IPEの果樹園2018

今週のReview

12/17-22

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マクロンとデモ隊 ・・・ファーウェイと経済戦争 ・・・中国の改革開放40周年 ・・・1930年の保護主義と現代 ・・・ヨーロッパの制度改革案 ・・・企業モデルの多様性 ・・・財政政策の国際協調

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 マクロンとデモ隊

FT December 10, 2018

Macron protests show that leading France seems like an impossible job

Gideon Rachman

マクロンの政策目標は3つある。国内経済改革。ヨーロッパ統合の深化。グローバル・ガバナンス。これら3つは相互に依存している。

もしマクロンがフランスを改革する力を示せば、ヨーロッパ経済政府に向けたステップについてドイツの信用を得るだろう。改革され、強化されたEUは、ワシントンから北京にまで広がる、ナショナリズムの台頭を押し戻すだろう。しかし、もしマクロンが国内改革に失敗すれば、その国際的な目標も失敗する。

マクロン支持者から見れば、彼は成果を示している。労働市場改革、強力な労働組合との対決に勝利した。しかし、燃料税の引き上げで後退し、デモを鎮静化するためにさらに対応策を約束するだろう。

計画されている、一層重要な、年金・医療システムの改革は、今や、実現しそうにない。その結果、フランス国家部門の縮小、財政規律の回復、経済活性化も、達成できそうにない。

マクロンは、これまでの大統領と同じ、街頭デモによる改革の挫折という形で終わるように見える。フランスの問題の本質、少ない税を求めるが、より良い公共サービスも求める、という矛盾は解決されないままだ。デモ行進や街頭の破壊行為は何か月も続き、危機が永続化するイメージを生じるだろう。それは、マクロンの後に、極右か、極左の大統領が誕生することを助ける。

ドイツの懐疑的姿勢は強まり、マクロンの求めるEU改革を支持しないだろう。それはグローバルにも、マクロンの目標を制約する。大胆な「反トランプ」の指導者として、マクロンは国際協力、そして、トランプが離脱したパリ協定を、力強く支持している。トランプが自身をナショナリストと公言した数日後に、マクロンはパリの平和会議でナショナリズムを非難した。

アメリカ大統領は、今や、マクロンへの不快感を隠さない。Twitterでマクロンをバカにした。「反政府デモと暴徒がフランスで広まっている。」 そしていい加減な主張をする。「群衆はトランプを求めている。」

フランスで指導者である、とはますます不可能な仕事に見える。マクロンは世界を救うことができる。しかし、彼が大統領の地位にあるだけでも、幸運を必要とする。


 ファーウェイと経済戦争

The Guardian, Sun 9 Dec 2018

The dramatic arrest that threatens to ramp up trade tensions between the US and China

Will Hutton

先週金曜日、バンクーバーで、ファーウェイの財務重役、Meng Wanzhouが、アメリカの要請で拘束された。もし身柄が引き渡され、彼女が有罪となれば、30年の禁固刑に服することがありうる。

この事件は世界の株価を押し下げた。ファーウェイはAppleを超える世界最大のスマートフォン生産者である。それは世界展開する、先端技術に長けた、トランプが目を付ける代表的な中国企業であるだけではない。中国の経済政治システムの強化に、裏で緊密に結び付いた企業でもある。

ファーウェイは、民間企業として研究を推進しているだけだ、と言うが、だまされる者はいない。中国のすべての企業は共産党の委員会が監視している。ファーウェイの問題ではなく、イラン制裁の問題だ、というが、Mengはイランのファーウェイ子会社で会長を務める。その子会社にはイスラム革命防衛隊も参加しており、核開発計画に深く関わっている。

トランプは中国の対米貿易黒字だけでなく、経済・軍事的な攻勢を抑えようとしている。この点で、最も激しいトランプ批判者も、彼の正しさを認めるだろう。

中国は比類ない監視国家を構築した、とペンス副大統領は断言した。デジタル技術とGPSを駆使して、時々刻々、全国民を国家が監視する、オーウェル型の「社会信用評価」システムを2020年までに実現するのが目標だ。新疆の大規模収容所には100万人以上のイスラム教徒が拘束され、スリランカが中国の融資を返済できないとき、潜在的な前進基地として港湾を乗っ取った。

その方針は経済分野に拡大する。「中国製造2025」は、中国が先端的技術、AI、ロボット、バイオで、その90%を支配する、という目標を掲げている。通商政策もその一部だ。知的財産の共有を外国企業に求め、ハイテク企業を買収する。アメリカはそのすべてに挑戦する。

習は、改革開放の記念日に鄧小平に言及したが、その「中国製造2025」では、共産党の管理体制を弱めるのではなく、逆に強化している。中国国家は、地上最強の、市民を無視する、抑圧体制であり、通商、軍事、外交政策で要塞化を進めている。

イギリスのBrexit推進論では、中国がUKと大幅に寛大な通商取引を合意するはずだ、という。彼らは何を読んでいるのか? 保守党の分裂を恐れて中国の監視機構に協力すれば、その代償は非常に高くつく。


 イギリス議会の混乱

The Guardian, Mon 10 Dec 2018

France’s political crises are always played out in riots – unlike Britain’s

Simon Jenkins

ここでもフランスのような騒乱が起きるのか? Brexit強硬派が「恐怖作戦」に回帰することはないだろう。しかし、人々の対立は激しい。だまされた、と感じている。リージェント・ストリートを暴徒が行進し、議会では議員たちが殴り合い、テムズ川の橋に戦車が並ぶ? それはないだろう。

エマニュエル・マクロンは、病気の経済を改革しようとするが、そのような試みはいつも困難であった。サルコジNicolas Sarkozyが同じサッチャー型の改革を試みとときも、同様の危機に直面した。フランスの労使関係と、極右ポピュリストと旧組合エリートとの対立が、戦闘の前線となっている。フランスはイギリス以上に分断されている。議会やメディアは妥協をもたらす場とならない。

フランスの歴史は、政治危機がパリの街頭で始まり、いたるところで革命派が歓喜する、という事件に満ちている。18世紀、19世紀の騒乱から、ド・ゴールを倒した1968年まで、バリケードやモロトフ・カクテル(火炎ビン)、自動車への放火、暴動鎮圧警官。先週、マクロンは暴動の指導者たちに会った。

イギリスの政治は決して街頭で決まらない。ゴードン暴動から選挙法改革まで、ゼネストから人頭税まで、抗議デモは起きたが、重要問題は議会で解決された。1848年、パリ市民は革命のために街頭で死亡し、目的を達成できなかった。他方、イギリスのチャーチストたちは議会に請願を届けた。それは暴動ではなく、指導者の立憲的な交代であった。

議会が国民投票を単純に無視すると決めた場合、間違いなく強い、そして正当な、反発が起きるだろう。2度目の国民投票が行われるなら憤慨するだろう。しかし、議会がその任務を果たすことに対して暴動が起きるとは思えない。

イギリスは今も深く分断されたままである。しかし、保守党の一部を除いて、「合意なしの離脱」を望む者はいない。取引がなされれば、その街頭の反応は自動車を焼き、商店の窓をたたき割るのではなく、安どのため息だ。


 中国の改革開放40周年

PS Dec 11, 2018

China’s Boldest Experiment

DANI RODRIK

毛沢東の死後2年を経て、40年前の中国共産党第11回中央委員会第3回総会で、鄧小平が復活して、経済発展と近代化に向けた思想を打ち出した。

改革は農業から始まり、二重価格による生産拡大の誘因を与え、家族の責任を拡大し、耕作を刺激した。農民たちはこれに急速に反応し、生産を効率化し、増大させた。それに続けて改革は他の分野にも拡大され、郷鎮企業(TVEs)、経済特区制度(SEZs)を駆使して、中国を世界経済に統合していった。

市場を志向する改革と対外市場開放は、国際貿易や民間投資のシェアを増やし、国有部門のシェアを着実に減少させた。それでも政府当局は経済に対する管理手段を確保した。そして経済の構造再編や多様化に向けて産業政策を実施した。外国企業の投資は合弁企業の形態を求められ、ローカルな投入を増やしたし、為替レートと国際資本移動は、大部分、なお管理されたままだった。

中国指導部の政策はいかなる教科書にも従わず、自分たちの決定で進められた。改革を導いたものは、共産党の命令ではなかったし、自由市場のドグマでもなかった。そんなものがあるとすれば、「プラグマティックな実験精神」とでも呼ぶべきだろう。鄧小平の有名なセリフ、白い猫でも黒い猫でも、ネズミを捕る猫が良い猫だ、である。

中国の成功は、実践的な経済学、すなわち、次善の戦略、市場の失敗、一般均衡、政治経済学が支配する思考こそが、単純化した経済学のテキストに勝利する、ということだ。

中国モデルの試練はこれからだ。政治的弾圧は経済にとっても好ましくない。第1に、人々は政策の失敗を早期に知ることができなくなる。第2に、政治的競争によって反対の声を吸収できなくなる。それでも中国の政治エリートは政治的自由の拡大を信用しない。西側に広がるポピュリズム、デマゴギー、分断は、それが理由のある疑いであると示す。

高度成長と、高度な技術を指導する経済に、強化された権威主義を組み合わせる。それこそ中国の最大の実験である。


 1930年の保護主義と現代

PS Dec 8, 2018

The Phony US-China Truce

BARRY EICHENGREEN

19302月、国際連盟はジュネーブで、拡大する保護主義の問題を解決するための国際会議を開催した。保護主義は大規模な投資を妨げ、ヨーロッパの回復を邪魔し、一般に、「経済戦争の道具」となっていた。30か国が代表を派遣し、国連に加盟していないアメリカもパリのアメリカ大使館にEdward C. Wilsonを送った。

国連経済委員会は2年間の関税停戦の草案を事前に送付していた。しかし代表たちはその草案を受け入れず、弱めたフランス案も拒んだ。野心的な工業化計画(「中国製造2025」に似た)を持つ諸国は、それを放棄する用意がなかった。慢性的な赤字諸国は、他国がその国の輸出品をもっと買うのでなければ、(トランプのように)合意に署名することを嫌った。

中身のある合意は成立しなかった。国内の政治圧力で、4か月後、アメリカ政府がスムート=ホーリー関税を採択すると、ヨーロッパ諸国は憤慨し、同じように保護主義を採用した。その後の歴史はよく知られている。

不況は各国政府に何か行動することを強く迫った。国内の支出が激減するのを緩和する手段として、もっとも採用されたものが関税の引き上げである。今も、住宅市場が冷却し、連銀が金融引き締めに向かうとき、アメリカ経済の不況も考えられないことではない。株価の下落がともなえば、大統領は、経済浮揚のために何かせよ、という圧力を受ける。

1930年代に問題であったのは、集まった諸国の見解が全く異なることだった。米中会談の合意に関して、トランプ政権と中国国営メディアの報道とは、まさにそうだ。双方の意見は、知的財産権に関して、もっとも深刻な違いを示す。もし中国がアメリカの関心い沿った形で知的財産の強化を進めるなら、それは中国に経済モデルを根本的に変えることになる。90日間では不可能だ。

1つのシナリオは、アメリカの景気が後退せず、トランプが中国による追加の大豆購入を示して、偉大な勝利、と自賛し、貿易戦争を終わることだ。そうでない場合、もう1つのシナリオは、中国側がトランプ政権の要求に従い、根本的な経済改革を受け入れることだ。ただし、それは北朝鮮との合意のように、実質的な変化を意味しないだろう。トランプとそのチームがこれに気付き、緊張が高まって、貿易戦争が続く。


 ヨーロッパの制度改革案

The Guardian, Sun 9 Dec 2018

Our manifesto to save Europe from itself

Thomas Piketty

反ヨーロッパの政権がヨーロッパ各地に誕生し、Brexitも迫っている。ヨーロッパの現状をこのまま放置しておくことはできない。この大陸には、一方に外国人や移民を排斥するモデルが、他方にはリベラリズムの強硬派、すなわち、競争を広げるだけで政治プロジェクトは十分だ、というモデルがある。こうした社会的理想の欠如が、見捨てられたという感情を生み出す。

10年の経済危機後に、ヨーロッパの構造問題を解決する試みが始まっている。公共部門(特に、訓練、研究)への投資不足。社会的不平等の増大。地球規模の温暖化、移民・難民の受け入れ。しかし、これらの運動は一貫した代替的プロジェクトを示すことが難しい。将来のヨーロッパをどのように組織したいのか、正確に描くことはむつかしい。

それゆえわれわれヨーロッパ市民は、異なるバックグラウンドと国家から、ヨーロッパの制度と政策を深部から転換するアピールをここに行う。この宣言には具体的な提案が含まれる。特に、民主化条約と予算プロジェクトだ。それらの基本はシンプルな確信にある。市民たちから成る公正で、持続する社会発展を確保する新しいモデルを、ヨーロッパは樹立しなければならない。

抽象的、理論的な約束ではなく、具体的な証拠を挙げて、市民を説得する。協力することで、グローバリゼーションからの利益を確保し、公共財を供給できる。大企業は中小零細企業よりも多く負担し、富裕層は貧しい人々よりも多くを負担する。今はそうなってない。

われわれの提案の基礎は、民主化のための予算である。それは新しい、主権を持つヨーロッパ総会assemblyで議論して決める。持続的な、連帯に依拠する経済の枠組みにおいて、基本的な公共財・サービスを生産する。その財源は4つの課税から得る。大企業の利潤、富裕層の所得(年20万ユーロを超える)、最富裕層の資産(100万ユーロを超える)、炭素の排出(1トン当たり30ユーロ以上)に対する課税である。予算は、研究や訓練。大学、成長モデルを転換する意欲的な投資、移民の受入れと統合化、転換による負担を強いられる人々への支援、に充てられる。

これは有徳の国からそうでない国への移転同盟ではない。負担と給付の差はGDP0.1%を超えないように制限する。もちろん、合意によってこれを変えることもできる。支出は、国家間の不平等ではなく、国家内の不平等を減らすことにもっぱら向けられる。ヨーロッパ市民すべての将来に向けた投資だが、事実上、国家間の収れんも促すだろう。

ヨーロッパが現在の官僚統治の行き詰まりを脱するに、われわれはヨーロッパ総会の樹立を提案する。総会は、既存の意思決定制度(特にユーロ圏財務大臣の非公式な月例会)と情報交換し、意見が対立したときは、総会が最終権限を有する。総会は、政党、社会運動、NGOなどの意見表明と妥協の場となる。政府交渉によるヨーロッパの制約を脱し、最も裕福で、最も移動性の高い者の、財政負担を避ける姿勢から解放されるには、統一税制が必要だ。

新しいヨーロッパ総会assemblyが税制と、諸国家間の民主的、財政的な、社会契約を決定するとしたら、各国とヨーロッパの議会parliamentのメンバーたちが中心となるに違いない。それゆえ、われわれは民主化条約をネットに公表する。ヨーロッパ総会のメンバーの80%は各国の議会から、20%はヨーロッパ議会から構成する。合意によって国民議会の比率をたとえば50%に下げてもよい。しかし、その比率を大きく下げることはヨーロッパ総会の民主的正当性を損なう、とわれわれは考えた。

こうして各国の選挙は、時事上、ヨーロッパ総会に反映される。各国の議員たちは単純にブリュッセルに責任転嫁できなくなり、有権者に対してヨーロッパ総会とその予算を説明しなければならない。各国とヨーロッパの議会を1つの総会にすることで、共同統治の行動規範が創造されるだろう。

The Guardian, Thu 13 Dec 2018

My plan to revive Europe can succeed where Macron and Piketty failed

Yanis Varoufakis

BrexitEU離脱の困難を示したとすれば、マクロンの現在の窮状は、EU信奉者も同様に維持できない状態である、と示した。

マクロンはヨーロッパのエスタブリシュメントにとって最後の希望であった。ヨーロッパ統一プロジェクトに向けて彼が示した最小限の改革は3つだ。1.預金保険の共有(支払い不能の銀行と国家とのつながりを断つ)。2.財源の共有(ヨーロッパ全体で投資し、失業を救済する)。3.ハイブリッドの議会(国民議会と欧州議会のメンバーを合わせて、民主的な正当性を得る)。

当選以降、マクロンは2段階の戦略を試みた。まず、フランスの労働市場と財政を「ドイツ化」する(労働者の解雇を容易にし、緊縮策を強める)。第2局面で、アンゲラ・メルケルを説得して、ドイツの政治家たちをユーロ圏改革に合意させる。それは、メイの戦略と同じように、まったくの失敗であった。

1局面で、ベルリンは欲しいものを手に入れるだけで、その後、ドイツ首相は第2局面において何も譲歩する気がなく、あるいは、できなかったからだ。

歴史家たちは、将来、おそらくBrexit以上に、マクロンの失敗をEUの転換点とみなすだろう。それは、ドイツとの財政統合という、フランスの希望を終わらせる。そのことはThomas Pikettyたちの新しい改革案に示されている。

Pikettyたちは、2014年にも、同じような改革案を示した。2つを比べてみると、現在の案では、ハイブリッドの議会は残るが、債務の共有化、リスク・シェアリング、財政移転は、すべて放棄されている。それに代わって、法人税の共通化、富裕層への増税、資産への増税、炭素税で、8000億ユーロの財源を設け、それを国民国家内で支出する。財政的な国際移転はしない。これでは、何のための超国家的な議会なのか?

ヨーロッパは、半分支払い不能の銀行が過剰に膨張し、財政破たんに近い諸国が、マイナス金利に損なわれるドイツの貯蓄者を苛立たせ、人口の全体が鬱屈した状態にある。これらはすべて10年に及ぶ金融危機の印だ。富裕層や温暖化ガスの排出者に課税し、技術革新、移民の支援、グリーン・エネルギーへの転換に投資することは望ましいが、ヨーロッパの危機は解消できない。

そのためには、われわれが提唱する「ヨーロッパ民主化運動2025」が必要である。そのために、来年夏のヨーロッパ議会選挙で「ヨーロッパの春」連合を成功させることだ。

その最大のメリットは、1930年代のF.D.ルーズベルトが提唱したニュー・ディールを引き継ぎ、ヨーロッパ全体で、毎年、グリーン・エネルギーへの転換に5000億ユーロを投資することだ。増税は一切しない。

ヨーロッパ投資銀行(EIB)が債券を発行し、ECBが流通市場への介入を行って、その価値を保証する。市場では安全資産を渇望している。マイナス金利を維持するために過剰な流動性が供給されて、ドイツの年金基金は打撃を受けている。資金は容易に調達される。

ヨーロッパに希望が回復し、グリーンな繁栄が実現するなら、ヨーロッパ全体での炭素税、富裕層や大企業への課税も支持され、そのための民主的な制度の改革が可能になる。おそらく、UK2度目の国民投票で、より良い、公正な、グリーンの、民主的EUへ再統合する、と国民が支持する環境が整うだろう。


 企業モデルの多様性

FT December 12, 2018

We must rethink the purpose of the corporation

Martin Wolf

企業は、人類の発明の中でも最も重要なものの1つである。企業は市場において頂点を目指して戦う軍隊だ。そこに生じる命令と競争との共棲関係は、非常に実り多いことが分かった。19世紀の墓場以降、かつてない経済発展が起きたのも、有限責任の株式会社制度が、資源と組織における能力を大幅に高めたからである。

しかし、Colin Mayerの新著Prosperityは、企業の問題点を考察する。多くの人々は、企業を社会的な病理とみなし、株価のほかには何にも無関係な存在、そして企業幹部は個人的報酬のほかには何にも無関心だ、と考えている。実質賃金や生産性で観れば、最近の経済成果は月並みなものだ。またJonathan Tepper and Denise Hearnも著書The Myth of Capitalismで、企業が競争を嫌って共謀してきた、と書いている。彼らは競争を無駄だと考えている。

Mayerは、M.フリードマンの有名な主張に反対する。すなわち、企業の唯一の目的は、法律と(最小限の)規制に従って、利潤を上げることである、というものだ。今では、これを、株主価値の最大化、という形で示す。Mayerによれば、これは全くのナイーブな見方である。現実には存在しないような「単純で、エレガントな、経済モデル」を前提している。

こうした企業観が間違った経営や成果をもたらしている。第1に、利潤はビジネスの目的ではなく、その条件である。目的とは、自動車を作る、製品を配達する、情報を広める、その他である。もしビジネスが利潤だけを目的にすれば、その両方が失敗する。

2に、有限責任を立法府が許したとき考慮したのは、利潤ではなく、資本、労働者、資源を膨大な規模で集める経済能力であった。さらに、革新に対する長期的なコミットメントとしても企業は認められた。今は、その逆である。

最後に、取引コストがある場合、階層的な組織に比べて、市場による生産の組織化は効率性が劣る。長期的なコミットメントに関して市場は不完全だ、とも言える。企業が、関係による契約、もしくは、信頼に代えて、より明確な契約と強制を採用することが合理的であるなら、ビジネスが何のためにあるのか、だれがこれを管理するべきか、という問題を無視することになる。

株主価値の最大化、株主による経営者の監視は不可能だ、という呪文から生じる事態は、企業の目的が達成できたかどうかではなく、会計的な利潤や株価に経営者の報酬をリンクすることだった。しかし、その基準のどちらも操作される。その結果は、過剰な法主と、慢性的な低投資である。

企業のガバナンスに関して、アングロサクソン型のモデルは聖典ではない、ということだ。


 財政政策の国際協調

FT December 11, 2018

Global co-operation on fiscal policy is possible and necessary

Laurence Boone

ブエノスアイレスのG20サミットで、1つのテーマでは明らかなコンセンサスがあった。金融引き締め、貿易・政治の緊張が高まる中で、経済成長のリスクに備える必要がある、ということだ。

10年前、中央銀行は協力して、1930年代のような深刻な不況を回避するために行動した。財政的刺激策の協力も行われたが、政府債務危機の起きたヨーロッパだけでなく、数年だけで終わった。

現在、成長は回復したが危機前の水準に届かず、生産性の上昇は遅い。政策担当者たちは景気後退に対抗する手段がないことを恐れている。

しかし、絶望することはない。財政政策の協調が可能である。適時、限定的な、財政政策の協調は、景気対策として十分に強力だろう。協調することで、より小さな支出で十分な効果を発揮できる。貿易相手国の需要拡大からも利益を得られるからだ。財政政策の協調が、明確な目標と、時機を限れば、中央銀行は金融政策を中立的・適応したものにするだろう。

1.減税や支出増の効果は外国に漏れる。協力することで、自国の製品に対する外国からの受容を得られる。2.財政刺激策の効果は、金融政策に比べて、速やかに生じる。3.景気後退で物価上昇の圧力がないとき、財政刺激策によるインフレは懸念されず、金融引き締めは行われない。4.世界はグローバルな協力のシグナルを必要としている。

通商政策における市場開放が、中期的に有益でも、短期的には攪乱を生じるのに対して、成長減速に対する財政政策の協調は、グローバルにプラスの効果を生じる。政策担当者たちは、予想以上の景気後退が始まることに、備えるべきだ。

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The Economist November 31st 2018

Chips wars

Global warming: The great inaction

Chipmaking: The chips are down

Angola: Party guy

Conquering CO2: The hydrogen bombshell

Bartleby: Working for a purpose

(コメント) 産業の競争力だけでなく、半導体をめぐる安全保障上の懸念は本物です。しかし、数千社ものサプライチェーンがグローバルに展開する製品を、冷戦のように分割することができるのか? むしろ米中も含めた、国際的な基準や情報の共有が好ましいのです。

もう1つの重要なテーマは、地球温暖化の40年芋にも及ぶ不行動です。解決する技術や手段はありながら、政府は行動しません。それは変わるのか? 地球エンジニアリングによる太陽光の遮断、という一方的な行動が残されただけ、という危機を待つのでしょうか?

企業の意味を転換する主張が注目されています。

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IPEの想像力 12/17/18

米中貿易戦争、5G通信技術、地球温暖化、難民危機。

1次・第2次世界大戦と「ドイツ問題」を読みながら、現代のことを考えました。戦争による勝利、軍事技術の優位に依拠する国家は、市民社会を蹂躙する側面を持ちます。辺野古の埋め立て開始、ロシアとの領土返還・平和条約締結交渉、北朝鮮の核兵器・ミサイル問題。

大国や諸国家による国際秩序が実体を失っていることは、誰もが認めるでしょう。グローバル化する経済活動と情報・通信技術を、人道支援や社会規範に従わせることは、国家ではなく、さまざまな社会集団にかかっていると思います。

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企業(そして、銀行、投資機関)という社会集団の組織化について、法律や市場が特別な地位を与えてきました。そのことが、次第に、問題を生じています。

The Economistは、半導体産業を「もっとも複雑でグローバル化した産業」と呼びます。米中貿易戦争は、その毛細血管まで絡み合った2つの生物を、高まる地政学的な不安と戦争準備のために、切り分け始めるのでしょうか? ・・・ある半導体企業は、16000社のサプライヤーと関係し、その中の8500社以上がアメリカ国外にある。半導体の典型的な旅は、アパラチア山脈の高純度シリコン採掘から、日本における純度の高いインゴットの精製、300ミリ・ウェファへの裁断、台湾あるいは韓国の加工工場、その回路を描く光学装置はオランダ製である。

中国企業(共産党の各企業における委員会)を情報通信網から排除すれば、それで済むのでしょうか? アメリカ政府が「テロとの戦い」で情報を操作し、特殊部隊や諜報機関が拷問や盗聴を行ったこと、ロシアがアメリカ大統領選挙やヨーロッパ諸国の選挙に介入し、デマや誤情報を流し続けていること、は周知の事実です。

ファーウェイに限らず、地球規模の活動を展開する企業には、幹部重役に主要な市場からスタッフを迎え、グローバルなチェックを受ける必要があるでしょう。

不完全な国際秩序の下で、環境破壊や人権侵害、紛争地域の資源略奪・貿易を禁止しないなら、そもそも、インターネットのように、極度に不完全な市場で、利潤や効率性だけを競うなら、権威主義的な組織や国家の方が有利かもしれません。

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企業や投資機関の組織原理を変えることです。

企業の長期戦略や重要ポストの人事には、労働者やコミュニティの利害を反映するために、諮問部会のような制度を設けるべきでしょう。株式会社が、高い配当やキャピタル・ゲインを求める投資家・金融機関、短期の株式保有者には、保有株式数に比例した議決権を与えない。長期的な利害関係者、公的な代表が企業の意思決定・執行部に参加し、大企業ほど、決定に関する関係団体の諮問や公開討論を義務付ける。

利潤や配当、株価ではなく、むしろ、市民の生活向上のために必要な基準を定めて、企業の社会的価値を評価します。各地の社会が議論して、国境を越えて守るべき義務を明確化し、その基準に従う企業だけに市場を開放します。さらに独占力を削ぐ法律によって市場競争を促し、企業がその影響力を悪用して政治支配を求めないよう監視し、企業を分割・解体します。

それでは、成長を損なうだろう? と反対されるなら、成長するために、われわれは何を犠牲にするのか? という問いと同時に考えます。

インターネットやスマホの詐欺ビシネス、アメリカや先進諸国のテロ対策、中国のチベットやウイグル自治区に対する社会統制は、市民的秩序を大きく損なっていると感じます。

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