IPEの果樹園2018

今週のReview

12/31-1/5

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社会主義的混合経済 ・・・米中の対照的な政治文化 ・・・そして誰もいなくなった ・・・フランスの叛乱 ・・・トランプの亡霊 ・・・コンゴ民主共和国 ・・・倫理的な難民システム ・・・大恐慌への道 ・・・Brexit国民投票 ・・・イギリスのホームレス ・・・なぜ連銀は金利を上げるのか ・・・トランプによる株価下落 ・・・マクロンの後退

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 社会主義的混合経済

NYT Dec. 20, 2018

Hard-Money Men, Suddenly Going Soft

By Paul Krugman

NYT Dec. 22, 2018

The Case for a Mixed Economy

By Paul Krugman

最近、私は、インタビューされた数人から、資本主義は終末に達したのか、何かに交代させるべきか、と尋ねられた。彼らの意図はわからないし、彼らが「中央政府による計画経済」を考えていないのは確かだ。それは誰も信用していない。市場経済と私的所有による分散型のシステム、すなわち、資本主義に代わる提案を観たこともない。

私の想像力が欠けているのかもしれないが、市場とある種の公的所有制との選択は、しかも権力の分散をともなうなら、かつてわれわれが社会主義と呼んだものに似ているだろう。

私は不思議に思うのだ。社会主義は、厳密に言って、どの程度まで信用を失ったのか? 確かに、(ソ連の)ゴスプランを世界が必要としているとは、今、だれも思わない。しかし、市場がすべての問題について最適な答えなのか? すべてが民間企業によって実現できるのか? 私はそう思わない。教育のように、公的部門が良い成果を示すケースがある。また、医療サービスのように、民間企業を支持することが難しい分野もある。そのような部門を合計すれば、大きな割合になる。

言い換えれば、共産主義は失敗したが、ミクスド・エコノミー、混合経済には十分な支持する理由があるのだ。公的な所有・支配が、過半数ではないとしても、重要な要素となる、という意味のミックスだ。大雑把なイメージでは、3分の2の資本主義と、3分の1の公的所有制、すなわち、一種の社会主義によって、われわれは十分に効率的な経済を得られるだろう。

この数字の背景は、雇用データである。労働力の15%が、教育、医療、社会支援の分野で働いている。こうした分野が、民間企業によって改善できると考えるべき理由は何もない。また、電力や水道など、公共サービスと、民間が行っている医療保険サービスも、補助金と法律によって、そうなっている。小売業や製造業でも、公的所有が望ましいケースはある。ジェネリック薬品の製造を公的企業に行わせる、というElizabeth Warrenのアイデアは、決して、それほどばかげたものではない。

社会主義的だ、と呼ぶすべてのものが、完全な失敗を意味するという、現在の思考方法を超えて、考えてみる価値があるだろう。


 米中の対照的な政治文化

FT December 21, 2018

Xi Jinping has changed China’s winning formula

Gideon Rachman

ワシントンから北京への旅は、2つのまったく対照的な政治文化を経験させる。

ドナルド・トランプのワシントンは、テレビのリアリティー・ショーである。手続きをとんでもない形で破るのが重要であり、大統領は繰り返し前任者たちを軽蔑する。習近平の北京は、国営オペラ座だ。すべての言葉や行為が台本に従って進められ、主席は尊敬される前任者たちの遺産を引き継ぐと称してその権威を高める。

現代の中国が達成した繁栄の水準は、鄧小平が改革開放を唱えたときには想像できなかったものだ。1978年に自転車であふれていた北京に、今はSUV自動車で渋滞している。購買力で観れば、中国は世界最大の経済になった。

習が、鄧の遺産を継ぐ者と自称するのは当然だろう。しかし、現実(リアリティー)はもっと複雑だ。この1年間は、内外で鄧の遺産が深く損なわれた。それは習自身が深く関わっている。

国際面で、アメリカとの対立が高まってきた。鄧が常に避けようとしたことだ。国内では、共産党が習に死ぬまで主席でいることを許す変更を認めた。鄧が設けた任期制を逆転したのだ。鄧が目指したのは、個人崇拝による文化大革命のアナーキーと貧困から、中国を解放することだった。

40年後、豊かで知的に洗練された中国において、政府は再び党指導者の思想の前で跪いている。昨年9月に、鄧小平の息子Deng Pufangが、父の改革目標に戻るよう求める演説を行った。習の大掛かりな国際的野心である「一帯一路」を暗に否定し、中国国内の諸問題を解決することが優先されるべきだ、と示唆したのだ。中国メディアはこれを伝えなかった。

中国は今や、携帯決済、5G次世代モバイル通信、AIにおいて世界の指導者になると主張している。しかし、批判者は、習が民間企業の活力を失わせている、という。また、習の攻撃的な外交が、南シナ海、一帯一路などで、ワシントンの「中国に対する強硬派」を刺激してしまった。

習は演説で、「誰も中国人民に、何をすべきだとか、すべきでないと、命じることはできない」と述べた。皮肉なことに、アメリカが要求する市場開放は、鄧小平の改革に共鳴する。


 そして誰もいなくなった

FT December 21, 2018

Jim Mattis’s exit is a watershed for the Trump presidency

Edward Luce

そして誰もいなくなった。マティスJim Mattisがトランプ政権の中で政策を担う「大人たち」の最後の1人だった、と言うのは何の誇張でもない。

この2年間、マティスは休みなく世界を回って、アメリカのパートナーたちに、何も基本的な変化はない、と保証した。彼らの中にはマティスを信用した者もいたかもしれない。しかし、今やマティスが去ろうとしている。

トランプの閣僚の中で、彼だけは、公の席で大統領への称賛を振りまくことがなかった。1年目はトランプが概ね助言を受け入れた。マティスがいなかったら、トランプはNATOをもっと激しく非難しただろう。米韓軍事演習も止めただろう。アフガニスタンやシリアから米軍を撤退させただろう。しかし、トランプは元海兵隊司令官で、「マッド・ドッグ」のあだ名を持つ人物を、政権中枢に置きたがった。

問題は、マティスがそのあだ名のようには動かなかったことだ。マッドキャップ(悪童)のアイデアを持つトランプに、国防長官は歯止めとなった。

マティスの辞任はショッキングであるとともに予想外である。軍人は辞任しない。唯一、コーリン・パウエル元将軍が、ジョージ・W・ブッシュの国務長官としてイラク戦争を準備したとき、同様に辞任するような状況だった。しかし、パウエルは辞任しなかった。

軍人は命令に従う。助言が拒否されても、それに耐える。マティスは2年近く耐えた。友人たちは、昨年10月に、中南米からの難民が侵略してくるという妄想に、アメリカ・メキシコ国境へ軍を出動させるようトランプが命令したとき、マティスが辞任すべきだった、と考える。それは、民事と軍事との境界を越えて、中間選挙前に演じられた典型的なトランプ劇場だった。しかし、最後の線を越えたのは、米軍のシリア撤退を示唆した水曜日のTweetだ。それはマティスが何よりも強調した助言に反するものだった。

誰がマティスに代わるとしても、世界は重要な命綱を失ったのだ。

FP DECEMBER 21, 2018

With Mattis Gone, Is Trump Unleashed?

BY LARA SELIGMAN

FP DECEMBER 21, 2018

Mattis’s Resignation Isn’t a Crisis Yet—But It Probably Will Be

BY PETER FEAVER

FP DECEMBER 21, 2018

Good Riddance to America’s Syria Policy

BY STEPHEN M. WALT

シリアからの米軍撤退をトランプ大統領が突然決めたことは、アメリカが神聖なグローバル・リーダーシップを放棄するものと非難する側と、シリアはアメリカの死活的な利益ではないと主張する側との間で、論争を生じている。

アメリカ外交にとって、シリアとは何か? トランプは前任者であるオバマの方針を継承し、地域への関与を減らしているだけか? より小さな軍事力を慎重に展開することを考えている? この件から得るべき教訓は何か?

1に、2003年にアメリカがイラク戦争を決定したことが、どれほど重大な愚策であったか、思い出すべきだ。今でも悔い改めないネオコンたちが、グローバルな問題をアメリカの軍事力で解決できる、と信じている。しかし、ネオコンがブッシュに売りつけた戦争は、中東全体に多くの混乱をもたらした。イラク戦争がなければ、アメリカによる占領はなく、反米の武装叛乱もなく、「メソポタミアのアルカイダ」、イスラム国もなかっただろう。サダム・フセインを失脚させたことで、イランの主要な敵は消え、その神権体制に褒美を与えた。それでもボルトンなど、同様の軍事侵攻を唱える戦略家がいる。

2に、アメリカは今も4万人を超える兵士たちを地域に展開している。第3に、シリアは1950年代半ば以降、ロシアの傀儡国家だった。第4に、シリアにアメリカの重要な利益はない。第5に、勝利や敗北にこだわることが戦略思考ではない。アメリカがこの地域に持つ戦略的利益は、グローバル市場に向けた円滑な石油供給である。イスラム国はアメリカに対する重大な脅威ではない。

クルド人との同盟には正当な関心を持つべきだ。しかし、わずかな駐留米兵がクルド人の安全保障にはならない。クルド人は、アメリカのためではなく、自分たちの安全のためにイスラク国と戦っている。ようこそ、これが国際政治の野蛮な世界だ。諸民族、諸国家は、その利益が一致すれば協力するし、利益が離反すれば協力は終わる。

シリアへの関与を終わると宣言したトランプは、正しいことをした。しかし、彼のやり方は最悪だった。事前に警告がなく、政府内の調整もなく、そのタイミング、アレンジ、広範な視点で、決定の意味を検討していない。金正男との会談や、エルサレムにアメリカ大使館を移す決定と同様に、トランプは「おみやげ外交の天才」だ。アメリカは一方的に譲歩し、見返りは何もない。

結局、トランプの中東政策には、一貫性がなく、戦略がない。

NYT Dec. 23, 2018

The Threat in the White House

By Susan E. Rice

国家安全保障会議が機能していない。そのことを強く示すケースが、アフガニスタンとシリアから米軍を撤退させる、というトランプの決定だ。敵に利益を与え、同盟諸国を傷つけ、アメリカの安全保障を危うくした。

ジョン・ボルトンが一人で政策を担っている。また、トランプは知識も経験もないまま、その顧問たちの助言を全く聞こうとしない。

FT December 24, 2018

US foreign policy is in disarray as Jim Mattis leaves

FP DECEMBER 27, 2018

James Mattis Wasn’t Ready to Serve in a Democracy

BY MICAH ZENKO


 フランスの叛乱

PS Dec 21, 2018

The Coming Franco-German Bust-Up

MARK LEONARD

PS Dec 21, 2018

Macron’s Misstep Is Europe’s Loss

DOMINIQUE MOISI

反乱はフランスのマクロン大統領にコストの高い妥協を強いた。しかし、これは新しいフランス革命ではない。デモ隊の中には、王朝を倒した先祖の技を再活性化したい、と望む者はいるが。

17897月ではなく、19685月を思い出すべきだ。フランスの戦後の繁栄が頂点にあったとき、日常に退屈した学生たちが反乱を起こした。経済は完全雇用で、彼らは疑わしいユートピア、カストロのキューバ、毛沢東の中国、といった理想を求めて反抗した。労働組合が彼らに合流したことで、少なくとも一時的に、運動は社会を動かしたのだ。

当時と違い、今の反乱を動かすのは、ユートピアではなく、絶望だ。またその意味で、黄色いベスト運動はフランス版Brexitでもない。イギリス人は投票箱に訴えるが、フランス人は、バリケード、デモ行進、投石に訴える。

いずれにしても、すべての者が損害を受けるように見える。イギリスがEUを離脱するように、フランスの国内叛乱もヨーロッパの統合を損なうだろう。マクロンが、フランスにリベラルな民主主義の火を受け継ぐはずだった。

黄色いベスト運動はマクロンの失策であった。必要な改革を進めるために、力強い成長を回復すべきだった。しかし、成長が実現する前に、マクロンはエコロジカルな理由で燃料税を引き上げ、中産階級、低所得層で、自動車通勤する者の不満を高めた。富裕層への税率をカットしたことも、選挙運動で、支持基盤を旧来の地方政治組織や労働組合から切り離したことも、地方の不満を長引かせている。マクロンは国民の共感を失った。

それは以前から、フランスの政治支配階級にとって、顕著な欠陥であった。マクロンはヴェルサイユで世界の首脳たちを前に威信を示した。しかし、それはフランスの王朝の歴史を想えば、危険なことである。マクロンに投票した多くの者が21世紀のボナパルトを望んでいたかもしれない。しかし、彼らは今、マクロンンをルイ16世とみなしている。前任の王様たちの失政を責められて、処刑された王だ。

マクロンが失脚すればどうなるのか? イタリアの現在が、フランスの未来である。パリでもポピュリストたちが権力を握り、ヨーロッパの統合は終焉する。

PS Dec 21, 2018

Decision Time for Europe

CARL BILDT

PS Dec 26, 2018

How Inequality Undermines Economic Performance

MICHAEL SPENCE

長期的には、包括的な成長モデルを見失えば、政策が機能しなくなり、政府は相対的に極端な政策から他の極端な政策へと、振幅を繰り返す。それは、例えば、ラテンアメリカのポピュリスト政権が示すものだ。

国内の政治的な過激主義は国際関係においても対決を迫り、悪化させる。貿易や投資、移民、情報に関して政治的摩擦が高まっている。

持続可能性と包括性とは、互いに結びついているのだ。

FT December 27, 2018

Europe’s divisions more than just east-west

Tony Barber


 反政府運動

PS Dec 21, 2018

Reviving Civil Disobedience

JAN-WERNER MUELLER

FT December 24, 2018

The Future of Terrorism by Walter Laqueur and Christopher Wall

Review by Raffaello Pantucci


 トランプの亡霊

PS Dec 21, 2018

Good Riddance to 2018

JAVIER SOLANA

PS Dec 24, 2018

Apocalypse Trump

ELIZABETH DREW

NYT Dec. 24, 2018

The Ghost of Trump Chaos Future

By Paul Krugman

The Guardian, Wed 26 Dec 2018

Outside the EU, Britain faces a bleak future in Trump’s world

Simon Tisdall

EU離脱の条件に合意できないまま、イギリスは2019年に、さらに大きな混乱した条件で生き残りを模索する。

不吉な大混乱の中心にいるのはトランプの亡霊だ。45代アメリカ大統領は、任期の半ばで、旧ルールが適用できない世界にして、長期に維持された前提を、たとえばイギリスがワシントンとの「特別な関係」を持つと主張することを、時代錯誤にしてしまった。

トランプの世界は、無秩序な王国であり、カテゴリー5のハリケーンが襲来して、破壊されたフロリダのテーマ・パークに似た、危険と、妄想と、混沌に満ちている。システムの組み込まれた野蛮さが、利己心、侮辱、虚言によって燃え上がる。ルールに基づく国際秩序をアメリカは転覆し、迂回しようとしているが、トランプという個人の持つ無知と闘争心がそれを指揮している。

トランプの描く恐怖に満ちた世界は、テロの充満する夜が続き、特に、選挙を準備する2019年はそうなるしかない。旧ルールは逆転した。バランス・オブ・パワーは移り変わり、だれも弱い国を重視することがない。世界地図にピンク色の帝国を描いたBrexitの想像力は、ますます高い代償を支払う時期になる。

ヨーロッパの家を拒んだ、自己破滅的なイギリスは、その苦しみの世界に入る準備もなければ、それを楽しむこともないだろう。

NYT Dec. 26, 2018

Trump Imperils the Planet

By The Editorial Board

The Guardian, Thu 27 Dec 2018

The Guardian view on Donald Trump in 2019: the year of reckoning


 コンゴ民主共和国

NYT Dec. 21, 2018

My Country Is Sliding Toward Chaos

By Denis Mukwege(コンゴ出身の医師で運動家、ノーベル平和賞受賞者)

コンゴ民主共和国は、退任するカビラJoseph Kabila大統領が、1223日に、自由、透明、公平な選挙を行う、という約束を守らず、カオスに向かっている。

2016年に任期は終わったが、憲法は連続2期までと制限していたにもかかわらず、カラビは強く抵抗し、外部からの圧力を受けた後、立候補しないことを約束した。しかし、彼の支持基盤である連立与党が元内相Emmanuel Ramazani Shadaryを指名した。

最近、極めて疑わしい火災によってキンシャサの政府庁舎が燃え、選挙のための資材、そして、報告されているところでは、電子投票マシーンが8000台も焼けた。私は、これが選挙を遅らせる口実にするため計画されたものだ、と恐れている。

いたるところで暴力は続いており、しかも悪化している。なぜなら権力者は罰を受けず、それが法の支配を破壊しているからだ。コンゴにはコバルトが豊富に埋蔵されており、それはリチウム電池の生産に欠かせない物質だ。その採掘は、しばしば、安全でない地域において、若いコンゴ人労働者たちが担っている。そして、ハイテク製品の生産に使用するため、アジアに送られる。カビラの家族がコンゴの資源略奪やコンゴ人労働者の極端な搾取に深く関わっているのだ。

民兵の活動、性的な暴力を含む人権蹂躙が増え、われわれは緩やかに1990年代の恐怖に戻りつつある。紛争はコレラの蔓延につながる。それは基本的な医療サービスがあれば防げるのだ。危機がそれを妨げている。カビラ政府は危機を無視するだけでなく、しばしば略奪者を助けてきた。

カビラ大統領は、今すぐ、辞任しなければならない。その汚職にまみれた仲間たちは交代させるべきだ。コンゴは、市民すべてに奉仕する有能な行政府を必要としている。自由で公平な選挙が実施されるのを監視しなければならない。

NYT Dec. 26, 2018

Is Haiti Awakening to Change?

By Jake Johnston


 倫理的な難民システム

NYT Dec. 21, 2018

None of Us Deserve Citizenship

By Michelle Alexander

19歳のMaryury Elizabeth Serrano-Hernandezは、報道されるところでは、アメリカとメキシコの国境にある壁を登り、妊娠8か月であったため、アメリカの土地に着いて数時間内に、出産した。

彼女は広く報道された中米からのキャラバンの1人だった。誕生する子供と3歳の息子に、彼女が故郷で味わった貧困や暴力から自由な暮らしを与えるため、ホンジュラスから2000マイル以上を旅してきた。彼女はアメリカで生まれた子供を、彼女の勇気、忍耐、信念に対する「大きな褒美」と考える。「神を信じて、私はいつも息子に、そこで生まれ変わる、と言った。」

あるアメリカ人にとって、彼女の物語はまさに勇敢で、壮絶なものだ。彼女は苦しみに耐え、途方もない障害を乗り越えて、子供たちに、よりよい生活のチャンスを与えた。しかし他のアメリカ人にとっては、彼女こそわれわれの移民システムが持つすべての間違いを代表して示している。彼女の新生児は、追加された「アンカー・ベイビー」の証拠である。もっと攻撃的な、寛容の余地のないアプローチが、移民に対して取られるべきだ。出生による市民権の認定を取り消そうと主張するトランプは正しい。

ここに道徳的な難問がある。われわれは絶望的なほど貧しい人々を、国境の壁や、催涙ガス、拘置施設、武装警官、強制送還によって最善の処理を施す問題とみなす。もちろん、ごく少数だけが真に「(市民権を付与する)価値ある」個人なのだ。

Serrano-Hernandezの赤ちゃんは(アメリカに入って生まれたから)価値があり、3歳の男子は価値がないのか? 1人が市民権を得るから、この家族には今や市民権を与える価値があるのか? あるいは、両親が非合法に入国したから、この赤ちゃんも含めて、自家族のだれも価値がないのか?

アメリカでは、だれが市民権を持つべきか? という問題が、長く、繰り返し論争となってきた。Jose Antonio Vargasはその著書“Dear America: Notes of an Undocumented Citizen”で、移民政策に翻弄される多くの人々を、繊細な違いも含めて描いている。著者は、フィリピンから非合法に入国した親のことで苦しんできた。価値がない、ここに帰属する資格がない、という感覚だ。

しかし国境地帯で逮捕され、家族と引き離されることを恐れる少年たちのグループと同じ牢屋に入ってから、彼は1つの感覚に目覚めた。彼のそばで群れを成す少年たちは、安全に生きるに値し、治安のよい、彼らがホームと呼ぶ場所を持つ価値ある存在だ。そのことが、突然、彼には明白にわかった。そこで、彼らは単に生き延びるだけでなく、繁栄することができる。「ホームは獲得する必要があるものではなく、われわれの権利なのだ。」

この議論で彼は、国境の開放を主張しているのではない。政治家たちは支持せず、まともに相手にしない。しかし問題は、国境を開くか閉じるかではなく、どうすれば移民たちを尊厳や人間性、その他の観点で、正しく扱えるか、である。

人道的な移民システムは夢想家のユートピアではない。移民たちを、われわれアメリカ人が彼らから引き離しておく道義的権利を持つ何かを得ようとしている、と考えるのではなく、われわれの誰も、ここに生まれたというだけで、市民権に値する何かをしたわけではない、と認めることだ。それでもわれわれはすべて、その生まれた場所と関係なく、共感や基本的人権に値するのである。

われわれは自分たちをゲートキーパーと思いたがる。しかし、貧困と暴力から避難する人々とわれわれとの関係は、もっと複雑なものだ。われわれの国は圧倒的な富とパワーを持ち、現実の国境には堅固な道徳的基礎がない。奴隷制、ジェノサイド、植民地主義を観るなら、われわれは世界で最も豊かでも、最も強力でもない。存在すらしない。これは誇張ではなく、歴史が示している。あるメキシコ人が述べたように、「われわれが国境を越えたのではない。国境がわれわれをを超えたのだ。」

国家建設は、自由を称える詩的な作業ではない。しかし、われわれはその暴力的な作業からは関係ない、と思うなら、それは間違いだ。アメリカの外交、通商政策、そして軍事介入は、グローバルな麻薬戦争も含めて、移民危機を創り出した。今、それを国境の壁や強制送還で解決しようとしている。


(後半へ続く)