IPEの果樹園2018
今週のReview
10/22-27
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気候変動と国際政治 ・・・サウジアラビアのジャーナリスト殺害 ・・・ユーロ危機 ・・・Brexitの進む道 ・・・リベラルで多角的な経済秩序 ・・・ビットコインとブロックチェーン ・・・アメリカの内戦
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign
Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 気候変動と国際政治
NYT
Oct. 18, 2018
Searching for Water Across Borders
By Jeff Nesbit
気候変動は水の希少性をグローバルな安全保障問題にする。裕福な諸国は国境の外に、必要な水を探し始めた。それは貿易や地政学に重要な意味を持つ。サウジアラビアと中国は自国民を救うためにアメリカの助けを求めた。
2014年、サウジアラビア最大の乳製品企業Almaraiは、4750万ドルでアリゾナに15平方マイルの農場を買った。そこで育てたアルファルファ(牧草)を自国に送って、乳牛を育てるためだ。農耕には莫大な鈴が必要だ。
中国も、アメリカに食糧を求めた。世界の大豆の半分以上を、アメリカと南米から輸入している。2013年には、中国企業が世界最大の豚肉生産者Smithfield Foodsを買収した。最近では、アメリカで育つ豚の4分の1が中国で消費されている。
安全保障の専門家James Clapperによれば、世界の諜報機関が注目する「衝突する領域」は、食糧、水、エネルギー、病気、である。
サウジアラビアのAlmaraiは、コロラド川の水をめぐって、アメリカの諸都市と争奪戦を始めている。中国は、大豆など、大量の水を消費する農作物を得るために、アマゾンンを貫く3000マイルの鉄道建設を提案した。
● サウジアラビアのジャーナリスト殺害
FP
OCTOBER 15, 2018
This Is America’s Middle East Strategy on Steroids
BY STEPHEN M. WALT
アメリカは中東から引き上げてはいないし、ワシントンがチェックすることで、この地域はカオスに向かって落ち込んでもいない。イラク戦争をピークとして大幅に減ったが、あの時期は異常であった。アメリカはなお、この地域に2万5000人の兵士を派遣している。イスラム国の残党と戦う数千人、イランの影響力拡大に対抗し、バーレーンの港には海軍の小隊、カタールには空軍の強力な基地があり、その他の諸国にも特殊部隊が展開し、主にテロ対策に当たっている。
トランプ大統領は、アメリカの伝統的な中東の支援諸国との関係を強化してきた。エジプトの強権指導者シシをホワイトハウスに迎え、アメリカ大使館をエルサレムに移して、イスラエルの入植拡大を熱狂的に支持する、共和党の大口献金者Sheldon Adelsonを喜ばせた。ネタニヤフ首相とも極めて良好な関係だ。サウジの新しい権力継承者、改革派としてサルマンM.B.S.皇太子、そしてアラブ首長国連邦とも友好関係にある。
国防長官ポンペイオも大統領顧問ボルトンも、サウジ・イスラエル・エジプト・湾岸諸国の対イラン同盟にアメリカが参加することを支持している。トランプはイラン核合意から離脱し、テロ支援や地域の不安定化を図っている、とイランを非難して、彼らを喜ばせた。オバマ政権は、アメリカがイランとの戦争を避けるため、同盟諸国を支援した。しかしトランプはこれを逆転させた。彼は戦争を望んでいる、と観る者もいる。
アメリカが支援を強化したことで注目すべき点は、彼らがますますアメリカからの無条件の支持を受けるにふさわしくない国になっている、ということだ。むしろ今こそ、各国の行動を否認し、そのような行動から距離を取り、他の選択肢を探しておくときである。
エジプトでシシは、民主化の希望を完全に葬り、反政府デモを殺戮し、疑わしい理由で、数百人を投獄した。他方、イスラエルはさらに民主主義から離れてアパルトヘイトに向かい、占領地への入植を続け、ガザ地区の境界線でパレスチナ市民を射殺している。サウジアラビアでも、サルマン皇太子は進歩的な改革派ではない。それが明白になった。石頭の、恨みがましい、有能さを欠いた指導者だ。レバノンやカタールとの関係悪化、イエメン戦争を観ても、その失策は明らかだ。脱石油の経済改革に必要な外国の投資家たちはサウジから逃げてしまうだろう。さらに、Jamal Khashoggi殺害容疑が加わった。
しかし、トランプ政権は違うことを考えている。サウジに強く抗議すれば武器購入を止めるかもしれない。対イラン同盟にも影響する。イラン核合意からのアメリカの離脱、イラン制裁は、ヨーロッパとの紛争、彼らの不利益を生じている。彼らはそれをトランプの大失策だと考えている。
こうしてトランプのアメリカは、長期に及ぶヨーロッパの民主的な同盟諸国を犠牲にして、また、彼らにドルに依存した金融システムからの離脱を進める理由を提供して、ますます怪しげな中東の諸国家を仲間に引き込んでいる。この交換が、アメリカにとって戦略的にも、道義的にも、意味があるのか?
私は、アメリカとヨーロッパが協議して離婚を進めることには賛成だ。外交的、経済的な関係を保ちながら、ワシントンは徐々に、安全保障問題をヨーロッパ自身の手に委ねるべきだ。永久に、ヨーロッパを従順な、依存したパートナーにすることは間違いだ。しかし、トランプの政策はヨーロッパに分裂をもたらす。この汚れた、金のかかる離婚事件にまみれた男が、同じような騒ぎをアメリカに生じるのは見たくない。
アメリカは中東に大規模な軍事介入を行ったが、地域を安定化できなかった。重要なことは、ここに述べたようなマイナスの傾向は、アメリカが中東への関与を低下させたからではなく、過剰な、しかも無批判な支持を与えたから起きている、ということだ。彼らはいかに悪行を重ねてもトランプは支持するだろう、と考えている。アメリカは彼らに肥料をやっている。
この悲しい話は予測できた。アメリカ大統領が外交を何も知らず、外交関係の重要なポストを空席のまま放置し、ホワイトハウスの上級職に就く資格のない、甘やかされた金持ちの子供に、彼が大統領の娘と結婚したというだけで、大統領顧問にしているのだから。
NYT
Oct. 18, 2018
Why King Salman Must Replace M.B.S.
By Madawi al-Rasheed
事態の深刻さを理解したサルマン国王が、皇太子を解任し、王室を立憲君主制に改革することにより、サウジアラビアはこの危機を脱することができる。
● ユーロ危機
PS
Oct 17, 2018
Will Italy Sink Europe?
JIM O'NEILL
ユーロがなくても、30年前に初めて調べたときからそうだった。イタリアの生産性上昇はヨーロッパの水準で観て低かった。通貨リラを切り下げて高成長を示すときもあったが、それは次のさまざまな危機の種をまくことになった。
イタリアで左派と右派のポピュリストによる政権が成立し、これまでもしばしば議論された債務/GDP比率と予算赤字が再び懸念されている。
リラがあれば、それを切り下げるときだ、という者もいる。しかし、ユーロ圏に参加してリラを失ったからそれができない。しかし、イタリアは低インフレと低金利を得たのだ。リラ切下げは改革を避けるだけで、むしろ害になるだろう。
ユーロ圏の財政規律に従うことは、イタリアにとって牢獄だ、という者もいる。それはあまりにも低い名目成長率とインフレ率、高い債務を意味する。しかし、ポピュリスト政権が成立する前は、他国に比べてイタリアは(景気循環調整後の数値で)規律を守っていた。
イタリアが必要としているのは、生産性を高める構造改革である。他方で、EU当局は、イタリア政府の財政規律について攻撃し過ぎてはいけない。もし民主的に選ばれた政権が退けば、事態は一層悪化するだろう。イタリアに必要なことは、名目GDPの成長である。
● NAFTAからUSMCA
PS
Oct 12, 2018
Trump’s North American Trade Charade
ANNE O. KRUEGER
NAFTAが廃止されるよりは良かったが、the United
States-Mexico-Canada Agreement (USMCA)はトランプ大統領が言うような「勝利」ではない。
予想されたものよりましである理由は、1.サンセット条項が、6年ごとの再交渉ではなく、16年に延期された。2.なくすと主張していた紛争処理メカニズムが、弱められた形でも残った。
トランプ政権が強い関心を持っていた自動車産業に関する限り、管理貿易の傾向が強まった。輸入割り当てが始まるだろう。貿易圏内の原産地規制が強まった(NAFTAは62.5%であったが、75%)。それは効率的な生産を妨げ、アメリカ産業の生産性を低下させる。ヨーロッパやアジアの生産者は有利になるだろう。
● Brexitの進む道
The
Guardian, Tue 16 Oct 2018
I have made no false promises on Brexit – I’m free to tell you the
truth
John Major
今まで、アメリカの大統領は皆、イギリスをEU加盟国として評価してきた。しかし、このままで行けば、すぐにそうではなくなる。自由貿易、開かれた市場、安全保障の重視というアングロ・アメリカの信念を、EUの中で議論しなくなれば、われわれの友人、アメリカは、UKではない誰か、アメリカの利益に尽くす他の国を求めるだろう。それを否定するのはロマンチックな妄想である。
アメリカの同盟相手として、われわれの価値は下がるのだ。
何世紀にもわたって、われわれの国は、ヨーロッパが統一してわれわれに反対することを妨げようと画策してきた。いかし現代では、ヨーロッパのすべてをわれわれの背後に、われわれを支えるように選択した。過去の政治家たちは墓石の下で寝苦しい想いをしているだろう。
われわれは未来を「グローバル・ブリテン」と呼ぶのか? それは正しい政策だが、何も新しいことではない。300年間もそうであった。新しい点は、世界がイギリスを、同盟を組むべき超大国ではなく、中規模、中ランクの国家とみていることだ。そして、すぐに世界はもっと冷たくなる。
Brexit後の世界は非常に異なるものだろう。それがいかなる姿になるとしても、離脱派の約束からは程遠いものだ。あれは票を集めるためのファンタシーであった。まともな政治では決してなかった。私は、議席を得るためや、党派を利するために発言する必要がない。Brexitに関して私が思うところを、完全かつ正確に述べる自由がある。
われわれの決定は、UKとEUの両方を衰退させる、途方もない間違った判断であった。われわれの国家の富も、個人の富も、損なわれる。われわれの将来の安全保障も深刻なダメージを受ける。時とともに、UKが崩壊していくだろう。われわれの若者たちが未来への展望を奪われる。
決して実現できない約束をした者たちを、決して忘れてはならない。許してもならない。
さらに大きな問題は、EUがどのような影響を受けるか、である。それはひどいものだ。UKの抜けたEUはバランスを変化させ、自由な市場を支持する国が劣勢になる。独仏が対立するとき、UKが緩衝材となることもできない。ドイツはさらに孤立し、摩擦は激化するだろう。
Brexit推進者たちが、それはヨーロッパの問題だ、われわれと関係ない、と言うだろう。彼らは現実を無視している。
われわれはどうか? 主要政党のどれも、健全さを失っている。保守党も、労働党も、過激な分派に振り回される。左右の過激派が政治の分断化を強め、妥協を拒むことを私は懸念する。もっと穏健な意見なら共通の土台を提供するだろう。
醜い共食いの政治ではなく、もっと敬意と礼節を重んじるべきだ。対決を抑えて、妥協するべきだ。
PS
Oct 16, 2018
The Brexit Endgame
ROBERT SKIDELSKY
UKの「残留派」は、イギリスの諸都市にプラカードを掲げて問い続けている。「Brexit―それは価値があるのか?」
経済学の答えは明らかに、まったくない、だ。コスト・ベネフィットだけなら、離脱の決定は不合理だ。しかし、経済学はまた、その決定を支配していた。Brexitに向けたプロパガンダは、経済的不満を反映したからだ。特に、移民への恨みとEUへの反発だ。
人々の怨嗟は、彼らを無視する支配者たちによって国内経済が損なわれたことで生じた。Will Hutton and Andrew Adonisが述べたように、「われわれの諸問題はイギリスで作られた。解決するのもイギリスである。ヨーロッパはそれを邪魔しない。」
しかし、Brexitには非経済的な面がある。イギリスは、かつて1度もヨーロッパ国家の一部になったことがない。EUは、サッチャーが恐れたような「超国家」には程遠いものだが、イギリスだけでなく、多くの加盟国でも正当性を欠く、国家としての野心を持っている。ヨーロッパ市民と言いながら、政治は各国民の手にある。「離脱派」のキャンペーンは、経済的な不満だけでなく、こうした超国民政府の見せかけに反対するものだった。
Brexitは、超国家主義とナショナリズムとの弁証法が世界のその他の地域にも広がっているように、現代政治の基本要素である。
2019年5月になれば、イギリスは「一時的に」関税同盟に残り、最終の離婚合意には2年から3年を要するだろう。こうした「ソフトBrexit」で、国民投票を尊重し、経済的破局を避ける。イデオロギーに対するプラグマティズムの勝利だ。
かつてJ.M.ケインズが述べたように、政権を争う言葉は乱暴なものとなり、考えられないような過激化を示す。しかし、いったん権力を得れば、もはや情熱的な姿勢は必要ない。レトリックによる代償ができるだけ抑えられるようにする。
Brexitも、トランプも、ヨーロッパにおける極右も、貿易を破壊しないし、戦争にも、独裁政権にもならず、脱グローバリゼーションを急ぐこともないだろう。むしろ、主流の政治における過剰な言葉に対する警告と見るべきだ。
The
Guardian, Wed 17 Oct 2018
Blair, Clegg and Heseltine: why we need another EU referendum
Tony Blair, Nick Clegg and Michael
Heseltine
● リベラルで多角的な経済秩序
FT
October 14, 2018
How saving the liberal world order became harder
Wolfgang Münchau
リベラルで多角的な経済秩序を擁護することはむつかしい。
われわれは根本的な選択に直面している。問題に対処するか、あるいは、非難合戦に走るか。
Donald Trump, Viktor Orban and
Matteo Salviniのような政治家が権力を得たのは、グローバル資本主義のシステムが深刻な機能不全に陥ったからだ。世界金融危機と政策の紛糾は、システムがどれほど維持不可能かを示した。
ユーロ圏はリベラルなシステムが自己満足と不安定化に陥っている典型である。IMFがギリシャ債務は持続不可能だと判断しても、間違った成長予測を基に、EUは返済を強制した。EU諸国が融資の失敗と損失を認めたくないという理由で、問題解決を避け続けたのだ。
イタリアでポピュリストが政権を取ったショックは、通貨同盟の機能不全と持続できない移民システムの結果であった。私は、どうしてイタリアとドイツが同じ通貨システムにとどまれるのか、理解できない。両国が拒否する改革が待っている。ユーロ圏は政治同盟に進むのか? 単一の安全資産となるのか? 経済システム、司法システムを統合に向けて改革するのか?
1930年代と比べて、われわれのシステムには安定化する力がある。しかし、GDPや失業率だけ見て、その背後にある政治的な変容を見失うことは間違いだ。不平等、住宅不足、中産階級におよぶ不安定な雇用。政策は不満を強めている。不況における緊縮策、銀行家たちの莫大なボーナス。資産価格を増やす超金融緩和。法廷の独立性を侵す自由貿易協定。
リベラルな民主主義の衰退はもっと以前からある。金融取引に課税することを嫌って、法人税を引き上げることを嫌って、彼らはタックスヘイブンに逃避した。自動車産業も化学産業も、規制の緩い国へ工場を移転した。リベラルなシステムは、それを監視・強制する力を失った。
われわれの問題はポピュリストではない。問題はわれわれのチームにある。
● ビットコインとブロックチェーン
PS
Oct 15, 2018
The Big Blockchain Lie
NOURIEL ROUBINI
昨年後半のピークから、ビットコインの価値は70%下落した。すべてのバブルは破裂するものだ。
市場が流血に汚れても、信奉者は最後の砦に逃げ込む。ブロックチェーンだ。すべての暗号通貨をつなぐレッジャー(原簿)のソフトウェア。それは貧困や飢餓から、癌まで、すべての問題を解決する万能薬として絶賛された。史上、これほど大げさに吹聴された技術はない。
実際、ブロックチェーンは帳簿に過ぎない。しかし、それがリバタリアンのイデオロギーに決まり文句を与えた。すべての政府は邪悪である。中央銀行、金融機関、通貨は権力を集中し、邪悪であるから、解体せねばならない。ブロックチェーンが、こうした原理主義者たちに理想の世界を実現する。そこでは経済活動がアナーキストやリバタリアンの権力分散に従うだろう、と。
だがユートピアに向かうどころか、ブロックチェーンはなじみの経済的破滅に至る。わずか数人の白人男性が(ブロックチェーンの世界には女性やマイノリティーがほとんどいない)、貧しい、周辺の、銀行口座を持たない人々に、無から莫大な富を生み出す救世主としてふるまう。しかし彼らの姿を観ればわかるように、ブロックチェーンは権力分散や民主主義とは関係ない。それは強欲のシステムだ。
ブロックチェーンはわれわれを、法の支配もない、匿名のカルテルに服従させる。中央銀行への信認や制度化された金融仲介など、何もない。集中された取引の99%は、常時、ハッキング(不正アクセス・情報操作)されており、その暗号化された富を現金化しようとすれば、永久に消失してしまう。開発者が絶対的な権力を持ち、裁判官や法廷として行動する。何か不都合があれば、彼らはコードを変えるのだ。
暗号通貨の富は、北朝鮮よりも集中した、不平等な世界だ。明らかに、「権力分散化」という主張は、この似非産業の似非億万長者たちが広めた神話でしかない。暗号通貨市場に吸い込まれた小口の投資家たちが富を奪われて裸になった今でも、詐欺商人たちはフェイクの富に安住している。
ブロックチェーンを実験的に伝統的金融に取り込んだところはどこでも、それをゴミ箱に捨てるか、単なるエクセルの帳簿に、まったく誤解を生じる間違った名前を与えただけになっている。
● アメリカの内戦
PS
Oct 16, 2018
America’s Ongoing Civil War
JEFFREY D. SACHS
アメリカは今も内戦(南北戦争)を続けている。最初の戦闘は1860年代にさかのぼり、南軍the Confederacy(連合国)が敗北した。しかし今、南軍はトップ(大統領職)にある。アメリカ合衆国は今も、2つの文化による内戦を続けている。
アメリカは最初から、2つの異なる世界観の戦場であった。建国の信条は、「すべての者は平等に創られた」であった。しかし、建国期の現実は、白人男性が他のすべての者より優位にあった。白人男性は奴隷を所有し、女性の投票を認めず、アメリカ原住民から土地と生命を奪った。
1861-65年の内戦は、奴隷制を支持するアメリカ連合国が敗北した。連邦政府による占領の後、1877年に「再建」が終わると、南部は活発にシステミックな人種差別を約1世紀も実行した。主に北部の民主党が支持して成立した1964年の市民法、1965年の投票権法で、それは終わる。このときから南部の白人有権者は民主党を棄てた。そして共和党は、資金、パワー、ステイタスをアフリカ系アメリカ人や他のマイノリティーに渡す法律に反対する、という「南部戦略」を採用した。
共和党は南部の政党、民主党は北東部と太平洋西部の政党、中西部と西部の山地諸州が流動的な立場になった。五大湖沿岸の工業地帯は民主党に傾き、中西部と山地では、原住民や移民より白人入植者の優位を示す開拓者文化が残った。
南北戦争の前も後も、貧しい南部白人はその社会的に低い地位を受け入れた。なぜなら彼らは、さらに貧窮するアフリカ系アメリカ人より優位にある、ということを優先したからだ。こうした人種政治が階級政治の出現を妨げた。階級政治では、貧しい白人も貧しい黒人も、ともに、白人エリートたちへの課税によって公共サービスの拡充を要求しただろう。
ドナルド・トランプ大統領は、リベラルなニューヨーク出身の、地理的な変則であり、南部の人種差別主義者である。
民主党と共和党は、異なる文化と地域だけでなく、異なる経済を代表する。北東部と太平洋の諸州は、アメリカ経済をハイテク、技術革新、高等教育、高給与職と高い一人当たり所得で牽引している。南部はこれに大幅に遅れている。そして、その地位や人種的優位を守るだけでなく、機械化や外国貿易によって失われる産業で雇用を守ろうとしている。
南部の白人労働者階級は、共和党の人種政治を破棄する方が多くを得るだろう。結局、白人労働者から、質の高い公立学校や医療保険制度、環境の安全性を奪っているのは、貧しいアフリカ系アメリカ人やヒスパニック、その他のマイノリティーではない。それは白人の企業重役たちだ。
ヒスパニックを除く白人人口の比率が低下したことで、過去20年間、アメリカの文化的分断は深まった。2045年ごろ、彼らがマイノリティーになる。アメリカの内戦はさらに悪化するだろう。
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The Economist October 6th 2018
The gig economy: Workers on tap
Trade: Marginal revolution
Banyan: The Kim two-step
Sexism in India: Nuns, pilgrims and starlets
The South China Sea: How water
Middle East security: NATO for Arabs?
The defence of Sweden: War clouds
The IMF new chief economist: A little less
consensus
(コメント) 世界各地で安全保障の見直しが進んでいる、と実感しました。朝鮮半島における金正恩の賭け、南シナ海の諸大国による競演、中東におけるアラブのためのNATO、スウェーデンの防衛(限りなくNATO)。
インドの映画産業や教会における女性差別や性的暴行に関する社会・政治運動は後戻りできない水準を超えたかもしれません。そして、IMFのチーフ・エコノミストも初めての女性です。
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IPEの想像力 10/22/18
ゼミの学生たちと、斉藤孝『戦間期国際政治史』を読んでいます。とても面白い、簡潔、濃密な叙述です。第1次世界大戦後の国際政治は、ロシア革命の波及、ドイツの経済・軍事力復活を恐れるヨーロッパ旧支配層と、アジア太平洋の秩序を形作るアメリカ、日本の台頭が構造を決めました。
この本に、今も、共鳴する政治家や軍人は多いはずです。新しい「危機の20年」。アメリカは国際秩序を離脱し、中国は国際秩序を示せない。
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トランプ大統領は、ドイツがロシアから天然ガスを海底パイプラインで輸入することに反対した。ロシアの石油依存が強まり、人質に取られる、と。アメリカは、ヨーロッパの安全保障にも負担しており、トランプにはこれがなおさら不満です。
ポーランドなど、東欧諸国、ウクライナは、ロシアのエネルギーを止められたことに反発した。むしろアメリカから液化天然ガスLNGや石炭を輸入する(たとえ高価でも)。アメリカは輸出を増やす。
ヨーロッパは、ロシアのウクライナ侵攻に対して経済制裁を課した。その際、ドイツや東欧諸国はロシアとの取引を断ち、大きな損失を生じた。ロシアも制裁により経済が悪化した。
ロシアは、領土交渉を先送りして、日本との和平条約締結を求めた。「4島返還」という日本政府の主張を、プーチン大統領は譲歩するように見えない。
トランプ大統領は、朝鮮戦争を和平条約によって終わらせたい、と願っている。非核化を進めるより、開発を望む金正恩との相思相愛。暗殺、弾圧、強制収容所を残したまま、ノーベル平和賞を望む。
トランプ大統領は、中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄する、とロシアに通知した。これは何か? 中間選挙前に、プーチンとの大掛かりな政治ショーを始めたのか?
エルドアンは、サウジアラビアをジャーナリスト殺害で公式に強く非難しました。それはサウジ政府によって実行された殺害だ。カショギは生きたまま切断され、遺体はサウジに既に運ばれた、と。
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中国の台頭は、香港、台湾、韓国、日本にとって、何を意味するのか? そしてアメリカが中国と対決する姿勢を強めても、それぞれの国内政治ゲームと平和を切り離す試みが各地で始まります。
スイス、あるいは、北欧諸国は中立の立場をどのように確立できたのでしょうか? 今また、冷戦後のロシアに対する安全保障、アメリカの離脱、EUの不安、戦争の変質、移民・難民、国際関係の長期的な調整において、中立国家が再編されます。
The Economistの記事には、朝鮮半島が連邦国家として東アジアの中立地帯になる、という構想(幻想)を描いています。金正恩は、どこまで考えて核武装し、危機を煽ったのか? 北朝鮮が、韓国、アメリカ、中国、ロシアとの会談を重ねていることが、すでに安全保障構想です。
トルコは、シリアの和平交渉でロシア、イランと組みました。サウジアラビアが弱体化すれば、ロシアのイスラム教徒も含めて、中東世界の秩序を再編できるかもしれません。あるいは、サウジアラビアが立憲君主制となり、イスラム教の原理主義に対する市民革命、国民の意思を反映する議会によって、経済改革を指導する体制に移行するのでしょうか?
大国間秩序の時代には、新旧の暴君たちが戦争のルールと地域の安全保障を組み替える。誰にもそれは止められない。その先に、次の国際秩序が決まるのです。その国が優位を得るのは、再編過程で、攻勢や課題に対抗する能力を蓄積するからでしょう。
グローバルな富裕化、気候変動によって、食糧と水が不足します。AIとロボットによる戦争、化学兵器や細菌兵器の使用。SNSとフェイクの動画ニュース、「民族」間の対立を煽り、人種的偏見・憎悪、社会的差別や優越意識、さまざまな「科学的」言説で組織的な弾圧や殺戮を正当化する。
・・・新しい社会経済モデル、政治秩序の組み合わせを模索する「戦間期」の精神です。
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