(前半から続く)
● トランプ外交
NYT Nov.
17, 2018
The
Dangerous Naïveté of Trump and Xi
By Nicholas Kristof
FT
November 19, 2018
A deal
between Donald Trump and Xi Jinping will not last
Gideon
Rachman
マルクス主義、リアリスト、歴史の偶然を信じる立場が、それぞれ米中関係の危機を説明する。
マルクス主義によれば、企業の利益が支配的であり、米中の紛争は速やかに和解するだろう。他方、リアリストによれば、既存の大国と新興の大国とは衝突に向かう。それは軍事的な対立を含むから、貿易戦争も終わらない。歴史の偶然を信じる立場からは、いかなる一般理論も正しくない。
そして、トランプこそは、歴史の偶然が支配することを体現したような指導者だ。
PS Nov 20,
2018
Global
Conflict in a New Age of Extremes
SHLOMO BEN-AMI
PS Nov 21,
2018
US Foreign
Policy After the Midterm Election
ANNE-MARIE
SLAUGHTER , ELMIRA BAYRASLI
PS Nov 21,
2018
Europe
Finally Pulls the Trigger on a Military Force
HANS-WERNER
SINN
トランプはNATOの相互防衛義務を支持せず、イランとの核合意を一方的に離脱し、イランに対する貿易制裁を導入して、それを他国にも強制するために取引するものをドルの金融決済システムから切断すると脅した。また、ロシアからドイツに及ぶ天然ガス・パイプラインを非難し、ドイツとフランスの指導者を怒らせた。
ヨーロッパで続く経済問題は、懐疑論やナショナリスト政党を強めており、イギリスのEU離脱で統合論が失速している。それゆえ、トランプの言動はヨーロッパにとっての思いがけない支援となるだろう。なぜなら、ヨーロッパの防衛負担が少なすぎる、というトランプの非難に対して、独仏の指導者たちは、ヨーロッパ統合軍を創ろうと動き始めたからだ。
PS Nov 22,
2018
Are EU Troops
on the Way?
CARL BILDT
● 韓国経済
PS Nov 19,
2018
Saving
South Korea’s Economy
LEE
JONG-WHA
中国企業との競争や成長減速で、韓国の経済は悪化している。韓国経済の問題を解決する道を、ムンジェイン大統領はもっぱら南北協力に観ている。しかし、北との永続的な平和を達成することはむつかしい。国内では、政府による再分配政策、すなわち、賃金引き上げや社会保障の整備が中小企業を苦しめている。南北協力より、構造調整による生産性の上昇を進めるべきだ。
FP
NOVEMBER 21, 2018
Washington
Scrambles to Slow Seoul’s Roll
BY ELIAS GROLL
PS Nov 22,
2018
How Kim
Has Played Trump
KENT HARRINGTON , JOHN WALCOTT
● 中銀とデジタル貨幣
PS Nov 19,
2018
Why
Central Bank Digital Currencies Will Destroy Cryptocurrencies
NOURIEL
ROUBINI
中央銀行によるデジタル通貨central
bank digital currencies (CBDCs)の発行が、IMFでも検討されている。現金の利用が減少し、スウェーデンや中国では、ほとんど消滅した。デジタル決済システムが、かつて商業銀行の担ったサービスを提供している。
中央銀行が発行する暗号通貨(仮想通貨)とブロックチェーンに基づいて、民間銀行システムを改革する道が考えられている。
FT
November 23, 2018
Bitcoin’s
crash is not the end of cyber currencies
● G20
FP
NOVEMBER 19, 2018
Globalization’s
Government Turns 10
BY
ADAM TOOZE
10年前に、G20は初めて姿を現した。グローバリゼーションを集団統治する組織として、G20がそれにもっとも適当なシンボルとなった。
アメリカの選択は、金融危機の原因としてアメリカが責められることを嫌い、国連から切り離して、グローバルな問題に対処する、アメリカが主導する組織を得たかった。英仏も話し合っていた。G8とBRICS、それに数カ国が加わった。アメリカは米中G2に代わる新時代を求めた。
● 感謝祭
FP
NOVEMBER 21, 2018
10 Things
in the World to Be Thankful for in 2018
BY STEPHEN M. WALT
NYT Nov.
21, 2018
No Money.
No English. But America Welcomed a Young Foreigner.
By
Nicholas Kristof
今年の感謝祭で私が挙げたい事実の1つは、100年前に、今のウクライナで生まれた男に、アメリカが示してくれた温かい歓迎である。
その男、Wladyslaw
Krzysztofowiczは、危険な土地のアルメニア人家族に生まれた。それは、その時代のホンジュラスだと思えばよい。第2次世界大戦中、家族の何人かはナチスに殺された。また戦後は、生き残った何人かがソ連の「解放者たち」に殺された。
Wladyslawは、ダニューブ河を泳いで渡り、ルーマニアからユーゴスラビア連邦へ追放されたようなものであり、さらにフランスへ向かった。アメリカへ行く、という彼の夢が始まった。
それが私の父である。偽装結婚など、違法な手段も試みたが、最終的に、オレゴン州、ポートランドの長老派教会the
First Presbyterian Churchが、父はカソリックで、英語を話せず、アメリカの敵である共産主義国家の出身であったにもかかわらず、引き受けてくれた。
彼を引き受けない理由は多くあったはずだ。アメリカまでの渡航費用を支払い、英語を話さなくてもよい職を探し(最初は木こりになった)、しかも、驚くべき寛大な仕方で、これらを行った。
1952年に、私の父が乗ったマルセイユという船がニューヨーク港に近づいた。ボストンに暮らす白髪の夫人が、彼に話しかけたが、父は彼女の言葉を理解できなかった。夫人は、小さな紙に、自由の女神像に刻まれた有名な文句を書いた。“Give
me your tired, your poor, your huddled masses yearning to breathe free. …”
「これを記念にしなさい、若い人。」 そう言ってから、彼女は訂正した。「アメリカ人の若者。」
父は、まだ上陸もしていない自分が「アメリカ人の若者」として歓迎されたことに、感動した。彼はその紙を財布に入れて何年も持ち、新しい母国の価値観を偲んだ。
もちろん、苦労はあった。だれもかれの名前を読めなかった。彼は名前を短縮して、Ladis
Kristofとした。英語を学んで、リード・カレッジ、そしてシカゴ大学に奨学金で通った。最終的に、彼は大学教授になった。
私は、難しいアクセントの移民を歓迎してくれたアメリカ人に感謝する。この寛大さが、他の脅威に打ち勝ったことに感謝する。すなわち、the
Know-Nothings, the anti-Catholic riots, the Chinese Exclusion Act, the
exclusion of Jewish refugees like Anne Frank, the internment of
Japanese-Americans, the Muslim ban and this year, the separation of immigrant
families at the Mexican border。
確かに、移民は複雑な問題だ。国境を開放して、すべての移民を受け入れることはできない。さまざまなトレードオフがあり、線を引くことは難しい。政策に関する論争が必要だ。それはシリアやホンジュラスからの難民を悪者にすることではない。両親から子供たちを引き離すことでもない。彼らを支援したソーシャルワーカーやボランティアに感謝する。
私の父は2010年に死んだ。彼は100歳の誕生日に、新しい母国が国境に軍隊を派遣し、「侵略者たち」と戦う政治劇を見ることはなかった。私は父が、外国人の人間性を認めるアメリカ人の時代にここへ来たことに感謝する。
私たちすべてが、父の出会ったボストンの夫人のようであればいいのに、と私は思う。
NYT Nov.
21, 2018
Thanksgiving
Turkey and Raita in Texas
By Mallika Rao
● 難民キャンプ
FP
NOVEMBER 22, 2018
Refuge,
Reformed
BY ALEXANDER BETTS
ケニヤの難民キャンプKakumaは、世界の難民の1%でしかないが、2016年の難民によるオリンピックの半数を占めた。Kakumaは人口規模でケニヤ第11番目の都市であり、5620万ドルの経済活動を生み出している。
それは完ぺきとは程遠いけれど、グローバルな難民問題への革新的解決策を示している。現在、世界には故郷を離れた難民たちが6850万人も存在し、それはフランス(6740万)、UK(6510万)、イタリア(6220万)の人口より多い。その多くは自国内にいるが、およそ2540万人は国境を越えて逃れた。その中で約85%が低所得・中所得の、特にアフリカにいる。
Kakumaは、援助に頼らない、自律的な難民キャンプを目指した。それは市場型の、地域のコミュニティにも有益な存在である。
● デジタル大企業の分割
The
Guardian, Tue 20 Nov 2018
Break up
Facebook (and while we're at it, Google, Apple and Amazon)
Robert
Reich
19世紀後半のアメリカにおける金ぴか時代は多くの技術革新で始まった。鉄道、鉄鋼生産、石油採取。その時代は「泥棒貴族」と呼ばれた大富豪たちの巨大なトラストにおいて頂点に達した。彼らは富と権力を駆使して競争相手を退け、アメリカ政治を腐敗させた。
われわれは今、第2の金ぴか時代に入っている。半導体、ソフトウェア、インターネット。それらは一握りのハイテク大企業を生んだ。FacebookとGoogleが広告を支配し、多くのアメリカ人がニュースを観る最初のサイトになっている。Appleがスマホとラップトップ・コンピューターを支配し、Amazonは、アメリカ人消費者の3分の1が、物を買うとき、最初に観ている。
こうした事態はアメリカ経済に2つの根本問題を生じた。1.技術革新を妨げている。2.政治的な影響を増大させている。それはAmazonの第2本社選択や、Facebookのデータ処理で、濫用が指摘されている。
テディ・ルーズベルト大統領がJP Morgan
and John D Rockefeller の融資する巨大鉄道トラストthe Northern Securities Company を追及し、最高裁が解体を支持した。W.H.タフト大統領がRockefellerの Standard
Oil empireを解体した。
反トラスト法を使うときだ。ハイテクの巨人たちを解体せよ。少なくとも、彼らの略奪的な技術やデータを公開して利用可能にすること、そのプラットフォームを零細な競争相手にも共有させることだ。
FT
November 21, 2018
Congress’s
new intake use their online influence with voters
Courtney Weaver
● 日産のゴーン逮捕
FT
November 20, 2018
Ghosn
arrest sparks fears for global car alliance
Peter Campbell, Motor Industry
Correspondent
FT
November 20, 2018
Hubris is
an ever-present risk for high-flying chief executives
指導者は去る瞬間が重要だ、とゴーンCarlos
Ghosnは6月FTに語った。
月曜日、かつて彼が助けた自動車会社である日産は、突然、「多くの、重大な」不適切行為、・・・会社の資産の私的流用、過少記載を含む、罪により、彼を告発した。ゴーンの評価は、日産、三菱、ルノー、3社の連携を維持する役割として高まった。日本における栄光からの失墜はとりわけ目を引く。
1990年代、彼はルノーを立て直し、「コスト・カッター」というあだ名がついた。1999年、同じ手法で、傾いていた日産を立て直した。日本人は彼を称賛し、彼の生涯を描くマンガや、顔を形どった弁当箱まで登場した。
しかし、ゴーンの経歴は、多くの同様の経歴を持つビジネスの指導者たちが、傲慢さ、という間違いを犯すことを示している。個人ジェットで地球規模に移動するエリートたちの絶頂期は、貿易摩擦によって、終わったのだ。人々は彼らの高額な報酬、高級住宅、ライフスタイルにも寛容でなくなった。
政治家たちの生涯と似て、多くの企業重役たちの最後は失脚に終わる。イラルスのように、彼の社用ジェット機は太陽に近づきすぎたのだ。
FT
November 21, 2018
Carlos
Ghosn was planning Nissan-Renault merger before arrest
Peter Campbell in London and Kana Inagaki
and Leo Lewis in Tokyo
PS Nov 22,
2018
When
Leaders Won’t Leave
BILL
EMMOTT
ゴーンの失脚は歌舞伎のようだ。しかし、それはドイツの要素を加えた、ギリシャの古典的悲劇にさらに似ている。メルケルの失脚と重なってくる。
どれほど素晴らしい経営者や政治指導者でも、その力を過大評価し、その地位に長くとどまるなら、破滅のリスクを冒すことになる。ゴーン逮捕の教訓とは、1.日本企業に対する厳しい監視の目が示された。しかし、2.日本の大企業の監査やコーポレート・ガバナンスはまだ弱い。それは改革を推進した安倍首相の中身にも疑念を生じる。3.日本人経営者たちは、合併に向かうのではなく、日産・ルノー・三菱の企業連携におけるバランス・オブ・パワーを変更しようとしている。
企業の重役たちは、その企業の所有者でない限り、永久にその地位にとどまれない。退任後の計画を準備するべきだ。ゴーンも、メルケルも、その点で間違った。
● インド準備銀行
FT
November 21, 2018
Narendra
Modi should trust his central bank’s tactics
John
Gapper
FT
November 22, 2018
How the
rise of shadow banking fed India’s ‘clash of egos’
Simon Mundy and Henny Sender in Mumbai
この1か月、インド準備銀行RBIはかつてない政治論争に巻き込まれた。それはインドのノンバンク部門が急激な流動性不足に陥ったことで始まった。
インドのドラマは、アメリカからトルコ、日本に及ぶ政治指導者が、金融当局に成長を重視するよう圧力をかける、最近の傾向と一致する。
● 新興市場とドル
FT
November 21, 2018
Emerging
market fortunes do not pivot off the dollar
Jonathan Wheatley
● 労働組合
FT
November 21, 2018
Trade
unions seek role in age of automation
Sarah O’Connor
YaleGlobal,
Thursday, November 22, 2018
The Higher
Education Learning Crisis
Richard H. Hersh and Richard Keeling
● ロシアのエリート
NYT Nov.
21, 2018
When
Russia Was Full of Hope
By Maria Antonova
NYT Nov.
22, 2018
What
Drives the Russian State
By
Alexander Baunov
ウラジミール・プーチンが2000年に権力を握ってから、その体制をめぐる内外の分析は2つの解釈に分かれた。1つの理解は、ロシアはマフィア国家であり、主要な目的な支配エリートが自国内で盗んだ金を海外へ持ち出す、というものだ。もう1つは、プーチンがその支持率を維持するためにロシアの内外において何でもやっている、と。
しかし、これは現実と一致しない。ロシアのエリートは、自分たちの利益にならないプーチンの軍事的冒険を、シリアでもウクライナでも、支持している。また、プーチンは支持率が下がると分かっていながら、年金改革を実行した。
その背後にあるのは、ロシア・エリートのグローバルな野心である。ロシアはフィリピンでも、グアテマラでもない。プーチンとその仲間は、ロシアが世界において、経済的、軍事的、政治的に、大国であることを願っている。それはロシアの規模とその歴史から生じるものだ。
またプーチンは、これまでの指導者よりも、ロシア・エリートの富を国家による資金とパワーで強く保護した。エリートたちはロシアが強くなることは、自分たちを守る国家の力が強くなる、と支持している。ロシアは西側に追いつくことも、西側を圧倒することもできない、と彼らは理解している。それゆえ、西側に代わる秩序を求めるのだ。
● ポピュリズム
The
Guardian, Thu 22 Nov 2018
How
populism became the concept that defines our age
Cas Mudde
PS Nov 22,
2018
Nationalists
of the World, Unite?
KEMAL DERVIŞ , CAROLINE CONROY
● 東南アジア
FT
November 22, 2018
Superpower
rivalry puts the squeeze on south-east Asia
● 化石燃料からの転換
FT
November 22, 2018
A
zero-carbon economy is both feasible and affordable
Adair
Turner
化石燃料は200年以上も繁栄を支えてきたが、今ではエネルギーの80%を占めている。しかし、二酸化炭素の排出が気候変動をもたらす脅威は深刻だ。それを回避するために、われわれは2060年までに純排出量をゼロにしなければならない。
それは無茶なように思うだろうが、小さな経済的コストで実現可能である。問題は、実行できるかどうかではなく、政府、産業界、消費者が必要な行動をとるか、である。
PS Nov 22,
2018
Climate
Change, Markets, and Marxism
ADAIR TURNER
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The Economist November 10th 2018
European
defence: EU and whose army
Gene drives:
On the extinction of species
Gene drives:
Extinction on demand
Chaguan:
Respecting their elders
The politics
of urbanization: Vexed in the city
Libya’s peace
process: Too many cooks
NATO: War in a
cold climate
Charlemagne:
Between the tracks
Bagehot:
Peterloo v Waterloo
Schumpeter:
India’s shadow-banking crisis
Free exchange:
Rome alone
(コメント) 遺伝子操作で、人間を害する生物種を根絶することができる、と知りました。マラリアを媒介する蚊が対象になるかもしれません。反対する声もあります。人間が生物種をアレンジする、神の役割を果たすこと、意図しない結果が起きること、周辺諸国や地球規模の影響がある、と懸念されます。それは、民間企業にも簡単に利用できる技術であり、医療や農業を大きく変え、軍事的な生物種の操作も行われるでしょう。
アフリカにおける都市化と民主化の影響が紹介されています。人口の半数が20歳以下である大陸で、政治家たちは老人ばかり、都市の貧困層を無視して権力を手放しません。「もし議会がスラムに来ないなら」と、当選した若い政治家は貧困地区で語ります。「スラムが議会に行くだろう。」
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IPEの想像力 11/26/18
ウクライナとクリミアの領海に関するロシアの武力行使。台湾を屈服させるための中国政府のさまざまな圧力と政治介入。
日本がロシアとの領土返還交渉を進めようとしたとき、クリミア周辺の支配海域で軍事力行使に及ぶロシア政府の意図は、決して無関係とは思えません。クリミアを自国の領土に編入し、ウクライナ東部では戦争状態を維持し、シリアへの軍事介入では政府との関係やロシアの軍事基地を温存しています。
ロシアの各国選挙介入や、軍事的・政治的な侵透は、トランプのNATOに対する義務の軽視やヨーロッパの防衛費負担に対する非難とともに、EUの積極的な経済・金融的自立、そして、集団的なヨーロッパ軍の整備を促しています。
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大杉峡谷へ行きました。最初に峡谷の山道を歩いて、その魅力に感動したのです。
かなり直前まで、行くかどうか、迷いました。しかし、学園祭の期間に、講義がない時間を何かに費やすとしたら、秋の峡谷を歩いて気持ちをさっぱりするのが一番良い、と思いました。
早朝から英字メディアのサイトでコラムを集め、いつもより少し早く降りて、朝食を作りました。
かなり以前から、早起きは少しも苦にならなくなったので、サラダを作って、トーストと食べました。ザックに入れるヘッドランプや小型懐中電灯、バッテリーなども確認しました。
秋の山道は、それでなくても日が早く暮れるのに、おそらく昼間でも暗いのではないか、と不安でした。前回の1日目は、暗くなり始めた5時頃に、ようやく山の家に着いたのです。
あんパンやジュースと着替えくらいしかなくて、中身の詰まっていないザックを担いで、バス停に向かいました。予報通り、冷たい空気の気持ちよい、晴天でした。
駅で特急券を購入し、座席に落ち着いたら、The
Economistを出して読むつもりでしたが、山並みが見え始めると、記事を読むより、車窓の眺めを楽しむ方が多かったです。電車は三重県を目指し、松阪でJRに乗り換えて、10時前に、私は三瀬谷駅に着きました。
松阪駅の乗り換えは同じ駅舎内で、わざわざ駅を出る必要もなかったのを知らず、改札口で切符を買い直したり、ホームを確認したりしました。すでにホームでは、数名の若者たちが登山靴と大きなザックで目立っていました。山を楽しむ子供を連れたお父さんもいました。
列車はさらに山間に入って走り続けました。のどかな、あるいは、人家の途切れたさびしい景色に、畑や林が増えました。都市で働く、人々の貧しさも苦しいでしょうが、田舎の生活がもっと充実していたら、きっと人は田舎に帰ってくるでしょう。
田舎が豊かであれば、労働者たちの生活も豊かになるのではないでしょうか?
三瀬谷駅に着くと、皆、登山バスが来る「道の駅」を探して歩き始めました。私も記憶を頼りに、細い近道をたどり、おじさんに確認して進みました。歩くうちに、なるほど、ここに来たことがあったな、と思い出しました。
****
山に精霊が棲むとしたら、深緑の清流や滝つぼの中でしょうか。
効率や経済価値で換算することができない、美しい自然や静かな充足感を、山歩きに求める人は多いでしょう。確かに、登山客を相手にする食堂や旅館はさびれて、閉じたところも多いと思います。観光で町おこしや地域の活性化を図るというのはなかなか難しいのです。
農業や、自然を相手にするビジネスには、繁閑の差があります。それゆえ田舎は、しばしば出稼ぎや、さまざまな副業のしくみを発達させてきたのでしょう。巨大な観光ビジネスではなく、もっと小規模な、家族や個人のビジネスがふさわしいかもしれません。
****
登山口から少し入ると始まる鎖場は、川面から10メートル? も高い場所に、岩山の側面を砕いた歩道が続いています。大杉峡谷の印象的な入り口です。
多くのつり橋を超え、大小の滝を眺めて、私は自然の中に入り込みました。ときどき、ふわっと思い出すような景色があって、薄暗い山道の不安を消してくれました。途中、何度か、ご夫婦で進む登山者が前方に見え、勇気づけられました。お2人は本格派の登山者で、山の家でも食事は自炊しておられたことを知り、驚きました。
大きな滝の見える休憩所では、見知った登山者がいて、あいさつしました。
私は、山が怖いです。文明や仕事から逃れても、完全な自然に親しみを感じることはないのでしょう。夜の闇や寒さ、一人でいることは嫌いです。しかし、峡谷の山歩きはランニングやマラソンの延長です。自分のリズムを取り戻したい、と願うのです。
グローバリゼーションのもっとも人間をさいなむ点は、自分が歩いてきた道、そして、進むべき道を、見失わせることでしょう。
午後3時半を過ぎたころ、すでに夕闇のような薄暗さが周囲に広がり始めていました。しかし、私は山の家が近づいたことを確信しました。もう大丈夫だ、と、うれしかったです。前にいた、とぼとぼ歩く男性にも声をかけ、もうすぐですね、と話し合いました。途中で追い越したお2人の登山者が追いつき、ほぼ同じころに受付で記帳しています。
これが夕食券、これが朝食券、と渡してくれました。先ほど話した男性と一緒に、スタッフの案内で布団の位置を確かめました。ここでは蛇口からたっぷりおいしい水が使え、お風呂ももうすぐ沸く、という話です。夕食までは、汗でぬれたズボンや服を干して、休憩でした。
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NYTのコラムニストが、感謝祭に寄せて、自分の父親のことを書いています。1人の男が、世界戦争や東欧の難民としての経験から、フランスを経て、アメリカの移民として受け入れられます。お金もなく、英語も話せない、彼を受け入れてくれたアメリカと、その時代、彼に自由の女神が示すアメリカの理想を教えてくれた夫人に、感謝します。
日本は、ロシアとも、韓国とも、中国とも、領土問題を含む戦後処理を続けています。「東アジア」であれ、「インド・太平洋」であれ、歴史の記憶はさまざまです。互いの領土や安全保障を確認し、共有できるまで、法の秩序や市場の繁栄を広め、維持することが指導者たちには求められるでしょう。
排外主義や海外旅行者の経済効果を超えて、日本でも地域の安全保障が構想されるでしょう。
各地の山小屋で、異なる国の人たちが、静かに自然の美しさを楽しむ時代になるかもしれません。
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