の職場でスキルや生産性を高める。2.良い職場を増やす。「良い職場」とは、現地で、状況に応じて決めるしかない。3.積極的な労働市場政策。

FoxconnAmazonの計画が失敗したのは、投資環境の変化に応じることは考えていないからだ。彼らは撤退するが、革新を重視するガバナンスはすべてを考慮して、「良い職場」を増やさねばならない。政策、規制、補助金を駆使して、企業に好ましい協力・連携の条件、信頼を創りだすのが、ガバナンスだ。

PS May 9, 2019

The Case for Intelligent Industrial Policy

DALIA MARIN

PS May 9, 2019

How the Failure of “Prestige Markets” Fuels Populism

RICARDO HAUSMANN


 トランプの文化戦争

PS May 3, 2019

The Heights of Trump’s Recklessness

JONATHAN KUTTAB

FT May 6, 2019

Donald Trump is updating America’s historic ruthlessness

Gideon Rachman

ドナルド・トランプは多くのばかげた、途方もないことを言うから、すべてを思い出すことはむつかしい。その中で1つ、特に記憶しているのは、アメリカ軍がイラクを占領した後、「われわれが石油を保持し続けるべきだった」と繰り返し述べたことだ。

ワシントンのエスタブリッシュメントにとって、それもトランプの失言だった。タカ派の中でも特に強硬なタカ派であったチェイニー元副大統領でも、イラク侵攻を占領戦争とは決して言わなかった。しかし、トランプは巧妙に論争を広めているのだ。これが彼の哲学と有権者へのアピールに役立つ、と彼は直感した。

多くのアメリカ人が自分たちのパワーと生活水準は低下しているという不安を抱いているとき、トランプはアメリカの無慈悲さを回復するよう訴える。彼には「政治的な正しさ」など存在しない。「アメリカを再び偉大にする(MAGA)」というスローガンの意味は、アメリカが1番であることを強いる無慈悲さの復活だ。

トランプは大統領執務室の壁にアンドリュー・ジャクソン大統領の肖像画をかけている。ジャクソンはかつて、アメリカ建国の偉人として尊敬されたが、より新しい歴史家たちは、ネイティブ・アメリカンを土地から排除するために、そのジェノサイドを彼が助けたと非難している。トランプは、ジャクソンを称えることで、アメリカの西部征服が示す無慈悲さを称えるのだ。

それはまた、アメリカ国内の文化戦争を意味する。ジャクソンや、南北戦争の南軍司令官で奴隷の所有者、Robert E. Leeを称えることで、トランプはアメリカの右翼が望むことを語っている。彼らにとって、アメリカの歴史には謝罪することなど1つもない。

これは歴史の論争ではない。政治の、現代の論争だ。トランプの挑発は、左派の、特に大学の左派知識人がアメリカ史の醜い側面をより明確に攻撃する姿勢を、意識している。トランプと進歩的左派とは、奇妙な形で意見が一致する。アメリカ国民は野蛮で無慈悲な行動によって建国した、と主張する。その違いは、左派がアメリカ史の修正を求め、トランプと彼の支持者たちはアメリカ史のすべてを、無慈悲さも含めて、称賛することだ。トランプの考えでは、アメリカがイスラム国や、あるいは、ロシアや中国という、無慈悲な敵と対決するときに、軟弱であることは破滅を意味する。

しかし、どれほど無慈悲であるのを許すか? 人種の隔離を支持し、奴隷制を支持し、敵とみなす者には天然痘をばらまくのか? それはないだろう。

トランプが有権者に示す約束は疑わしい。それは「偉大さ」ではなく、国内の分断と騒乱を促す主張である。ロシアのインターネット情報操作は、しばしば、文化戦争を刺激した。

リベラルな価値に背を向けたことは、アメリカを弱めた。もし中国との戦いが単に経済力だけであるなら、アメリカは負けるだろう。中国の経済規模は、購買力平価でアメリカを超えている。軍備に関して、核兵器ならロシアはアメリカに匹敵し、戦艦なら中国はアメリカよりも多い。

中国やロシアがアメリカを恐れるのは、アイデアの戦いだ。権威主義的支配者たちは、個人や政治の自由、人権、法の支配、といったアメリカのモデルが示す魅力を恐れる。

アメリカはかつて「自由世界の指導者」であった。しかし、トランプは違う。彼は独裁者にあこがれ、リベラルな価値を侮辱する。

NYT May 7, 2019

How to Defeat Trump

By Thomas L. Friedman

FT May 9, 2019

Trump’s angry unilateralism is a cry of pain

Philip Stephens

FT May 9, 2019

Trump treats Germany like ‘America’s worst ally’

Constanze Stelzenmüller


 トランプ景気

VOX 03 May 2019

The next US recession is likely to be around the corner

Franck Portier

NYT May 6, 2019

The Economics of Donald J. Keynes

By Paul Krugman

トランプの好景気はケインズ主義によるものだ。共和党は、偽善者だ。財政健全化を理由に、オバマ政権において高失業に応じた財政刺激策にも反対したが、トランプ政権では、低失業下で大幅減税を実現し、社会福祉や労働者の利益に関係ない分野で政府支出を増やしている。


 2つの54運動

NYT May 3, 2019

May Fourth, the Day That Changed China

By Jeffrey N. Wasserstrom

PS May 6, 2019

China’s Path Not Taken

IAN BURUMA

今月は、中国の近代史におけるもっとも重要な文化・政治的事件から100周年である。191954日、北京の学生と知識人たちは大衆抗議デモを行った。「封建主義」の打倒と、政治的自由を要求した。1世紀を経て、共産党独裁体制もこれを祝福する。しかし、54日は、もう1つの抗議、19894月から6月の天安門を意味するが、それは公式に言及されない。

54日に何が起きたのか? 抗議の表向きの理由は、ヴェルサイユ条約の一部として、ドイツの領土が日本に移されたことだ。それは中国の愛国心にとって衝撃となり、国民の弱さと腐敗の典型的な表現であった。それはヨーロッパの啓蒙主義に似ていた。54運動は、自由恋愛、実験精神、フェミニズム、社会主義、教育改革、など、多くのものを意味した。54運動の2つのシンボルは、1989年に天安門広場で自由の女神に似た像が称えたように、「科学」と「民主主義」であった。

54運動を始めたのは北京大学の学生たちだった。

北京大学の学長Cai Yuanpei蔡元培は、知的自由、世界市民主義、寛容、を求めた。マルクス主義者の革命家Chen Duxiu陳独秀は、後に共産党を指導し、毛沢東に排除された。大学で最も著名な思想家Hu Shih胡適は、アメリカの思想家ジョン・デューイをモデルとし、言語改革を唱えていた。

学生たちも、ラディカルな運動家と穏健派との間で分裂していた。最終的に、中五億はリベラルな方向へ進まなかった。Chiang Kai-shek蒋介石の国民党と共産党は、1920年代、30年代に内戦を続けたが、日本の野蛮な占領と戦争の後、1949年、共産党が勝利した。

政府による54運動の記念式典では抑えられた、よりリベラルな、寛容な、オープンな思考は、最初、革命運動の中で強かった。運動に参加した最大の文学者、Lu Xun魯迅は、その自由な精神を、共産主義革命の10年以上前に死んでいなければ、確実に、毛沢東によって弾圧されただろう。政府の記念式典では、彼も言及されなかった。

同様の分裂状態が1989年の5月にもあった。学生たちの抗議活動は暴力を避けていたが、社会・政治改革を交渉するよう政府に求める者と、民主革命を求めて、それが実現するまで行動する者がいた。事態は、共産党の指導者たちが学生の要求を拒んで、広場の選挙をやめなければ厳しい弾圧を警告したことで急変した。一部はキャンパスに戻って静かに抗議を続け、他は死を覚悟しても民主化をあきらめなかった。64日、弾圧が行われた。

悲劇的な近代史を知るなら、中国にはリベラルな民主主義を受け入れる準備がない、あるいは、それがふさわしくない、と考える者も中国の内外にいる。教育を受けた中国人の多くは、民主主義は必ずカオスや暴力に至る、と言う。共産党の公式イデオロギーを信じていない人々も、一等毒性体制を支持すると言う。

それゆえ、54運動のリベラルな潮流があったことを忘れてはならない。Lu Xun魯迅の著作、Cai Yuanpei蔡元培の主張、より新しいLiu Xiaobo劉暁波がノーベル賞を得たことも、中国には異なる可能性が豊富に存在することを示している。


 ベネズエラ

NYT May 3, 2019

Juan Guaidó’s Uprising Failed. What’s Next for Venezuela?

By Michael Shifter and Bruno Binetti

FP MAY 3, 2019

U.S. Mulls Military Options in Venezuela

BY LARA SELIGMAN


 アルゼンチン

FT May 4, 2019

Why Argentina’s latest policy pivot might just work

Colby Smith


 欧州議会選挙

FT May 5, 2019

Europe must rethink fiscal rules to combat populism

Wolfgang Münchau

FT May 6, 2019

Eurozone to rebound on domestic and China stimulus 

Gavyn Davies

NYT May 7, 2019

Macron Puts Germany on Trial

By Sylvie Kauffmann

PS May 8, 2019

Don’t Fear the Euroskeptics

DANIEL GROS

欧州議会選挙では懐疑派が増えるだろう。ヨーロッパ懐疑派をEUへの脅威とみなすより、ヨーロッパ統合の新しい議論を始める機会とみなすべきだ。

アメリカ合衆国も、州の権利や連邦政府の財源に関して、長い論争を経たものだ。例えば、アメリカ連邦準備銀行制度は、1世紀以上も銀行危機を頻繁に経験した後、ようやく設立されたのだ。

ヨーロッパ市民たちは、今や、EUもポピュリストたちも、ともに支持しているように見える。

PS May 9, 2019

More or Less Europe?

KEMAL DERVIŞ

欧州議会選挙は、統合の推進派と反対派に分裂した現状、また、グローバリゼーションへの立場によって、異なる結果となるだろう。EU統合支持派は、グローバリゼーションの利益を認め、それに見合った強い規制をEUに求めている。他方、EU反対派はグローバリゼーションや移民には対しているが、その内部には対立した意見がある。

新しい議会はユーロ圏改革が最優先の課題になるだろう。ユーロ圏は危機を繰り返し、成長を加速することに失敗している。EU移民政策の見直しも重要だ。

しかし、こうして国境を超えた選挙によるEU政策が進むことは、大いに称賛されるべきだ。ヨーロッパの問題に関して政治的対立が生じるのは、統合化の成功を示している。ナショナリズムの過激な再現を恐れる世界で、EUの共通の未来は支持されている。

FT May 10, 2019

No horse-trading for the ECB presidency, please


(後半へ続く)