IPEの果樹園2018

今週のReview

11/12-17

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アメリカ中間選挙前 ・・・メルケル時代の終わり ・・・技術移転と米中戦争 ・・・中米からの難民・移民 ・・・IT企業と誘致政策 ・・・インドとアメリカの中央銀行 ・・・1次世界大戦の終結から100 ・・・脱ドル化 ・・・中国経済の減速 ・・・アメリカ中間選挙の結果 ・・・第3次世界大戦

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカ中間選挙前

The Guardian, Fri 2 Nov 2018

Why democracy will be the biggest loser in the US midterms

Gary Younge

ウィスコンシン州、Racineで、教師の労働組合長であるAngelina Cruzは、投票を勧誘して戸別訪問した。彼女は通りを歩いているときも、人々に声をかける。

「今日、投票できます。知っていますか?」 若い黒人男性は答えた。「私は投票できない。私は “felon” だから。」 Felonとは、重罪を犯したものだ。ウィスコンシンでは、刑期を終えたか、仮釈放、保護観察の後、投票権を回復できる。

ウィスコンシン州では、有権者の1.47%が、felonであるという理由で投票できない。小さい数字に見えるが、65606人である。2016年、ドナルド・トランプがウィスコンシンを取ったときの差は22748人であった。

火曜日の選挙は重要だが、そのプロセスは民主的ではない。多くの人々が選挙から排除されるからだ。数十万の潜在的な投票が失われ、特定の党に有利な選挙区が作られる。すべての市民は投票できず、すべての投票が同じように数えられない。

ウィスコンシンが示すもう1つの問題は、ゲリマンダリングGerrymanderingである。現職の政治家が当選しやすくなる。政治家は競争しなくなり、有権者を代表しなくなり、より支持者に偏った主張をする。共和党も民主党も、ゲリマンダリングを行うが、共和党の方が、最近、多くの機会を得たし、より恥知らずに行った。2012年、共和党はウィスコンシンの票の46%を得たが、議席の60%を占めた。

投票を抑えるやり方としては、投票者の身分証明を厳しく要求することだ。多くの有権者はそれを示せない。それは投票詐欺を禁止するためにできた法律Voter ID lawsを悪用している。投票詐欺は非常に少ないが、このID確認で多くの有権者、特に、アフリカ系アメリカ人と貧困層が投票を拒まれている。居留地に住むネイティブ・アメリカンは、ノース・ダコタ州の求める「住所の通り名と番地」を書けない。

麻薬の使用はアフリカ系アメリカ人にも白人にも広まっているが、前者は後者の6倍も多く収監されている。黒人は6倍も多く、殺人罪の不当な判決を受けている。また、12倍も多く、麻薬犯罪の不当な有罪判決を受ける。

Felonで投票を排除された率で最も高いのがFlorida, Georgia, Nevada and Arizona4州である。今年の中間選挙で接戦が続く州だ。現在のノース・ダコタ選出上院議員は、わずか3000票差で2012年に勝利した。そのうえ上院では、各州から2人の議員が選ばれる。カリフォルニアにはワイオミングの68倍の人口がいても、同じだ。大統領選挙では、最も多くの投票ではなく、最も多くの選挙人を獲得する者が勝利する。

根本的な不公平さと、破壊された投票プロセスであるが、意図的に、貧しい者や苦境にある者が不利になる形で操作される。火曜日に誰が選出されるとしても、すでに民主主義は敗北したのだ。

FT November 2, 2018

Simon Schama on the battle for America

Simon Schama

中間選挙の数日前、殺人犯はthe Tree of Lifeに来た。「すべてのユダヤ人を殺す必要がある」と叫んで、ピッツバーグのユダヤ教教会で11人を殺害した。2日前、パイプ爆弾が、トランプを批判する14人に郵送されてきた。犯人は、その自動車にMAGAMake America Great Again:トランプの選挙スローガン)のステッカーを掲げる男だった。さらに1日前、ケンタッキー州、ルイジアナの黒人教会に入ろうとした男は、すでにスーパーマーケットで2人のアフリカ系アメリカ人を殺害していた。逮捕される前、「白人は白人を殺さない」と叫んだ。これら3人は、白人のアメリカを救う戦いに参加している、と信じていた。

こうした襲撃や殺害に加えて、トランプが、許可証を持たない移民たちの子供に出生による国籍が得られる権利を廃止したい、と述べたことは、中間選挙の性格を決定的に変えた。国家のアイデンティティーに関する2つの敵対する思想が闘っている。この戦いは世界中に起きている。インド、アッサムでは、イスラム教徒から国籍を奪おうとしている。Brexitでは、イギリス人とは何かを論争している。

PS Nov 2, 2018

Trumponomics and the US Midterm Elections

PROJECT SYNDICATE interviews ANGUS DEATON, BARRY EICHENGREEN, RANA FOROOHAR, GLENN HUBBARD, EDMUND S. PHELPS

この好景気は誰のものか? オバマ景気か? トランプ景気か?  Rana Forooharは、イエレン=パウエル景気と呼ぶ。

Edmund S. Phelpsによれば、景気回復は終わったのであり、Barry Eichengreenは景気循環に従ったものだ、と考える。トランプはビジネス心理にプラスであっただろう、と。

Angus Deatonは、株価上昇により、労働者から資本への再分配が行われた、と懸念する。Forooharは、巨額の減税で、甘味料を加えた長期の景気が最簿に崩壊するのは確実だ、と言う。問題は、それが2020年の大統領選挙前か、後になることだ。Phelpsは、トランプ大統領が、技術革新や生産性上昇に必要な政策を何もしていない、と指摘する。

NYT Nov. 2, 2018

God’s Red Army

By Katherine Stewart

もし民主党が火曜日の中間選挙でブルー・ウェイブの実現を阻まれるとしたら、その最大の要因はキリスト教のナショナリスト・グループが発揮する組織力である。

NYT Nov. 2, 2018

The Democrats’ Next Job: Bury Supply-Side Economics

By Michael Tomasky

The Guardian, Sun 4 Nov 2018

The American civil war didn't end. And Trump is a Confederate president

Rebecca Solnit

トランプの支持者たちは1860年代の白人男性支配にもどろうとしている。しかし、連合国・南軍の勝利は、長期的に見て、ないだろう。

アメリカ合衆国が建国される前でも、ピューリタンと他のキリスト教会派が、分離された同質的な社会と多元的社会、狭義の「われら」と広義の「われら」との間で、大きな対立抗争があった。

われわれがしているように、多くの大都市が、違いを超えて、日々、共存によって繁栄する場所である、ということだ。多くのアメリカ人が人種や宗教の違いを超えて結婚している。連帯のために、偉大な、包括的な、「我ら、人民」に帰属する者が多くいる。長期に観れば、彼らは今、多数派でなくても、大きな影響を発揮する。南軍は1860年代に勝てなかったし、長期的に、将来も勝つことはないだろう。

私はよく知っている。この国を悲惨な状態にしているのは、想像上の欠乏である。われわれすべてに行きわたるほど物はない。われわれは奪い合い、貯蔵し、ドアを激しく閉めて、国境警備に出る。資源をめぐる戦争だ。資源の分配をめぐって、だれが分配を決めるかをめぐって闘いが起きる。しかし、分配をめぐる争いを別にすれば、われわれは豊かな土地を持ち、並ぶもののない豊かさを享受している。この国は常に多様であったし、繰り返し、平等と普遍的な価値を理想としてきた。

果てしのない内戦状態ではなく、これこそがもう1つの現実世界だ。

NYT Nov. 4, 2018

If You’re Sure You Know What’s Going to Happen on Tuesday, You’re Wrong

By Christopher Buskirk

FT November 5, 2018

These midterms mark a culture shift for business and politics

Rana Foroohar

FT November 5, 2018

Trump, The Blue-Collar President by Anthony Scaramucci

Review by Edward Luce

FP NOVEMBER 5, 2018

Why Is It So Hard to Vote in America?

BY COLUM LYNCH

アメリカ人は自分たちの政治システムが国内ガバナンスに関する金本位制だと思いたがる。しかし、その複雑な登録手続き、投票日を国民の祝日に設定しない、投票率(特に、アフリカ系アメリカ人やマイノリティーの投票率)を下げる政治的な手段、それらが組み合わさって、アメリカを発展した諸国で投票に参加する人が少ない国にしている。

2016年の大統領選挙の投票率は56%であった。対照的に、ベルギーは87%、スウェーデンは83%、デンマークは80%が、最近の全国的選挙で投票した。

FT November 6, 2018

America’s cheerleader-in-chief chases the blue-collar blues away

Patti Waldmeir

FT November 6, 2018

US midterms: why the world fears ‘Trumpism’ is here to stay

Gideon Rachman in London

アメリカの外でも、世界はアメリカの大統領選挙を眠らずに観察したものだ。しかし、中間選挙はそれほどの世界的事件ではなかった。これまでは。

今回は違う。中間選挙の結果が、ドナルド・トランプはアメリカの性格を永久に変えるのか、その決定的な問いに答えることになる。もし共和党が勝利すれば、「トランプ主義」が続くことを意味する。世界は、保護主義に偏り、条約や原則を疑って破壊するアメリカとの関係を、長期的に調整するしかない。気候変動、軍備縮小、難民。移民、などがそうだ。

もし民主党が火曜日の夜に成果を上げれば、トランプに批判的な外国の人々は、この政権がアメリカの異常な時代でしかない、と願うだろう。以前のアメリカが戻ってくるはずだ。

民主党が勝っても、イランや中国との関係が修復できるわけではない。民主党も、イランや中国に対する保護主義やタカ派の姿勢を繰り返していたからだ。アメリカの伝統的な同盟諸国は、民主党の勝利を願うだろう。EUは、アメリカに対する黒字や、その国際主義に対するアメリカの不満を知っている。

しかし、共和党の勝利を願う多くの政府もある。ブラジル、イタリア、ポーランド、ハンガリー。そして、インドやサウジアラビア、イスラエルも、トランプとの関係を重視している。ロシア政府今でも、トランプが関係修復に積極的である、と期待している。ただし、民主党が下院で勝利し、上院は共和党が支配する、という結果も、クレムリンの好むものだ。アメリカはさらに分裂し、内向きになる。敵が弱くなることは、楽しいことだから。

アメリカ政治の現状や中間選挙の結果に中立的な国もある。それは、異なる理由であるが、イギリスと日本だ。Brexitのイギリスは、トランプが早期に貿易交渉に合意すること、Brexitは良いことだと称賛したことを覚えている。彼らはオバマの否定的態度を忘れていない。

日本の安倍晋三首相は、最もうまく、トランプと特別な関係を築いてきた。しかし、トランプ政権はそんな日本を傷つけた。TPPを離脱し、自動車への関税で脅し、北朝鮮との交渉を勝手に進めてきた。それでも、安倍のような日本の保守政治家たちは、中国に対するトランプの強硬姿勢を称賛している。

しかし、中間選挙をあまり重視することは間違いだ。通常、中間選挙では大統領の政党が後退する。アメリカ政治の長期的趨勢を意味するわけではない。

たとえ、中間選挙でも、2020年の大統領選挙でも、民主党が勝利したとしても、アメリカには「トランプ主義」がそのまま残る、と世界は考えるべきだろう。アメリカの左派は以前から保護主義を支持し、ヒラリー・クリントンもTPPを支持しなくなった。中国への疑念と敵意は、共和党にも民主党にも広くある。

オバマ政権からトランプ政権へ、ヨーロッパや中東に関する外交の基本的変化は継承されている。オバマはシリアへの軍事介入をせずに非難されたが、トランプも中東における影響力の低下を容認している。

国際政治におけるアメリカの影響力低下、「世界の警察官」という役割から徐々に退くことは、意識的な政策の結果である。それこそ、オバマが「自分たちの国家再建」に集中すると約束したことであり、トランプの言う「アメリカ・ファースト」である。

どちらの大統領も、アメリカはグローバルな指導者の重荷に疲れた、と認めている。

PS Nov 6, 2018

Can American Democracy Come Back?

JOSEPH E. STIGLITZ

民主主義は多数派の支配を正当な形で制限する。彼らが基本的な権利を否定できないように。しかし、アメリカでは逆立ちしている。少数派が多数派の政治的・経済的な権利を無視して支配している。アメリカの多数派は、銃規制を望むし、最低賃金の引き上げを望み、医療保険へのアクセスの保障や、2008年の危機を生んだような銀行規制を望む。しかし、これらはすべて実現しない。

FP NOVEMBER 6, 2018

Affirmation or Admonition?

BY MICHAEL HIRSH

FP NOVEMBER 6, 2018

Victorious House Democrats Pledge to Probe Trump’s Foreign Policy

BY MICHAEL HIRSH


 メルケル時代の終わり

FT November 2, 2018

The curbs on Angela Merkel will also bind her successor’s hands

Tony Barber

PS Nov 2, 2018

Angela Merkel’s Tragedy

ASHOKA MODY

メルケルAngela MerkelCDUの党首を12月に退き、2021年に首相を辞める、と述べた。

歴史はメルケルを激しい嵐の中に置いた。一連のユーロ危機、社会的分解を促す経済危機、第2次大戦以来、最大の移民危機。しかし彼女は、ボートを固定するより、生き残りを図って、一時的な修復を選択し、脆弱さをさらに悪化させた。

メルケルが政権に就いたのは、シュレーダーが失業率を下げることに失敗したからだ。他方で、彼女はコミュニケーションがまずく、論争もさえなかった。その後、彼女の選挙は政策を掲げなくなった。彼女が安心感を与える女性である、と強調しただけであった。

明確な政策課題に対する選挙の勝利を持たないまま、メルケルはさまざまな利益集団の立場や好みを、どこかに偏ることが反対を生むと知っていた。ユーロ圏の危機に対する行動はその典型であった。ユーロ圏の崩壊は避けたが、長期的な活力を回復する策は示せなかった。ドイツ人の財政的な負担を認めず、政治的リスクを冒さなかった。

その例外として、難民受入れで国際的な評価を高めたが、国内では反対派が勢いを得た。

メルケルは長期の政権を維持したが、他の開発諸国に共通する、不平等や、賃金の停滞、労働者階級の不満を、積極的に解決しなかった。国内の政治的コンセンサスや財政的均衡を主張する声に逆らえなかったからだ。メルケルはドイツの将来に対して十分な投資をしなかった。ドイツの自動車業界が時代遅れになるディーゼルエンジンに固執したように。

CDUCSUの主要な支持基盤であった、中小都市や地方における、30-59歳の、高等教育や専門訓練を受けた労働者階級を、AfDに奪われたとき、メルケルの時代は終わったのだ。

PS Nov 2, 2018

Auf Wiedersehen, and Good Riddance

PHILIPPE LEGRAIN

SPIEGEL ONLINE 11/08/2018

A New Start for Germany

Time for Merkel to Say Goodbye

A DER SPIEGEL Commentary by Dirk Kurbjuweit

SPIEGEL ONLINE 11/08/2018

After Angela

The Beginning of the Post-Merkel Era

By Melanie Amann, Markus Feldenkirchen and Ralf Neukirch


 技術移転と米中戦争

FT November 2, 2018

The US can win China trade war by getting its own house in order

Glenn Hubbard

FT November 3, 2018

America gives up writing the global trade rule book

FP NOVEMBER 5, 2018

The Trade War Inside the Democratic Party

BY KEITH JOHNSON

PS Nov 8, 2018

The Myth of China’s Forced Technology Transfer

DANIEL GROS

トランプ政権が中国に対する関税などの措置を取る理由は、中国が市場アクセスを望む外国企業に、パートナーの中国企業への技術移転を「強制」している、という不満が強いからだ。この場合、「強制」という言葉は、経済的な価値がないことを強いられてやる、という意味である。しかし、欧米企業はそれでも中国に投資している。彼らがそれを選択しているのは、利潤を期待しているからだ。

技術移転の要求とは、外国企業が地元企業と良い条件で取引することにより、合弁企業の利益に貢献することを促している。それと交換に、成長を渇望している地元企業や政府は、安価な土地やインフラを提供し、税の免除、優遇的な融資を行う。

要するに、技術移転はすべての直接投資に含まれているのだ。

技術移転の要求が西側企業のコストを増した、中国に大きな利益をもたらす政策だ、という主張は、おそらく、大幅に誇張されている。ではなぜ、中国政府は市場アクセスに結び付けるのか?

それによって、中国はFDIを監視する体制を維持したいのであろう。しかし、すでに中国の技術開発力はこの20年間で急激に向上した。GDP比で中国のR&D投資はヨーロッパや他のOECD諸国を超えている。中国企業はもはや「幼稚産業」ではない。かつて西側企業は、技術移転しても中国企業にはそれが吸収できない、と考えていた。そのような判断は今では不可能だ。

中国政府が技術移転の要求をやめないのは、アメリカ側と同じく、その効果を過大評価しているからだろう。また、中国は西側企業がライセンスによって技術を利用させている条件の悪さを認識していない。中国からのライセンス料支払いは急増し、300億ドルに近づいている。

トランプは、単なる技術移転ではなく、中国がアメリカを超えること、その技術的な指導性を、安全保障にかかわる多くの分野で失うことを嫌っている。中国が技術移転の要求を廃止しても、その問題は解消しない。また、中国にとっては、米中貿易戦争がヨーロッパや日本に利益となるだけであるから、技術移転だけでなく、ライセンスより技術の共有を支持する要求も含めて、すべての規制を廃止する方が良い。

その方が、中国経済はさらに強化され、トランプ政権の主張が経済ではなく地政学の問題だ、とはっきりする。


 不平等・貧困

NYT Nov. 2, 2018

Inequality Makes People Hate

By David Leonhardt

NYT Nov. 8, 2018

Why San Jose Kids Do Homework in Parking Lots

By Sam Liccardo


 北アイルランド

NYT Nov. 2, 2018

The Last Gasp of Northern Ireland

By Richard Seymour

FT November 2, 2018

Britain and Ireland still misunderstand each other on Brexit

Ronan McCrea

PS Nov 7, 2018

Brexit vs. the Irish Question

MICHAEL BURLEIGH


 中米からの難民・移民

NYT Nov. 2, 2018

Common Sense on the Caravan

By The Editorial Board

FP NOVEMBER 6, 2018

The Hungry Caravan

BY HELENA SILVA-NICHOLS

何千人もの人々が自国を逃れてくることについて、アメリカでは中米の暴力が議論されている。しかし、もう1つの問題がある。それは、食糧が安定的に供給されない、食糧安全保障だ。

彼らの故郷には、かつて豊かな土地が日焼けた乾燥状態にある。雨は良くても間歇的に降るだけで、また、降るときには激しく、残った作物に破滅的な結果となる。干ばつは2014年に始まったが、その最も深刻な、メキシコ南部からパナマに至る地帯は、ラテンアメリカの乾燥回廊である。

この地帯には、中米の190万人の、基礎的穀物を作る小農の約半数が住んでいる。この2年間で、彼らはトウモロコシや豆の70%から80%を失った、という推計がある。その結果、200万人以上が飢餓のリスクにさらされる、と故交連は警告した。El Salvador, Guatemala, and Hondurasがその困窮地帯だ。乾燥回廊の貧困と飢餓の深刻さを思えば、人々が紛争の続く国を逃れるのも容易に理解できる。

歴史的に、ラテンアメリカの土地所有はエリートと企業、特に外国企業に、極端なまで集中されていた。実際、この地域では世界で最も土地が不平等に分配されている。2016年、OXFAMの調査報告は、最大の1%の農場は、ほとんど多国籍企業の支配する農園だが、地域の農耕地の51%に達する。その反対には、ラテンアメリカ農場の下から80%は小農民である。彼らが所有する農園は、農地全体のわずか13%でしかない。

安全や安定性を欠いたままでは、コミュニティと小農は貧しいままだろう。彼らには持続的な農耕の改善、環境破壊や気候変動に対する技術導入を行う動機がないからだ。そのような投資は時間、労働、資金を必要とする。農民たちは、土地が容易に収奪されることを知っている。

そのような土地で生きる彼らの選択肢とは、とどまって飢えるか、どこかで再出発する希望により国を出るか、である。


 IT企業と誘致政策

FT November 3, 2018

The global hunt to tax Big Tech

Andrew Hill in London, Mehreen Khan in Brussels and Richard Waters in San Francisco

NYT Nov. 6, 2018

A Warning From Seattle to Amazon’s HQ2

By Margaret O’Mara

そこはアメリカのプルーンの主要産地だった。未来のシリコンバレーである。1920年代には、眠くなるような農園の景色だけで、工業中心地から遠く離れていた。

シアトルは漁業と林業の町だった。Bill Boeingという名の若い企業家が、彼の飛行機を買う人は少なく、まもなく、家具の生産に転換した。世界の核心的企業群は、競って東部や中西部の都市に集まった。自動車のデトロイト、キャッシュレジスターのデイトン、電球のクリーブランド。

ハイテク産業の地理的分布は1950年代に転換し始めた。電器産業や航空産業のブームが起きたからだ。国中の、世界中の都市が、西海岸のハイテク産業による成長をまねて競争した。

その後、Amazonの創業者にしてCEOであるベゾスJeff Bezosが、昨秋、シアトルに匹敵する第2の本社を作る、と発表した。デトロイト、デイトン、クリーブランドを含む、238の地域がこれに名乗りを上げたのは当然だ。Amazonがもたらす5万人のハイテク雇用は、減税やインフラ整備に数百万ドルを支出する価値がある。

では、この第2の本社ができる都市は、その歴史から何を学ぶべきか?

1.ハイテク企業を誘致するのは価値がある。生産的な高給職をもたらし、高度な教育を受けた労働力を集める力がある。良い条件があれば、すなわち、研究を推進する大学、資本へのアクセス、人々が好むアメニティ、そこは新しい産業、企業家たちの結びつきを生み出す。

2.現代のハイテク企業が示すパラドックスを解く必要がある。シリコンバレーもシアトルも、その成長期は巨大な郊外化の時代だった。旧来の、人口が集中する都市から脱出したのだ。

しかし今、多くのハイテク企業は都市にもどっている。ハイテクバブルがしばしばそれに伴い、安全や食料は自己閉鎖的な企業の空間にだけ満ちている。外側の都市には及ばない。サンフランシスコやシアトルのような都市には、その準備がなかった。最近、シアトルがAmazonに、ホームレスへのサービスを負担させようとして、大きな論争になった。

都市と成長の問題は、ニューヨークやワシントンDCではすでによく知られている。かつて居住に好ましい地区が高級化した飛び地になり、高齢化や輸送システムの混雑が多くの乗客を悩ませる。新しいAmazon本社はそれらをもっと深刻化するだろう。

しかし、そうなるとは限らない。Amazonは新しいアプローチを開拓するかもしれない。ハイテク大企業は、都市の救世主ではないし、敵対者でもない。ベゾスは都市に対しても戦略的な思考を採用する。ハイテクのハブが成長と機会を拡大する使命を担うのだ。バブルとは断絶し、企業の基盤を不平等の解消、中小企業の繁栄、購入可能な住宅の十分な供給、そして、ホームレスに対応する都市行政の財源を支持する。

シリコンバレーの成功の秘密は、免税や安価な土地ではなかった。戦後の潤沢な研究開発投資、豊富な住宅供給と公共インフラであった。ハイテク都市・企業の繁栄も永久に続くものではない。

FT November 7, 2018

Amazon’s beauty parade was an elaborate charade

John Gapper

アマゾンの第2の本社をどこに置くか、アメリカ中から候補の都市が競争した。New York City, Washington DC’s metropolitan area in northern Virginia, or Dallas, Texas 高給の熟練雇用を得るために、各都市は補助金や優遇税制を提示した。ある町は、その町名をAmazonにする、と提案した。

しかし、世界最大のハイテク企業でも、大規模な技術労働者を得るには、都市の供給力に頼るしかない。優秀な大学、有能な人材のプール、素晴らしい輸送システム。長期的に見て、重要なものは免税ではなく、優れた労働者たちである。

アメリカの州は当たり前のように、企業誘致のための建設補助金、訓練補助金を提供する。ウィスコンシン州は昨年、台湾企業Foxconnを誘致して30億ドルの補助金を与えた。しかし研究によれば、それらはしばしば、余りにも過大であるか、完全に不必要なものであった。

投資の最適な立地は、企業や被雇用者がそこに住みたいと願うようなインフラやアメニティにおける長期的な有利さである。1994年、Amazonがシアトルを選んだのもそうだった。

FT November 9, 2018

Big tech should brace for more pressure from Washington

Richard Waters


 インドのエネルギー

FT November 4, 2018

How to power India: Modi tweaks the energy mix

Anjli Raval in Jamnagar


 インドとアメリカの中央銀行

FT November 5, 2018

The battle between India’s central bank and the government has deep roots

Devesh Kapur

中央銀行は、注意深い、暗号めいた、固い表現をする。しかし、インド準備銀行RBIの副総裁Viral Acharyaが、今週、その独立性に関して強い言葉で懸念を示した。

「中央銀行の独立性を損なうことは、潜在的な破局を意味する、自殺行為だ。」と、Acharyaは述べた。「政府や企業が資金を調達する金融市場に、信認の危機を生じうる。」

この数か月、政府はRBIの法律にある「政府との協議を経たのちに」という条文にある「指示」を行使することを検討してきた。政府は、電力会社が例外的に、RBIから流動性を供給されることを望んでいる。そして、国営銀行に対してRBIの課している、企業への融資制限を、緩和するよう望んでいる。この要求に対して、Urjit Patel総裁は辞任を示唆したと伝えられる。

インドの金融業、特に国営銀行には、不良債権が累積している。この問題がインドの投資や成長を妨げている。

政府とRBIは、ともにこの問題に責任がある。10年前に過剰融資が増えたのは、政府がクローニズムを許容し、国営銀行に不当な活気を生じたからだ。その融資ブームは、問題の重大さを認識できなかったRBIの規制の失敗で、2014-2017年に不良債権を3倍に増やした。

問題はもう1つある。RBI2月からデフォルトに関する姿勢を厳しくした。インドの融資にかかわる文化を変えるべきだ、と示唆している。国営銀行の半数以上が厳格な是正プログラムの下に置かれた。大企業への融資を減らし、特定産業への集中を抑えるように要求される。その結果、返済は大きく改善したが、中小企業への融資も減った。

インドでは政治的コネを持つ企業経営者が、長く、国営銀行の融資やデフォルトに関わってきた。今、彼らは返済するか、企業の所有を諦めることを強いられている。国営銀行を利用した略奪は、その所有者であるインド国家との共謀であった。政治家たちにとって、銀行は支援者への利益誘導、政治活動の資金調達に欠かせない資源だった。

中央銀行の独立性は今やグローバルな通念として確立された。それは、貪欲で、買収されやすい政治家から、通貨を守る英雄的な官僚たちのイメージだ。総選挙が半年後に迫って、政府はRBIの狭隘さにより経済が悪化し、有権者の展望を損なう、と不満を感じている。

もし政府の要求が、重要機関に関する、例外的なケースであれば、こうした事態も懸念することではない。RBIは政府と協力することを学ばねばならず、独立性それ自体が目的ではない。制度は抽象的な存在ではなく、その権限を行使するときは、自制、プラグマティズム、慎重さを持たねばならない。それがあって初めて困難な事態を管理できる。それを欠くなら、危機が避けられない。

残念だが、政府のRBIへの要求は例外ではない。さまざまな制度に政府は介入し、戦略政策決定、中央検察機関から、メディアや裁判所、高等教育機関にまで及んでいる。首相府への権力集中、与党の自制を欠く行動は、RBIと政府との綱引きより、インドの将来を暗くするものだ。

FT November 5, 2018

The precarious autonomy of India’s central bank

FT November 6, 2018

Fed bashing is a fool’s game

Lawrence Summers

ドナルド・トランプ大統領が連銀のパウエルJay Powell議長を、公然と、激しく批判した。金利の引き上げはアメリカの景気拡大を損なうと考えるからだ。しかし、トランプの言動の多くがそうであるように、彼のビジネスのやり方は、彼の立場に何か利益があるとしても、非生産的なものである。

自尊心のある中央銀行総裁が、再選に苦しむ政治家からの圧力に屈するようなことはありえない。史上における信認を損ない、インフレ期待を高め、長期金利が上昇するだろう。クリントン政権でわれわれが財務省にいたとき、「Fedバッシングは愚者のゲームだ」とよく言った。

2つの問題が残る。1.今後の数か月に連銀はどのような速さで金利を上げるべきか? 2.中央銀行と政府との正しい関係とは何か?

金融政策は競合するリスクに直面している。金利引き上げが遅いとインフレが加速する。他方、過度の引き上げるリスクもある。しかし、金融政策は遅れる傾向がある。その効果が発揮されるには1年以上かかる。景気後退のリスクはこれまでになく高い。ゼロ近辺の低金利が続き、しかも景気後退期には保護主義やポピュリズムが強まる。

中央銀行の独立性にはプラグマティズムが求められる。トランプの圧力に抵抗するのはもちろんだが、量的緩和でも、為替レートでも、政府との協力が欠かせない。


(後半へ続く)