IPEの果樹園2018

今週のReview

12/31-1/5

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社会主義的混合経済 ・・・米中の対照的な政治文化 ・・・そして誰もいなくなった ・・・トランプの亡霊 ・・・コンゴ民主共和国 ・・・大恐慌への道 ・・・Brexit国民投票 ・・・なぜ連銀は金利を上げるのか ・・・マクロンの後退

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 社会主義的混合経済

NYT Dec. 22, 2018

The Case for a Mixed Economy

By Paul Krugman

最近、私は、インタビューされた数人から、資本主義は終末に達したのか、何かに交代させるべきか、と尋ねられた。彼らの意図はわからないし、彼らが「中央政府による計画経済」を考えていないのは確かだ。それは誰も信用していない。市場経済と私的所有による分散型のシステム、すなわち、資本主義に代わる提案を観たこともない。

私の想像力が欠けているのかもしれないが、市場とある種の公的所有制との選択は、しかも権力の分散をともなうなら、かつてわれわれが社会主義と呼んだものに似ているだろう。

私は不思議に思うのだ。社会主義は、厳密に言って、どの程度まで信用を失ったのか? 確かに、(ソ連の)ゴスプランを世界が必要としているとは、今、だれも思わない。しかし、市場がすべての問題について最適な答えなのか? すべてが民間企業によって実現できるのか? 私はそう思わない。教育のように、公的部門が良い成果を示すケースがある。また、医療サービスのように、民間企業を支持することが難しい分野もある。そのような部門を合計すれば、大きな割合になる。

言い換えれば、共産主義は失敗したが、ミクスド・エコノミー、混合経済には十分な支持する理由があるのだ。公的な所有・支配が、過半数ではないとしても、重要な要素となる、という意味のミックスだ。大雑把なイメージでは、3分の2の資本主義と、3分の1の公的所有制、すなわち、一種の社会主義によって、われわれは十分に効率的な経済を得られるだろう。

この数字の背景は、雇用データである。労働力の15%が、教育、医療、社会支援の分野で働いている。こうした分野が、民間企業によって改善できると考えるべき理由は何もない。また、電力や水道など、公共サービスと、民間が行っている医療保険サービスも、補助金と法律によって、そうなっている。小売業や製造業でも、公的所有が望ましいケースはある。ジェネリック薬品の製造を公的企業に行わせる、というElizabeth Warrenのアイデアは、決して、それほどばかげたものではない。

社会主義的だ、と呼ぶすべてのものが、完全な失敗を意味するという、現在の思考方法を超えて、考えてみる価値があるだろう。


 米中の対照的な政治文化

FT December 21, 2018

Xi Jinping has changed China’s winning formula

Gideon Rachman

ワシントンから北京への旅は、2つのまったく対照的な政治文化を経験させる。

ドナルド・トランプのワシントンは、テレビのリアリティー・ショーである。手続きをとんでもない形で破るのが重要であり、大統領は繰り返し前任者たちを軽蔑する。習近平の北京は、国営オペラ座だ。すべての言葉や行為が台本に従って進められ、主席は尊敬される前任者たちの遺産を引き継ぐと称してその権威を高める。

現代の中国が達成した繁栄の水準は、鄧小平が改革開放を唱えたときには想像できなかったものだ。1978年に自転車であふれていた北京に、今はSUV自動車で渋滞している。購買力で観れば、中国は世界最大の経済になった。

習が、鄧の遺産を継ぐ者と自称するのは当然だろう。しかし、現実(リアリティー)はもっと複雑だ。この1年間は、内外で鄧の遺産が深く損なわれた。それは習自身が深く関わっている。

国際面で、アメリカとの対立が高まってきた。鄧が常に避けようとしたことだ。国内では、共産党が習に死ぬまで主席でいることを許す変更を認めた。鄧が設けた任期制を逆転したのだ。鄧が目指したのは、個人崇拝による文化大革命のアナーキーと貧困から、中国を解放することだった。

40年後、豊かで知的に洗練された中国において、政府は再び党指導者の思想の前で跪いている。昨年9月に、鄧小平の息子Deng Pufangが、父の改革目標に戻るよう求める演説を行った。習の大掛かりな国際的野心である「一帯一路」を暗に否定し、中国国内の諸問題を解決することが優先されるべきだ、と示唆したのだ。中国メディアはこれを伝えなかった。

中国は今や、携帯決済、5G次世代モバイル通信、AIにおいて世界の指導者になると主張している。しかし、批判者は、習が民間企業の活力を失わせている、という。また、習の攻撃的な外交が、南シナ海、一帯一路などで、ワシントンの「中国に対する強硬派」を刺激してしまった。

習は演説で、「誰も中国人民に、何をすべきだとか、すべきでないと、命じることはできない」と述べた。皮肉なことに、アメリカが要求する市場開放は、鄧小平の改革に共鳴する。


 そして誰もいなくなった

FT December 21, 2018

Jim Mattis’s exit is a watershed for the Trump presidency

Edward Luce

そして誰もいなくなった。マティスJim Mattisがトランプ政権の中で政策を担う「大人たち」の最後の1人だった、と言うのは何の誇張でもない。

この2年間、マティスは休みなく世界を回って、アメリカのパートナーたちに、何も基本的な変化はない、と保証した。彼らの中にはマティスを信用した者もいたかもしれない。しかし、今やマティスが去ろうとしている。

トランプの閣僚の中で、彼だけは、公の席で大統領への称賛を振りまくことがなかった。1年目はトランプが概ね助言を受け入れた。マティスがいなかったら、トランプはNATOをもっと激しく非難しただろう。米韓軍事演習も止めただろう。アフガニスタンやシリアから米軍を撤退させただろう。しかし、トランプは元海兵隊司令官で、「マッド・ドッグ」のあだ名を持つ人物を、政権中枢に置きたがった。

問題は、マティスがそのあだ名のようには動かなかったことだ。マッドキャップ(悪童)のアイデアを持つトランプに、国防長官は歯止めとなった。

マティスの辞任はショッキングであるとともに予想外である。軍人は辞任しない。唯一、コーリン・パウエル元将軍が、ジョージ・W・ブッシュの国務長官としてイラク戦争を準備したとき、同様に辞任するような状況だった。しかし、パウエルは辞任しなかった。

軍人は命令に従う。助言が拒否されても、それに耐える。マティスは2年近く耐えた。友人たちは、昨年10月に、中南米からの難民が侵略してくるという妄想に、アメリカ・メキシコ国境へ軍を出動させるようトランプが命令したとき、マティスが辞任すべきだった、と考える。それは、民事と軍事との境界を越えて、中間選挙前に演じられた典型的なトランプ劇場だった。しかし、最後の線を越えたのは、米軍のシリア撤退を示唆した水曜日のTweetだ。それはマティスが何よりも強調した助言に反するものだった。

誰がマティスに代わるとしても、世界は重要な命綱を失ったのだ。

FP DECEMBER 21, 2018

Good Riddance to America’s Syria Policy

BY STEPHEN M. WALT

シリアからの米軍撤退をトランプ大統領が突然決めたことは、アメリカが神聖なグローバル・リーダーシップを放棄するものと非難する側と、シリアはアメリカの死活的な利益ではないと主張する側との間で、論争を生じている。

アメリカ外交にとって、シリアとは何か? トランプは前任者であるオバマの方針を継承し、地域への関与を減らしているだけか? より小さな軍事力を慎重に展開することを考えている? この件から得るべき教訓は何か?

1に、2003年にアメリカがイラク戦争を決定したことが、どれほど重大な愚策であったか、思い出すべきだ。今でも悔い改めないネオコンたちが、グローバルな問題をアメリカの軍事力で解決できる、と信じている。しかし、ネオコンがブッシュに売りつけた戦争は、中東全体に多くの混乱をもたらした。イラク戦争がなければ、アメリカによる占領はなく、反米の武装叛乱もなく、「メソポタミアのアルカイダ」、イスラム国もなかっただろう。サダム・フセインを失脚させたことで、イランの主要な敵は消え、その神権体制に褒美を与えた。それでもボルトンなど、同様の軍事侵攻を唱える戦略家がいる。

2に、アメリカは今も4万人を超える兵士たちを地域に展開している。第3に、シリアは1950年代半ば以降、ロシアの傀儡国家だった。第4に、シリアにアメリカの重要な利益はない。第5に、勝利や敗北にこだわることが戦略思考ではない。アメリカがこの地域に持つ戦略的利益は、グローバル市場に向けた円滑な石油供給である。イスラム国はアメリカに対する重大な脅威ではない。

クルド人との同盟には正当な関心を持つべきだ。しかし、わずかな駐留米兵がクルド人の安全保障にはならない。クルド人は、アメリカのためではなく、自分たちの安全のためにイスラク国と戦っている。ようこそ、これが国際政治の野蛮な世界だ。諸民族、諸国家は、その利益が一致すれば協力するし、利益が離反すれば協力は終わる。


 フランスの叛乱

PS Dec 21, 2018

Macron’s Misstep Is Europe’s Loss

DOMINIQUE MOISI

反乱はフランスのマクロン大統領にコストの高い妥協を強いた。しかし、これは新しいフランス革命ではない。デモ隊の中には、王朝を倒した先祖の技を再活性化したい、と望む者はいるが。

17897月ではなく、19685月を思い出すべきだ。フランスの戦後の繁栄が頂点にあったとき、日常に退屈した学生たちが反乱を起こした。経済は完全雇用で、彼らは疑わしいユートピア、カストロのキューバ、毛沢東の中国、といった理想を求めて反抗した。労働組合が彼らに合流したことで、少なくとも一時的に、運動は社会を動かしたのだ。

当時と違い、今の反乱を動かすのは、ユートピアではなく、絶望だ。またその意味で、黄色いベスト運動はフランス版Brexitでもない。イギリス人は投票箱に訴えるが、フランス人は、バリケード、デモ行進、投石に訴える。

いずれにしても、すべての者が損害を受けるように見える。イギリスがEUを離脱するように、フランスの国内叛乱もヨーロッパの統合を損なうだろう。マクロンが、フランスにリベラルな民主主義の火を受け継ぐはずだった。

黄色いベスト運動はマクロンの失策であった。必要な改革を進めるために、力強い成長を回復すべきだった。しかし、成長が実現する前に、マクロンはエコロジカルな理由で燃料税を引き上げ、中産階級、低所得層で、自動車通勤する者の不満を高めた。富裕層への税率をカットしたことも、選挙運動で、支持基盤を旧来の地方政治組織や労働組合から切り離したことも、地方の不満を長引かせている。マクロンは国民の共感を失った。

それは以前から、フランスの政治支配階級にとって、顕著な欠陥であった。マクロンはヴェルサイユで世界の首脳たちを前に威信を示した。しかし、それはフランスの王朝の歴史を想えば、危険なことである。マクロンに投票した多くの者が21世紀のボナパルトを望んでいたかもしれない。しかし、彼らは今、マクロンンをルイ16世とみなしている。前任の王様たちの失政を責められて、処刑された王だ。

マクロンが失脚すればどうなるのか? イタリアの現在が、フランスの未来である。パリでもポピュリストたちが権力を握り、ヨーロッパの統合は終焉する。


 トランプの亡霊

The Guardian, Wed 26 Dec 2018

Outside the EU, Britain faces a bleak future in Trump’s world

Simon Tisdall

EU離脱の条件に合意できないまま、イギリスは2019年に、さらに大きな混乱した条件で生き残りを模索する。

不吉な大混乱の中心にいるのはトランプの亡霊だ。45代アメリカ大統領は、任期の半ばで、旧ルールが適用できない世界にして、長期に維持された前提を、たとえばイギリスがワシントンとの「特別な関係」を持つと主張することを、時代錯誤にしてしまった。

トランプの世界は、無秩序な王国であり、カテゴリー5のハリケーンが襲来して、破壊されたフロリダのテーマ・パークに似た、危険と、妄想と、混沌に満ちている。システムの組み込まれた野蛮さが、利己心、侮辱、虚言によって燃え上がる。ルールに基づく国際秩序をアメリカは転覆し、迂回しようとしているが、トランプという個人の持つ無知と闘争心がそれを指揮している。

トランプの描く恐怖に満ちた世界は、テロの充満する夜が続き、特に、選挙を準備する2019年はそうなるしかない。旧ルールは逆転した。バランス・オブ・パワーは移り変わり、だれも弱い国を重視することがない。世界地図にピンク色の帝国を描いたBrexitの想像力は、ますます高い代償を支払う時期になる。

ヨーロッパの家を拒んだ、自己破滅的なイギリスは、その苦しみの世界に入る準備もなければ、それを楽しむこともないだろう。


 倫理的な難民システム

NYT Dec. 21, 2018

None of Us Deserve Citizenship

By Michelle Alexander

ここに道徳的な難問がある。われわれは絶望的なほど貧しい人々を、国境の壁や、催涙ガス、拘置施設、武装警官、強制送還によって最善の処理を施す問題とみなす。もちろん、ごく少数だけが真に「(市民権を付与する)価値ある」個人なのだ。

人道的な移民システムは夢想家のユートピアではない。移民たちを、われわれアメリカ人が彼らから引き離しておく道義的権利を持つ何かを得ようとしている、と考えるのではなく、われわれの誰も、ここに生まれたというだけで、市民権に値する何かをしたわけではない、と認めることだ。それでもわれわれはすべて、その生まれた場所と関係なく、共感や基本的人権に値するのである。

われわれは自分たちをゲートキーパーと思いたがる。しかし、貧困と暴力から避難する人々とわれわれとの関係は、もっと複雑なものだ。われわれの国は圧倒的な富とパワーを持ち、現実の国境には堅固な道徳的基礎がない。奴隷制、ジェノサイド、植民地主義を観るなら、われわれは世界で最も豊かでも、最も強力でもない。存在すらしない。これは誇張ではなく、歴史が示している。あるメキシコ人が述べたように、「われわれが国境を越えたのではない。国境がわれわれをを超えたのだ。」

国家建設は、自由を称える詩的な作業ではない。しかし、われわれはその暴力的な作業からは関係ない、と思うなら、それは間違いだ。アメリカの外交、通商政策、そして軍事介入は、グローバルな麻薬戦争も含めて、移民危機を創り出した。今、それを国境の壁や強制送還で解決しようとしている。


 大恐慌への道

The Guardian, Sun 23 Dec 2018

The US is on the edge of the economic precipice – Trump may push it over

Robert Reich

経済は何よりも支出に依存している。アメリカの場合、その70%は消費である。ほかに、政府支出と輸出がある。輸出市場は、ヨーロッパも中国も減速し、問題がある。アメリカ政府は債務に大きく依存しており、企業と富裕層へのトランプ減税がそれを増やした。

アメリカの消費者が経済を救出する、と期待してはいけない。アメリカ人の多くは、なお、200712月に始まった大不況の後遺症に苦しんでいる。職に就いていても、インフレ調整すれば、賃金は停滞しているからだ。富裕層が所得のますます多くの割合を占めている。しかし、富裕層は所得のごく一部しか支出しない。

アメリカ人が所得に見合った支出で生活していない、という問題ではない。彼らの所得が制y等にもかかわらず十分に増えないのだ。そして債務が増えていく。同じ罠が、2008年や1929年の前にもあった。

1929年の大恐慌後は、多くのアメリカ人に賃金上昇をもたらすよう、新しい仕組みを政府が導入した。社会保障、失業保険、残業手当、最低賃金、雇用者には労働組合との交渉を要求した。そして最後の完全雇用プログラムと言える、第2次世界大戦が起きた。

対照的に、2007年の株価下落後は、政府が銀行を救済し、不況を避けるために十分な資金を支出した。しかし、オバマ・ケアを除いて、停滞する賃金に関する対策は何もない。

過去の崩壊の原因は、銀行危機ではなく、消費支出と総産出(生産額)との不均衡であった。拡大する不平等が、経済の崩壊をもたらしたのだ。


 なぜ連銀は金利を上げるのか

PS Dec 27, 2018

Why Is the Fed Still Raising Interest Rates?

MARTIN FELDSTEIN

連邦公開市場委員会(FOMC)は、12月初め、全会一致で短期金利の4分の1%引き上げを決めた。これは12か月間で4度目の引き上げだった。FOMCは、2019年に2度の引き上げを予定していると発表した。

批判者は、経済成長が減速し、インフレは目標の2%を切っているのに、以前の計画に従って金融引き締めを続けるのはおかしい、と言う。

適切な金利水準を決定するのは、変化し続けるさまざまな考えをバランスすることだ。今月とさらに2019年の金利を引き上げるFOMCの事情は、3つある。

1に、現在の実質金利水準は低すぎる。消費者物価指数が2%で上昇したことから、実質金利は今回の金利引き上げ前にはマイナス、今でもほとんどゼロである。

実質ゼロ金利というのは、極度なデフレ状態であれば適切であるが、年率3%以上でGDPが増大し、失業率が例外的に低い3.7%である経済には、適切でない。連銀の推定によると、持続可能な失業率の水準は4.4%である。

極端に低い実質金利は多くの問題を生じる。企業は過剰な債務を負う。銀行は質の低い借り手にも、条件を低くして融資を増やす。証券投資家は、株価を持続不可能な水準に押し上げる。政府は、累積した国債への利払いが少ないために、さらに多くの国債発行に依存しようとする。

2に、将来、不況が来るときに金利を引き下げるためには、今、より高い金利水準に戻しておく必要がある。現在の景気拡大期間は114か月に及び、第2次世界大戦後、最長のものになっている。多くの警告サインが現れている。株価下落、住宅市場の軟調、ヨーロッパ主要市場の減速、アメリカ輸出の不透明性。この2年以内に次の不況が始まるだろう。

過去3回の不況期には、連銀が政策金利を、5%4.8%5.3%、引き下げた。現在の2%水準からでは、わずか2%の引き下げでゼロに達する。マイナス金利はむつかしく、銀行・保険業に弊害も予想される。

3に、FOMCは実質金利を「中立」の水準に戻したい。中立な金利とは、総需要に対してデフレにもインフレにも働かない金利だ。それはインフレ率から単純に導けないし、複雑な経済モデルで推定しなければならない。パウエル議長たちは、その値を厳密に室ことは困難だ、と強調した。

私見では、近年、その値が大幅に低下し、連銀など、中央銀行の政策はそれを反映している。それは、およそ2%だろう。つまり、現在の実質0%の金利は、伝統的な中立の水準に戻るために、なお切り上げを必要とする。


 気候変動対策

PS Dec 27, 2018

Carbon Taxes at the Barricades

ADAIR TURNER

「黄色いベスト」運動は、気候変動と闘う政策に反対しているのではない。デモの参加者たちは、ディーゼルよりも航空機燃料への税を高くするよう求めている。気候変動に反対するなら、そのコストをもっとも追わないものに犠牲を求めて進めるべきだ、と。

マクロンの政策は、どのような形で炭素税引き上げを試みてはいけないか、その見本である。所得分配への影響、より広い政治経済的条件への配慮がもっと必要だった。

1.炭素税がもたらすメリットを、すべての市民に見えるものにする。2.所得分配への効果、公平さの認識に対して、特に配慮する。3.炭素税を引き上げていく過程では、浮動的な一次産品価格に配慮し、その移行を慎重に管理する。


 マクロンの後退

PS Dec 27, 2018

The Center Left and Globalization

KEMAL DERVIŞ, CAROLINE CONROY

マクロンは、フランスを改革し、EUを改革する、と約束して当選した。しかし、今、その最大の危機に直面している。

EUのルールに従い、予算赤字をGDP3%以内に抑えなければならない。同時に、新しい技術のもたらす混乱を吸収するのに十分な社会保障システムを近代化する必要がある。それらは政治的に困難だ。

マクロンの支持票の3分の2は中道左派が与えた。彼には2つの道があった。1つは中道右派の改革、労働市場・税制・投資政策を変えて、フランスを「資本主義的」グローバリゼーションに「適応」させる。もう1つは左派的国際主義のあいまいな道である。中産階級を支援し、技術革新やビジネス・モデルの破壊的効果を吸収する従来の政策を更新する。Dani Rodrikが以前から主張してきたように、グローバリゼーションを維持するには、より大きな国家が必要なのだ。

しかし、インサイダーを強く保護するフランスの労働組合を改革し、だれもが職を得やすくすること、国有鉄道システムを見直す改革は、マクロンの左派的な支持基盤を失わせた。次第に、彼の改革は富裕層の利益に一致するようになった。国民の70%が「黄色いベルト」運動を支持し、マクロンは後退を強いられた。

マクロンは中道左派の路線にもどればよいのか? そうではない。所得や資産の不平等、環境の持続可能性、民主主義に関して、左派の改革案はまだグローバリゼーションへの準備がなされていない。ネオリベラリズムに反対して、新しい社会契約を求めている。

特に、左派は国内の再分配政策に焦点を当てるだけでは、闘いに勝てないだろう。技術革新とグローバル・ネットワークは逆転不可能だ。減速させることは可能だが、その結果は、将来、経済の競争力が失われる。正しい選択は前進すること、同時に、すべての市民を支援し、失った者たちに補償する、社会福祉を改革することだ。

そのためにも、政府間で協力し、社会保障システムの維持に必要な財源を奪うような、低税率を認める権限を国際規制しなければならない。革新的なアイデアを、国内・国際レベルで広めるべきだ。

技術革新はすべての者に利益をもたらす。そのためには破壊的な効果を管理する指導力が必要だ。それを欠くなら、20世紀の破滅と世界戦争を再現するだろう。マクロンはその先駆けである。

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The Economist December 15th 2018

How the super-rich invest

Brexit: Very rocky

France: Surrender, or tactical retreat

Democratic Republic of Congo: The Kremlin-style charade in Kinshasa

Charlemagne: Road ahead closed

The Reserve Bank of India: Exit on Mint Street

(コメント) 超富裕層の投資は、金融機関やヘッジファンドに頼らず、急速に自分たちの家産管財人、パーソナル・オフィスによって、独自の基準で行われるようになる、と予想します。それが金融市場に与える影響は、長期安定的な投資に向かう、と好意的に描かれます。

イギリス、フランス、ドイツ、イタリアのヨーロッパ主要諸国がますます深刻な政治経済混乱を示す中で、EUの前進に必要な「政治的取引”a grand bargain”」は可能なのか? その構想は、これまでの経験から導けるとしても、民主的なプロセスを実現する政治的能力が失われています。

コンゴ民主共和国のカビラや、インド準備銀行を締め上げるモディが、EUの手本となる日も来るのでしょうか?

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IPEの想像力 12/31/18

11

熊野古道の紹介の一部を観ました。他に、山歩きや登山を観ることはできませんでした。

駅伝やラグビーを観ました。

土井善晴の美食探訪を観ました。

ドキュメント72時間を観ました。特に、東京タワー。

12

箱根駅伝を観ました。

録画で「相棒」を観て、がっかりしました。

12日・3

録画した「孤独のグルメ」を観ました。京都、銀閣寺、グジを使った土鍋のご飯です。

箱根駅伝2日目。途中、自分もランニング。ブックオフまで行って、恩田陸の『ライオンハート』を買いました。

作家という天職の言葉が創り出す世界に驚嘆しました。今、2つだけ読みました。

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「不思議だ。」

「人生に絶望した自分と、未来からやってきたという少女と、こんなに大勢の群衆とが、同じものを待ちながら同じ稲妻の光を見ている。同じ一瞬の光に照らし出されている。これは、はたから見たら奇妙な光景ではないだろうか。この1日は、この切り取られた場面は、遠い未来から見たらどういう意味を持つのだろうか。」

共産主義の妖怪ではなく、トランプの亡霊におびえて下落する世界の株式市場を、私たちも観ています。この小説が描くような戦場においても、大勢の人たちがトランプの政治ショーを見ているのではないか。

「もうすぐ、あの男がドイツの首相になるわ。」

「ドイツはどんどんヨーロッパを飲み込んでいく。だれにも止められない。みんな手をこまねいている。」

「ねえ、エリザベス、もういいだろう。おまえの話し上手はよくわかったよ。みんな本気にしてるじゃないか。もう帰ろう。」

2019年も、中国の脅威について、繰り返し、警告する政治家が増えるのでしょう。しかし、小説に現れたこの少女は、警告しているのではなく、未来を知っているのです。そのことをわかってもらうために、自分がエドワードの愛するエリザベスであると信じてもらうために、話し続けます。

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2人は、長く互いの夢の中に現れるだけの恋人です。そして、さまざまな時代に、わずかな時をいっしょに過ごす。

「なぜきみと僕なんだろう?」

「わからないわ。」

「でも、わたしはあなたで良かったわ。いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。いつもいつも。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ。」

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戦場となった国においても、飢餓の土地においても、金融危機の国、多くの難民を乗せた船、内戦と虐殺が続く土地、ポピュリストの政治家が煽動する群衆の傍、差別に苦しむ農村部の集落、バブルに翻弄される社会、大国が掲げる正義と、蹂躙される周辺地域、超近代兵器と情報戦を駆使した新しい「安全保障」。

さまざまな土地で、多くのエドワードとエリザベスは再会し、また時代の波に消えていきます。しかし、こうした2人の輝くような愛情があるから、世界は存在し続けることができる、その逆ではない、と思いました。

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