IPEの果樹園2018

今週のReview

12/10-15

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アメリカのポピュリズム ・・・正しい移民政策 ・・・Brexitの現代と歴史 ・・・ロシアによるアゾフ海の支配 ・・・口紅を塗った豚 ・・・マクロンの実験と抵抗運動 ・・・ジョージ・HW・ブッシュの訃報 ・・・米中の貿易停戦 ・・・アメリカ資本主義の改革 ・・・名前のない時代 ・・・日本の2つの挑戦 ・・・人民元による国際通貨体制 ・・・暴力に代わるもの

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカのポピュリズム

NYT Nov. 29, 2018

When MAGA Fantasy Meets Rust Belt Reality

By Paul Krugman

MAGAMake America Great Again)は基本的に素晴らしい政治スローガンである。

ドナルド・トランプの支持者の多くにとって、MAGAはむき出しの人種差別や性差別が行われた古き良き時代への回帰である。トランプはその約束を実行しつつある。

しかし、トランプに投票した人たちの一部にとって、それは、40年、50年前の経済、製造業や鉱山業で多くの雇用があった経済を再建する約束であった。しかし、トランプの「交渉の天才」によって、それが実現することはない。われわれの経済は、モノ作りからサービスの提供へ、長期的に変化してきた。

彼は特に3つの点で、製造業を議会している。第1に、彼は、貿易赤字が製造業を奪った、と信じている。そうではない。

もし今、アメリカがすべての貿易赤字をなくした場合、現在より20%ほど多くの労働者が製造業で雇用されるだろう。しかし、1970年には労働者の4分の1以上が製造業に雇用されていた。現在では10%に満たない。この傾向をわずかに逆転するだけだ。

巨額の貿易黒字を出しているドイツでも、雇用に占める製造業の割合は大きく低下している。われわれの支出が増大するとき、それはモノではなく、より多くのサービスに支出されるからだ。また、製造業の製品消費量が増えても、技術進歩はより少ない労働者でそれを生産できるようにする。サービス業で繁栄する経済を想像できない人は、医療サービスが中産階級の雇用の最大部門であることを思い出すことだ。

2に、トランプは、製造業の衰退をアメリカが外国に対して十分にタフであれば改善できる、と考える。しかし、貿易赤字は不公正な貿易によるのではない。

関税は個別の産業に影響するだけで、貿易収支を決めるのは主として為替レートである。そして、為替レートは資本移動によって変化する。外国人がアメリカの資産を買うから、ドル高になるのだ。トランプの政策(企業への減税、財政赤字、高金利)はそれを強めた。

最後に、トランプは自動車工場の閉鎖に憤慨する。第3に、トランプは人々を脅せば経済は動かせる、と信じている。

アメリカ経済は巨大であり、個々の企業を取り上げて憤慨しても意味はない。アメリカでは毎月、170万人の労働者が解雇あるいはレイ・オフされる。ファミリー・ビジネスを経営するのとは全く違う。広範な諸政策を決めて、それを守る。新聞の良くない見出しを読むたびに、数人を叱ることではない。

問題は、トランプがMAGAを実現する方法を知らない、ということではない。彼の支持者たちがそれに気づくか? いつ気づくか? ということだ。

NYT Nov. 29, 2018

It’s Not the Economy, Stupid

By David Brooks

アメリカ経済はかつてない好調さを続けている。もしあと8か月好景気が続けば、史上最長の景気拡大になる。その利益は、熟練を持たない労働者まで、広く共有されている。

しかし、アメリカ人の60%はこの国で進んでいることに不満である。景気回復が進むのに、人々は資本主義を信用していない。特に、若者たちがそうだ。最大の要因は、コネクションの危機である。

人々、特に、中産階級と労働者は、数十年間のいずれの時代よりも、コミュニティのボランティアに出ず、教会に通わず、隣人を知らず、結婚していない。要するに、彼らは、助けるための資源をますます持たない状態で、市場経済の中で永久に続く、創造的破壊に振り回されている。

アメリカ人の寿命は3年続けて短くなった。豊かな、結びつきのある社会なら、寿命は延びるのが当然だ。社会が崩壊し始めている。

経済不安は、こうした社会学的、心理学的、精神的な崩壊が合わさって生じている。保守派の間では、経済政策がGDP成長を過剰に重視し、尊厳を高める仕事を過小に評価している、という論争が起きている。われわれを取り巻く社会的な崩壊に対して、経済政策は、あるいは、いかなる政策も、意味がない。

保守派は、経済成長が健全な家族を育てる、と考えた。穏健な民主派は、成長を高めて、不平等を緩和する財政的な給付をすればよい、と考えた。進歩派は、デンマークのような政治経済をまねることで、生活は改善する、と考えた。すべて間違いであった。デンマークやスウェーデンには結束した社会単位がある。われわれにはない。

雇用、雇用、雇用、という主張はもはや正しくない。社会関係を回復するべきだ。

PS Nov 30, 2018

Populism Is Rooted in Politics, not Economics

ANDRÉS VELASCO


 正しい移民政策

NYT Nov. 29, 2018

Send Judges to the Border, Not Troops

By Roberta Jacobson and Dan Restrepo

PS Nov 30, 2018

The Real Economics of Migration

IAN GOLDIN, BENJAMIN NABARRO

移民に関する論争が世界の民主主義を動揺させている。アメリカ、イギリス、イタリア、ハンガリー、オーストリア。そしてドイツでも、戦後の憲法に神聖なものとして加わった難民の権利が、最近、疑問視された。

難民と経済移民は同一に扱われ、国民のアイデンティティや個人の諸価値に関する論争が加熱する。それは文化の政治であり、非経済的な視点から政策が主張されている。その結果は、経済成長を脅かし、そのことによって政治的な論争が激しくなる。

移民のもたらす経済的、社会的なインパクトを理解することなしに、成長を支援し、市民と移民の福祉を守る適切な政策は導けない。最近の研究でも、2008年の金融危機後、OECD諸国の経済成長には、移民が重要な貢献をしたことが示されている。しかし、全体としての成長は、地域や所得水準に応じて、均等に分配されなかった。

反移民の論調が高まり、移民は全体に減少しつつある。その成長に対する悪影響は過小評価されている。移民は単なる労働力の供給に追加されるだけでなく、広範な、長期的利益をもたらす。たとえば、革新に貢献している。

世界各地で、成功しているグローバル都市には、高度な技能を持つ移民が革新と成長のサイクルの一部であり、そのことがまた才能ある移民たちを集める。たとえば、トロント、バンクーバーでは人口の45%、ロンドン、メルボルンでは35%、ドバイでは95%が移民である。

技能を持つ移民のグローバル市場は高度に統合されているから、最も生産的な労働者たちは、報酬や機会が最大の土地へ、それがどこでも移動する傾向を示す。そのグローバル・ネットワークが、新しいアイデアや技術を分散している。

問題は、そのようなダイナミズムの集積点から外に取り残される多くの人々が、彼らの排除と疎外を移民たちの存在と結びつけて考えることだ。繁栄する都市のコスモポリタニズムにひきよせられる移民と、衰退する都市や小さな町で仕事を見つけられない人々、生活水準が維持できない人々がいる。それは政治的な動員を試みる者たちの肥沃な土壌である。

反移民感情を押し戻す第1歩は、移民が必ずしも常に、すべてのグループに利益をもたらすわけではない、と知ることだ。貿易自由化や、その他の改革と同じく、「総体としての利益」は「すべての物の利益」を意味しない。特定のグループや地域には、保護や補償が必要になる。

多くの先進的な経済において、移民は低技能の労働者と競争し、高技能の労働者と補完的である。それゆえ移民は所得分配を高所得層に有利にする。しかも、移民に代替されるリスクが最も高いのは移民なのだ。

高い技能を持つ移民たちが、十分な評価を受けないことで、低い技能の職場が一層きびしい競争に傾く。こうした移民たちを正しく評価することは、彼らの利益であるだけでなく、「総利益」を増やす。移民たちを高賃金の職場から排除するような障壁を取り除くべきだ。ドイツの積極的労働市場政策は、そのモデルになる。

ポピュリストたちは間違った情報を流す。移民に対する国民の態度を決める上で、2つの要因が大きい影響を与える。1つは、国民的な結束。もう1つは、公共サービスや職場など、希少な資源に関する懸念。

西側の民主主義諸国に広まった緊縮政策は、特に貧しいコミュニティに、こうした不安を強めただろう。教育をあまり受けていない人々は、経済停滞の影響を強く受け、国民的なアイデンティティに自己をより強く結び付ける。新興の、アイデンティティを強調する政治党派は、こうした人々に関して、移民論争で強い主張をすることで、多くの支持を得てきた。

右派のナショナリスト政党が、特に金融危機による強い刺激を受けて、反エリート主義、エスタブリシュメントや専門家たちへの懐疑論が広まる新しい時代を迎えた。移民を国民のアイデンティティに対する脅威として議論するポピュリストたちが、政策論争の土台を変えてしまった。

市民が抱く移民に関する不安にも、経済不安の原因にも、応えなければならない。移民の経済的効果は政策によって管理できる。移民たちはもっとその技能に合った仕事にアクセスし、それによって高まる成長をもっと広く共有する必要がある。

しかし今は、多くの国で移民に対する態度が正しい政策を実現不可能にしている。移民は成長のエンジンではなく、経済的、文化的な脅威とみなされる。

FT December 6, 2018

Nadia Murad: I survived Isis. Now I want to rebuild the Yazidi homeland

Nadia Murad


 Brexitの現代と歴史

The Guardian, Fri 30 Nov 2018

Why a general election is the only way out of this Brexit mess

Tom Kibasi

FT November 30, 2018

Eyes down and history books open for a game of Brexit bingo

Gideon Rachman

「歴史の手がわれわれの肩に置かれているのを感じる」と、グッド・フライデー合意を交渉したトニー・ブレアは語った。多くのイギリス政治家は、今、Brexit交渉において同じことを感じているだろう。

しかし、どのあたりの歴史か? 皆がビンゴゲームを始めたようだ。参加者は現在の出来事にぴったりの歴史的エピソードを当てる。ここに年代順に彼らが好きなエピソードを並べてみよう。

1956年、スエズ危機。Brexitは、スエズ危機で味わったような国民の恥辱を終わらせる事件だ。当時、イギリスはエジプトに軍事介入したが、アメリカによって撤退させられた。メイ政権から閣僚を辞職したジョー・ジョンソンはBrexitを「スエズ危機以来の国家的な失策」と呼んだ。

1940年、ダンケルクの撤退。そしてウィンストン・チャーチルの演説。昨年、The Daily TelegraphBrexitをダンケルクの撤退にたとえた。しかし多くのイギリス人は、それがEUをナチ・ドイツと同一視する点で、強くは同意できない。

1846年、穀物法撤廃。自由貿易をめぐって保守党が分裂した。それはイギリス政治の新しい戦線を決めた。Brexitが同じ結果に至る、と多くの者は考えている。

1832年、リフォーム・アクト(第1次選挙法改正)。有権者が拡大した。Brexitも同様に「民主主義の再生」とみなす。また、イギリス司法がヨーロッパの法から解放される。

1642-1651年、イギリス内戦。私の好きなたとえだが、あまり議論されない。重要なテーマは議会の主権だ。そのシンボルであったオリバー・クロムウェルの銅像は今も下院の外に立っている。ちなみに、1660年に王室が再興されるのは、イギリスのEU再加盟を類推させる。

1532年、イギリス宗教改革。イギリスがブリュッセルの支配から離れるのは、16世紀、ヘンリー8世がローマ・カソリックから離れた決断によく似ている、と歴史家Niall Fergusonが述べた。

1200年、ル=グーレ条約。学生のとき歴史を専攻したせいで、奇妙な類推をする者もいる。Brexitの熱烈な支持者Jacob Rees-Moggは、ジョン王がフェリペ2世にル=グーレで敬意を払って以来の、最大の忠勤姿勢である、とメイの取引を非難した。

歴史的な類推がBrexitの状況を説明するのに役立つのか? おそらく、それはない。しかし、それらは歴史的に繰り返すあるパターンを確認する。特に、イギリスと他の大陸ヨーロッパとの、セミデタッチトな関係(2件の家が1つの建物に入っている)と、議会が主権において中心的役割を果たす、という点だ。

PS Nov 30, 2018

From Brexit to Eternity

CHRIS PATTEN

NYT Nov. 30, 2018

Brexit, Borders, and the Bank of England (Wonkish)

By Paul Krugman

FT December 2, 2018

Britain should have no fear in pursuing a WTO Brexit

Priti Patel

The Guardian, Mon 3 Dec 2018

We are lurching towards the Brexit cliff edge. Here’s what May must do

Simon Jenkins

この取引は、現在、UKが期待できる最善のものだ。

Brexitは混乱を極めて、日々、断崖に向かって近づいている。メイのエネルギーには驚嘆するし、その確信も印象的だ。しかし、彼女の唱える説教には力がない。もっと率直に認めるべきだろう。この取引はそれほど優れたものではない。

しかし、「われわれはケーキを持っているし、食べることもできる」というBoris Johnsonのスローガンは幼稚な嘘だ。イギリス国民に有利な取引はどこにもない。これは最善の選択肢ではないが、悪いものを最大限に減らした選択肢である。

メイは責任ある指導者として、合意なしの離脱を回避しようとした。幸い、議会の多数は関税同盟/単一市場/ノルウェー型オプションに向かっている。

The Guardian, Tue 4 Dec 2018

Britain can legally cancel Brexit. That’s EU advice – but will parliament agree?

Jolyon Maugham

FT December 4, 2018

The ECJ’s Brexit opinion is sound

David Allen Green

PS Dec 4, 2018

The Ghost of Brexit Past

HAROLD JAMES

多くの欠陥はあるが、メイ首相がEUと交渉してきたBrexitが実現するだろう。

離脱過程を逆転させるのは、今や、考えられない。Brexitは革命であり、その過程はよく知られた歴史的パターンに従う。多くのフランス人が1789年以降に、多くのロシア人が1917年以降に、学んだことだ。革命は無視できないし、止めることもできない。

Brexit革命は、革命の伝統を持たない国で起きた。イギリスの法学者たちは、立憲的秩序が長期的に徐々に進化したことを誇りとする。ヨーロッパ大陸の歴史が多くの政治的な断絶を経てきたことと違う、と。しかし20166月の国民投票は、イギリスの例外主義を終わらせた。皮肉なことに、離脱投票で、とうとうイギリスは大陸ヨーロッパにキャッチアップしたのだ。

Brexitの歴史的先例を探す者もいる。19319月、UKの金本位制離脱。19929月、ERM(ヨーロッパ為替レートメカニズム)からの離脱。しかし、Brexitは通貨制度にとどまらない。何十年もヨーロッパの規制体制に参加した後、それを離脱する作業は、数え切れないほど多くのルールに関する長い、複雑な修正を必要とし、予想外の破滅的な失敗も生じる。

合理的な人はすぐに現状維持が望ましいと気づく。しかし、革命のロジックはそのような逆転を不可能にする。

Brexitを支持する議論の多くが主権の伝統的な考え方を前提している。ジョン王がローマ法王から分離し、ヘンリー8世がイギリス国教会を求めて闘った。教会上訴法を議会が承認した15334月、ヘンリーは法と宗教に関する最終的な権限を得た。ローマの支配を離れなければ、ヘンリーはチャールズの叔母、アラゴンのキャサリンと離婚できなかった。この法律に、主権に関する最初の明確な法的定義がある。

しかし、いつものことだが、革命は未完成であった。カトリックから国教への転換は、次の局面をもたらす。Luther, Zwingli, or Calvinなど、彼らの説教があったから革命が起きたのか? 歴史には異なる宗派が異なるアプローチを示し、しばしば突然の逆転があった。上訴法を起草したクロムウェルThomas Cromwellは、1540年、国王の命令で処刑された。イギリス国教会を築いたThomas Cranmer大司教も、1556年、火刑に処された。

旧時代への懐古が広まり、エドワードの死後、メアリーは復古を進めた。しかし反革命は革命以上に野蛮で、非文明的な手段を用いたため、イギリス国民の多くは、逆転することは間違いだ、と結論した。メアリーの死後、エリザベス1世がようやく妥協を制度化した。

イギリスにとって最善であるのは、それを忘れて先に進むことだった。メイもチューダー朝の教訓を学ぶべきだ。革命を始めた者たちは、革命によって食い尽くされる。

FT December 5, 2018

Theresa May suffers double defeat on Brexit deal

Henry Mance, George Parker and Jim Pickard in London

FP DECEMBER 5, 2018

Brexit Is Falling Apart — Slowly

BY OWEN MATTHEWS

5日間の議会の審議、最初の1日で、1つだけ明らかになったことは、Brexit論争では伝統的な政党への忠誠が崩壊していることだ。

メイの合意案が否決されて、たとえ2度目の国民投票が行われるとしても、論争は終わらない。その結果は、どのような選択を示すか、に依存する。単純に、離脱か残留か、であれば、残留が勝つだろう。しかし、メイの合意案を加えた3択になれば、メイが勝つだろう。

危機はまだ数か月続く。

The Guardian, Thu 6 Dec 2018

Labour could do a better Brexit deal. Give us the chance

Jeremy Corbyn

The Guardian, Thu 6 Dec 2018

I drafted article 50. We can and must delay Brexit for a referendum

John Kerr

The Guardian, Thu 6 Dec 2018

Disagree with May’s Brexit deal? Fine, but be honest about the alternatives

Anand Menon

首相の示す合意は多くの失敗を犯したが、批判者たちの主張は不可能なものだ。

FT December 6, 2018

Britain must accept real trade-offs for any kind of Brexit

Chris Giles

FT December 6, 2018

The attorney-general’s Brexit advice explains the Irish backstop

David Allen Green

FT December 6, 2018

There is a bigger Brexit issue than the backstop

David Allen Green

FT December 6, 2018

Theresa May has lost control of Brexit

Philip Stephens


 ロシアによるアゾフ海の支配

FT November 30, 2018

Russia celebrates the assertion of might over right in Ukraine

Andrew Wood

ロシアはなぜウクライナの3隻の船舶を拿捕したのか。なぜ、今なのか? 他のロシアによる侵攻は、軍の帰属を示さない「小さな緑の男たち“little green men”」が実行してきた。

モスクワがドンバスにおける戦闘をエスカレートさせる決定をしてロシア軍を動かしたのであれば、初めてのケースだ。アゾフ海とウクライナの港を制圧する計画を進めるのかもしれない。

もう1つの可能性は、船舶の拿捕が現地の判断で行われたことだ。ロシア船舶の航行しか許さないことが、ロシアの利益になると考えた。しかしそれは2003年の両国によるキエフ合意に反する。クリミアとの海峡を橋梁の建設も行われた。

なぜ今なのか? ウクライナのポロシェンコ大統領は、国内戒厳令を支持する口実を得た。しかし、挑発した事実はない。プーチン大統領は、年金改革で支持率が低下したことを、軍事力行使によって回復したいのか。しかし、紛争激化によって、過去にそうだったような、ロシア「要塞化」論が支持されるとは限らない。

プーチンの意図は十分に解釈できない。極めて少数のグループで決定している。大統領の利用する情報は、関係者による歪みをともなう。ウクライナ支配がクレムリンの重要目標であることは変わらない。西側は、今のロシア制裁が必要か、と疑う時ではない。

SPIEGEL ONLINE 12/04/2018

Escalating Tension

Russia Tries to Strangle Ukraine with New Maritime Strategy

By Christian Esch

FP DECEMBER 4, 2018

Trump and NATO Show Rare Unity in Confronting Russia’s Arms Treaty Violation

BY ROBBIE GRAMER, LARA SELIGMAN

NYT Dec. 5, 2018

Putin Must Be Punished

By Petro Poroshenko


 口紅を塗った豚

FT November 30, 2018

Donald Trump’s battle with the Fed is far from finished

PS Nov 30, 2018

Trump’s War Against the WTO

SIMON JOHNSON

NYT Nov. 30, 2018

Will Trump Speak Up Against China’s Oppression?

By The Editorial Board

FT December 6, 2018

The double life of Trumpian nationalism

Edward Luce

豚は豚である。どんな口紅を塗ったとしても。外交としてのジャングルの法則も同じだ。

アメリカ国務長官、ポンペオMike Pompeoは、トランプ政権の中で最新の閣僚だ。他国は自分たちで、トランプ大統領のアメリカ・ファースト、を導入するべきだ、と彼は論じた。条約や世界機構のように、何であれ、自国の主権を削ぐものは悪いものだ、と。

ポンペオの失敗は、その発言をブリュッセルで行ったことでも、外交を知らないことでもない。しかし、彼が攻撃する多角主義(諸国家による協力)をブリュッセルほど信じている都市はないし、その聴衆にBrexitを「ウェーク・アップ・コール」だと称賛するのは、いただけないが。

ポンペオの失敗は、彼が不可能なことを試みたことだ。彼は、アメリカ・ファーストを諸国がまねることで、新しいリベラルなグローバル秩序が登場する、と同盟諸国に訴えた。

しかし、ポンペオは何も触れなかったが、トランプはすでに、モスクワ、北京、ピョンヤンで、ナショナリストに賛成している。ポンペオによれば、それらの国はグローバル秩序に対する最大の脅威である。こうした敵と対決する最善の戦略が、多国間主義を捨てることだ、と彼は主張する。

EUや国連、IMF、世界銀行のような国際機関は改革すべきだし、破棄するべきだ、とポンペオは主張する。なぜなら、それらはわれわれの自由の足かせだから。「条約を多く結べば、われわれは安全なのか?」 「官僚が多いほど、職場は増えるのか?」 ポンペオの答えは、No だ。

しかし、彼の思想は事実に反している。32000人を動かす欧州委員会は決して巨大ではない。アメリカの退役軍人省はその10倍以上、377000人をを動かしている。アメリカ農務省は105000人だ。世界銀行の職員は1万人しかおらず、アメリカ内務省より少ない。IMF2400人、国連も44000人だ。

人々が求めるのは強固で頑健な国際合意だ。ポンペオは何も示さず。その代わりに、トランプが破棄した国際合意を列挙する。気候変動に関するパリ協定、イラン核合意、国際刑事裁判所、国連人権会議、長距離核兵器制限条約。次は世界貿易機構だ、と彼は示唆した。

トランプは中国の台頭を封じ込めたいと望むが、彼の反対の手はそのための手段を破壊している。

ブリュッセルがポンペオの演説に示した反応は、沈黙であった。


 マクロ経済の乖離

PS Nov 30, 2018

The Great Macro Divergence

JEAN PISANI-FERRY


 マクロンの実験と抵抗運動

FP DECEMBER 1, 2018

The Technocratic King and the Guillotine

BY JAMES TRAUB

自由化の実験が動揺している。マクロン大統領の支持率は26%まで低下した。特に、自然発生的で、指導者のいない、「イエローベスト」の抗議行動が大衆の不満の大きさを示している。

CNNのインタビューで、マクロンは、彼が採用する経済政策は支持されないだろう、と述べた。しかし、「少なくとも18-24か月で」プラスの効果が感じられるはずだ、と。彼はそれまで生き残ることができる。なぜなら、他の西側指導者が利用できない強みを彼は持っているからだ。彼に忠誠を示す与党議員たちが彼を支持している。そのような新人議員の1人は語った。抗議運動は、労働組合や主要政党など、従来の制度による代表制の危機である。

これまでのケースでも、フランスで自由化は支持されないことがわかっている。フランス人は、低成長、高失業の罠にはまっているが、ドイツやデンマーク、その他の北欧福祉国家で成功した労働法や税制の改革を受け入れない。有権者はマクロンに改革の権限を与えない。フランス人は共和主義を支持しても、市場自由化には反対する。

マクロンは、強い指導者であるが、聴く耳を持たない政治家であることが、ますます、はっきりした。彼はディーゼル税を諦めない。マクロンは、フランス人がド・ゴールの再生を願っている、と考える。フランス人は国王の不在を感じている。彼が目指すのは、テクノクラートと国王との間にある、「民主的英雄主義」の原理だ。しかし国民は、彼の思想も、そのスタイルも嫌う。

マクロンは、批判されるような、「ウルトラ・リベラル」な政治家ではない。アメリカのビル・クリントン大統領や、イギリスのトニー・ブレア首相、ドイツのゲアハルト・シュレーダー首相のような、1990年代の「第3の道」のチャンピオン、市場メカニズムと、目標に向けた政府支出との組み合わせを信じている。エネルギー転換、初等学校、基礎科学研究、職業訓練に投資するとマクロンは計画している。しかし、イエローベストの参加者が言うように、エリートたちが地球温暖化を心配するとき、「彼らは地球の終わりについて話すが、われわれは月末の支払いが心配なのだ。」

マクロンはもう少し人々の感情に沿った形で、スムーズな改革を選択するべきだろう。ディーゼル税、強いEUを求め、ナショナリズムの高まる状況でも、反移民や難民排斥を拒否する多角主義の声を上げている。だからマクロンがわれわれには必要だ。

FT December 2, 2018

Angry mobs in Paris represent a real threat to Emmanuel Macron

Jonathan Derbyshire

FT December 4, 2018

French riots could prove Macron’s biggest test

The Guardian, Tue 4 Dec 2018

Macron’s crisis in France is a danger to all of Europe

Natalie Nougayrède

ヨーロッパのために、冷笑や憎悪ではなく、マクロンには助けが必要だ。若い改革派の大統領、マクロンは「ヨーロッパのルネサンス」を約束していたが、急速に再び「ヨーロッパの病人」となりつつあるフランスで、闘いの中に自分がいることを発見する。

わずか3週間前、世界の指導者たちがパリの凱旋門に集まって、マクロンとともに第1次世界大戦の休戦から100年を祝った。もし「不幸な情熱」が、マクロンは何度も警告したのだが、フランスをとらえるなら、それは1人の政治家の失脚をもたらすだけでなく、この大陸全体を侵食するだろう。

この2週間のフランスの情景を、ある者は、1968年の蜂起が再現したと思うだろうが、より適切な類比は193426日である。その日、極右のナショナリスト集団がフランスの首都を行進し、警官隊と衝突して15人の死者が出た。この日の事件は、フランスに極右が広がる神話になった。

マクロンは確かに間違いを犯した。抗議デモの参加者たちは、たとえその表現が混沌に満ちていても、真に不満を示した。彼らは、パリのエリートたちが無視する「見えない人民」を自認する。彼らは自分たちの存在が見えるように黄色のベストを着た。世論は彼らに味方する。

しかし、フランスの危機は一層不吉な底流を示すものだ。ある人物は、反ムスリムを公言し、軍指導の政府が樹立されることを要求する。「なぜなら真の司令官、将軍、強権的指導者を、われわれは必要としているから。」

フランスの不安は3重だ。パワーや威信を失うこと。グローバリゼーションの経済的衝撃。「国民的なアイデンティティ」を失うこと。社会の諸集団が互いに闘っている。若者と老人、失業者と職のある者、地方と都市、資格のある者と教育のない者。こうした分断はどの国にもあるが、フランスが違うのは、平等主義の理想が共和国の歴史に実存的な意味を持つ点だ。

2017年の選挙で、マクロンは「革命」を約束した。国内の再建と、フランスの威信を、少なくともヨーロッパにおいて、高めるために。しかし今、大統領は国内で動けなくなった。もし解決策を見いだせないなら、EU選挙が、フランスにおいてはマクロンに反対する国民投票になる。

フランス社会の痛みは本物であり、対処されねばならない。しかし、集団的な破壊や街頭の暴力から利益を得る者たちは、われわれを地獄に突き落とすだろう。

NYT Dec. 4, 2018

Paris Burning

By The Editorial Board

フランスの暴力的な抗議活動、「イエローベスト」は、過去の騒乱と比べられる。特に、政権を倒した1968年だ。ド・ゴールからオランドまで、大統領たちは騒乱の犠牲となった。

1つの違いは、マクロン自身だ。18か月前に、まだ40歳にもならない人物が、5年の任期で大統領となった。しかし彼の改革は、特に、富裕層への課税をやめて、富裕層の不動産に課税したことは、彼のイメージを損なった。「富裕層の大統領」とみなされた。

燃料税のわずかな引き上げが、フランスの炭素排出量を減らすためだが、地方や郊外の人々に最後の一撃となった。彼らは、政府閣僚、官僚、労働組合、特に、彼らの経済的な苦境を無視して、裕福で、自己満足に浸るパリの政治階層を嫌った。

もう1つの違いは、騒乱の性質だ。ソーシャルメディアが騒乱を刺激し、拡大した。組織も、明確な主張もない。政府が対話を試みても、対話の相手はいなかった。非公式な話し合いに応じる者はいたが、他のイエローベストに脅迫されて、取りやめた。フィリップ首相は述べた。「私はこの怒りを聴き、その基礎、その力、深刻さを理解した。」

しかし、後退は危険な賭けである。抗議活動にとって、フィリップとそのボスは、パリで自動車を燃やすことでしか怒りを理解しない、と考える。彼らの要求は、今や、マクロンの辞任、議会の解散である。

確かにマクロンとその政府は、パリや大都市の外の人々にもっと配慮し、政策に関する説明を改善しなければならない。特に、貧困に苦しむ多くの人々の負担を減らすべきだ。しかし、ソーシャルメディアのパワーが、対話のメカニズムや抑制を欠いたまま大衆の怒りを動員するのであれば、リベラルな民主主義は崩壊する。マクロンと議会は18か月前に民主的に選ばれたばかりであり、フランス、EU、環境における改革は、その選挙公約であったし、フランスが必要とするものだ。

PS Dec 5, 2018

Will the Yellow Vests Reject the Brown Shirts?

BERNARD-HENRI LÉVY

The Guardian, Thu 6 Dec 2018

Macron’s politics look to Blair and Clinton. The backlash was inevitable

Larry Elliott

街頭を埋める暴徒たち。駅には炎が走る。パニックになってスーパーマーケットで買い占める。カオスの国だ。それはBrexit後のディストピアを示すイギリスではなく、反ポピュリズムの我流チャンピオン、エマニュエル・マクロンが居るフランスだ。

彼の公式写真は、ド・ゴールの戦時回想録を前にして、デスクに座っている。国民へのメッセージは明らかだ。私はド・ゴールのような、強い指導者になるつもりだ。私はド・ゴールのように、小さな政治にかかわらず、国益によって支配する。

マクロンがエリゼ―宮に着いたとき、新しい政治家と称賛された。しかし、彼は未来の政治家ではなく、過去の政治家たち、ビル・クリントン、トニー・ブレア、ゲアハルト・シュレーダーの伝統を継ぐ、最後の官僚国家型中道派である。

アンゲラ・メルケルの前任者が、マクロンの真のモデルであった。シュレーダーこそ、2000年に入って、厳しい労働市場と社会福祉の改革を行い、ヨーロッパ最大のドイツ経済の競争力を高めた。マクロンは、同じ処方箋がフランスでも機能する、と考えた。

1回投票では4人に1人の支持であったが、決選投票で大統領になったマクロンは、構造改革の権限を得た、と確信した。富裕層に減税し、解雇や雇用を容易にし、鉄道労組と闘った。反発は時間の問題であった。

当選後のハネムーン期に、マクロンは通貨同盟を強化するため、ユーロ圏の予算をユーロ圏が管理する改革を提唱した。それが成功するとしたら、ドイツがフランスを対等と見なすときだけだ。ドイツからの敬意を得るため、マクロンは、シュレーダーの下でドイツが採用した厳しい改革をフランス経済に求めた。

しかし、政治家たちは理解しなければならない。金融危機と10年に及ぶ生活水準の停滞は、政治的に何が可能なことか、決定する力を持った。望ましいものであるが、気候変動を抑える増税が実行可能であるためには、他の減税で相殺しなければ生活水準を低下させる。それは有権者が拒む緊縮策なのだ。

それはド・ゴールではない。マリー・アントワネットだ。「(パンがなければ)ケーキを食べたらいい。」

NYT Dec. 6, 2018

France’s Combustible Climate Politics

By Bret Stephens


(後半へ続く)