IPEの果樹園2018

今週のReview

11/12-17

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アメリカ中間選挙前 ・・・技術移転と米中戦争 ・・・中米からの難民・移民 ・・・IT企業と誘致政策 ・・・インドとアメリカの中央銀行 ・・・1次世界大戦の終結から100 ・・・脱ドル化 ・・・アメリカ中間選挙の結果

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカ中間選挙前

The Guardian, Fri 2 Nov 2018

Why democracy will be the biggest loser in the US midterms

Gary Younge

ウィスコンシン州、Racineで、教師の労働組合長であるAngelina Cruzは、投票を勧誘して戸別訪問した。彼女は通りを歩いているときも、人々に声をかける。

「今日、投票できます。知っていますか?」 若い黒人男性は答えた。「私は投票できない。私は “felon” だから。」 Felonとは、重罪を犯したものだ。ウィスコンシンでは、刑期を終えたか、仮釈放、保護観察の後、投票権を回復できる。

ウィスコンシン州では、有権者の1.47%が、felonであるという理由で投票できない。小さい数字に見えるが、65606人である。2016年、ドナルド・トランプがウィスコンシンを取ったときの差は22748人であった。

火曜日の選挙は重要だが、そのプロセスは民主的ではない。多くの人々が選挙から排除されるからだ。数十万の潜在的な投票が失われ、特定の党に有利な選挙区が作られる。すべての市民は投票できず、すべての投票が同じように数えられない。

ウィスコンシンが示すもう1つの問題は、ゲリマンダリングGerrymanderingである。現職の政治家が当選しやすくなる。政治家は競争しなくなり、有権者を代表しなくなり、より支持者に偏った主張をする。共和党も民主党も、ゲリマンダリングを行うが、共和党の方が、最近、多くの機会を得たし、より恥知らずに行った。2012年、共和党はウィスコンシンの票の46%を得たが、議席の60%を占めた。

投票を抑えるやり方としては、投票者の身分証明を厳しく要求することだ。多くの有権者はそれを示せない。それは投票詐欺を禁止するためにできた法律Voter ID lawsを悪用している。投票詐欺は非常に少ないが、このID確認で多くの有権者、特に、アフリカ系アメリカ人と貧困層が投票を拒まれている。居留地に住むネイティブ・アメリカンは、ノース・ダコタ州の求める「住所の通り名と番地」を書けない。

麻薬の使用はアフリカ系アメリカ人にも白人にも広まっているが、前者は後者の6倍も多く収監されている。黒人は6倍も多く、殺人罪の不当な判決を受けている。また、12倍も多く、麻薬犯罪の不当な有罪判決を受ける。

Felonで投票を排除された率で最も高いのがFlorida, Georgia, Nevada and Arizona4州である。今年の中間選挙で接戦が続く州だ。現在のノース・ダコタ選出上院議員は、わずか3000票差で2012年に勝利した。そのうえ上院では、各州から2人の議員が選ばれる。カリフォルニアにはワイオミングの68倍の人口がいても、同じだ。大統領選挙では、最も多くの投票ではなく、最も多くの選挙人を獲得する者が勝利する。

根本的な不公平さと、破壊された投票プロセスであるが、意図的に、貧しい者や苦境にある者が不利になる形で操作される。火曜日に誰が選出されるとしても、すでに民主主義は敗北したのだ。

FT November 2, 2018

Simon Schama on the battle for America

Simon Schama

中間選挙の数日前、殺人犯はthe Tree of Lifeに来た。「すべてのユダヤ人を殺す必要がある」と叫んで、ピッツバーグのユダヤ教教会で11人を殺害した。2日前、パイプ爆弾が、トランプを批判する14人に郵送されてきた。犯人は、その自動車にMAGAMake America Great Again:トランプの選挙スローガン)のステッカーを掲げる男だった。さらに1日前、ケンタッキー州、ルイジアナの黒人教会に入ろうとした男は、すでにスーパーマーケットで2人のアフリカ系アメリカ人を殺害していた。逮捕される前、「白人は白人を殺さない」と叫んだ。これら3人は、白人のアメリカを救う戦いに参加している、と信じていた。

こうした襲撃や殺害に加えて、トランプが、許可証を持たない移民たちの子供に出生による国籍が得られる権利を廃止したい、と述べたことは、中間選挙の性格を決定的に変えた。国家のアイデンティティーに関する2つの敵対する思想が闘っている。この戦いは世界中に起きている。インド、アッサムでは、イスラム教徒から国籍を奪おうとしている。Brexitでは、イギリス人とは何かを論争している。

The Guardian, Sun 4 Nov 2018

The American civil war didn't end. And Trump is a Confederate president

Rebecca Solnit

トランプの支持者たちは1860年代の白人男性支配にもどろうとしている。しかし、連合国・南軍の勝利は、長期的に見て、ないだろう。

アメリカ合衆国が建国される前でも、ピューリタンと他のキリスト教会派が、分離された同質的な社会と多元的社会、狭義の「われら」と広義の「われら」との間で、大きな対立抗争があった。

われわれがしているように、多くの大都市が、違いを超えて、日々、共存によって繁栄する場所である、ということだ。多くのアメリカ人が人種や宗教の違いを超えて結婚している。連帯のために、偉大な、包括的な、「我ら、人民」に帰属する者が多くいる。長期に観れば、彼らは今、多数派でなくても、大きな影響を発揮する。南軍は1860年代に勝てなかったし、長期的に、将来も勝つことはないだろう。

私はよく知っている。この国を悲惨な状態にしているのは、想像上の欠乏である。われわれすべてに行きわたるほど物はない。われわれは奪い合い、貯蔵し、ドアを激しく閉めて、国境警備に出る。資源をめぐる戦争だ。資源の分配をめぐって、だれが分配を決めるかをめぐって闘いが起きる。しかし、分配をめぐる争いを別にすれば、われわれは豊かな土地を持ち、並ぶもののない豊かさを享受している。この国は常に多様であったし、繰り返し、平等と普遍的な価値を理想としてきた。

果てしのない内戦状態ではなく、これこそがもう1つの現実世界だ。

FT November 6, 2018

US midterms: why the world fears ‘Trumpism’ is here to stay

Gideon Rachman in London

しかし、中間選挙をあまり重視することは間違いだ。通常、中間選挙では大統領の政党が後退する。アメリカ政治の長期的趨勢を意味するわけではない。

たとえ、中間選挙でも、2020年の大統領選挙でも、民主党が勝利したとしても、アメリカには「トランプ主義」がそのまま残る、と世界は考えるべきだろう。アメリカの左派は以前から保護主義を支持し、ヒラリー・クリントンもTPPを支持しなくなった。中国への疑念と敵意は、共和党にも民主党にも広くある。

オバマ政権からトランプ政権へ、ヨーロッパや中東に関する外交の基本的変化は継承されている。オバマはシリアへの軍事介入をせずに非難されたが、トランプも中東における影響力の低下を容認している。

国際政治におけるアメリカの影響力低下、「世界の警察官」という役割から徐々に退くことは、意識的な政策の結果である。それこそ、オバマが「自分たちの国家再建」に集中すると約束したことであり、トランプの言う「アメリカ・ファースト」である。

どちらの大統領も、アメリカはグローバルな指導者の重荷に疲れた、と認めている。


 技術移転と米中戦争

PS Nov 8, 2018

The Myth of China’s Forced Technology Transfer

DANIEL GROS

トランプ政権が中国に対する関税などの措置を取る理由は、中国が市場アクセスを望む外国企業に、パートナーの中国企業への技術移転を「強制」している、という不満が強いからだ。この場合、「強制」という言葉は、経済的な価値がないことを強いられてやる、という意味である。しかし、欧米企業はそれでも中国に投資している。彼らがそれを選択しているのは、利潤を期待しているからだ。

技術移転の要求とは、外国企業が地元企業と良い条件で取引することにより、合弁企業の利益に貢献することを促している。それと交換に、成長を渇望している地元企業や政府は、安価な土地やインフラを提供し、税の免除、優遇的な融資を行う。

要するに、技術移転はすべての直接投資に含まれているのだ。

技術移転の要求が西側企業のコストを増した、中国に大きな利益をもたらす政策だ、という主張は、おそらく、大幅に誇張されている。ではなぜ、中国政府は市場アクセスに結び付けるのか?

それによって、中国はFDIを監視する体制を維持したいのであろう。しかし、すでに中国の技術開発力はこの20年間で急激に向上した。GDP比で中国のR&D投資はヨーロッパや他のOECD諸国を超えている。中国企業はもはや「幼稚産業」ではない。かつて西側企業は、技術移転しても中国企業にはそれが吸収できない、と考えていた。そのような判断は今では不可能だ。

中国政府が技術移転の要求をやめないのは、アメリカ側と同じく、その効果を過大評価しているからだろう。また、中国は西側企業がライセンスによって技術を利用させている条件の悪さを認識していない。中国からのライセンス料支払いは急増し、300億ドルに近づいている。

トランプは、単なる技術移転ではなく、中国がアメリカを超えること、その技術的な指導性を、安全保障にかかわる多くの分野で失うことを嫌っている。中国が技術移転の要求を廃止しても、その問題は解消しない。また、中国にとっては、米中貿易戦争がヨーロッパや日本に利益となるだけであるから、技術移転だけでなく、ライセンスより技術の共有を支持する要求も含めて、すべての規制を廃止する方が良い。

その方が、中国経済はさらに強化され、トランプ政権の主張が経済ではなく地政学の問題だ、とはっきりする。


 中米からの難民・移民

FP NOVEMBER 6, 2018

The Hungry Caravan

BY HELENA SILVA-NICHOLS

何千人もの人々が自国を逃れてくることについて、アメリカでは中米の暴力が議論されている。しかし、もう1つの問題がある。それは、食糧が安定的に供給されない、食糧安全保障だ。

彼らの故郷には、かつて豊かな土地が日焼けた乾燥状態にある。雨は良くても間歇的に降るだけで、また、降るときには激しく、残った作物に破滅的な結果となる。干ばつは2014年に始まったが、その最も深刻な、メキシコ南部からパナマに至る地帯は、ラテンアメリカの乾燥回廊である。

この地帯には、中米の190万人の、基礎的穀物を作る小農の約半数が住んでいる。この2年間で、彼らはトウモロコシや豆の70%から80%を失った、という推計がある。その結果、200万人以上が飢餓のリスクにさらされる、と故交連は警告した。El Salvador, Guatemala, and Hondurasがその困窮地帯だ。乾燥回廊の貧困と飢餓の深刻さを思えば、人々が紛争の続く国を逃れるのも容易に理解できる。

歴史的に、ラテンアメリカの土地所有はエリートと企業、特に外国企業に、極端なまで集中されていた。実際、この地域では世界で最も土地が不平等に分配されている。2016年、OXFAMの調査報告は、最大の1%の農場は、ほとんど多国籍企業の支配する農園だが、地域の農耕地の51%に達する。その反対には、ラテンアメリカ農場の下から80%は小農民である。彼らが所有する農園は、農地全体のわずか13%でしかない。

安全や安定性を欠いたままでは、コミュニティと小農は貧しいままだろう。彼らには持続的な農耕の改善、環境破壊や気候変動に対する技術導入を行う動機がないからだ。そのような投資は時間、労働、資金を必要とする。農民たちは、土地が容易に収奪されることを知っている。

そのような土地で生きる彼らの選択肢とは、とどまって飢えるか、どこかで再出発する希望により国を出るか、である。


 IT企業と誘致政策

NYT Nov. 6, 2018

A Warning From Seattle to Amazon’s HQ2

By Margaret O’Mara

そこはアメリカのプルーンの主要産地だった。未来のシリコンバレーである。1920年代には、眠くなるような農園の景色だけで、工業中心地から遠く離れていた。

シアトルは漁業と林業の町だった。Bill Boeingという名の若い企業家が、彼の飛行機を買う人は少なく、まもなく、家具の生産に転換した。世界の核心的企業群は、競って東部や中西部の都市に集まった。自動車のデトロイト、キャッシュレジスターのデイトン、電球のクリーブランド。

ハイテク産業の地理的分布は1950年代に転換し始めた。電器産業や航空産業のブームが起きたからだ。国中の、世界中の都市が、西海岸のハイテク産業による成長をまねて競争した。

その後、Amazonの創業者にしてCEOであるベゾスJeff Bezosが、昨秋、シアトルに匹敵する第2の本社を作る、と発表した。デトロイト、デイトン、クリーブランドを含む、238の地域がこれに名乗りを上げたのは当然だ。Amazonがもたらす5万人のハイテク雇用は、減税やインフラ整備に数百万ドルを支出する価値がある。

では、この第2の本社ができる都市は、その歴史から何を学ぶべきか?

シリコンバレーの成功の秘密は、免税や安価な土地ではなかった。戦後の潤沢な研究開発投資、豊富な住宅供給と公共インフラであった。ハイテク都市・企業の繁栄も永久に続くものではない。


 インドとアメリカの中央銀行

FT November 5, 2018

The battle between India’s central bank and the government has deep roots

Devesh Kapur

中央銀行は、注意深い、暗号めいた、固い表現をする。しかし、インド準備銀行RBIの副総裁Viral Acharyaが、今週、その独立性に関して強い言葉で懸念を示した。

「中央銀行の独立性を損なうことは、潜在的な破局を意味する、自殺行為だ。」と、Acharyaは述べた。「政府や企業が資金を調達する金融市場に、信認の危機を生じうる。」

この数か月、政府はRBIの法律にある「政府との協議を経たのちに」という条文にある「指示」を行使することを検討してきた。政府は、電力会社が例外的に、RBIから流動性を供給されることを望んでいる。そして、国営銀行に対してRBIの課している、企業への融資制限を、緩和するよう望んでいる。この要求に対して、Urjit Patel総裁は辞任を示唆したと伝えられる。

インドの金融業、特に国営銀行には、不良債権が累積している。この問題がインドの投資や成長を妨げている。

政府とRBIは、ともにこの問題に責任がある。10年前に過剰融資が増えたのは、政府がクローニズムを許容し、国営銀行に不当な活気を生じたからだ。その融資ブームは、問題の重大さを認識できなかったRBIの規制の失敗で、2014-2017年に不良債権を3倍に増やした。

問題はもう1つある。RBI2月からデフォルトに関する姿勢を厳しくした。インドの融資にかかわる文化を変えるべきだ、と示唆している。国営銀行の半数以上が厳格な是正プログラムの下に置かれた。大企業への融資を減らし、特定産業への集中を抑えるように要求される。その結果、返済は大きく改善したが、中小企業への融資も減った。

インドでは政治的コネを持つ企業経営者が、長く、国営銀行の融資やデフォルトに関わってきた。今、彼らは返済するか、企業の所有を諦めることを強いられている。国営銀行を利用した略奪は、その所有者であるインド国家との共謀であった。政治家たちにとって、銀行は支援者への利益誘導、政治活動の資金調達に欠かせない資源だった。

中央銀行の独立性は今やグローバルな通念として確立された。それは、貪欲で、買収されやすい政治家から、通貨を守る英雄的な官僚たちのイメージだ。総選挙が半年後に迫って、政府はRBIの狭隘さにより経済が悪化し、有権者の展望を損なう、と不満を感じている。

もし政府の要求が、重要機関に関する、例外的なケースであれば、こうした事態も懸念することではない。RBIは政府と協力することを学ばねばならず、独立性それ自体が目的ではない。制度は抽象的な存在ではなく、その権限を行使するときは、自制、プラグマティズム、慎重さを持たねばならない。それがあって初めて困難な事態を管理できる。それを欠くなら、危機が避けられない。

残念だが、政府のRBIへの要求は例外ではない。さまざまな制度に政府は介入し、戦略政策決定、中央検察機関から、メディアや裁判所、高等教育機関にまで及んでいる。首相府への権力集中、与党の自制を欠く行動は、RBIと政府との綱引きより、インドの将来を暗くするものだ。


 1次世界大戦の終結から100

The Guardian, Tue 6 Nov 2018

For millions of Europeans, the war did not end in 1918

Natalie Nougayrède

エマニュエル・マクロンは、第1次世界大戦の休戦から100年を記念し、フランスの戦場跡をめぐる6日間の旅に出る。草原や森は、今なお、その痕をとどめている。

マクロンはもちろん、来年の欧州議会選挙に向けても運動している。しかし、歴史に対する関心は扱いが難しい。彼はまた、フランス外交の特殊な目標をねらっている。日曜日、多数の指導者とともに、パリで「平和フォーラム」を主宰するのだ。1918年のグローバルな意義を強調する。しかし、そこには東欧の記憶がない。1918年の記念式典は、ヨーロッパの統一を促すよりも、事態の複雑さを示すだろう。

先月、ベルリンで、第1次世界大戦の会議に参加した際、1人の50代のドイツ人外交官から感動的な話を聞いた。彼女が身に着けている美しいネックレスに気付いたからだ。それは、2人の兄弟を1914-1918年の戦争で失った、老いたフランス人女性が彼女に遺贈したものだ、と語った。何十年も、そのフランス人のおばあさんはドイツ人と話すことを拒み、近づくこともなかった。彼女の家族を規則的に訪問するボンからの交換学生も拒んだ。しかし、何年も経って、彼女は好きなネックレスを和解のしるしとしてドイツ人学生に贈る、という遺言に書いた。ドイツ人外交官がその学生だった。彼女は話の最後にそっと付け加えた。「私が死んだら、このネックレスはフランスへ、おばあさんの孫の娘さんに遺贈します。」

1918年に戦闘終結を祝うことができるのは西部戦線だけである。ヨーロッパの東部では、諸帝国の崩壊、ロシア革命、内戦、新興諸国家の国境画定、すべてが軍事衝突の継続を意味し、深い傷を残した。多くの意味で、それが1930年代の諸国の独裁体制を用意し、一層の流血をもたらした。ポーランドとソ連の戦争は1921年まで続き、革命の赤軍と旧ロシアの白軍とが内戦を1923年まで続け、その地域は現在のウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、バルチック海沿岸におよんだ。ポーランドとウクライナ、ポーランドとリトアニアも戦争し、ユダヤ人虐殺も起きた。1919-1922年のギリシャとトルコの戦争は、恐るべき虐殺と、160万人の住民交換が行われた。

今日、ブダペストやワルシャワには、東欧の市民が平等に扱われていない、という発想でナショナリストとポピュリストが権力を握っている。もちろん、政治指導者たちが歴史を悪用している。しかし、西欧市民は彼らの経験した苦しみに関心を持ったか、知っているのか?


 脱ドル化

YaleGlobal, Tuesday, November 6, 2018

New Players in a Dollarized World

Michał Romanowski

アメリカの攻撃的通商政策、敵に対する経済制裁は、グローバルな通貨情勢を転換する刺激となった。その結果、ドルが支配するシステムからの着実な撤退が進んでいる。

「脱ドル化」は、多極型の通貨秩序に向かう全体的な変化の一部である。ロシアや中国のような国が、その国際的な力を使って、変化を促している。イラン、トルコ、ヨーロッパ主要国も、それに遅れていない。

アメリカ・ドルは数十年にわたりグロール経済の王座にあった。1970年代に、サウジアラビアがアメリカとの原油取引にドルのみを使用する合意に達して、その地位が固まった。今日、世界の外国為替取引の60%、貿易取引の70%が、ドルで行われている。世界中の決済がドルで行えることから、ドルに対する需要が生じている。その地位ゆえに、アメリカ政府は、短期・長期の債券発行により、低利で債務をファイナンスしている。

新興市場が成長する中でも、アメリカの金融システムと金融政策の透明性は、危機の不確実性がある世界で、ドルを安定的な避難所にしている。しかし、アメリカ・ドルの大規模な保有が諸国の金融政策、マクロ経済運営を困難にしている。為替レートの変動が大幅な損失を生じうる。

ドル化を逆転するには、物価の安定、為替レートの弾力化だけでなく、経済構造の変化に向けた包括的政策対応が求められる。IMFは、2000-2008年に、金融並びにマクロのプルーデンシャル政策、インフレ目標が、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアの新興市場で脱ドル化を成功させた、と指摘する。

ロシアは、石油収入に財政を頼っているが、プーチンは経済制裁に対抗して脱ドル化を進めた。今年、モスクワは、800億ドル以上のアメリカ財務省証券を売却した。また世界最大の石油・天然ガス輸出国として、ドル依存に反抗することも考えている。中国は、国際貿易・投資における人民元の利用を促している。すでにIMFは人民元をSDRに追加した。2017年、中国は初めてアメリカを抜き、世界最大の石油輸入国になった。20183月には人民元建の石油先物市場を立ち上げた。それは石油に限らない。諸国の通貨と人民元とのスワップ取引に合意し、イランと中国の2国間取引からドルを追放した。同様の合意をカナダやカタールとも計画している。

ヨーロッパはこうした動きを慎重に観察しているが、欧州委員会のユンカーJean-Claude Juncker委員長は、アメリカからヨーロッパが輸入する原材料は2%でしかないのに、エネルギー輸入の80%がドル建であるのはばかげている、と発言した。ECBは最近、5億ユーロに相当するドル準備を人民元に交換した。それは中国の国際金融システムにおける重要性の増大を反映するだけでなく、米欧の大西洋同盟が緊張していることも影響している。

脱ドル化をともないつつ、通貨システムは多極化するが、それは政治的な結果を生じる。地政学的な意味で、中国の指導力が発揮される余地は広がっていく。Barry Eichengreenが示唆したように、ポンドからドルへの20世紀の転換は非常に急速に起きた。そのことをわれわれは再認識すべきだ。


 アメリカ中間選挙の結果

The Guardian, Wed 7 Nov 2018

Don't be fooled. The midterms were not a bad night for Trump

Cas Mudde

トランプは選挙の結果を勝利と呼んだ。共和党は多くの議席を失ったが、多くはポストを維持している。トランプの最大の勝利は、共和党内部に起きたことだ。彼が指名を獲得したとき、多くの保守派はトランプを支持しなかった。彼が大統領になって、多くの共和党員は彼を認めたが、主流の保守派に変身することを期待していた。しかし2年経って、トランプが共和党を変えたのだ。

旧保守派の共和党は死んだ。これからの2年間、彼らはラディカルな右翼として、大統領選挙に向かう。中間選挙は政策やプログラムを議論せず、他のどのような候補もしなかったように、分裂を煽って支持基盤を動かした。

民主党が下院の多数を手に入れたことで、共和党は、アメリカを再び偉大にする(MAGA)「ユニークなチャンス」を失った、と強調し、民主党を非難することができる。結局、それはトランプにとってそれほど悪い結果ではなかったのだ。

NYT Nov. 7, 2018

The Democrats Won the House. Now What?

By The Editorial Board

下院を押さえたことで、民主党には次の2年間にチャンスがある。立法府のより良いモデルを示すこと。議会がアメリカ国民に対して、富裕層に減税したり、他のすべての人々の医療保険を奪うと脅したりするより、もっと多くのことができる、と示すのだ。

民主党の指導者たちは、共和党のMitch McConnellとその仲間がやったより、もっと建設的な方法で闘う。

中間選挙においても、民主党の政策目標は3つであった。医療保険のコストを下げる。インフラ投資により雇用を増やす。包括的な改革パッケージにより政治を浄化する。これらは国民に指示されるから、超党派で推進できる。トランプ大統領も、それを唱えてきた。

民主党は、トランプに借金を支払わせるより、アメリカ国民がより良い政府を得たと示すべきだ。

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The Economist October 27th 2018

Aussie rules

Immigration: Caravan of guff

Banyan: Panda-ing

Poverty in California: Amid plenty, want

Lexington: More on target

Migration: The Hondurans are coming!

The wonder down under: Can Australia’s boom last?

Asian economies: War profiteering

(コメント) オーストラリア経済のブームを維持する、先を観た制度改革がすばらしい。資源や移民だけでなく、政治のしくみにも工夫があったようです。日本がオーストラリアになれるだろうか?

難民のキャラバン、日中関係の改善、トランプ外交、いずれも面白いです。

しかし、特に興味ある内容は、カリフォルニアの貧困と、米中の貿易戦争が生じるアジアの経済的な利益について。

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IPEの想像力 11/12/18

アメリカの中間選挙と、第1次世界大戦の終戦100周年記念式典。大きな政治の枠組みを変えるのは、覇権国の変心か、新興諸国が関わるグローバルな戦争か。

・・・ アメリカ中間選挙に、トランプを支持する人々が2020年に向けて熱狂する舞台が準備され、富裕層への減税、バブルから、中下層への社会給付へ、さらに社会的な偏見・分断と、戦争という政府支出に向かう予兆を観ました。

・・・ それはAIとロボットの戦場、石油市場支配、そして、戦後秩序に向けた知的所有権によるグローバルな寡占企業、それらの混合戦争体制です。

・・・ 30年のグローバル戦争を終結する和平会議の結果は、温暖化や大気・海洋汚染が進む世界における水源や耕作地の支配者・境界線の画定です。さらに、グローバルな感染爆発に対する医薬品の支配体制、ハイテク分野に及ぶグローバルな委託生産・下請けのネットワーク労働の管轄権、データ管理・サイバー犯罪から集団監視・グローバルな識別技術まで、治安・安全保障の細密化、そしてタグを内蔵する終身刑、巨大な島や砂漠に展開する再教育センターなど。何を、どこまで、どのようなスタンダードで容認するか、合意します。

政府と中央銀行との関係、国際通貨ドルからの多極化。

・・・ インドでも、アメリカでも、中央銀行の独立性が政治によって浸食され、世界各地の強権的指導者や非リベラルな政治体制の下で、金融システムが資本移動と衝突し始めます。

・・・ ドル支配が政治の強制手段であることを明確にした以上、国際通貨・金融システムの解体・多極化に向かう圧力は限界を超えて、国際合意や政策協調の基盤が消滅します。

多国籍企業と自由貿易を両極とした世界の政治経済構造

・・・ 日本のさまざまなニュースが取り上げました。アリババの「独身の日」セールで、1日の売り上げが34000億円。楽天の年間売り上げとほぼ等しい。

・・・ アマゾンの新しい本社立地をめぐる、諸都市の誘致競争が注目されています。アメリカでも、中国でも、グローバル企業の誘致と莫大な補助金や優遇策は、貧困や暴力の解決策とセットになって政治を問います。

・・・ 中国やインドなど、新興市場でのiPhoneの売り上げが予想を下回る、というニュースで、アメリカの株価が下落しました。

・・・ 次のアメリカの不況ではなく、次の中国の成長減速はどうなるのか。米中貿易戦争が、米中同時不況に至るとしたら。

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朝日新聞デジタル「米中間選挙 『トランプ王国』熱狂のあと ラストベルトに住んでみた」(金成隆一)が面白いです。

「わたしは毎朝2時半ぴったりに起きる。シャワーを浴びる。コーヒーを入れて、たばこを吸う。ネットでニュースを読む。朝5時に出勤する。店はもちろん無人。5時半ごろ、店の前のスタンドに新聞が届く。小銭を入れて買う。スポーツ欄と死人欄を読む。その後に調理用ソースを仕込む、ミートボールをこねる。この準備の時間が私のリラックスの時間でもある。一人きりの作業。静かな音楽をかけ、いろいろ考え事もする。朝9時になるとミシェルも出勤してくる。そうやって店が始まる。私がやっていることは40年以上、なにも変わらない。」

代々の炭鉱労働者であった家族が、サンドイッチ店を始めました。しかし、今ではチェーン店が増えて、彼の店の経営は非常に厳しい。カリフォルニアの火災によってレタスの値段が上がることを心配します。

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底辺に住む中米の移民・難民キャラバンがアメリカ国境に達する日は、いつでしょうか? それは途中で消滅するのかもしれません。しかし、将来もキャラバンは続くでしょう。

アメリカが変身し、中産階級の雇用や生活改善に成功すれば、トランプ王国を出た人たちが、移民や難民を温かく迎えて、毛布や食事を与えるのではないでしょうか。あるいは、自分の職場や住宅での仮眠を勧め、仕事を紹介する光景を観るかもしれません。

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