IPEの果樹園2019

今週のReview

4/15-20

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Brexitという怪物の政治的内蔵 ・・・ヨーロッパの分裂と迷い ・・・グローバルな金融・財政政策と機関 ・・・アメリカと中国の「平和共存」 ・・・平成から令和 ・・・ネタニヤフとイスラエルの選挙 ・・・インド総選挙 ・・・デジタル石油産業 ・・・ヨーロッパとアフリカからの移民

長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexitという怪物の政治的内蔵

FT April 8, 2019

Conservatives will pay a heavy price for weaponising Brexit

Robert Shrimsley

保守党政権は、メイが去って、長期の延期、新しい党首の下、コンセンサスを重視するアプローチに変わる。

これまで、まともな議員たちは軽蔑され、脅迫され、虐められて、政治は分断を深めてきた。ついに、首相は労働党に話し合いの場を求め、打開の道を探っている。それは遅すぎるし、確実ではない。しかし、その方針転換は、保守党政権の罪の深さを示すものだ。

2017年の解散・総選挙の前、数か月間に、メイは重大な決断を行った。すなわち、彼女と保守党政権はBrexitを私物化し、武器として利用したのだ。

すでに離脱キャンペーンは、有権者たちの怒りを利用して、効果的に、財政緊縮策の答えをBrexitに求めていた。保守党は、その技法を繰り返そうとした。保守党のBrexitは、労働党を非難する武器となり、変化を求める人々への答えであった。それはもはや国民的な課題ではなく、政治の道具であった。

この戦術はUKIPを破滅させ、残留を求めた有権者を労働党に向かわせた。メイの穏健なBrexitを模索する動きが成果を示せるのか、それはわからないが、彼女が有権者の保守党離れを促し、保守党の支持者を狭めた。彼女の党は、高齢者と不満を強める者の避難所に変化しつつある。

保守党政権は、Brexitを、ハードなBrexitともっとハードなBrexitの選択に変えた。メイはいつも離脱強硬派に相談したが、より多数の、より静かな保守党銀たちは、方針さえ示されたら、容易に意味のある妥協を目指しただろう。しかし、メイはBrexitを強硬派の定義するものにしてしまい、説明責任を果たさず、メディアのスポットライトを浴びることで喜びすぎた。

もしメイが本当に議会の合意形成を模索していたらどうなっていたか、想像してみよう。Brexitに関するイギリスの立場は、2つの極論の中ではなく、52:48という投票結果を反映した穏健なものとなっただろう。国民投票の後でも、離脱を支持した指導者たちが単一市場に残るような妥協を受け入れる余地はあった。それが強硬なものになったのは、もっと後だ。

Brexitの合同委員会ができたら、労働党の穏健派指導者も加わり、UKの姿勢を変えただろう。離脱強硬派は排除されたはずだ。論争の性格が全体として変わった。協力のモデルに注目し、関税同盟と単一市場が対比された。しかし、そうではなかった。当初は敗北を認めた残留派も、極端なBrexitに対して、第2の国民投票を要求したのだ。

こうした想像はあまりにも楽観的である。政治論争は極端に向かい、中間的な立場を一掃する。しかし、強硬派が論争の枠組みを決めたことは、UK社会の分断と怒り、恥辱と経済的ダメージを増した。

VOX 08 April 2019

Austerity caused Brexit

Thiemo Fetzer

2010年以来、保守党の連立政府による財政緊縮策は福祉国家の改革を進めた。福祉政策に対する国の支出は、1人当たりで16%減少した。教育に対する支出は実質で19%削減され、他方、年金支給は増加し続けたから、政府支出の構成には大きな変化が起きた。

福祉政策を、それ行う地区レベルで見ると、2010年から2015年に、実質で1人当たり23.4%減少した。2012年の法律the Welfare Reform Act of 2012により、イギリスの労働人口に対するコストの推定額は、年440ポンドである。その影響は地域によって大きく異なる。Blackpoolでは914ポンド、シティ・オブ・ロンドンでは177ポンド。最も荒廃した地域が、最大の受給者を抱えていたから、大きな影響を受けた。

地区ごとの影響の差を使えば、緊縮政策の影響が、UKIP(離脱を強く推進したUK独立党)への支持の増加と、地方選挙、総選挙、EUに関する国民投票、それぞれの時期に合わせて評価できる。その推定は、もし緊縮政策がなかったら、僅差の国民投票の結果が、残留派の勝利に終わったことを示している。

緊縮政策の政治的影響を、個人レベルのデータで見る研究も行われている。福祉国家の改革により、給付の削減を経験した個人は、次第にUKIPの支持に傾いた。政治制度、政府への不満、政府の能力や、投票によって何かが変わることへの不信が、離脱を支持する感情と結びついていた。

福祉国家の解体、緊縮政策は、さまざまな形で、長期的に形成されてきた経済的憤懣、怨嗟を強める効果があった。それはUKだけに限らない。アメリカやドイツの研究も示している。競争の激化、貧しい諸国との貿易、製造業の集中した地域の衰退、移民、機械化、デジタル技術による新しい経済活動、無給待機の契約制雇用。ますます社会福祉に依存する生活が避けられない人を増やしていた。スキルのバイアスがある労働市場は、教育、人的資本によって、経済格差を拡大した。

経済学はそれをよく知っている。貿易による統合化、グローバリゼーションは、福祉国家と補完的に実現しなければ、政治的な支持を失う。教育や再訓練に投資し、新しい職場に向けて移動する人々を助ける、適切な社会福祉システムが必要だ、と。

The Guardian, Tue 9 Apr 2019

Brexit is just one front in Europe’s battle for its soul

Timothy Garton Ash

ヨーロッパは単にBrexitドラマの鑑賞者ではなく、重要な登場人物の1人である。それはヨーロッパに関するイギリス政治であると同時に、Brexitをめぐるヨーロッパ政治なのだ。

イギリス政治がしばしば現実のヨーロッパと何も関係ないのと同じように、ヨーロッパ政治もイギリスについて考えているわけではない。個人的な野心、ヨーロッパの選挙における各政党の政治的計算、EUに向けた競合する見方、それらすべてが作用する。

私は決して忘れないだろう。あるとき、交渉に参加していたイギリス人が、50条による離脱を無期限に延期するよう説得したとき、フランス人の背の高い交渉責任者が、泣かんばかりに、恐怖の表情を示したのだ。彼はおそらく、彼の残りの人生が永遠の離脱交渉に縛られて、将来の栄達の可能性を奪われる、と恐れたのだろう。

エマニュエル・マクロンは、ド・ゴールとジャック・ドロールとを合わせて、ナポレオンの風味を加えたような人物だが、21世紀に向けてヨーロッパを改造するには今年が最後のチャンスだ、と確信していた。イギリスの問題が、彼のこの改革を邪魔することを許さない、という姿勢が明白だった。

Brexitをめぐるイギリス政治とヨーロッパ政治の交流は、奇妙な仲間を生み出す。イギリスの離脱強硬派Jacob Rees-Moggとベルギーの熱狂的なヨーロッパ連邦主義者Verhofstadtである。、先週、Rees-Moggはツイートした。「もし長期の延期によってわれわれがEUに捕らわれるとしたら、可能な限りEUの運営を妨害するぞ。予算案のあらゆる増額に拒否権を行使し、EU軍の計画を破壊し、マクロンの統合計画を阻むのだ。」 これに対してVerhofstadtはコメントした。「Brexitを長引かせるのは、EUの側でもご免だね。」 そして、この素敵な発言にウィンクする絵文字が付く。

われわれ、イギリスのヨーロッパ人は、いかなる幻想も持ってはいけない。ヨーロッパの側の善意はほとんど尽きている。イギリスを病気にたとえる表現があふれている。イギリスは、毒であり、壊疽となった足であり、切除すべき癌細胞である、と。


 グローバルな金融・財政政策と機関

VOX 09 April 2019

The IMF at 75: Reforming the global reserve system

José Antonio Ocampo

IMF4つの主要問題に答えねばならない。1.グローバルな準備システム。2.マクロ経済のリンク、と為替レート。3.国際収支不均衡と危機。4.国際通貨システム(IMS)のガバナンス。

ブレトンウッズ体制は1970年代の初期に崩壊した。そのときアメリカは金=ドル本位制を一方的に破棄し、主要開発諸国は安定的な為替レート・システムの採用に失敗し、IMF加盟諸国は改革に合意できなかった。グローバルな準備通貨は主としてドルだが、主要通貨間の競争で決まるシステムになった。為替レートの決定は自由になり、明確に定義されたわけではないが、「通貨操作」は禁じられた。それはアドホック(事後的)な合意によるシステム、「ノン・システム」になった。

このシステムの欠陥はグローバルな論争で明確にされてきた。すべての改革において、「非対称性」問題と、特に、新興国、途上国の「脆弱性」が指摘された。ケインズも指摘した非対称性の問題とは、国際収支不均衡の調整について赤字国に強い圧力がかかり、デフレに偏った調整が進むことである。

2に、特定の国民通貨を国際通貨として利用する問題だ。トリフィンのジレンマとしてよく知られているが、国際流動性が、ある国の経常収支赤字によって供給されると、その国の赤字が増えて、最終的には通貨への信認が失われる、というものだ。システムの安定性は、準備通貨発行国の政策目標と一致しない。

3の問題は、発展途上国が外部からの融資に依存するとき、その浮動性を避けるために、保険として、大量の外貨準備を要することだ。それは、途上国が豊かな国に対して、低利で、貸し付けることにほかならず、しかも、グローバルな不均衡を拡大する。

改革には2つのアプローチがある。1つは、現在の趨勢を利用する解決策だ。すなわち、複数通貨を利用するシステムの安定化である。各国は、準備通貨を多様化する。これによって特定の国による不安定化を回避する。しかし、アメリカ債券市場の規模と深さに匹敵する市場はないため、多様化はむつかしい。

このアプローチでは、同時に、主要通貨間で為替レートに関する参考相場圏a system of reference ratesに合意する。これは主要通貨間で為替レートの変動が一定の均衡値、もしくは、バンド(変動幅)に入るよう管理することについての合意だ。

もう1つのアプローチは、唯一のグローバルな準備資産であるSDRの地位を高めることだ。1969年のIMF協定改正で実現した。景気循環に応じて、SDRを積極的に供給すべきである。グローバルな需要は、推定年2000-3000億ドルある。それは既存のグローバルな準備に対するわずかな追加でしかない。その意味で、このアプローチは複数通貨システムを補完するものだ。

既存のシステムを改善するうえでSDR3つの点で貢献する。1.シニョレッジ(通貨発行による利益)がIMFと加盟諸国に帰属する。2.不況を強める効果を抑制する。3.途上国の外貨準備累積を抑制する。

さらに野心的な改革では、SDRにより、IMFは融資プログラムを、各国の中央銀行が自国通貨で行うように、実行できる。その場合、IMFの口座で使用されていないSDRは預金とみなされ、IMFにより、景気循環を抑制する仕方で貸し出される。SDRの配分を開発とリンクすることで、途上国の外貨準備累積に代えて、流動性が供給される。SDRは中央銀行間で準備資産や支払い手段となる。複数通貨システムと合わせて実現することは、政治的に受け入れやすいだろう。特に、アメリカからの反対を避けられる。


 アメリカと中国の「平和共存」

PS Apr 10, 2019

Peaceful Coexistence 2.0

DANI RODRIK

アメリカと中国の「平和共存」を世界経済は痛切に願っている。すなわち、双方が、独自の条件で他国の発展する権利を認めることだ。アメリカは、中国経済を資本主義的市場経済の自分たちが描くイメージに合わせて改造してはならない。また中国は、雇用や技術の漏えいに関するアメリカの懸念を認め、こうした観点でアメリカ市場が場合によってはアクセスを制限することも受け入れねばならない。

「平和共存」とは、米ソの冷戦時代に使用された言葉だ。ソ連の指導者、フルシチョフは、社会主義と資本主義のシステム間に起きる永久闘争という原理が、その有益な限度を超えていると理解した。欧米にはまだ共産主義革命の条件が熟していない。彼らがソ連圏で共産主義体制を破壊することもない。両体制は共存するべきだ、と。

冷戦では、多くの衝突と代理戦争が起きた。しかし、少なくとも超大国間の軍事衝突は回避された。同様に、経済の平和共存は、米中間で、経済の2大国が破壊的な貿易戦争を防ぐ唯一の道である。

この対立の背後には、私が「ハイパー・グローバリズム」と呼ぶ、間違った経済観がある。すなわち、諸国は外国企業との競争に最大限開放されるべきである。それがその国の成長戦略や社会モデルにどのような影響を及ぼすかは考えるな。その結果、市場を支配する経済ルールは収れんするだろう。

こうしてアメリカは中国に対する不満を強めた。中国の産業政策、中国の融資、知的財産に関するルール、技術移転の要求、アメリカの金融機関に対する規制、これらがアメリカ企業の中国市場における競争を妨げている、と。他方、中国はこうした主張を受け入れない。

平和的共存が求めるのは、米中が互いに他国(米中だけでなく)の政策余地を認めることだ。国際的な経済統合においても、自国の経済・政治目標を優先できる。そのようなアプローチは保護主義への逃げ道になる、と批判する者がいる。しかし、比較優位が示すのは、貿易をする諸国には必ず利益がある、ということだ。貿易を制限するとしたら、それは一層大きな利益がほかにあるからか、貿易による損失に十分な補償をしない、というような政治の失敗が原因である。前者の場合、自由貿易は社会の厚生を損ない、後者の場合、政治の失敗を解決する程度に応じて、自由貿易が受け入れられる。

多くのアナリストが言うように、中国が産業政策を駆使して経済大国になるとしたら、産業政策を妨げることは、中国の利益にも、世界の利益にもならないだろう。それが経済的に見て損失を生むとしたら、それを負担するのは中国人だ。通商協議や、その背後で特殊利益がうごめくことは、何の利益にもならない。

GATTを見ればよい。当時、すべての国が経済戦略を実行するための、より大きな自由を行使していた。それでも第2次世界大戦後の35年間は、1990年以降のハイパー・グローバル体制以上に、GDPを超えて貿易額が伸びた。非正統的な成長政策を取った中国が、今では、世界最大の貿易国家である。

中国がWTOに加盟したとき、西側の市場経済になる、という意見があった。しかし、それは実現していない。中国はWTOルールにもっと従うべきだ、と言う者もいる。しかし、世界最大の貿易国家に合わないようなWTOルールこそ、緊急に、修理する必要がある。


 ネタニヤフとイスラエルの選挙

FT April 10, 2019

Donald Trump has let the Israeli annexation genie out of the bottle

David Gardner

2015年の選挙でも、ネタニヤフは投票日に警告した。選挙後、彼は、暗黙の裡に、イスラエルのアラブ系市民を「第5列」(イスラエルへの侵略を手引きする裏切者)とみなしたことを謝罪した。しかし、その警告は効いたのだ。ネタニヤフは勝利した。

土曜日、ネタニヤフはヨルダン川西岸の入植地をイスラエルに併合すると約束した。そこはパレスチナ人が独立国家を創るという希望を支える土地だ。「私は主権が及ぶことを、入所奥地のブロックと孤立した入植とで分けることはしない。」・・・「私は入植者の誰も追い出すつもりはないし、パレスチナ人に妥協するつもりもない。」

これは単に選挙のための修辞ではない。ネタニヤフと極右の閣僚たちは、政治を大きく右へと偏るように仕向けて、権力を維持しようとしたのだ。これは驚くことではない。昨年、パレスチナ国家を党則で否定する右派政党、リクードは、法と主権を入植地に拡大する、と全会一致で決めた。さらに極右の政党は、パレスチナ人を近隣のアラブ諸国に「移送」する、と主張する。

しかし、真に根本的な変化はドナルド・トランプ大統領がもたらした。彼は数十年間のアメリカの中東政策、国際法を転換したのだ。

昨年、トランプはエルサレムをイスラエルの首都と認め、アメリカ大使館を開設した。また先月、彼はイスラエルの主権がゴラン高原に及ぶことを認めるように求めた。どちらの決定も、国連決議に反しており、無効である。しかし、アメリカはイスラエルを守るために、ほかに41回も拒否権を行使した。

イスラエルの領土略奪に関するアメリカの方針転換は、彼の盟友ネタニヤフの政治力が脅かされていることに対する、支援であった。しかしトランプは、イスラエルの極右勢力に、東エルサレムの20万人を含む、65万人のユダヤ人が入植する西岸地区を、300万人のパレスチナ人に近接したまま、併合する道を拓いた。

エフード・バラク元首相のような指導者たちは、イスラエルが「アパルトヘイト国家」になることを防ぐ代替案として2国家案を支持してきた。ネタニヤフも、その実現を決して望まず、監視下のスーパー地域政府でしかない形であるが、2国家案を利用してきた。

トランプはその実妙な計算を破壊した。もはや魔人はビンに戻らない。


 インド総選挙

The Guardian, Wed 10 Apr 2019

In India’s election race Narendra Modi isn’t the strongman the world assumes

Ruchir Sharma

411日にパキスタンがカシミールで紛争を生じたことは、デリーの伝統的な視点では、与党に有利である。しかし、パキスタンへの空爆だけでモディが選挙に勝利することはないだろう。それは首相の指導力に愛国心から熱狂を呼ぶかもしれないが、ヒンドゥー・ナショナリズムの影響は北部の州に限られる。

インドの選挙は、たとえモディであっても、一人の指導者に関する投票ではなく、BJPが投票数の3分の1を超えることはないだろう。インドは、1つの国家というより、大陸である。インドはEUに似ている。29の州が、非常に多様なコミュニティー、文化、言語を持つ。インド総選挙は、むしろ州の選挙の連続であり、地域の指導者たちがそこでは常に重要である。

限りなく多様な地域の事情は、ナショナリストの運動やデリーの政治指導者の力を限定している。カリスマ的指導者としてモディが勝利しても、その2期目の政権は地方政党との同盟を必要とする。Tamil Naduの政治集会に参加して、ヒンドゥー語で演説するモディを、聴衆が理解できないことを知った。参加者たちに彼のことをどう思うか尋ねた。その答えは、「モディとは、だれか?」

インドでは、民主主義が非常に貧しい、制度の弱体な時期から成立していた。政府は民衆の高まる期待に応えることができない。それゆえ何十年も、有権者は現職に対して厳しかった。1970年代以降、地方と全国の選挙で、3人の現職候補の内2人は落選した。

重要な州では、3ないし4の主要政党と、数十の小政党が選挙に加わる。それゆえ票が分散し、非常に少ない得票率で当選する。2014年の選挙でも、モディの「地滑り的大勝利」は、投票のわずか31%であり、残りは100を超える政党に分散した。

今回、ラフル・ガンジーの率いる国民会議派は、モディの阻止を掲げて、地方政党との連携を進めている。地方においては、モディより、地域の指導者こそが重要だ。モディに対抗するため、仇敵である指導者同士が同盟している。


 デジタル石油産業

FT April 8, 2019

Big Tech must pay for access to America’s ‘digital oil’

Rana Foroohar

今、アメリカ経済で最も急速に拡大している分野は何か? その答えは、デジタル・データの収集・分析・販売ビジネスである。

民主化戦略の研究グループFuture Majorityによれば、アメリカ人の個人データを採取することは、年間に何と760億ドルの収益をもたらしている。それは巨大ハイテク企業に限らない。多くの企業が行っている。

経済安全保障研究グループSoneconによれば、データ・ハーベスティング(データ収穫業)からの販売額は、過去2年間で44.9%も伸びた。このままでは、2022年までに、1977億ドルに達し、アメリカの農業生産額を抜くだろう。

資源採取は莫大な規模で行われている。もしデータが新しい石油なら、アメリカはデジタル時代のサウジアラビアである。インターネットのプラットフォーム企業は、新しいアラムコ、エクソン・モービルである。彼ら(Microsoft, Amazon, Verizon and Twitter)は、われわれの個人データ層に穴をあけて、われわれがインターネットで何を観て、何を話しているのか、彼らの石油を採掘している。そして、ターゲット広告のための情報として販売し、換金するのだ。

Future Majorityの研究の共著者であるRobert Shapiroは、オンライン広告の半分はターゲット広告であるという。GoogleFacebookは、われわれがメールで何を書くか、コミュニティーに何を貼るか、知ることはないが、そこから利益を得ている。「それはビジネス・モデルである。」

データ・ブローカーたちは、クレジットカード会社、医療データとともに、個人データを他の業界に販売する。すなわち、小売業、銀行、住宅融資、大学、募金活動、そしてもちろん、政治活動に利用される。

それゆえ、この問題を、シリコンバレーの独占企業問題だと考えるのは間違っている。多くの企業がそれを買っているのだ。IoTになれば、ウェブで動くセンサー、ウェブ内蔵の機器は、われわれの周りにあふれるだろう。デジタル資源採掘業はさらに拡大する。すべての企業が参加するはずだ。

われわれは、もっと厳格な、カリフォルニアが成立させたような、プライバシーの国家規制を切望している。企業は利用者に、どのようなデータ収集も拒む権利が(親には子供のデータに関する権利も)与えられるべきだ。企業が個人データを利用する場合、明確な情報公開を要求する。

アルゴリズムによる選別に関する厳格なルール、個人データのアクセス、その利用に関して、利用者個々人に保証するシステムが必要だ。また、企業は個人データの採取に対して支払うことも考えるべきだ。カリフォルニアは、データ収集ビジネスに対して、資源の所有者、すなわち、われわれ全員に「配当金」を支払うよう提案した。アラスカやノルウェーが信託基金を設けて還元しているように。それは将来世代のために、教育やインフラとして、投資すべきである。

それは、企業が国民の重要な資源によって利益を上げることを許す、公正な取引であるだろう。

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The Economist March 30th 2019

King Bibi: a parable of modern populism

Brexit after May: The Silly Isles

India’s space weapons: The sky’s no limit

Social management: Keeping tabs

Charlemagne: The spectre of Airstrip One

Bagehot: The end of May

Schumpeter: Ninja activists

Argentina v Japan: Exceptions and rules

Free exchange: Ageing is a drag

(コメント) イスラエルのネタニヤフ首相、タイの軍事政権、ともに勝利したにもかかわらず、記事の中身は厳しいものです。インドのモディは、いま、投票過程です。

中国は違います。記事は、アプリによって社会管理する手法に注意します。人々が交通法規を守らない。偽物の商品が出回る。さまざまな行動に関して、個々の市民を、即時にチェックすることができます。その持つ意味は?

メイの重大な失敗は、Brexitを保守党の党運営の問題にしてしまい、イギリスの国家運営を無視したことだ。今後、メイが辞任すれば、保守党内の後任争いが激化する。もしBrexitによってイギリスがEU単一市場を失い、中国企業や一帯一路、人民元取引、ロシアからの資産逃避などに大きく頼るようになれば、それがEUの重大な懸念材料となって、イギリスとの交渉姿勢を柔軟にするかもしれません。

世界の特殊なケースとして、アルゼンチンと日本が、エコノミストたちを苦しめます。また、高齢かは必ずしも生産性上昇を妨げない、と考えます。

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IPEの想像力 4/15/19

フォーリン・アフェアーズ・レポート2019 NO.3, NO.4 を読んでいました。

Brexitとトランプの時代に、既存のマクロ経済学・金融政策、内外の政治経済秩序は、強い圧力を受けて変容し始めています。それは、新しいコンセンサスを得るには程遠い状態です。・・・私たちの時代は、どこに向かうのでしょうか?

日本はもちろん、欧米経済でも、また、中国や新興諸国でも、これまでの成長や開発のモデルは迷走し始めています。それは、トランプのせいではありません。しかしBrexitとトランプによって政治や社会は亀裂を深め、侵食を早めたでしょう。

典型的には、ポピュリスト政治家による移民に関する激しい攻撃は、政治の主流を巻き込みました。もはや、移民に対して積極的な開放政策を主張する国はありません。ジェノサイドを止めることを軍事介入の理由にする国も無くなったようです。

非リベラルな、権威主義的秩序の新興諸国だけでなく、欧米日の政府にも、保守的な秩序の復活、もしくは、リベラルな改革の後退が顕著です。

トランプだけでなく、貿易・投資の自由化は見直され、安全保障まで含めて、国際協調や国際機関による監視・支援策より、ナショナリズムや愛国心が強調されています。リベラルな政治的価値観、民主化を世界に広める「帝国主義」は、国内政治においても反省を迫られています。

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おそらく、こうした変化はつながっているのです。VOXの研究が、財政緊縮策、福祉国家の解体が、人々の不満を強めた、明確に語っています。もし緊縮策が行われなければ、イギリスの有権者は国民投票で離脱を選ばなかっただろう、とデータで検証します。

ナショナリズムと愛国主義はイデオロギー的な兄弟である、とウィマーは指摘します。「歴史そして未来の政治的運命を共有する平等な市民」が国家を構成するべきだ。「国の利益(国益)のために統治する」べきだ。これらは最悪の場合、内戦やジェノサイドをもたらしましたが、より穏健なナショナリズムでは、民族の境界線ではなく、効果的な統治のために政治的連帯が形成された、と考えます。そして、権力を共有する制度的なアレンジを受け入れたのです。

経済空間と政治空間が一致することで、国民国家は正統性を得てきました。グローバリゼーションという「利益の共同体」が、実際には、さまざまな制度の破壊、不安定な雇用、所得格差、必ずしも社会にとって有益にならない金融や技術によるエリート集団、エリート企業の叢生を意味するなら、(善良な)ナショナリズムが復活するのは避けられず、また、望ましいのかもしれません。

スナイダーの論説は、特に興味深いです。「リベラリズムとナショナリズムは・・・相互補完的な関係であった」と考えます。すなわち、リベラルな戦後の国際秩序においては「攻撃的ナショナリズム」を抑える妥協、国際支援が制度化されたのです。いわゆる「埋め込まれた自由主義」です。労働者としての経済参加にも、戦争を経て政治参加の拡大にも、法と教育システムによる「集団的なアイデンティティ」が、福祉国家とともに、ナショナリズムを溶解したわけです。

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民主主義やリベラルな秩序を広める、という計画を中止し、保守的な均衡にゆだねる時期です。それは「保守化」であっても、ナショナリズムや排外主義ではなく、国際協調を促す制度も一定の役割を維持する世界の政治経済を再生する試みです。

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