IPEの果樹園2018

今週のReview

10/15-20

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ヨーロッパの「影の人口」 ・・・インドのルピー安 ・・・トランプ貿易戦争 ・・・ノーベル経済学賞 ・・・サウジアラビアのジャーナリスト暗殺 ・・・アメリカの中間選挙 ・・・トランプとドルの衰退 ・・・ウォール街の株価下落

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ヨーロッパの「影の人口」

FT October 7, 2018

Migration: the riddle of Europe’s shadow population

Michael Peel in Barcelona and Jim Brunsden in Brussels

ベネズエラ生まれのレニスは、10年前、チャベス大統領による支配体制の後期に、問題が生じていた国を逃れ、旅行者として友人のいるバルセロナに来た。彼女の父は、経済と政治の危機が深まる中で、ギャングによって殺された。彼女はその後もベネズエラに帰らなかった。

かつて母国では人材管理担当者であったが、カタロニア州の首都バルセロナではメイドとして働いてきた。所得は月におよそ700ユーロしかなく、時給35-40ユーロの臨時の仕事をかけもちした。

彼女のようなケースは多くあり、「影の人口」と呼ばれている。過去数年において多数の難民がヨーロッパに流入したことは、ユーロ懐疑論やネイティビズムを高めた。

ヨーロッパにおける移民論争は過熱している。レニスなどの「イレギュラー」な移民の地位が、その市民権の取得や、さまざまな社会サービスを利用できない法的な地位を、政府や都市が問題にしている。「人間として最小限の給付を受ける資格があると思う」と、レニスは言う。

多くの政府はイレギュラーな移民へのサービスを拒み、追放しようとした。しかし、バルセロナからブリュッセルまで、ますます多くの都市は、敵対的な姿勢と官僚による拒否は破壊的結果しか生まない、と考えている。それは人道的であるとともに、実際的な判断である。

「人々がこの都市にくる方法を何とか見出したのであるなら、・・・その後は、彼らが正式な地位を手に入れる方法を整備(regularisation)するべきだろう。」と、バルセロナ市議会の移民監督局長Ramon Sanahujaは言う。「それがすべての者の利益なのだ。」

移民に公共サービスを提供するほうが有利だろう、と都市は本能的に考えているが、コスト・ベネフィット分析は欠かせない。ヨーロッパは、世界の機能について、その複雑なシステムについて、説明できる、勇敢な政治家を必要としている。


 インドのルピー安

FT October 7, 2018

How India can avoid the emerging market blues

Eswar Prasad

インド・ルピーの価値は、今年、ドルに対して15%も下落した。世界の金融条件が引き締まり、アメリカ連銀の金利引き上げ、ドル高が見込まれることは、経常収支赤字の、外貨建債務が高水準の諸国に強い圧力を加えている。しかしインドは、こうした脆弱性をいくらか共有するが、アルゼンチン、ブラジル、トルコのように、困難な国内政治・経済状況はない。

投資家の不安材料は多い。原油価格の上昇と国内消費の強さは経常収支の赤字を増やすだろう。インフレ率の上昇、予算赤字も、さらなる通貨安をもたらす。

インドに必要なものは、よく考えられた改革パッケージである。財務大臣は財政規律を維持すると約束した。同時に、インド産業を規制から解放し、投資を刺激し、生産性を高める方策を示すべきだ。そのような政策とともに金利を上げれば、インフレ懸念が収まり、ルピーが安定する。

モディ政権は、なお、緊張から機会へと、インドを変えることができる。


 トランプ貿易戦争

PS Oct 9, 2018

Who Wins in Trump’s Trade War?

DANIEL GROS

アメリカは貿易相手国に対して激しく威嚇し、彼らがわずかな譲歩を示すことで、合意を与えてきた。しかし、トランプが本気で取り組む相手は、アメリカの敵、中国である。それは地政学的な敵対という意味も含む深刻な意味を持つが、その他の世界にとって、それほど悪いニュースではない。

最近まで、貿易政策は圧倒的に自由化を目指していた。しかし、最新の自由化交渉は失敗した、主にインドが(中国ではなく)重要な市場の自由化に反対したからだ。

同じ考え方の経済群が結ぶ地域貿易協定は、自由化を補足する役割を認められただけだった。エコノミストたちは、地域協定が本質的に「特恵的」であり、それゆえ自由化地域からの貿易を奪う効果を嫌うからだ。

しかし、もし主要な貿易諸国が、その相互間だけで関税を引き上げるなら、その効果で貿易が増える第3国が利益を受ける。ヨーロッパやアジアは、米中の貿易戦争を歓迎するべきだろうか? ヨーロッパや日本、アジアの企業は、アメリカ市場でも、中国市場でも、優位な競争的地位を得る。EUは特に大きな受益者だろう。アメリカに対しても、中国に対しても、第1の貿易パートナーである。


 ノーベル経済学賞

VOX 08 October 2018

Cutting the corruption tax

Paul Romer

(ノーベル経済学賞受賞により再掲載。初出はAugust 2010。)

われわれは、政府職員が法を守るのを当然だと思っている。そうでないこともある。アメリカでは、ニューオーリンズの警察署が強姦や殺人の罪を犯したり、隠したりした。また、公務員が権力を濫用するような強権的国家に住む方が、法律の存在しないような軟弱国家に住むより良い、ということもある。

多くの国が弱い政府であるのは、人々が強権的政府の権力乱用を恐れているからだ。この不安は、ギリシャのような国で特に強い。1960年代後半まで、軍人が国家の支配権を握り、反対派を弾圧したのだ。

しかし残念ながら、現在のギリシャにおける経済危機は非常に深刻で、軟弱国家には制御できない。ニューオーリンズでは、市長とコミュニティーの指導者が連邦政府の法務省に、警察署の改革と介入を求めた。ギリシャもそうだ。金融危機において、ギリシャはEUに頼るべきだった。しかし、それは融資ではなく、予算の監視でもない。汚職や公務員の非効率さを取り除くために、政治的に中立な改革を進めるためだ。EUと協力すれば、ギリシャは急速に、強い、正直な、効率的国家となって、金融危機から抜け出すだろう。

汚職のせいで、ギリシャのフォーマル・セクターにある企業は課税されているに等しいし、起業や外国投資は妨げられている。こうした「税」を取り除くことは、3重の意味でプラスになる。すなわち、長期的に、それはポテンシャルな生産量を引き上げる。中期的に、ギリシャ企業の生産コストを削減して、経常収支赤字を減らす。短期的に、外国企業による投資や起業のための投資を増やし、経済を完全雇用にする。

既存のアプローチでは、緊縮財政が重視され、予算赤字の削減、輸入の削減が経常収支赤字を減らす。それは長期の不況になって、予想外の悪影響を生むかもしれない。多くのケースでは、財政緊縮策と同時に為替レートを切り下げるが、ギリシャはユーロ圏に参加しているため、これができない。このとき、汚職や非効率の税を取り除くことは効果的な方針である。

ギリシャの汚職とクローニズム(縁故採用・契約)は「ギリシャの現実」と切り離せない一部である、という者もいる。1970年代、同じような文化的悲観論が香港にあった。そこでは常に汚職があった。その後の香港の経験が、悲観論の間違いを示している。実行可能な諸政策が汚職の文化を急速に終わらせた。

他と同じように、香港にも汚職撲滅の特別な機関が警察内にあった。1974年、香港の行政長官はthe Independent Commission Against Corruption (ICAC)を創った。この機関は直接に行政長官に対して責任を負った。そして行政長官は選挙で決まるのではなく、指名された。

香港行政長官は権威主義的独裁者ではなかった。彼は民主的に選出されたイギリスの首相に対して答えたが、香港の政治的争いには依存しなかった。行政長官もICACの委員たちも、その権限を利用して政治的な利益を実現する関心を持たなかった。なぜなら、彼らは香港の繁栄を求める海外の民主国家に対して責任を負ったからだ。

ICACは警察機構を動かすために、過去の汚職に関するアムネスティ(特赦)を行い、教育によって社会規範を変え、調査報告書を発表した。今では、香港は世界で最も汚職の少ない場所の1つである。

中央銀行総裁のように、汚職撲滅機関の長官は明確な使命と広範な裁量権を持ち、その目標を達成する。EUは委員会を政治過程から分離する。長官は候補者リストの中から指名され、EUが交代あるいは再任し、長官はスタッフを採用あるいは解雇する。

同様の独立委員会は、ギリシャの市民サービスの管理に対する基本的要素をもたらすだろう。政治的なコネではなく、人々は仕事に応じて報酬を受け、裁判所や税務署といった行政機関がその機能を果たすようになる。

VOX 08 October 2018

The Trump doctrine on international trade: Part two

William Nordhaus

(ノーベル経済学賞受賞により再掲載。初出はAugust 2017。)

現代の貿易理論によって、貿易収支に執着するトランプ大統領が間違っている、とわかる。

国際経済の歴史は1973年で分割される。主要経済が固定為替レート制であった世界から、変動為替レート制に変わったのだ。アメリカは初代財務長官ハミルトンの時代に、金もしくは銀本位制であったが、第2次世界大戦後、諸国はドル本位制となった。1970年には、世界GDP95%が固定為替レート制の国で生産された。

1973年、アメリカと他の多くの国が金と固定為替レート制を離脱した。1975年までに、世界GDP80%が変動レート制の国で生産されるようになった。それとともに、金融市場の開放、グローバリゼーションが進んだ。

変動レート制と金融市場の開放を受け入れた諸国では、貿易収支は異なるリズムを打ち始める。エコノミストたちは、各国の貯蓄が貿易収支を決めている、と考える。言い換えれば、アメリカの国内貯蓄率があまりにも低いから、研究や設備に投資するため、一部は外国の貯蓄が利用されているのだ。アメリカは低貯蓄(国民所得の18%)の国であり、中国は高貯蓄(44%)の国である。中国は経常収支の黒字(国民所得の4%)を、アメリカは赤字(3%)を示す。

外国の中央銀行がドルの外貨準備を蓄積する結果(6兆ドルが外国の公的機関に保有されている)、ドルの価値は高くなって、アメリカは大幅な貿易赤字を出す傾向がある。また、外国の投資家はアメリカの債務証券を10兆ドルも保有している。その資本流入もアメリカの貿易赤字をもたらす。

したがって、アメリカの貿易赤字が大きいのは、通商条約でまずい取引したからではなく、アメリカの金融市場に資本が多く集まるからだ。

トランプ氏は、エアコンを作るのがメキシコでもアメリカでも、自動車を作るのがアメリカでも日本でも、飛行機がボーイングでもエアバスでも、どちらでもよいと考える。200年前のデービッド・リカードなら、それでよかった。「グローバリゼーションの第1波」である。今は違う。

「グローバリゼーションの第2波」では、iPhoneiPod、自動車、エアコン、飛行機も、輸送と情報通信のコストが革命的に低下したため、異なる生産過程に非常に見事にスライスされている。われわれは高度に特化したグローバル・サプライ・チェーンの世界に生きている。それはますます財、技術、投資、サービス、労働者の国境を越える移動を増やしている。

ボーイング787を例に挙げよう。それはアメリカで組み立てられている。しかし、主胴体はイタリア、着陸装置は日本、尾翼は韓国、バッテリーは日本、エンジンはアメリカとイギリス、貨物室のドアはスウェーデン、乗客用ドアはフランス、後続翼はカナダとオーストラリア、後部胴体はアメリカで生産されている。ボーイングの主要な役割は、研究、設計、組み合わせである。

それを実現したのは、市場の開放と、輸送と情報通信の革命である。コンテナは、低コスト、大量。国際輸送の代表的発明だ。その主要な受益者は中国である。1990年、中国はコンテナ・マップにほとんど存在しなかった。2014年までに、世界の10大コンテナ港の6つが中国にある(香港とシンガポールを含めるなら、8つある)。2014年、中国は12600万のコンテナを送り出した。

トランプ氏は既存の通商条約を破棄することを考える。しかし、他の諸国は価値の連鎖において決定的なリンクとなっている。トランプ氏が45%の関税を課して、中国がそれに報復すれば、アップルの王国は崩壊する。いかなる国も、孤立した、保護された島ではありえない。

貿易について、人々は2つの心を持つ。それほど高くない靴やスマートフォンを喜びながら、職場が失われることを心配する。グローバルな不平等は貿易によって減少したようだ。しかし、アメリカ国内の不平等は複雑な理由で生じている。研究によれば、労働組合の衰退、高所得者への低い課税率、労働節約的な技術革新、スーパースター経済、低熟練の移民労働者、金融ビジネスの増大、輸入との競争産業における高賃金職の移転、である。

雇用に関して、貿易による製造業への影響は重要である。過去30年間で、製造業の雇用はアメリカ全体の16%から9%に減少した。外国の製品が安くなったからだ。しかし、労働統計局によれば、1998-2015年に職場は全体として10%増えている。製造業における減少は、専門・医療・教育サービスの増加で相殺する以上に増えて、アメリカは他の工業諸国(中国とインドを除く)に製造業で50万人の職場を失ったが、全体として1600万人を得た。

人道的な社会は、貿易や技術変化で所得を失った人々に所得補償する。しかし、市場原理主義者はそのような政策を嫌う。保守派は市場の大義を損ない、市場システムの欠陥を是正する政策にも反対する。

トランプ氏は、貿易交渉をゼロサムで考える。それは彼が不動産取引で生活し、カジノの経営者でもあったからだろう。しかし、国際貿易はそれらと全く異なる。

貿易の結果はさまざまだ。一方で、各国が有害な高関税を採用し、囚人のジレンマが示すような、非協力的結果になるかもしれない。そうではなく、諸国が協力的な自由貿易を採用し、保護政策を自制し、国際競争と特化、分業によるコストの低下、生活水準の上昇を実現するかもしれない。

われわれがiPhoneの生産に見るような、自由貿易を享受しているのは、100年近い、困難で複雑な交渉を経てきたからだ。アメリカは歴史的に高関税の国であった。1934年、互恵通商協定に始まり、数度の自由化交渉を経て、諸国はその保護主義的な構造を解体した。

重要なことは、開放型の貿易システムが貿易をめぐる和平が成功した結果だということだ。しかし、トランプ政権は最新の交渉成果、TPPをすでに破棄し、NAFTAは再交渉する意図を示した。「アメリカ・ファースト」は、貿易、軍事、気候変動、核政策における、非協力的イデオロギーである。われわれは諸国が協力することでだけ達成する機会を失う。

協力とは、「間抜けな」交渉で他国がアメリカを食い物にするのを許す、という利他主義ではない。われわれは1世紀に及ぶ協力の成果として、国際貿易の増大、戦争による死者の減少を観ている。アメリカも他の諸国も、トランプ氏の経済ナショナリズムを拒むべきだ。そして、貿易に国境を開放し、核拡散を逆転し、気候変動を抑制する道を進むべきである。

汚染も、戦争も、貿易障壁も、市場の機能だけでは解決できない。


 サウジアラビアのジャーナリスト暗殺

NYT Oct. 8, 2018

Praying for Jamal Khashoggi

By Thomas L. Friedman

昨年117日のコラムに、私は新しいサウジ皇太子、Mohammed bin SalmanM.B.S.)のことを書いた。そのコラムの末尾に引用したジャーナリストの言葉は、私の友人Jamal Khashoggiのものである。

サウジアラビアに関する私の意見は私自身のものだが、Jamalから多くを学んだ。彼は政府に参加したし、自国を愛し、その成功を願っていた。M.B.S.が事態を変え、必要な根本的改革を行うだろう、と信じた。しかしまた、M.B.S.が多くの助言者を必要としており、彼の持つ暗黒面、余りにも孤立し、小さな支配サークルにいることを懸念した。

1年経って、その暗黒面が完全に優位を占めたようだ。

私はM.B.S.が民主主義を改革の一部に含んでいたとは思わない。彼はデンマークを創ろうとしていたのではなかった。宗教的な改革がもっとも重要だった。サウジアラビアがアラブ世界で果たした甚大なマイナスの影響とは、1979年以後、イスラムのピューリタン的な侵攻を攻撃的に広めたことだ。それは911にもつながった。

この数か月、M.B.S.が、彼自身にもマイナスになる、非常に間違った行動を取った。私はそれが、強硬派がM.B.S.に「中国モデル」を採用するように迫ったからだ、と思う。彼らは中国が南シナ海で島を占拠したとき、世界に非難されても相手にせず、成功したと考えた。そこでM.B.S.は、カナダの人権に関する批判を、実質的な国交断絶にしたのだ。


 アメリカの中間選挙

FT October 11, 2018

Trump and the fear of fascism in America

Edward Luce

アメリカの中間選挙が近づき、しかも共和党が敗北する可能性があるので、トランプ氏の毒舌はファシストの亡霊に向かいつある。

敵対者を「人民の敵」として攻撃する。民主党員を「邪悪」、「犯罪集団」と呼び、「われわれの国を破壊したがっている」、「ベネズエラにする気だ」と言う。リベラルは「とても、とても悪い人々」だ、と言った。集まった聴衆は唱和する。「あの女をぶちこめ」、それは85歳の民主党上院議員Dianne FeinsteinHillary Clintonだ。

嘘を広める、しかも大きな嘘だ。国連総会では失笑を買ったが、支持者たちは、本気で、歴史上のどのアメリカ大統領よりもトランプは多くの仕事をした、と思っている。メキシコとの国境に壁を築き、請求書を送る。FBIは民主党の手先だ。1度の選挙演説で74も嘘をついた(the Washington Post’s fact checker)。

こうした認識の混乱はトランプに有利な2つの効果を生む。第1に、何が本当か、ということについて、人々の感覚をマヒさせる。第2に、文化をニヒリズムに向かわせる。そして、ニヒリズムはファシズムの前段階だ。トランプは、最近までアメリカで考えられなかったことを現実にした。1つの例は、メキシコ国境において、多数の子供たちを非人道的な状態に隔離した。もう1つは、メディアを「人民の敵」と呼んだ。われわれは、マルタ、ブルガリア、サウジアラビアのような諸国でジャーナリストに起きることを知っている。トランプ氏は最近のジャーナリスト殺害について不満を述べたことがない。

3に、法の支配を党派に利用されていると述べた。これは、たとえば、トランプ氏が選挙で敗北しても、その結果を正当とみなさない、と言うのも、それほど遠くないだろう。

ファシストに備わる圧倒的要素で、トランプ氏に欠けているものがある。すなわち、彼は国家の諸機関を乗っ取っていない。全体主義者が最初にするのは、軍隊の粛清である。自分に忠誠を誓う者に入れ替える。警察や諜報機関がそれに続く。トランプ氏は、アメリカ社会でそれが難しいことを知っている。

しかし、彼が好きなプーチン、金正恩、習近平を観ると、独占的な力を継承している。トランプ氏はファシストではないが、彼が残すアメリカは、ファシストを受け入れやすい国になっているだろう。


 トランプとドルの衰退

PS Oct 10, 2018

The Dollar and its Discontents

BARRY EICHENGREEN

トランプ大統領の単独行動主義・ユニラテラリズムは、世界を深層において、しかも不可逆的に、変えてしまう。彼は国際機関の作業を破壊しつつある。他国はアメリカを信頼できる同盟関係のパートナーとは考えず、独自の地政学的な能力を得る必要があると感じている。

今や、トランプ政権はドルの世界的な役割を破壊し始めた。イランに対して一方的に制裁を科したことで、イランと取引する企業には、アメリカの銀行を介して処罰する、と脅している。この脅迫は深刻なものだ。国際取引におけるドルは主にアメリカの銀行が供給しているからだ。

これに対して、ドイツ、フランス、イギリスが、ロシアや中国とともに、ドルとアメリカの銀行、アメリカ政府による調査を回避する計画を発表した。このことが直ちに、ドルに代えてユーロを使用することにはつながらないだろう。

銀行や企業がドルを使うのは、多くの他の銀行や企業がドルを使うからだ。他の通貨に代えるには協力した移行が必要だ。ヨーロッパの3つの大国が協力するのは、その一部である。そのような協力が、もはや不可能とは言えなくなった。

アメリカのユニラテラリズムが、彼らにドルへのヘッジを求めさせる。トランプのイラン制裁で、ヨーロッパの銀行と企業はイランへの支払いに、ドルではなく、ユーロを使うかもしれない。イランも石油輸出の代金をユーロで受け取り、輸入にもユーロで支払うだろう。他の銀行や企業もユーロを使うほど、中央銀行はドルで市場に介入し、外貨準備を保有する必要がなくなる。

ヨーロッパはドルへの依存を減らそうとしている。同じ理由で、中国も人民元の国際化を進めている。トランプは、こうしたヨーロッパと中国の目標達成を助けるのだ。


 ウォール街の株価下落

FT October 11, 2018

If the bull market is ending, what happens next?

Michael Mackenzie

今秋、突然下落した株価に、驚いた投資家はいなかった。アメリカの強気相場はあまりにも長く続いていたからだ。投資家たちはAppleAmazonのハイテク株に逃げ込んでいた。ともに市場評価額が1兆ドルを超えた化け物だ。

ウォール街の株価上昇が世界から切り離されて高まったことを、投資家たちは、この数週間、心配していた。アメリカの株から日本などの市場へ乗り換える動きがあった。

下落のボタンを押したのは、アメリカ経済の好調さを示すデータと、利上げに関する連銀のタカ派の声だった。

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The Economist September 29th 2018

#MeToo, one year on

Waste: Cash for trash

Citizenship for sale: What price a passport?

Britain: The quest to remake politics

The Conservative party: When all about are losing theirs…

Hospital treatment in India: Modicare

Chile: Steering the economy away from the middle-income trap

Waste: A load of rubbish

(コメント) 性的ハラスメントや暴行、差別に関して、女性たちが抗議の声を上げています。アメリカ中間選挙にも影響するでしょう。日本が何より取り入れる必要のある社会運動です。

廃棄物・ごみ問題の特集記事が面白いです。ゴールディングの小説「ハエの王」から名を借りて、「ゴミの王」と記します。世界がゴミ屋敷のように変わっていく有様は、確かに、集団的な狂気です。この雑誌は、市場の機能を信奉しており、一定の法や規範があれば、ごみと市民社会を価格によって解決できる、と説きます。台湾が示す例はすばらしいです。

Brexitの核心は、政治を作り変える情熱を生み出すことにありました。日本にとって、憲法改正が同じように情熱を呼び覚ますのか? インドの膨大な人口に対する医療保険制度の導入、軍事独裁体制から民主化・改革派の政権へ、そして大富豪による投資重視の政権へ、チリの模索は続きます。

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IPEの想像力 10/15/18

30年後の「成長のエンジン」は何でしょうか? かつて、世界経済の牽引車、「機関車論」として、G5の国際政策協調が現れました。

その後、中国という世界経済の機関車が減速する中で、次の「成長」が求められています。AIとロボット、スマホとさまざまなアプリ、医薬品や農業の革新、再生可能エネルギーと温暖化防止、海洋の保護、GDPに代わる地域・社会集団の福祉や幸福の追求が、「成長のエンジン」に代わると思います。

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あなたが政治家になるとしたら、社会システムにおける2つの問題を解決してほしいです。1つは、老後に働く機会をどのように提供し、組織するか?  もう1つは、地方の農村・漁村・山村、衰退する地域、世界経済の底辺における諸国家を、どのように再生し、活性化することができるか?

もちろん、若者の雇用も問題です。これには試してほしいアイデアがあります。

若者たちが必ず雇用されるように、政府は雇用の機会を全員に保証します。社会が必要としていながら、十分な労働が配置できない分野です。特に、1つは、介護サービス。もう1つは、安全保障です。

マレーシアだったか、スイスだったか、エスニック集団間、世代・所得・地域間の情報共有と関係構築を促すため、軍隊での訓練と学習がとても有効だ、と読んだことがあります。同様に、介護の分野でも、社会集団や地域を超えて協力し、信頼関係を築いた人々が、特に地域で新しい投資と雇用の機会を提供すると期待します。

また今、地方や中央の政府は、外人観光客の誘致・観光サービスの輸出に熱心ですが、いずれは日本もアジアからの移民・難民の増加に直面するでしょう。政府が難民を受け入れる姿勢、外国人労働者に対する研修制度が問題になっています。移民・難民の一時雇用や永住許可も、合理的な規則に従って扱われるべきでしょう。

若者への雇用保障も、外国人労働者の雇用機会も、しっかりした仲介・監督機関が必要です。政府・労働者・企業の委員が出席する仲介機関が、人々(若者たち・老人たち・移民・難民)の就労とその成果を評価し、その適性をとらえて、一層の向上を刺激します。

各地の政治体が、緩やかな統合を組んで、安全保障や医療・社会保障を共有するとき、アイデアや人の移動は自然と促されるでしょう。いかなる地域も、この「成長のエンジン」の一部となって、取り残されることを恐れる必要はないのです。

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引退したら、何をしようか? 90年を生きるなら、退職は若者が入社するときと少し似た期待と不安をもたらします。健康であれば、何か好きなことをして、社会の役に立ちたい。年金に加える賃金が得られる機会を探すでしょう。

いいなあ。梨の栽培のために単身赴任。農業試験場で農家の技術指導を続けてきた男性は、梨の技術に没頭し、職場の方針で梨から離れるより、独立して梨農家に転職しました。

いいなあ。群馬県のポツンと一軒家。山の中の竹職人。

いいなあ。この新刊。「一つの山にも匹敵する大きさの竜グリオール。かつて魔法使いとの戦いに敗れ、動くことのできなくなったグリオールの周りにいつしか人々が住みはじめた。」 強烈な思念は、なお、この山に住むようになった人々に影響する。・・・こんな小説が書けたら。

いいなあ。ラワースの「ドーナツ経済学」。「21世紀の人類の目標は、地球環境をこれ以上悪化させず、すべての人々が尊厳のある暮らしを送るようにすることです。」 安全で、公正な暮らしを実現することが、政治の目標だ、と考えれば、「右肩上がりの成長」を前提した経済学はその指針になりません。

いいなあ。台湾の民衆と政治家たちが示した環境政策の転換。ごみの島を築くより、生産者の責任で、分別収集し、再生利用するか、焼却するようにしました。基金を設けて企業に出資させ、生産物のリサイクル率によって企業の負担が変わります。

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実験的な国家、新しいアイデアと社会的革新を促す政治的統合体と言えば、アメリカも、ソ連も、EUも、人工国家でした。始皇帝や、フランス革命の民衆が、アイデアの普及と労働の配置を大きく変えたのは当然です。

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