前半から続く)

VOX 08 October 2018

The Trump doctrine on international trade: Part two

William Nordhaus

(ノーベル経済学賞受賞により再掲載。初出はAugust 2017。)

現代の貿易理論によって、貿易収支に執着するトランプ大統領が間違っている、とわかる。

国際経済の歴史は1973年で分割される。主要経済が固定為替レート制であった世界から、変動為替レート制に変わったのだ。アメリカは初代財務長官ハミルトンの時代に、金もしくは銀本位制であったが、第2次世界大戦後、諸国はドル本位制となった。1970年には、世界GDP95%が固定為替レート制の国で生産された。

1973年、アメリカと他の多くの国が金と固定為替レート制を離脱した。1975年までに、世界GDP80%が変動レート制の国で生産されるようになった。それとともに、金融市場の開放、グローバリゼーションが進んだ。

変動レート制と金融市場の開放を受け入れた諸国では、貿易収支は異なるリズムを打ち始める。エコノミストたちは、各国の貯蓄が貿易収支を決めている、と考える。言い換えれば、アメリカの国内貯蓄率があまりにも低いから、研究や設備に投資するため、一部は外国の貯蓄が利用されているのだ。アメリカは低貯蓄(国民所得の18%)の国であり、中国は高貯蓄(44%)の国である。中国は経常収支の黒字(国民所得の4%)を、アメリカは赤字(3%)を示す。

外国の中央銀行がドルの外貨準備を蓄積する結果(6兆ドルが外国の公的機関に保有されている)、ドルの価値は高くなって、アメリカは大幅な貿易赤字を出す傾向がある。また、外国の投資家はアメリカの債務証券を10兆ドルも保有している。その資本流入もアメリカの貿易赤字をもたらす。

したがって、アメリカの貿易赤字が大きいのは、通商条約でまずい取引したからではなく、アメリカの金融市場に資本が多く集まるからだ。

トランプ氏は、エアコンを作るのがメキシコでもアメリカでも、自動車を作るのがアメリカでも日本でも、飛行機がボーイングでもエアバスでも、どちらでもよいと考える。200年前のデービッド・リカードなら、それでよかった。「グローバリゼーションの第1波」である。今は違う。

「グローバリゼーションの第2波」では、iPhoneiPod、自動車、エアコン、飛行機も、輸送と情報通信のコストが革命的に低下したため、異なる生産過程に非常に見事にスライスされている。われわれは高度に特化したグローバル・サプライ・チェーンの世界に生きている。それはますます財、技術、投資、サービス、労働者の国境を越える移動を増やしている。

ボーイング787を例に挙げよう。それはアメリカで組み立てられている。しかし、主胴体はイタリア、着陸装置は日本、尾翼は韓国、バッテリーは日本、エンジンはアメリカとイギリス、貨物室のドアはスウェーデン、乗客用ドアはフランス、後続翼はカナダとオーストラリア、後部胴体はアメリカで生産されている。ボーイングの主要な役割は、研究、設計、組み合わせである。

それを実現したのは、市場の開放と、輸送と情報通信の革命である。コンテナは、低コスト、大量。国際輸送の代表的発明だ。その主要な受益者は中国である。1990年、中国はコンテナ・マップにほとんど存在しなかった。2014年までに、世界の10大コンテナ港の6つが中国にある(香港とシンガポールを含めるなら、8つある)。2014年、中国は12600万のコンテナを送り出した。

トランプ氏は既存の通商条約を破棄することを考える。しかし、他の諸国は価値の連鎖において決定的なリンクとなっている。トランプ氏が45%の関税を課して、中国がそれに報復すれば、アップルの王国は崩壊する。いかなる国も、孤立した、保護された島ではありえない。

貿易について、人々は2つの心を持つ。それほど高くない靴やスマートフォンを喜びながら、職場が失われることを心配する。グローバルな不平等は貿易によって減少したようだ。しかし、アメリカ国内の不平等は複雑な理由で生じている。研究によれば、労働組合の衰退、高所得者への低い課税率、労働節約的な技術革新、スーパースター経済、低熟練の移民労働者、金融ビジネスの増大、輸入との競争産業における高賃金職の移転、である。

雇用に関して、貿易による製造業への影響は重要である。過去30年間で、製造業の雇用はアメリカ全体の16%から9%に減少した。外国の製品が安くなったからだ。しかし、労働統計局によれば、1998-2015年に職場は全体として10%増えている。製造業における減少は、専門・医療・教育サービスの増加で相殺する以上に増えて、アメリカは他の工業諸国(中国とインドを除く)に製造業で50万人の職場を失ったが、全体として1600万人を得た。

人道的な社会は、貿易や技術変化で所得を失った人々に所得補償する。しかし、市場原理主義者はそのような政策を嫌う。保守派は市場の大義を損ない、市場システムの欠陥を是正する政策にも反対する。

トランプ氏は、貿易交渉をゼロサムで考える。それは彼が不動産取引で生活し、カジノの経営者でもあったからだろう。しかし、国際貿易はそれらと全く異なる。

貿易の結果はさまざまだ。一方で、各国が有害な高関税を採用し、囚人のジレンマが示すような、非協力的結果になるかもしれない。そうではなく、諸国が協力的な自由貿易を採用し、保護政策を自制し、国際競争と特化、分業によるコストの低下、生活水準の上昇を実現するかもしれない。

われわれがiPhoneの生産に見るような、自由貿易を享受しているのは、100年近い、困難で複雑な交渉を経てきたからだ。アメリカは歴史的に高関税の国であった。1934年、互恵通商協定に始まり、数度の自由化交渉を経て、諸国はその保護主義的な構造を解体した。

重要なことは、開放型の貿易システムが貿易をめぐる和平が成功した結果だということだ。しかし、トランプ政権は最新の交渉成果、TPPをすでに破棄し、NAFTAは再交渉する意図を示した。「アメリカ・ファースト」は、貿易、軍事、気候変動、核政策における、非協力的イデオロギーである。われわれは諸国が協力することでだけ達成する機会を失う。

協力とは、「間抜けな」交渉で他国がアメリカを食い物にするのを許す、という利他主義ではない。われわれは1世紀に及ぶ協力の成果として、国際貿易の増大、戦争による死者の減少を観ている。アメリカも他の諸国も、トランプ氏の経済ナショナリズムを拒むべきだ。そして、貿易に国境を開放し、核拡散を逆転し、気候変動を抑制する道を進むべきである。

汚染も、戦争も、貿易障壁も、市場の機能だけでは解決できない。

VOX 11 October 2018

How we create and destroy growth: The 2018 Nobel laureates

Kevin Bryan


 サウジアラビアのジャーナリスト暗殺

NYT Oct. 8, 2018

Praying for Jamal Khashoggi

By Thomas L. Friedman

昨年117日のコラムに、私は新しいサウジ皇太子、Mohammed bin SalmanM.B.S.)のことを書いた。そのコラムの末尾に引用したジャーナリストの言葉は、私の友人Jamal Khashoggiのものである。

サウジアラビアに関する私の意見は私自身のものだが、Jamalから多くを学んだ。彼は政府に参加したし、自国を愛し、その成功を願っていた。M.B.S.が事態を変え、必要な根本的改革を行うだろう、と信じた。しかしまた、M.B.S.が多くの助言者を必要としており、彼の持つ暗黒面、余りにも孤立し、小さな支配サークルにいることを懸念した。

1年経って、その暗黒面が完全に優位を占めたようだ。

私はM.B.S.が民主主義を改革の一部に含んでいたとは思わない。彼はデンマークを創ろうとしていたのではなかった。宗教的な改革がもっとも重要だった。サウジアラビアがアラブ世界で果たした甚大なマイナスの影響とは、1979年以後、イスラムのピューリタン的な侵攻を攻撃的に広めたことだ。それは911にもつながった。

この数か月、M.B.S.が、彼自身にもマイナスになる、非常に間違った行動を取った。私はそれが、強硬派がM.B.S.に「中国モデル」を採用するように迫ったからだ、と思う。彼らは中国が南シナ海で島を占拠したとき、世界に非難されても相手にせず、成功したと考えた。そこでM.B.S.は、カナダの人権に関する批判を、実質的な国交断絶にしたのだ。

トランプ大統領とそのチームは理解していない。アメリカは単に、中東における秩序構築をイスラセルやロシア、サウジアラビアに下請けさせ、金だけ払えばよい、ということではない。それらの国の指導者たちは、実際、アメリカがレッドラインを引くのを求めている。なぜなら、それが自国の強硬派や過激武装集団を抑える理由になるから。

私は、サウジアラビア大使館でJamal Khashoggiが誘拐され、殺害された、という新聞記事に衝撃を受けた。厳密な証拠が求められるが、その疑いは濃い。それが事実なら、M.B.S.にとって破滅であり、サウジアラビアと全アラブ諸国にとっての悲劇である。

すべての国が建設的な批判を必要としている。それは指導者の多くにとって苦い薬であるが、最終的に彼らを健全にする。私はJamalのために祈り、M.B.S.も祈るべきだ。

NYT Oct. 8, 2018

Saudi Arabia Must Answer for Jamal Khashoggi

FP OCTOBER 8, 2018

Jamal Khashoggi’s Disappearance Is a Slap in the Face to the United States

BY WILL INBODEN

The Guardian, Tue 9 Oct 2018

The Guardian view on the killing of journalists: the truth in peril

Editorial

FP OCTOBER 9, 2018

Jamal Khashoggi’s Disappearance Is Even Stranger Than It Seems

BY STEVEN A. COOK

FT October 10, 2018

Saudi Arabia owes the world an explanation

FT October 10, 2018

Jamal Khashoggi’s disappearance spotlights rising repression

Roula Khalaf

FP OCTOBER 10, 2018

When Killing the Messenger Becomes the Norm

BY AMY MACKINNON

FP OCTOBER 10, 2018

The U.S.-Saudi Relationship: Too Faustian to Fail?

BY MICHAEL HIRSH


 アメリカの中間選挙

FP OCTOBER 8, 2018

Fort Trump Is a Farce

BY JIM TOWNSEND

FT October 9, 2018

Partisan divisions ignite ahead of the US midterms

Lloyd Green

FT October 10, 2018

Democrats need their own Mitch McConnell

Janan Ganesh

NYT Oct. 10, 2018

Economic Anxiety Didn’t Elect Trump and It May Hurt His Party in the Midterms

By Robert Griffin and John Sides

トランプの支持者は、経済的困窮にある「白人労働者」なのか?

そのような説明は間違っている。むしろ、人種や移民に強い関心がある。全体として、彼の支持者は経済的に困窮していなかった。そして今、経済的に苦しんでいる者たちは、大統領としてのトランプ氏の成果を支持していない。

中間選挙は、現職大統領に対する国民投票だ。アメリカ政治では経済的な成果がそれを決める。

PS Oct 11, 2018

People vs. Money in America’s Midterm Elections

JOSEPH E. STIGLITZ

11月の中間選挙に関心が集まっている。民主党が、そしてヨーロッパの左派政党が、勝利するための立場を問われている。彼らはよりセンターを目指すべきか、あるいは、若者や進歩は、情熱的な新規参入者に焦点を当てるべきか?

アメリカの投票率は低く、特に大統領選挙に比べて中間選挙の投票率が低い。人々は投票しても何も変わらないと考えるからだ。しかし、トランプはそれが違うことを示している。共和党は財政赤字に対する節度を完全に捨て去り、億万長者のために減税した。公聴会にもかかわらずカバノーを最高裁判事に押した。

しかし、民主党も有権者の無関心について責任がある。右派と共謀してきた長い歴史を克服しなければならない。ときには、賃金で生活するものより、キャピタル・ゲインで生活する者から支持を得ることに努めているように見えた。

しかし、進歩派はその要求をBernie Sanders28歳のAlexandria Ocasio-Cortezへの支持で示した。そこで示されたものこそ民主党が勝利するために訴えるべき項目だ。中産階級の生活を回復し、まともな、よい給与を得る職場を増やす、金融的な安全性、質の高い教育、医療サービス、誰でも手に入る住宅の供給、引退後の安心、を実現する。彼らは、巨大企業の市場支配、金融化とグローバリゼーションを抑制して、ダイナミックな、競争的で、公正な、市場経済を求めている。

正常な民主主義なら、こうした考えが支持されるだろう。しかし、アメリカの政治は政治献金や選挙区の変更、公民権はく奪によって汚されている。

しかし、たとえ欠陥のある民主主義でも投票は重要である。

FT October 11, 2018

Trump and the fear of fascism in America

Edward Luce

アメリカの中間選挙が近づき、しかも共和党が敗北する可能性があるので、トランプ氏の毒舌はファシストの亡霊に向かいつある。

敵対者を「人民の敵」として攻撃する。民主党員を「邪悪」、「犯罪集団」と呼び、「われわれの国を破壊したがっている」、「ベネズエラにする気だ」と言う。リベラルは「とても、とても悪い人々」だ、と言った。集まった聴衆は唱和する。「あの女をぶちこめ」、それは85歳の民主党上院議員Dianne FeinsteinHillary Clintonだ。

嘘を広める、しかも大きな嘘だ。国連総会では失笑を買ったが、支持者たちは、本気で、歴史上のどのアメリカ大統領よりもトランプは多くの仕事をした、と思っている。メキシコとの国境に壁を築き、請求書を送る。FBIは民主党の手先だ。1度の選挙演説で74も嘘をついた(the Washington Post’s fact checker)。

こうした認識の混乱はトランプに有利な2つの効果を生む。第1に、何が本当か、ということについて、人々の感覚をマヒさせる。第2に、文化をニヒリズムに向かわせる。そして、ニヒリズムはファシズムの前段階だ。トランプは、最近までアメリカで考えられなかったことを現実にした。1つの例は、メキシコ国境において、多数の子供たちを非人道的な状態に隔離した。もう1つは、メディアを「人民の敵」と呼んだ。われわれは、マルタ、ブルガリア、サウジアラビアのような諸国でジャーナリストに起きることを知っている。トランプ氏は最近のジャーナリスト殺害について不満を述べたことがない。

3に、法の支配を党派に利用されていると述べた。これは、たとえば、トランプ氏が選挙で敗北しても、その結果を正当とみなさない、と言うのも、それほど遠くないだろう。

ファシストに備わる圧倒的要素で、トランプ氏に欠けているものがある。すなわち、彼は国家の諸機関を乗っ取っていない。全体主義者が最初にするのは、軍隊の粛清である。自分に忠誠を誓う者に入れ替える。警察や諜報機関がそれに続く。トランプ氏は、アメリカ社会でそれが難しいことを知っている。

しかし、彼が好きなプーチン、金正恩、習近平を観ると、独占的な力を継承している。トランプ氏はファシストではないが、彼が残すアメリカは、ファシストを受け入れやすい国になっているだろう。

NYT Oct. 11, 2018

Is the Rust Belt Still Trump Country?

By Thomas B. Edsall


 AIとロボット

FT October 9, 2018

Artificial intelligence: when humans coexist with robots

Richard Waters in San Francisco


 アジアの新興富裕層

PS Oct 9, 2018

Crazy Rich Asia

KENNETH ROGOFF

アジア系の俳優だけで撮ったハリウッド映画“Crazy Rich Asians”がスーパーヒット作になった。

ニューヨーク大学の経済学教授である女性が、ボーイフレンドとシンガポールの家族を訪ねると、彼がアジア有数の大富豪であると初めて知った。しかも、彼の母親は普通の娘との結婚に反対している、という話だ。

この映画はシンガポールに関心を集めた。アジアの一部がどれほど裕福になっているか、ということにショックを受ける者がいるだろう。2017年のGDP3250億ドル、人口は560万人である。それはデンマークに匹敵する。

積極的な再分配政策を採用したデンマークと違って、シンガポールは税率を低く抑え、貧困層への公的給付に集中している。それにもかかわらず、すべての市民が質の高い医療保険制度と学校を利用でき、多くの者がたっぷりと補助金を受けた住宅に住んでいる。

シンガポールの中産階級はそのユニークなシステムで公平に扱われる。それは市場経済でありながら、長期の計画と投資に政府が大きな役割を担う。


 オーストラリア

NYT Oct. 9, 2018

The End of the Australian Miracle?

By Andrew Leigh


 ヘイリー辞任

FP OCTOBER 9, 2018

Nikki Haley Stuns Washington by Announcing Resignation From U.N. Post

BY COLUM LYNCH, ROBBIE GRAMER

FT October 10, 2018

Nikki Haley’s demise paves the way for unbridled ‘America First’

Edward Luce


 インドネシア災害

FP OCTOBER 9, 2018

Indonesia’s Disaster Politics

BY ALEJANDRO QUIROZ FLORES

The Guardian, Thu 11 Oct 2018

Climate change will make the next global crash the worst

Larry Elliott

PS Oct 11, 2018

Mitigating India’s Climate-Change Misery

GULREZ SHAH AZHAR


 トランプとドルの衰退

PS Oct 10, 2018

The Dollar and its Discontents

BARRY EICHENGREEN

トランプ大統領の単独行動主義・ユニラテラリズムは、世界を深層において、しかも不可逆的に、変えてしまう。彼は国際機関の作業を破壊しつつある。他国はアメリカを信頼できる同盟関係のパートナーとは考えず、独自の地政学的な能力を得る必要があると感じている。

今や、トランプ政権はドルの世界的な役割を破壊し始めた。イランに対して一方的に制裁を科したことで、イランと取引する企業には、アメリカの銀行を介して処罰する、と脅している。この脅迫は深刻なものだ。国際取引におけるドルは主にアメリカの銀行が供給しているからだ。

これに対して、ドイツ、フランス、イギリスが、ロシアや中国とともに、ドルとアメリカの銀行、アメリカ政府による調査を回避する計画を発表した。このことが直ちに、ドルに代えてユーロを使用することにはつながらないだろう。

銀行や企業がドルを使うのは、多くの他の銀行や企業がドルを使うからだ。他の通貨に代えるには協力した移行が必要だ。ヨーロッパの3つの大国が協力するのは、その一部である。そのような協力が、もはや不可能とは言えなくなった。

ドルが国際取引で支配的な地位を最初に得たのは、第1次世界大戦のときだ。中立国も、イギリスの銀行やスターリングを使用することが難しくなった。他方、アメリカの連銀法改正は、ドル建の信用において流動性を供給する機関を設置し、初めてアメリカの銀行に海外展開することを許した。1920年代初めまでに、国際取引において、ドルはスターリングと並ぶか、それを超えるようになった。

この例によれば、アメリカがドルの支配的地位を失うのは5年から10年先であろう。それでも、アメリカの金融市場の規模や流動性は、アメリカの銀行のグローバルな活動を支え、外国企業はアメリカとの取引でドルの使用を続けるだろう。

アメリカのユニラテラリズムが、彼らにドルへのヘッジを求めさせる。トランプのイラン制裁で、ヨーロッパの銀行と企業はイランへの支払いに、ドルではなく、ユーロを使うかもしれない。イランも石油輸出の代金をユーロで受け取り、輸入にもユーロで支払うだろう。他の銀行や企業もユーロを使うほど、中央銀行はドルで市場に介入し、外貨準備を保有する必要がなくなる。

ヨーロッパはドルへの依存を減らそうとしている。同じ理由で、中国も人民元の国際化を進めている。トランプは、こうしたヨーロッパと中国の目標達成を助けるのだ。


 構造改革の評価

VOX 09 October 2018

Reforms are too important to be left to reformers

Nauro Campos, Paul De Grauwe, Yuemei Ji

あまりにもしばしば「構造改革」が景気回復や高成長、生産性引き上げの鍵になる、という診断を観る。しかし、構造改革に反対するエコノミストは観ないが、歪みを除去するということは、何の合意もないまま、簡単な宣伝文句となっている。学問的に、構造改革が不平等をもたらさずに高成長につながるのか、研究はまるで不十分だ。

構造改革とは、経済の組織される仕方を根本的に変えるような諸政策のセットを指している。たとえば、貿易、競争、外国からの直接投資について市場開放、国有資産の民営化、生産物市場の規制緩和、労働市場の弾力化。

こうした構造改革は、政治家に委ねておくにはあまりにも重要である。その推進力を再考し、その影響を理解するために、包括的、批判的で、ドグマに囚われない、コストとベネフィットの評価が緊急に必要である。


 スウェーデン

NYT Oct. 10, 2018

Sweden, Land of Migrants

Ms. Cordenius is a journalist in Sweden.

FP OCTOBER 10, 2018

Is Sweden Ungovernable?

BY EMILY SCHULTHEIS


 アンゴラ

FT October 11, 2018

João Lourenço has a chance to transform Angola

David Pilling

20178月に、すべては始まった。38年間大統領であったJosé Eduardo dos Santos João Lourençoを後継者に指名した。アンゴラはアフリカでも最も統制された経済の1つである。その娘Isabel dos Santosはアフリカで最も裕福な女性であり、「アフリカの王女」と呼ばれ、純資産22億ドルと推定された。息子の1Filomenoは、姉ほどビジネスに長けていないが、それでも50億ドルの政府投資ファンドを与えられた。

何も変わらない、と多くのアンゴラ関係者は思った。dos Santos は、1975年の独立以来、政権を握るMPLAの議長になった。しかし、Lourençoは就任演説で、dos Santosの一族が支配するテレコムとセメントの独占を攻撃した。中央銀行総裁を解任し、Filomenoを政府投資ファンドから解任し、中央銀行からの5億ドルの不正な流用で逮捕した。予想外に早く、dos Santos MPLA議長を交代させた。

新しい中央銀行総裁は銀行部門の正常化を始めた。不良債権を整理し、旧体制のクローニーを排除する。アンゴラは外国投資を求め、民間部門の成長や、石油(輸出の95%)以外の経済の多様化を議論している。

アンゴラは中所得国の上位にあり、ジンバブエの経済規模の6倍だ。世界第8位の石油輸出国である。中国が進出しているが、Lourençoは西側との関係改善、西側の石油企業の協力、IMFからの支援を求めている。

2800万人の国民の多くは貧しい。経済改革は国民を豊かにできる。しかし、これはLourençoの権力掌握だけに終わるのかもしれない。希望はある。少なくとも旧体制は終わった。


 人的資本

FT October 11, 2018

Investing in human capital is an urgent task

Jim Yong Kim


 ウォール街の株価下落

FT October 12, 2018

US stocks fall sharply as Trump blames ‘out of control’ Fed

Robin Wigglesworth in New York, Katie Martin in London and Demetri Sevastopulo in Washington

FT October 11, 2018

What is behind the global stock market sell-off?

Robin Wigglesworth, US Markets Editor

ウォール街の激しい下落は2月の“Volmageddon”の記憶と重なった。そのときS&P500が最速で10%も下落し、10年に及ぶ強気市場の終わりを問う事件であった。そのときは売却の引き金にならなかったが、現在の市場でも同じ諸力が作用し続けている。

FT October 11, 2018

If the bull market is ending, what happens next?

Michael Mackenzie

今秋、突然下落した株価に、驚いた投資家はいなかった。アメリカの強気相場はあまりにも長く続いていたからだ。投資家たちはAppleAmazonのハイテク株に逃げ込んでいた。ともに市場評価額が1兆ドルを超えた化け物だ。

ウォール街の株価上昇が世界から切り離されて高まったことを、投資家たちは、この数週間、心配していた。アメリカの株から日本などの市場へ乗り換える動きがあった。

下落のボタンを押したのは、アメリカ経済の好調さを示すデータと、利上げに関する連銀のタカ派の声だった。


 中国

FT October 11, 2018

Investors must heed warnings about a splintering of the internet

Gillian Tett

FT October 11, 2018

China finance: why ‘accidental banks’ face a crackdown

Don Weinland in Hong Kong

SPIEGEL ONLINE 10/11/2018

Operation Mekong

China Solidifies Its Influence in Southeast Asia

By Bernhard Zand

NYT Oct. 10, 2018

China and the Case of the Interpol Chief

By The Editorial Board

FP OCTOBER 11, 2018

If the U.S. Doesn’t Control Corporate Power, China Will

BY MATT STOLLER

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The Economist September 29th 2018

#MeToo, one year on

Waste: Cash for trash

Citizenship for sale: What price a passport?

Britain: The quest to remake politics

The Conservative party: When all about are losing theirs…

Hospital treatment in India: Modicare

Chile: Steering the economy away from the middle-income trap

Waste: A load of rubbish

(コメント) 性的ハラスメントや暴行、差別に関して、女性たちが抗議の声を上げています。アメリカ中間選挙にも影響するでしょう。日本が何より取り入れる必要のある社会運動です。

廃棄物・ごみ問題の特集記事が面白いです。ゴールディングの小説「ハエの王」から名を借りて、「ゴミの王」と記します。世界がゴミ屋敷のように変わっていく有様は、確かに、集団的な狂気です。この雑誌は、市場の機能を信奉しており、一定の法や規範があれば、ごみと市民社会を価格によって解決できる、と説きます。台湾が示す例はすばらしいです。

Brexitの核心は、政治を作り変える情熱を生み出すことにありました。日本にとって、憲法改正が同じように情熱を呼び覚ますのか? インドの膨大な人口に対する医療保険制度の導入、軍事独裁体制から民主化・改革派の政権へ、そして大富豪による投資重視の政権へ、チリの模索は続きます。

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IPEの想像力 10/15/18

30年後の「成長のエンジン」は何でしょうか? かつて、世界経済の牽引車、「機関車論」として、G5の国際政策協調が現れました。

その後、中国という世界経済の機関車が減速する中で、次の「成長」が求められています。AIとロボット、スマホとさまざまなアプリ、医薬品や農業の革新、再生可能エネルギーと温暖化防止、海洋の保護、GDPに代わる地域・社会集団の福祉や幸福の追求が、「成長のエンジン」に代わると思います。

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あなたが政治家になるとしたら、社会システムにおける2つの問題を解決してほしいです。1つは、老後に働く機会をどのように提供し、組織するか?  もう1つは、地方の農村・漁村・山村、衰退する地域、世界経済の底辺における諸国家を、どのように再生し、活性化することができるか?

もちろん、若者の雇用も問題です。これには試してほしいアイデアがあります。

若者たちが必ず雇用されるように、政府は雇用の機会を全員に保証します。社会が必要としていながら、十分な労働が配置できない分野です。特に、1つは、介護サービス。もう1つは、安全保障です。

マレーシアだったか、スイスだったか、エスニック集団間、世代・所得・地域間の情報共有と関係構築を促すため、軍隊での訓練と学習がとても有効だ、と読んだことがあります。同様に、介護の分野でも、社会集団や地域を超えて協力し、信頼関係を築いた人々が、特に地域で新しい投資と雇用の機会を提供すると期待します。

また今、地方や中央の政府は、外人観光客の誘致・観光サービスの輸出に熱心ですが、いずれは日本もアジアからの移民・難民の増加に直面するでしょう。政府が難民を受け入れる姿勢、外国人労働者に対する研修制度が問題になっています。移民・難民の一時雇用や永住許可も、合理的な規則に従って扱われるべきでしょう。

若者への雇用保障も、外国人労働者の雇用機会も、しっかりした仲介・監督機関が必要です。政府・労働者・企業の委員が出席する仲介機関が、人々(若者たち・老人たち・移民・難民)の就労とその成果を評価し、その適性をとらえて、一層の向上を刺激します。

各地の政治体が、緩やかな統合を組んで、安全保障や医療・社会保障を共有するとき、アイデアや人の移動は自然と促されるでしょう。いかなる地域も、この「成長のエンジン」の一部となって、取り残されることを恐れる必要はないのです。

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引退したら、何をしようか? 90年を生きるなら、退職は若者が入社するときと少し似た期待と不安をもたらします。健康であれば、何か好きなことをして、社会の役に立ちたい。年金に加える賃金が得られる機会を探すでしょう。

いいなあ。梨の栽培のために単身赴任。農業試験場で農家の技術指導を続けてきた男性は、梨の技術に没頭し、職場の方針で梨から離れるより、独立して梨農家に転職しました。

いいなあ。群馬県のポツンと一軒家。山の中の竹職人。

いいなあ。この新刊。「一つの山にも匹敵する大きさの竜グリオール。かつて魔法使いとの戦いに敗れ、動くことのできなくなったグリオールの周りにいつしか人々が住みはじめた。」 強烈な思念は、なお、この山に住むようになった人々に影響する。・・・こんな小説が書けたら。

いいなあ。ラワースの「ドーナツ経済学」。「21世紀の人類の目標は、地球環境をこれ以上悪化させず、すべての人々が尊厳のある暮らしを送るようにすることです。」 安全で、公正な暮らしを実現することが、政治の目標だ、と考えれば、「右肩上がりの成長」を前提した経済学はその指針になりません。

いいなあ。台湾の民衆と政治家たちが示した環境政策の転換。ごみの島を築くより、生産者の責任で、分別収集し、再生利用するか、焼却するようにしました。基金を設けて企業に出資させ、生産物のリサイクル率によって企業の負担が変わります。

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実験的な国家、新しいアイデアと社会的革新を促す政治的統合体と言えば、アメリカも、ソ連も、EUも、人工国家でした。始皇帝や、フランス革命の民衆が、アイデアの普及と労働の配置を大きく変えたのは当然です。

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