IPEの果樹園2019

今週のReview

4/22-27

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アメリカは壊れてしまうか? ・・・スペインの将来を賭けた選挙 ・・・独仏によるEUという間違い ・・・正統派の貿易理論 ・・・UKEUと選挙 ・・・ネタニヤフの勝利と移民 ・・・多国籍企業とグローバル課税 ・・・カルトとソーシャル・メディアの政治空間 ・・・ウクライナ大統領選挙

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカは壊れてしまうか?

FP APRIL 12, 2019

If You Bowl Alone, You Can’t Fight Together

BY ELISABETH BRAW

アメリカの地方においては、ボランティアで救急のために自動車を運転する者が極端に不足している、という。それは単に医療の問題だけではない。国家安全保障の問題である。われわれの社会が、かつて、依拠したボランティア精神と協力が失われていることを、この現象は教えている。

市民社会に対する攻撃が起きたとき、国家がそれに反撃できなければ、われわれは個人として敗北するだろう。現在、西側各国はハイブリッドな、姿を見せない、攻撃の標的となっている。もしわれわれが独りでボーリングを楽しむような社会になれば、救急の自動車を出したり、その他もコミュニティ活動に参加したりしないなら、攻撃を受けた社会は崩壊する。

個人主義化の傾向は、アメリカだけに限らない。それは脱冷戦とネオリベラリズムによって強まった。西側の諸政府は、社会よりも個人を重視した。かつては、周期的な軍事衝突や戦争があったので、われわれが国家として大義のために行動する必要を問う必要もなかった。

人々は、ソーシャル・メディアの煽る自己中心的な主張、それに共鳴するものだけが集まって称賛するような世界に閉じこもった。公共の集会場は次第に消滅し、アマチュアのボーリング大会もなくなった。そして、ポピュリストの政党や運動が盛んになっている。人々はそうやってコミュニティの感覚を求めている。

昨年の春、スウェーデンの市民非常事態局(MSB)が冊子を発行して話題になった。そのタイトルには、明白に、「もし危機や戦争が起きたら」と書かれている。非常事態に向けた対処法を、すべての国が準備するべきだ。もしインターネットが映らなければ、日常生活は止まってしまう。2017年、ロシアのハッカーはアメリカのいくつかの公共事業ネットワークに侵入した。

危機において住民たちの行動が効果的に組織されなければ、社会ダーウィニズムと無政府状態が支配するだろう。

NYT April 14, 2019

Is America Becoming an Oligarchy?

By Michael Tomasky

2020年の大統領選挙に向けて、予備選に立候補したPete Buttigiegが最近、テレビで答えた。「もちろん、私は資本家a capitalistだ。アメリカは資本主義的社会a capitalist societyである。しかし」と、彼は続けた。「民主的な資本主義democratic capitalismであるべきだ。」

資本主義には民主的な規制が必要だ、と彼は考えたのだ。それがなければこの国の繁栄はすべてのものに行き渡らない。「民主主義のない資本主義がどんなものか知りたければ、ロシアを見ればよく分かる。」 「それはクローニー・キャピタリズム(仲間内だけの資本主義)、オリガーキー(寡頭体制)である。」

問題は、民主主義を経済的にどう定義するか、である。寡頭制とは少数者の支配体であるが、アリストテレスの時代以来、それは富や土地を持つ男たち、貴族階級のことであった。

民主主義の定義はわれわれの時代まで受け継がれてきたが、それはいくつかの基本的権利や原則であった。人民、もしくは「デモス(民衆)」には、経済的な特性がない。これは間違いである。

民主主義は、グロテスクな富の集中と共存できない。こうした考えは、ラディカルではないし、外来でもない。トマス・ジェファーソンが考えたように、アメリカ的な、旧来の考え方だ。彼は相続された富が民主主義と矛盾する、と考えた。また、彼のライバルであったジョン・アダムズも、すべての社会は民主主義的原理において協力しなければならない、と考えた。政府の目的な人民の幸福であり、最大多数の最大幸福を目指すべきだ。

それゆえ民主主義は、この数十年間、われわれがこの国で見てきたような、経済的不平等と交じることはない。

FP APRIL 16, 2019

The United States Will Be Shocked by Its Future

BY STEPHEN M. WALT

我々人類は、大幅に不確実な時代に入ったようだ。政治的景観のなじみの特徴は消滅し、それに代わるものは明らかではない。

5年後、10年後に、NATOEUはあるのか? アメリカはまだ遠くの土地で姿の見えない敵と戦うのか? 中国はアジアを支配し、もしかすると、世界も支配するのか? AIは、次々と、経済の各分野から人間を追い払うのか? 地球のどれくらいの地域が水没し、居住不可能になるのか? 何百万人が、戦争、犯罪、抑圧、腐敗、環境破壊のせいで難民となるのか? 多くの裕福な、機能しない民主主義国は独裁に向けて落ち込むのか?

予測というのはいつもむつかしい。1990年代初めもそうだった。Samuel Huntington and Robert Kaplanのような、暗いイメージを示すものもいたし、Francis Fukuyamaなどの学者、Thomas Friedmanのようなジャーナリスト、Bill Clintonのような政治家は、リベラルな民主的資本主義の新しいグローバルな輝く世界を描き、旧政治を時代遅れとみなした。

われわれは一歩下がって、世界がどれほど大きく変化したか、あるいは、変化しなかったか、を考えるほうが良いだろう。

わずか500年という、人類史においては瞬くほどの時間をさかのぼれば、ヨーロッパ人はようやく南北アメリカが存在することを知った。政治は全くのローカルなもので、経済成長は世界のどこでも何世紀にわたりほんの穏やかなものだった。現在の80億に比べて、世界には5億人しか人類はいなかった。

およそ200年前に、中国は世界経済の3分の1を占め、ヨーロッパ全体で約25%だった。アメリカは2%ほど。その後、ヨーロッパは産業革命で離陸し、1900年までに世界経済の40%と、世界最強の軍事力を得た。中国は10%に落ち、アメリカは急速に大陸を横断して、100年で世界最大の経済、そして大国になった。日本も明治維新で離陸し、アジアをその支配下に置き始めた。

ヨーロッパ、アメリカ、ソ連、中国の変化を見るなら、2つのことが目立っている。1.毛沢東の死後、中国は市場を受け入れて離陸した。今や、世界第2の経済大国だ。2.人類の存在は地球環境を変えた。WWFによれば、哺乳類、鳥、虫、爬虫類、両生類は、1970年以降、その数が平均で60%も減少した。

500年でも、富とパワーのシフト、政治的態度や環境の変化は、甚大であった。その多くが全く予想外である。

1978年の世界を考えるだけでも、それは我々が今見ている世界と全く違う。2つのドイツがあり、ワルシャワ条約機構もあった。アメリカではなく、ソ連がアフガニスタンに侵攻した。北朝鮮もパキスタンも核兵器を持たなかった。アメリカとソ連は5万発以上持っていた。UKEU6年前に加盟していた。しかし、ヨーロッパのすべての国は通貨と国境警備を保持していた。ゲイのセックスは多くの国で違法であり、どこでも結婚できなかった。日本経済は破竹の勢いで成長し、ハーヴァード大学の教授たちは、日本がNo.1になる、という本を書いた。米軍はヨーロッパに20万人もいたが、中東にはほとんどいなかった。南アフリカにはアパルトヘイトがあった。まだパソコンも、携帯電話も、インターネット、SpotifyFacebooke-メール、コンパクト・ディスクCDもなかった。

1.変化は急速に進む。2.その国の将来にとって重要なことは、自国が政治で何を決めるかである。アメリカにはなお多くの優位があるけれど、その民主主義が壊れてしまうことは深刻な問題だ。


 スペインの将来を賭けた選挙

FP APRIL 12, 2019

Is Spain Is Heading for an Electoral Wreck?

BY OMAR G. ENCARNACIÓN

FT April 17, 2019

Spain faces its most chaotic election yet

José Ignacio Torreblanca

スペイン国民は、その記憶に残る中で最も激しい対立を示す選挙を経験している。過去の選挙は、社会主義政党と保守政党とが政権を得るために中間地帯を争った。428日の選挙では、2つの陣営が互いに相手をスペインの未来に対する脅威とみなしている。

中道右派の人民党PPと中道のCiudadanos、極右のVOXが参加する陣営は、社会党の首相Pedro Sánchezを打倒し、左派陣営の政権を阻もうとしている。なぜなら、そのような左派政権はスペインを分割すると考えるからだ。

他方、サンチェスSánchezの社会党、PSOE、そしてPodemosは、極右のVOXを含む右派陣営が勝利すれば、1975年、フランコ死後に、再生した民主政治が実現してきた社会的、市民的諸権利を脅かす、と考える。それはまた、地方自治を死滅させるだろう。

要するに、この選挙は政策ではなく、アイデンティティと未来への恐怖を問うのだ。穏健派と超党派の合意に基づく政治が、こうした形で悪化したのは、一方的で違法なカタルーニャの分離の動きによって生じた。

スペインには、長い間、マクロ経済政策、ヨーロッパ統合、社会的価値、国家の役割に関して、広いコンセンサスがあった。1978年憲法とEU統合により、スペイン・ナショナリズムはその論争を刺激するような文化、宗教、エスニックの要素を消して、市民的価値、多元的アイデンティティ、分権化を支持してきた。これらがカタルーニャ問題で崩壊した。

社会党は政権を維持するために、2018年、ラホイMariano Rajoy首相が不信任決議で失脚後も、サンチェスが政権を継承し、選挙しなかった。しかし、サンチェスの権力継承は、その後、Podemosとカタルーニャ分離派の支持を得た予算案通過により、分離を容認するものとみなされた。その結果、Ciudadanosは協力を拒み、また、極右VOXが台頭する。

スペインが一層の対立政治、過激化に踏み込むのか、中道勢力のコンセンサスと協力による政権が再生するのか、選挙結果によって決まるだろう。


 日本の人口減少

FT April 12, 2019

Japan’s population decline accelerates despite record immigration

Robin Harding in Tokyo

日本の人口減少が加速している。毎年、中規模の年が1つずつ消滅していくのと等しい。昨年は、43万人が減少した。移民流入は161000人という記録的水準であった。


 インドの選挙

NYT April 13, 2019

The Massacre That Led to the End of the British Empire

By Gyan Prakash

FT April 17, 2019

WhatsApp is a dark version of democracy

John Gapper

ソーシャル・メディアによる選挙の情報・意見交換は、深刻な問題を生じている。間違った情報、うわさが、瞬時に、社会に広まってしまう。群衆によるリンチ事件を受けて、Facebookの子会社だが、WhatsAppのインドにおける影響は、インド政府が望むなら、情報の遮断を行うことになるだろう。中国のWeChatも、Tencentの子会社だが、中国国外の利用が増えている。特に、中国外の華僑の間で、間違った情報が広まっている。

FT April 18, 2019

On the campaign trail in India’s Hindi heartlands

Lionel Barber

FP APRIL 18, 2019

FP’s Guide to the Indian Elections

BY FP EDITORS


 独仏によるEUという間違い

FP APRIL 13, 2019

The EU’s Buildings Are as Opaque as Its Bureaucracy

BY RICHARD J. WILLIAMS

FT April 14, 2019

We have reached the end of the Franco-German love-in

Wolfgang Münchau

先週の欧州理事会はBrexitに関する議論が占めた。しかし、独仏関係に亀裂が生じたと、後に、記憶されるかもしれない。

長期の延期を支持するドイツの求めた多数意見を、マクロンは拒んだ。メルケルを取り巻くブリュッセルの顧問たちは、マクロンの妨害に怒りを表した。なぜか?

マクロンは、ユーロ圏の改革を試みたが、メルケルはそのほとんどを避けてきたからだ。マクロンが大統領になった当時は、フランスと緊密な関係を好む顧問が彼の周りを固めていた。ドイツ社会民主党の元党首Martin Schulzは彼の理想的なパートナーであった。しかし、その後の選挙で彼は失脚した。他方、メルケルの後継者とみなされるAKKAnnegret Kramp-Karrenbauer)は、そのエッセーでフランスの政治エリートを驚嘆させた。

彼女はフランスに国連安保理の常任国の放棄すること、そして、航空輸送機の共同開発を求めたのだ。それゆえフランスから見て、問題はメルケルではなく、次の時代、AKKの考え方である。これまで独仏関係は2国間で深く結び付いてきた。しかし、将来には不安がある。

もしトランプがヨーロッパの自動車に高い関税を課した場合、ドイツは自由貿易の取引を望むだろう。しかし、マクロンはこれに抵抗する。フランスの農業は、もしヨーロッパ市場がアメリカの農産物に開放されれば、苦しむことになる。貿易に関して、独仏の利益は全く反対だ。

また、マクロンは欧州委員会の委員長候補にManfred Weberを支持しないだろう。Weberはオルバンの長期に及ぶ支持者だから。

最大の問題は次のユーロ危機が起きることだ。ECBの捨て身の防衛策はもう取れない。しかし、グローバル経済の同時原則が起きつつある。イタリアの政府債務危機は迫ってくる。その債務を組み替えるなら、ドイツよりも大きな債権者であるフランスは、ユーロ圏の改革を求める。共同の政府債務処理、財政ルールの見直し、などだ。こうした考えは、ドイツにおいてタブーとなっている。

マクロン、もしくは彼の後継者は、ユーロ圏の改革か、解体か、ドイツに迫ることになる。

NYT April 15, 2019

Has Germany Forgotten the Lessons of the Nazis?

By Paul Hockenos

なぜAfDのような過去に対する見直しを主張する党派が支持を広げたのか? ドイツは、これまで真剣に過去についての教訓を学ぼうとしてきたが、そこにはいくつも盲点があった。

The Guardian, Wed 17 Apr 2019

Macron vowed to change the EU – but his chance may have gone

Shahin Vallée

マクロンはEU改革の選択を間違った。先週、EUサミットにおいても、Brexitの延期問題で孤立していた。

マクロンの失敗は、独仏関係を軸にユーロを改革できると考えたことだ。しかも、フランス的な大統領の権限を、ドイツのメルケルに期待した。ドイツ政府や国民は、フランスの財政規律やユーロ圏の改革を信用しなかったし、メルケルはその範囲でしか協力しなかった。

もっと新しい改革派の運動を支持するべきだった。

FP APRIL 17, 2019

Fearing Populism, France and Germany Flee Into the Past

BY KEITH JOHNSON


 正統派の貿易理論

FP APRIL 13, 2019

The Dangers of Trade Orthodoxy

BY JONATHAN SCHLEFER

正統派の貿易理論では、すべての国が国境を越えて静かに市場を拡大し、利益を得る。現実には、貿易がしばしば、その反対の結果をもたらす。市場競争は激化し、不平等が拡大する。雇用をもたらすと称賛されるが、貿易はアメリカの諸州において100万人の製造業雇用を奪い、彼らの怒りはドナルド・トランプを大統領に導いた。

他方、発展途上国では、貿易が多くの貧しい諸国に輸出部門への世界需要をもたらした。しかし、この場合も、多くの痛みを生み出した。1994年、NAFTA成立後も、メキシコからアメリカへの非合法移民は増加した。2000年までに、480万人がアメリカに非公式な形で住んでいた。

WTOは今も、1817年、デービッド・リカードが示したウィン・ウィン型貿易論を崇拝している。そこでは、イギリスも、ポルトガルも、より少ない労働力で輸出する財を生産する。両国とも、より効率的に生産し、より多くを得ることができる。保護主義的関税は、港を岩で埋める行為にたとえられる。

リカード・モデルは重要な真実をとらえているが、それが実現するにはそのすべての前提を満たさねばならない。リカードは、貿易に代えて、工場が外国に移動できるとは考えなかった。貿易は均衡し、両国は完全雇用を実現する。貿易は工業の発展経路に影響しない。リカードは、怠惰な富裕層が農地を独占して、労働者の消費する小麦の価格を引き上げている、と考え、穀物輸入の自由化を支持した。それは労働者の生活を楽にし、産業資本家に多くの利潤をもたらし、それが経済発展を加速する、と。

リカードはポルトガルについてあまり考えなかった。しかし、その不幸な状況は、リカード・モデルが扱わなかった開発の問題を示している。1703年、英国王立海軍がリスボンに来航し、ポルトガルに条約を押し付けた。ポルトガルのワインとイギリスの織物とを貿易する条約だ。しかし、ポルトガルは貿易が均衡するほど十分にワインを輸出できなかった。織物を輸入するため、ポルトガルはブラジルで奴隷に金を採掘させ、毎週5万ポンドの価値の金をイギリスに送った。イギリスの織物に対する海外需要は、初期の産業革命にとって重要なものだった。

アメリカの財務長官Alexander Hamiltonは、イギリス帝国の成功、いわゆる産業政策の重要性を知っていた。国立銀行を設立し、インフラ建設を行い、関税によってアメリカ産業を外国の競争から守った。南北戦争から第1次世界大戦までに、アメリカは周辺国から世界大国になったが、平均関税率は40-50%に維持していた。現代の中国の発展もそうだ。中国政府は、国有銀行から製造業に融資し、しばしば国有企業を通じて、インフラ建設のブームを起こした。輸出財が安価に、輸入財が高価になるように、通貨価値を操作した。政府はあらゆる商品を購入し、外国企業の知的財産を利用できるようにした。

貿易が雇用に及ぼす影響は、第1次世界大戦後に選挙権が拡大するまで、政治的に注目されなかった。1937年に、ジョーン・ロビンソンは、保護主義によって雇用を増やす政策に関して考察した。ロビンソンの懸念は、ブレトンウッズ会議で、ケインズが推進した世界経済秩序では扱われなかった。貿易戦争が世界不況とファシズムにつながったことをすべての国が記憶していたからだ。トランプのように、個別の国が経済ルールを変えて、雇用に影響することは考えられていなかった。

関税によって貿易赤字を維持することはできない。それは赤字を維持する国際的な資金の移転が必要だから。ブレトンウッズ会議では、貿易の拡大と、不均衡の回避が目指された。IMFがこの資金移動を監視した。IMFは、赤字国に融資するが、その経済が過熱しないように、輸入超過をもたらす政府支出の抑制を求めた。同時に、貿易黒字を累積する国にも、問題の是正を求めた。IMFは黒字国通貨の交換や黒字国の輸出を止めることも認めた。

この視点は、第2次世界大戦後、アメリカ大統領の姿勢によって、黒字国については何も言わない形に変えられた。しかし、1960年代から、アメリカが貿易赤字になってから、元の姿勢を回復する。他方、フランスはアメリカの「覇権」を非難し、日本やドイツは主要な黒字国となった。

今や、政治家たちはリカードの貿易論を信じていないようだ。一方では、完全な市場を想像し、他方で、貿易戦争から本当に戦争を招く事態を想像する。通貨価値の大幅な過小評価、過大評価を防ぐべきだが、合意はむつかしい。各国の政策を超えて、グローバル市場はますます安価なコストの立地を求めて圧力を強める。公平な所得分配や、完全雇用の達成は脅かされたままだ。

FT April 14, 2019

A trade deal might help China’s needed reforms

FT April 15, 2019

How to funnel capital to the American heartland

Bruce Katz

PS Apr 15, 2019

Will Free Trade Make Africans Sick?

WALTER OCHIENG


 UKEUと選挙

The Guardian, Sun 14 Apr 2019

The Good Friday agreement is under threat – but it’s key to resolving Brexit

Tony Blair and Bertie Ahern

The Guardian, Thu 18 Apr 2019

Britain will have its second referendum – at the EU elections on 23 May

Timothy Garton Ash

5月の欧州議会選挙を、Brexitの国民的予備選挙にするべきだ。重要な課題はシンプルなものだ。Brexit国民投票を支持する政党、Brexit合意を受け入れるか、あるいは、EUに残留するか、国民に民主的な選択を認める政党に最大の投票をもたらすことだ。

もし労働党のマニフェストが明確に国民投票を掲げれば、労働党はこうした陣営に参加する。もし労働党の立場が明確でなければ、自由民主党、Change UK、緑の党、スコットランド国民党、Plaid Cymruに投票する。われわれは、親ヨーロッパ、国民投票支持の政党に投票した有権者の数と、Brexit推進のUKIP、ファラージのBrexit新党、保守党に投票した有権者の数とを、対比するべきだ。

FT April 19, 2019

Britain is once again the sick man of Europe

Martin Wolf

私が若かったころ、1960年代に、イギリスは長期の経済的苦境を経験する「ヨーロッパの病人」だった。しかし、マーガレット・サッチャーが首相となって、その言葉は消えた。今、再び、私が外国に行くと、特に大陸ヨーロッパで、人々に訊かれる。「イギリスはどうなっているのか?」

その答えを出せるとは思わないが、UKには同時に6つの危機が起きている。

1.経済危機。2008年の金融危機が始まりだった。しかし、今、重要なことは、生産性の上昇が遅れていることだ。2008-18年、UKの生産性上昇率は3.5%であり、高所得国の中で、イタリアに次ぐ低い率である。それは生活水準が改善しないことを意味し、政治において好ましい時期ではない。財政緊縮策はそれをさらに悪化させた。

2.国民のアイデンティティ危機。排他的に、忠誠心が疑われた。多くのアイデンティティを好む者と、単一のアイデンティティを主張する者がいる。その違いは、Brexitの論争で政治化され、より辛辣で、分断を刺激するものになった。

3.論争の危機。アイデンティティを政治的武器にしたことで、論争は「反逆者」への非難となった。正常な民主主義で行われる政治のギブ・アンド・テイクが不可能になる。

4.政党の危機。歴史的に階級を基礎にした既存政党は、ブリティッシュ、ヨーロピアン、というアイデンティティの分割と一致しない。主要政党が分裂し、新しい枠組みは現れない。

5.立憲的構造危機。政治ゲームのルール危機である。EUに帰属すること、それを国民投票で決めること、その結果に議会が反対すること。単純多数決で決めたこと。

6.最も重要な、指導力の危機。UKは、キャメロンからメイの失態によって混迷している。次の首相が、保守党のボリス・ジョンソンや、労働党のジェレミー・コービンになることは望ましくない。前者はBrexitを推進した「ハーメルンの笛吹き」であり、後者は左派の独裁政権を支持し続けた社会主義強硬派だ。

重要なことは、何が起きたかではなく、ここから抜け出すのに長い時間を要する、ということだ。


 ネタニヤフの勝利と移民

FT April 14, 2019

Europe must take a stand in the Israeli-Palestinian conflict

Gro Harlem Brundtland

PS Apr 15, 2019

The Roots of Right-Wing Dominance in Israel

SHLOMO AVINERI

ネタニヤフはこの選挙で5度目の首相となった。これは彼にとっても、右派のリクードにとっても目覚ましい勝利だ。

トランプは明らかに彼の勝利に手を貸した。イラン核合意から離脱し、エルサレムへアメリカ大使館を移設し、選挙直前、ゴラン高原にイスラエルの主権が及ぶと承認した。

また、ネタニヤフがトランプ流の選挙術を駆使したことも非難された。本物あるいは想像上の敵に対する恐怖と憎しみを煽り、新聞を軽蔑し、司法システムを攻撃した。イスラエル経済の成長や低インフレ、記録的な低失業率も、有利な条件だった。

しかし、彼に有利な、より深い趨勢があった。ユダヤ人国家として、リベラルで社会民主主義的な性格は、20世紀前半の建国期において確立された。シオニストの指導者たちは、ユダヤ人の社会正義に対する自主的決定により、非宗教的な国家を理念とした。この理念は、特に、1948年以降の大規模な移民流入によっても、イスラエルを、ユダヤ人の民主的国家、とした。

この世界観はもはや多くの国民に支持されていない。貧しい、戦闘に沈む、65万人の小国は、今や繁栄する800万人の国家になった。この人工的変化は、国家の社会構造と政治を徐々に、かつ、決定的に転換した。

1980年代後半から、10万人の移民が旧ソ連から流入した。彼らはイスラエルの科学、技術、文化、音楽を豊かにした。しかし、その政治的姿勢はソ連支配下で暮らした数十年を反映していた。多くは世俗的(深い信仰心を持たず)で、階層的な秩序の強い国家を好んだ。よそ者や敵(ここではアラブ人)に対して容赦しなかった。「プーチンの下で暮らしたくないが、プーチンのような指導者を好む。」

労働党の穏健な社会民主的エートスやキブツは、彼らにとってボルシェビズムやソビエト時代のコルホーズを思い出させた。彼らの多くは、パレスチナ人の自決権を認める左派より、ネタニヤフの厳格なナショナリズムを好んだ。

同様に、北アフリカや中東からの初期の移民は、世俗的、平等主義的な労働党のエートスが、深いところで、彼らの宗教性や父権主義的な価値観と矛盾することに気付いた。彼らの多くは、アラブ人の多数派による弾圧を記憶している。リクードの最初の首相Menachem Beginは、こうした移民たちの持つ、左派エスタブリッシュメントに対する不満を、リクードへの政治的支持に転換した。

今も、旧ソ連からの移民たちはリクード支持者の岩盤である。ネタニヤフが去っても、彼らは右派連立政権を維持するだろう。しかし、イスラエルがハンガリーのような「非リベラルの民主主義」になることはない。その民主的な構造と規範は残っているからだ。それが大きく弱体化したことは確かである。

ネタニヤフ政権に対する野党の力は拮抗している。しかし野党は、リクードに変わる一貫した対案を示さねばならない。中道から極右に及ぶ右派連合も決して1つではない。

PS Apr 18, 2019

The Structure of a Diplomatic Revolution

RICHARD N. HAASS

PS Apr 18, 2019

No Democracy Without Peace in Israel

JAVIER SOLANA


 ECB

FT April 15, 2019

ECB considers options to combat low inflation

Gavyn Davies


 トランプ外交

FT April 15, 2019

Why Donald Trump is great news for Xi Jinping

Gideon Rachman

任期を経て、ドナルド・トランプの行動パターンが明らかになってきた。アメリカ大統領は危機を創りだす。しばらくこれを演じてから、危機を解決した、と発表する。脅迫によって友好国も敵国も憤慨させ、自分で称賛する、「飛び切りの」合意をもたらす。だが本当は、しばしば取引が表面的なものであり、その下にある問題は解決されていない。

北朝鮮の核危機、メキシコやカナダとの通商協定がそうだった。中国との貿易戦争もそうだろう。貿易戦争の終結は、習近平へのプレゼントになる。なぜなら、アメリカは最も重要な武器を失うからだ。アメリカが中国に優位を示すのは、経済ではなく、その掲げる理念である。「自由」や「民主主義」は、中国の一党支配国家に対する脅威であった。

しかし、トランプは違う。彼は世界中の権威主義的な独裁者を称賛する。習近平は、「偉大な指導者」であり、「素晴らしい人物」なのだ。

しかし、中国の習近平体制による弾圧は、冗談にも、無視できない。メディア、インターネット、大学の監視は大幅に強化された。新疆自治区のかつてない弾圧は、100万人に及ぶ住民が「再教育キャンプ」に拘束されている。

FT April 16, 2019

US and China tech giants look increasingly similar

Louise Lucas in Hong Kong

PS Apr 16, 2019

The Closing of the Chinese Mind

MINXIN PEI

FT April 17, 2019

China battles the US in the artificial intelligence arms race

Martin Wolf

中国は西側諸国を抜いて、AI技術の実用化で、世界の指導的地位に就くかもしれない。元中国Googleの会長であるKai-Fu Leeは、中国の優位を説明する。1.オンラインの研究者協力体制。2.競争と起業に熱狂する経済。3.都市に集中する居住者の需要。4.既存サービスの後進性と最先端技術への飛躍。5.規模。6.政府の支援。7.プライバシーへの許容度。

しかし、AIには利益だけでなく、社会や政治に及ぼす害も問題となる。最も重要な意味は、労働市場への衝撃、そして、監視社会への移行である。

われわれは怪物を生み出した、という結論に終わるかもしれない。


 インドネシアの選挙

FT April 15, 2019

In Indonesia’s upcoming elections, the presidency matters least

Dane Chamorro and Achmad Sukarsono

FP APRIL 16, 2019

What’s at Stake in Indonesia’s Elections?

BY BENJAMIN SOLOWAY

FP APRIL 17, 2019

Islamism Is the Winning Ticket in Indonesia

BY KRITHIKA VARAGUR


 多国籍企業とグローバル課税

PS Apr 15, 2019

How to Tax a Multinational

JAYATI GHOSH

多国籍企業MNCsはこれまで世界経済のルールを使って税の支払いを最小化してきた。ときには、まったく支払わなかった。しかし今、the Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation (ICRICT)が多国籍企業に対する統一税制を主張している。その実現に向かう兆候が現れている。

MNCsに対して20-25%の、グローバルな最低実効税率を課すべきだ、それが実現すれば、税率の低い国に利潤を移転するトランスファー・プライシングの企業財務からの動機は大きく抑制される。また、諸国間でMNCsによる投資を誘致するための、「底辺へ向かう競争」が終わる。

こうしたグローバルな税収は、いくつかの要因によって諸国間で分配される。すなわち、企業の売り上げ、雇用、デジタル・ユーザーの数、など。その活動や知的財産を所有する国を選択することで、MNCsがそれを決めることはなくなる。

政府が失っている税収の規模は途方もない。IMFの推定では、OECD諸国が毎年、4000億ドルの税収を失っている。MNCsの租税回避行動は、貿易統計をゆがめている。知的財産のような、無形資産の取引で、リアルな経済活動と関係ない、「幽霊貿易trade flows」が起きるからだ。こうした行動はデジタル企業に顕著である。

たとえばAmazonは、過去2年間、アメリカの連邦税を全く支払わなかった。2018年の収益は世界全体で2320億ドルあったが、申告された利潤は94億ドルだけであり、そのすべてがさまざまな還元策や戻し税の対象だった。2017年、Google230億ドル近くをオランダのシェル・カンパニーを通してバミューダに送り、課税額を劇的に減らした。

1月、OECDはデジタル企業に対する課税ルールの基準を示した。あまりにも長い間、MNCsは、特にデジタル企業は、既存の税制の差を利用して、その消費国から課税されることを回避してきた。こうした「マーケット」となっている諸国の課税当局はグローバル企業への課税を強化している。しかし、発展途上国もグローバルな法人税制を求めている。

改革は成功するか、わからない。アメリカ政府は、デジタル企業(そのほとんどがアメリカ企業)のみに対する税制の改正に反対している。それは何の見返りもなく課税権限を他国と共有することを意味するからだ。MNCsの政治的影響力も強い。


(後半へ続く)