IPEの果樹園2018

今週のReview

11/19-24

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中間選挙と民主党 ・・・トランプ外交 ・・・自由貿易とコミュニティ ・・・ブラジルのポピュリスト ・・・暗号通貨による歴史的収奪 ・・・AmazonNYC ・・・第1次世界大戦と現代 ・・・中国における金融リスクの管理 ・・・ハイテク大企業と社会秩序 ・・・イタリアと欧州委員会の妥協 ・・・インドの中央銀行 ・・・自由で開かれたインド太平洋 ・・・Brexit合意案の採決

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 中間選挙と民主党

NYT Nov. 8, 2018

What the Working Class Is Still Trying to Tell Us

By David Brooks

火曜日の選挙で民主党が多くの票を得るものと思っていた。しかし、開票されるにつれて、予想外に共和党の票が多かった。投票した共和党員は、大学卒の郊外居住者ではなかった。そういった人々は民主党に投票した。

共和党に投票したのは、減税を熱狂的に歓迎したわけでも、小さな政府を支持したからでもない。彼らは高校卒の、労働者階級の共和党員たちだ。

アメリカでは、まだ働き盛りの労働者の20%ほどがフルタイムの職に就いていない。大人たちのわずか37%しか、子供たちは自分たちよりも金銭的に裕福になると信じていない。新しい雇用の多くが、安定した給与の無い、予定通りの労働時間がない、雇用の補償がない性質のものだ。

労働者階級の有権者は2016年の大統領選挙でメッセージを発した。彼らはまだ送り続けているが、問題はアメリカの指導者たちがそれを聴くか、それに応じるか、である。

Oren Cassの新著(“The Once and Future Worker”)は素晴らしい。労働者の問題が間違って理解されてきたことを示している。それはGDPの成長ではなく、貧困層への給付や、より多くの消費でもない。

Cassは労働市場の改革を主張する。教育システムを変え、労働組合を変え、労働者の尊厳、その文化を再生する。

大学卒の人々は、自分たちのために文化、経済、政治システムを築いてきた。しかし、もっとすべての人々のための労働市場改革が必要だ。

NYT Nov. 9, 2018

America’s Small-Town Crisis

By David Leonhardt

民主党は地方の小都市で勝てない。都市の住民にとって関心のある政策を推進しているからだ。しかし、都市部で勝つだけでは、大統領選挙で負けるだろう。

FT November 10, 2018

Donald Trump suffers a suburban backlash

Edward Luce in Washington

FT November 10, 2018

Over-reach is a risk for the Democrats after the midterms

Christopher Caldwell

NYT Nov. 10, 2018

A Defeat for White Identity

By Ross Douthat

2016年の大統領選挙でトランプは2つのポピュリズムを売り込んだ。1つは、白人部族主義・外国人排斥である。オバマの出生証明を疑う主張に共鳴し、移民を犯罪者、イスラム教徒をテロリスト、都市有権者を詐欺と呼ぶ。

もう1つのポピュリズムは、脱工業化によって傷ついた労働者階級を狙った、経済的利益の約束だ。労働者たちの資格を守り、オバマケアよりも優れた社会保障を与えると約束し、雇用から犯罪まで、反移民と結びつけた。巨額のインフラ投資と通商交渉で、ブルーカラー労働者たちの雇用を取り戻す、リバタリアンに傾いた共和党を「労働者の政党」に変える、と約束した。

この組み合わせは大統領選の勝利につながったが、絶え間ない論争を生じた。トランプのポピュリズムは、人種なのか、経済なのか? その答えはその他の問いに関係している。部族主義的でない政治的連携は可能か? 民主党は労働者階級を取り戻し、共和党はエスニックを超えたナショナリズムに訴えるのか? あるいは、われわれは永久に、諸政党の人種的な分断に苦しまされるのか?

中間選挙で、トランプの白人アイデンティティ政治はその優位を保てなかった。共和党が最も大きな票を失ったのは、中・低所得のアメリカ人だった。中西部の北方で、民主党が得票し、大学卒ではない白人が民主党を支持した。

白人アイデンティティ政治は不変の宿命ではない。民主党は、白人労働者階級を取り戻せる。

The Guardian, Sun 11 Nov 2018

The message from the midterms: a new, progressive US is slowly taking shape

Will Hutton

PS Nov 12, 2018

Trump’s Diminishing Power and Rising Rage

JEFFREY D. SACHS

FP NOVEMBER 12, 2018

Two Muslim Women Are Headed to Congress. Will They Be Heard?

BY RAFIA ZAKARIA

NYT Nov. 12, 2018

Trump Dreams Up Another Immigrant Crisis

By The Editorial Board

FT November 13, 2018

Environmental damage prompts a rethink among US coastal voters

Courtney Weaver

NYT Nov. 15, 2018

What a Kenyan Slum Can Teach America About Politics

By Kennedy Odede


 トランプ外交

FT November 9, 2018

The economic risks of a more aggressive Donald Trump

これまでそうであったように、民主党が中間選挙で下院の多数を支配しても、市場は予想したことであり、冷静であった。しかし、トランプが、2020年の大統領選挙に向けて、その言動を一層過激に示すことは、これまでのパターンと違うだろう。

連銀のパウエル議長を攻撃し、中国との貿易戦争や、イランとの軍事衝突を起こすかもしれない。

FP NOVEMBER 9, 2018

America’s World War I Déjà Vu

BY MICHAEL HIRSH

アメリカのドナルド・トランプ大統領は知らないだろうが、彼がパリに飛んで第1次世界大戦の終結100周年を記念する式典に参加するとき、彼はロッジHenry Cabot Lodgeの遺志を継いでいる。

1世紀前、ロッジは上院の多数派を事実上指導する者として、アメリカの参戦を決めた。しかし、戦後の数年で、アメリカは急速に孤立主義に回帰したのだ。共和党の対外関係委員会議長として、ロッジはウィルソン大統領の国際連盟を否決するために闘った。ウィルソンも、いかなる妥協も拒んだのだ。ロッジの闘いはアメリカを世界から引き離すことにつながった。それは1930年のスムート=ホーレー関税法に至る。

トランプは、その熱狂的なユニラテラリストの国家安全保障補佐官ジョン・ボルトンとともに、1世紀前の出来事を、不安定な形で、今、熱心にたどっている。「われわれはグローバリズムのイデオロギーを拒否する。われわれが信奉するのは愛国主義の原理だ。」と、国連総会でトランプは述べた。

少しずつ、トランプはロッジのように、アメリカを世界から引きはがしてきた。イランとの核合意、気候変動に関するパリ合意、中距離核戦力全廃条約、中国やアメリカの同盟諸国に対する貿易戦争、そして彼は、NATOG7、欧州共同体、WTOに対する敵意も明確に示した。

マクロンは、パリの平和フォーラムで、国際連盟に至った1919年のパリ平和会議を踏襲した。ここでは、諸国や諸コミュニティが、集団行動、マルチラテラリズム、共通の公共財に対する良好な監督が、共通の挑戦に立ち向かい、平和を維持する最善の方法だ、と今も信じている。

そしておそらく、トランプとボルトンがこれ以上に嫌う主張はないだろう。

確かに、ロッジに類似した、国際システムを受け入れようとしない多くのアメリカ人が常に存在する。トランプは、伝統的なネイティビズムに力を与えている。国連、その他の国際的なガバナンスの失敗は、歴史上最悪の戦争に至り、推定6000万人の死者を出した。

ウィルソンは、J.M.ケインズと同様に、これを警告していたのだ。同様に、コナーFox Connerのような将軍たちも、そうだった。コナーはD.D.アイゼンハワーやG.C.マーシャルの親友だった。

2次世界大戦の恐怖のおかげで、ネイティビストやナショナリストの衝動を抑えて、世界をアメリカのイメージで作り直す試みに、アメリカは乗り出した。フランクリン・ルーズベルト大統領は、国連を支持する1920年の副大統領候補であったが、ウィルソンの「4つの自由」に示される理想主義を退けた。その後継者であるH.トルーマンはそれを、地政学的な、実効的な枠組みに換えた。

安全保障理事会の「4人の警察官」や、その後の5つの常任理事国(米ロ英仏中)は拒否権を持つことがそうだ。世界の官僚制による制約から大国の主権を免除している。共和党の大東慮でさえも、この国際連合の使命には賛同した。

70年にわたって国連の成果には明暗がある。しかし、安保理決議を通じた他国の協力は、イランや北朝鮮を孤立させ、アメリカの目標に役立った。また、ルーズベルトとトルーマンは開放市場のシステムを規制するグローバルな合意をブレトンウッズ体制として実現した。国連を介して、多くの分野でアメリカはウィン・ウィンの領域を広げたのだ、とアイケンベリーJohn Ikenberryは言う。

戦後秩序を失ったアメリカは、孤独な、より力の低下した大国になるだろう、と。

FT November 12, 2018

Donald Trump and the global assault on press freedom

Gideon Rachman

NYT Nov. 13, 2018

North Korean Nuclear Shell Game

By The Editorial Board

FP NOVEMBER 13, 2018

Iran Was Closer to a Nuclear Bomb Than Intelligence Agencies Thought

BY MICHAEL HIRSH

FP NOVEMBER 14, 2018

Trump’s Problem in Europe Isn’t Optics

BY STEPHEN M. WALT

トランプの失敗は、中国の貿易ルール違反を攻撃したり、ヨーロッパの防衛負担を要求したりすることではなく、それを達成するやり方を間違っていることだ。トランプの外交は「原始人のリアリズム」であって、すべてが敵の世界で、強い力を行使する者が有利な方法だ。しかし、友好諸国や、問題に応じて連携する必要がある世界では通用しない。むしろ破滅的である。

こうしたやり方を好むのは、トランプが国内政治で成功した経験から来ている。共和党でも、大統領選挙でも、ホワイトハウスでも、トランプは敵を決めて、嫌がらせを行い、打倒してきた。アメリカ人の多くは怒りに駆られており、トランプはそれを恥知らずに利用している。

FT November 15, 2018

An era of estrangement distracts America and Europe

Janan Ganesh

FT November 15, 2018

Donald Trump’s dream of an Arab Nato is a fantasy

David Gardner


 自由貿易とコミュニティ

PS Nov 9, 2018

Reclaiming Community

DANI RODRIK

経済学は、個人の厚生を、その人が消費する財の量と種類によって測定する。消費の可能性は、新技術、分業、規模の経済、移動性を用いる企業によって与えられる。消費が目標であって、生産はその手段である、と。コミュニティではなく、市場が分析の単位であり、対象だ。

こうした消費・市場中心の視点が多くの成果をもたらした。しかし、明らかに何かが間違っている。私たちの社会で、経済的・社会的な分断が起きている。アメリカ、イタリア、ドイツのような開発世界でも、フィリピン、ブラジルのような発展途上の世界でも。

最近、2冊の本が、経済主義的な世界観を正し、もっとローカルなコミュニティの健全さを前面に、中心に据えるべきだ、と主張している。1つはラジャンRaghuram Rajan、もう1つはカスOren Cassの本だ。ラジャンは、シカゴ大学のエコノミストで、インド準備銀行の元総裁である。カスは、中道右派の政策研究所の所長で、ロムニーが共和党の大統領候補のとき、彼の国内政策を担当した。

ラジャンは、コミュニティを、国家と市場に加えて、第3の支柱と呼ぶ。管理されないグローバリゼーションはローカルなコミュニティの仕組みをバラバラにする可能性がある。カスは、アメリカが通商や移民に関する政策を、アメリカ人労働者優先で見直すべきだ、と言う。ローカルな労働市場を健全に維持し、まともな賃金を支払う良い職場を維持するのだ。彼らはトランプの保護主義を支持しない。しかし、ハイパー・グローバリゼーションは行き過ぎであり、コミュニティのコストを軽視している、と主張する。

ローカルな工場が閉鎖される。企業が国境の外にサプライヤーを求めたからだ。数百、数千の職場が失われ、海外に移転される。その衝撃は、ローカルな財・サービスへの支出が減ることで増幅される。ローカルな労働者と企業のすべてが打撃を受ける。政府も税収を失い、教育や公共のアメニティーに投資することが難しくなる。社会不安、家族の崩壊、薬物中毒、その他の社会的病癖が広がる。

エコノミストの答えは、「労働市場の弾力性を高めること」である。労働者は単に不況地域から移動し、他の土地で職を見つければよい。あるいは、経済変化によって生じた損失を補償するよう薦める。しかし、それが答えになるとは思えない。失業は、たとえ消費を維持する資金を給付しても、個人やコミュニティの厚生を悪化させるだろう。

究極において、ローカルなコミュニティの活力を維持する条件は、唯一、十分な賃金を支払う職場があって、それが増大することである。カスは、賃金への補助を、ラジャンは、コミュニティの資産を動員し、住民たちの社会的関与を高め、新しいイメージを創り出すローカルな指導者の役割を強調する。国家による支援策と、グローバリゼーションの管理を唱えている。製造業の拡大策、大学との連携、中小企業向け職業訓練プログラム、など、何が最善の政策であるか、試行錯誤が続く。

デジタル技術の革新が規模の経済とネットワーク効果を発揮し、地域の生産拠点を奪って集中化を進める。勝者がすべてを取る市場に変える。こうした変化に向かう力は、コミュニティの必要性とバランスさせるべきだ。

PS Nov 14, 2018

The Case for Compensated Free Trade

ROBERT SKIDELSKY

ロドリックは、グローバリゼーションにおける「トリレンマ」を示した。国民国家、民主主義、グローバリゼーションは、同時に3つとも成り立たない。1つは否定するしかない、と。

ドナルド・トランプ大統領が保護主義を採用した理由は、アメリカの大幅な貿易赤字である。しかも、経常赤字を融資しているのは「善良」とは限らない短期資本、「ホットマネー」の流入である。また、中国の台頭や、ヨーロッパの安全保障という、地政学的な理由もある。

Vladimir Maschが提唱した「補償された自由貿易“compensated free trade” (CFT)」が、この問題を解決する。世界経済システムを破壊することなく、合法的に、保護政策を取ることができる。

このCFT案では、政府が各年の貿易赤字の上限を、そして貿易相手国の黒字の上限を決める。貿易黒字国は輸出を制限内の減らすことができるが、その上限を超えて輸出した場合、その超過の輸出額に等しい罰金を相手国に支払う。輸出業者に課税しても、外貨準備から支払ってもよい。もし罰金を支払わずに輸出を続けるなら、その輸出は阻止される。

この「スマートな」保護主義には多くの利点がある。1CFTは貿易戦争を終わらせる。2CFTは、補助金、価格・通貨価値の操作、その他の怪しい介入に複雑な交渉や合意を作る必要がない。3CFTが金融や貿易の不均衡を抑制する。しかしCFTは、不均衡の調整についてルールを決める問題を残している。4CFTは、アメリカがその交渉力を使うことで、黒字諸国も受け入れる。グローバルな金融は国際収支の均衡を回復する限度内でのみ活動する。5CFTはオフショアの生産拠点から雇用を取り戻す。そして、その国の工業力や社会のバランスを回復する。

歴史的には、CFTはブレトンウッズ協定の「稀少通貨」条項である。CFTは、貿易赤字を解消し、関税政策の限界を克服し、貿易操作と闘い、現在の主流派経済理論を正し、グローバルな決済システムを再建する。

PS Nov 15, 2018

Trump’s Protectionist Quagmire

ANNE O. KRUEGER


 ブラジルのポピュリスト

PS Nov 9, 2018

Populism's Common Denominator

BARRY EICHENGREEN

20175月にマクロンがフランス大統領に選出されたとき、世界のエリートたちは安堵した。しかし、ブラジルの大統領選挙では、権威主義、反エスタブリシュメント、排外主義の、教科書的なポピュリストであるボルソナロJair Bolsonaroが当選した。今年初めのイタリアもそうだ。

イタリアでは、多数原理だけでなく、比例代表の要素を加えて、主流派政党間で連携を促す改革を行っていた。しかし、結果はポピュリスト的な左派と右派の連携が勝利した。選挙制度の改革だけでは問題を解決できない。むしろ、予想外の結果に至る。

ポピュリズムを抑えるのは、選挙システムの改革ではない。有権者が主流派の政治家や政党を嫌う、根本問題を解決するべきだ。

エコノミストたちの好む自然な答えは、経済状態への不満の解消である。失業や大規模な不況が、イタリア、ブラジルの選挙に影響した。しかし、トランプは違う。アメリカ経済は6年間も継続する好景気だ。ポピュリズムを刺激したのは成長に関する不満ではなく、分配や、子供たち、将来への不安だった。

さらに最近のポピュリストは、経済・政治システムの外部にいる者たちを攻撃する。支配的な文化集団への脅威がある、と訴える。移民、特にアフリカから来た肌の黒い移民たちをMatteo Salviniらは攻撃し、Bolsonaroは、人種的なマイノリティー、女性、白人労働者のヘゲモニーを脅かす者たちを攻撃する。有権者たちの行動は予想外なものだった。Bolsonaroは黒人有権者に支持され、女性蔑視を公言するトランプが女性の支持を得た。

それゆえポピュリスト政治家の登場を促したものは、それ以外にあったわけだ。彼らは汚職・政治腐敗の根絶を訴えた。政治のアウトサイダーは、この点で、有権者に対する魅力がある。主流派の連携が続くことは、汚職や非効率をもたらす。アウトサイダーの方が優れている、と。

しかし、そうではない。こうした使命を与えられた権威主義的指導者が権力を得た場合、汚職を一掃するより、広めることになる。彼は主流派の利害関係者を排除し、自分の仲間を採用するだけだ。そして制度的なチェック・アンド・バランスを破壊する。

NYT Nov. 9, 2018

What the Hell Happened to Brazil? (Wonkish)

By Paul Krugman

アメリカの政治的危機を議論することから少し離れて、他の場所に目を向けよう。ブラジルはどうなったのか?

それは「サドン・ストップ」危機ではなかった。この危機になる国は、通貨が大幅に減価し、通常、それが輸出を伸ばすよりも、巨額の外貨建て債務を抱えているために、バランス・シートを通じて、国内需要を急激に減らす。資本流出を抑える金利の引き上げしか、政策の選択肢がない。

ブラジルで起きた危機は、これではなかった。第1に、今も商品輸出に依存する経済にとって、グローバルな環境が急速に悪化した。第2に、過剰な債務の累積により、国内の民間支出が急激に低下した。第3に、それを緩和するのではなく、強化するように、財政・金融の引き締め策が採られた。

ルセフ大統領の政府は、長期的な財政引き締めの問題を、需要の減少する時期に、大幅な政府支出のカットで解消しようとした。また中央銀行は、急速な交易条件悪化でインフレが生じる、とパニックになった。

PS Nov 13, 2018

Why Freedom of Assembly Still Matters

JAN-WERNER MUELLER

PS Nov 14, 2018

How Not to Fight Income Inequality

RICARDO HAUSMANN

NYT Nov. 14, 2018

The Tax Cut and the Balance of Payments (Wonkish)

By Paul Krugman


 暗号通貨による歴史的収奪

VOX 09 November 2018

Cryptocurrencies: Financial stability and fairness

Jon Danielsson

暗号通貨cryptocurrenciesは、現在、金融システムに対する脅威ではない。その資産額は2000億ドルたらずであって、資産市場の全体に比べて極めて小さいからだ。しかし、もしビットコインなどの暗号通貨が貨幣として広く使用されれば、それは金融安定性を損なうのか?

その通り。暗号通貨システムは、既存の人工通貨システムと同じ、金融不安定性への諸力に従うだけでなく、さらに他の力も加わるだろう。

いかなる通貨システムも危機を免れない。金本位制、人工通貨、暗号通貨。それは金融システムが人と人との相互行為によって成り立つからだ。人々は群集心理に従い、その意思決定はさまざまな制約と偏見に影響される。ブームは緩やかに進行し、価格の下落は急激だ。

貨幣があることで金融不安定性が生じる。人工通貨システムでは、中央銀行がベースマネーを供給し、M1M2へと金融機関がそれを拡大する。金融危機では、このプロセスが逆転する。

暗号通貨システムでも同じだ。しかし、M1M2を管理する者はいない。完全100%準備システムだ、と主張するが、それは実現しないだろう。人々はビットコインを売買し、そのために貸借する。

暗号通貨システムは追加の不安定性を生じる。なぜなら、危機が生じたとき、人工通貨でベースマネーを無限に供給できる中央銀行がないからだ。中央銀行は市場の恐怖を鎮静化する。資産売却は緩和され、経済は機能し続け、金融機関は破たんしない。

暗号通貨の現在の市場評価額は2000億ドル程度であるが、G20M1の総額は31兆ドルである。もし人工通貨システムがすべて暗号通貨に代わるとすれば、31兆ドルが一握りの暗号通貨投機家の利潤となる。両方のシステムが併存する場合、2000億ドルと31兆ドルとの中間で、暗号通貨の市場規模は決まる。

私的な暗号通貨の使用が成功すれば、それは民間投機家への巨額の資産移転となる。公共財の途方もない歴史的略奪は何度か行われた。イングランドとウェールズの囲い込み条例で、280万ヘクタールの共有地が私有地になった。スコットランドのハイランド・クリアランス、アメリカやオーストラリアにおける先住民からの土地収奪。より最近では、ロシアや中国における民営化。

こうした富の移転は、国家の命令によって、ある者から特定の市民が豊かになるように、巧妙に強制された。しかし、暗号通貨への転換は自発的である。あるいは、政府がこれを認め、両者の併存を許すのかもしれない。31兆ドルの富の移転が成功すれば、それは歴史上最大の公共財の収奪である。


 AmazonNYC

NYT Nov. 9, 2018

New York Should Say No to Amazon

By Ron Kim and Zephyr Teachout

Amazonが、第2本社の立地をニューヨークのロングアイランドシティに決める、と言う。ニューヨーク州知事Andrew Cuomoクオモが好条件を示したのだ。

しかしこの1年、Amazonの「第2本社」(HQ2)立地に関する広報は、それを獲得すれば、多くの雇用とサンフランシスコに並ぶハイテク・ハブを得ると期待させ、多くの都市が候補地に名乗りを上げた。そして、免税や補助金、インフラ計画などの重要なデータ、他の企業にはアクセスできないものまで、提示した。

それは恐るべき無駄づかいであった。

この戦術は、Amazonをプラットフォームにする商店にとって、おなじみのものだ。Amazonは期待を高めておいて、交渉力を強め、好条件を提示させる。価値やデータを可能な限り得たら、Amazonは当初見通しなど無視し、商店が破産しても気にしない。商店がAmazonに依存するようにして、恐怖の選択を迫る。Amazonから出て破産するか、奴隷的な契約を結ぶか? 多くの商店がAmazonの領地になる。

シアトルの経験が示すように、Amazonに依存することは広範な富をもたらさない。住宅価格が高騰し、ホームレスが増えた。Amazonは市政にも権力をふるい、法人税の提案に反対するためのキャンペーンに支出した。

残念だが、市民にとって、ニューヨークは企業と悪質な関係を続けてきた。企業には多くの給付を与え、企業のための都市開発計画に財政の大部分を費やしている。零細企業を押しつぶし、労働者の権利を踏みにじり、出版やアイデアの産業を衰退させるAmazonのような企業に自分を同一視するのは、まったくの侮辱である。

クオモと他のニューヨーク職員は、公務として、Amazonとの約束のすべてを公開すべきである。州民の尊厳と生活を売り渡してはならない。

FT November 13, 2018

Jeff Bezos is wrong, tech workers are not bullies

Laura Nolan

FT November 14, 2018

Big companies are pushing governments around

Sarah O’Connor

NYT Nov. 14, 2018

New York’s Amazon Deal Is a Bad Bargain

By The Editorial Board


 第1次世界大戦と現代

FP NOVEMBER 9, 2018

Macron Finds the Immoral Way to Remember World War I

BY DAVID A. BELL

FP NOVEMBER 9, 2018

World War I’s Depressing Lessons for Asia

BY JAMES HOLMES

かつてマーク・トウェインは警句を残した。「歴史は繰り返さない。しかし、韻を踏む。」

アメリカでは第1次世界大戦のことを忘れてしまった。恥じるべきだ。ドイツ軍がベルギーとの国境を越えたとき、トウェインは生きていないし、その後の流血を非難したのではない。しかし、もし今、トウェインの亡霊がいたら、19188月の砲声と同じ、歴史が韻を踏むのを聞いただろう。

中でも、新興の大国が既存の地政学的な均衡を不安定化し、グローバリゼーションが平和を維持するかどうか、論争が起きていることは、顕著な類似点だ。これらについて、米中の間で戦略的な闘争が急速に加熱している。

1次世界大戦はヨーロッパの1世紀に及ぶ相対的な平和に穴をあけた。ほぼ均等なパワーを持つ5大国(英仏ロ、プロシア、オーストリア)の均衡が、ナポレオンが1815年にワーテルローで敗北して以降、1世紀の平和を維持してきた。プロシア軍は、統一のために領土を奪い、フランスを破って1871年に統一した。

野心的な大国が、長期の安定した勢力均衡を破る、というのは、よく聴く話である。中国共産党の指導部もそう考える。中国中央電視台のシリーズ「大国の興隆」は帝国ドイツの研究に基づく。

しかし、西側は中国を単純にドイツと比較してはならない。19世紀後半から20世紀初めに、2つのドイツがあったからだ。1871-1890年、宰相ビスマルクOtto von Bismarckが君臨した時代と、1890-1918年、皇帝ヴィルヘルム2世が継いだ時代だ。それぞれの指導下で、ベルリンの姿勢は非常に異なった。

中国は、ビスマルクに従うのか、ヴィルヘルムなのか?

米中の対立を平和的に維持するのは貿易だ、という指摘がある。かつて歴史家ファーガソンNiall Fergusonは「チャイメリカ」と呼んで、米中の相互依存を強調した。しかし、第1次世界大戦は、経済的相互依存が平和を維持する手段としては弱いことを示した。

スタンフォード大学のDavid Starr Jordan学長は、貿易相手や資源供給を破壊することになるから、ヨーロッパは戦争しない、と主張した。またイギリスのNorman Angellは、The Great Illusionで、同じ視点から、永久平和への希望と警告を説いた。軍人も平和論者も、虚妄に取りつかれている。貿易について人々を啓蒙することで、経済的相互依存のロジックが好戦的議論を制圧するだろう。しかし、政府も学者もそれをしていない。

個々に2つ目の韻がある。

NYT Nov. 10, 2018

The War That Never Ended

By Ted Widmer

NYT Nov. 10, 2018

Be Afraid of Economic ‘Bigness.’ Be Very Afraid.

By Tim Wu

2次世界大戦後の最大の問題は、どうやってファシズムの再現を防ぐか、であった。それは再び問われている。経済危機を繰り返す中で、少数の企業に富と権力が集中した。人々の間に貧困と不満が広まり、は過激な政治的主張を広めたのだ。反トラストの重要性を再発見するときだ。

FP NOVEMBER 12, 2018

Never Forget That World War I Was Also Racist

BY ROBERT ZARETSKY

NYT Nov. 12, 2018

The Struggle to Stay Human Amid the Fight

By David Brooks


 中国における金融リスクの管理

FT November 10, 2018

Wall St told to stay out of China spat

James Politi and Demetri Sevastopulo in Washington

FT November 12, 2018

No boom, no bust in US housing

Gavyn Davies

FT November 13, 2018

China’s biggest financial risk is the US

Michele Wucker

最近の金融安定性年報で中国の中央銀行は、明確かつ現存するリスクだが、しばしば無視される、「黒サイ」リスクが経済を脅かし続けている、と警告した。そして、不動産市場、地方政府・家計・企業の高い債務水準に注目した。

西側アナリストは、中国の債務問題が次の金融危機の引き金になる、と言う。習近平主席は金融リスクの封じ込めを最優先課題に挙げた。

対照的に、アメリカ政府は10年前に爆発した金融危機を忘れてしまったようだ。10年におよぶ超金融緩和がグローバルな危険を生じていることに言及することもない。

中国は徐々に、信用バブルが破裂しないように、空気を抜いている。経済を「良質の成長」、すなわち、より減速しても、公平な分配と、脆弱さを抑制した成長に向けている。規制、強制、流動性の管理により、「黒サイ」をその標的としている。すなわち、高い企業債務、過剰流動性、シャドー・バンキング、資本市場の脆弱さ、不動産バブル、オンライン金融商品・サービス、である。

対照的に、トランプ大統領と政府高官はアメリカ経済の強さを吹聴し、リスクや弱点は軽視する。この数週間、市場の浮動性が示されたが、トランプはアメリカの株価が記録的な高水準であると自慢した。中国の株価指数は今年に入って20%も下落してきた。

しかし、外交評議会の分析が示すように、中国の株価は信用の拡大が減速するのと、過去1年ほど、緊密に一致する。下落は中国政府の資産バブル対策なのだ。トランプ政権の金融リスクを気にしないアプローチが、経済政策として成功することはないだろう。

アメリカ議会が201712月、大規模減税を承認する準備段階で、中国の政府高官は資本移動や金融安定性におよぶ衝撃を「黒サイ」と呼んだ。そして迅速に、金利引き上げ、資本規制、積極的な通貨介入を組み合わせた、緊急行動計画を立てた。他方、トランプ政権の新しい減税策は、財政赤字を増やし、金利を上昇させる。しかも金融リスクが増大する中でも、金融のセーフガードを解体し、次の危機を封じ込める緊急時の権限を削っている。

矛盾したことに、現在のアメリカが採る対中国政策は、投資家たちが望む中国の改革を妨げている。たとえば、国有企業の過剰生産力の削減、通貨市場への介入を抑えること。トランプの好戦的な主張は、中国の漸進的な市場開放を無視してきた。金融サービスを含む、15分野で投資規制を緩和し、知的所有権でも前進した。これらは中国の利益にもなるからだ

もしアメリカが、グローバル経済と金融市場で膨張する危険に対して中国がしていることを十分に注意しているなら、金融リスクを減らす中国の有意味な努力に、レンチを投げ込んで邪魔するようなことはしないはずだ。

まず、貿易戦争を終わらせると合意してはどうか。

FT November 13, 2018

Complacent investors face prospect of a Minsky moment

John Plender


(後半へ続く)