IPEの果樹園2019

今週のReview

5/6-11

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民主主義という統治 ・・・米中対立の深刻化 ・・・天皇制 ・・・良い職場を創る ・・・トランプ外交の思想 ・・・ユーロ圏を改革せよ ・・・コミュニティの復活 ・・・欧州議会選挙の意味するもの ・・・ディストピアの大統領

長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 民主主義という統治

The Guardian, Fri 26 Apr 2019

To rage against Donald Trump’s state visit to the UK is simply childish

Simon Jenkins

われわれはどうしたのか?

アメリカ大統領が、6月に、イギリスを公式訪問する。それは、民主主義国家同士の国賓であり、戦争の勝利を記念するためだ。20万人の群衆がロンドンに集まって、彼を罵倒するまともな目的はまったく思いつかない。

私は、メイがトランプを招来すると考えた動機について、何も知らない。しかし、彼女は招待したのだ。国賓とはそういうものだ。エリザベス女王が、ルーマニアのチャウシェスクや、ジンバブエのムガベ、ザイールのモブツにあいさつしたことを思えば、トランプなど天使のようなものだ。

イギリスはアメリカと深い絆で結ばれている。歴史、通商、文化、教育がそうだ。ワシントンの現在の指導者は、大西洋の両岸で、人々を困惑させ、さらには憤慨もさせているだろう。しかじ、それはイギリスが招く国賓に対して子どもじみた抗議をする理由にならない。

民主主義の機能が壊れていると思うと、人々は自分たちを表現することを熱望する。スーダンから、パリや、ロンドンのオックスフォード・サーカスまで、都市を埋める群衆はその力を示そうとする。政治は、一種のお祭りに近い。Brexitであれ、地球温暖化であれ、トランプであれ、刺激に反応する。私は催涙ガスより、議場の奇抜なドレスが好きだ。しかし、そのような行動に何の成果もないのであれば、それは他者を犠牲にする身勝手な振る舞いでしかない。

今は議会政府の美徳を訴えるのがむつかしい時期かもしれない。しかし、そうした制度こそが、正式な民主主義と、「強権的な、ルールを破壊する指導者」との間にある、重要な違いである。西側でも、ますます多くの民衆がそのような指導者を求めている。

気候変動と闘うため、非常にコストのかかる、劇的な政策を採用したいなら、議論に勝つことによってのみ採用できる。イギリスは石炭の使用を減らし、カーボン・フットプリントも減らした。他方、その他の世界では倍増した。もしもっと減らしたいなら、若者たちはモスクワ、ムンバイ、北京で交通を遮断するべきだ。

恐怖の政治は、憎悪の政治と同様に、理性を抑圧し、感情に支配される。政策綱領なしに、議論に勝つことはできない。討論の場を放棄することは、常に、危険なことだ。それは反動を招く。

私はドナルド・トランプが世界の調和に対する脅威だと思うから、彼の支持者たちの偏見を助長することは望まない。私はイギリスがEUと緊密な関係を保ってほしいと思うから、Brexit推進者が、大都市に住むエリートたちの欠陥、とみなすようなことは望まない。若者たちは、気候変動を非難するために、ロンドンの労働者たちに経済制裁を科すべきではない。

気候変動は「地球への脅威」ではない。現在のライフスタイルに対する脅威なのだ。それは十分に議論を尽くすべきだが、直接行動は議論ではない。

The Guardian, Fri 26 Apr 2019

Farage and Extinction Rebellion: two politics of protest, only one has a future

Gary Younge

新しいBrexit党の指導者、ナイジェル・ファラージがClacton桟橋で演説するのを観ながら、私はMichael Rosenの詩を思い出した。ファシズムは派手なドレスを着て現れるのではない。

「ファシズムは友達としてやってくる。

あなたの名誉を取り戻す。

あなたに誇りを感じさせる。

あなたの住宅を守り、

あなたの職場を守る。

近隣地区を洗浄する。

あなたはかつてどれほど偉大であったかを思い出す。」

ここで重要な点は、侮辱することではない。Brexit党の集会参加者に共通する社会的背景、修辞的な魅力、政治的方向性を、最も正確に描いていることだ。彼らは、フランスのル・ペン、イタリアのサルヴィーニ、アメリカのトランプの集会に参加する人々と同じだ。高齢の、田舎や、都市の外の、地方の人々、そして、白人だ。富裕層も、貧困層も、その慢性的な不満を共有する。

懐古趣味のにおいがするだろう。もうすぐDデイ(ノルマンディー上陸作戦)の記念日だ。「私たちは誇り高い国民だ。」と、ある女性は私に語った。「われわれは戦う国民だ。侮辱されるつもりはない。」

彼らは正しい。問題は、彼らが求めた主権の回復を、議会が実現できないことだ。彼らが民主主義で闘い取ったことだ。しかし、議会はそれを尊重せず、むしろ問題の一部になった。彼らは裏切られたことで硬化した。すべての政党、政治階級、エスタブリッシュメント、議会が、彼らを裏切った。

EUとの関係だけでは狭すぎる。Brexitはあまりにも制限されており、われわれが直面する課題をゆがめている。政治は、Brexitの信条に対して、もっと有効な、楽観的な方針を対置するべきだ。

ファラージが海岸の町で聴衆を集めているとき、ロンドン中心部では環境保護を求める抗議に人々が集まっていた。気候変動についての行動を起こさない政府に2週間抗議した後、環境保護団体「絶滅への反逆(Extinction RebellionEX)」は道路封鎖を解くと宣言した。「ロンドン、地方、UK諸国民のコミュニティ、そして国際的にも、真実が語られるべきだ。」

BrexitEXには類似した性格がある。彼らは政治システムが壊れており、政治階級が自分たちを困難に陥らせたと考える。現状は受け入れられず、ラディカルな行動が必要だ。改善する力はシステムの外から来るだろう。しかし、類似点はそこで終わる。

EXには、異なる世界観の初期の表現がみられる。地球温暖化に各国ごとの対策は無意味だ。国境に壁を築いても、他国の排出したCO2は防げない。彼らは地球を救うグローバルな運動の一部である。外国人も人間とみなし、諸国民の合意や同盟を可能な解決策に基本的に必要だと考える。

EXは、かつてのブラック・ライブズ・マター(黒人の命も重要だ)、オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街占拠運動)、反戦運動と同様、人類愛と国際的連帯を中心に据えた、グローバルな政治運動である。

われらの友人、ナイジェルはどうか。Brexitの推進は、いかなる世界観にも反するものだ。地球のその他の問題から手を引き、独立こそがすべてだ。ファラージは波の向こうを指して群衆に語った。「北海と呼ばれる海だが、その半分はわれわれのものだ。オランダ人にも、デンマーク人にも、だれにも渡さない。われわれのものであり、生得の権利だ。」

海について、EX参加者はあなたに言うだろう。それはわれわれすべてのものだ。ファラージは、魚が海を泳いで通ることを許す。しかし、人が食料や仕事を求めることを禁じ、勇気ある難民たちが波を超えることを禁じる。


 米中対立の深刻化

PS Apr 26, 2019

The Road to War with China

ANN LEE

過去2年間、アメリカの外交エリートたちは、ますます、中国を単なる競争相手ではなく、ソ連に匹敵する敵とみなすようになった。反中国の言葉は以前もあったが、トランプ政権が大幅に拡大している。

こうした中国批判は、中国が何をするかと関係なく、強い敵意を示す。1980年代と90年代には、経済的に強くなった日本を、アメリカの国家安全保障に対する脅威とみなすことがあった。しかし、日本は民主主義国家で、人権に対する違反を責められてはいなかった。

こうしたアプローチの前提は、共和党にも民主党にも支持されている。アメリカは、いかなるコストを支払ってでもグローバルな優位を維持しなければならない、というのだ。アメリカのエリートたちは、「リベラル・ヘゲモニー」の大戦略を唱えている。

アメリカが中国に対して冷戦思考を取ることは重大な失策になるだろう。それは、貿易を損ない、軍事的な競争を刺激して、世界経済に甚大な損害をもたらす。台頭する中国と戦争になる、という「ツキディデスの罠」が幽霊となってさまようからだ。


 天皇制

PS Apr 26, 2019

Japan’s Global Emperor Exits the Stage

AKIRA IRIYE

天皇昭仁は退位する。1989年から30年間、天皇として地位を保った。その父、天皇裕仁の時代は、内外に混乱を経てきた。

昭仁の時代は、かつて、帝国と独立国家の時代から、ますます多くの主権国家に人々が帰属する時代であった。人々は、次第に、国家以外の属性によって自己を定義するようになった。われわれは、まだ「世界市民」ではないが、よりグローバルな存在になった。

日本の天皇も例外ではない。

日本は遅れて近代国家の仲間に入り、その後、大国となった。1910年に朝鮮を併合し、その後の20年間、アジアで軍事的な拡大を遂げた。しかし、アメリカと戦争し、ソ連も日本の敵に加わって、グローバルな紛争の一部になったアジア・太平洋戦争が1941年に終結した。

当時、昭仁は10代の若者であったが、その人生は劇的に、予想しない変化を迎えた。マッカーサーのアメリカ占領統治下で、天皇裕仁は退位も、戦争犯罪も、求められなかった。裕仁は神から人となり、日本政治で象徴として役割を担った。

若い皇太子昭仁は、アメリカ人女性Elizabeth Viningの教育を受けた。彼女はクエーカー教徒であった。それは昭仁が天皇となるとき、世界に向けた準備となった。というのも、20世紀後半までに、世界は国民国家ではなく、もっと超国家的な繋がりや関心によって動くようになったからだ。

昭仁は、妻の美智子とともに、環境問題や人権のために国内、世界で、次第に積極的に活動するようになった。


 良い職場を創る

PS Apr 26, 2019

Where Do Good Jobs Come From?

DARON ACEMOGLU

世界中のメーデーでは、今、数年前に比べて、ラディカルな政策が求められている。例えば、アメリカでは、最高税率の引き上げ、資産課税、単一者支払い医療保険single-payer health care(政府による保険料の徴収と支払い)などだ。

しかし、優先目標を正しく選択しなければ、改革は社会や政治の分断を強めてしまう。

最優先すべきは、高賃金の職場を創ることだ。この目標に向けて政策担当者たちはすべてのアプローチを変える。技術、規制、課税から、教育、社会プログラムまで。歴史的には、純粋に再分配で繁栄を分かち合った社会はない。十分な賃金を支払う職場を創ることから、繁栄は実現する。人々に目的と生きる意味を与えるのは、良い職場であって、再分配ではない。

良い職場を作るには、技術革新が労働者の需要を増やす必要がある。良い職場は自由市場から自然に生まれるのではない。むしろ、労働者を保護し、その力を高める労働市場の制度、教育システムへの潤沢な資金提供、効果的な社会的セーフティーネットが必要だ。

2次世界大戦後のアメリカの繁栄を支えた制度もそうだった。そこには3つの柱があった。第1に、ビジネスは、労働生産性を高める技術を開発する。それは賃金を引き上げ、労働者への需要を増やす。政府は教育・研究を支援し、ハイテク設備の主要な購入者となる。

2に、政府はビジネスの環境を設定する。最低賃金、労働現場の安全基準、その他、労働市場と製品市場の規制を行う。規制は雇用を妨げる、という非難は間違いだ。むしろ好循環を生む。労働コストの引き下げより、企業は生産過程の合理化と近代化に向かう。製品市場の競争は維持され、労働者の雇用より高利潤をため込む企業の独占価格を、政府が牽制するのを助ける。

3に、政府は教育へのアクセスを拡大する。教育・研究への支援は増税を必要とするが、わずかな増税で成長をもたらす決定的な違いを実現できるだろう。

北欧諸国では、繁栄を共有するために、再分配ではなく、政策の政策と、労働者の集団的交渉力による、高賃金職の創造が重要だった。

アメリカで、1947-1987年の民間部門における賃金は年平均2.5%で上昇したが、1987年以後、急激に減速し、2000年以降は停止した。この停止は、生産性上昇の低下と一致し、投資は、高賃金の新しい職場を創るより、自動化に向かうようになっていた。

労働者保護は着実に弱められ、多くの部門で市場の集中が進んだ。政府は以前のような技術革新への支援をやめた。2015年までに、政府の研究開発支援は、1960年代のGDP1.9%から、お。7%まで低下した。

AIとロボットが普及すれば、高賃金職が失われる、と言う者が多い。しかし、そうではない。技術は労働者を職場から追い出すためにも、労働者の生産性を高めるためにも、利用できる。それを決めるのはわれわれの選択である。

政府は、民間部門が自動化にだけ関心を向けることがないように介入するべきだ。アメリカでは、資本所得を優遇している税制を改めることから始めるべきだ。自動化への投資ではなく、生産性を高める労働者の雇用に対して、企業の税負担を減らす。

技術革新と、雇用促進、独占の排除、税制改革が必要だ。戦後の諸制度を再建するのは、人間だけにできる仕事である。


 トランプ外交の思想

FP APRIL 26, 2019

America Isn’t as Powerful as It Thinks It Is

BY STEPHEN M. WALT

アメリカはどれくらい強力なのか? アメリカは唯一の超大国であり、敵国にも、同盟国にも、中立国にも、その意志を強制できる。たとえ彼らが、アメリカの政策を愚劣な、危険な、自国の利益に反すると考えても。あるいは、アメリカのパワーには明らかな、重大な限界があり、それゆえ、目標を選択するには、より戦略的な、選別を行い、それを追求する。

トランプ政権は最初の立場を取る。特に、ジョン・ボルトンが安全保障担当大統領補佐官、マイク・ポンペオが国務長官として、外交を動かすようになってから。彼らは、ジョージ・W・ブッシュの第1期政権でディック・チェイニー副大統領とネオコンザーバティブが外交を支配した時代の、ユニラテラリズムを復活させた。

ブッシュの上級顧問(Karl Roveといわれる)がジャーナリストに語った。「われわれは今や帝国だ。われわれが行動するとき、われわれが現実を創りだす。」 妥協や同盟構築は弱小国や宥和策の発想だ。2003年にチェイニー自身が述べたそうだ。「われわれは邪悪な者と交渉しない。それを叩き潰す。」

最も重要なことは、このアプローチが目標の間でトレード・オフを認めないことだ。もしアメリカが全能であれば、中国がイランの石油を輸入すれば制裁を科し、それが通商交渉に影響することはない。また、トルコに制裁を科しても、ロシアと接近することを懸念する必要もない。もしヨーロッパがそれほどNATOとアメリカの軍事力に頼っているなら、彼らは何度も侮辱されることを耐えるし、中国に対するアメリカの敵対政策に従う。エジプト、イスラエル、サウジアラビアとなんでも一致して行動することにマイナス面は何もなく、イランとの関係が悪化することや、戦争になることもない。

それは間違いだ、という証拠が増えている。

他国をいじめるアプローチが外交の成果を生まない強力な理由が存在する。第1に、たとえはるかに弱い国でも強国の脅しに屈することを嫌悪する。その理由は、いったん、脅しに屈して強制されるなら、強国の要求には際限がないからだ。さらに、トランプの要求は相手に譲歩を促すものではない。また、トランプは嘘つきで、気まぐれだ。

2に、すべての者に嫌がらせをするのでは、同盟を組むことがむつかしくなる。第3に、他者の気まぐれに依存することを嫌う。特に、その他者が利己的で、間違いを犯しやすい、自分以外の利益を軽蔑する者であれば。

当然、他国はアメリカのレバレッジを制限するような行動をとるだろう。特に、ワシントンが同盟国や敵国に制裁するとき使用している、制度的ネットワークの外側で、金融取引の仕組みを促進することだ。トランプ政権の強権的な戦術は、諸国や企業をアメリカが始動するグローバル金融システムでなるべく取引せず、独自の仕組みを創りだす。

最後に、嫌がらせは、本来の利益が対立している敵の間でも緊密な関係を生じやすい。また、潜在的な同盟諸国が距離を取るようになる。

われわれが目撃しているのは、現代の地政学の競合するロジックが現実の世界で検証される過程である。第1の見方では、アメリカのパワーは減少していないし、さまざまな優位によって、アメリカは野心的な、秩序を作り変える外交を追求できる。それはコストを要さず、ほぼ確実に成功するだろう。

2の見方では、アメリカが強力で、特別な優位を持つが、そのパワーには限界がある。優先目標を決めて、トレード・オフを最小化し、多くの問題で他国と協力するべきだ。他国が惨めな降伏を受け入れないし、効果的で、持続する国際合意には、たとえ敵とでも、妥協する必要がある。


 ユーロ圏を改革せよ

FT April 28, 2019

The unbreakable, unsustainable eurozone

Wolfgang Münchau

ユーロ圏は、今、解体不可能で、同時に、持続不可能である。この2つが心地よく同居している。しかし、不況が来れば、その対立が明白になる。

不況に対して指導者たちは改革を唱えるだろうが、それは空想だ。あれほどの危機においても、改革しなかったのだから。中途半端な銀行同盟と欧州安定化メカニズム(ESM)ができても、ユーロ圏は決して強化されていない。

2010年から2015年の危機をユーロ圏が生き延びたのは、2つの決定があったからだ。それはいずれもECBのドラギ総裁が指導したものであった。2012年夏、彼は、ヨーロッパの単一通貨が解体するのを阻止するために、「ECBは何でもする」と約束した。その後、20153月、ユーロ圏の政府債券をECBが購入した。しかし、それができたのは幸運だった。ユーロ圏が2014年にディスインフレに入ったからだ。

ECBは、将来の危機に対して、同じような行動をとれない。その理由が3つある。1.ドラギは10月に退任する。2ECBの政府債購入には限界がある。3ECBの金利引き下げはもう限界だ。

ECBが構想する能力と意志を書いているとき、ユーロ圏の改革をするしかない。いま議論しているような財政を支援する若干の融資枠を尽かすることではない。私はすでに、ユーロ圏の安定性ためには、財政統合は必要ない、と結論した。必要な条件は、資本市場の統一と、単一の政府資産、ユーロ債の発行である。

それは一部の国にとって政治的なタブーである。特にドイツがそうだ。しかし、ユーロ債市場がなければ、解体不可能で、同時に、持続不可能であることは長期において矛盾する。金融市場の担保となり、銀行は各国の政府債券からユーロ債の保有に代える。ユーロの国際的な利用も拡大する。

安全な資産がなければ、ユーロ圏の危機は続く。次は、おそらくイタリアだ。生産性の上昇が低く、財政赤字が多く、債務累積は膨大だ。この組み合わせは持続不可能だ。イタリアの債務再編が必要だろう。しかし、政府にも、銀行にも、制度にも、その準備がない。むしろ、並行通貨の発行や暗号通貨の利用、など、あいまいな形のユーロ圏離脱になるかもしれない。


 欧州議会選挙の意味するもの

NYT May 1, 2019

What Do Europeans Really Want?

By Ivan Krastev

もしあなたが主要な新聞を読み、政治指導者の話を聴いていたら、欧州議会選挙は、有権者たちが激しく分断されて、運命的な選択に向けて準備している、と思うだろう。よく聞くことだが、この選挙は一種の国民投票である。

極右にとって、それは移民(そのEUの政策失敗)に関する国民投票だ。進歩的な親欧州派は、EUの生き残りをかけた国民投票とみなす。極右の戦略家たちは、ドナルド・トランプが勝利した2016年の選挙をまねようとし、他方、親欧州派はマクロンがル・ペンに勝った2017年のフランス大統領選挙をまねようとする。双方が1つの点では一致している。われわれはポピュリスト・ナショナリストの集団と、欧州派の集団との、戦いに直面している。

このどれもが間違いだ。選挙前夜の雰囲気を描くニュース・メディアは、現実と大きくかけ離れている。

状況はもっと希望に満ちている、というのではない。確かに、ポーランドでは、有権者が深く分断されている。ポピュリスト・ナショナリストの政府側と、それに反対する戦時の敵陣営のように。しかし、その他の国では、有権者は態度を決めていない。

ヨーロッパ市民の圧倒的多数が変化を求めているが、それを満たす方針はあまりにも異なっている。例えば、オランダでは、3月の地方選挙で、反移民の極右政党が躍進した。しかし、同じ月に、スロヴァキアは、多年にわたり負け知らずのポピュリスト支配が行われていたが、大統領にリベラルな女性を選んだ。どちらの投票も現状に対する反対であった。オランダの主要政党は現状維持派とみなされたが、スロヴァキアではポピュリスト支配が現状だった。

現在起きていることは、主流派から周辺派閥への移行ではなく、有権者がすべての方向へ分解しているのだ。絶え間なくイデオロギーの境界線を越える、2019年版の欧州移民危機である。しかし、有権者の移民は、帰還する率が劇的に高まっているようだ。反政府の政党に投票しようと考えている人々の半数以上が、投票の変更を考えている、という。

この選挙はほぼ全体に不確実さを示している。しかし、有権者を統合する何かが存在するようだ。

1688年、スイスの心理学者が新しい病気に「ノスタルジア」と名付けた。自分の国へ戻りたいと熱望することから生じる憂鬱が、その主な兆候である。しばしば幻聴や幻視に苦しむ。ヨーロッパは今、慢性的なノスタルジアに脅かされている。有権者たちは、怒り、混乱し、ノスタルジックになっている。多くの者が、昨日の世界の方が、今の世界よりも良かった、と感じている。彼らは子供たちが今よりももっと悪くなることを恐れるが、どうすればそれを阻止できるかわからない。

欧州市民は、昨日の世界の方がよかった、と信じて団結している。しかし、黄金時代がいつか、という点では分裂している。反移民政党は、エスニック的な同質性を示す諸国から成る世界を夢想するが、それが本当にあったかどうか、気にしない。左派の多くは、欧州統合の特徴であった進歩主義を懐かしむ。

欧州の有権者は、変化への願いと、過去への郷愁に、分裂している。EUを信じる者と、国民国家を信じる者が、対立しているのではない。最大多数は、EUも国民国家も疑っている。すなわち、今は昨日より悪いと思う者と、今は明日より悪いと思うものと。

欧州議会選挙は、この病気を悪化させる。それは大陸が後ろ向きのうつ状態を悪化させるか、あるいは、将来に向けた、回復の最初のステージを示す。

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The Economist April 20th 2019

Crops and climate change: Time to see the blight

Cambodia’s economy: Fast and loose

Immigration: Let them past

Bell: Lessons from the amauta

Finland: The populists hit back

Charlemagne: Diplomatic baggage

Overthrowing despots: The putsch option

China’s GDP: Growth in train

Free exchange: Hitting the big time

(コメント) 地球温暖化が農業にとって有利である土地もあるわけです。遺伝子操作による新しい作物が普及するかもしれませんが、それは温暖化と新しい感染症によって絶滅を引き起こすかもしれません。

中国の慎重な移民政策の変更、ラテンアメリカの「社会主義革命」を支えた思想家、フィンランドの政治を変えるポピュリストの躍進、EU外交というものが形成できない国々の異なる歴史。

アルジェリアとスーダンで独裁者が権力を失ったけれど、それが民主的な政治体制をもたらすことはなさそうだ、という記事を、興味深く読みました。また、なぜ人口の多い国が繁栄し、支配しないのか、数百年を基準に考える記事も面白いです。上海の地下鉄建設だけでなく、中国のインフラ投資の規模に驚きます。

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IPEの想像力 5/6/19

ヨーロッパでも、アメリカでも、政治は大変動期を迎えています。

政治や社会のグローバリゼーション、・・・インターネットやAI、ロボットの普及と産業の移転・構造変化、・・・労働市場の再編・消滅、流動化・短期化、・・・中国や新興経済の拡大、世界の貿易・投資の新循環・・・地球温暖化と海面上昇、沿岸都市の消滅、農業や生物種の変化、・・・アフリカなどの人口増加と富裕地域への人口流入、豊かな諸国の高齢化、人口減少、移民・難民問題。

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欧州議会選挙は、ポピュリスト・ナショナリストの政治集団と、親EU・市民社会派の政治集団が対抗する、と思っていました。しかし、そうではない、とIvan Krastevは考えます。旧来の政治イデオロギー、政策枠組みが信用を失い、有権者は漂流しているのです。政治集団そのものが、移民のような有権者の心を捉えるために姿を変えつつあります。

日本はどうか? と質問されました。日本でも、旧来の保守党と社会党は消滅し、政策枠組みも消滅した、と思います。しかも、20年早く。欧米が世界金融危機で主要な政党とイデオロギーを解体し始めたように、日本もバブル崩壊と中国・北朝鮮脅威論で旧政治を解体したわけです。自民党の伝統的な派閥闘争も、社会党も消滅しました。

もし自民党が右翼的に再編されて復活(あるいは、名前だけ借りた別物に変異)していなければ、また、民主党の政権交代が、東日本大震災や原発事故を超えて、権力基盤を確立していたら、日本政治は根本的に変貌し、自民党・安倍長期政権もなかったでしょう。そのとき、フランスのル・ペンとマクロンの大統領選挙が、日本では、維新の会と立憲民主党の対立になっていたかもしれません。

もしドイツで、1930年代に、保守党や資本家たちがナチスに向かわず、社会民主党が民主的選挙によって社会主義の政策を実現していたら、第2次世界大戦はなかったかもしれません。そして、冷戦や封じ込め戦略がなければ、あるいは、たとえアメリカがソ連の社会主義体制を葬りたいと願っても、スターリンではなく、もっと穏健な指導者が、ドイツやヨーロッパの社会民主党政権と協力関係を深めていたら、冷戦やスターリンの支配体制は誕生しなかったかもしれません。

今、アメリカが、その民主的な制度にもかかわらず、トランプを指導者に決めたことが、歴史的に重大な転換点となるかもしれない、と思いました。

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あらゆる方向に政治が分解・離散し、さまざまな党派を横断して渡り歩く、民主主義の流動化がこれからも続きそうです。政党やイデオロギーが、具体的な形で、有権者の願いをかなえる政策枠組みに結びつかねばなりません。ポピュリストに悪用されず、こうした流動化が政治を変えるのを促すには、もっと政治が機能する仕組みを、政治以外の分野でも工夫し続けることです。

人類は、自分たちの利益のために、地球の在り方を変えてしまいました。生物種の減少や、遺伝子操作によって生まれた生物の未来に、温暖化による影響で予期せぬ感染症が、人類を含む、さまざまな生物種に及ぶ危機を生じます。

地球の水を、人類はすべての人々と、そして、生態系のすべての生き物と分かち合わねばなりません。さらに、海は誰のものか? 土は誰のものか? ポピュリスト、ナショナリスト、ファシストは、どのように答えるのか? コメディアンやテレビ番組の司会者に投票するとしたら、政治の未来は、地球と人類がともに滅ぶディストピアです。

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