IPEの果樹園2018

今週のReview

10/15-20

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カバノーが示すアメリカ ・・・グローバリゼーション再考 ・・・ブラジル大統領選挙 ・・・ノーベル平和賞 ・・・貧困減少と階級対立 ・・・メイ首相のBrexit案 ・・・UKの貿易圏再編 ・・・ヨーロッパの「影の人口」 ・・・インドのルピー安 ・・・トランプとIMF ・・・トランプ貿易戦争 ・・・ノーベル経済学賞 ・・・サウジアラビアのジャーナリスト暗殺 ・・・アメリカの中間選挙 ・・・トランプとドルの衰退 ・・・構造改革の評価 ・・・ウォール街の株価下落

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 カバノーが示すアメリカ

NYT Oct. 4, 2018

A Supreme Violation

By Michelle Goldberg

アメリカ女性の多数はブレイジー・フォードを信じた。彼女は、カバノーが性的暴行を加えた、と述べたのだ。しかしアメリカ議会上院は男性の共和党員が動かしている。彼らのおかげで、カバノーはすぐにアメリカ最高裁判所判事になるだろう。そしてそれは、アメリカの女性たちが自分たちの体をどの程度コントロールできるのか、決めるのだ。

保守派は、無実な男性を不当な告発から守った、と言うだろう。白人の男性は免責される、とは言わない。彼らは、ブレイジーを信じないし、彼女が証拠を示していない、と考える。カバノーについては「疑わしきは罰せず」であり、こうして、彼は最高裁判事になる。

私は、中間選挙が家父長制に関する住民投票と化すこと、それが眠っていた共和党にエネルギーを与えることを恐れる。トランプは彼の支持者たちの嘆きと深くつながっている。ブレイジーをばかにして、有権者たちに#MeeToo運動のジャコバン派に対抗せよ、と呼びかけた。

NYT Oct. 4, 2018

A Complete National Disgrace

By David Brooks

FP OCTOBER 5, 2018

Iceland’s Lessons for the #MeToo Era

BY MEIGHAN STONE, RACHEL VOGELSTEIN

The Guardian, Sat 6 Oct 2018

Brett Kavanaugh's confirmation isn't democracy. It's a judicial coup

Richard Wolffe

FT October 7, 2018

Divided Senate votes to confirm Brett Kavanaugh to US Supreme Court

Kadhim Shubber in Washington

FT October 7, 2018

The US republic’s moment of acute danger

FT October 8, 2018

Kavanaugh becomes rallying cry for left and right

Courtney Weaver in Tampa, Florida and Kadhim Shubber in Washington

NYT Oct. 8, 2018

The Paranoid Style in G.O.P. Politics

By Paul Krugman

共和党は「陰謀論」でカバノーの承認を正当化した。アメリカでは陰謀論が珍しくない。問題は、誰がそれを広めるか、である。

政治的に周辺の人々が陰謀論を扱うとき、影の勢力はしばしばユダヤの金融資本家である。しかし、権力の地位にある人々が陰謀論を広めるときは、敵の幻想が彼らの道具になる。それは自分たちを批判する敵を侮辱し、処罰するために利用される。それゆえ、権威主義体制において、非常に多く、こうした陰謀論が見られる。

トランプと共和党は、同じような権威主義体制になった。

NYT Oct. 8, 2018

The Coming Storm Over the Supreme Court

By Barry Friedman


 グローバリゼーション再考

YaleGlobal, Thursday, October 4, 2018

A Better Approach to Globalization

Koichi Hamada

グローバリゼーションは多くの利益を世界にもたらした。富と情報を広め、発展途上国の厚生を改善し、多様なアイデアをもたらし革新を促した。さらにグローバリゼーションはジェンダーの平等性や人権という意味での正義を高め、戦後の世界平和にも貢献した。

このようなグローバリズムを支持する者から見れば、現在の諸問題はグローバリゼーションを批判する者が引き起こしたことになる。

政治的には反対の立場にあるドナルド・トランプとバーニー・サンダース、オーストリア、ハンガリー、ポーランドだけでなく、フランスやイタリアに広まる民主主義に対する攻撃、Brexitの国民投票でEU離脱を支持した人々には、労働市場における地位を失う、という不満がある。

しかし、その政治的結果を恐れてグローバリゼーションを減速する方策は、グローバリゼーションの成果を犠牲にするかもしれない。

富と平和を損なわないために、理想主義と政治的現実とを妥協させる道を見いだすべきだ。

●グローバリゼーションがもたらす不平等、取り残されたと感じる人々のために、公共政策はもっと焦点を向けるべきだ。トービン税や炭素税がそうだ。

●政府は、移民流入のペースを抑えるべきだ。

●政府は、貿易戦争をもたらす、保護主義的政策を避けるべきだ。

●人々は直接投資について積極的な見方をしている。直接投資をもっと促すべきだ。

PS Oct 8, 2018

Will New Technologies Help or Harm Developing Countries?

DANI RODRIK

新技術の恩恵は、その国が豊かでも貧しくても、すべての消費者におよぶ。しかも、貧しい国でも携帯電話を生産できる。しかし、問題は、消費者たちが携帯電話を買うお金を得られるか? ということだ。

発展途上国もグローバル・バリュー・チェーンに参加して市場を得られるから、こうした発展を実現できるだろう。しかし、そのための高い生産性を求められる。

伝統的な工業化には発展途上国に有利な点があった。1.貿易財の工業化であるから国内市場の制約を受けなかった。2.生産のノウハウは単純で、移転しやすかった。3.製造業の労働者には高度なスキルが必要なかった。


 ドイツの反ユダヤ主義

SPIEGEL ONLINE 10/05/2018

Growing Anti-Semitism in Germany

'We Are Facing a Monster'

Interview Conducted by Veit Medick and Christoph Schult


 トランプの助言者

PS Oct 5, 2018

The Trump Whisperer

IAN BURUMA


 ブラジル大統領選挙

PS Oct 5, 2018

Brazilian Democracy on the Brink

ROBERT MUGGAH

The Guardian, Mon 8 Oct 2018

In Brazil and the US, democracy is at a crossroads

Jeffrey W Rubin

ブラジル大統領選の結果は南北アメリカの民主主義に影響する。第1回投票で46%の票を得たボルソナロは、拷問を支持し、深刻な社会問題の解決に軍政を支持する人物である。

アメリカ合衆国では、トランプ大統領と議会の共和党が民主主義の規範を無視して、最高裁の判事を決めようとしている。

歴史や文化に違いがあるとしても、南北アメリカに起きている政治的事件は衝撃的な類似性を示す。21世紀の人権においては、誰が市民なのか?

南北アメリカの政治はこんなふうに変わった。黒人男性の、あるいは、労働者階級出身の大統領が、そして白人女性の大統領・大統領候補が彼らの後継者であった。彼女たちは、まともな経済生活と文化的な包摂を求める過去の市民権闘争を推進した、連携する政治運動を継承した。そして、支持者には悔しい思いをさせても、慎重に行動した。増税せず、再分配し、グローバリゼーションに懸念を示し、福祉を改善するために市場を是正しようとした。

それにもかかわらず、変化を求める連携は失速し、野蛮な反動が起きた。富を富裕層に有利に再分配し、特に、女性やマイノリティー、LGBTの人々、貧困層を標的にする政治だ。

FT October 8, 2018

Jair Bolsonaro and the return of strongman rule

Gideon Rachman

ボルソナロの登場は、単なるブラジルの政治劇ではない。それは世界的な意味を持つ、リベラルな価値規範の崩壊、ポピュリズム台頭の、展開し続けるストーリーに加わった最新の章である。

ボルソナロは、強権指導者たちのグローバル・クラブに参加したのだ。ロシア、中国、インド、トルコ、フィリピン、ハンガリー、そして、もちろんアメリカだ。しかし、アメリカには、200年を超える民主主義の強固な制度がある。ブラジルの民主的伝統と制度は、はるかに弱い。

フィリピンは1986年、ブラジルはその翌年に民主化した。30年を経て、再び両国が民主主義を逆転する方向を示している。

FT October 8, 2018

Brazilians seek a far-right saviour in Bolsonaro

John Paul Rathbone in São Paulo

FP OCTOBER 8, 2018

The Military Returns to Brazilian Politics

BY MICHAEL ALBERTUS

FT October 9, 2018

Jair Bolsonaro rides wave of popular rage in Brazil


 イタリア

PS Oct 5, 2018

Italy’s Old New Populism

PAOLA SUBACCHI

イタリア政府は危機を免れているのはEUとユーロ圏に参加しているからである。政府が考えるような債務削減は非常に難しく、ポピュリストたちの短期的目標は財政ルールに違反する恐れが強い。もし彼らがユーロ圏離脱を示唆すれば、危機は避けられない。


 ノーベル平和賞

FP OCTOBER 5, 2018

Does Winning a Nobel Peace Prize Make a Difference?

BY WHITNEY KASSEL

ムラドNadia Muradの物語は、イラクやシリアで展開する恐怖の紛争を観た者にとって、イスラム国による市民への虐待、特にマイノリティーの迫害を例証している。

20148月、21歳のとき、ムラドはイラク北部のヤジディの村から誘拐された。その後、イスラム国の司令官たちの性奴隷や潜在的改宗者として捕虜生活を送った。彼女の6人の兄弟は、彼女の目の前で殺された。叔母、姪、姉妹たちは今も行方不明か、耐えがたい状態のヨルダン国境に沿った難民キャンプである。ムラドはついに難民キャンプに脱出し、ドイツの難民再定住プログラムでドイツに来た。

彼女は公でその来歴を語り、アメリカ議会やジャーナリスト、安保理、各国の国連大使たちに人々の窮状を訴えた。

しかし、彼女は知っている。彼女が有名になったとしても軍事行動の代わりにはならないのだ。国際社会は彼女の強い抗議を聴いても、イスラム国掃討のために、より大きな行動をとるかどうか、はっきりしない。

「空爆は答えにならない。」と、ムラドは語る。「捕虜となっていた多くのヤジドが空爆によって殺害されてきた。最善の解決策は地上軍を派遣することだ。そして支配地域を拡大し、イスラム国の兵士を一掃して安全を確立する。そうすることでISに捕らえられた女性や子供たちを解放できる。」

ノーベル賞はムラドにとって夢のような勝利であるだろう。しかし、地上における、それに応じた行動がなければ、イスラム国の暴力に苦しむ、ヤジディ、スンニ派とシーア派のイスラム教徒にとって、受賞は単なるジェスチャーでしかない。

FP OCTOBER 5, 2018

How Political Is This Year’s Nobel Peace Prize?

BY MICHAEL HIRSH

The Guardian, Sat 6 Oct 2018

I was an Isis sex slave. I tell my story because it is the best weapon I have

Nadia Murad


 アメリカと韓国

FP OCTOBER 5, 2018

Hawks Will Only Drive South Korea Away From America

BY CLINT WORK


 貧困減少と階級対立

The Guardian, Sat 6 Oct 2018

As global poverty declines, we should beware the new class wars

Kenan Malik

世界の貧困は大幅に減った。Brookings Institutionの報告書は、世界の半分が「中産階級」だという。「階級」の定義は難しい。マルクスの階級論に比べて、現代の社会学者は、雇用、富、教育、などから生じる複雑な階層化、様々な階級を考える。

「中産階級」とは、貧困ではない、富裕でもない。この報告書に欠けているのは「労働者」である。「中産階級」には、階級に関わる政治的な意味が失われている。

Brookings Institutionのいうグローバルな中産階級の分析には、彼らを満足させるような社会・政治変化、消費や政府に関するより多くの要求が扱われる。それはマルクスが「文明化」と呼んだ作用である。

中国やインドは急速に成長して貧困を減らした。しかし、不平等は急速に拡大している。それは新しい形の階級対立や労働運動を生むだろう。中産階級の需要ではなく、彼らの新しい闘争が諸国の未来を創る。


 メイ首相のBrexit

FT October 6, 2018

Theresa May dances towards an attractive alternative to Labour

Robert Shrimsley

The Guardian, Sat 6 Oct 2018

Labour voters should look afresh at the Conservatives

Theresa May

私はこの国全体のための政党として保守党を求めている。われわれを導く原則とは、家族や国家を守り、法の下の自由、すべての者の機会を保証する。それがわれわれ人民を統一し、この国により良い未来をもたらす。

労働党を支持してきた何百万人もの人々がジェレミー・コービン党首の下で起きた事件に愛想をつかしたことを知っている。私は彼らに保守党政権を新鮮な目で見てほしい。

FT October 8, 2018

All sides must prepare for a no-deal Brexit

Wolfgang Münchau

FT October 8, 2018

A second Brexit poll is a bigger risk than leaving

Robert Shrimsley

2度目の国民投票が正しい答えを出せるとは限らない。もっと激しい離脱派が登場するだろう。

FT October 9, 2018

There is life after Brexit for the British countryside

Sarah Gordon

FP OCTOBER 9, 2018

Don’t Believe Pundits’ Claims About the Cost of Brexit

BY SALVATORE BABONES

The Guardian, Wed 10 Oct 2018

The Guardian view on Brexit in parliament: respect the majority

Editorial

FT October 10, 2018

The emerging parliamentary majority for Theresa May’s Brexit

Sebastian Payne


 UKの貿易圏再編

FT October 8, 2018

UK would be welcomed to TPP ‘with open arms’, says Abe

Lionel Barber and Robin Harding in Tokyo

日本はイギリスがTPPに参加することをもろ手を挙げて歓迎する、と安倍首相は述べた。同時に、合意なしにEUを離脱することが無いように、妥協を強く求めた。

イギリスはEUへの入り口という地位を失っても、グローバルな力を持つ国だ、とBrexit支持者を励ました。イギリスは、TPPに参加するという、巨大な、急速に成長する経済圏と新しい自由貿易に合意できる。

イギリスに進出している日系企業のために、EU離脱の移行期間について、不透明さをなくすように強く求めた。

トランプ大統領との関係、北朝鮮、在韓米軍の撤退について、安倍首相はアメリカが果たす重要な役割を支持した。また、日本経済の根本問題や憲法改正にも、解決に向けて意欲を示した。

FT October 9, 2018

Britain’s cold comfort of an Asia-Pacific trade deal

離脱派にとって、EUに代えて世界市場がある、というのは説得的でない。安倍晋三首相がイギリスにCPTTP(アメリカ離脱後の11か国による貿易圏)への参加を呼びかけたことは歓迎されるだろう。しかし、EUに比べて、その重要性は大幅に劣る。

1UKはアジア太平洋からあまりにも遠い。距離は貿易取引の重要な要因だ。2.どのような商品・サービスも多くの規制に依存している。UKがアジアやアメリカの規制に従えば、それだけEU市場には参加しにくくなる。


 ヨーロッパの「影の人口」

FT October 7, 2018

Migration: the riddle of Europe’s shadow population

Michael Peel in Barcelona and Jim Brunsden in Brussels

ベネズエラ生まれのレニスは、10年前、チャベス大統領による支配体制の後期に、問題が生じていた国を逃れ、旅行者として友人のいるバルセロナに来た。彼女の父は、経済と政治の危機が深まる中で、ギャングによって殺された。彼女はその後もベネズエラに帰らなかった。

かつて母国では人材管理担当者であったが、カタロニア州の首都バルセロナではメイドとして働いてきた。所得は月におよそ700ユーロしかなく、時給35-40ユーロの臨時の仕事をかけもちした。

彼女のようなケースは多くあり、「影の人口」と呼ばれている。過去数年において多数の難民がヨーロッパに流入したことは、ユーロ懐疑論やネイティビズムを高めた。

ヨーロッパにおける移民論争は過熱している。レニスなどの「イレギュラー」な移民の地位が、その市民権の取得や、さまざまな社会サービスを利用できない法的な地位を、政府や都市が問題にしている。「人間として最小限の給付を受ける資格があると思う」と、レニスは言う。

多くの政府はイレギュラーな移民へのサービスを拒み、追放しようとした。しかし、バルセロナからブリュッセルまで、ますます多くの都市は、敵対的な姿勢と官僚による拒否は破壊的結果しか生まない、と考えている。それは人道的であるとともに、実際的な判断である。

「人々がこの都市にくる方法を何とか見出したのであるなら、・・・その後は、彼らが正式な地位を手に入れる方法を整備(regularisation)するべきだろう。」と、バルセロナ市議会の移民監督局長Ramon Sanahujaは言う。「それがすべての者の利益なのだ。」

移民に公共サービスを提供するほうが有利だろう、と都市は本能的に考えているが、コスト・ベネフィット分析は欠かせない。ヨーロッパは、世界の機能について、その複雑なシステムについて、説明できる、勇敢な政治家を必要としている。

The Guardian, Thu 11 Oct 2018

The Guardian view on immigration detention: don’t look away

Editorial


 インドのルピー安

FT October 7, 2018

How India can avoid the emerging market blues

Eswar Prasad

インド・ルピーの価値は、今年、ドルに対して15%も下落した。世界の金融条件が引き締まり、アメリカ連銀の金利引き上げ、ドル高が見込まれることは、経常収支赤字の、外貨建債務が高水準の諸国に強い圧力を加えている。しかしインドは、こうした脆弱性をいくらか共有するが、アルゼンチン、ブラジル、トルコのように、困難な国内政治・経済状況はない。

投資家の不安材料は多い。原油価格の上昇と国内消費の強さは経常収支の赤字を増やすだろう。インフレ率の上昇、予算赤字も、さらなる通貨安をもたらす。

しかし、貿易額のウェイトによって貿易相手国通貨を評価したとき、ルピーの減価は8%ほどでしかない。インドの外貨準備は4000億ドルもあり、インフレはまだ穏やかなものだ。

モディ政権はルピー安に、新興市場の多くが採用する対策を取った。すなわち、輸入の制限、資本流入の促進、国内企業が海外でハードカレンシーの融資を受けやすくする、といったことだ。しかし、これで内外の投資家がルピーへの信頼を強めることはないだろう。より本格的な改革を避けている、という疑いを招くかもしれない。問われているのは、政府が自由化の道を進むのか、ということだ。

改革を延期すれば、ルピー安も財の輸出を刺激することではなく、インド企業の競争力のなさを示すものとなる。

来年の選挙があるため、不可欠のものでも、政治的に困難な改革は後退し、政府がポピュリスト的な手段に訴えて、予算赤字を増やす、という懸念が高まっている。資本規制を長期的、持続的に緩和するのでなければ、事後的な対策として資本流入を促進しても効果がない。

インド準備銀行は、賢明にも、ルピー安に対するパニックとして金利を大幅に引き上げても無駄だ、と認めている。短期のボラティリティを抑えるのでなければ、中央銀行は政策で通貨への市場圧力を抑えないことが、金融政策の信認や効果を高めるだろう。

インドに必要なものは、よく考えられた改革パッケージである。財務大臣は財政規律を維持すると約束した。同時に、インド産業を規制から解放し、投資を刺激し、生産性を高める方策を示すべきだ。そのような政策とともに金利を上げれば、インフレ懸念が収まり、ルピーが安定する。

モディ政権は、なお、緊張から機会へと、インドを変えることができる。

PS Oct 10, 2018

Does Modi Have a Pakistan Policy?

SHASHI THAROOR


 トランプとIMF

FT October 8, 2018

IMF: the fight to woo a sceptical US over funding

James Politi and Sam Fleming in Washington

9月後半、マンハッタンの素敵なホテルで開催されたチャリティーにおいて、IMFとホワイトハウスとの関係は良好に見えた。

最近、IMFの歴史上、最大の500億ドルに及ぶアルゼンチン向け安定化融資を、アメリカ政府は支持した。ラテンアメリカの何度も債務危機を繰り返した国である。

しかし、今、問われているのは、トランプ政権がアルゼンチン融資だけでなく、IMFに対して、その納税者の金を提供するか、ということだ。ポピュリズムが高まる時代に、グローバルな経済的正統派のシンボルとして、また、世界で主要な大国が対立を深める中で、IMFはその運営のための基金を増大するよう求めている。

チャリティーで示されたムニューチン財務長官の温かい挨拶にもかかわらず、トランプ政権内には、戦争犯罪から貿易紛争処理まで、国際機関の行動に対する懐疑論が強く存在する。IMFへの基金をこれまで通り維持する、あるいは、増額することについては、何の保証もない。

多くの先進諸国が財政赤字の累積で高い債務依存度を示すとき、通貨危機においても財政刺激策の余地は限られることを意味する。銀行に対する新しい規制制度がどこまで有効かは、まだ、わからず、政治的な支持を得られないとすると、金融市場にはカオスが広がる。

ホワイトハウスだけでなく、アメリカ議会の共和党も、主権の喪失につながると国際機関と多角的な協力関係を批判する。かつて、IMFの分担金増額をオバマ政権が推進したが、討議による5年もの遅れを経て、2016年、最終的に議会は提案を破棄した。

FT October 8, 2018

The risks lurking in a benign global economy

FT October 9, 2018

How to avoid the next financial crisis

Martin Wolf


 トランプ貿易戦争

PS Oct 8, 2018

What’s Behind Trump’s Trade War?

KEMAL DERVIŞ , CAROLINE CONROY

2次世界大戦以降、貿易は世界GDPよりも50%早く成長した。それは主にGATTWTOが推進した一連の自由化ラウンドによるものだ。しかし今、アメリカのトランプ大統領が導入した輸入関税は世界を貿易戦争に陥らせ、こうした成果を失いつつある。

自由貿易の批判は、貧しい国を生産性上昇の余地がない商品生産に閉じ込める、また、グローバリゼーションがたとえ全体として利益をもたらしても、一部の者は敗者になる、ということだ。

実際、静態的な比較優位論が開発政策にとっては正しい指針にならない。ダイナミックな政策には、貿易が知識や新市場の情報をもたらすか、考える必要がある。発展途上国は貿易政策を、大規模なインフラ投資、教育投資で補完する。

トランプ政権は、経常収支赤字を関税で減らすことは必ずしもできない、と大統領に説明したのか。その効果は、貯蓄や投資に対しても無いとは言えないが、弱く、間接的である。また、中国からの輸入財には、アメリカから輸出された中間財が付加価値として多く含まれている。関税は、こうしたアメリカ企業への重荷となる。こうした複雑な関係を、大統領に説明しているのか。

トランプの目標は、WTOなど、国際機関への攻撃でもある。国際機関や多角的な協力関係はアメリカのパワーを削ぐ、と考えるからだ。しかし、世界で最も強力な国家でも、偏らないグローバルなルール、それを監督する機関を必要としている。WTOは、最恵国条項や紛争処理メカニズムを制度化してきた。

WTO、世界銀行、IMFは、新しい課題に対して、さまざまな改革を求められるのは当然だ。たとえばグローバル・ハイテク企業の影響が強まる中で、21世紀の競争促進政策をどうすべきか。WTOにもIMFのような加重投票制を導入するべきだろう。WTOを攻撃するより、取り残された人々への補償政策をもっと考えるべきだ。

PS Oct 9, 2018

The New and Not Improved NAFTA

JEFFREY FRANKEL

トランプ大統領は、NAFTAに代えて、新しくthe United States-Mexico-Canada AgreementUSMCA)を結んで自慢した。かつてない素晴らしい条約だ、と。それは自由貿易協定を破棄するよりは良かったが、決して改善ではない。

これはトランプのいつものやり方だ。何か破滅的なことを脅して、単に事態は少し悪くなっただけであることに、人々は安堵する。それは彼が北朝鮮に対してしたことだ。核紛争と比べれば、彼が金正恩と会談したことは勝利のように見える。たとえ、実際には何も進展していないにしても。

1.自動車産業に求める原産地規制(75%)、賃金規制(平均時給16ドル以上)、2.酪農品、3.紛争処理、4.サンセット条項(一定期間ごとの見直し)、など、いずれの点でも、NAFTATPP風に改定したものだ。しかも、その条件はアメリカにとってTPPほど良くないし、全体としてNAFTAを改善してもいない。

PS Oct 9, 2018

Who Wins in Trump’s Trade War?

DANIEL GROS

アメリカは貿易相手国に対して激しく威嚇し、彼らがわずかな譲歩を示すことで、合意を与えてきた。しかし、トランプが本気で取り組む相手は、アメリカの敵、中国である。それは地政学的な敵対という意味も含む深刻な意味を持つが、その他の世界にとって、それほど悪いニュースではない。

最近まで、貿易政策は圧倒的に自由化を目指していた。しかし、最新の自由化交渉は失敗した、主にインドが(中国ではなく)重要な市場の自由化に反対したからだ。

同じ考え方の経済群が結ぶ地域貿易協定は、自由化を補足する役割を認められただけだった。エコノミストたちは、地域協定が本質的に「特恵的」であり、それゆえ自由化地域からの貿易を奪う効果を嫌うからだ。

しかし、もし主要な貿易諸国が、その相互間だけで関税を引き上げるなら、その効果で貿易が増える第3国が利益を受ける。ヨーロッパやアジアは、米中の貿易戦争を歓迎するべきだろうか? ヨーロッパや日本、アジアの企業は、アメリカ市場でも、中国市場でも、優位な競争的地位を得る。EUは特に大きな受益者だろう。アメリカに対しても、中国に対しても、第1の貿易パートナーである。

主要国間で関税率が非常に低い場合、こうした効果は限られている。しかし、アメリカは10%の関税を導入し、それはアメリカの平均関税率の4倍である。さらに来年には25%に引き上げる。米中貿易戦争は、世界の主要な経済軍にとって有利だが、アメリカにも中国にも深刻な影響を与える。

アメリカの損失は中国よりも大きいだろう。なぜなら中国のアメリカからの輸入は農産物が主だから。それは代替的な供給者を容易に見つけることができる。他方、中国の報復措置はより穏健である。


 ノーベル経済学賞

VOX 08 October 2018

Cutting the corruption tax

Paul Romer

(ノーベル経済学賞受賞により再掲載。初出はAugust 2010。)

われわれは、政府職員が法を守るのを当然だと思っている。そうでないこともある。アメリカでは、ニューオーリンズの警察署が強姦や殺人の罪を犯したり、隠したりした。また、公務員が権力を濫用するような強権的国家に住む方が、法律の存在しないような軟弱国家に住むより良い、ということもある。

多くの国が弱い政府であるのは、人々が強権的政府の権力乱用を恐れているからだ。この不安は、ギリシャのような国で特に強い。1960年代後半まで、軍人が国家の支配権を握り、反対派を弾圧したのだ。

しかし残念ながら、現在のギリシャにおける経済危機は非常に深刻で、軟弱国家には制御できない。ニューオーリンズでは、市長とコミュニティーの指導者が連邦政府の法務省に、警察署の改革と介入を求めた。ギリシャもそうだ。金融危機において、ギリシャはEUに頼るべきだった。しかし、それは融資ではなく、予算の監視でもない。汚職や公務員の非効率さを取り除くために、政治的に中立な改革を進めるためだ。EUと協力すれば、ギリシャは急速に、強い、正直な、効率的国家となって、金融危機から抜け出すだろう。

汚職のせいで、ギリシャのフォーマル・セクターにある企業は課税されているに等しいし、起業や外国投資は妨げられている。こうした「税」を取り除くことは、3重の意味でプラスになる。すなわち、長期的に、それはポテンシャルな生産量を引き上げる。中期的に、ギリシャ企業の生産コストを削減して、経常収支赤字を減らす。短期的に、外国企業による投資や起業のための投資を増やし、経済を完全雇用にする。

既存のアプローチでは、緊縮財政が重視され、予算赤字の削減、輸入の削減が経常収支赤字を減らす。それは長期の不況になって、予想外の悪影響を生むかもしれない。多くのケースでは、財政緊縮策と同時に為替レートを切り下げるが、ギリシャはユーロ圏に参加しているため、これができない。このとき、汚職や非効率の税を取り除くことは効果的な方針である。

ギリシャの汚職とクローニズム(縁故採用・契約)は「ギリシャの現実」と切り離せない一部である、という者もいる。1970年代、同じような文化的悲観論が香港にあった。そこでは常に汚職があった。その後の香港の経験が、悲観論の間違いを示している。実行可能な諸政策が汚職の文化を急速に終わらせた。

他と同じように、香港にも汚職撲滅の特別な機関が警察内にあった。1974年、香港の行政長官はthe Independent Commission Against Corruption (ICAC)を創った。この機関は直接に行政長官に対して責任を負った。そして行政長官は選挙で決まるのではなく、指名された。

香港行政長官は権威主義的独裁者ではなかった。彼は民主的に選出されたイギリスの首相に対して答えたが、香港の政治的争いには依存しなかった。行政長官もICACの委員たちも、その権限を利用して政治的な利益を実現する関心を持たなかった。なぜなら、彼らは香港の繁栄を求める海外の民主国家に対して責任を負ったからだ。

ICACは警察機構を動かすために、過去の汚職に関するアムネスティ(特赦)を行い、教育によって社会規範を変え、調査報告書を発表した。今では、香港は世界で最も汚職の少ない場所の1つである。

ギリシャの民主主義に古くからある問題は、プラトンが述べたように、無法状態を防ぐために護衛者を置くとき、だれが護衛者を監視できるのか? である。政府機関が汚職を摘発する場合、それが政治的な闘争になってしまう。ギリシャはEU加盟国であるから、世界の多くの国には利用できない選択肢がある。EUの信頼を利用して、香港が行ったような汚職撲滅を行うのだ。政治的均衡を破壊することなく、汚職の「税金」を除去する。

中央銀行総裁のように、汚職撲滅機関の長官は明確な使命と広範な裁量権を持ち、その目標を達成する。EUは委員会を政治過程から分離する。長官は候補者リストの中から指名され、EUが交代あるいは再任し、長官はスタッフを採用あるいは解雇する。

同様の独立委員会は、ギリシャの市民サービスの管理に対する基本的要素をもたらすだろう。政治的なコネではなく、人々は仕事に応じて報酬を受け、裁判所や税務署といった行政機関がその機能を果たすようになる。

VOX 08 October 2018

The Trump doctrine on international trade: Part one

William Nordhaus

(後半へ続く)