IPEの果樹園2018

今週のReview

11/19-24

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中間選挙と民主党 ・・・トランプ外交 ・・・自由貿易とコミュニティ ・・・暗号通貨による歴史的収奪 ・・・AmazonNYC ・・・中国における金融リスクの管理 ・・・ハイテク大企業と社会秩序 ・・・イタリアと欧州委員会の妥協 ・・・Brexit合意案の採決

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 中間選挙と民主党

NYT Nov. 10, 2018

A Defeat for White Identity

By Ross Douthat

2016年の大統領選挙でトランプは2つのポピュリズムを売り込んだ。1つは、白人部族主義・外国人排斥である。オバマの出生証明を疑う主張に共鳴し、移民を犯罪者、イスラム教徒をテロリスト、都市有権者を詐欺と呼ぶ。

もう1つのポピュリズムは、脱工業化によって傷ついた労働者階級を狙った、経済的利益の約束だ。労働者たちの資格を守り、オバマケアよりも優れた社会保障を与えると約束し、雇用から犯罪まで、反移民と結びつけた。巨額のインフラ投資と通商交渉で、ブルーカラー労働者たちの雇用を取り戻す、リバタリアンに傾いた共和党を「労働者の政党」に変える、と約束した。

この組み合わせは大統領選の勝利につながったが、絶え間ない論争を生じた。トランプのポピュリズムは、人種なのか、経済なのか? その答えはその他の問いに関係している。部族主義的でない政治的連携は可能か? 民主党は労働者階級を取り戻し、共和党はエスニックを超えたナショナリズムに訴えるのか? あるいは、われわれは永久に、諸政党の人種的な分断に苦しまされるのか?


 トランプ外交

FP NOVEMBER 9, 2018

America’s World War I Déjà Vu

BY MICHAEL HIRSH

アメリカのドナルド・トランプ大統領は知らないだろうが、彼がパリに飛んで第1次世界大戦の終結100周年を記念する式典に参加するとき、彼はロッジHenry Cabot Lodgeの遺志を継いでいる。

1世紀前、ロッジは上院の多数派を事実上指導する者として、アメリカの参戦を決めた。しかし、戦後の数年で、アメリカは急速に孤立主義に回帰したのだ。共和党の対外関係委員会議長として、ロッジはウィルソン大統領の国際連盟を否決するために闘った。ウィルソンも、いかなる妥協も拒んだのだ。ロッジの闘いはアメリカを世界から引き離すことにつながった。それは1930年のスムート=ホーレー関税法に至る。

マクロンは、パリの平和フォーラムで、国際連盟に至った1919年のパリ平和会議を踏襲した。ここでは、諸国や諸コミュニティが、集団行動、マルチラテラリズム、共通の公共財に対する良好な監督が、共通の挑戦に立ち向かい、平和を維持する最善の方法だ、と今も信じている。

そしておそらく、トランプとボルトンがこれ以上に嫌う主張はないだろう。

確かに、ロッジに類似した、国際システムを受け入れようとしない多くのアメリカ人が常に存在する。トランプは、伝統的なネイティビズムに力を与えている。国連、その他の国際的なガバナンスの失敗は、歴史上最悪の戦争に至り、推定6000万人の死者を出した。

FP NOVEMBER 14, 2018

Trump’s Problem in Europe Isn’t Optics

BY STEPHEN M. WALT

トランプの失敗は、中国の貿易ルール違反を攻撃したり、ヨーロッパの防衛負担を要求したりすることではなく、それを達成するやり方を間違っていることだ。トランプの外交は「原始人のリアリズム」であって、すべてが敵の世界で、強い力を行使する者が有利な方法だ。しかし、友好諸国や、問題に応じて連携する必要がある世界では通用しない。むしろ破滅的である。

こうしたやり方を好むのは、トランプが国内政治で成功した経験から来ている。共和党でも、大統領選挙でも、ホワイトハウスでも、トランプは敵を決めて、嫌がらせを行い、打倒してきた。アメリカ人の多くは怒りに駆られており、トランプはそれを恥知らずに利用している。


 自由貿易とコミュニティ

PS Nov 9, 2018

Reclaiming Community

DANI RODRIK

経済学は、個人の厚生を、その人が消費する財の量と種類によって測定する。消費の可能性は、新技術、分業、規模の経済、移動性を用いる企業によって与えられる。消費が目標であって、生産はその手段である、と。コミュニティではなく、市場が分析の単位であり、対象だ。

こうした消費・市場中心の視点が多くの成果をもたらした。しかし、明らかに何かが間違っている。私たちの社会で、経済的・社会的な分断が起きている。アメリカ、イタリア、ドイツのような開発世界でも、フィリピン、ブラジルのような発展途上の世界でも。

ローカルな工場が閉鎖される。企業が国境の外にサプライヤーを求めたからだ。数百、数千の職場が失われ、海外に移転される。その衝撃は、ローカルな財・サービスへの支出が減ることで増幅される。ローカルな労働者と企業のすべてが打撃を受ける。政府も税収を失い、教育や公共のアメニティーに投資することが難しくなる。社会不安、家族の崩壊、薬物中毒、その他の社会的病癖が広がる。

エコノミストの答えは、「労働市場の弾力性を高めること」である。労働者は単に不況地域から移動し、他の土地で職を見つければよい。あるいは、経済変化によって生じた損失を補償するよう薦める。しかし、それが答えになるとは思えない。失業は、たとえ消費を維持する資金を給付しても、個人やコミュニティの厚生を悪化させるだろう。

究極において、ローカルなコミュニティの活力を維持する条件は、唯一、十分な賃金を支払う職場があって、それが増大することである。カスは、賃金への補助を、ラジャンは、コミュニティの資産を動員し、住民たちの社会的関与を高め、新しいイメージを創り出すローカルな指導者の役割を強調する。国家による支援策と、グローバリゼーションの管理を唱えている。製造業の拡大策、大学との連携、中小企業向け職業訓練プログラム、など、何が最善の政策であるか、試行錯誤が続く。

デジタル技術の革新が規模の経済とネットワーク効果を発揮し、地域の生産拠点を奪って集中化を進める。勝者がすべてを取る市場に変える。こうした変化に向かう力は、コミュニティの必要性とバランスさせるべきだ。

PS Nov 14, 2018

The Case for Compensated Free Trade

ROBERT SKIDELSKY

ロドリックは、グローバリゼーションにおける「トリレンマ」を示した。国民国家、民主主義、グローバリゼーションは、同時に3つとも成り立たない。1つは否定するしかない、と。

ドナルド・トランプ大統領が保護主義を採用した理由は、アメリカの大幅な貿易赤字である。しかも、経常赤字を融資しているのは「善良」とは限らない短期資本、「ホットマネー」の流入である。また、中国の台頭や、ヨーロッパの安全保障という、地政学的な理由もある。

Vladimir Maschが提唱した「補償された自由貿易“compensated free trade” (CFT)」が、この問題を解決する。世界経済システムを破壊することなく、合法的に、保護政策を取ることができる。

このCFT案では、政府が各年の貿易赤字の上限を、そして貿易相手国の黒字の上限を決める。貿易黒字国は輸出を制限内の減らすことができるが、その上限を超えて輸出した場合、その超過の輸出額に等しい罰金を相手国に支払う。輸出業者に課税しても、外貨準備から支払ってもよい。もし罰金を支払わずに輸出を続けるなら、その輸出は阻止される。

この「スマートな」保護主義には多くの利点がある。1CFTは貿易戦争を終わらせる。2CFTは、補助金、価格・通貨価値の操作、その他の怪しい介入に複雑な交渉や合意を作る必要がない。3CFTが金融や貿易の不均衡を抑制する。しかしCFTは、不均衡の調整についてルールを決める問題を残している。4CFTは、アメリカがその交渉力を使うことで、黒字諸国も受け入れる。グローバルな金融は国際収支の均衡を回復する限度内でのみ活動する。5CFTはオフショアの生産拠点から雇用を取り戻す。そして、その国の工業力や社会のバランスを回復する。

歴史的には、CFTはブレトンウッズ協定の「稀少通貨」条項である。CFTは、貿易赤字を解消し、関税政策の限界を克服し、貿易操作と闘い、現在の主流派経済理論を正し、グローバルな決済システムを再建する。


 暗号通貨による歴史的収奪

VOX 09 November 2018

Cryptocurrencies: Financial stability and fairness

Jon Danielsson

暗号通貨cryptocurrenciesは、現在、金融システムに対する脅威ではない。その資産額は2000億ドルたらずであって、資産市場の全体に比べて極めて小さいからだ。しかし、もしビットコインなどの暗号通貨が貨幣として広く使用されれば、それは金融安定性を損なうのか?

その通り。暗号通貨システムは、既存の人工通貨システムと同じ、金融不安定性への諸力に従うだけでなく、さらに他の力も加わるだろう。

いかなる通貨システムも危機を免れない。金本位制、人工通貨、暗号通貨。それは金融システムが人と人との相互行為によって成り立つからだ。人々は群集心理に従い、その意思決定はさまざまな制約と偏見に影響される。ブームは緩やかに進行し、価格の下落は急激だ。

貨幣があることで金融不安定性が生じる。人工通貨システムでは、中央銀行がベースマネーを供給し、M1M2へと金融機関がそれを拡大する。金融危機では、このプロセスが逆転する。

暗号通貨システムでも同じだ。しかし、M1M2を管理する者はいない。完全100%準備システムだ、と主張するが、それは実現しないだろう。人々はビットコインを売買し、そのために貸借する。

暗号通貨システムは追加の不安定性を生じる。なぜなら、危機が生じたとき、人工通貨でベースマネーを無限に供給できる中央銀行がないからだ。中央銀行は市場の恐怖を鎮静化する。資産売却は緩和され、経済は機能し続け、金融機関は破たんしない。

暗号通貨の現在の市場評価額は2000億ドル程度であるが、G20M1の総額は31兆ドルである。もし人工通貨システムがすべて暗号通貨に代わるとすれば、31兆ドルが一握りの暗号通貨投機家の利潤となる。両方のシステムが併存する場合、2000億ドルと31兆ドルとの中間で、暗号通貨の市場規模は決まる。

私的な暗号通貨の使用が成功すれば、それは民間投機家への巨額の資産移転となる。公共財の途方もない歴史的略奪は何度か行われた。イングランドとウェールズの囲い込み条例で、280万ヘクタールの共有地が私有地になった。スコットランドのハイランド・クリアランス、アメリカやオーストラリアにおける先住民からの土地収奪。より最近では、ロシアや中国における民営化。

こうした富の移転は、国家の命令によって、ある者から特定の市民が豊かになるように、巧妙に強制された。しかし、暗号通貨への転換は自発的である。あるいは、政府がこれを認め、両者の併存を許すのかもしれない。31兆ドルの富の移転が成功すれば、それは歴史上最大の公共財の収奪である。


 AmazonNYC

NYT Nov. 9, 2018

New York Should Say No to Amazon

By Ron Kim and Zephyr Teachout

Amazonが、第2本社の立地をニューヨークのロングアイランドシティに決める、と言う。ニューヨーク州知事Andrew Cuomoクオモが好条件を示したのだ。

しかしこの1年、Amazonの「第2本社」(HQ2)立地に関する広報は、それを獲得すれば、多くの雇用とサンフランシスコに並ぶハイテク・ハブを得ると期待させ、多くの都市が候補地に名乗りを上げた。そして、免税や補助金、インフラ計画などの重要なデータ、他の企業にはアクセスできないものまで、提示した。

それは恐るべき無駄づかいであった。

この戦術は、Amazonをプラットフォームにする商店にとって、おなじみのものだ。Amazonは期待を高めておいて、交渉力を強め、好条件を提示させる。価値やデータを可能な限り得たら、Amazonは当初見通しなど無視し、商店が破産しても気にしない。商店がAmazonに依存するようにして、恐怖の選択を迫る。Amazonから出て破産するか、奴隷的な契約を結ぶか? 多くの商店がAmazonの領地になる。

シアトルの経験が示すように、Amazonに依存することは広範な富をもたらさない。住宅価格が高騰し、ホームレスが増えた。Amazonは市政にも権力をふるい、法人税の提案に反対するためのキャンペーンに支出した。

残念だが、市民にとって、ニューヨークは企業と悪質な関係を続けてきた。企業には多くの給付を与え、企業のための都市開発計画に財政の大部分を費やしている。零細企業を押しつぶし、労働者の権利を踏みにじり、出版やアイデアの産業を衰退させるAmazonのような企業に自分を同一視するのは、まったくの侮辱である。

クオモと他のニューヨーク職員は、公務として、Amazonとの約束のすべてを公開すべきである。州民の尊厳と生活を売り渡してはならない。


 中国における金融リスクの管理

FT November 13, 2018

China’s biggest financial risk is the US

Michele Wucker

最近の金融安定性年報で中国の中央銀行は、明確かつ現存するリスクだが、しばしば無視される、「黒サイ」リスクが経済を脅かし続けている、と警告した。そして、不動産市場、地方政府・家計・企業の高い債務水準に注目した。

西側アナリストは、中国の債務問題が次の金融危機の引き金になる、と言う。習近平主席は金融リスクの封じ込めを最優先課題に挙げた。

対照的に、アメリカ政府は10年前に爆発した金融危機を忘れてしまったようだ。10年におよぶ超金融緩和がグローバルな危険を生じていることに言及することもない。

中国は徐々に、信用バブルが破裂しないように、空気を抜いている。経済を「良質の成長」、すなわち、より減速しても、公平な分配と、脆弱さを抑制した成長に向けている。規制、強制、流動性の管理により、「黒サイ」をその標的としている。すなわち、高い企業債務、過剰流動性、シャドー・バンキング、資本市場の脆弱さ、不動産バブル、オンライン金融商品・サービス、である。

対照的に、トランプ大統領と政府高官はアメリカ経済の強さを吹聴し、リスクや弱点は軽視する。この数週間、市場の浮動性が示されたが、トランプはアメリカの株価が記録的な高水準であると自慢した。中国の株価指数は今年に入って20%も下落してきた。

しかし、外交評議会の分析が示すように、中国の株価は信用の拡大が減速するのと、過去1年ほど、緊密に一致する。下落は中国政府の資産バブル対策なのだ。トランプ政権の金融リスクを気にしないアプローチが、経済政策として成功することはないだろう。

アメリカ議会が201712月、大規模減税を承認する準備段階で、中国の政府高官は資本移動や金融安定性におよぶ衝撃を「黒サイ」と呼んだ。そして迅速に、金利引き上げ、資本規制、積極的な通貨介入を組み合わせた、緊急行動計画を立てた。他方、トランプ政権の新しい減税策は、財政赤字を増やし、金利を上昇させる。しかも金融リスクが増大する中でも、金融のセーフガードを解体し、次の危機を封じ込める緊急時の権限を削っている。

矛盾したことに、現在のアメリカが採る対中国政策は、投資家たちが望む中国の改革を妨げている。たとえば、国有企業の過剰生産力の削減、通貨市場への介入を抑えること。トランプの好戦的な主張は、中国の漸進的な市場開放を無視してきた。金融サービスを含む、15分野で投資規制を緩和し、知的所有権でも前進した。これらは中国の利益にもなるからだ

もしアメリカが、グローバル経済と金融市場で膨張する危険に対して中国がしていることを十分に注意しているなら、金融リスクを減らす中国の有意味な努力に、レンチを投げ込んで邪魔するようなことはしないはずだ。

まず、貿易戦争を終わらせると合意してはどうか。


 ハイテク大企業と社会秩序

The Guardian, Sun 11 Nov 2018

Without a fair tax on tech, it could be the end of the state as we know it

John Harris

先週、アメリカ中間選挙と並んで、サンフランシスコの提案Cが承認された。それは年間売り上げが5000万ドルを超える企業に、ホームレスを支援する財源として年3億ドルを調達する、という提案だ。サンフランシスコにハイ的大企業が集中しているために、論争は彼らの社会的責任に関する紛争となっている。ソフトウェア企業Salesforceの創立者でCEOMarc Benioffを含む支持派は、Twitter, Lyft, and Stripeのような反対派と対峙している。富裕層は明らかに、最も弱い人々を助ける、ささやかな提案にも反対する。ハイテク大企業のもたらした不動産価値の高騰によって、少なくとも部分的には、ホームレス問題が起きている。

アメリカの外では、企業の利益と収める税金とのギャップがさらに拡大している。2016年、Appleはアメリカ外で得た410億ドルに対して、20億ドルの税金を支払った。実効税率は4.8%である。Taxwatchによれば、2017-2018年に、Facebook, Google, Apple, Microsoft and Ciscoがイギリスで上げた利潤は66億ポンドであるが、支払った税金は19100万ポンドである。

ハイテク大企業はわれわれの社会や経済を高速で変形していくが、政府による仕事を助けるためには驚くほど不十分な財源しか出そうとしない。


 イタリアと欧州委員会の妥協

FP NOVEMBER 14, 2018

Europe Should Let Italy Win

BY HAROLD JAMES

どちらが尻込みするのか? この争いはギリシャの場合と2つの点で異なる。1.イタリアの規模ははるかに大きい。救済パッケージを組むことも難しい。2.アメリカのトランプ大統領が国際政治とアメリカ政治を変革した結果、国際環境が変わった。

イタリアとヨーロッパがインフラ投資で妥協することはむつかしくない。しかし、政治論争が過熱すれば妥協が難しくなる。欧州委員会はその前に解決策を見出すべきだ。

イタリアの予算案でGDP2.4%の赤字は、3%規制を超えておらず、論争がわかりにくい。問題は財政政策と成長との関係だ。イタリアの成長率が高まれば、この数字は正しく、刺激策は成功である。2ケタのマイナス成長と長い停滞の後、イタリア経済は1.5%の成長を回復した。それが再び低下したので、一時的刺激策を求めている。

誰でも知っているように、それがすべてではない。この予算案の目的は、経済成長だけでなく、連立政権の維持である。右派政党the Legaは、税制の簡素化を求めている。左派政党the Five Star Movementは、基礎的最低所得、そして、理想主義的なユニバーサル・インカムを求めている。両党とも、予定されていた付加価値税の引き上げを破棄し、年金給付年齢を引き下げたいと考えている。

ここには、ナショナリズムではないが、税率や財政政策に関するナショナルな主張がある。欧州委員会ではなく、国民の民主主義的な決定に従うべきだ、という主張だ。また、予算案は支出削減策として、移民のための住宅や管理を減らす。

イタリアがナショナルな、反EUの主張をすれば、トランプやプーチンが支持するだろう。両者はイタリアに対する財政的、政治的な支援について語っている。アメリカ財務省がイタリア政府債を購入するかもしれない。しかし、アメリカが、EUに歯向かう1つのヨーロッパの政府を支援するなら、それをヨーロッパではあまりにも攻撃的な外交と見るだろう。あたかもトランプが、「グローバリズム」に対抗して「ナショナリストの国際同盟」を組織しているようで、ヨーロッパの姿勢は硬化する。

イタリアの閣僚たちは、トランプをまねて、ECBを攻撃するかもしれない。しかしそれは、ECBによるイタリア政府債券の支持を失う危険がある。それは誰をも傷つけるが、真っ先にイタリアの銀行を粉砕するだろう。政府債が暴落し、それを保有するイタリアの銀行が資本不足となり、資本強化が必要だが、銀行を助ける政府には別のEUのルールが反対する。

イタリア政府は、財政の枠組みから移民の扱いまで、広い範囲でEUに反対している。トランプやプーチンのイデオロギーを借りてEUを攻撃するかもしれない。それはEU内で他国の反EU運動を刺激する。しかし、それはイタリアをますます地雷原に引き入れる。ブラッセルの答えは、ルールはルールだ、従うしかない、と。

欧州委員会のその対応も、イタリア国民を納得させない。イタリアの予算案を否定するなら、EUが真に経済回復に関与し、大規模移民の脅威という話を鎮静化するべきだ。ヨーロッパの指導者たちは、一国の、あるいは、ナショナリストの戦略が持続的な福祉の改善につながらず、EUこそが集団的な安全保障と真の公共財を生み出す、と説明しなければならない。

もし現在の予算案を変更したら、イタリア政府は有権者を裏切ったように見える。もし欧州委員会が財政ルールの一貫した適用を諦めれば、すべての加盟国がそうするだろう。不可能を可能にするヨーロッパの技量が求められる。より広くヨーロッパの成長と安全保障に問題を再定義することで、行き詰まりは回避できる。インフラ投資、特に、環境的に持続可能なエネルギーへの投資は、中東やロシアへの依存から脱し、ヨーロッパの安全保障ジレンマを解決する。難民を社会に、労働市場に統合することも、安全保障(治安)の問題だ。

真にヨーロッパの問題を解決するために資源を投入することは支持される。それを解決することはヨーロッパの公共財である。もしイタリアの赤字がそのような用途に限定されるなら、EUはそれを承認する。


 Brexit合意案の採決

FT November 13, 2018

Britain’s conspiracy of silence over the Brexit deal

Peter Mandelson

Brexitの核心にある矛盾が、今、明らかになってきた。閣僚を辞任したJo Johnsonはそれを「奴隷」“vassalage”と呼んだが、EUの外で、より大きな支配権を取り戻す、と意図した出来事は、さらに多くの支配権を失うことでしか実現しない。

これはテリーザ・メイ首相の失策ではない。指導力がないとか、交渉術の不足を非難することは愚かである。狂信的なBrexit推進派は、親ヨーロッパ派の陰謀だ、という。しかし、矛盾はBrexitに本来備わっていた。われわれは摩擦のない市場を願うが、UKEUを出ても、それを実現するとしたら、発言権を持たないEUのルールに従うことでしか、それを確保できないのだ。

労働党の影の内閣は、我慢強い、友好的な交渉によって、魔法のような合意条件が見いだせる、と言う。イギリスはEUの外で、自律的な、かつ、完全な市場アクセスを得る、と言うのだ。

しかし、時間をかけるほど、条件は悪くなるだろう。EU加盟諸国は厳しいルールに従ってEUにとどまっている。EUの外に出た国が、特恵的な市場アクセスと関税同盟の特権を求め、より弾力的な条件を与えられることなど望まない。また、こうした例がEUの内部で摩擦を生じることを望まない。イギリスが緊密な関係を望むほど、EUは平坦な競争条件を要求する。非加盟国として発言力を持たないまま、EUのルールを受け入れるのだ。

イギリスのビジネス界がこれについて沈黙していることは驚きだ。彼らはイギリス政府を通じて発言することで自分たちの利害を守ってきた。その手段を失う。

国民が決めたことだから、それに従うべきだ、というのは間違った議論だ。政府はその結果について正しく伝えていない。支配権は戻らない。イギリスはEUの付録になる。

議会はBrexitを止められないかもしれない。しかし、有権者は止めることができる。そのチャンスがあれば。通商国家の生存の危機だ。国民はそれを望むのか?

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The Economist November 3rd 2018

America divided

Stockmarkets: Red October

The Democrats: Kick-starting the donkey

Japan’s pampered pets: A dog’s life

Cambodia’s garment industry: Needling Hun Sen

Closing arguments (1) Caravan of copycats

Lexington: The Trump cult

Bagehot: Explaining Brexit

(コメント) 世界の株価下落に中国市場の影響が示されます。比べるわけではないですが、日本の記事は、洋服を着て、おむつをしたペットたち。ペットも高齢化し、手押し車に乗り、病院に通い、葬儀が行われます。

アメリカの中間選挙に関して、何がトランプへの熱狂的な支持者を生むのか? 何がBrexitを説明できるのか? 貿易赤字や、中国、移民の影響から、アメリカやイギリスの社会における人々の感じる問題を軽視し、応えてこなかった政治家・政党を批判します。

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IPEの想像力 11/19/18

国際システムにおける大国と小国は、どのように理解できるでしょうか? たとえば、カンボジアの民主主義から独裁体制への変化と、高い経済成長の実現は、<比較経済>の視点とどう関係するでしょうか?

<比較経済論>において、私は4つの視点で議論しています。1.資本主義と社会主義について、2.市場のもたらす富と貧困、開発について、3.ケインズ主義的な修正と新自由主義の反革命、資本主義の多様性について、4.帝国からグローバリゼーションまで、各地の政治・社会モデルを制約する市場の拡大と縮小について。

資本主義と社会主義との対抗というのは、冷戦によって強く意識されましたが、冷戦後の現在でも存在します。市場が発達することで、恐慌や富の集中、市場の独占が問題となるとき、その生産力や富を<社会>が所有・支配するべきだ、という考えは、必ず、提起されるはずです。金融ビジネスやハイテク大企業の支配に対して、今も都市や民主的な指導者が反対の声を上げています。

冷戦終結は、かつての社会主義圏を資本家的な成長システムに開放しました。資源の採取や労働者の強制移住、奴隷化によって成り立った帝国システムが、今では、グローバルな市場にリンクした巨大な企業組織によって、国境を無視して拡大したり、金融危機によって縮小したりしています。それはまるで、主要通貨の中央銀行が供給する貨幣という血液を受けて、貧しい土地や労働者を呑みこむ軟体動物のようです。

日産のゴーン会長が逮捕されたニュースの意味は、まだ、何も見えていません。有価証券に報告するべき情報を偽ったことは、どのような犯罪なのでしょうか? 株主をだました、というわけですか。テレビでは、5億円の住宅を買った、と指摘しますが、10億の年間報酬があれば、そのような家が世界各地にあることも不思議ではないでしょう。

所有と勤労とが結びついた市場システムは、特に、金融システムとして、高度に発達することで、反対の性格に変わるのだ、と思います

Brexitとトランプを支持した人々のほんとうの理由は何でしょうか? 移民や文化的な不安を挙げることも多いですが、人々は何に怒っているのか? 老人たちではなく、若者たちでもなく、むしろ、安定した仕事がなく、十分な報酬を得られない、しかも、今から人生をやり直すこともできない、と思い始めた中間世代の人々が不安と不満に駆られているのではないか、と思いました。

たとえ能力や資格において差があるとしても、その人の人生が否定されたように感じる、セレブ達の豪勢な生活、傲慢な態度、成果主義や能力主義による正当化、そして、経済学の擁護論は人々の感じる不満を無視してきました。しかし、国民投票によって発言の機会を得た人々、大統領選挙において復讐する機会を得た人々は、まさしく、Brexitとトランプを選んだのです。

Brexit案が議会で否決されたとき、保守党が分裂し、議会が解散したとき、2度目の国民投票が認められたときに、どのような論争が有権者の声を吸収できるのか? そして、2020年の東京オリンピックではなく、トランプの再選運動が、どのようなアメリカと世界の紛争に火を放ち、新秩序に形を与えるのでしょうか?

ロナルド・ドーアの訃報を読みました。同志社大学でベーシックインカムのシンポジウムがあったとき、一言、二言、挨拶と質問をしただけで、ドーアと深く話し合うこともなかったことが悔やまれます。

スキデルスキーが紹介する「補償された自由貿易」は、ドーアの量的割当貿易制度と共通した、市場システムと社会的な安定・革新を、均衡させる試みです。Brexitとトランプの世界を超えて、私たちが継承すべきものです。

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