IPEの果樹園2018
今週のReview
9/17-22
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弾劾と国民投票のやり直し ・・・新興市場の通貨危機 ・・・シリア内戦 ・・・温暖化と難民 ・・・世界金融危機から10年 ・・・移民と成長 ・・・大坂ナオミ ・・・自由貿易に反対する
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 弾劾と国民投票のやり直し
The Guardian, Fri 7 Sep 2018
Think we can rewind to the heady
days before Trump and Brexit? Think again
Gary
Younge
リベラル派に支配的なムードは、われわれがもっと良い時代に戻るべきだ、というものだ。Brexitに続いて、トランプが選挙に勝ち、その自滅的な幻想が、後戻りできない、消すことのできないものになった。ジェレミー・コービンが労働党党首になったことも、それに追加されるかもしれない。
リバラルな人々は、この無責任な決定が、ロシア人の介在した、間違った情報、デマ、衝動的で、無思慮、人種差別的、即座に後悔する、究極において破滅的なものとみなしている。人民の意志といった奇妙な呪文で犠牲にされてはならないものがある、と主張する。
弾劾と2度目の国民投票は、エリートへの疑念を強め、政治的な疎外感と経済的周縁化を通じて、こうした事態を導いた原因にもどるだけだ。孤立して起きた場合、これら2つの行動は、金融危機後の一時休止でしかない。それは賃金の停滞、階級の固定化、不平等・不確実さの増大、を意味していた。こうした傾向を阻止し、転換するものではない。
新しいイニシアティブが機能するとしたら、過去の失敗の是正ではなく、それが希望をもたらす未来へのビジョンの一部として行われるときだろう。Brexitやトランプが、分断、絶望、アノミー、不安を創り出したのではない。むしろそれらの産物であり、Brexitやトランプはそれらを強めたのだ。われわれは過去にいるのではなく、多くの者は過去を取り戻したいとも思わない。
● 新興市場の通貨危機
FT SEPTEMBER 13, 2018
Turmoil in emerging markets makes
the case for a stronger IMF
Gillian
Tett
アルゼンチンとトルコの危機は、基金を増やしたいIMFのラガルドChristine
Lagarde専務理事にとって、幸いであった。
しかし分担金の増額はパンドラの箱を開けることを意味する。新興諸国は、その構成を見直すように強く求めているからだ。しかし、アメリカは拒否権を持っている。
どうなるのだろうか? ラガルドの魅力でトランプはIMFが気に入るのか? 高官たちは、中国に対する攻撃にIMFを利用できる、と思うのか? アルゼンチンのマクリ大統領にトランプが同情するかもしれない? ラテンアメリカは、ギリシャよりも、議会を説得しやすい。
いずれにせよ、こうした不確実な条件に左右されないためにも、IMFは強化されるべきだろう。そして、その改革に向けた問題を打破するような危機が来ることを待ちながら、トランプのTwitterにIMFの文字がないか、警戒し続けるしかない。
● シリア内戦
NYT Sept. 8, 2018
A Grim Endgame Looms in Syria
By The
Editorial Board
シリア内戦の長い、残酷な苦しみが、決定的な瞬間を迎えつつある。アサド大統領とその同盟者、ロシアとイランが、反政府勢力の最後の拠点、イドリブ県を軍事制圧する準備を進めているのだ。
およそ100万人の子供を含む推定300万人が、トルコに隣接するイドリブに暮らす。攻撃は犠牲者、破壊、難民流出を増やすとわかっている。すでにその残酷さは各地で示されてきた。シリアやロシアの軍事的な解決策を、アメリカは批判してきた。
シリア政府がイドリブを制圧すれば、アサドが全土を掌握するだろう。戦争と殺害行為は終わらせる必要がある。問題は、殺戮を最小限に抑え、国民を統一するために何ができるか、である。
アメリカとその同盟諸国はシリア内戦の進路を決めることに参加できない。アサドとロシアは、彼らが創り出した多くの問題を解決しなければならない。しかし、影響力を行使できる。イドリブ県への総攻撃を阻むことが当面の目標だ。
アメリカはシリア東部に2200人の部隊を展開している。イスラム国に対する戦闘のためだ。制裁も有効だ。
イドリブは戦闘激化を回避する指定地域の最後のケースだ。市民の避難先として、ロシア、イラン、トルコが昨年設定した。しかしロシアは、他の3つのケースで、アサドの政府軍が制圧するのを助けた。多くの難民と過激派戦闘集団が、最後の避難所であるイドリブに集まった。
トルコも、国境に近いシリア北部に侵攻し、イドリブを監視する地位にある。トルコは、この地域指定の合意により、過激派戦闘集団を殺害もしくは解体できると考えた。トルコは、ロシアとシリアが提案したイドリブ制圧を拒否した、と伝えられる。
アメリカ政府は、イスラム国に限らず、非人道的な殺戮について責任を問い続けている。化学兵器の使用に対する空爆を行った姿勢は、今も続けている。トランプ大統領が何らかの軍事的な使命をシリアについて決意した、と伝えられている。
たとえ戦闘が明日終わっても、破壊された経済の再建、アサドの残虐な行為に対する多数派スンニ派住民の不満、など、問題は多い。アサドに解決に向けた政治力や資源はない。彼はアメリカや他の主要諸国の支援を必要とする。ロシアと湾岸諸国がアサドを金融支援することで、アサドの専制国家を穏健化する道に、協力することは可能だ。
イドリブ軍事制圧の犠牲の大きさを、プーチンは知る必要がある。
● 温暖化と難民
PS Sep 7, 2018
For Whom the Climate Bell Tolls
J.
BRADFORD DELONG
アメリカに住む私たちには、温暖化が次の100年間の重要問題ではないだろう。それは世界の裕福な北の諸国についても言えることだ。気候は、毎年、約3マイル北に移動している。豪雪や砂漠化のような、気候災害の話は多い。しかし、それらは不便で、コストがかかるだけで、克服できない話ではない。
しかし、それでは済まなくなるだろう。黄河からインダス川まで、アジアの6大河川流域には、生存水準ぎりぎりの農民たちが約20億人も生活している。こうした農民たちが温暖化に対処する手段は何もなく、農業以外で働くスキルもない。彼らが温暖化を避けて移住し、他の生活を見出すことはむつかしい。
アジアの6大河川は、過去5000年、人類文明における中心であった。その時代を通じて、高山地帯に積もった雪は、いつも、正確に季節を決めて、正確に河川を満たし、地域の住民たちの穀物が実るのを助けた。同様に、10億人が季節風によって、ふさわしい時期に、ふさわしい場所へ、毎年、移動できた。
しかし、地球は温暖化し、海面は上昇している。ベンガル湾、その他で、サイクロンのパターンが変化した。もしそれらが強まり、北に移動すれば、海抜ゼロに近い地帯に暮らすガンジス・デルタの2億5000万人に害を及ぼし、世界は破滅の長い連鎖に入るだろう。
国際社会には何の準備もない。世界で最も裕福なアメリカでさえ、ニューオーリンズのハリケーン・カトリーナ、ニューヨークのハリケーン・サンディ、ヒューストンのハリケーン・ハーヴェイ、そしてプエルトリコのハリケーン・マリアに、ほとんど何もしなかった。推定2975人が犠牲となった。
それは気候変動の予兆でしかない。
● 世界金融危機から10年
PS Sep 7, 2018
Crash Time
KENNETH
ROGOFF
リーマンショック、世界金融危機から10年が経って、多くの教訓が学ばれた。経済史は、われわれが不確実な世界に生きる、限界のある存在であること、を教えてくれる。
コロンビア大学のトゥーズAdam Toozeは、金融危機からドナルド・トランプにまで至る時代を描いている。そして何よりも危機に対するグローバルな財政政策の失敗を批判している。彼は明確な定義もしないまま、「緊縮」という言葉を102回も使用している。緊縮は、政府が支出や債務を減らすという意味なのか? あるいは、支出や債務の増加率を抑えるだけなのか? トゥーズは多くの政策や事件にこの言葉を使っている。
Adam
Tooze, Crashed: How a Decade of Financial Crises Changed the World, Penguin
Random House, 2018
重要な言葉をいい加減に使用するのは問題だ。より広い意味で、彼の本は、経済学の議論について経済や歴史の一次資料を使わず、左派寄りの評論に依拠することで書かれており、偏っている。バランスの取れた学術研究とは言えない。
たとえば、ユーロ危機に関して、現代民主主義国に押し付けられた、もっともひどい債務処理プログラムとしてギリシャのケースを取り上げている。トロイカ、すなわち、IMF、ECB、欧州委員会が、とんでもない債務を押し付けた、というのだ。これは間違いである。事実は逆であった。ギリシャは民間金融市場で資金を得られず、トロイカがそれを与えたのだ。
私は全体としてトゥーズの説明を支持する。ヨーロッパはギリシャの債務を免除するべきだった。デフォルトやインフレ、金融抑圧がないまま、成長を回復した重債務国は少ないからだ。しかし、豊かなドイツが貧しいギリシャから債務を搾り取ったような話は、まったくのでたらめだ。ギリシャは返済する以上に、債権諸国から新規ローンと資金を得たのであった。
IMF融資の条件は、1990年代の東アジアに行われた融資に比べて、ずっと柔軟なものだった。ギリシャが緊縮に苦しんだ理由は、危機までにギリシャ政府が放漫財政を続けたからであった。それはトロイカの残酷な要求の結果ではなかった。
トゥーズは、Joseph E. Stiglitz や
Paul Krugmanのようなノーベル賞受賞者を賛美する。ギリシャ政府は彼らの助言を受けていた。しかし、ドイツやトロイカを激しく非難したチプラス政権が、その交渉姿勢に必要な、正しい情報を得ていたとは思えない。ギリシャは融資を必要としていたし、ユーロ圏を離脱することは破局でしかなく、多年にわたる協力を必要としていたからだ。
NYT Sept. 7, 2018
What We Need to Fight the Next
Financial Crisis
By Ben S.
Bernanke, Timothy F. Geithner and Henry M. Paulson Jr.
金融パニックでは、投資家がすべての資産に対する信用を失う。そして、最も安全な、最も流動的な資産に逃避する。リスクのある資産価格は暴落し、新規の融資は利用できず、労働者、住宅所有者、貯蓄者にとって悲惨な結果となる。
最も危険なことは、何兆ドルものリスク資産が、保証のない、短期資金であったことだ。金融システムが取り付けにとても弱くなっていた。規制システムはバルカン化し、政策の権限も制約があって行動できなかった。
経済のパフォーマンスにも問題があった。生産性上昇、賃金、社会的移動性が悪化していた。
われわれは危機を予測できなかったが、危機に対する行動は早かった。伝統的な最後の貸し手として、連銀は大量の短期資金を提供した。財務省、預金保険、議会もそうだ。住宅市場、モーゲージ市場を支持し、強力な財政刺激を承認した。
次の危機はどうか? 金融システムは規制によって強化され、危機が起きにくくなった。しかし、危機が起きた場合、その被害を抑えるために、財務省や規制当局には介入手段が必要だ。
議会が税金の使用に厳格なチェックを求めるのは当然だが、金融危機への行動を阻むことは間違いだ。
The Guardian, Sun 9 Sep 2018
Ten years on, capitalism might not
survive the shock of another Lehman
Will
Hutton
ダーリングAlistair Darling蔵相が、バークレイズによる投資銀行リーマンブラザーズの買収という、まったく愚かな案を葬った。その買収は債務の規模と複雑さにより、両者を破滅させただけでなく、イギリスの銀行システムをも巻き込んだだろう。賽は投げられたのだ。
金融危機に至る極度の愚かさは、150年前に破たんしたOverend,
Gurney & Coの重役について、ウォルター・バジョットも書いたことだ。自由市場エコノミストや保守派政治家たち、金融界のエスタブリシュメントが前提してきたことは、すべて、愚か者たちの宣伝したイデオロギーでしかなかった。
しかし彼らが犯した失敗の代価は、広く社会が支払うことになった。略奪者たちは何も苦しまなかった。損失は国有化され、利益は私物化された。資本主義は、価値を創造するシステムから、略取するシステムに変わった。
彼らはあまりにも少ししか学ばず、ほとんど何も改革しなかった。
資本主義は生き延びることができなかった。グローバリゼーションが逆転し、保護主義が広がっている。われわれはリスクを最小化し、経済の在り方を転換しなければならない。
NYT Sept. 12, 2018
Botching the Great Recession
By Paul
Krugman
金融市場が崩壊したとき、そのダメージを抑制した。銀行救済だ。それはもっと公平になされるべきだった。救済が多過ぎたが、その効果はあった。緊急融資や、アメリカ以外の中央銀行を通じたドル供給の維持も重要であった。
実際、金融的な指標では危機は急速に鎮静化した。2009年の夏には正常に戻った。しかし、経済全体は回復しなかった。高い失業率が多年にわたって続いた。
それは、金融市場の混乱ではなく、住宅バブルの崩壊が不況の核心であったからだ。投資が減り、人々の資産と消費を減らしていた。
民間消費が減り、金融政策は金利がゼロになって機能しない。われわれは財政刺激策を必要としていた。なぜ財政政策はふさわしいものにならなかったのか?
1.オバマ政権が不十分だった。大規模赤字に政権内部でも反対があった。2.財政赤字のGDP比に関するヒステリーがあった。3.共和党が邪魔した。自分たちが権力を得たときは、富裕層のための減税を平気で支持するのだが。
それは、残念な、醜い、話である。次の危機でも繰り返されるだろう。
PS Sep 13, 2018
The Makings of a 2020 Recession and
Financial Crisis
NOURIEL
ROUBINI, BRUNELLO ROSA
重要な問題は、何が次の世界不況、金融危機の引き金となるか? それはいつ起きるのか? である。現在のグローバルな拡大は来年も続くだろう。しかし、2020年までに、次の不況と危機の条件がそろう。
その10の理由がある。
1.アメリカの成長率をその潜在的な2%より高くしている景気刺激策が、持続可能ではない。
2.刺激策のタイミングが間違っていることから、アメリカ経済はオーバーヒートし、インフレが高まっている。FRBは金利を引き上げ、ドル高になる。インフレは原油価格などに波及し、主要諸国も金利引き上げに同調する。
3.トランプ政権が中国、ヨーロッパ、メキシコ、カナダなどと貿易摩擦を強めることで、成長が減速し、インフレは高まる。
4.トランプ政権が内外の投資や技術移転を規制し、サプライチェーンを妨げ、移民を規制し、グリーン・エコノミーへの投資を妨げ、ボトルネック解消のインフラ投資計画を示さないことは、スタグフレーションと高金利をもたらす。
5.アメリカ、中国(債務依存)、新興市場(輸出依存)には成長減速に向かう理由があり、アメリカ以外の世界で成長率が低下する。
6.金融引き締めと保護主義により、ヨーロッパの成長も減速する。ポピュリスト政権がユーロ圏内の債務問題を持続不可能にする恐れがある。イタリア、その他は、ユーロ圏離脱に追い込まれるかもしれない。
7.アメリカと世界の株式市場はバブルである。多くの新興市場や他の先進経済でも、レバレッジが過剰である。
8.いったん調整が始まると、流動性の枯渇、投げ売り、暴落のリスクがさらに強い。その場合も、アメリカ連銀は外国の金融部門に対する最後の貸手をもはや引き受けないだろう。
9.トランプはすでに連銀を攻撃している。2020年の選挙で彼が何をするだろうか? 成長が減速し、失業率が高まってくる。外交政策を利用して、戦争を起こすかもしれない。中国とはすでに貿易戦争を始めており、核武装した北朝鮮との戦争を好まないなら、標的はイランである。それは1973年,1979年,1990年の石油危機に劣らず、スタグフレーションと地政学的な危機を生じる。
10.本格的な危機が起きても、政策担当者たちに利用できる手段は限られている。政府債務水準は高く、非正統的な金融緩和の余地は小さい。ポピュリストの力が強い、支払い能力のない政府には、金融部門を救済できない。
● 中国に革命を
NYT Sept. 7, 2018
Could There Be Another Chinese
Revolution?
By
Yi-Zheng Lian
習近平主席に対する不満が渦巻いている。北京でもそうだ。
共産党内には、習近平が依拠する「赤い貴族派」と、江沢民が率いた、胡錦濤、温家宝のような「平民派」の、2つの派閥がある。ロシア革命の歴史を観ても、中国の歴代王朝を観ても、これら2つの派閥が権力闘争を展開した。
「赤い貴族派」は中華人民共和国の革命を担った人々の子孫だ。文化大革命で地位を失ったが、毛沢東の死後、復活した。その限界は、彼らが4万人ほどしかいないことだ。共産党による政治と経済の支配を追及する。「平民派」は、革革命家の系譜にない官僚たちであり、毛沢東やケ小平によって弾圧されたが、復活してきた。改革開放の時代に富を蓄積し、それゆえ市場に対して肯定的である。
習近平の腐敗撲滅キャンペーンは「平民派」を支配するものだった。その政治統制と既得権の集積の先には何があるか? 中国の王朝が腐敗し、滅亡するときに、地域で反乱を起こしたのは各地の商工業者たちだ。
習近平の権力集中やイデオロギー教育にもかかわらず、その闘争は終わらない。
● 大坂ナオミ
NYT Sept. 9, 2018
In U.S. Open Victory, Naomi Osaka
Pushes Japan to Redefine Japanese
By Motoko
Rich
大坂ナオミは、本当に、日本人のチャンピオンなのか? と多くの視聴者は思った。3年前、日本のミス・ユニバース・コンテストで、半分黒人のAriana Miyamotoが優勝したとき、その選考を批判する声があった。
日本人は「ハーフ」と呼び、半分だけ日本人、という意味で劣った者とみている。しかし、人口減少し、高齢化する日本では、もっと柔軟な日本人のイメージを模索し始めている。ナオミはそれを加速するだろう。
NYT Sept. 12, 2018
How ‘Hyphenated Americans’ Won World
War I
By
Geoffrey Wawro
第1次世界大戦でアメリカが参戦したことが、ドイツではなく、連合諸国を勝利に導いた。アメリカ軍が来なければ、戦線は膠着し、たとえドイツが勝利しなくても、フランス、ベルギー、ロシアの多くの領土がドイツに支配されただろう。
アメリカ軍はそのために多大のコストを支払った。2万9000人の死者を含む、12万2000人が死傷した。
100万人を超えるアメリカ人がヨーロッパの戦場で戦ったことは驚きであるが、それ以上に、驚くべきはその男たちが、まるで外国の軍隊と思えるほど、外国生まれのアメリカ人からできていたことだ。
当時は大規模なアメリカ移民の波が起きていた。南北戦争がはじまったころ、白人の国として、国民の60%はイギリス出身、35%はドイツ出身であった。しかし、第1次世界大戦に向かう「人種のるつぼ」を経て、イギリス11%、ドイツ20%、イタリアとヒスパニック30%、スラブ34%であった。
攻撃する際、ドイツ軍は敵のマルチ・エスニックという性格を宣伝し、利用した。「ハーフ・アメリカン」として冷笑していた。アメリカ人の多くも「メルティング・ポット」を軽蔑していた。
しかし彼らは素晴らしい兵士たちであった。49の異なる言語を含んだが、彼らは訓練や指令を難しくしたとしても、アメリカ兵に劣らず、勇敢で、死を恐れなかった。戦場では分裂するだろう、というドイツ軍の予想は間違っていた。
● 自由貿易に反対する
PS Sep 10, 2018
The Real Problem with Free Trade
JAYATI
GHOSH
自由貿易は、人々がその利益を理解せずに反対している、と主張する者がいる。これは単純すぎる。たとえ自由貿易が広い意味で有益であるとしても、貿易が自由化するほど、不平等が悪化するかもしれない。
その主要な理由は、現在の世界貿易ルールが、ますます貿易における多くの付加価値を少数の大企業が得るようにすることだ。特に、グローバルなバリュー・チェーンが拡大すると、強力な多国籍企業はデザイン、生産、財とサービスの流通について支配するようになる。さまざまな部分を、最終市場から遠く離れた、小規模企業にアウトソーシングするのだ。
こうした多国籍企業は、しばしば、知的所有権の独占により利益を得ている。それが自由貿易協定でも強化される。そして、彼らは莫大な経済的レントを集積できる。
他方で、生産領域では、ますます激化する競争が価格を抑え、雇用主であれ労働者であれ、直接生産者の価値の取り分は減少する。多くの発展途上諸国がこのシステムに組み込まれ、バリュー・チェーンの低生産性部門に集中する。そこではわずかな経済価値しか生み出さず、広範な技術の高度化を促すことは困難だ。
UNCTADの調査によれば、グローバリゼーションは輸出における国内の付加価値シェアを減らし、労働による国内付加価値シェアを保っている。それは、中国やインドの参加により、グローバルな労働供給が劇的に増大したこと、労働に対する資本の交渉力が強まったことを意味する。
その顕著な例外は、中国だ。国内の付加価値シェアを増大させ、労働者の条件を改善するために、産業政策を積極的に行使した。皮肉なことに、自由貿易のマイナス面を抑えるこうした政策を、トランプは非難している。
自由貿易を通じて少数のグローバル企業にパワーが集中することで、各国は工業化することがむつかしくなった。国際商品のブームから利益を得にくくなったし、その価格下落から生産者を保護できなくなった。過剰な資源採取、汚染、環境破壊が広がった。低価格から利益を受ける消費者も、巨大な市場支配力に従うしかない。
グローバル企業は、各国の規制、経済政策、税制にまで影響を与える。国家は弱体化し、多数者よりも、少数者の利益に奉仕する。自由貿易の「敗者」がその損失を補償されることもない。
自由貿易のもたらす深刻な歪みを考えれば、それに反対することには理由がある。
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The Economist August 25th 2018
Hyperinflation in
Venezuela: Maduro’s magic money tree
People and
borders: A way forward on immigration
Immigration:
Crossing continents
Venezuela’s
exodus: The Bolivarian wave
Sweden’s
elections: Moving in, moving right
Liberal
thinkers: Schumpeter, Popper, Hayek: The exiles fight back
Free exchange:
A question of balance
(コメント) ヴェネズエラをめぐるハイパーインフレーションや難民の話は驚きであり、考えさせられる現実です。ユーロ圏内の経常収支不均衡を調整する問題についても。
しかし、もっとも刺激を受けるのは移民論争をめぐる政策の転換です。アメリカ、スウェーデン、アラブ首長国連邦をケースとして取り上げ、興味深い議論を提供します。私は移民論争を以前から注目しており、その意味でも、今が国際移民システムの誕生期なのだと感じます。移民は、ルールに従って、社会保障システムから切り離した形で、あるいは、もっと明確に、移民が来ることで財政的にも経済機会においても、既存住民が利益を受けるように、制度化されることを求めています。
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IPEの想像力 9/17/18
私たちは、この人たちの何を称賛し、何を楽しむのでしょうか?
その国籍が「日本」であることを、「日本人」への称賛として共有し、誇りに思う気持ちがあるのでしょう。しかし、「単一民族国家」や「同質性」「協調性」を重視する上からの締め付けは、どこかで違和感を生じ、空白を積み重ねます。
賞金、契約金の大きさに驚き、その成功を称える気持ちもあるでしょう。スポーツがプロ化して、ビジネスとして興行される世界では、ロナウドやメッシに限らず、莫大な富や投資、広告収入と、タックスヘイブンの話につながります。
プレーを楽しみたい、と思う人も多いのでしょう。あるいは、彼女の個性、若く、かわいらしい、シャイな人柄を、自分の娘や友人にもいてほしいな、と思うわけです。そうじゃない日本人はいっぱいいますし、むしろ珍しい「日本人」ですが、だからこそ。
「ハーフ」とは何か? 戦争によって苦しみ、死を恐れずに戦った「外国生まれ」の兵士たちに、尋ねてみたいです。
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北アルプス、薬師岳に登りました。濃霧の中、山頂を踏めずに下山し、雨に濡れて風邪をひきましたが。
「日本人」というのは、歴史的な心象風景なのかもしれません。美しい田んぼや、雨に濡れた森林の輝き、自然崇拝や農耕のリズムで、人々は感じ、考えました。
しかし、この景色は、同時に、天災が続く条件でした。大雨、台風、地震、と災害が襲い、避難する高齢者や捨てられた農産物、酪農や漁港の被災に関するニュースが続きました。
天災ではなく、人による気候変動、インフラの劣化、人災なのかもしれません。それを恐れつつも、不安な人々を励ますように、ボランティアのニュースが繰り返し流れます。
シェアハウスの記事を読みました。ボランティアに訪れる人を助ける宿泊施設のネットワークです。海外では、簡易宿泊施設として広がっている、と言います。2段ベッドが並ぶ相部屋の宿泊者は、互いの情報を交換して、旅やボランティアに生かすそうです。
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新聞を観ると、育毛剤、シミが消える、若返る、男の精力剤、グループ旅行、スポーツのプロ・リーグといった広告が紙面を埋めます。
高齢化し、個々の不満や楽しみを中心に、国際事情や社会変化とは切り離されて、ショッピングに頼って生活する、そんな社会のイメージでしょうか?
社会保障システムについて、衣食住について、高齢者の不安がニュースの多くであることから、若者たちや子供までが、こうした時代精神に染まるだろう、と思いました。
あるサイト(Migration
Policy Institute)で、世界の移民がどこからどこへ向かうか、図を示してありました。日本に流入する規模は、他国に比べて、決して劣りません。23万9000人。それはフィリピンが世界各地に送り出す労働者たちの図解にある日本です。
ナショナルミニマムやベーシックインカムの思想は、国家の閉塞感を破り、多様な政治的共同体に向かう声として、変容し、浸透していくのではないでしょうか。
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「2018佐渡祐とスーパーキッズ・オーケストラ」を観ました。すばらしい。
彼女たち(参加者と佐渡裕をつなぐ責任者は女子高校生です)は、バッハの「シャコンヌ」を練習しました。高度な演奏技術と、人生への深い感情が必要な曲である、と言います。
彼女をはじめ、参加者たちの眼から、演奏中に涙がこぼれ落ちました。練習中も、喰い入るように指揮者の姿を追い、一言も漏らさず、その言葉を吸収しようとします。笑顔までが熱く、真剣さでいっぱいでした。
人間の持つエネルギーを、大きく開花させ、その可能性を情熱的に追い求める、音楽がこれほど素晴らしい時間と空間を生み出せることに、私は脱帽します。
私たちは、この人たちの何を称賛し、何を楽しむのでしょうか?
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