IPEの果樹園2018

今週のReview

10/29-11/3

***************************** 

サウジアラビアのジャーナリスト殺害 ・・・Brexit2度目の国民投票 ・・・WTOの解体 ・・・貿易戦争と海外証券投資 ・・・Google経済の競争 ・・・ごみのリサイクリング ・・・貿易戦争から米中冷戦 ・・・対中国4極体制 ・・・過剰な観光開発 ・・・ブラジル大統領選 ・・・ドイツの2大政党制の終わり ・・・歴史的な偉人としてのトランプ ・・・発展途上国の経常収支赤字 ・・・北朝鮮の非核化 ・・・アメリカを目指す難民キャラバン ・・・INFの破棄 ・・・ユーロ圏のガバナンス改革 ・・・平等な社会

[長いReview

****************************** 

主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 サウジアラビアのジャーナリスト殺害

NYT Oct. 18, 2018

Saudi Arabia Has No Leverage

By Ellen R. Wald

FT October 19, 2018

US must shed its illusions about Saudi Arabia’s crown prince

Richard Haass

イスタンブールのサウジアラビア領事館でジャーナリストのカショギJamal Khashoggiがサウジ政府に殺害されたのは確かなようだ。しかし、サルマン皇太子MbSがこれに関与した完全な証拠を、われわれは得ることがない、ということもありうる。サウジ政府が偏らない専門的な捜査機関を設けて解明するとは思えない。

MbSは、カショギの殺害を他のジャーナリストたちに教訓として示したかったのかもしれない。あるいは、王室内部の権力争いで、序列を超えて一気に王位継承者となったMbSが、その地位を固める過程の事件とみる者もいる。

アメリカ、その他の政府にとって最も重要な問題は、これにどう対応するか? である。ドナルド・トランプ大統領は、これまでのところ、強権指導者を受け入れ、その話を信用する外交を選択してきた。ロシアのプーチン大統領が、2016年アメリカ大統領選挙に介入しなかった、という保証や、北朝鮮の金正恩が核兵器に関する約束を受け入れたのだ。

トランプ大統領は、サウジが重要な武器の購入者であり、シリア内戦やテロとの戦いでアメリカと協力し、ともにイランと敵対することを指摘する。世界の石油供給の10%を占め、その海外投資も巨額である。

しかし、衝動的冷酷なMbSの行動は、アメリカの国益を損なっている。イエメン戦争は、サウジのベトナム戦争とも呼ばれ、人道的、戦略的な大失敗だ。カタールを不安定化し、また、レバノンの首相を誘拐・拘束した。カショギ殺害は、イランに対する圧力をかけることを難しくしただろう。

この問題は、重要な国の愚行を繰り返す指導者をどう扱うか、という難しい選択である。原則と利害とが衝突するのは、冷戦時代からあったし、1970年代のイランでもそうだった。

それらの経験から導かれる正しい対応は、1.サウジアラビアとサルマン皇太子MbSとを区別する。2.企業はリヤドとの提携を再考する。3.これまで通りの友好関係は続けられない。4.独立の、制約されない捜査機関を設けるよう要求する。しかし、5.サルマン皇太子の退陣を要求しない。それは逆効果になるかもしれない。退陣するかどうかは、サウジ国民が決めることだ。皇太子は国内で強く支持されている。

FT October 20, 2018

Jamal Khashoggi, journalist who spoke truth to power, 1958-2018

Ahmed Al Omran in Riyadh and Andrew England in London

SPIEGEL ONLINE 10/20/2018

Death on the Bosphorus

How an Apparent Saudi Hit Job Has Shaken the World

By DER SPIEGEL Staff

NYT Oct. 20, 2018

A Saudi Prince’s Fairy Tale

FT October 22, 2018

Saudi Arabia: how the Khashoggi killing threatens the prince’s project

Andrew England in London and Simeon Kerr in Dubai

サルマン国王が王位について数か月後に、サウジアラビアの将来と、世界の銀行家がこの国を見る目が一変する決定を行った。投資ファンドthe Public Investment FundPIF)を新設の経済開発会議に委ね、その会議の議長としてムハマド・ビン・サルマン皇太子MbSを任命したのだ。PIFは劇的に変化し、世界で最も活動的な投資ファンドになった。

しかし、それはサルマン皇太子の1人舞台であった。カショギ事件は、そのサルマン皇太子とPIFの輝きを奪い、2001年のアメリカにおける911テロ事件以来、最大の外交的危機となっている。

FT October 22, 2018

Saudi America, by Bethany McLean

Review by Ed Crooks

FT October 22, 2018

What Jamal Khashoggi’s death could mean for oil markets

Nick Butler

事件が及ぼす石油市場への影響は何か?

世界の石油供給は減少する可能性がある。アメリカのイラン制裁だ。ヴェネズエラの政治経済情勢も不安材料だ。しかし、サウジアラビアの反応によって、その減少分を埋めることができる。アメリカ政府はサウジアラビア政府によるカショギ殺害を強く非難している。しかし、サルマン皇太子との同盟関係は続いている。事件の代償は、サウジによる一層の石油供給安定化であるかもしれない。

しかし、なお、サルマン皇太子の交代や混乱の可能性や、アメリカに対するイランの反撃も考えられる。

NYT Oct. 22, 2018

Why the Arab World Needs Democracy Now

By Jamal Khashoggi

FP OCTOBER 22, 2018

Jamal Khashoggi Had Skin in the Game. The Crown Prince’s Cheerleaders Didn’t.

BY H. A. HELLYER

The Guardian, Tue 23 Oct 2018

Only an international court can bring Khashoggi’s killers to justice

Geoffrey Robertson

NYT Oct. 23, 2018

What a Murder by Mussolini Teaches Us About Khashoggi and M.B.S.

By Alexander Stille

なぜこれほど愚かな暗殺を決めたのか? それは、独裁者が自分の支持者ばかりに取り巻かれているからだ。

サウジ政府によるカショギ殺害は、かつてムッソリーニが権力を握る過程で、イタリア社会党の指導者Giacomo Matteottiをファシストが殺した事件と、よく似ている。当時のイタリア政界や国民、外国政府、メディアは、ムッソリーニとの直接の関連を示す証拠を無視し、その追及を怠った。

FP OCTOBER 23, 2018

The Saudis Are Killing America’s Middle East Policy

BY STEVEN A. COOK

FP OCTOBER 23, 2018

How to Get Away With Murder (Saudi Edition)

BY STEPHEN M. WALT

NYT Oct. 23, 2018

What Is Turkey’s Game?

By The Editorial Board

ジャーナリスト殺害を糾弾し続けるエルドアンRecep Tayyip Erdogan大統領の目的は何か? 彼自身がトルコのジャーナリストたちを弾圧している。

「誰に命じられて、コレラの個人はそこへ行ったのか?」と、エルドアンは問う。

地域の大国であり、クシュナーを通じてトランプ大統領と緊密な同盟関係を結ぶサウジアラビアに、これほど大胆な挑戦を行ったのはなぜか?

自国の首都イスタンブールで、外国の権力者が命じた殺害が行われたことへの激しい怒り。この事件を利用して、トルコ経済の窮状において、サウジアラビアから資金援助を獲得する意図。

エルドアンは、間接的にサルマン皇太子を示唆しただけで、サウジとの関係を重視した「これは交渉であり、和解の代償を引き上げているのだ。」。MbSの失脚につながる弱みを握った。

エルドアンはトルコをスンニ派ムスリムの大国にしようと考えている。彼の夢は、新しいオスマン帝国の大統領になることだ。しかし、外交的な失敗は、サウジやエジプトとの対立、アメリカやヨーロッパの離反となった。

トランプとの関係を修復し、経済的衰退を逆転するチャンス、と観たのである。エルドアンが国内権力を強化することは確実だ。

PS Oct 24, 2018

Killer Politicians

JEFFREY D. SACHS

NYT Oct. 24, 2018

Jamal Khashoggi and the Competing Visions of Islam

By Faisal Devji

FP OCTOBER 24, 2018

The Pentagon Loves Saudi Arabia, in Sickness and in Health

BY MICAH ZENKO

FT October 25, 2018

Khashoggi’s death is radioactive for Saudi Arabia’s crown prince

David Gardner

FT October 25, 2018

Jamal Khashoggi’s killing has broken the Saudi spell over the west

Philip Stephens

NYT Oct. 25, 2018

The Enduring Fantasy of the Modernizing Autocrat

By Pankaj Mishra

西側の抱くアラブの指導者たちとのロマンスは、いつも破局に終わる。なぜ西側エリートは、東側の若い指導者が、トップ・ダウンの改革を行う、という幻想に何度も何度も騙されるのか?

リビアのカダフィの息子Seif al-Islamもそうだった。サウジアラビアのサルマン皇太子も、パキスタンのブットBenazir Bhutto首相も、シリアのアサドBashar al-Assadとその西側生まれの妻も、インドのSanjay Gandhiも。

グローバルな南側の似非啓蒙君主たちは、政治的に大衆を嫌い、心の底から恐れている。その暴力による弾圧は、他の手段より優先される。アメリカの中東政策も、同じ偏見によって成立していた。歴史家Bernard Lewisは、ブッシュ政権に助言した。「世界のこうした地域では、明確な決意と暴力だけが重要だ。」


 Brexit2度目の国民投票

The Guardian, Fri 19 Oct 2018

If you think Brexit will leave us weaker and poorer, march for a people’s vote

Timothy Garton Ash

もう十分だ! この国民的な恥をおしまいにしよう。世界中で、ますます、イギリスは憐れみと軽蔑の対象になっている。Brexitは、もしそれを実行したら、最近の歴史における最も重大な、やるべき理由のなかった、国民的自傷行為となるだろう。

EUの他の加盟諸国と合意する案がないのは、もはや全く明らかになっている。唯一、前進する道は、議会が問題を国民に差し戻すことだ。イギリス国民がEUにとどまるべきか、決める。そのために、可能な限りすべての人がロンドンに集まって、人民の投票を要求しよう。

2年前には、まだ、メイ首相が広く、与野党を含む、ソフトBrexitへの支持を得る可能性があった。イギリスは大きなノルウェイになっただろう。単一市場にとどまり、何らかの関税同盟を形成する。これは次善の策であっただろう。UKはルールを作らず、EUのルールに従う。しかしそれは、不幸を最小化する案だった。

もっと強力な首相であれば他の案があったのかもしれない。しかし、メイは保守党の離脱派を宥和することに決めた。彼女は彼らと堕落することにしたのだ。その決断が、毛糸のカゴにからまった猫のように、今や彼女を制約している。

ヨーロッパの交渉相手は、その延期を提案している。追加の滑走路を走るのだ。しかし、2019529日に、われわれは目をつぶって離脱することになる。将来の英欧関係はあいまいな「政治宣言」でしか示されない。

2016年の離脱派も、残留派も、今の意見は分裂している。残留派が2人いると、異なる意見が3つある。離脱する、最悪を避ける、ソフトBrexitにする。私は彼らの意見を詳しく聞いたが、正しいと確信できたのは1つである。良いBrexitとは、Brexitしないことだ。

しかし、2度目の国民投票に対する反対の大合唱がある。そんなことはできない。EUが待ってくれない。複雑すぎる。何を問うのか? 苦しむ時間が伸びるだけだ。何も解決しない。

われわれはいずれにせよこの国を分断させるだろう。そうであれば、少なくとも、正しい線で分断するべきだ。もし国民の多数がEU残留を望めば、ヨーロッパは歓迎する。2度目の国民投票を「非民主的」とするのはナンセンスだ。国民はその意志を変える。議会が決めれば、国民の決断を投票に委ねる。

ジョン・メイジャーが述べたように、Brexitの決定は大失敗だった。アイルランド島で流血の宗派争いを再開させてはならない。リベラルで進歩的なイングランドを望み、排外的で、反動的なイングランドを拒むなら、Brexitを支持した有権者の不安にBrexitは何も解決策をもたらさないと考えるなら、議会への行進に参加しよう。

そこで、あなたと会いたい。

The Guardian, Fri 19 Oct 2018

I won’t be marching for a people’s vote. There has already been one

Suzanne Moore

SPIEGEL ONLINE 10/19/2018

Brexit Negotiations

Watching a Country Make a Fool of Itself

A Commentary by Jan Fleischhauer

世界に、イギリスが示したほど傲慢な国はない。しかし、悲しいことは、このかつてグローバルな大国であったイギリスが、自分の足がもつれて、ドアにもたどり着けないことだ。

ドイツ人ジャーナリストMatthias Matussekは、ロンドンのドイツ大使館で作家のAntonia S. Byattと話した。彼女はMatussekに、欧州憲法に関して意見を求めた。欧州共同体の諸国がいくつかの根本原理に合意するなら、それは悪いことではないだろう、と答えると、彼女はとんでもないことを言った。

「ご存じでしょうが、私たちイギリス人は憲法を必要としません。世界で最も古い民主主義の国ですから。」少し間をおいて、彼女は続けた。「あなたたちドイツ人のような若い国には、憲法がとても有益なのでしょうね。」これほど高慢で侮辱する言葉はないだろう。彼女はこう言ったのだ。「あなたたちは野蛮人だ。最近になって棍棒を持たなくなっただけだから、首輪が必要だわね。」

悪い合意より、合意しない方がよい。メイ首相はそう言った。イギリス人がそう確信したなら、そうだろう。ハードBrexitはドイツにも有害だ。少しだが。しかし、イギリス人が被る損害はそれどころではない。

トラックはウェールズに向かう途中で止まってしまう。境界線が復活するからだ。ガソリンスタンドは空になり、病院には薬がない。ポーランド人の配管工たちが帰国した後、トイレが詰まっても直してくれる者がいない。

The Guardian, Sun 21 Oct 2018

The People’s Vote is a cause worth marching for

Will Hutton

日曜日のPeople’s Voteには70万人におよぶ人たちが集まった。群衆は無限に続くようだった。人々は、保守党も、労働党も、内紛ばかり続けていることを知っている。

私も行進に参加した。繰り返し聞かれたことは、行進する価値があるのか? である。

まったく明白なことに、答えはYesだ。これはイラク戦争以来、ロンドンの通りを埋めた最大のデモ行進だ。当時、The Sun紙は抗議の声を軽蔑し、政治家たちも等しく無視しようとした。しかし15年が経って、わかったように、イラク戦争は紛れもなく最高水準の大失策であった。抗議デモに参加した人々は正しかったのだ。今もそうだ。離脱派は、同じ規模でデモを組織できない。もしすれば、憎悪と暴行に終わるだろう。

政治的なエネルギーと動きを征するのは残留派だ。EUの大義は誇れるものであり、Brexitは詐欺に基づく嘘だった。もう一度投票すれば、残留派が圧勝する。

それはまた、保守党を粉砕するだろう。

The Guardian, Sun 21 Oct 2018

The Guardian view on the march for a people’s vote: a step forward

Editorial

People’s Voteのデモに参加した人々には幻を追う危険がある。行進には情熱的な意図の表明があるけれど、行動計画がない。2度目の国民投票は、離脱を選択した人々にとって重要な問題を、何も解決しない。それは第1回の投票より、この国を分断するかもしれない。

Brexit投票は、間違った問題に対する、間違った答えだった。われわれに必要なことは、不平等、不正義、希望の乏しさ、といった真の問題と対決する正直さ、勇気である。

FT October 22, 2018

Austerity, Brexit and the Bank of England

Gavyn Davies

The Guardian, Mon 22 Oct 2018

This centrist dad marched for a people’s vote – but that’s only the first step

Andrew Adonis

FP OCTOBER 22, 2018

Referendum Redux?

BY OWEN MATTHEWS

PS Oct 23, 2018

Theresa May Could Back a New Brexit Referendum

ANATOLE KALETSKY

どのような選択肢にも反対が強い。メイは「合意なし」を選択することで、議会に国民投票を支持させることだ。

FT October 25, 2018

Logic explains why the ‘will of the people’ remains elusive

Chris Giles


 WTOの解体

FT October 19, 2018

Making sense of the Trumpian trade policy

FP OCTOBER 19, 2018

The Trade War Has Claimed Its First Victim

BY ARVIND PANAGARIYA

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、3月、鉄鋼輸入に25%、アルミニウムの輸入に10%の関税を課すと発表し、貿易戦争を始めた。5月には、カナダ、メキシコ、EUからの輸入に課税を拡大した。予想されたように、中国は、アメリカから輸入する等しい量の鉄鋼・アルミニウムに関税を課し、カナダ、メキシコ、EUも報復した。

法的な根拠として、アメリカは、めったに利用されないWTOの条項を使った。すなわち、国家安全保障上の理由で加盟国は貿易に関する譲歩を停止できる。トランプの関税は間違いなくその条項の精神に反しているが、WTOの研究者たちは、トランプが条文に違反していない、と認める。

WTO加盟国である、カナダ、中国、メキシコ、ノルウェイ、ロシア、トルコ、そしてEUが、アメリカの新しい貿易障壁に関して紛争パネルの設置を要求した。しかし、アメリカの弁明は明白だ。WTOは、加盟国が国家安全保障に関する必要な防衛措置を取るとしても、これを妨げない。そして、何が防衛措置であるかを決めるのは、アメリカだけである。

カナダ、中国、メキシコ、EUに関しても事態は複雑だ。WTOのルールでは、加盟国が他の加盟国による権利の侵害を確信しても、それをWTOの紛争処理機構に委ねることを求めている。この機構のみが報復を合法化できる。彼らが一方的にトランプの関税に報復したことで、かれらもルールに違反したことになる。アメリカはすでにその調査を要求している。

アメリカは自分たちの行為を法的に根拠づけるよう配慮している。9月末に、中国からの2500億ドルの輸入に対して関税を課す根拠は、1974年の通商法301条であった。これは2000年にEUWTOに訴えて、すでにこの法律による貿易規制を無効と判定している。

事態は明白だ。アメリカは貿易戦争を煽動する際に、これまでの貿易ルールを回避して主張したし、貿易相手国も自分たちが貿易ルールを破ることを気にしなかった。もしWTOがアメリカを調査すると言えば、アメリカ政府は単にWTOから脱退するだろう。もしWTOが調査しなければ、将来、国家安全保障に関する貿易制限をどの国に対しても抑えられない。カナダ、中国、メキシコ、EUがルールを破ったとWTOが認めるなら、これらの諸国がWTOから脱退するかもしれない。

楽観論者は2つの結果を期待する。第1に、サプライ・チェーンの混乱は失業と不況をもたらし、トランプと他国の指導者たちがルールにもどる。第2に、2年経てば、アメリカの大統領が代わる。

しかし、どちらのシナリオも実現の見通しは暗い。アメリカでは、中国がルールに違反しており、封じ込めるべきだ、という意見が以前から支配的である。また、WTOの働きについても不満がある。2021年に誰がホワイトハウスにいても、その人物は、WTOがアメリカの利益を十分に守っていない、と考えるだろう。

1870年から第一次世界大戦まで、グローバリゼーションの第1波は西側世界に繁栄をもたらした。しかし、戦間期の近隣窮乏化政策に対する誘惑に負け、新しい貿易障壁が熱望されて、世界不況に至った。第二次世界大戦後の長い繁栄を経て、世界は新しい貿易紛争の時代に入ろうとしている。その結末はまだわからない。

FT October 21, 2018

WTO suffers collateral damage from Trump and China

Alan Beattie in Brussels


 貿易戦争と海外証券投資

FT October 19, 2018

China’s Belt and Road at 5: ‘one-to-many’ or ‘many-to-many’?

David Lubin

FT October 22, 2018

Beijing finds unlikely anti-Trump weapon in global indices

James Kynge

米中間の貿易戦争に注目が集まる。しかし、海外証券投資を忘れていないか。中国の債券と株式に向かう外国資本の流れは、アメリカ・ドルに対する人民元の減価を止めるのに役立った。

ドナルド・トランプの中国に対する非難と制裁は、米中間の新しい冷戦を懸念する声を生んでいる。

しかし、外国のファンド・マネージャーたちは冷静であり、おそらく、彼らは中国経済が支配的になる時代を予想している。彼らが保有する人民元建の債券・株式は9月末で4622億ドルに達しており、それは1年前には1225億ドルであった。

こうした資本流入は中国の経済抵抗力を高めている。中国の人民銀行はその外貨準備を増やし、ドルに対する人民元レートの維持に介入する力を増している。中国の債券市場は世界第3の規模であり、その利回りは特にヨーロッパに比べて大幅に高い。中国の10年物国債で3.57%、ドイツの10年物債券は0.47%、アメリカは3.2%である。

より重要な要因は、中国の債券・株式が国際的指標に追加される、という見通しである。ファンド・マネージャーたちはそのポートフォリオに中国の資産を増やしている。また、各国の中央銀行は外貨準備をIMFSDRと同じ構成に近づけようとする。中国が人民元をSDRの構成通貨に追加した努力は、このように成果を示している。

しかし、中国市場の信用調査や格付けは不十分だ。外故億資本が流入することで、こうした不適切な評価は是正を迫られるだろう。

FT October 25, 2018

China is committed to playing by the rules on global trade

Liu Jun


 Google経済の競争

PS Oct 19, 2018

What Has Google Ever Done for Us?

YANIS VAROUFAKIS

FT October 21, 2018

Superstar companies also feel the threat of disruption

Rana Foroohar

McKinsey Global Instituteの報告書によれば、「勝者総取り」の世界でも、われわれが思った以上に大きな変動がある、ということだ。

報告書は、年収が10億ドルを超える世界の公・民企業、約6000社を分析した。それらの企業がグローバルな税引き前収入の60%を占める。その中の上位10%、スーパースター企業は利潤の80%を得ている。最上位1%だけで36%だ。

それはFAANG(Facebook, Apple, Amazon, Netflix and Google))を含むが、彼らがソフトウェア、データ、特許、ブランドのような無形資産を駆使して、しかもネットワーク効果により急速かつ広範囲に競争的優位を得ることは、よく知られている。

しかし、この報告書は、トップ10%にも大きな変動があることを示した。トップ10%でも、1%でも、20年前に比べて多様性が増している。シリコンバレーだけでなく、さまざまな産業(銀行・製造業)、さまざまな国(西側の多国籍企業、そして中国)から現れているのだ。その理由の1つは、グローバリゼーションである。アイデアに対して、潜在的市場も、アクセスできる資本も大きい。

憂慮する点は、底辺で破壊される価値は、頂点で創造される価値よりも大きい、と示していることだ。たとえ頂点でも競争は思った以上に強力な効果を発揮している。しかし、それは諸国の内部に均等に分布していない。両極分化するのだ。その結果、少数の都市が繁栄を手に入れる。

競争を促すだけでなく、この差を埋める方法を発見しなければならない。

FT October 25, 2018

US midterms: Donald Trump’s tryout as a ‘master of industry’

Patti Waldmeir in Chicago


 ごみのリサイクリング

PS Oct 19, 2018

The Economics of the Climate Crisis

JOSÉ ANTONIO OCAMPO

FT October 24, 2018

Inaction over climate change is shameful

Martin Wolf

PS Oct 24, 2018

A Zero-Carbon Economy Is Within Reach

ADAIR TURNER

FT October 25, 2018

Why the world’s recycling system stopped working

Leslie Hook and John Reed

Robert Reedは、3階建てビルの高さに達するゴミの山を検査し、白いプラスチックバッグを取り除く。「これが問題なんだ。機械が詰まる。しかも、売り物にならない。」

それはサンフランシスコ最大のリサイクル工場の中である。家庭ごみを受け入れ、分類し、細かい材料チップに加工する。この工場を所有する地元の管理会社Recologyは、西海岸で最先端の技術を駆使し、1日当たり750トンを処理している。

Amazonの箱のようなものを示して、オンライン・ショッピングでこうしたごみがもっと増えるだろう、と言う。アルミ缶やスチールのように価値のある物もあるが、その他は無価値だ。プラスチックごみは選別されて、主にアジアに輸出される。昨年まで、中国が最大の買い手であった。

世銀によれば、毎年、世界で27000万トンものゴミがリサイクルされている。その重さはエンパイア・ステート・ビルの740倍に等しい。1980年代から、人類の増大するごみ問題にとって、リサイクリングがその答えだと思われていた。それは今や2000億ドル規模の産業だ。

20171231日、世界のリサイクル貿易の中心地であった中国が、突如としてリサイクル材の輸入を禁止した。ゴミの多くが「汚い」「危険な」ものだ、環境にとって脅威である、と。プラスチックごみの価格は急落した。レサイクス材の積み出しが止まり、世界は危機に入った。

日本は、ごみ輸入の禁止前、中国への最大のごみ輸出国であった。今や、すべてのごみが日本内に累積している。ほかにどうしようもない。ゴミ焼却炉はフル稼働している。

中国のごみ貿易禁止で分かったように、リサイクリングはただではない、ということだ。グローバルなパラダイム・シフトが起きている。世界貿易を「メイド・イン・チャイナ」が埋め尽くしたように、ごみ貿易も中国が支配した。しかし、とうとう中国政府は理解した。このゴミ貿易は中国にとって損失である、と。地下水も、大気も汚染され、経済的コストは甚大である。

その後、プラスチックごみの多くは東南アジアに向かった。ごみ輸入の急増と、それに対する反対運動が起きた。Penchom SaetangEcological Alert and Recovery Thailandの代表)は言う。「リサイクリングと言えば、それは良い考えのように思う。その目的は善良だ。」「しかし、リサイクリングがそれほど良いことなら、なぜアメリカ、ヨーロッパ、韓国、日本は、自国ではなく他国に輸出するのか?

ますます多くの国がごみ輸入を禁止するだろう。「われわれはナショナリズムのに生きている。」 中国の輸入禁止による影響の1つは、開発世界において各国がごみ処理に国内投資を始めたことだ。「一夜にして、中国は世界最大のプラスチックごみ輸入国から、世界最大のプラスチック・ペレット輸入国になった。」

人類は、1950年代以降、63億トンものプラスチックごみを作り出した。もはやリサイクリングや回収率を上げることは支持できない。間違った問いに注目してきた。「システミックな変化」が必要だ。根本問題は世界の消費者である。資源を利用し、廃棄する行動を変えねばならない。

カリフォルニアから、最近はヨーロッパで、ごみを出さないライフスタイルが支持されるようになった。


 貿易戦争から米中冷戦

PS Oct 19, 2018

The Sino-American Cold War’s Collateral Damage

MINXIN PEI

世界が2つの貿易ブロックに分割されることは、容易に想像できる。グローバルな金融システムの解体も進むだろう。トランプ政権が、ドルの支配する国際決済システムを利用して、容易に他国を罰することは、アメリカの戦略的な敵対国、ロシアと中国、そして、同盟相手であるEUさえも、異なる決済システムを構築するだろう。

それは冷戦として、グローバルな技術の配置にも破壊的な影響を生じる。技術革新やその普及は遅れるだろう。最初に、グローバル・サプライ・チェーンが破壊される。アメリカ向けの生産拠点は南・東南アジアにシフトするだろう。しかし、短期的には生産コストが高まる。

それ以上に、長引く冷戦が及ぼす深刻な影響は、気候変動に対する共通の体制を欠くことだ。米中は世界の2大炭素排出国家である。米中冷戦は、人類に対する生存の危機につながる。

PS Oct 22, 2018

The End of America’s China Fantasy

BRAHMA CHELLANEY

NYT Oct. 22, 2018

Trump May Revive the Cold War, but China Could Change the Dynamics

By David E. Sanger and Steven Erlanger

NYT Oct. 23, 2018

How Trump Should Address Unfair Trade With China

By Robert E. Scott

トランプ大統領は、貿易戦争ではなく、ドル高を抑えるべきだ。そのためには議会が、アメリカの資産を購入する取引に課税することである。

FT October 24, 2018

How to save the WTO from Washington and Beijing

PS Oct 25, 2018

The Long Sino-American Trade War

MICHAEL SPENCE


 対中国4極体制

FP OCTOBER 19, 2018

The Quad Is Not Enough

BY DEREK GROSSMAN

アメリカは、インド太平洋の「自由で開放的な」海を戦略的な航路として確保することが、次第に難しくなっている。中国は南シナ海の軍事拠点を強化し、東南アジアの近隣諸国に対する圧力を高めているからだ。

トランプ政権は4か国(アメリカ、オーストラリア、日本、インド)を“the Quad”と呼んで、インフォーマルな対話を重ねている。それは、事実上、中国に対抗する軍事協力体制である。それは2008年にいったん失敗したが、再開された。

それはASEANの海に面した諸国との関係強化によって重要な意味を持つ。その可能性は高まってきた。

PS Oct 22, 2018

Why a Sino-American Cold War Won’t Happen

NGAIRE WOODS

アメリカは中国の政治・経済システムが変化するように強いるだろうが、中国の指導部はそれを阻止する決意だ。そのために、中国の独自の改革を続けるだろう。習近平主席が最優先するのは、共産党と政府とを一体化することと、腐敗を一掃し、信用を高めることだ。また、幸い、トランプは他国の「民主化」には関心がなく、中国市場にアクセスしたい投資家や大企業の求めに応じるようだ。

米中両国の姿勢は、世界を多極化するだろう。貿易でも、金融システムでも、トランプの行動は同盟諸国を離反させるだろう。冷戦より、国際システムは、4大国(米中露独)の指導するそれぞれの地域と、相互の国際交渉が形成するものになる。


 過剰な観光開発

FP OCTOBER 19, 2018

The Tourism Curse

BY GEERT VANSINTJAN

観光業はグローバルな経済部門である。世界の旅行者は年間12億人、世界GDP10.4%、OECDでもGDP4.1%、雇用の5.9%を占める。ツーリズムは、他の「資源の呪い」と同じように、開発の未来を歪め、長期的には害をなすかもしれない。

インフラ整備にかかる費用は、虚構のハイシーズンに合わせると、その他の基幹に大幅な無駄を生じる。また、さまざまなインフラはグローバル企業の所有になり、地元の利益になりにくい。旅行サービスにおけるホスピタリティーが重視されるとしても、教育に対する投資は軽視される。賃金も決して高いものではなく、上昇しない。ピークの需要に応じると、他の時期の失業率は高くなる。しばしば高級化したサービスは競争を妨げる。

観光業がさまざまな社会問題を生じることは予億知られている。特に貧しい発展途上国ではセックス産業が拡大し、地元の社会から強い抗議運動が起きる。

西側の工業化は、生産性の上昇が、それに必要なインフラの整備、公共サービス、教育、ガバナンスの改善をともなった。それこそが経済発展には重要であった。

観光業の利益は地域社会でバランスを求められる。バルセロナは歴史的地区のホテル建設やヨットの数を制限した。ヴェニス市民はAirbnbに反対する運動を組織し、ホテルの部屋に追加の税を要求している。京都も、旅行者のための焦点は集中し、住民サービスの改善としてインフラ投資が充実し、その便益を旅行者が共有している。


(後半へ続く)