IPEの果樹園2019

今週のReview

1/14-19

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富裕層に対する高い税率 ・・・Brexitの合意案 ・・・中国とアップルの転落 ・・・企業の共同経営体制 ・・・アメリカ製造業の未来 ・・・新しい米中冷戦 ・・・2019年が静かな年であるために

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 富裕層に対する高い税率

NYT Jan. 5, 2019

The Economics of Soaking the Rich

By Paul Krugman

Alexandria Ocasio-Cortez(AOC)が議会でどれぐらいうまくやって行けるか、私にはわからない。しかし、彼女が選ばれたことだけでも重要だ。若い、はっきりした、テレビ向きの非白人女性が入るだけでも、大きな関心が集まる。保守派は彼女に激怒した。

ある者は、AOCの文化を指摘する。大学でのダンス動画がヒステリックは反応を爆発させている。また、ある者は、AOCの知性を指摘する。右派は、彼女の「狂った」政策アイデアを非難するが、右派の正気の無さがよくわかる。

論争は、彼女が超富裕層に対する70-80%の課税を唱えていることをふくむ。これは明らかに狂っている。と彼らは言う。全くの愚か者しか、そんなことは言わない。・・・そうなのか? ノーベル経済学賞を受賞したPeter Diamondは、財政論の世界的な権威だが。また、第2次世界大戦後の35年間に、アメリカはそんな政策を採用し、歴史的に見て高成長を実現したのだが。

Diamondは、不平等の指導的な研究者であるEmmanuel Saezとの共同研究で、最適な最高税率を73%であると推定した。もっと高い税率として、オバマ政権の大統領経済諮問委員会委員長で、最高水準のマクロ経済学者であるChristina Romerは、それを80%以上と推定した。

その数字はどうやって導かれたのか?  Diamond-Saezの分析は、2つの命題、限界効用逓減と、競争的市場、から導かれる。年収2万ドルの家族は、1000ドルの追加所得を得た場合、大きく改善されるだろう。他方、100万ドルの所得がある男は、追加の1000ドルを得ても、ほとんど気にしない。つまり、経済政策を考えるとき、超富裕層への影響はあまり考えなくてもよいのだ。

では、なぜ100%にしないのか? ・・・それは彼らの誘因を奪うことで、彼らの行動を変え、経済全体が損なわれるからだ。税率を抑えるのは、彼らの利益のためではない。そして、ここに競争的市場が関係する。誰もが限界生産物を報酬として得るべきだ。1000ドルを稼いで、すべてが税金として取られるなら、富裕層は働かない。彼が追加の1000ドルのためにする仕事と、歳入を増やすことが比較される。ただし、現実の市場は競争的でなく、独占やゆがみを生じているから、富裕層が独占によるレント(不労所得)を得る。競争市場の前提より、もっと高い税率が望ましい。

周知のように、共和党は富裕層に対する低税率をいつでも主張し、最高税率を下げることが経済にとって大きなプラス効果をもたらす、と考えている。こうした主張はどんな経済調査に基づくのか? ・・・そんなものはない。共和党の税制案を支持するまともな研究など存在しない。アメリカの所得に対する最高税率と経済成長率をグラフにして観れば、富裕層への低税率が高い成長率を意味しないことは明白だ。

共和党の財源案はナンセンスであり、彼らが好む「エコノミストたち」は明らかな詐欺師であり、数字をごまかすこともできない。AOCは優れたエコノミストたちが主張していることを述べているのであり、おそらく共和党のだれよりも経済学を知っている。


 Brexitの合意案

The Guardian, Thu 10 Jan 2019

Trump and the Brexiters must own the mess they lied us into

Gary Younge

3年前に、私は12年間暮らしたアメリカからイギリスにもどった。そしてすぐにガスのメーターを盗まれた。新しいメーターが届いたとき、私はそれに「盗むな」と書いた。そして私は思い出した。シカゴで、私の暮らした通りに、the Boys and Girls club(児童・生徒の育成団体)があった。その窓に“Stop killing people.”と書いたポスターがあった。言うまでもないことを、注意することがある。

イギリス議会は、メイの合意案の採決を延期し、新しい条件も得られないし、採決して承認される見込みもない。しかし議会は、もし来週の火曜日に合意案が否決されたら、3日以内に首相に修正案を求める、というのだ。時間の無駄である。何も変わらないのだから。

その6時間後に、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、民主党指導者たちとの話し合いから抜けた。彼らが国境の壁を建設する予算を拒否したので、連邦政府の一部閉鎖を続ける決意を示したのだ。閉鎖は3週目に入る。世論調査で、ほとんどのアメリカ人は壁を支持していない。政府閉鎖についてトランプを責めている。国政とリアリティー・ショーの区別がつかない大統領を民主党は非難した。

新しい年が大西洋の政治的マヒ状態で始まった。Brexitは蒸発して、Brexitでなくなった。何であれ合意するとしたら、まったくBrexitではない。アメリカでは、壁の建設費をメキシコ人が払うことはないし、アメリカ人もそうだ。裸の王様を見ても、もはやニュースにならない。

反対する人々は、Brexitでもトランプでも、長い間に形成された不満や偏見を、火を吐くような言葉、悪質な嘘で刺激して、勢いを増し、変化ではなく騒音をもたらした。彼らがこの事態を生み出したのではなく、継承し、利用したのだ。アメリカの共和党も、イギリスの保守党も、すでにジェスチャー・ポリティクスの中毒だった。

両者とも、議論にではなく、僅差で投票に勝った。その勝利はすべての予想に反し、彼ら自身も予想していなかった。グローバルには、ドイツからブラジルまで、右派ポピュリストの台頭という文脈で理解された。またローカルには、金融危機後の政治や選挙に関する組み換えとしてではなく、イデオロギーの攻撃として誤解された。しかし、ボリス・ジョンソンはマーガレット・サッチャーではないし、スティーブ・バノンはミルトン・フリードマンではない。大西洋の両岸で右派ポピュリズムが大いに議論されたが、彼らへの支持がいかに少なかったかを思い出すべきだ。

彼らの安易なレトリックは、堅い現実に跳ね返された。経済的にも、外交、政治、戦略においても、彼らは限界に達したように見える。彼らは同盟する者も、支持者も見つからないだろう。しかし、彼らはまだ、もっと大きなダメージをもたらすことができる。特に、トランプだ。彼が非常事態に「するぞ」という脅迫は、その絶望的な意味を示している。彼らには何を築く意図も持たず、破壊によって存在を示す。

重要な問題は、これら2つの失敗をどのように扱うかだ。彼らは裏切りだと言う。

左派は、こうした主張に単に反撃するのではなく、取り込むべきだ。トランプと

Brexitは、政治・経済危機の産物である。左派は、過去を嘆くより、未来に答えを出すべきだ。彼らの嘆きは現実に由来する。そのすべてが事実や、合理的で、まともな、一貫性ある主張ではないが、彼らが苦痛を感じていることは変わらない。われわれも、この混乱から逃れることはできない。

FT January 10, 2019

Brexit is the certain route to a divided Britain

Philip Stephens

UKを構成する2つの国民nationsは、すなわち、イングランドとウェールズは、EU離脱の支持が多数を占めた。スコットランドと北アイルランドは、残留を望む者が多数であった。4つすべての国民に、人口論的なあらゆる基準で、意見は分裂していた。

イングランドの大都市、特にロンドンは、ヨーロッパを支持する者が多数派であった。しかし彼らは、地方の都市や町、田舎の離脱派に負けた。イギリスのいたるところで、若者たちは大きな差によってEU残留を支持した。離脱によって、若者たちはその将来を変えられた。大卒の豊かな人々は、残留を強く支持した。そのような優位を持たない人たちは離脱派が多かった。

2年半たつが、どちらかといえば、分断は深まっている。左派と右派という伝統的な分割線は、Brexit論争の分断によって打ち消された。世論調査は、残留派が勝つに足る人々が意見を変えたことを示している。

メイ首相の合意案を、来週、議会は採決する。EU離脱のコストと結果が現れるのには今後数年がかかるだろう。Brexitは、一回だけの事件ではなく、プロセスである。緊密に縫い合わされた糸をほどくのは容易でない。論争は10年にも及ぶだろう。

むしろ亀裂が広がるだろう。UKの統一が犠牲となる。スコットランドがUKに占める特別な地位は、EUにおけるイギリスの位置と並ぶ。Brexitは、この配置を根本から変えた。Brexit推進派が「グローバル・ブリテン」を提唱したことは、まったくナンセンスであり、ヨーロッパから離脱した小イングランド国家へ向かう。

アウトサイダーにドアを閉める以外、「主権を取り戻す」意味とは何か? ヨーロッパの単一市場・関税同盟からの離脱は、保護主義に向かう行動だ。

Brexitは、イングランド・ナショナリズムである。それはUKや「帝国」の「ブリティッシュネス」を拒む。スコットランドの住民投票が再び行われれば、彼らは必ずイングランドではなくヨーロッパを選ぶ。

メイは議会の多数を得るためにDUPの票を必要とした。しかし、アイルランド国境の問題は、DUPが首相のBrexit交渉を身代金として得たことを示したし、他方、DUPUK統一派が、北アイルランドの世論とは食い違っていることを示した。人口変化はますますアイルランド統一に向かう。

メイのBrexit計画は崩壊するだろう。何が起こるか、まったくわからない。Brexit強硬派は、自分たちが議会主権の守護者であると自称する。しかし、彼らは下院議長の提案に反対する。彼らは、「人民」(すなわち、憤慨するナショナリストたち)が、2016年の国民投票の結果を翻そうとする議員たちを脅すために、街頭デモに出るだろう、と囁いている。最後は、イギリス議会が群衆の威嚇に従うのか?

議会制民主主義が、有権者は1度だけ「正しい」決断を行い、その考えを変えたりしない、というデマゴギーの犠牲になる。2度目の国民投票でBrexitが生じた亀裂のすべてを閉じると考えるのは愚かであるが、UK分裂を回避できるかもしれない。


 中国とアップルの転落

The Guardian, Sun 6 Jan 2019

Apple and China’s problems show that today’s titans may not rule the world tomorrow

Will Hutton

われわれの心象風景は過去に起きたことで形成される。

2つの趨勢がだれにも止められないように見える。1つは、中国の驚異的な成長だ。その話では、確実に、中国が世界第2の経済大国になる。中国の成長、そして、それが支えるアジアの成長に参加することが、Brexit推進派の主張な論点である。動脈硬化のヨーロッパを棄てて、アジアの繁栄を歓迎しよう。たとえ、それが良くても未熟な民主主義、最悪の場合は独裁政府であっても、気にしない。

2に、アメリカ西海岸のハイテク大企業、アップルやアマゾンこそ、この宇宙の新しい驚きである。彼らは情報処理・データ主導の経済において成功し、価値を高め続けている。昨年、両社の市場価値は1兆ドルを超えた。構造転換をもたらす技術革新に最初に手を付ける者が21世紀の巨人となり、株式市場も、社会変化も主導する。

しかし先週、この2つの趨勢に重大な変化が生じた。アップルの収益予想が、この17年間で初めて、しかも大幅に、下回るだろうと公表した。CEOTim Cookは、それを中国市場における販売不振で説明した。中国人の消費が減っている。アップルの株価は急落し、わずか数か月で4000億ドルの価値が失われた。

中国経済に長期的に続いてきた諸問題が、この大陸を包んでいる。わずか8年前の中国は、12%の成長を、金融危機と世界不況に対抗する政府の大規模な刺激策で、政府支援型経済として成功していた。しかし、それ以降、公式の成長率は低下し続けており、今では半分の6%、株価も昨年は25%下落した。中国の消費者は景気後退を予感しているのだ。

債務と輸出で成長を操作する国家管理型の経済も限界に達する。中国の債務水準は、信用できない政府統計によっても、GDP3倍に近づいている。これは30年前に、日本で不況を引き起こした問題だ。もし中国が輸出で成長を維持しようとすれば、世界中の市場で他国の輸出を追い出すことになる。経済的にも、政治的にも、起こりそうにない事態だ。

中国共産党は正当性の危機を生じつつある。もし成長率が6%を下回れば(非公式な統計では2018年に2%を下回った)、雇用が創出されず、共産党の能力が疑われる。過去の指導者たちは、改革の加速とインフラ投資で、迅速に成長を回復できた。

こうした選択肢は習近平にない。インフラ投資のリターンは債務累積を正当化するほど高くない。経済自由化は共産党の支配と対立する。政府が支援するハイテク技術開発と、社会管理体制を強化している。権力を維持するために、台湾海峡で限定的な軍事衝突を起こすかもしれない。

アップルのiPhoneが驚異的に売れる状態も、共産党が管理する中国経済の高成長も、永久に続くことはない。


 企業の共同経営体制

NYT Jan. 6, 2019

Workers on Corporate Boards? Germany’s Had Them for Decades

By Susan R. Holmberg

1970年代後半、クライスラーが破産を免れるために、連邦政府から融資を受けたとき、労働組合がそれを支援した。経営幹部は、組合が1名の代表を17名の経営陣に入れるのを認めた。しかし、経営陣の給与決定に反対しても、それを変えることができず、結局、組合代表は辞任した。「共同経営」のアイデアは、その後、アメリカですたれた。

現在の金ぴか時代に、企業幹部は典型的な労働者の300倍以上も給与を得ているため、このアイデアが再び注目されている。マサチューセッツ州のElizabeth Warren上院議員は、大統領候補に名乗りを上げたとき、その政策案に、経営陣のポストの5分の2を労働組合に与える項目を入れた。同様の提案は他からも出ている。

これらは、会社は誰のためのものか、を再考することを意味し、以前からある問題だ。アメリカ企業もかつては、株主だけでなく、労働者、顧客、国民の利益に奉仕した。また、ドイツでは、ヨーロッパで最強の「共同決定」モデルが繁栄している。ドイツの法律は、大企業の最高経営責任者の半数を労働者が決めるように定めている。そこでは高度な戦略的決定を行う。労働者たちは職場会議も選出し、残業やレイオフなど、日々の決定を行っている。

共同決定はビジネスにとって良いことか? それは断言できない。企業の成長や利潤を約束するわけではない。しかし、ドイツの労働者たちは、共同決定の下で、強固な労働組合を維持し、給与の決定や失業の抑制に成功している。

「共同決定」は、民主主義によく似ている、と政治学者Stephen J. Silviaは述べた。それは経済成果によって評価されるのではなく、公的な問題に関する発言権を持つことで重視される。人々は、労働においても発言権を持つべきだ。


 アメリカ製造業の未来

FT January 10, 2019

The ‘China shock’ has not been as bad as Donald Trump thinks

Gillian Tett

アメリカの有権者たちに、近年、製造業で起きたことを尋ねれば、恐怖について、「大虐殺」について話すだろう。ドナルド・トランプは、中国企業との競争がアメリカ企業と職場を「殺した」と主張して、権力を握った。

しかし、中国との競争がアメリカ産業にもたらした影響をもっと正確に描こうと思うなら、先週末にアトランタであった、アメリカ経済学会の資料を見るべきだ。データに依拠して、論争を整理するときであり、それは焦点を製造業からサービス業に移すだろう。

確かに、トランプの主張には事実の裏付けがある。この数十年で、アメリカの伝統的な製造業は雇用を大幅に減らした。その最も厳しい衰退を示す地域と産業は、中国との競争にさらされていた。しかし、エコノミストたちTeresa Fort, Justin Pierce and Peter Schottは、アメリカ企業がコスト削減のために労働者をロボットに代替した、と語った(ロボットか、貿易か、というのは正確に区別するのが難しい)。

この過程は、しばしば、トランプが言うような深刻な痛み、経済的「大虐殺」を生じている。家族は崩壊し、薬物依存、子供の貧困が増えている。「チャイナ・ショック」は住宅価格を介して全土に影響を強める。

しかし、ここには大きな見落としがある。もしくは、希望の光だ。トランプは、いわゆる製造業の職場が縮小する一方で、「製造業企業」に起きたことを理解しない。

1977-2012年に、「製造業企業」の「工場労働者」は2000万人弱からほぼ1000万人へ半減した。しかし、「製造業企業」の「非製造業工場」で雇用が1300万人から2300万人に増えたのだ。それはデザインやITの職場である。中国企業との競争によって、アメリカの「製造業グループ」は静かに構造転換(リエンジニアリング)したのだ。

それは旧式の「製造業」労働者にとって楽しいことではないだろう。新しいサービス部門の雇用が生まれないのは、アメリカ南部・中西部の貧しい地域である。そして、経済的苦痛と有権者の憤慨が、トランプの支持票を生んだ。アメリカ「製造業」の労働者を助けたいなら、彼はもっとサービス雇用を増やす話をすべきである。それがアメリカ「製造業」の未来なのだ。


 ポピュリズムは終わらない

FT January 7, 2019

Populism faces its darkest hour

Gideon Rachman

今年はポピュリズムが破裂する年になるのか? Brexitもトランプも、2016年にはエスタブリシュメントを打破したが、2019年には矛盾をさらけ出し、間違った考えは悪い結果しかもたらさない、ということがますます明らかになる。

しかし、ポピュリズムのブームが終わった、と主張するのは早すぎる。それには3つの理由がある。1.経済的・文化的な力はそのままだ。移民、経済不安、文化的保守主義。2.左右のポピュリズムについて、今年は左派が勢力を伸ばす。たとえば、イギリスでジェレミー・コービンが権力を握る。アメリカでは民主党の大統領候補争いで左派ポピュリストたちが支持を広げている。3.ポピュリズムはグローバルな現象となった。特に、ブラジルとイタリアのポピュリストが権力を得た。

正統派の権力者たちは、マクロンのような古い正統的な反撃だけでは、ポピュリストに勝てないだろう。ポピュリズムは終わらない。


 新しい米中冷戦

FP JANUARY 7, 2019

A New Cold War Has Begun

BY ROBERT D. KAPLAN

米中関係は冷戦時代に入った。絶え間なく、アメリカの軍艦の航行記録、ペンタゴンの個人情報がハッキングされている。それは異なる手段による戦争だ。新しい冷戦は永久に続く。なぜなら軍人や戦略家たちはその背景にある要因を理解しているからだ。しかし、多くのビジネス・金融の関係者たちは、ダボスのように、それを否定しようとする。

中国人は、アメリカ海軍と空軍を太平洋の西側(南シナ海・東シナ海)から追い出そう、と固く決意している。アメリカは留まる決意だ。中国人は、彼らの観点では、完全に正しいことをしている。彼らは南シナ海を、アメリカの戦略家たちが19世紀・20世紀にカリブ海を観たように、見ているのだ。その青い海は彼らの巨大な大陸塊の延長であり、その海域を支配することで、彼らの海軍は太平洋やインド洋に出ていくことができる。また、台湾も平定できる。それはアメリカがカリブ海を支配し、西半球を支配することで、2度の世界大戦や冷戦のような東半球のバランス・オブ・パワーに影響を与えたことと同じである。アメリカの世界支配がカリブ海から始まったように、中国にとっては、すべてが南シナ海から始まる。

しかし、アメリカ人は太平洋西部から退かないだろう。1853年にコモドア・ペリー提督が日本を開港したように、アメリカはずっと太平洋を支配してきた。アメリカ国防総省は、ロシアよりも、中国の脅威に強く反発している。リベラルなタカ派もそうだ。米中の貿易摩擦と軍事摩擦とは切り離せない。トランプ支持者たちと民主党が協力するのは、中国のビジネスの在り方に反対するときだ。

新しい冷戦には、イデオロギーの側面もある。数十年間、アメリカは中国の高い成長率を称賛してきたが、開明的なケ小平の権威主義から、より硬質な習近平の権威主義体制に変わった。その体制は、インターネットを通じて市民を監視し、ウイグルのイスラム教徒を多数拘束している。米中のシステムは、アメリカの民主主義とソ連の共産主義との差と同じくらい、大きく隔たるものになった。

技術は、対立を緩和するより、むしろ先鋭化している。同じデジタル生態系に生きるアメリカと中国が、何千マイル離れていても、統合された戦争状態に向かう危機を、歴史上、初めて生じる。太平洋は、もはや、かつてほど十分な緩衝地帯ではなくなった。米中が、高度な軍・情報・軍拡体制で競争している。

しかし、このことが直ちに戦争を意味するわけではない。高まったとはいえ、軍事的衝突は半々の確率だろう。それは単に、恐怖、名誉、利益にけるツキディデスの罠を意味するだけでなく、台湾問題のような、中国人が一気に感情を爆発させる問題があるからだ。空や海における事件が、軍事的なスパイラルを生じる。また、多くの戦争がそうであったように、だれも望まないとしても、予想外の事件から戦争は起きる。南シナ海や東シナ海の事件は金融市場に影響する。

戦争は水爆の使用に対する恐怖から抑制されるだろう。しかし、核戦争への不安は次第に重視されなくなっている。実際に使用する目的で、双方の政策担当者は、精密誘導技術、小型の核兵器を開発している。また大規模なサイバー攻撃のように、非核戦争の領域が急速に拡大している。

中国の台頭よりも、その衰退を恐れるべきである。政府は正当性を維持するために、ナショナリズムに訴えるかもしれない。中国が東シナ海で一層の攻撃的な姿勢を抑えているのは、日本との軍事衝突で敗北することを恐れているからだ。それは中国の指導体制を権威失墜に追い込み、共産党の安定性も疑わしいものとなる。中国は日本の軍事力を圧倒するまで戦争を避けてきたが、新しい米中冷戦は、旧冷戦以上に、経済的な後退において非合理的情念に抵抗できないだろう。

21世紀前半の地政学的な挑戦とは、米中冷戦を熱戦に変えないことだ。

米中の軍事関係者がホットラインを設けて、危機において情報交換する体制を持つべきだ。そして、グローバルなソーシャル・メディアの時代に、情念こそが真の敵となる。かつてジョージ・ケナンが述べたように、「不断に警戒しながら、しかし、個別の問題や危機においては進んで妥協せよ。」 そして待つのだ。旧ソ連とは違う意味で、中国のシステムは、時とともに権威主義を強めて、アメリカのシステムよりも分裂を生じるだろう。


 2019年が静かな年であるために

PS Jan 10, 2019

Shelter from the Storm in 2019

BARRY EICHENGREEN

どうすればこの1年が、経済的に、金融的に、そして、政治的に、静かな年であるだろうか? それには安定性に対する4つの脅威を避ける必要がある。

1.米中貿易戦争を止める。貿易戦争の哄笑による解決がニュースになると、金融市場はプラスに反応した。新しい敵対が生じるとマイナスに転じた。サプライチェーンをかく乱し、世界の成長を損なうなら、金融市場や消費にも悪い影響が及ぶ。

2.アメリカは少なくとも2%の成長を実現する。もしそれを大きく下回るなら、金融市場は急激に悪化し、市場の信頼や安定性が失われる。

3.中国は金融市場を強化する必要がある。GDP比で160%に達する債務を減らすべきだが、インフラ投資や製造業生産が減少しつつある。政府の目標である6%成長が達成できそうにない。それは債務問題を悪化させ、新興市場にも影響する。

45月の欧州議会選挙で、ヨーロッパ統合に反対するウはナショナリスト連合が勝利するのを阻む必要がある。ユーロ圏の改革は進めるべきだ。共通の預金保険、ある程度のヨーロッパ共通財政、共通の銀行救済基金、欧州安定化メカニズム。しかし、共通通貨がエリートの計画で、広く支持されていなければ、統合は続かない。広い支持は投票によって示される。

これら4つのプラスの結果が成立することは、決して確実ではない。いくつかが成立すれば、他の条件にプラスとなる。他方、マイナスの結果は、他の見通しを暗くする。

最後に、ミューラー特別検事の報告が生じる影響は、限定されることが望ましい。それは矛盾しているようだが、トランプの性格では、彼やその家族に対する検察の報告に対して、どのような行動も辞さないであろう。それは、単にミューラーや民主党が多数を占める下院だけでなく、連銀、中国、メキシコ、中米諸国、ヨーロッパなど、トランプの政治的な失敗を隠す煙幕を広げるものだ。弾劾について、共和党が多数の上院を説得できない以上、こうした混乱に終わりが見えない。

民主党は、トランプの弾劾を目指すより、再選を阻むことに集中するべきだ。そのための政策綱領と候補者を探すのだ。そして、202011月まで、まだあまりにも長い時間を、われわれは祈るしかない。

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The Economist December 22nd 2018

Zip fasteners: Alligators of ecstasy

Charlemagne: Driving each other mad for Christmas

The constitution: Goodbye, good chap

The trade war: Peace offering

The great Texas emu bubble: An investment that never took off

(コメント) ファスナーの世界市場を40%支配しているのがYKKです。もちろん、最初はイギリスの産業革命からでした。

イギリスの政治的な混迷を、どのように理解したらよいのか? 憲法がないことを自慢していた政治家たちの醜い論争が続き、投票は先延ばしにされます。

中国の姿勢は変わった。国内の安定化を優先しなければならない以上、トランプとの貿易戦争には休戦条約が求められます。

そして、テキサスのエミュー・バブル。月の土地や資源、クジラにもバブルが起きるのでしょうか?

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IPEの想像力 1/14/19

大統領選挙と景気変動には一定のパターンがある、と言われます。ポピュリストの政権が登場し、投資・輸出ブームと財政破たん・金融危機を繰り返すのも、金融市場が過熱し、バブルを生じた後、金融システム救済のために債務が膨張するのも、たびたび指摘されることです。

Brexitとトランプの時代とは、こうした政治経済の崩壊サイクルが中枢を支配し、グローバル化した、ということかもしれません。

左派のポピュリズムと長期の平和、成長への期待があった時代は、民主主義的な制度が支持されて、競争的な政党制による政策決定が諸問題の解決に機能しました。しかし、右派ポピュリズムと国際秩序の衰退、成長の減速もしくは長期のデフレにおいては、富裕層が民主的政治を操作して「秩序」を維持し、エスタブリッシュメントの「支配」を破壊するための権力集中が叫ばれ、結果的に、民主主義の諸制度は支持されなくなりました。

繰り返される政治経済危機というのは、システムの根本問題を意味します。それを解決できない状態が、たとえバブルが人間の集団心理によるものであっても、悪意と強欲によって選挙運動や金融投機を利用する者に、このシステムの権力と富を配分するのです。

それを解決することはできるのでしょうか?

ROBERT D. KAPLANの米中の新冷戦は、南シナ海・東シナ海をカリブ海にたとえています。覇権体制の実現は、軍事力による海洋の制圧、核兵器の管理にあります。大国を隔ててきた距離が失われ、特に情報ネットワークが緊密な統合体を形成する中で、新しい冷戦による覇権争いが米中間で生じています。軍事衝突を避けながら、互いの政治経済体制・社会システムを競争させる新冷戦が、次の国際秩序を模索します。

BARRY EICHENGREENは、2019年が静かな年であるために、4つの条件を示しました。1.米中貿易戦争、2.アメリカの成長、3.中国の金融市場。4.欧州議会選挙。そして、トランプの破壊活動を刺激するミューラー報告と民主党議会です。グローバルなポピュリスト循環の前衛を担う位置にある、トランプの脅迫が人類を襲います。

STEPHEN M. WALTは、新しい議会代表たちのためにハーヴァード大学が行う、新人研修に講師として招かれました。河野外相も、かつて聴いたことがあるかもしれません。

外交政策は、不確実で、競争的な世界における、自国の平和と繁栄を高めることが目標である。そして、1.国内の民主的制度を改革せよ。2.大統領が軍事力を行使する特別な権限を廃止せよ。3.中国についてもっと多くを学べ。4.制裁を乱発するな。5.自分のイメージに合わせて世界は改造できない。むしろ、自国の改革によって、平和と繁栄のための模範となれ。

日本も、この世界の一部にあります。ユーラシア大陸の東、「北方領土」はロシアにとってのカリブ海や南シナ海であり、西の黒海やシリアと連動しています。

トランプ大統領が強化する景気変動と米中対立は、かつてヨーロッパが経験した戦間期の再現として、将来の歴史家たちの評価を待っています。

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