IPEの果樹園2019
今週のReview
4/29-5/4
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資本主義の改革 ・・・ロシアの情報介入 ・・・台湾大統領選挙 ・・・Brexit後のガバナンス ・・・国際経済政策協調のゲーム論 ・・・ポピュリズムと政治の転換 ・・・一帯一路と都市の連鎖 ・・・令和の時代 ・・・道化師の大統領 ・・・グローバリゼーションと右派・左派のポピュリズム
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy,
FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York
Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 資本主義の改革
NYT April
18, 2019
Bernie
Sanders and the Myth of the 1 Percent
By Paul Krugman
PS Apr
19, 2019
Capitalism’s
Great Reckoning
JAMES K. GALBRAITH
資本主義の限界、欠陥を是正するよう求める3冊の本を紹介する。著者たちは資本主義を支持している。したがって、その欠陥を改善する方策を示す。
Joseph E. Stiglitz, People, Power, and
Profits: Progressive Capitalism for an Age of Discontent, W.W. Norton, New
York; Allen Lane, London, 2019.
Stiglitzは、3人の中で正統派の経済学に最も近い。しかし、保守的な自由市場理論には強く反対し、その内部から前提を批判する。情報が非対称的であれば、主流派の世界観は確実さを失う。競争は不完全で、市場は完全に均衡しない。
Stiglitzは、認識が操作されることを認める。それは行動経済学に示されている。消費者主権、という主流派の考え方を否定するものだ。60年も前に、J.K.ガルブレイスが指摘した。今、現代貨幣理論が話題となっているが、Stiglitzは雇用を金融政策の基準とする主張の中心にいる。
資本主義が不平等を拡大したことについては、レーガン時代の減税と支出削減を批判する。今また、ドナルド・トランプが再現している。しかし、民主党に関しては満足して良いのか? ビル・クリントンの金融規制緩和、バラク・オバマの巨大銀行救済にも責任がある。
Paul Collier, The Future of Capitalism:
Facing the New Anxieties, Harper, New York; Allen Lane, London, 2018.
Collierの本は、「道徳的国家」を要請するものだ。そこにおいては、相互的な支援と規制が制度化されている。社会民主主義政党が急速に消滅し、強硬なエスノ・ナショナリズムが勃興する時代に、懐古的、大胆な意見である。
Collierによれば、資本主義の楽園にも2つの悪魔が住む。1つは、ベンタム主義者、官僚支配的功利主義のグローバリストである。もう1つは、ロールズ主義者、犠牲者グループのアイデンティティを限定する者たちである。Collierは不平等の増大する社会を、アイデンティティ形成と自尊心を、コミュニティから、所得、資産、専門的階層の地位へと、シフトさせた思考実験で示す。
Collierの階段の一番上は、超級・グローバル・エリートだ。ローカル、リジョナル、ナショナルなアイデンティティを超越する。ダボスの世界経済フォーラムに集まるような人々だ。下層には、ローカルなコミュニティ、あるいは、国民として世界を見る人々がいる。取り残された、不幸だと感じる彼らはそのアイデンティティをエスニシティや文化に求め、他者と対立するようになる。
Collierの提案は、19世紀アメリカのエコノミスト、ヘンリー・ジョージが示した土地に対する「単一税」である。ただしCollierは、シリコンバレー、ウォール街、ロンドン・シティに代表される、グローバリゼーションのハブに住む高所得者たちを課税対象とみている。それらは、間違いなく、金融化された情報技術資本主義のもたらしたゆがみである。
Collierは、株主価値最大化を批判し、企業の強欲を正当化する同様の原理を攻撃する。Collierの意見では、ICI(Imperial
Chemical Industries)の時代、旧式の住宅建設組合や、トヨタに始まる品質管理革命に戻るべきである。
J.K.ガルブレイスが「拮抗力」の考えを示したことを思い出してほしい。ドイツ、日本、韓国など、多くの国で、ガルブレイスの「新産業国家」の考えが、ミルトン・フリードマンの利潤第一の教理を倒しつつある。
Branko Milanovic, Capitalism, Alone: The
Future of the System That Rules the World, Belknap Press, Cambridge, 2019
(forthcoming).
われわれは、リベラルなメリトクラシー社会と、政治的な権威主義体制との間で、選択する未来を迎えている。
Milanovicには、不平等を是正する多くのアイデアがある。公共財・サービス(教育を含む)、社会保険への支出を彼は好む。相続税、贈与税をもっと活用して、世襲・資本家の王朝化を抑えるべきだ。アメリカにおける非営利部門の拡大は、課税を免れるため、富裕層の寄付によって生じている。
社会主義者は慈善活動に懐疑的だ。Milanovicも、道義的な免罪符にすることには厳しい目を向けるが、大学、病院、文化施設を育てる資金の流れを生んだのは事実だ。
Milanovicが見るように、中国の権威主義的資本主義とアメリカのリベラル資本主義とが、新しい冷戦となっている。しかし、中国の物理学者が、ある国際会議で、「権威主義的」ではなく、「政治的」資本主義と呼ぶよう提案した。彼の意見では、真の「権威主義者」は、小資本家のボス、オーナー型中小企業主である。また民主主義では、投票ではなく、お金の方が重要である。中国のシステムでは、銀行家や寄付者より、科学者、エンジニアのような、専門家の意見が優先される。その政策決定は「政治的」である。
エコノミストの抽象化は、現実の決定過程をとらえていない。米中の違いで重要なことは、共産主義革命を経た中国では、土地が国家によって収容されたことだ。それは地方政府の資産となった。その結果、中国の都市や地方は豊かである。競争してインフラ整備し、公共サービスを拡大している。他方、中央政府は比較的小さい。中国は、その歴史において、すでにリカードやスミス、ヘンリー・ジョージの考えを実現している。
対照的にアメリカは、多くの者の目から見て、グローバルな覇権国から略奪国家に変わったようだ。偏狭なエリートの野心、競争における衰退から生じる不安は、その地位を維持するために、金融、技術、軍事の力に頼っている。こうしたパワーの源泉は、ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントンDCの広域圏など、少数の超富裕地帯、安全保障国家の首都に偏っている。アメリカの他の土地は見捨てられるのだ。
こう見ると、将来、権威主義的、政治的な資本主義に対して、リベラルな資本主義が勝利することは確かなことではない。むしろ資本主義の運命は、少なくともアメリカやヨーロッパで、本来の「共和主義者」と「民主主義者」の高い価値観が復活するときまで、平和が維持されることにかかっている。
その時こそ、Collierが切望する「道徳的国家」への前進が起こるだろう。
NYT April
19, 2019
Progressive
Capitalism Is Not an Oxymoron
By Joseph E. Stiglitz
失業率は1960年代以来最低だが、アメリカ経済は市民たちを裏切った。過去30年間、90%の国民の生活水準は、停滞もしくは低下した。先進諸国中で、最高水準の不平等と、最低水準の機会しかないのであれば、それは当然だ。若いアメリカ人の将来は、その親の所得と教育が決めてしまう。
もっと違うアメリカがあるはずだ。進歩的な資本主義。それは矛盾した表現ではない。われわれは市場のパワーを社会のために奉仕する形に変えることができる。
1980年代、ロナルド・レーガンの規制「改革」が、過度の市場を規制する政府の力を削った。経済を活性化する、といったが、実際は逆に、成長が減速した。
進歩的資本主義は、何が成長や社会的な福祉を改善するか、その理解に依拠している。18世紀後半に生活水準が改善し始めたのは、2つの理由による。科学の発展(自然科学の知識を生産性や寿命の改善に使った)と、社会組織の発展(法の支配、民主主義、権力のチェック・アンド・バランス)だ。
その両者にとって基本となるのは真実の評価・検証だ。トランプの大統領任期は、社会にとって深刻かつ長期の危険を及ぼすだろう。経済と社会の支柱を破壊する。
われわれは国富の真の源泉が人民の創造力と革新性であることを忘れてしまった。人は富を大きくすることでも、富を奪うこと(たとえば市場支配や情報の優位を悪用して)でも、豊かになれる。われわれは苦しい労働によって得た富と、略奪した富(レント・シーキング)とを、混同している。あまりにも多くの才能ある若者たちが、あまりにも短期間で豊かになることを目指してしまう。
経済政策がこうしたディストピアを助長した。市場はますます集中し、競争しなくなった。市場は真空に存在していない。それはルールや規制によって構造化されている。そのルールや規制を創るのは政治だ。金融の規制緩和で、銀行は過度のリスクを取り、富を搾取するようになった。
多くのエコノミストは、発展途上国との貿易がアメリカ人の賃金、特に、スキルのない人々の賃金を下げ、職場を破壊すると知っている。われわれはもっと、貿易によって影響を受ける労働者たちを助けるべきだった。しかし企業が反対した。労働市場の弱さが彼らの賃金コストを下げ、海外の低賃金ビジネスを増やした。
われわれは悪循環にある。不平等は、政治システムを変え、それは規制緩和やさらなる不平等をもたらす。国家が市場を社会に奉仕させる役割を認識することから始めねばならない。搾取を行えないように競争を強く促し、企業とそこで働く労働者、その顧客との関係を是正するために、われわれは規制しなければならない。
よりダイナミックで、平等な経済を実現できるだろう。薬物中毒の危機や2008年の金融危機も避けることができただろう。アメリカ人はもっと自分たちの制度に大きな信頼を持てただろう。
市場には提供できないものがある。失業するかもしれないし、事故にあって身体が不自由になるかもしれない。さまざまなリスクに対して保険が必要だ。管理コストを抑えた形で年金を支給するべきだ。インフレも抑えるべきだ。十分なインフラ、すべての者のための教育、基礎研究に必要な投資が行われるべきだ。
進歩的資本主義は新しい社会契約に依拠している。アメリカ人の多くが再び中産階級の暮らしを実現できるだろう。ネオリベラリズムは、規制から解放された資本主義がすべての者に繁栄をもたらす、という幻想だった。しかし多くのスキャンダル、多くの不正行為を見ればわかるだろう。もっぱら利潤追求が社会を豊かにすると称賛する社会、搾取と富の創造とを区別しない社会は、多くの者を不幸にする。
NYT April
19, 2019
Socialist!
Capitalist! Economic Systems as Weapons in a War of Words
By Andrew Ross Sorkin
FP APRIL
19, 2019
The
American Left Is Right About Scandinavian Socialism
BY ERLEND KVITRUD
社会主義というラベルを張られることを恐れて、進歩的な政治家の政策は制限されてきた。右派は今もこの武器を活用する。しかし、サンダース上院議員やニューヨークのAOC(Alexandria Ocasio-Cortez)など、社会主義を支持する政治家が新しく人気を得ている。
民主的な社会主義をアメリカで考えるとき、しばしば、その例は北欧諸国に求められる。昨年、エコノミストのJeffrey
Dorfmanは、北欧諸国は社会主義ではない、と書いた。「社会主義とは政府による自由市場の管理や介入、産業国有化や特定産業への優遇を意味する。」
しかし、アメリカに比べて北欧諸国は平等だ。北欧諸国の経済も、他の多くの活気ある経済と同じく、混合経済だ。政府は、経済や金融機関に対する介入の梃子を持っているが、それは国有化ではない。自由な株式市場において政府の株式保有を増やすことだ。
より長期の、社会的に好ましい目標に向けて、企業や金融機関を政府が指導する。
NYT April
20, 2019
America’s
Original Socialist
By Maurice Isserman
FT April
22, 2019
Why
American CEOs are worried about capitalism
Andrew Edgecliffe-Johnson in New York
FT April
22, 2019
People,
Power and Profits, by Joseph Stiglitz
Review by Gavin Jackson
The
Guardian, Thu 25 Apr 2019
Dare to
declare capitalism dead – before it takes us all down with it
George Monbiot
● ロシアの情報介入
The
Guardian, Fri 19 Apr 2019
The
Mueller report shows that bad guys who play dirty, like Trump, always win
Jonathan Freedland
FP APRIL
19, 2019
What the
Mueller Report Tells Us About Russia’s Designs on 2020
BY AMY MACKINNON
モラー報告書の最初のページにある。「ロシア政府は2016年の大統領選挙に対して、ひそかに、組織的に介入した。」
報告書が示したように、モスクワのゲーム・プランは2020年の大統領選挙に向けて動き始めているだろう。アメリカの対諜報活動はそれを監視している。
「われわれがそれを認めようと、認めまいと、彼らは我々と戦争している。」
2016年の大統領選挙で示されたロシアの攻撃的な行動は、アメリカの諜報関係者を驚かせた。インターネットがモスクワの情報操作キットに加わり、強烈な刺激を与えたのだ。情報かく乱(偽情報の拡散)、プロパガンダ、戦略的な情報漏えい。ロシアは行動が発覚することを意図していたし、その後の混乱を知っていた。モラー報告書に関する政治的かオスが示すように、クレムリンの戦術は今なお成功し続けている。
「その戦略は、われわれを内部で戦わせることだ。」 モスクワはこの攻撃を繰り返すことに自信を深めている。
収集した情報を武器にすることで、ロシアは標的とする国家内に混乱をもたらすため、フェイクニュースやプロパガンダを流し、過激な集団や前線部隊を利用する。2016年の大統領選挙で示された大きな違いは、ソーシャル・メディアを利用したことだ。これによって、すでにアメリカに存在した分極化や分断を悪化させ、およそ1億2600万人に対する情報を操作した。
「それは安価な非対称戦争だ。ロシアが得意な戦争である。」
多くの専門家が指摘するように、その最初のサインは2007年にさかのぼる。モスクワはエストニアに対してサイバー戦争を仕掛け、混乱を巻き起こした。銀行、政府、メディアのウェブサイトが、数日、もしくは数週間も、アクセス不能になった。翌年、グルジア共和国に対するサイバー戦争は、すみやかに現実の戦争につながったし、ウクライナではモスクワの戦術が成果を示し続けている。
「ロシアの諜報機関は、海外における諜報活動を、プロパガンダとして、外交手段として利用し、軍事や暗殺の手段として利用する。」
FT April
20, 2019
Congress
must now pick up Mueller’s lead
The
Guardian, Sun 21 Apr 2019
Mueller’s
account of Trump’s world acts as a cautionary tale for UK politics
Will Hutton
● 台湾大統領選挙
FT April
19, 2019
Terry
Gou, Taiwan’s disrupter-in-chief moves into politics
Kathrin Hille
FP APRIL
19, 2019
The
Billionaire and the Mayor Disrupting Taiwan’s Elections
BY CHIU-TI JANSEN
台湾、高雄市の、国民党(KMT)候補から選出されたHan Kuo-yu市長は、アメリカで熱狂的な群衆の出迎えを受けた。2020年の台湾大統領選挙に向けた支持率トップにある。
同様に止まらない勢いを示す、推定資産76億ドルの、台湾で最も裕福な男、Terry Gouが国民党の大統領候補者として名乗りを上げた。
Gouはドナルド・トランプと個人的な関係を保ち、その選挙術から学んでいる。Gouは、2018年11月の高雄市長選挙から大きな刺激を受けた。もしGouかHanが国民党候補として大統領選挙に勝利すれば、台湾と中国との関係、そしてアメリカとの関係に重要な意味を持つだろう。しかし、GouとHanの複雑なダイナミズムは、民進党(DPP)の現職大統領にKMTの復活を阻むチャンスを与えるだろうか?
Hanは高雄市の主要輸出品であるパイナップルを売り、Gouは半導体チップを売る。Hanは民衆の支持を高めるのがうまく、Gouはトップダウンで指令するのがうまい。HanはBoston,
Los Angeles, and San Joseで支持者たちの集会に参加した。Gouはトランプと習近平の両方にスピード・ダイヤルでつなぐことができる唯一の台湾市民である、といわれる。
2人には共通点が多い。雇用の創出を約束し、北京との良好な関係を強調する。しかし、Gouの資産は中国に展開するビジネスによって得たものだ。それは北京からの政治的な影響や脅迫の可能性を疑わせる。またHanが北京と現政権よりも親密であることをアピールすれば、高雄市のDPP支持者が離反するという不安を退けて、彼は1992年の合意(一国2制度)も公然と容認した。
自分の政治的野心のために高雄市を利用しただけだ、と非難されるから、Hanは大統領選挙の予備選に立候補できない。KMTの判断はむつかしい。
2人とも、中国との関係強化を主張している。しかし、緊密な経済関係は政治的な介入を招くという警告がすでに流れている。祭英文政権は、HanやGouの姿勢を、台湾を中国に売った、と批判している。またGouのコミュニケーション・スタイルがKMTのエスタブリッシュメントと軋轢を生じるだろう。
台湾は、中国にドアを閉ざしても、世界にドアを閉ざしても、得るところがない。KMTの候補が誰であろうと、統一か独立か、関与か離反か、といった二元論的、非生産的反対ではなく、中国との交流を拡大することと、台湾の民主的なアイデンティティを保持することの間に、道を探すだろう。
● Brexit後のガバナンス
FT April
19, 2019
Brexit
Britain must avoid self-pity and revenge
Gideon Rachman
FT April
21, 2019
Realism
is set to strike the EU over the Brexit timescale
Wolfgang Münchau
FT April
22, 2019
Brexit
has a chance to kick-start a period of radical change
John Thornhill
Brexitはイギリスの政治家にとって貴重な機会である。残されたエネルギーをUKの運営に関する改善に充てるべきだ。このガバナンス危機から、21世紀にふさわしい政治制度を創りだし、イギリスの持続的な優位をもたらす可能性がある。
成功した企業家であるIan
Hogarthは、the Institute for
Innovation and Public Purposeの客員教授に指名されたが、AIが政治経済に与える影響に関して興味深い見解を示した。
「国民国家は地理的領域において恐るべき独占力を持っている。防衛から福祉国家にまで責任を持ち、税制と社会的セーフティーネットを維持している。」・・・「これらのすべてがマシーン・ラーニングに挑戦を受け、妥協するようになる、と私は思う。」
アルゴリズムが、ますます、銀行融資の判断、就業や、刑期の判断に利用されるようになっている。各国政府の役割は、多くの問題で、少なくとも社会の諸価値を形成するうえで、根拠地を持たない多国籍企業にゆだねるにはあまりにも重要だ、と結論するだろう。しかし、そのゲームを変えるような形で、アルゴリズムは重要になる。
Hogarthは考える。BrexitがUKにその構造的弱点を認めさせ、改革を強いるだろう、と。Brexitの実現に見られる機能不全を見て、有権者は自分たちの政治制度に見切りをつける。もっと根本的なアプローチを要求するだろう。
UKには明らかにデジタル時代の豊富な資産がある。世界一流の大学、有能な官僚たち、弾力性の高い金融制度。しかし、こうした資源を十分に活用できる創造的な発想が欠けている。「新しいテクノ・エコノミック・パラダイム」だ。
技術の新しい波がハードな経済部門に衝撃を与えている。エネルギー、輸送、医療、教育、すべてが国家によって厳しく規制された部門だ。成功するには、政府とビジネスとが市場を「協力させる」必要がある。
1.環境政策の転換。税制改革によって、労働のような社会的「グッズ」に報酬を与え、エネルギー消費財のような社会的「バッズ」を処罰する。
2.医療データを安全に利用できるスペースを作る。
3.デジタル時代の仕事に応じた教育を行う。
4.競争条件を整備することで経済パワーの過度の集中を廃し、経済利益を再分配する方法を改善する。
FT April 23, 2019
Britain’s
anti-Brexiters need a common front
The
Guardian, Wed 24 Apr 2019
The EU
won’t change course on Brexit – look at the Greek debt crisis
David Henig
● ノートルダム火災と富裕層
FT April
19, 2019
Notre-Dame:
why the French elite is picking up the tab
Harriet Agnew and Victor Mallet in Paris
ノートルダムの火災が鎮火する前から、ピノー家から1億ユーロの寄付が約束された。ピノーFrancois-Henri Pinaultは高級ファッション・宝飾品のコングロマリット、ケリングや、投資会社アルテミスを所有する。フランスの大富豪である。
ヨーロッパ第1の大富豪、アルノーBernard Arnaultも、LVMHが2億ユーロを再建のために寄付すると述べた。アルノーはルイ・ヴィトンやシャネルの大株主で最高経営責任者である。
火災に対する反応は、ヨーロッパにおける政府と民間の富との関係が変化していることを示した。財政緊縮の時代、増大する経済的不平等と、ポピュリストの政治的圧力が増す中で、富裕層は行動するべきだと考えた。
これは、2つの家族がフランス文化において、並外れた影響を与えている例である。20世紀にはいること、アメリカにおいてカーネギーとロックフェラーが果たした役割に似ているかもしれない。その背後には、税制の優遇もある。フランスは60%、イタリアは65%、個人が文化的な寄付した場合に課税額から控除される。
草の根的な反政府運動である「黄色いベスト」は、増税や不平等に抗議し、マクロンを「富裕層の大統領」と非難している。「貧困層に直面しても、富裕層の行動は変わらない。しかし、ノートルダム寺院が燃えると、一晩で大金が贈られる。」
アルノーはLVMHの株主総会で訴えた。公益のために何かをしても、フランスでは富裕層を責める。株主たちはソーシャル・メディアで、こうした寄付を支持してほしい、と。
NYT April
19, 2019
What
France Has Money For
By Michaël Foessel and Étienne Ollion
FP APRIL
20, 2019
Notre
Dame Is Setting Macron’s Agenda Ablaze
BY ROBERT ZARETSKY
PS Apr
22, 2019
The
Emotion of Notre Dame
DOMINIQUE MOISI
● 国際経済政策協調のゲーム論
PS Apr
19, 2019
Mayday
for American Protectionism
ANNE O. KRUEGER
1920年、ジョーンズ・アクトthe
Merchant Marine Actは、アメリカの造船業を保護し、アメリカの安全保障を高める目的で、アメリカ議会を通過した。しかし、この法律はほとんど産業を破壊したに等しく、アメリカのビジネス、消費者、環境に多大のコストを強いてきた。廃止されるべきだ。
この法律は、アメリカ国内の拠点間で、物品輸送にアメリカ船籍の、アメリカ人所有、アメリカ人船員、アメリカ内で建造された船でなければならない、と求めている。
PS Apr
22, 2019
The
International Economic Policy Game
KOICHI HAMADA
比較的最近まで、ゲーム理論は国際関係の専門家の関心をひかなかった。しかし今、多くの者が政治的アクターの行動や意思決定を戦略的に分析することから優れた情報を得ている。各プレーヤーは独立に行動しているのではなく、他のプレーヤーの反応を考えて行動している。
人間行動は競争と協力とからなるが、そのどちらが優れているかは条件次第である。例えば貿易において、自由競争はパレート最適をもたらす。しかし、もし政府が自国企業に優位を与えるような介入をすれば、競争は問題になる。ドナルド・トランプ大統領が中国に対して関税を引き上げたことがそうだ。かつてアメリカは、同様に、1930年のスムート=ホーリー関税法を成立させた。その結果は、報復関税と世界恐慌の悪化であった。
貿易においては、われわれは経済主体間で競争しても、政府間では協力することが望ましい。WTOはそのためにある。アメリカ政府はWTOを利用して、中国の通商政策がゆがみをもたらしている場合に、これを是正させるのが正しい。
変動レート制では、ある国が金融緩和することで、非協力的な政策が有利である。国際金本位制が放棄され、ブレトンウッズ体制はまだ成立していない1930年代、エストニアのエコノミスト、Ragnar Nurkseは、そのような競争的な切り下げを「近隣窮乏化」と批判した。
しかしBarry Eichengreen and Jeffrey D. Sachsが示したように、世界恐慌から諸国が回復したのは、金本位制を破棄し、デフレ的金融政策をやめ、通貨が減価するのを許した後だった。各国が自国のマクロ経済を安定化する限り、非協力的な金融政策は世界全体にとっても好ましいのだ。変動レート制では、各国に及ぼすマイナス効果を、自国の金融政策を調整することで回避できる。
こうして、レッセフェール・アプローチが金融政策ゲームを支配する。トランプ政権は日本の金融緩和を批判するが、日本の政策は近隣窮乏化ではなく、超低インフレにおけるマクロ経済の安定化が目的である。
競争と協力の正しいバランスを決めることはむつかしい。ゲーム論は政治家にとって有益な評価手段である。
● ユーロ圏の政府債務処理
VOX 19
April 2019
Dealing
with the risks of high public debts: The role of a European redemption fund
Marika Cioffi, Marzia Romanelli, Pietro
Rizza, Pietro Tommasino
ユーロ圏の政府債務危機を波及させないためには、特定国の債務を景気循環から切り離す仕組みが必要だ。それをEuropean
debt redemption fund (ERF)によって実現できる。
● ポピュリズムと政治の転換
VOX 20
April 2019
Populism:
Roots, consequences, and counter strategy
Karl Aiginger
ポピュリズムを定義するのは容易でない。しかし、その効果は明白だ。リベラルな民主主義、多元主義、人権、アイデアの交流を否定する。移民を阻止するためにEU拡大に反対し、ユーロを解体し、人道主義や気候変動に関する国際合意から離脱することを求める。
ポピュリズムを広める3つの主張がある。1.社会問題を過度に単純化し、悲観的に描く。2.普通の、有徳な市民のグループと、腐敗した、自己本位の、社会を支配する経済もしくは文化的なマイノリティを対比する。3.多元主義、グローバリゼーション、国際協調は間違った、有害な主張だと宣伝する。遠隔地、非キリスト教圏の国から、移民が流入するという不安は、現在のポピュリズムを拡大した。かつて、左派ポピュリズムが示したような、被抑圧者の解放というイメージはない。
ポピュリズムには関連する4つの起源がある。1.経済的な起源、所得の停滞や失業、個人・地域の不平等。2.文化的な起源、リベラルな諸価値の支配。保守的価値の復活を願う。3.不安と不確実さ。経済、文化、技術の急速な変化を恐れる。4.政策の失敗。構造変化や技術変化、グローバリゼーションの敗者。制度への不信感。
ポピュリスト政党の支持者は、低所得層と中産階級である。所得水準や教育水準が上がるほど、支持者は減少する。製造業のブルーカラー、低スキル労働者、地方の高齢者に支持者が多い。
ポピュリスト政党が連立政権に参加すると、政策のアジェンダを変更し、しばしば経済問題は悪化する。その後、期待された成果がないと、外部に敵を作る。投票手続きを変更し、「強権指導者」が憲法を変え、司法やメディアに介入し、ヨーロッパのルールを無視する。EU離脱を脅迫の道具に使う。1国で解決できないような問題も含めて、政策決定を再ナショナル化する。
主流派の政党が「軽いポピュリズム」を採用することがある。しかし、経済問題は悪化し、不確実さや悲観主義を強めるだけだ。そうではなく、間違った認識を正すことから始めるべきだ。EUには問題もあるが、その内部で生活水準は改善している。
EUと加盟諸国は、ガバナンス、移民、高齢化に関する新しい戦略を示すべきだ。例えば、アフリカ人口の増大は、南東欧諸国の人口減少に対して、政策対応次第では解決策になる。新しいポリシー・ミックスとして、質の高い移民を受け入れ、訓練・教育に投資し、難民たちを人道的に統合する。同時に、アフリカにおける投資、教育、ガバンスを改善する。
FT April
24, 2019
The age
of the elected despot is here
Martin Wolf
われわれは、選挙で決めたカリスマ的な指導者と、彼らが独裁者になろうと動き出す時代を生きている。それは不安と怒りの政治学だ。そのような条件があれば、それに合った指導者が現れる。暴力的な革命の後であれば驚くことではない。しかし、確立された民主主義国に現れるとしたら、それは驚きだ。
われわれはいたるところにそのような指導者を見出す。Vladimir
Putin in Russia, Recep Tayyip Erdogan in Turkey, Narendra Modi in India,
Nicolás Maduro in Venezuela, Rodrigo Duterte in the Philippines, Jair Bolsonaro
in Brazil, Benjamin Netanyahu in Israel, Matteo Salvini in Italy and Donald
Trump in the US.
モッブ(群衆)に襲われるプラトンは、彼を保護する指導者を描いた。しかし、そのような指導者は「真の人民」を保護する。その敵は、外国人、マイノリティ、反逆者のエリートたちである。その政治はパラノイア型である。政策が失敗すれば「秘密国家」や内外の敵を責める。
ポピュリストにふさわしい男は、ナルシストで精神異常者である。Steven
Levitsky and Daniel Ziblattによれば、民主主義を倒すために彼がすることは3つだ。1.レフェリーを掌握する。裁判官、税務署、研究所、警察。2.敵対者とメディアを弾圧し、無力化する。3.選挙のルールを変える。そのために、反対派の不当さを激しく主張し、情報は「偽物だ」と繰り返す。
不当な世界において権力者が自分たちの側にあることを強く望む人々は、そのような指導者を信頼する。民主主義の複雑な制度と規範が信頼を失い始めると、そのようなことが起きる。発展途上国と民主的制度の確立された先進国との違いは消滅する。人間は、カリスマにあこがれる。
前任者の大きな失策があった(ブラジル)とか、国民的な屈辱を受けた国(ロシア)では、そのような独裁者が選挙で登場する。しかし、アメリカはどうか? なぜトランプは当選したのか?
第1に、彼を支持した有権者には不安と怒りが強かった。金融危機、文化的な変化、など、長期的な経済の悪化が影響した。第2に、エリートたちはその感情を利用した。大幅減税や規制緩和が彼らの目的だった。それはアメリカ南部でエリートが用いた戦略だが、今やアメリカ全体でも、富裕層が独裁者を利用した。
共和国が維持されるには、希望をもたらす政治を示すことができる、われわれの善良な性格を刺激する、指導者が必要だ。
FT April
24, 2019
Trump
finds a new strongman friend in Libya
Roula Khalaf
● トランプ・ドクトリン
FP APRIL
20, 2019
THE
TRUMP DOCTRINE
BY MICHAEL ANTON
FP APRIL
22, 2019
Trump’s
Big Iran Oil Gamble
BY KEITH JOHNSON, ROBBIE GRAMER
トランプ政権は、イラン原油の輸入禁止措置についての適用除外を延期しない、と発表した。
その影響は、原油価格の上昇や、アメリカと輸入諸国との関係悪化、イランンによる報復、など、大きなリスクを意味している。
アメリカは同時に、イランの革命防衛隊をテロ組織と指定した。イランと敵対するサウジアラビアやアラブ首長国連邦と協力して、イランの政府財源を断つつもりだ。
この決定は、通常のアメリカ外交の決定過程に比べて、あまりにも短期に行われた、という見方が多い。
今後、主要なイラン原油輸入国である中国、インド、韓国が、アメリカの要求に従うか、注目される。また、OPEC諸国は、原油価格を引き上げるために生産量の削減を決めたが、イラン原油の減少を補う生産拡大に踏み切るか、も重要だ。世界の石油供給は、ベネズエラやリビアの政治危機が悪化する懸念もある。
また、イランとの核合意に関して、アメリカの離脱後も、その制裁に加わらず、イランとの貿易を続けているドイツ、フランス、イギリスの金融的取り組みが、アジアとの関係を含めて動くかもしれない。先週、トランプ政権が示したキューバに対する金融制裁についても、EUとの対立が生じている。
トルコはNATO加盟国だが、イランとの貿易自由化を進めている。特に、エネルギー部門に力を入れている。中国は、アメリカとの通商摩擦を交渉によって打開する見込みが立つと期待されている時期であるため、この要請に反対することはむつかしいだろう。
イラン海軍は、過去において繰り返した、ホルムズ海峡の封鎖を示唆している。イランはまた、イラク政府や外国企業に圧力をかけるかもしれない。
NYT April
23, 2019
Trump Is
Wasting Our Immigration Crisis
By Thomas L. Friedman
私は、最も多くの非合法移民が越境するアメリカとメキシコの境界線、the
San Ysidro Port of Entry, in San Diegoを訪れた。アメリカの国境警備隊に案内されて、最新の18フィートの高さがある、鋼鉄の壁も見学した。
われわれは深刻な移民危機にある。しかし、その解決策は、大きな門が付いた高い壁、そしてスマートな壁である。われわれは移民を合法的に受け入れるべきだ。それは、われわれの社会が適度に吸収できる、労働者として受け入れる数にする。われわれはエネルギーと才能を持った人々にビザを支給する。彼らはわれわれの社会を前進させるからだ。
われわれはまた、あまりにも多くの難民を排出する諸国に、安定化のための投資を行うべきだ。気候変動や人口爆発、ガバナンスの崩壊に、彼らは対処する必要がある。われわれはこうした非合法の移民たちを合法的に受け入れる歴史的な役割を継承するべきだ。
われわれが21世紀にも反映するのを助けるような移民たちが来ることを歓迎する。われわれはメキシコと協力して国境を超える移民を管理する計画を進めるべきだ。
FP APRIL
24, 2019
By
Punishing Iran, Trump Is Weakening America
BY HENRY FARRELL, ABRAHAM NEWMAN
(後半へ続く)