IPEの果樹園2018
今週のReview
11/5-10
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安定成長協定とイタリア ・・・アメリカ議会中間選挙 ・・・リベラリズムの終わり ・・・移民のキャラバン ・・・Brexitの終幕 ・・・トランプ支持者の暴力 ・・・労働市場のグローバル化 ・・・グローバリゼーションの分裂 ・・・中国の対立と改革
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 安定成長協定とイタリア
VOX 25 October 2018
Reforming the EU fiscal framework: A
proposal by the European Fiscal Board
Roel
Beetsma, Niels Thygesen, Alessandro Cugnasca, Eloïse Orseau, Polyvios
Eliofotou, Stefano Santacroce
安定成長協定(SGP)がその使命を果たしておらず、改革するべきだ、と認識されるようになってきた。現在のSGPは5つの部分から成っている。
1.2つの「基準値」で財政政策を中期においてチェックする。すなわち、予算赤字と債務/GDP比率である。
2.これらの基準値が、ときには対立する財政政策の要求に一致するとみなす。すなわち、構造調整と債務削減である。
3.財政政策を複数の視点で監視する。それは必然的に対立する評価を生み出す。その結果、異なる指標に関する意見対立を含む判断によってSGPが順守される。
4.柔軟なアレンジを許す複雑なシステムであるため、加盟国は赤字削減の要求を緩和するよう求めて条件を交渉する。たとえば、構造改革や特定の公共投資に関する条件だ。
5.遵守しない加盟国に対して警告と制裁のエスカレートを求めたが、実際に制裁が実行されたことはない。
これまでのいくつかの改革により、次第に、ルールが複雑になった。改革によってSGPが景気循環を増幅する性格に変わったことを批判する声がある。また、SGPに関する政治的な妥協は、その時間的不整合を生じた。すなわち、困難な状況になればルールは緩和された。改革案は、SGPがガバナンスに関する目標を理解するだけでなく、そのルールが自分たちのためにあり、民主的に支持されるよう、明確なものにするべきだ。
具体的な問題としては、1.複雑すぎる。2.透明性を欠く。3.分析と政策決定の分割があいまい。4.ルール違反への制裁措置が実行されていない。
改革案は、1つの基準値、60%だけに注目する。債務/GDP比率が60%になる名目政府支出の増加率が、この60%に達する期間で、その上限が導かれる。条約は改正されないため、予算赤字3%の基準値も残るが、もはや適用されない。協定の順守は、ネットの名目政府支出額が示す増加率のみを監視される。
景気循環による失業や公共投資による赤字は、現在と違って、懲罰の基準に触れることなく、4年間の内の乖離として考慮される。また、エスケイプ・クローズ(免責条項)が一般に定義される。それは、深刻な不況や、自然災害のような、政府に管理できない高度に例外的な事情で、上限を超えた場合である。
PS Oct 26, 2018
Why Italy is the Latest to Question
Policy Orthodoxy
MOHAMED A.
EL-ERIAN
グローバル金融市場が緩和から引き締めに転換し始めたことで、財政赤字や政府債券のデフォルトを懸念する声が高まっている。イタリア政府の赤字予算を、欧州委員会は、EUの財政ルールに違反する、と拒否した。格付けが下がり、ユーロ危機の記憶がよみがえる。
しかし、イタリア政府は選挙によって成長や雇用を刺激する積極的な姿勢に国民の支持を得たのだ。政府にはそれを実行する権限があり、EUはもっと柔軟な姿勢で、非正統的な政策にも許容する余地を認めるべきであろう。すなわち、財政赤字を一時的に増やしても、将来の成長率を高め、成長の潜在力を高める供給側の改革を推進するのである。
新しく選出された政府が先進世界の正統的な政策合意に挑戦するのは、これが最初ではない。2015年1月のギリシャ、シリザがそうだった。またアメリカでは、トランプがマクロ政策の基準に反して、すでに数年を経た好景気において、需要を増やす減税策と政府支出増を決定し、敵対的な通商政策を採用した。トルコ政府も通貨危機の管理に対する常識を翻し、高金利政策も、IMF融資も、拒んでいる。
非正統的な政策アプローチがますます強まっているのは、多年の低成長と非包括的な成長が、3重(所得、資産、機会)の不平等をともなって人々を苦しめているからだ。専門家たちは彼らの試みを硬直的に否定してはならない。その背後にある様々な要因を考慮し、成長の減速に苦しむ世界で、経済の成長分野を取り込む必要がある。
イタリアの場合、EUは十何位交渉を続けるべきだし、イタリア政府は長期的な高成長をもたらす供給側の変化を真剣に実現するべきだ。
● アメリカ議会中間選挙
FT October 26, 2018
America’s Democrats need to set out
what they stand for
アメリカ議会の中間選挙は、2016年大統領選挙でドナルド・トランプが衝撃的な当選を果たした後の、最初の公式な政治的診断である。
2020年のトランプ再選を阻むさまざまな脆弱性が顕著に示され、民主党の地滑り的な勝利になるだろう、と思われた。しかし、それは確実ではない。トランプの支持率は低いが、若干上向いた。最高裁判事候補となったカバノーに対する民主党の反対は、共和党の支持者に対する予想外の効果を生んだ。民主党は、なお、下院で多数を示すかもしれないが、その見込みはわずかな差だ。上院は共和党が多数のままだろう。
民主党の指導部は、何十年も、クリントン夫妻とその仲間たちが中心であった。オバマが大統領のときでもそうだった。組織や資金はクリントンに頼っていた。夫妻がいなくなった空白を埋めることができない。さまざまな保護や医療保険など、民主党は多くのことを説明するが、強力なテーマがない。トランプが移民や貿易を議論することに合わせているだけでは勝てない。トランプは、左派の「暴徒」がアメリカの民主主義を破壊した、と言う。
民主党員たちは、1人の男に反対するのではなく、自分たちが何者であるかを明確に示す必要がある。
● リベラリズムの終わり
FP OCTOBER 26, 2018
How to Compromise With Populism
BY ERIC
KAUFMANN
2010年、ドイツのメルケル首相は、イギリスのキャメロン首相や他の西側指導者たちとともに、多文化主義は失敗した、と宣言した。それに代わって、リベラルな諸価値と国家の制度的介入に依拠する、包括的なナショナリズムが、マイノリティーを統合し、ポピュリストの右派から有権者を取り戻す、と主張した。しかし、国家ナショナリズムは画一的で硬直的であり、有権者をめぐる競争において、リベラルにも、ナショナリストにも劣るものだ。
新しい、柔軟な、ナショナリズムが求められる。移民集団も、保守派も、独自の仕方で国民の一部になる。西側は、私が「多様な発言からなる政治体・マルチボーカリズムmultivocalism」と呼ぶ、文化政治を必要としている。
真のナショナリズムを求めるポピュリストの右派に対抗し、主流の政治家たちは、ケベックからスイスまで、ブルカを攻撃し、保守的なイスラムのシンボルを禁じてきた。宗教と国家とを分離する政策がその根拠であった。
しかし、国家主導の政教分離には問題がある。第1に、こうした手段はリベラルな信条に反する。異教徒を投獄するわけではないが、信仰に合った服装や礼拝を禁止する。十字架は国家に許容されても、マイノリティーは排除されたと感じる。さらに、市民的なナショナリズムは、保守派の不満に応えるものではない。保守派は「真の国民」を、そこに生まれたこと、その祖先の出自と結びつける。
国家が国民の定義を、マイノリティーを包括するために、普遍的な価値に薄めると、ポピュリストの有権者はそれを拒む。彼らは国民を倫理的な原理のセットに還元しないからだ。十字架と結びつけて国民であることを考え、中身を薄めるのではなく、濃くすることで、キリスト教徒でないものを排除する。ここに根本的なジレンマがある。国家のアイデンティティを、無意味な包括的本質にするのか、あるいは、濃縮して他者との摩擦を生むのか。
市民型の国家・国民定義nationhoodは、マイノリティーと白人保守主義との分断を生む、ゼロサム状態を認めている。しかし、普通のアイデンティティはどちらにも属さない。国際的なスポーツ大会や国民の記念日、危機や戦争に際して、「ホット・ナショナリズム」が現れる。イデオロギー対立や国家間の戦争が珍しくなった今では、そのような機会は減った。しかし、他方で、われわれはエスニック・人口の大変動を経験している。市民型国家・国民定義はエスニック関係を超えられない。
国家・国民定義の旧モデルはフランス第3共和制である。さまざまな方言を標準語に統一し、公式の歴史を決め、学校や軍隊のような国家機関を通じて「農民からフランス人を」創った。これに反して、常に、民衆的な、ボトムアップ型の国民があった。FCバルセロナのチーム、アメリカの星条旗を付けた消費財、大衆文化が示すものだ。また、国民アイデンティティは地方の組織によって異なる。どこで考えるかによって、国家・国民は異なるのだ。エスニック集団や政党によっても異なっている。現代の市場社会においては、国家もボトムアップ型の、仲間内の反応で決まる。それらは競争的に併存している。
マルチボーカリズムによる国家・国民定義とは、人々が独自のアイデンティティを国家に賦与することで、彼らと国家との紐帯を強化するものだ。フランス人であること、スウェーデン人であること、アメリカ人であることには、一定の幅がある。多文化主義はそうではない。マイノリティーは、受入国とは異なる文化の出自の国から離れて、その国の国民やシンボルに一致するよう奨励される。
ボトムアップ型のシステムは、機械と違って、多くの、一見したところカオスに満ちた、複雑なものだ。中央から管理することはできない。人々は異なる環境にあり、異なるメディアを観て、文化的シンボル、アイデアを共有し、国家・国民のアイデンティティを形成する。政府は重要な役割を果たすが、メディアやソーシャル・ネットワークも需要だ。国家は偏在するがどこにもなく、誰の心にも、どの文書にも固定されていない。その定義は誰にも支配できない。
FP OCTOBER 31, 2018
The Economic Crisis Is Over.
Populism Is Forever.
BY JAMES
TRAUB
メルケルの没落は、西側リベラリズムの物質主義的な前提が、もはや西側の現実と政治に合わなくなった、ということを示している。リベラリズムは、合理主義、世俗主義、功利的な計算、を基本的な信条としている。しかし、カンザス州の共和党は労働者からも支持を得たのは、彼らの真の利益に反して、伝統的な価値観に魅力を感じているからだ。あるいは、2008年の大統領選でオバマは指摘した。銃や宗教への執着、自分と違う者たちへの無関心、彼らの不満を説明してくれるものとしての、反移民・反貿易感情に、労働者階級はしがみつく。
● 移民のキャラバン
FT October 30, 2018
On the migrant trail with the
Hondurans chasing the American dream
Jude
Webber in Tapachula, Mexico
「悪い。仕事がない。」Nolvin Floresは語った。「仕事があれば、生きていける。仕事がない日は、食べない。私たちは飢餓から逃れている。」
彼は17歳だ。ホンジュラスからキャラバンに加わった。メキシコを通ってアメリカに向かう。希望を共有して進み、絶望を後ろに置いて。
女性や子供を含む数千人のメンバーが、強奪や暴力に苦しみ、中には肉親を殺害されて、キャラバンに加わった。
私は2つのイメージをぬぐえない。1つは、仕事を求めてさまよう、大恐慌時代のアメリカを描く小説から抜け出したようなイメージだ。もう1つは、200人の、絶望する、失業した造船労働者たちが、1936年に、ロンドンまで行進したthe
Jarrow Marchである。
仕事の無い、希望の無い、福祉国家の無い、Floresのような人々は、100年近くも過去の状態に留め置かれている。
彼のアメリカン・ドリームはささやかなものだ。アメリカで働いて、お金を母親と幼い兄弟たちに送る、というものだ。そして最後はホンジュラスに帰って、店を開く。
メキシコ大統領Enrique Peña Nietoは、アメリカ国境から移民たちを遠ざけて、緊張を避けたい。「あなたの家だ」というプランでは、移民たちに、メキシコで労働できる難民資格を与える。身分証明書を与え、医療や学校へのアクセスも認める。その条件は、南の州Chiapas and Oaxacaにとどまることだ。
● Brexitの終幕
Winter Is Coming to the UK
HAROLD
JAMES
Brexitというのは、国家主権を国際秩序の唯一の合理的基礎とする考え方である。それは学会で「リアリズム」と呼ばれる。諸国家は利害を集約、定義し、グローバルなレベルで、永久に、相互の衝突を繰り返す。それは、TVシリーズ“Game
of Thrones”(GOT)に観られる、シェークスピアと幻想文学を加えた世界観だ。
このGOT型リアリズムで観るなら、EUはナンセンスである。なぜなら、その前提は、ナショナリズムと国益を超越しているからだ。Brexitの背後には、ヨーロッパが債務の重みと管理不能の移民流入で崩壊する、という確信がある。UKは、この燃え盛って崩壊していく家から脱出することにしたのだ。
こうした解釈の問題は、EUの機能、家を支えている制度、規制、法体系を無視していることだ。もちろん、常に、それらを嫌う者がいる。北欧と南欧ではユーロ危機を全く異なった意味で理解する。東欧と西欧では難民を観る視点が異なっている。主要な政治的分断は、社会の間ではなく、社会の内部にあるのだ。離脱論はその分断を強める。
UKは、新しい秩序を唱えて、新しい分断を生じている。シティは、ヨーロッパの顧客を失うことを恐れる銀行と、ヨーロッパの規制から自由になることを喜ぶヘッジファンドンに分裂している。ヨーロッパの補助金を失う農家と、より持続可能な農業を新しく試みる農家とが分裂する。保護を願うBrexit支持者と、シンガポールと並ぶ規制緩和の天国を望む支持者が分裂する。
リアリズムの世界では、国家が完璧な国益を代表する。しかし、多元的民主主義において、国益は不断の論争と対立を意味する。現代の世界は1930年代のような権威主義体制の脅威に直面していないし、メイは独裁者として支配することもない。
FP OCTOBER 27, 2018
The Deadly Consequences of
Dog-Whistle Politics
BY MICHAEL
HIRSH, ROBBIE GRAMER
Robert
Bowersは明らかにドナルド・トランプ大統領の大ファンであった。ピッツバーグのシナゴーグを襲撃して11人を殺害した2日前に、彼は、トランプのナショナリズムが自分には不十分だ、と書いた。
MAGAとは、もちろん、“Make
America Great Again”を意味する。ホワイトハウスにナショナリストを自認するトランプが入り、マイノリティーに関する暴言を繰り返している。それは顕著に邪悪な「犬笛」となって、白人至上主義者を喜ばせた。長く承認されることを求めたが正当に評価されなかった、という彼らの主張が、今や、トランプによって正当化された、と感じている。
それは偶然だろうか? 中間選挙前に、トランプと共和党は中米のキャラバンを非難している。Bowersもインターネットの投稿で移民に注目している。彼は繰り返し移民を「侵略者」と呼び、難民を支援するユダヤ人団体HIASを攻撃した。
それは偶然だろうか? わずか1日前に、もう1人のトランプ支持者が、フロリダで逮捕された。トランプが選挙戦で常に非難し続けたヒラリー・クリントンやCNN、元CIA長官John
Brennan、下院議員Maxine Watersにパイプ爆弾を郵送した罪だ。
より広く見れば、世界中で、右翼のナショナリストたちが、トランプを称賛し、ユダヤ人やマイノリティーを喜んで攻撃している。
ピッツバーグで起きた破滅的事件を政治的な表現だけに帰することはできない。しかし、反ユダヤ主義やマイノリティーに対する人権侵害が許容される傾向は、見逃すことができない。たとえ白人至上主義者やネオナチがトランプや他の指導者の言葉から刺激を受けても、トランプたちはその関係を否定するだろう。
● 労働市場のグローバル化
FT October 30, 2018
How to manage the gig economy’s
growing global jobs market
Sarah
O’Connor
ナショナリストの主張が高まっている。政治家たちは「よそ者たち」に対して国境を強化している。グローバリゼーションはだれに求められない経済力だ、と何十年も言われたが、突然、だれもが「脱グローバリゼーション」を語り始めた。
しかし、国境の壁やコンテナ船に注目するとき、われわれは政治家にコントロールできない他のグローバリゼーションを見失っている。それはギグエコノミーに広がるオンライン労働のグローバル市場だ。
ギグエコノミーと言えば、ほとんどの人はUber や
Deliverooを考える。しかし、遠隔地で働くサービス経済の労働者が、ギグエコノミーのプラットフォームを形成している。Upwork, Freelancer and Fiverrがそうだ。個人や企業は、一連の作業に仕事を分解していく。世界のどこからでも、労働者たちは仕事を受ける。人間労働のためのeBayである。カリフォルニアに依拠するUpworkは、その最大のプラットフォームだが、今月、ナスダックに上場した市場評価額が約19億ドルに達した。
Upworkのデータによれば、収益の20%はアメリカ国内、30%がインドとフィリピン、残りは世界のその他の地域から生じている。人間労働のためのグラウドには明らかにメリットがある。自分たちの住む市場の制約を離れて、発展途上国でも、豊かな国の不況地域でも、人々はその才能を生かすことができる。
しかし、危険も存在する。豊かな国の労働者は貧しい国から厳しい競争を受ける。グローバルな連結が改善されれば、製造業の工場移転以上に、労働力の過剰供給が問題になる。「私と同じ仕事を、10万人が世界中でやりたいと言うだろう。しかも、もっと安価に。」
時差もかかわって、長時間労働がしばしば起き、労働保護や税の徴収にも問題がある。労働組合や政府は、新しい労働の世界を未来に向けて形成するチャンスである。旧いグローバリゼーションに反発するばかりで、新しい変化を見失ってはならない。
● グローバリゼーションの分裂
YaleGlobal, Tuesday, October 30, 2018
From Globalization to
Regionalization
Joergen
Oerstroem Moeller
アメリカはもはや圧倒的なグローバル・パワーではない。新しいパワーの構造が形成されつつある。
数十年にわたり、アメリカはグローバルな金融センターであった。GDPの4%になる貯蓄不足を外国から補っていた。しかし、長く無視されていた債務の負担がアメリカ財政を脅かす。4年以内に、アメリカ政府の債務負担は予算の16%に跳ね上がるだろう。
アメリカはグローバリゼーションの受益者であった。しかし、世界DGPに占める割合は、1970年の38%から、現在の22%まで低下してきた。この浸食がトランプの外交政策を説明する。トランプは同盟関係を切り捨てて、コストとベネフィットを組み替えつつある。
アメリカがルールを強制する意志と能力を失ったことで、世界中の国民国家は地域的枠組みに転換し始めた。3つの地域が出現する。西半球、東アジア(アジア全域に広がる)、ヨーロッパと「近隣の諸外国」である。その関係がルールに依拠したものか、最強国の指導体制に向かうか、まだわからない。ロシア、中東、オセアニアは、地域の外で不確実さを増すだろう。
グローバル・サプライ・チェーンは次第に、特にアジアで、リジョナルな性格に転換する。中国の労働力は2015年にピークを越えた。2050年には8億2500万人に減少する。労働コストは上昇し、低コスト、労働集約の製造業から中国は撤退するだろう。南アジア、特にインドが、その空白を埋めるチャンスである。
中国とインドが経済統合を管理できるかどうか、それがこのシステムを決定する。インドは貯蓄不足であるが、中国は自国経済構造の再編と、インドの労働教育とインフラにも投資できる。貿易と投資の均衡を達成することで、中国だけの利益ではないことを示す。
グローバルな安定性は、米中関係が論理的で互恵的であるかどうか、に依存する。両国は軍事的衝突がどちらの状態も悪化させると知っている。しかし、非難合戦がエスカレートする危険はある。トランプは貿易戦争を中国経済の抑制手段と考えている。それは両刃の剣だ。
もし地域とその指導的大国が互いを尊重するなら、大きな戦争のリスクは低い。地域の指導者が確立されないか、利害の範囲が確定できない地域で、代理戦争は起きるかもしれない。
● 中国の対立と改革
FT October 31, 2018
The US must avoid a new cold war
with China
Martin
Wolf
アメリカは中国との経済的、戦略的な関係を見直す、と宣言した。第2次世界大戦後の米ソ冷戦に比べて、現在の米中対立が小さな損害にとどまるとは言えない。それは両国が一層緊密に連結しているから、対立がグローバルな公共財や経済繁栄に与えるダメージは大きいからだ。また、北朝鮮、台湾、南シナ海、など、冷戦が「熱く」なる危険もある。
この対立はトランプ政権に限らず、中国のこれまでの行動に対する不満が右派を超えて広がっている。米中の対抗関係が長期に続くと考えねばならない。アメリカは中国を変えようとする。中国は、当然、それを中国の台頭を阻止することだと考える。外交における「リアリスト」は、対立に驚かない。大国間政治のアナーキーな世界では、優位を求めた競争が避けられない。
しかし、それは狂気でもある。第1次世界大戦は避けられなかったかもしれないが、それを良い考えだったと思う者はいない。
少なくとも、ソ連と違い、中国はイデオロギー的な対立を目指していない。また、米中とも、戦争はもちろん、対立にも大きなコストが生じることを知っている。
アメリカは、中国が莫大な資産を保有していることを認める必要がある。人口規模、ダイナミックな経済、多くの国にとっての輸出市場。多くの弱点もあるが、中国が降伏するとか、ソ連のように消滅する、と思うのはばかげている。
米中対立を管理する5つの原則を示そう。
1.中国は自分で決める。2.中国の政治組織は西側と異なる。3.他者に対する影響を、正確に、測って行動する。偽善では効果がない。4.中国との協力は多くの分野で欠かせない。5.同盟諸国を重視せよ。信頼されねばならない。
われわれ自身がその自由の価値や民主的制度を信じていなければならない。世界中から才能ある人々が集まるだろう。敵は中国ではない。
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The Economist October 20th 2018
China v America
Germany: Not so grand
Criminal justice: Against pessimism
Migration to Hong Kong: One-way highway
Seasonal agricultural labour: Here today, gone
tomorrow
Free exchange: Unsetting the punchbowl
(コメント) 中国、アメリカ、ドイツの行方に世界が注目します。
アメリカは州によって、刑務所に収監される人口が大きく異なります。犯罪を減らすことに効果のない、大量収監の政治的な失敗を、他国や他の分野にも広げるのか。
農業労働者と中央銀行。世界経済の変動と安定性を握る2つの主役の行動パターンは、時代とともに変わります。
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IPEの想像力 11/5/18
日本の移民政策が見直されようとしています。安倍政権というナショナリスト型強権保守政治の下で、移民政策が修正されることは、移民政策の基本的な枠組みに「歪み」を生じる懸念があります。
かつてヨーロッパの移民政策を調査したとき、労働組合が積極的に移民を参加させる姿勢を示していたことに驚き、感銘を受けました。同じ労働者として働くのだから、移民たちが参加し、同じ条件で改善される政策こそ望ましい、と答えたのです。
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日本が目指す移民政策の基本構想において、Reviewには、3つのテーマがありました。1.農業労働者の国際移動、2.インターネットによる下請け労働、3.移民・難民キャラバン。
第1に、豊かな国は、ますます農業労働者を海外に頼っている、という問題です。
・・・フルーツを収穫するウクライナの移動農民はポーランド東部の農場にやってきました。朝6時から夕方まで、彼女は故郷の3倍から4倍の日給を得ます。地元の農民は、2004年にEU加盟したことで、他のEU諸国に出稼ぎに行くようになりました。今では、ポーランド人労働者がイギリス、アイルランド、スウェーデンで働いています。賃金を上げても、農場で働く労働者を十分に集めることがむつかしくなりました。
・・・2013年、アメリカ連邦政府は、99000人を上限に、メキシコからの移動農民を受け入れました。今年、その数は24万人です。共和党は、滞在期間を3年まで延長し、45万人に増やす法案を準備しています。ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国にも、同じ様な移動農民がいます。移民排斥を叫ぶ政治家たちも、農業に関しては反対しません。
The Economistの記事は、その理由を、それほど農業関係の政治的組織は強く、移動農民は農繁期だけ、トレーラーに暮らし、都市住民には「見えない」、と理由を挙げます。
ニュージーランドがトンガやバヌアツの農民に労働市場を開放することで、いかなる援助よりも効果的に彼らの経済開発を促進できた、と評価します。他方で、若者の減少やドイツ、イギリスとの競争で、ウクライナからの農民が来なくなったポーランドでは、移動農民を南アジアやサハラ以南のアフリカに求め始めます。・・・受け入れ社会の利益・合意、利害関係者の発言・協議システム、労働監督官
第2に、インターネットがコールセンターやデータ処理のオフショア下請けを拡大したことにとどまらず、インターネットで媒介される広範な分野に、労働のグローバルな下請けが起きています。・・・最低賃金、失業保険、労働契約フォーマット
第3に、アメリカを目指すキャラバンは、大恐慌の時代のアメリカやイギリスで起きたように、今も、雇用や治安が悪化すれば、アジアを含む世界中で起きるだろう、ということです。
移民・難民を受け入れる国際システムが合意できなければ、難民たちのボートを自国の岸から離して、沖合で沈没させるような事態に至るのです。・・・憲章都市、定住・市民権
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国際的な合意を作る民主的なメカニズムが、アメリカにおけるトランプの出現や、SNSに支配される人々の情報と思考によって、致命的に破壊されることを恐れます。アメリカ中間選挙の結果、民主党が下院で多数を握ったことは、単なるトランプ支持者との敵対を超えて、新しい政治の枠組みを発見する入り口になってほしいです。
成長と、医療・社会福祉、年金、学校など、小さな、積極的民主政治と、新しい地域統合・経済圏の組み合わせです。
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