IPEの果樹園2018
今週のReview
12/3-8
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中国の社会統制モデル ・・・Brexit合意案の採決に向けて ・・・米中貿易紛争の取引 ・・・アフリカの脅威 ・・・金融政策とインフレ、保護主義 ・・・ロシアのアゾフ海支配 ・・・社会科学者 ロナルド・ドーア ・・・ホーム・故郷・母国
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 中国の社会統制モデル
The Guardian, Fri 23 Nov 2018
The Chinese export we really should
be worried about: repression
Simon
Tisdall
今週、香港で、民主化運動の指導的な活動家の裁判があった。中国が、習近平主席の下で、政治的多元主義や大衆の反政府的見解を、その最後の痕跡まで取り除くため、いかに恐ろしい事態を生じているか、その最新の例である。中国における弾圧の話は、悲しいことに、新しい話ではない。しかし、西側が過小評価していることは、その社会管理体制が共産党のみの独裁体制を拡大し、事実上、習近平たった1人の独裁を強化していることだ。
中国には、かつて一度も、善良かつ開明的な支配があらわれなかった。毛沢東ほどではないとしても、ケ小平でさえ1989年の天安門広場における弾圧をおこなった。胡錦濤は外交的に「平和的な台頭“peaceful rise”」を唱えたが、2013年にトップの地位を得た習近平に至って、再び、無慈悲で、執拗な、中国のパワーと影響力をグローバルに拡大する野心を明確にした。
習の中国式専制体制は、あらゆる即席の独裁者たちに魅力的モデルとなっている。ムハマド・ビン・サルマン、エルドアン、ドゥテルテと習との違いは、その全体的な組織と権力が個人に集中していることである。習は、政治局、軍、国家安全保障委員会、行政官僚において反対派を追放し、権力を固めた。市民グループ、メディア、インターネット、宗教や学術の機関でも、強い統制を行っている。習の超ナショナリストの思想は憲法に組み込まれた。
その負の側面は、香港の民主派裁判、ウィグルのイスラム教徒に対する「再教育プログラム」、チベットの占領とその後のエスニックや信仰に及ぶ抹殺、などが示している。それらについて習は謝罪することがない。かつて中国の指導者も国際的な非難を懸念したが、習は、利己的な西側の諸政府が中国に介入する心配はない、と知っているからだ。
習は、国内の組織的な弾圧、海外における経済的支配を目指すだけでなく、政治やガバナンス、社会管理体制に関するスターリン主義的な考えを、発展途上の、従属的な諸国に輸出しようとしている。中国の台頭は、資金やパワーの問題だけでなく、21世紀に民主主義的価値が生き残ることに挑戦しており、旧民主主義諸国は敗北しつつある。
● Brexit合意案の採決に向けて
The Guardian, Mon 26 Nov 2018
Get on with it? No, May’s Brexit
plan was a disaster from day one
Polly
Toynbee
下院での演説、国民への手紙で、テリーザ・メイは極めて不正直であった。牧師の忠実な娘であるが、彼女の案が議会で承認された場合、この国が失うものについて、彼女は知っていながら、真実を語らなかった。あらゆる方面から攻撃される彼女に、国民は同情して、彼女の支持率は上がっている。しかし、彼女はBrexitについてのすべての選択肢を示していないし、首相になって以来、かつて示したことがない。
彼女はこれを国民的な妥協として示す。国民への手紙で、「離脱や残留というラベルを影響に外そう」と呼びかけている。「私はこの案が国全体として再生と和解の瞬間になることを望む」と。その偽善には息が止まるほどだ。彼女の取引はそのどちらでもない。それはハードBrexitである。EUにおけるわれわれの優れた地位を棄てて、われわれをコントロールできない、地図のない運命に向かわせるのだ。その条件は何もわからない。
FT November 26, 2018
Why Theresa May’s Brexit deal
deserves support
Gideon
Rachman
何か月も、政治家や評論家は首相を激しく攻撃してきた。しかし、世論調査では、イギリス国民がメイ首相を見る目は温かいものになっている。その理由は簡単だ。この数週間、メイが示した姿勢は、イギリス人が称賛するときに語るものだったからだ。頑強さ、実用主義、打撃から立ち直る力。彼女は戦時中にマグカップに書かれていたスローガンを思い出させた。「冷静であれ。そして、日々の暮らしを続けよ。」
メイのスタイルは、この合意案を示している。それは、何が可能であるかを現実的に評価して、プラグマティックに妥協した案である。もし議員たちがメイと同じくらい冷静であれば、彼らはこの案を拒んで未来をでたらめな運命に委ねるより、議会で承認するだろう。拒否した後のカオスから魔法のように良い結果が現れると期待するのは愚かである。
離脱と残留の双方の強硬派が激怒している。しかし、それはメイが中間の道を選択したからだ。このBrexit案はイギリスの誰にも喜ばれないが、すべての立場に良いところを示している。それは、国民投票の結果を尊重し、離脱派の主要な要求を実現している。特に、移民政策に関して「コントロールを取り戻す」。またビジネス界の意見を聞き、できる限り貿易を摩擦のない形にして、経済的痛みを最小化する。そして強い圧力を受けながら、Brexit後のイギリスが外交・安全保障でヨーロッパに最も緊密な国になるよう、メイは交渉した。
中間の道を選択することは、この激しく分裂した国を再び1つにする試みである。この点こそ、私が最も重視することだ。私は残留派として、EU離脱により重要なものを失うと考えている。しかし、EU加盟よりも重要なものは、政治的安定性と社会の冷静さという、この国の伝統だ。私の記憶するいかなる事件にもまして、Brexitはそれを損なった。
● 米中貿易紛争の取引
PS Nov 26, 2018
Why a US-China Tariff Ceasefire Is
Coming Soon
ANATOLE
KALETSKY
今週、ブエノスアイレスのG20でアメリカのトランプ大統領と中国の習近平主席が会談することは、世界経済と金融市場の運命の分かれ道とみなされている。しかし、たとえサミットで合意が成立しなくても、米中貿易戦争は沈静化に向かうだろう。それには4つの理由がある。
1.矛盾するようだが、アメリカ政府のレトリックは国内の雇用から、中国の封じ込めを唱える反中国の主張、アメリカのヘゲモニーを脅かす中国の技術力を阻止する主張に転換したことだ。中国の習近平は、こうした冷戦2.0に対して敗北することができない。しかも、中国経済を減速してきたのは、貿易戦争ではなく、習近平自身が命じた銀行や地方政府の金融健全化、住宅バブルの鎮静化によるものであったから、こうしたアメリカの主張に対抗して国内経済を刺激する余地は十分にある。
2.トランプの政治的計算が変化した。2020年の大統領選挙前に米中貿易戦争で「大きな勝利」を上げるには、速やかに習と取引する必要がある。貿易戦争の第2段階は、有権者に不評で、アメリカ経済へのダメージが大きい。ケインズ主義が示すように、完全雇用のアメリカ経済が関税を引き上げると、国内雇用が増えるのではなく、物価の上昇や高金利を招く。
3.北朝鮮、メキシコ国境の壁、NAFTA再交渉といった、これまでのトランプ外交が示すように、トランプは攻撃的なレトリックを重ねて戦争の瀬戸際まで危機を煽り、そのあと、突如として戦術的な譲歩を示して交渉する。「大声で叫んで、白旗を掲げる」というスタイルは、矛盾し、不正直だが、トランプにとっては大成功であった。アメリカの国益にはならないが。G20で取引するか、あるいは、ブエノスアイレスで決裂した後、新たに関税を引き上げ、数週間か、数か月後に、首脳会談を開いて「大勝利として退却する」。
4.この停戦は、明らかに、中国にとって受け入れ可能で、トランプも満足する。習近平は、貿易不均衡の大きさ、知的財産法、アメリカ企業・金融機関への市場開放で、譲歩できる。中国封じ込め論が強調するような産業や技術開発への補助金については、2050年の中国の目標であり、トランプは2020年に起きることしか関心がない。
● アフリカの脅威
PS Nov 23, 2018
The African Threat
DAMBISA
MOYO
経済理論はアフリカが急速に成長することを示唆している。中国、インド、アメリカ合衆国、日本、ヨーロッパのほとんどを合わせたほど大きな大陸だ。世界の耕作可能な土地で、まだ耕されていない60%を含んでいる。ダイヤモンドの53%、プラチナの75%を埋蔵する。アフリカ諸国は銅や鉄鉱石の主要生産地である。世界の鉱物資源の約3分の1はアフリカが支配する。
アフリカ人口の中央値は19.5歳である。アフリカの人口は世界で最も若く、最も急速に増大しており、インドや中国にも勝る。
しかし、繁栄と長期成長をもたらす潜在力の実現は阻まれてきた。資源管理の失敗、腐敗した、あるいは間違った投資配分、革新不足、近視眼的な指導者、成長戦略の採用に対する抵抗、地域を超えた協力の失敗。集団的な組織化ができなかった。病気、戦争、持続する貧困がアフリカを苦しめた。
国際社会は、歴史的に、さまざまな戦略でアフリカに関与した。植民地主義、アメリカによる開発計画。1970年代に成長が失われると、IMFと世界銀行は安定化と「構造調整」プログラムを通じてアフリカの貿易と民間部門を促し、国家の経済的役割を抑制した。しかし、その成果は乏しかった。1990年代、ワシントン・コンセンサスを経て、2000年に入った10年には債務の免除、そして、中国からの投資に期待した。
各時代の楽観は失敗に終わり、西側の関与と投資は次第に減少した。確かに、自国における経済問題の理由に、西側がアフリカを放棄することは、無責任であり、深刻な危険をもたらす。伝染病、テロ、大規模移民の源泉として、アフリカはすでにグローバルな安定性を脅かしている。その脅威は気候変動によって強まるだろう。
アフリカの経済成長を刺激する諸条件は、同時に、世界的な伝染病の爆発的感染をもたらす実験室となる。かつてスペイン風邪は、わずか2年で、第1次世界大戦の戦死者の5倍の命を奪った。
暴力をもたらす過激派は、特殊な環境、特殊な条件で拡大する。腐敗した政府、内戦、国家の諸制度が崩壊している地域に、過激派は引き寄せられる。
アフリカの境界線は穴だらけだ。大規模な移民がアフリカで生じている。2017年、アフリカが世界に押し出した移民は3700万人であった。かつてヨーロッパから5000万人が移民として流出したが、それは1815-1930年の1世紀以上をかけて起きた。
気候変動は、伝染病、テロ、大規模移民を増加させるだけでなく、安全保障のリスクとなる。それは世界の危険地帯における政治不安を増幅する、強力な「脅威の乗数」なのだ。
アフリカに対する建設的な関与を再建するべきだ。もし成功すれば、世界経済は大きな報酬を得るだろう。利用されていない資源を得ること、活用されていない女性労働力の存在、中国が今や世界経済の15%、グローバルな成長の30%をもたらすように、アフリカが将来、同様の役割を果たすだろう。
関与の放棄は、歴史が教えるように、しばしば破滅をもたらす。第1次世界大戦の後、ドイツに連合諸国が犯したリスクを思い出すべきだ。西側はワイマール共和国に関与せず、腐敗、政治不安、ハイパーインフレーション、そして過激派が支持を拡大した。同じ条件をアフリカは、今、経験している。
第2次世界大戦後、ドイツは債務を負わず、アメリカが再建を支援した。国際貿易を回復させ、ナショナリストの過激派が広まるのを防いだ。それは、EUの中心として現在のドイツに実現している。同じ経験を、アフリカについて無視してはならない。アフリカにとっても、投資こそが長期的な解決策である。
● 金融政策とインフレ、保護主義
PS Nov 26, 2018
A Trade War is No Reason to Ease
Monetary Policy
JEFFREY
FRANKEL
貿易に対する混乱の拡大により、経済成長にマイナスの影響が予測される。それは連銀が緩やかに金利を引き上げる動きを止めるべきだ、ということになるのか?
その答えは、Noだ。金融政策は愚かな通商政策のダメージを緩和できない。
評論家たちは、成長減速は金融緩和を求めている、と言うが、保護主義は物価を引き上げ、金融引き締めを促す。貿易収支が悪化したことはサプライ・ショックである。巧みな金融政策で緩和できるのはデマンド・ショックである。サプライ・ショックには何の効果もない。金融政策の刺激は、(トランプの求めている)人為的な景気拡大の長期化でしかなく、その結果はインフレの加速だ。
アメリカでは小さくても、現在のUKにとって貿易の影響は非常に大きい。Brexitによるマイナスの影響が明白に現れていないのは、イングランド銀行の金融緩和があったからだ。しかし、2016年の国民投票はサプライ・ショックではなかった。混乱を懸念して投資が減少した、など、デマンド・ショックに対して金融緩和が効いたのだ。
イギリスが実際にEUを離脱する2019年3月は、そうではない。UKとEUは、恐らく合意し、あるいは、より望ましいが起きそうにない2度目の国民投票で離脱を取りやめるかもしれない。しかし、もしイギリスが、チャネル海峡で取引を開放する取極めなしに、結びつきは「粉砕」するなら、金融政策でGDPを維持することは不可能だ、とカーニー総裁は語った。
アメリカでもイギリスでも、他の諸国でも、通商政策は実質所得を減らしている。金融政策でその効果を相殺することはできない。有権者だけがそれを阻止できる。
● ロシアのアゾフ海支配
The Guardian, Mon 26 Nov 2018
Forget Brexit, war in Ukraine is the
biggest threat to Europe
Simon
Jenkins
イギリス議会が空転している間に、ヨーロッパが燃え始めた。ロシアとウクライナの紛争がアゾフ海に拡大し、ヨーロッパの過去が触媒となって、エスカレートしたのだ。大国は小国を侮辱するが、小国は行こう諸国からの外交、経済、そして軍事的な支援を期待し、軍事力で反撃する。
この4年間、ウクライナは旧来のプラグマティズムに従わなかった。すなわち、強力な独裁者と国境を接するときは、よほど注意して行動しなければならない。しかし、グルジアと同様、ウクライナで反共産主義政権が成立すると、NATO加盟へのアメリカの支持を期待した。バルチック諸国はすでに加盟していたからだ。
2014年、ウクライナで親西側の指導部が権力を得ると、モスクワはロシア語を話す東部地域で反乱を刺激した。その後、ウクライナのクリミアへロシア軍が侵攻した。今や、ウクライナ東部の港をロシアは制圧している。すでに数万のウクライナ人が戦死した。
日曜日、ポロシェンコ大統領は、ロシアと戦うためにウクライナと団結する同盟諸国に向けて、呼びかけた。クリミア侵攻後に、西側諸国は貿易、金融、旅行に関する寄せ集めの制裁を行った。しかし、いつものように、そのような武器は生産を妨げただけで、効果がなかった。制裁はむしろプーチンとその仲間の支配体制を強化した。ロシアは、国境線に並ぶ他国のロシア系住民を刺激し、西側諸国の選挙にサイバー介入を行った。制裁による貧困でロシアが屈する、というのはばかげた期待だ。独裁者は貧困を好む。
ヨーロッパは今やエスカレーションを止める集団的な交渉手段を持たない。連戦終結後、ヤルタもポツダムも更新されなかった。ロシアとの新しい条約は存在しない。
歴史はなお、1990年代に敗北と抑うつを味わったロシアに対して、1918年の後にドイツに対して取ったような姿勢で接している。東欧にあふれるポピュリズム、暴力の理解者としてプーチンをめぐる話題、緩んだ同盟関係、未熟な安全保障の約束。平和を指導する者も、監視する者も、護衛する者もいない。あるのはアナーキーだけである。
FP NOVEMBER 27, 2018
Ukraine’s New Front Is Europe’s Big
Challenge
BY CARL
BILDT, NICU POPESCU
「クリミア、ウクライナ、モルドバ?」 2008年8月後半、ロシア軍がグルジアの広範な地域を支配したとき、フランスのBernard Kouchner外相はロシアの次の標的を懸念した。ロシアのラブロフ外相は、「病的な想像だ」と応じた。後から見れば、想像力がまだ足りなかったわけだ。
日曜日、ロシアの戦艦がウクライナの船団に砲撃し、タグボートを拿捕する前に体当たりした。地上では戦闘が収まっているが、海上は全く異なる。ヨーロッパ安全保障の2つの新しい危機だ。1つは、航行の自由。もう1つは、ウクライナの経済安定性。
2014年、ロシアはクリミアを違法に併合してから、海峡の両側を実効支配している。それはアゾフ海における航行の自由、東部ウクライナへのアクセスを阻止できるほどの軍事的な能力を得たことになる。アメリカやヨーロッパの数カ国は、南シナ海における航行の自由を守るために真剣な努力を続けている。しかし、地球の反対側で、中国の安全保障に関する姿勢にヨーロッパが抗議することは、同様に、黒海やアゾフ海についてロシアに抗議することより簡単である。
ウクライナ東部の経済はアゾフ海のアクセスに大きく依存している。それを阻まれた場合、西部との輸送はインフラがないため、はるかにコストが高くなる。ウクライナに対する経済圧力は大きくエスカレートする。ウクライナとロシアだけでなく、ヨーロッパや中東との貿易も困難になる。
ヨーロッパとアメリカは多くのことをしなければならない。第1に、アゾフ海の航行の自由を守る外交的、シンボリックなウクライナ支援。第2に、ウクライナの経済的損失を補償する。東部ウクライナと他の地域を結ぶインフラに投資する。ヨーロッパ市場を開放する。第3に、全欧安保会議OSCEを域外の問題にも関与させる。バルカンからタジキスタンまで、ユーラシアの全域に及ぶ紛争監視を行う。
● 社会科学者 ロナルド・ドーア
FT November 27, 2018
Ronald Dore, sociologist, 1925-2018
Mari Sako
ドーアRonald Doreは傑出したイギリスの社会学者であった。そのあふれる知性を多くの分野で切れ目なく示した。その学識の広さと社会改革への熱意は秀でていた。
93歳でイタリアにおいて亡くなったが、彼は他の何よりも、日本研究者であった。ただし彼が日本と出会ったのは偶然である。彼は労働者階級の家に育ち、父親は機関車の運転士だった。1942年、17歳のとき、the
“Dulwich Boys”として奨学金を得たが、それはthe War Office戦争省が高等学校やパブリックスクールから学生を集めて、戦争に必要な言語を学ぶよう支援するプログラムだった。
ドーアは午前中、the School of Oriental and African
Studies(SOAS)で日本語を学び、午後は通常の科目にもどった。1950年に初めて日本を訪れ、人類学と社会学の手法で、徳川時代の教育、1950年代東京の都市生活、戦後日本の土地改革、に関して研究した。
1960年代、70年代は、伝統的社会が近代化に成功した、という日本に注目が集まった。ドーアはLSEとサセックス大学で比較産業社会学者になった。「後発的発展」や「逆収れん」という概念を駆使し、日本の西側へのキャッチアップを説明した。
ドーアは教育社会学者として、日本、その他の発展途上国における教育システムに関するILOの研究を担った。教育、若者の失業、職業訓練に関する彼の関心は、『学籍社会(病)』という画期的な著作となった。
イギリス産業の衰退や高い失業率を懸念して、ドーアは政策担当者やビジネス界の指導者が「日本を真剣に考えるべきだ」と要請した。それはeブックとなったが、副題には「主要経済問題に関する儒教的視点」とある。より良い、公平な社会制度の基礎として、固有の道徳心を(経済モデルに)求めた。
彼は「資本主義の多様性」を提唱した1人であったが、それは2000年の本(Stock
Market Capitalism, Welfare Capitalism: Japan and Germany versus the
Anglo-Saxons)にまとめられた。英米の会社法による企業モデルではなく、日本企業は共同体モデルであり、ダイナミックな効率性の改善による利益と、公平さの実現とが、日本企業には共存している、と主張した。
しかし、彼が警告したように、サッチャー=レーガンのネオリベラリズムは日本にも及び、アメリカで教育を受けた都市生活者が、日本型の共同体企業を破壊した。日本企業でも株主の利益を重視し、金融化が進むようになった。この転換に不満を繰り返し表明したドーアは、結局、イタリアに移住した。そこには、ネオリベラリズムに影響されない政治経済学者にやさしい、市民的な共同体主義がある、と感じたからだ。
社会を改善するために、人間の動機と行動を理解する、という社会科学の役割を、彼は確信していた。
● ホーム・故郷・母国
FT November 29, 2018
Martin Wolf and FT writers: what
home means to me
Martin
Wolf: definitions of home
ホームとは単に安全は場所ではない。それはその人を定義するものだ。
「住宅」や「フラット(アパート)」と違い、ホームは具体的なものではない。それは抽象的で、その人だけの意味を持っている。
ある人が「ホーム」と考える場所は、その人の歴史、アイデンティティ、人間関係を表現している。ホームがあることは、安全であるだけでなく、その人自身を決めることだ。それゆえ、ホームレスは絶望的な状態を意味する。
2つの定義の持つ広い意味で、私のホームはロンドンだ。Oxfordで学生であった6年間、ワシントンDCで、妻や2人の子供とも暮らした10年間を含めて、私のホームはロンドンだった。
Oxfordもワシントンも、私はOxfordを愛したが、私のホームではなかった。特にワシントンでは、私は根付かなかった。アメリカ人の住民の多くにとっても、ワシントンはホームではなかった。ワシントンの産業は、アメリカという外国の政府だけであったから。私はアメリカに住むことで、まさに人が外国人であることの意味を理解した。
ロンドンこそが、イングランドやUKよりも、私のホームである。私の父と母やヒトラーのヨーロッパを逃れた、それぞれオーストリアとオランダの難民だった。彼らは生き延びるためにイングランドに来て、2人とも親類などはいなかった。
私の父は、死ぬまでホームを持てなかった。しかし母は、ロンドンを彼女のホームと感じていた。私もそうだ。世界銀行で働いた10年の後、ロンドンに帰って、私はホーム(故郷)に帰ったことを知った。
厳密な意味で、2つの定義を満たすホームは、ロンドンのHampstead
Garden Suburbにある、愛する両親の下で、私が弟と育ったホームだ。その住宅はWilliam Morris風のデタッチト・ハウスだった。私は両親がそれを1950年代初めに4000ポンドで購入したことを知っている。その価格は当時の市場の上限であったから、リスクが高い、と両親は助言された。今、その住宅は200万ポンド近くする。
私は住宅価格がこれほど高騰していることにショックを受ける。私の考えでは、住宅はホームであるべきで、投資ではない。住宅価格が高騰することは、たとえ個人にとって良いことでも、この国にとって悪いことだ。
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The Economist November 17th 2018
The next capitalist revolution
Britain and the European Union: Into the
endgame
Japanese demography: Coping with the
100-year-life society
Opportunity zones: Oh, the places you’ll grow
Trade union and technology: Workers of the
world, log on!
Special report - Competition: An age of giants
The economics of chocolate: Sweet dreams
Rome v Brussels: Working to rule
Charlemagne: Where borders are the migrants
Britain and the European Union: Exit music
(コメント) 特集記事「資本主義革命」は、期待したような内容ではありません。競争が減って、企業は多くの利潤を得ていながら、雇用や技術革新は衰えている、ということです。さらに、IT企業の特殊な事情も加わります。基本的な姿勢は、競争を回復するべきだ、となります。
Brexit合意案がいよいよ議会で採決を迎えます。労働組合がネットやアプリを利用して復活できるか? イタリアの財政赤字問題。移民も、国境変更を繰り返した歴史も、ヨーロッパはEUで解決する希望を失いつつあります。
アメリカの「オポチュニティー・ゾーン」、西アフリカのチョコレート栽培、どちらも面白いです。
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IPEの想像力 12/3/18
大坂で2025年の万博開催が決まった、というのを歓迎するニュースが流れていました。大阪人はケチです。本当に、価値があると納得しないなら、この先も万博を歓迎するでしょうか? 維新の会の知事・市長は、中身のない安売りをしたと思います。
1970年の万博を見た記憶はほとんどないのですが、先日、万博公園の太陽の塔を観てきました。広大な会場跡の公園が、大きな無駄に見えたのは、2025年を予感させます。そして、なるほど、太陽の塔は面白かったです。
私の印象では、ウルトラマンやウルトラQの世界でした。手作りの仮想現実空間で、生命の樹が伸びています。次の大阪万博も、つかの間の饗宴だけで、誰もすぐに忘れ去るのではないか、と思います。
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「出入国管理法改正案」に反対する野党の姿勢には疑問があると思いました。移民を排斥する欧米のナショナリストや右翼の議論を野党が行い、おそらくは財界の要請を受けて、自民党がそれを避け、移民は排除するが外国人労働者を正式に受け入れる、という姿勢を示したことに不満を感じたのです。
外国人雇用の柔軟化、医療や年金、社会保障システムとの関係を明確にすることは、与野党ともに真剣に取り組むべき課題だと思います。
太陽の塔を観て、その帰りに、ちょろちょろする子供をあやしながら、若いお母さん2人が楽しそうに歩いているのを観ました。私も妻も小さな子供が大好きです。おそらく、日本人の多くがそうでしょう。外国人労働者ではなく、子供がたくさんいる家族、たくさん育ててくれる若い夫婦を歓迎してはどうでしょうか?
日本で育つ子供たちは、全くの日本人です(M.
Wolfの “Home” の定義を読んでください)。隔離されたゲットーの形成や、親たちの失業・貧困、学校での差別など、欧米で観られる深刻な諸問題を日本側が積極的に解決する姿勢を示すなら、きっと素晴らしい日本人になるでしょう。
自分たちが歳を取って、老人ばかりが住む施設で暮らすことの寂しさを、ふと考えてしまいます。子供がいないなんて、面白くない、楽しい話題もない、いびつな社会です。
1.日本語の習得。
2.超高齢化。
3.日本型資本主義の再生と拡大。
ロナルド・ドーアが亡くなり、改めて日本型資本主義を考えました。ドーアがその遺著ともなる『幻滅』を書いたことが、とても残念です(これもReviewの訃報を参照)。
ゴーンなど経営者の高報酬を正当化し、株主利益を強調するより、女性や外国人にも開かれた形で「日本的雇用システム」を再生し、諸外国にも拡大するなら、移民の受け入れや子供を育てる労働者家族の数が増えるでしょう。
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入管法改正案をネットで検索する中で、BLOGOS「議会の自殺行為を与党が繰り返していることを危惧している」という枝野代表の国会内記者会見を読みました(動画もあります)。
https://blogos.com/article/342040/
The Economistの記事(Macron’s
lomg march)に、フランスのマクロン大統領が、毛沢東の長征にも似た、ヨーロッパ議会における自党派の結集を試みている記述があります。その記事の冒頭に、第1次世界大戦の銃声が止んだ11月11日を記念した、マクロンの演説が引用されます。睨み付けるトランプ大統領や感情を表に出さないプーチン大統領など、世界の指導者たちを前に、「これ(われわれが記念式典に集まったこと)は諸国民間の平和が続くシンボルなのか?」 あるいは、「世界は新しい無秩序に向けて暗黒に落ち込む最後の瞬間にあるのか?」と問いかけた、と書きます。これこそ、マクロンがヨーロッパ議会選挙を意識したアピールでした。
ヨーロッパ政治の再編を目指し、トランプもプーチンも利用するマクロンの豪胆さとともに、私は枝野幸男(立憲民主党代表)の的確な発言、前向きな姿勢に、新鮮な感動を覚えました。日本の政治は貧困ではない、日本は変わる、と私は思います。
外国人観光客ではなく、移民家族の子どもたちが日本に活気をもたらし、アジア諸国にも日本型資本主義の平等な豊かさ、社会的公平性がもたらされる。
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