IPEの果樹園2018

今週のReview

12/10-15

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アメリカのポピュリズム ・・・正しい移民政策 ・・・Brexitの現代と歴史 ・・・ロシアによるアゾフ海の支配 ・・・口紅を塗った豚 ・・・マクロンの実験と抵抗運動 ・・・ジョージ・HW・ブッシュの訃報 ・・・米中の貿易停戦 ・・・アメリカ資本主義の改革 ・・・名前のない時代 ・・・日本の2つの挑戦 ・・・人民元による国際通貨体制 ・・・暴力に代わるもの

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカのポピュリズム

NYT Nov. 29, 2018

It’s Not the Economy, Stupid

By David Brooks

アメリカ経済はかつてない好調さを続けている。もしあと8か月好景気が続けば、史上最長の景気拡大になる。その利益は、熟練を持たない労働者まで、広く共有されている。

しかし、アメリカ人の60%はこの国で進んでいることに不満である。景気回復が進むのに、人々は資本主義を信用していない。特に、若者たちがそうだ。最大の要因は、コネクションの危機である。

人々、特に、中産階級と労働者は、数十年間のいずれの時代よりも、コミュニティのボランティアに出ず、教会に通わず、隣人を知らず、結婚していない。要するに、彼らは、助けるための資源をますます持たない状態で、市場経済の中で永久に続く、創造的破壊に振り回されている。

アメリカ人の寿命は3年続けて短くなった。豊かな、結びつきのある社会なら、寿命は延びるのが当然だ。社会が崩壊し始めている。


 正しい移民政策

PS Nov 30, 2018

The Real Economics of Migration

IAN GOLDIN, BENJAMIN NABARRO

移民のもたらす経済的、社会的なインパクトを理解することなしに、成長を支援し、市民と移民の福祉を守る適切な政策は導けない。最近の研究でも、2008年の金融危機後、OECD諸国の経済成長には、移民が重要な貢献をしたことが示されている。しかし、全体としての成長は、地域や所得水準に応じて、均等に分配されなかった。

反移民の論調が高まり、移民は全体に減少しつつある。その成長に対する悪影響は過小評価されている。移民は単なる労働力の供給に追加されるだけでなく、広範な、長期的利益をもたらす。たとえば、革新に貢献している。

世界各地で、成功しているグローバル都市には、高度な技能を持つ移民が革新と成長のサイクルの一部であり、そのことがまた才能ある移民たちを集める。たとえば、トロント、バンクーバーでは人口の45%、ロンドン、メルボルンでは35%、ドバイでは95%が移民である。

技能を持つ移民のグローバル市場は高度に統合されているから、最も生産的な労働者たちは、報酬や機会が最大の土地へ、それがどこでも移動する傾向を示す。そのグローバル・ネットワークが、新しいアイデアや技術を分散している。

問題は、そのようなダイナミズムの集積点から外に取り残される多くの人々が、彼らの排除と疎外を移民たちの存在と結びつけて考えることだ。繁栄する都市のコスモポリタニズムにひきよせられる移民と、衰退する都市や小さな町で仕事を見つけられない人々、生活水準が維持できない人々がいる。それは政治的な動員を試みる者たちの肥沃な土壌である。

反移民感情を押し戻す第1歩は、移民が必ずしも常に、すべてのグループに利益をもたらすわけではない、と知ることだ。貿易自由化や、その他の改革と同じく、「総体としての利益」は「すべての物の利益」を意味しない。特定のグループや地域には、保護や補償が必要になる。

ポピュリストたちは間違った情報を流す。移民に対する国民の態度を決める上で、2つの要因が大きい影響を与える。1つは、国民的な結束。もう1つは、公共サービスや職場など、希少な資源に関する懸念。


 Brexitの現代と歴史

The Guardian, Mon 3 Dec 2018

We are lurching towards the Brexit cliff edge. Here’s what May must do

Simon Jenkins

この取引は、現在、UKが期待できる最善のものだ。

Brexitは混乱を極めて、日々、断崖に向かって近づいている。メイのエネルギーには驚嘆するし、その確信も印象的だ。しかし、彼女の唱える説教には力がない。もっと率直に認めるべきだろう。この取引はそれほど優れたものではない。

しかし、「われわれはケーキを持っているし、食べることもできる」というBoris Johnsonのスローガンは幼稚な嘘だ。イギリス国民に有利な取引はどこにもない。これは最善の選択肢ではないが、悪いものを最大限に減らした選択肢である。

PS Dec 4, 2018

The Ghost of Brexit Past

HAROLD JAMES

多くの欠陥はあるが、メイ首相がEUと交渉してきたBrexitが実現するだろう。

離脱過程を逆転させるのは、今や、考えられない。Brexitは革命であり、その過程はよく知られた歴史的パターンに従う。多くのフランス人が1789年以降に、多くのロシア人が1917年以降に、学んだことだ。革命は無視できないし、止めることもできない。

Brexit革命は、革命の伝統を持たない国で起きた。イギリスの法学者たちは、立憲的秩序が長期的に徐々に進化したことを誇りとする。ヨーロッパ大陸の歴史が多くの政治的な断絶を経てきたことと違う、と。しかし20166月の国民投票は、イギリスの例外主義を終わらせた。皮肉なことに、離脱投票で、とうとうイギリスは大陸ヨーロッパにキャッチアップしたのだ。

Brexitの歴史的先例を探す者もいる。19319月、UKの金本位制離脱。19929月、ERM(ヨーロッパ為替レートメカニズム)からの離脱。しかし、Brexitは通貨制度にとどまらない。何十年もヨーロッパの規制体制に参加した後、それを離脱する作業は、数え切れないほど多くのルールに関する長い、複雑な修正を必要とし、予想外の破滅的な失敗も生じる。

合理的な人はすぐに現状維持が望ましいと気づく。しかし、革命のロジックはそのような逆転を不可能にする。

Brexitを支持する議論の多くが主権の伝統的な考え方を前提している。ジョン王がローマ法王から分離し、ヘンリー8世がイギリス国教会を求めて闘った。教会上訴法を議会が承認した15334月、ヘンリーは法と宗教に関する最終的な権限を得た。ローマの支配を離れなければ、ヘンリーはチャールズの叔母、アラゴンのキャサリンと離婚できなかった。この法律に、主権に関する最初の明確な法的定義がある。

しかし、いつものことだが、革命は未完成であった。カトリックから国教への転換は、次の局面をもたらす。Luther, Zwingli, or Calvinなど、彼らの説教があったから革命が起きたのか? 歴史には異なる宗派が異なるアプローチを示し、しばしば突然の逆転があった。上訴法を起草したクロムウェルThomas Cromwellは、1540年、国王の命令で処刑された。イギリス国教会を築いたThomas Cranmer大司教も、1556年、火刑に処された。

旧時代への懐古が広まり、エドワードの死後、メアリーは復古を進めた。しかし反革命は革命以上に野蛮で、非文明的な手段を用いたため、イギリス国民の多くは、逆転することは間違いだ、と結論した。メアリーの死後、エリザベス1世がようやく妥協を制度化した。

イギリスにとって最善であるのは、それを忘れて先に進むことだった。メイもチューダー朝の教訓を学ぶべきだ。革命を始めた者たちは、革命によって食い尽くされる。


 口紅を塗った豚

FT December 6, 2018

The double life of Trumpian nationalism

Edward Luce

豚は豚である。どんな口紅を塗ったとしても。外交としてのジャングルの法則も同じだ。

アメリカ国務長官、ポンペオMike Pompeoは、トランプ政権の中で最新の閣僚だ。他国は自分たちで、トランプ大統領のアメリカ・ファースト、を導入するべきだ、と彼は論じた。条約や世界機構のように、何であれ、自国の主権を削ぐものは悪いものだ、と。

ポンペオの失敗は、その発言をブリュッセルで行ったことでも、外交を知らないことでもない。しかし、彼が攻撃する多角主義(諸国家による協力)をブリュッセルほど信じている都市はないし、その聴衆にBrexitを「ウェーク・アップ・コール」だと称賛するのは、いただけないが。

ポンペオの失敗は、彼が不可能なことを試みたことだ。彼は、アメリカ・ファーストを諸国がまねることで、新しいリベラルなグローバル秩序が登場する、と同盟諸国に訴えた。

しかし、ポンペオは何も触れなかったが、トランプはすでに、モスクワ、北京、ピョンヤンで、ナショナリストに賛成している。ポンペオによれば、それらの国はグローバル秩序に対する最大の脅威である。こうした敵と対決する最善の戦略が、多国間主義を捨てることだ、と彼は主張する。

EUや国連、IMF、世界銀行のような国際機関は改革すべきだし、破棄するべきだ、とポンペオは主張する。なぜなら、それらはわれわれの自由の足かせだから。「条約を多く結べば、われわれは安全なのか?」 「官僚が多いほど、職場は増えるのか?」 ポンペオの答えは、No だ。

しかし、彼の思想は事実に反している。32000人を動かす欧州委員会は決して巨大ではない。アメリカの退役軍人省はその10倍以上、377000人をを動かしている。アメリカ農務省は105000人だ。世界銀行の職員は1万人しかおらず、アメリカ内務省より少ない。IMF2400人、国連も44000人だ。

人々が求めるのは強固で頑健な国際合意だ。ポンペオは何も示さず。その代わりに、トランプが破棄した国際合意を列挙する。気候変動に関するパリ協定、イラン核合意、国際刑事裁判所、国連人権会議、長距離核兵器制限条約。次は世界貿易機構だ、と彼は示唆した。

トランプは中国の台頭を封じ込めたいと望むが、彼の反対の手はそのための手段を破壊している。

ブリュッセルがポンペオの演説に示した反応は、沈黙であった。


 マクロンの実験と抵抗運動

FP DECEMBER 1, 2018

The Technocratic King and the Guillotine

BY JAMES TRAUB

自由化の実験が動揺している。マクロン大統領の支持率は26%まで低下した。特に、自然発生的で、指導者のいない、「イエローベスト」の抗議行動が大衆の不満の大きさを示している。

CNNのインタビューで、マクロンは、彼が採用する経済政策は支持されないだろう、と述べた。しかし、「少なくとも18-24か月で」プラスの効果が感じられるはずだ、と。彼はそれまで生き残ることができる。なぜなら、他の西側指導者が利用できない強みを彼は持っているからだ。彼に忠誠を示す与党議員たちが彼を支持している。そのような新人議員の1人は語った。抗議運動は、労働組合や主要政党など、従来の制度による代表制の危機である。

これまでのケースでも、フランスで自由化は支持されないことがわかっている。フランス人は、低成長、高失業の罠にはまっているが、ドイツやデンマーク、その他の北欧福祉国家で成功した労働法や税制の改革を受け入れない。有権者はマクロンに改革の権限を与えない。フランス人は共和主義を支持しても、市場自由化には反対する。

マクロンは、強い指導者であるが、聴く耳を持たない政治家であることが、ますます、はっきりした。彼はディーゼル税を諦めない。マクロンは、フランス人がド・ゴールの再生を願っている、と考える。フランス人は国王の不在を感じている。彼が目指すのは、テクノクラートと国王との間にある、「民主的英雄主義」の原理だ。しかし国民は、彼の思想も、そのスタイルも嫌う。

マクロンは、批判されるような、「ウルトラ・リベラル」な政治家ではない。アメリカのビル・クリントン大統領や、イギリスのトニー・ブレア首相、ドイツのゲアハルト・シュレーダー首相のような、1990年代の「第3の道」のチャンピオン、市場メカニズムと、目標に向けた政府支出との組み合わせを信じている。エネルギー転換、初等学校、基礎科学研究、職業訓練に投資するとマクロンは計画している。しかし、イエローベストの参加者が言うように、エリートたちが地球温暖化を心配するとき、「彼らは地球の終わりについて話すが、われわれは月末の支払いが心配なのだ。」

マクロンはもう少し人々の感情に沿った形で、スムーズな改革を選択するべきだろう。ディーゼル税、強いEUを求め、ナショナリズムの高まる状況でも、反移民や難民排斥を拒否する多角主義の声を上げている。だからマクロンがわれわれには必要だ。

The Guardian, Tue 4 Dec 2018

Macron’s crisis in France is a danger to all of Europe

Natalie Nougayrède

ヨーロッパのために、冷笑や憎悪ではなく、マクロンには助けが必要だ。若い改革派の大統領、マクロンは「ヨーロッパのルネサンス」を約束していたが、急速に再び「ヨーロッパの病人」となりつつあるフランスで、闘いの中に自分がいることを発見する。

わずか3週間前、世界の指導者たちがパリの凱旋門に集まって、マクロンとともに第1次世界大戦の休戦から100年を祝った。もし「不幸な情熱」が、マクロンは何度も警告したのだが、フランスをとらえるなら、それは1人の政治家の失脚をもたらすだけでなく、この大陸全体を侵食するだろう。

この2週間のフランスの情景を、ある者は、1968年の蜂起が再現したと思うだろうが、より適切な類比は193426日である。その日、極右のナショナリスト集団がフランスの首都を行進し、警官隊と衝突して15人の死者が出た。この日の事件は、フランスに極右が広がる神話になった。

NYT Dec. 4, 2018

Paris Burning

By The Editorial Board

フランスの暴力的な抗議活動、「イエローベスト」は、過去の騒乱と比べられる。特に、政権を倒した1968年だ。ド・ゴールからオランドまで、大統領たちは騒乱の犠牲となった。

1つの違いは、マクロン自身だ。18か月前に、まだ40歳にもならない人物が、5年の任期で大統領となった。しかし彼の改革は、特に、富裕層への課税をやめて、富裕層の不動産に課税したことは、彼のイメージを損なった。「富裕層の大統領」とみなされた。

燃料税のわずかな引き上げが、フランスの炭素排出量を減らすためだが、地方や郊外の人々に最後の一撃となった。彼らは、政府閣僚、官僚、労働組合、特に、彼らの経済的な苦境を無視して、裕福で、自己満足に浸るパリの政治階層を嫌った。

もう1つの違いは、騒乱の性質だ。ソーシャルメディアが騒乱を刺激し、拡大した。組織も、明確な主張もない。政府が対話を試みても、対話の相手はいなかった。非公式な話し合いに応じる者はいたが、他のイエローベストに脅迫されて、取りやめた。フィリップ首相は述べた。「私はこの怒りを聴き、その基礎、その力、深刻さを理解した。」

しかし、後退は危険な賭けである。抗議活動にとって、フィリップとそのボスは、パリで自動車を燃やすことでしか怒りを理解しない、と考える。彼らの要求は、今や、マクロンの辞任、議会の解散である。

確かにマクロンとその政府は、パリや大都市の外の人々にもっと配慮し、政策に関する説明を改善しなければならない。特に、貧困に苦しむ多くの人々の負担を減らすべきだ。しかし、ソーシャルメディアのパワーが、対話のメカニズムや抑制を欠いたまま大衆の怒りを動員するのであれば、リベラルな民主主義は崩壊する。マクロンと議会は18か月前に民主的に選ばれたばかりであり、フランス、EU、環境における改革は、その選挙公約であったし、フランスが必要とするものだ。

The Guardian, Thu 6 Dec 2018

Macron’s politics look to Blair and Clinton. The backlash was inevitable

Larry Elliott

街頭を埋める暴徒たち。駅には炎が走る。パニックになってスーパーマーケットで買い占める。カオスの国だ。それはBrexit後のディストピアを示すイギリスではなく、反ポピュリズムの我流チャンピオン、エマニュエル・マクロンが居るフランスだ。

彼の公式写真は、ド・ゴールの戦時回想録を前にして、デスクに座っている。国民へのメッセージは明らかだ。私はド・ゴールのような、強い指導者になるつもりだ。私はド・ゴールのように、小さな政治にかかわらず、国益によって支配する。

マクロンがエリゼ―宮に着いたとき、新しい政治家と称賛された。しかし、彼は未来の政治家ではなく、過去の政治家たち、ビル・クリントン、トニー・ブレア、ゲアハルト・シュレーダーの伝統を継ぐ、最後の官僚国家型中道派である。

アンゲラ・メルケルの前任者が、マクロンの真のモデルであった。シュレーダーこそ、2000年に入って、厳しい労働市場と社会福祉の改革を行い、ヨーロッパ最大のドイツ経済の競争力を高めた。マクロンは、同じ処方箋がフランスでも機能する、と考えた。

1回投票では4人に1人の支持であったが、決選投票で大統領になったマクロンは、構造改革の権限を得た、と確信した。富裕層に減税し、解雇や雇用を容易にし、鉄道労組と闘った。反発は時間の問題であった。

当選後のハネムーン期に、マクロンは通貨同盟を強化するため、ユーロ圏の予算をユーロ圏が管理する改革を提唱した。それが成功するとしたら、ドイツがフランスを対等と見なすときだけだ。ドイツからの敬意を得るため、マクロンは、シュレーダーの下でドイツが採用した厳しい改革をフランス経済に求めた。

しかし、政治家たちは理解しなければならない。金融危機と10年に及ぶ生活水準の停滞は、政治的に何が可能なことか、決定する力を持った。望ましいものであるが、気候変動を抑える増税が実行可能であるためには、他の減税で相殺しなければ生活水準を低下させる。それは有権者が拒む緊縮策なのだ。

それはド・ゴールではない。マリー・アントワネットだ。「(パンがなければ)ケーキを食べたらいい。」


 米中の貿易停戦

PS Dec 5, 2018

Are China’s Trade Practices Really Unfair?

DANIEL GROS

アメリカ、ヨーロッパ、日本の生産者が、なぜ中国を押し戻そうとし始めたのか。それは、中国企業の競争力が高まったからだ。西側の企業がノウハウや技術を独占しているときは、中後港の設ける貿易や投資に関する障壁は、高い競争力によって回避できた。しかし、中国企業がますます国際的に見て高い競争力を発揮するようになって、西側の企業はコストに耐えられなくなったのだ。

その意味で、米中貿易摩擦の本質は、市場開放と競争条件の均等化が遅く、近代化と企業の競争力改善が早い、というミスマッチにある。実際、1人当たりGDPは生産性の高さを示すが、中国の100万人を超えるいくつかの地域では、先進諸国と等しくなっている。他方、もちろん、中国の平均でははるかに低い。

外国からの圧力で中国経済を変えることはできない。しかし、今や中国の保護貿易体制は、中国の内陸部を助けることにならない。なぜなら、最大の競争相手は、外国企業ではなく、ダイナミックな沿海部の先端企業であるからだ。その意味で、中国はその開発戦略を観直すべきだろう。


 アメリカ資本主義の改革

NYT Dec. 2, 2018

American Capitalism Isn’t Working.

By David Leonhardt

194410月の雑誌Fortuneに、ある企業重役William B. Bentonの驚くべき論説が載った。彼は、企業家たちのグループを代表して、第2次世界大戦後のアメリカの繁栄に関して書いた。

当時、戦後の繁栄を当然とみなす者はいなかった。15年も続く不況と戦争を経験した後だった。戦時の生産体制が終わり、兵士たちが戻れば仕事を探す。それは新しい不況に経済を突き落とす、とアメリカ人の多くは心配した。

「今日の目標は勝利だ。しかし明日の目標は、仕事、平和時の生産、高い生活水準、機会である。」 と彼は書いた。その目標を達成するには、アメリカ企業が「必要かつ適当な政府の規制」と労働組合を受け入れることだ。また、企業が「コミュニティの福祉を犠牲にして」利潤を上げないこと、賃金を引き上げることだ。

こうした左派の主張に見える考え方は、何も利他主義によって示されたのではなかった。大不況とヨーロッパにおけるファシズムの台頭を、アメリカの企業重役たちは恐れたのだ。制約のない資本主義は誰にとっても危険である、と彼らは信じた。Bentonの論説は「自由社会の経済学」というタイトルであった。

その後、アメリカ企業は概ねその処方箋に従った。アメリカの経済と企業は、ともに好調だった。

1970年代に、事態が変化し始めた。グローバルな競争、エネルギー価格の高騰、そして、大不況の記憶が薄れた。企業重役はアグレッシブになって、株主価値の最大化、という使命を強調した。そして、規制緩和、減税、労働組合のない生産現場、低賃金、同時に、はるかに高い重役報酬、を目指した。彼らはそれを、素晴らしい経済成長が来る、と正当化した。

しかし、それは来なかった。成長する時期でもほどほどの成長率であり、その果実のほとんどを富裕層が取った。1979年以来、週給与の中央値の増加率は、わずかに年0.1%である。現在、アメリカの代表的な家族は、20年前より、少ない資産しか持たない。平均寿命はこの10年で短縮した。

アメリカ人の多くが不安を感じ、憤慨するのは当然だ。Bentonの問いを再考してみることだ。「どんなアメリカ企業が、すべてのアメリカにとって必要か?


 日本の2つの挑戦

FT December 3, 2018

Japan’s struggle with a rising China

Gideon Rachman

米中は対立をエスカレートさせている。1930年代の日米の対立に比べて、中国はより大きな挑戦国だ。中国は、地域への貿易や投資を拡大している(軍事も含むが)という意味で、そのような比較を受け入れない。

安倍政権は、中国の台頭に対抗することを使命としてきた。尖閣諸島問題で政権を取り、アメリカとの同盟を強化するため憲法解釈を改めた。トランプの姿勢が信用できないことで、同盟関係をさらに拡大し、「インド太平洋」概念を、経済・安全保障、そして諸価値まで含めて主張し、推進する。

しかし最も重要な同盟国であるはずの韓国は、日本の植民地支配を争点として、安倍は日韓関係を改善できない。日韓が強固な同盟関係を築けなければ、両国とも中国に対抗できない。

VOX 03 December 2018

Japan’s age wave: Challenges and solutions

David Bloom, Paige Kirby, JP Sevilla, Andrew Stawasz

世界で進む高齢化に、各国は対策を必要としている。日本はその最先端の実験を行っている。

世界で最も寿命の長い国となって、すでに35周年である。その記録的な長寿、平均84歳と、高齢者の人口比率27%は、大きな成果だ。

しかし、社会の高齢化は両刃の剣である。アメリカの元商務長官Peter Petersonは、高齢化を「化学兵器、核拡散、民族紛争よりも、深刻で、確実な脅威」と呼んだ。


 人民元による国際通貨体制

PS Dec 3, 2018

The Rise of the “Petroyuan”

JOHN A. MATHEWS, MARK SELDEN

中国は、人民元をSDRの構成通貨に加えただけでなく、上海の国際商品市場に、人民元建の石油先物市場を開設した。これは、ドルに依拠した国際決済システムを、人民元も加えて、より多元的な国際決済システム、そして国際資本市場に転換する重要な前進である。

アメリカが世界各国との貿易対立を生じ、イラン核合意を破棄して制裁を実施しただけでなく、アメリカによる命令に従わない諸国への強制・制裁手段として、このドルによる国際決済システムを利用している。ロシアやイランが中国との石油取引でドルのシステムを回避すること、さらに中国との貿易や投資を増やすことは、アメリカやドル体制に強い圧力となるだろう。

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The Economist November 24th 2018

Brexit: The truth about no deal

A no-deal Brexit: Free falling

Chaguan: Rights and wrongs

Charlemagne: The power of fish

Bagehot: Crisis? What crisis?

(コメント) Brexitの最後の神話、No-Dealが論争を迷走させています。合意なしに離脱したら、どうなるのか? それは新しい「恐怖作戦」か?

中国が西域で行っている人権侵害、ウイグル人の「再教育」について、複数の諸国が大使の間で連名抗議を行った。おもにヨーロッパの小国が、自分たちの政治の価値を問い直します。日本は参加していない。

漁業をめぐる争いは過激化しやすい。EU離脱交渉は、GDP0.1%の活動で紛糾します。

Brexitは、スエズ危機か、1976年のIMF融資か、1925年の金本位制復帰と1931年の離脱か?

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IPEの想像力 12/10/18

朝日新聞「耕論 蒸発する欧州の「中道」」を読みました。

かつて「第3の道」を指導したギデンズは述べます。富の再分配、福祉政策、人道主義を実現した「中道左派勢力が、今や蒸発しつつある」。なぜか? デジタル革命だ。

・・・産業革命よりも急速で、地球規模に本質的な変化が起きている。電子マネー、製造業の海外移転による消滅、ロボットたちの生産ライン。サービス業に働く人々は、SNSで結びつく。デジタル型の直接民主主義。高齢者や貧困層は変化に取り残され、帰属意識を持てない。

「旧来型の社会民主主義」は、グローバル資本主義が生み出す不平等に対して無力である。国家に力はない。ブレアのイラク戦争。リーマン・ショック。中国の台頭がもたらす地政学の変化。EUは主権を強化するのに、イギリス国民は離脱を選択した。野党の労働党コービン党首は、ポピュリスト政党と同じようにSNSで支持を広げる。しかし、北部の労働者階級はEU離脱、多くの若者はEU残留を求める。

労働者階級は劇的に縮小した。労働組合は力を持たない。国際的視野を持つ、コスモポリタン(世界市民)的な、進歩的な運動が必要だ。リベラルな諸価値を、デジタル時代の福祉制度を、途上国の発展とともに解決する。構造変化を分析して、政策の中に埋め込む努力が必要だ。

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日本政府は、あるいは、日本の有権者は、安倍晋三を首相として、中国の台頭に抵抗し、アメリカと同盟関係を強化し、アベノミクスと称した金融の超緩和政策を推進しました。それは、金融危機と不況、若者の失業、長期にわたるデフレ、生活水準の停滞、不平等化、金融バブルの容認、出生率低下と超高齢化、「再軍備」、「憲法改正」、その他、Brexitとトランプの時代に似ています。

・・・安倍政権は、中国の台頭に対抗することを使命としてきた。尖閣諸島問題で政権を取り、アメリカとの同盟を強化するため憲法解釈を改めた。トランプの姿勢が信用できないことで、同盟関係をさらに拡大し、「インド太平洋」概念を、経済・安全保障、そして諸価値まで含めて主張し、推進する。(Gideon Rachman

・・・世界で進む高齢化に、各国は対策を必要としている。日本はその最先端の実験を行っている。

世界で最も寿命の長い国となって、すでに35周年である。その記録的な長寿、平均84歳と、高齢者の人口比率27%は、大きな成果だ。

しかし、社会の高齢化は両刃の剣である。アメリカの元商務長官Peter Petersonは、高齢化を「化学兵器、核拡散、民族紛争よりも、深刻で、確実な脅威」と呼んだ。(David Bloom, Paige Kirby, JP Sevilla, Andrew Stawasz

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インターネットが秩序や規範を溶解する力は増すばかりです。

日本は周回遅れのトップランナーだ、と思います。超高齢化社会、台頭する中国との関係、資本主義の改革、さまざまな意味で。

Brexit、トランプ、マクロン。そして、河野太郎外相の回答拒否、という奇妙な記者会見。これまでの平和主義の原則は何も変えていない、と空母を正当化する安倍首相。ロシアと向き合ってプーチンになり、アメリカと肩を組んでトランプになったのか?

ここでも「名前の無い時代」、「Brexitとトランプ後の時代」が始まったのです。

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