IPEの果樹園2019
今週のReview
4/15-20
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Brexitという怪物の政治的内蔵 ・・・ヨーロッパの分裂と迷い ・・・グローバルな金融・財政政策と機関 ・・・アメリカと中国の「平和共存」 ・・・平成から令和 ・・・ネタニヤフとイスラエルの選挙 ・・・インド総選挙 ・・・デジタル石油産業 ・・・ヨーロッパとアフリカからの移民
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy,
FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York
Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● Brexitという怪物の政治的内蔵
SPIEGEL
ONLINE 04/05/2019
UK in
Disarray
Amid
Brexit Chaos, Theresa May's Conservative Party Implodes
FT April
5, 2019
Counting
the economic costs and causes of Brexit
Tim Harford
FT April
6, 2019
The EU
should offer a long Brexit extension so the UK can rethink
Hugo Dixon
テリーザ・メイはEUに離脱の期限の延期を求める。しかし、6月末まで、のような短い延期は拒否するべきだ。むしろ、1年のような、長期の延期を許し、より早く議会の承認を得た合意案が得られたら、早期の離脱も許すことが望ましい。
UKの首相として、メイはそのような柔軟な延期案が国益にかなうことを知っているはずだ。しかし、保守党内部の離脱強硬派が強く反対することを恐れている。また、彼女も長期の延期はしないと断言してきた。
EU諸国にはUKへの不満が高まっている。しかし、彼らも認めるはずだ。長期の延期で、UKがEUを去るにせよ、緊密な関係を維持するべきだし、去らない可能性ができることを。
UK国民はEUの利益と、好ましい離脱条件を得る交渉の困難なことを学んでいる。十分な時間があれば、彼らは最善の道を選ぶだろう。
FT April
7, 2019
Cross-party
Brexit talks strengthen case for an extension
Wolfgang Münchau
妥協が成立するかもしれない。それは、メイとコービンとの話し合いにかかっている。欧州理事会が金曜日に開かれるが、イギリス側で政治的な前進があることを、離脱を長期に延期する条件としている。保守党と労働党で離脱案を模索することは、これまでになかった進展だ。
両党間の話し合いは、合意なき離脱a
no-deal Brexitと、2度目の国民投票a second referendumの、両方の可能性を低下させる。合意なき離脱を支持する強硬派は無責任であり、そのコストを真剣に考えていない。たとえば、UKとEUの双方で、医療関係の障害が懸念される。サプライ・チェーンの問題はよく知られている。
メイは、保守党の分裂を避けるために、労働党との協力を否定してきた。しかし、3度も離脱案が否決されたことで、すでに彼女の保守党における指導力は失われている。メイは、議会を通過させるには、野党の指導者と超党派の多数を形成するしかない、と結論したのだ。それは、ドイツで続くキリスト教民主同盟と社会民主党との大連立を思わせる。EUを離脱しようとするUKが、この点で、非常にヨーロッパ的になっていることは、皮肉なことだ。
メイが求める6月が、12月ではなく、延期される期限であるべきだ。なぜなら、そのほうが、この数週間で合意しなければならないからだ。メイとコービンは、ソフトBrexitの細部に合意する必要はない。恒久的な関税同盟について政治的に合意することでよいだろう。細かい条件を決める交渉には何年もかかる。Brexitの政治原則を決めるため、メイは、これまで彼女が固辞してきたレッド・ラインを取り下げる。またコービンは、労働党内で支持されている2度目の国民投票を取り下げる。最大の難問は、保守党の次の指導者が、その合意を守るか、ということだ。
また、長期の延期の場合、EU指導者の交代や、欧州議会選挙を経て、その結果を組織に反映する大きな変動が生じる。2020年の欧州理事会に、離脱強硬派のボリス・ジョンソンがイギリス首相として出席するかもしれない。
両党の政治合意による短期の延期をイギリスが求めることは、マクロンを満足させるだろう。フランス大統領は、無条件に延期することには反対している。EU指導者たちは、単に期限を延期してはならない。UKの議会が混乱した状態を正すべきだ。
The
Guardian, Mon 8 Apr 2019
A Brexit
compromise is in view. A customs union is the only solution
Simon Jenkins
FT April
8, 2019
Unpredictable
Britain? This is just the start
Gideon Rachman
FT April
8, 2019
Conservatives
will pay a heavy price for weaponising Brexit
Robert Shrimsley
保守党政権は、メイが去って、長期の延期、新しい党首の下、コンセンサスを重視するアプローチに変わる。
これまで、まともな議員たちは軽蔑され、脅迫され、虐められて、政治は分断を深めてきた。ついに、首相は労働党に話し合いの場を求め、打開の道を探っている。それは遅すぎるし、確実ではない。しかし、その方針転換は、保守党政権の罪の深さを示すものだ。
2017年の解散・総選挙の前、数か月間に、メイは重大な決断を行った。すなわち、彼女と保守党政権はBrexitを私物化し、武器として利用したのだ。
すでに離脱キャンペーンは、有権者たちの怒りを利用して、効果的に、財政緊縮策の答えをBrexitに求めていた。保守党は、その技法を繰り返そうとした。保守党のBrexitは、労働党を非難する武器となり、変化を求める人々への答えであった。それはもはや国民的な課題ではなく、政治の道具であった。
この戦術はUKIPを破滅させ、残留を求めた有権者を労働党に向かわせた。メイの穏健なBrexitを模索する動きが成果を示せるのか、それはわからないが、彼女が有権者の保守党離れを促し、保守党の支持者を狭めた。彼女の党は、高齢者と不満を強める者の避難所に変化しつつある。
保守党政権は、Brexitを、ハードなBrexitともっとハードなBrexitの選択に変えた。メイはいつも離脱強硬派に相談したが、より多数の、より静かな保守党銀たちは、方針さえ示されたら、容易に意味のある妥協を目指しただろう。しかし、メイはBrexitを強硬派の定義するものにしてしまい、説明責任を果たさず、メディアのスポットライトを浴びることで喜びすぎた。
もしメイが本当に議会の合意形成を模索していたらどうなっていたか、想像してみよう。Brexitに関するイギリスの立場は、2つの極論の中ではなく、52:48という投票結果を反映した穏健なものとなっただろう。国民投票の後でも、離脱を支持した指導者たちが単一市場に残るような妥協を受け入れる余地はあった。それが強硬なものになったのは、もっと後だ。
Brexitの合同委員会ができたら、労働党の穏健派指導者も加わり、UKの姿勢を変えただろう。離脱強硬派は排除されたはずだ。論争の性格が全体として変わった。協力のモデルに注目し、関税同盟と単一市場が対比された。しかし、そうではなかった。当初は敗北を認めた残留派も、極端なBrexitに対して、第2の国民投票を要求したのだ。
こうした想像はあまりにも楽観的である。政治論争は極端に向かい、中間的な立場を一掃する。しかし、強硬派が論争の枠組みを決めたことは、UK社会の分断と怒り、恥辱と経済的ダメージを増した。
VOX 08
April 2019
Austerity
caused Brexit
Thiemo Fetzer
2010年以来、保守党の連立政府による財政緊縮策は福祉国家の改革を進めた。福祉政策に対する国の支出は、1人当たりで16%減少した。教育に対する支出は実質で19%削減され、他方、年金支給は増加し続けたから、政府支出の構成には大きな変化が起きた。
福祉政策を、それ行う地区レベルで見ると、2010年から2015年に、実質で1人当たり23.4%減少した。2012年の法律the Welfare Reform Act of 2012により、イギリスの労働人口に対するコストの推定額は、年440ポンドである。その影響は地域によって大きく異なる。Blackpoolでは914ポンド、シティ・オブ・ロンドンでは177ポンド。最も荒廃した地域が、最大の受給者を抱えていたから、大きな影響を受けた。
地区ごとの影響の差を使えば、緊縮政策の影響が、UKIP(離脱を強く推進したUK独立党)への支持の増加と、地方選挙、総選挙、EUに関する国民投票、それぞれの時期に合わせて評価できる。その推定は、もし緊縮政策がなかったら、僅差の国民投票の結果が、残留派の勝利に終わったことを示している。
緊縮政策の政治的影響を、個人レベルのデータで見る研究も行われている。福祉国家の改革により、給付の削減を経験した個人は、次第にUKIPの支持に傾いた。政治制度、政府への不満、政府の能力や、投票によって何かが変わることへの不信が、離脱を支持する感情と結びついていた。
福祉国家の解体、緊縮政策は、さまざまな形で、長期的に形成されてきた経済的憤懣、怨嗟を強める効果があった。それはUKだけに限らない。アメリカやドイツの研究も示している。競争の激化、貧しい諸国との貿易、製造業の集中した地域の衰退、移民、機械化、デジタル技術による新しい経済活動、無給待機の契約制雇用。ますます社会福祉に依存する生活が避けられない人を増やしていた。スキルのバイアスがある労働市場は、教育、人的資本によって、経済格差を拡大した。
経済学はそれをよく知っている。貿易による統合化、グローバリゼーションは、福祉国家と補完的に実現しなければ、政治的な支持を失う。教育や再訓練に投資し、新しい職場に向けて移動する人々を助ける、適切な社会福祉システムが必要だ、と。
The
Guardian, Tue 9 Apr 2019
Brexit
is just one front in Europe’s battle for its soul
Timothy Garton Ash
ヨーロッパは単にBrexitドラマの鑑賞者ではなく、重要な登場人物の1人である。それはヨーロッパに関するイギリス政治であると同時に、Brexitをめぐるヨーロッパ政治なのだ。
イギリス政治がしばしば現実のヨーロッパと何も関係ないのと同じように、ヨーロッパ政治もイギリスについて考えているわけではない。個人的な野心、ヨーロッパの選挙における各政党の政治的計算、EUに向けた競合する見方、それらすべてが作用する。
私は決して忘れないだろう。あるとき、交渉に参加していたイギリス人が、50条による離脱を無期限に延期するよう説得したとき、フランス人の背の高い交渉責任者が、泣かんばかりに、恐怖の表情を示したのだ。彼はおそらく、彼の残りの人生が永遠の離脱交渉に縛られて、将来の栄達の可能性を奪われる、と恐れたのだろう。
エマニュエル・マクロンは、ド・ゴールとジャック・ドロールとを合わせて、ナポレオンの風味を加えたような人物だが、21世紀に向けてヨーロッパを改造するには今年が最後のチャンスだ、と確信していた。イギリスの問題が、彼のこの改革を邪魔することを許さない、という姿勢が明白だった。
Brexitをめぐるイギリス政治とヨーロッパ政治の交流は、奇妙な仲間を生み出す。イギリスの離脱強硬派Jacob
Rees-Moggとベルギーの熱狂的なヨーロッパ連邦主義者Verhofstadtである。、先週、Rees-Moggはツイートした。「もし長期の延期によってわれわれがEUに捕らわれるとしたら、可能な限りEUの運営を妨害するぞ。予算案のあらゆる増額に拒否権を行使し、EU軍の計画を破壊し、マクロンの統合計画を阻むのだ。」 これに対してVerhofstadtはコメントした。「Brexitを長引かせるのは、EUの側でもご免だね。」 そして、この素敵な発言にウィンクする絵文字が付く。
われわれ、イギリスのヨーロッパ人は、いかなる幻想も持ってはいけない。ヨーロッパの側の善意はほとんど尽きている。イギリスを病気にたとえる表現があふれている。イギリスは、毒であり、壊疽となった足であり、切除すべき癌細胞である、と。
PS Apr
10, 2019
Brexit
Identities
ANDRÉS VELASCO
The
Guardian, Thu 11 Apr 2019
The EU’s
new October extension finishes off May and her deal
Tom Kibasi
FT April
11, 2019
Britain
can now change its mind about Brexit
Philip Stephens
FP APRIL
11, 2019
The
Great Brexit Distraction
BY ELIZABETH BUCHANAN
FP APRIL
11, 2019
Brussels
Bets a Delay Until Halloween Will Spook Britons into Staying
BY OWEN MATTHEWS
ヨーロッパの指導者たちは、大部分はメイを除外した、長い夕刻の会合を経て、新しい期限を10月31日、水曜日に決めた。メイの6月30日という短期の延期案は無視された。
Brexitに対する国民の支持は減っている。先月には大規模なEU支持デモが行われた。それはEUが長期の延期を認めることで、UKの方針転換を期待する重要な要因であっただろう。
「いまや合意なき離脱はなくなった。期限までの時間を刻む時計もなくなった。メイは2つの最終兵器を失ったのだ。」と、匿名のイギリス官僚は語った。
「われわれは、コービンが罠にはまるほど愚かでないと思っている。」と、かつてトニー・ブレアの上級顧問であった人物は語った。メイは「Brexitに労働党の指紋を残したいのだ。そして彼女は破滅の責任をあいまいにする。・・・しかし、もしメイと合意すれば、労働党は分裂するだろう。」
メイの権威は崩壊し、破った約束が積み重なっているのであるから、長期の期限延期で葬られる最初の犠牲者はメイ自身であっても驚かない。
結局、労働党はメイの合意案を支持しないだろうし、保守党の新しい指導者もメイよりもっと強硬な離脱派であるだろう。UKの政治的な行き詰まりを抜け出す道は2つしかない。総選挙か、2度目の国民投票だ。どちらも保守党は望まない。
EU指導者たちの中で、マクロンだけが期限の長期延期に反対だった。イギリスがEUに加盟し続けることは彼のEU制度改革を妨げる、と主張した。「私はヨーロッパの統合プロジェクトが生まれ変わらねばならないと考える。イギリスの離脱問題で改革が邪魔されることを望まない。」 サミットでは、1年の長期延期を認めるメルケルなど他の指導者たちと妥協し、6カ月の延期を認めた。
UKでは2つの選挙が迫っている。5月2日の地方選挙と、5月23日の欧州議会選挙だ。通常は注目されることなく、投票率も低いが、今回は違うだろう。
国民投票の正統性は薄れ、時間がたつほど残留派は優勢になっている。今年のハロウィーンにはBrexitの悪夢からイギリスが目覚めることを彼らは願っている。
FT April
12, 2019
A new
Brexit deadline offers respite for the UK
YaleGlobal,
Tuesday, April 16, 2019
Brexit
Agonistes
Jolyon Howorth
● ヨーロッパの分裂と迷い
PS Apr
5, 2019
The EU’s
China Conundrum
PHILIPPE LEGRAIN
ヨーロッパは中国の台頭にどのような姿勢で対応するべきか合意できない。習近平主席はローマを訪問し、イタリア政府が一帯一路イニシアティブBRIに参加することを歓迎した。
EUとしては中国にどのような形で関与するのか? アメリカ大統領は中国の貿易、技術、安全保障に関して対決姿勢を取り、ヨーロッパもアメリカに従うことを求めている。他方、中国はヨーロッパに、多角的な通商システムやパリ協定、イラン核合意を、トランプの攻撃から守るために、一緒に行動する利益を指摘する。
最近まで、ヨーロッパは中国を戦略的パートナーとみなしていたが、最新の中国の戦略に対しては、より複雑な姿勢に変わった。権威主義、国家介入主義、技術において支配的な地位を目指す中国を、強く警戒するようになっている。
中国の市場開放を求める点で、ヨーロッパはアメリカの自然なパートナーである。しかし、トランプは同盟を信用せず、EUを「敵」とみなした。EUの中でも貿易黒字を累積する国に、特に自動車で、激しい貿易戦争を仕掛けている。EUの政策担当者たちはトランプの保護主義、「アメリカ・ファースト」を嫌悪しているから、トランプの対中国政策に協力することはない。
他方、中国も、EUの中で個々の国と2国間関係を優位に交渉する傾向がある。ユーロ危機で資金っ不足に苦しむ南欧において、すでに資金を流入させてきた。ヨーロッパへの中国の投資を歓迎することは、それが単に貿易やインフラ投資だけでなく、第2次世界大戦後のマーシャル・プランと同様、政治的な次元を含むことも考えねばならない。
EUは、戦略的に行動する意志も能力もない。軍事力を欠き、地政学的な視点を持たない。それができるようになるまで、EUは大国間政治の草刈り場である。
FT April
9, 2019
The EU
should not slide into protectionism towards China
PS Apr
9, 2019
Who’s
Afraid of Low Inflation?
DANIEL GROS
ECBは今も、ユーロ圏が2021-22年に2%のインフレを達成すると予測している。しかし、過去数年にわたり、インフレ率が上がるという予測は間違っていた。予測の信頼性は落ちている。市場の動向が示すのは、今後10年は1.5%を下回るインフレだ。
ユーロ圏の経済は減速しており、さらにインフレ圧力は低下するだろう。すでに加盟各国の中央銀行は多くの国債を保有しており、どこかで金融危機が生じる懸念もないから、追加的な景気刺激策は取らないだろう。
予想外の低インフレに苦しむのはECBだけではない。特に、日本がそうだ。日銀は長期の国債も大規模に購入し、金利もゼロのままだが、インフレ率はわずかである。アメリカは2%に近いが、予測された水準よりもずっと低い。。
これは破壊的なデフレにつながるのか? 1930年代の大不況を指摘する者がいる。アメリカやヨーロッパの各地で失業率が25%に達し、経済困難から政治的な過激化が生じた。しかし、たとえば日本では物価が年1%下落したが、マイルドなデフレであり、1930年代の20%、30%と言うデフレとは全く異なる。
最近の経験が示すのは、多くの先進経済が高い雇用水準を維持しても、インフレ率が低いままだ、というものだ。日本が顕著に示している。低インフレの罠に「はまって」「行き詰まって」いるという説明に反して、失業率は記録的に低い。この数十年間成長率が低いのは、労働人口が減少しているからだ。1人当たりの成長では、ヨーロッパやアメリカに大きく後れているわけではない。
ユーロ圏の経済を示す憂鬱な見出しは間違いだ。ECBがわずかなインフレのために余計なことをすべきではない。中央銀行家たちへのメッセージは、「心配するな。うまくいく。」である。
FT April
10, 2019
Portugal:
a European path out of austerity?
Peter Wise and Ben Hall in Lisbon
● グローバルな金融・財政政策と機関
PS Apr
5, 2019
Time for
a True Global Currency
JOSÉ ANTONIO OCAMPO
今年は、グローバルな通貨システムに向けた2つの画期的事件について記念すべき年だ。1つは、ブレトンウッズ成立70周年。もう1つは、IMFの準備通貨であるthe Special Drawing Right (SDR)の誕生50周年である。
SDRは国際通貨システムの主要な準備資産になることが期待されたが、十分に利用されていない。SDRを真の国際通貨にすることでいくつかのメリットが得られる。
IMFは、危機の際の国際通貨政策の手段としてSDRを用いる。IMFは、加盟国の基金を増やす必要に縛られず、融資プログラムを実行できる。IMFは、グローバル通貨・金融システムの完全な管理機関になる。
もっとも単純にそれを実現するには、数十年前にポラックが提案したように、各国が利用せずに保有しているSDRをIMFの預金とみなすことだ。IMFはこれを使って他国に融資する。
IMFは定期的に、また、世界金融危機などに際して、SDRを発行してきた。長期的には、外貨準備の需要に応じてSDRを供給すべきである。それは推定で年2000-3000億ドルだ。現在、グローバル通貨の発酵による利益(シニョレッジ)は様々な通貨、特にドルとユーロが得ている。
SDRの使用が拡大すれば、国際通貨システムはアメリカの金融政策への依存から解放される。世界の主要な準備通貨を発行するアメリカの政策目標によって、国際通貨システムが不安定化することが問題である。
他の主要通貨とSDRとが並行して利用されるだろう。IMFは新しい「振替勘定」を設置して、中央銀行間でSDRによる支払いを認めるべきだ。またSDRで民間取引や国債発行を行うこともできる。しかし、IMF理事会は、こうした完全な「SDRの市場化」を必要とはみなしていない。
VOX 09
April 2019
The IMF
at 75: Reforming the global reserve system
José Antonio Ocampo
IMFは4つの主要問題に答えねばならない。1.グローバルな準備システム。2.マクロ経済のリンク、と為替レート。3.国際収支不均衡と危機。4.国際通貨システム(IMS)のガバナンス。
ブレトンウッズ体制は1970年代の初期に崩壊した。そのときアメリカは金=ドル本位制を一方的に破棄し、主要開発諸国は安定的な為替レート・システムの採用に失敗し、IMF加盟諸国は改革に合意できなかった。グローバルな準備通貨は主としてドルだが、主要通貨間の競争で決まるシステムになった。為替レートの決定は自由になり、明確に定義されたわけではないが、「通貨操作」は禁じられた。それはアドホック(事後的)な合意によるシステム、「ノン・システム」になった。
このシステムの欠陥はグローバルな論争で明確にされてきた。すべての改革において、「非対称性」問題と、特に、新興国、途上国の「脆弱性」が指摘された。ケインズも指摘した非対称性の問題とは、国際収支不均衡の調整について赤字国に強い圧力がかかり、デフレに偏った調整が進むことである。
第2に、特定の国民通貨を国際通貨として利用する問題だ。トリフィンのジレンマとしてよく知られているが、国際流動性が、ある国の経常収支赤字によって供給されると、その国の赤字が増えて、最終的には通貨への信認が失われる、というものだ。システムの安定性は、準備通貨発行国の政策目標と一致しない。
第3の問題は、発展途上国が外部からの融資に依存するとき、その浮動性を避けるために、保険として、大量の外貨準備を要することだ。それは、途上国が豊かな国に対して、低利で、貸し付けることにほかならず、しかも、グローバルな不均衡を拡大する。
改革には2つのアプローチがある。1つは、現在の趨勢を利用する解決策だ。すなわち、複数通貨を利用するシステムの安定化である。各国は、準備通貨を多様化する。これによって特定の国による不安定化を回避する。しかし、アメリカ債券市場の規模と深さに匹敵する市場はないため、多様化はむつかしい。
このアプローチでは、同時に、主要通貨間で為替レートに関する参考相場圏a
system of reference ratesに合意する。これは主要通貨間で為替レートの変動が一定の均衡値、もしくは、バンド(変動幅)に入るよう管理することについての合意だ。
もう1つのアプローチは、唯一のグローバルな準備資産であるSDRの地位を高めることだ。1969年のIMF協定改正で実現した。景気循環に応じて、SDRを積極的に供給すべきである。グローバルな需要は、推定年2000-3000億ドルある。それは既存のグローバルな準備に対するわずかな追加でしかない。その意味で、このアプローチは複数通貨システムを補完するものだ。
既存のシステムを改善するうえでSDRは3つの点で貢献する。1.シニョレッジ(通貨発行による利益)がIMFと加盟諸国に帰属する。2.不況を強める効果を抑制する。3.途上国の外貨準備累積を抑制する。
さらに野心的な改革では、SDRにより、IMFは融資プログラムを、各国の中央銀行が自国通貨で行うように、実行できる。その場合、IMFの口座で使用されていないSDRは預金とみなされ、IMFにより、景気循環を抑制する仕方で貸し出される。SDRの配分を開発とリンクすることで、途上国の外貨準備累積に代えて、流動性が供給される。SDRは中央銀行間で準備資産や支払い手段となる。複数通貨システムと合わせて実現することは、政治的に受け入れやすいだろう。特に、アメリカからの反対を避けられる。
PS Apr
9, 2019
Toward a
Global Green New Deal
RICHARD KOZUL-WRIGHT , KEVIN P. GALLAGHER
● NATO
PS Apr
5, 2019
The Sick
Man of NATO
GALIP DALAY
● アメリカと中国の「平和共存」
FP APRIL
5, 2019
Trans-Atlantic
Trade Is Headed Toward Disaster
BY THOMAS DUESTERBERG
FT April
10, 2019
Donald
Trump’s trade obsession keeps the peace with China
Janan Ganesh
PS Apr
10, 2019
Peaceful
Coexistence 2.0
DANI RODRIK
アメリカと中国の「平和共存」を世界経済は痛切に願っている。すなわち、双方が、独自の条件で他国の発展する権利を認めることだ。アメリカは、中国経済を資本主義的市場経済の自分たちが描くイメージに合わせて改造してはならない。また中国は、雇用や技術の漏えいに関するアメリカの懸念を認め、こうした観点でアメリカ市場が場合によってはアクセスを制限することも受け入れねばならない。
「平和共存」とは、米ソの冷戦時代に使用された言葉だ。ソ連の指導者、フルシチョフは、社会主義と資本主義のシステム間に起きる永久闘争という原理が、その有益な限度を超えていると理解した。欧米にはまだ共産主義革命の条件が熟していない。彼らがソ連圏で共産主義体制を破壊することもない。両体制は共存するべきだ、と。
冷戦では、多くの衝突と代理戦争が起きた。しかし、少なくとも超大国間の軍事衝突は回避された。同様に、経済の平和共存は、米中間で、経済の2大国が破壊的な貿易戦争を防ぐ唯一の道である。
この対立の背後には、私が「ハイパー・グローバリズム」と呼ぶ、間違った経済観がある。すなわち、諸国は外国企業との競争に最大限開放されるべきである。それがその国の成長戦略や社会モデルにどのような影響を及ぼすかは考えるな。その結果、市場を支配する経済ルールは収れんするだろう。
こうしてアメリカは中国に対する不満を強めた。中国の産業政策、中国の融資、知的財産に関するルール、技術移転の要求、アメリカの金融機関に対する規制、これらがアメリカ企業の中国市場における競争を妨げている、と。他方、中国はこうした主張を受け入れない。
平和的共存が求めるのは、米中が互いに他国(米中だけでなく)の政策余地を認めることだ。国際的な経済統合においても、自国の経済・政治目標を優先できる。そのようなアプローチは保護主義への逃げ道になる、と批判する者がいる。しかし、比較優位が示すのは、貿易をする諸国には必ず利益がある、ということだ。貿易を制限するとしたら、それは一層大きな利益がほかにあるからか、貿易による損失に十分な補償をしない、というような政治の失敗が原因である。前者の場合、自由貿易は社会の厚生を損ない、後者の場合、政治の失敗を解決する程度に応じて、自由貿易が受け入れられる。
多くのアナリストが言うように、中国が産業政策を駆使して経済大国になるとしたら、産業政策を妨げることは、中国の利益にも、世界の利益にもならないだろう。それが経済的に見て損失を生むとしたら、それを負担するのは中国人だ。通商協議や、その背後で特殊利益がうごめくことは、何の利益にもならない。
GATTを見ればよい。当時、すべての国が経済戦略を実行するための、より大きな自由を行使していた。それでも第2次世界大戦後の35年間は、1990年以降のハイパー・グローバル体制以上に、GDPを超えて貿易額が伸びた。非正統的な成長政策を取った中国が、今では、世界最大の貿易国家である。
中国がWTOに加盟したとき、西側の市場経済になる、という意見があった。しかし、それは実現していない。中国はWTOルールにもっと従うべきだ、と言う者もいる。しかし、世界最大の貿易国家に合わないようなWTOルールこそ、緊急に、修理する必要がある。
NYT
April 9, 2019
Trump’s
Dangerous Obsession With the Markets
By Ruchir Sharma
● 連銀とトランプ
FT April
6, 2019
Donald
Trump calls for U-turn by Federal Reserve to stimulate economy
Sam Fleming in Washington
FT April
6, 2019
Donald
Trump must be stopped from packing the US Federal Reserve
FT April
7, 2019
Donald
Trump’s demands add to Federal Reserve interest rate headaches
Sam Fleming in Washington
NYT
April 8, 2019
Why Does
Trump Want to Debase the Fed?
By Paul Krugman
今、連銀の理事には2つの空席がある。もしトランプがそれらを指名することに成功したら、連銀もトランプ政権の他の機関と同様に、腐敗した、機能しない場所になる。彼らのテーマソングは、「道化師を送れ!」だ。
この2人Stephen Moore and Herman Cainは、金融政策の専門知識がなく、経験もない。彼らが候補になる特徴は、トランプが望むなら、いつでも政策を転換する、という姿勢だ。
2人は、オバマ政権の時期に、失業率が高いにもかかわらず、高金利を主張した。今は、失業率が低いにもかかわらず、連銀が通貨供給を絞ることを非難している。なぜなら、トランプが望むから。
確かに、連銀は金利を上げるのが早すぎた。もしそうしなかったら、経済状態はもっと良かっただろう。私もそう思う。
しかし、トランプが考えていることはそうではない。彼は連銀が、あたらも深い不況に沈んでいるような政策を求める。金利引き下げと、緊急拡大策だ。それが、彼の約束したように、アメリカ経済を「ロケット噴射で」急速に拡大する、と。
これは、誰が考えても、ひどく無責任な政策だ。ラテンアメリカで経済的破滅を導いた「マクロ経済のポピュリズム」でよく聞く主張だ。今もベネズエラの状態がそれを示している。
NYT April
9, 2019
The
Federal Reserve Is Courting Trouble
By The Editorial Board
(後半へ続く)