IPEの果樹園2018

今週のReview

9/3-8

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ジョン・マッケイン訃報 ・・・ギリシャ救済融資 ・・・中国とアジアの軍拡 ・・・中国のアフリカ投資 ・・・アメリカの次の不況 ・・・大幅な経常赤字・黒字 ・・・北欧の混合経済 ・・・インドのルピー ・・・トランプ支持者に示す政策

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ジョン・マッケイン訃報

NYT Aug. 25, 2018

John McCain, a Maverick We Can Learn From

By Nicholas Kristof

ジョン・マッケインの最も勇敢であった瞬間は、北ベトナムで戦争捕虜になって、ほとんど死にかけていたときではない。そのとき彼は、衰弱と高熱、両手の骨折、片足の骨折に苦しみ、膝が砕かれていた。それでも彼を捕虜にしたことに抗議し、一層厳しい扱いを受けた。

そのときではなく、むしろ、それは2007-08年に共和党の大統領候補を争ったときだ。世論調査では、共和党支持者の3分の2が拷問を支持していた。それでもマッケインはこの問題でチェイニー副大統領と論争し、繰り返し拷問に反対した。

論争では、極端な尋問はジュネーブ協定だけでなく「既存の法律に違反する」と、マッケインはアイオワの有権者に語った。「私は敵がどれほど邪悪であるか知っている。」 そして付け加えた。「これは、アメリカ合衆国がどのような国であるか、ということについて非常に基本的なことなのだ。」

これこそ有権者が聞きたくないことだった。当時、民主党員でさえ、多くは拷問を非難しなかった。新聞社は「拷問」という言葉を使わなかった。

しかし、2007年の共和党大統領候補は、「水責め(拷問)」に関して有権者に反論し、アルカイダのテロリストという疑いをかけられた者の権利を支持して立ち上がったのだ。これこそ政治的勇気であり、道義をともなう指導力である。われわれはマッケインから学んだ。

私は多くの問題でマッケインと意見が対立した。彼は保守派で、私はリベラルだ。しかしすべての対立を超えて、私は彼を称賛した。その道徳心に従うガッツ、情熱、決断力。彼の死は、ワシントンに巨大な穴を残した。

2008年、大統領選挙のビデオを観ることだ。ある男性が、「オバマが大統領になることにわれわれは怯えている」と言った。マッケインはその人物に反対した。「彼(オバマ)は立派な男である。アメリカ大統領になっても、あなたが怯えることはない。」

そのとき、ある女性が声を上げた。彼女はオバマを信じることができない、と。彼はアラブなのだから。

マッケインは言う。「いいえ、奥さん」と。「彼は家族を大事にする立派な男であり、私とたまたま重要な諸問題で意見が対立する1人の市民なのです。それこそ、この選挙が行われている理由なのです。」

ワシントンには、大衆が望むものを望み、それを率先して駆け出す政治家が多い。マッケインは違った。あえて有権者の気持ちに反しても、攻撃にさらされるシリア市民、選挙資金、移民問題といった不可能な問題に挑んだ。矛盾することもあったが、彼は必死にアメリカを指導するために奮闘した。


 ギリシャ救済融資

The Guardian, Sun 26 Aug 2018

Greece was never bailed out – it remains locked in an EU debtor's prison

Yanis Varoufakis

この1週間、世界のメディアは、2010年に始まった、EUIMFによるギリシャの金融救済プログラムが成功した、と主張してきた。ギリシャ救済の成功、緊縮の終わり、とまで言う。

この現実が違ったものであることを示す、事実を注意深く見ることだ。新しく42年間(2018-2060年)の厳しい緊縮と債務による拘束に、破滅したギリシャが入ったことを、いったい、どうやったら緊縮の終わり、ギリシャの金融的独立とみなせるのか?

救済という言葉が間違っている。2008年に銀行業が破たんしたとき、ほとんどすべての政府が銀行を救済した。英米では、政府が顕著な形で、それぞれ、イングランド銀行、アメリカ連銀に青信号を示し、銀行が破たんしないように莫大な公的資金を印刷することを許した。さらに英米政府は、巨額の資金を借りて破たんしそうな銀行を支援した。その資金の多くは中央銀行が融資した。

他方、ヨーロッパ大陸では、もっとひどいドラマが展開された。それは1998年にさかのぼる通貨同盟の成立に関するEUの決定が、政治的な支持を与える国家のない中央銀行ECBと、金融危機に際してそれぞれ自国の銀行を救済する責任があっても、中央銀行を持たない19の政府という仕組みを与えたからだ。

なぜこんな奇妙な仕組みなのか? それは、いかなる中央銀行も銀行や政府、たとえば、イタリア政府やギリシャ政府、に対して融資してはならない、というのが、ドイツがマルクをユーロに代えることに付けた条件であったからだ。

だから、2009年にドイツやフランスの銀行がウォール街やシティよりもさらに支払い不能であるが、これを救済する中央銀行も政治的な意志もない、とわかったとき、ドイツのメルケル首相はパニックになった。ドイツ政府は銀行のために公的資金を4060億ユーロも投入したのだ。

だが、それでも足りなかった。数か月後、メルケルの補佐官たちは、ドイツの銀行と同様に、ギリシャの国家が過剰な債務を負って、その債務を借り換えできなくなる、と知らせた。もしギリシャが破産を宣言したら、イタリア、アイルランド、スペイン、ポルトガルも破産し、その結果、ベルリンとパリは自国の銀行を救済するために1兆ユーロを要しただろう。

返済するという嘘を維持するため、支払い不能のアテネを、「ギリシャ人への連帯」というごまかしで、人類史上最大の融資が、ドイツとフランスの銀行を救済するために即座に承認された。ドイツ議会の怒りを鎮めるため、この巨大な融資にはギリシャ国民の野蛮な緊縮策と、それがもたらす永久の大不況が条件として付けられた。

要するに、ヨーロッパで最も貧しい国民を犠牲にしてドイツとフランスの銀行を救済し、ギリシャを債務者の監獄に入れた後、先週、ギリシャの債権者たちは勝利を宣言したのだ。ギリシャがこん睡状態にあることを、彼らは永久に維持し、「安定」と呼ぶ。彼らはギリシャ人民を崖から突き落とし、大不況の岩に跳ね返る様子を「回復」と称賛する。

タキトゥスを引用しよう。「奴らは砂漠をつくって、それを平和と呼んだ。」

FT AUGUST 29, 2018

Populism was not sparked by the financial crisis

Janan Ganesh

時間の経過が精神を集中させるから、バラバラな事件のつながりを金融危機として意識するとき、リーマンブラザーズの倒産が記憶される。来月で10周年だ。

しかし、この10周年は恣意的だ。倒産事件が他のすべての事件の原因ではない。ドナルド・トランプがホワイトハウスに入るに至った政治的な意気消沈が、このときに始まったとされている。スティーブ・バノンは、それが「マッチを擦って、爆発が起きた。トランプだ。」

この都合のよい説明は、危機前に中道派が怠慢であったこと、危機後に潰走したことを誇張するものだ。右派のポピュリストたちは1994年に共和党が議会を制圧するころには勢力を広めていた。トランプは金融危機の前から、貿易問題を取り上げ、アメリカの弱腰を批判していた。政治エリートたちを、危機前から、愚か者と詐欺師とみなしていた。有権者たちはそれを信じていた。

現代のポピュリズムは2008年に誕生したわけではない。トランプは有権者に広まる政治的不信感を自分の武器にした。その由来は明白だ。世論調査は、政府に対する信頼を、20世紀の半ばから示している。1964年、およそ77%が、政府を信頼する、と答えた。それはリンドン・ジョンソン大統領が米地上軍をベトナムに送った前年だ。10年後に、その率は半減した。ウォーターゲート事件後、さらに低下し、昨年は、18%であった。

ウォール街を規制し、金利を決める者として、政府・金融当局は金融バブルとその後の破壊に責任があった。しかし、銀行を支援し、景気刺激策を出すことで、不況を緩和した。ベトナム戦争における政府の記録は、技術的な無能さ、勝利の間違った予測、など、弁解できないものだった。また、経済的な苦痛は戦死者と全く異なる。

50年前に、シカゴで民主党の全国大会があった。反戦デモと州警察とが暴力的に対峙していた。作家のノーマン・メイラーは「われわれは40年戦い続けるだろう」と書いた。しかし、それはアメリカと北ベトナム人民との戦いではなく、アメリカ人民とその政府との戦いでもない、と。

後者に関して、10年以上、彼の計算は間違っていた。


 中国とアジアの軍拡

FT August 26, 2018

Battle stations: Asia’s arms race hots up

Jamie Smyth in Sydney

北京が軍備の近代化と紛争海域における領土的主張を10年にわたって強めてきたことは、近隣諸国の軍備強化を刺激している。

「中国の経済・軍事・戦略的な力が急速に増大することで生じた不安と不確実さが、この地域で最近、軍備増強が関心を高めていることの背景である。」 その規模と速さが新しい、不安定化をもたらす軍備拡大競争のリスクを高めている。

軍備強化と並行して、伝統的な同盟関係の再編が起きている。オーストラリアは地域の大国である日本やインドとの関係を強化するだけでなく、シンガポール、フィリピン、インドネシアなどのASEAN諸国とも関係を築いている。それは中国の経済・軍事的な強大化に対する防壁を得るためである。

「だれもが他国のすることに反応している。だれが始めたにせよ、その趨勢に遅れることは望まないし、そんなつもりはない。昔から言われることだが、平和を望むなら、戦争に備えよ。」

しかし、軍事支出の増大は、制御不能の「軍備拡大競争」を意味しない。各国は基本的に、GDPの増大に比例して軍事費を増やしている。それは冷戦の頃とは異なる。

トランプの姿勢は問題を悪化させている。しかし、「彼は問題の兆候でしかなく、問題を生み出しているのではない。」 外交的不確実性は、第2次世界大戦にさかのぼる地域の同盟関係を再考させている。インド、アメリカ、日本、オーストラリアは「4極」として、中国のパワーと影響力に対抗して制度化された。2016年、オバマ政権はベトナムに対する武器禁輸を廃止し、これに対してハノイは、ベトナム戦争終結以来、初めて、アメリカの戦艦が入港することを認めた。

「われわれはアジアにおける伝統的な防衛同盟を離脱しつつある。それはアメリカとの2国間パートナーシップが基本であった。諸国が軍備拡大競争に参加する中で、地域を包括する防衛関係が、特に、日本、インド、オーストラリアが中国に対抗する防壁を模索している。」

「しかし、ここにはパラドックスがある。」・・・「彼らが新しい軍備のために軍事費を増やせるのは、中国の成長による利益を受けるときだけだ。言い換えれば、彼らは中国に対して防衛するのだが、同時に、中国の成功に依存している。」


 中国のアフリカ投資

FT August 27, 2018

The Chinese model is failing Africa

Luke Patey

中国のアフリカ投資には問題がある。すでに10年ほど前に、中国はアメリカを抜いて、アフリカの最大の貿易相手国になった。昨年、そのアフリカ・中国の輸出入額は1700億ドル、アメリカとの貿易額の4倍であった。

しかし、中国の関与はアフリカの将来の経済発展を犠牲にするものである。

一帯一路戦略の前でも、中国はスーダンの水力発電所や、ナイジェリア、エチオピアの鉄道建設を行った。戦略的に重要な字プチには、初めて海外軍事基地を設けた。

習近平主席には、中国を発展途上世界の政治。・済モデルにする、という意欲がある。中国がインフラに融資し、建設することで、その後のアフリカの工業化と発展を加速するのだ。

しかし、中国が建設したインフラは、経済発展のための効果的なインフラとして、その基準を満たさず、しかも、ケニヤで建設した鉄道は、旧軌道に基づく標準的なコストの3倍もする、新設計画であった。巨大なインフラ計画は債務問題を悪化させている。

アフリカは中国からの製造業の移転、投資と雇用を期待していた。しかし、中国企業は機械化に向かうか、アフリカではなく東南アジアへの移転を進めている。


 Brexit

FT September 1, 2018

How Thatcher’s Bruges speech put Britain on the road to Brexit

David Willetts

198898日、欧州委員会の議長であったジャック・ドロールは、イギリスの労働組合大会で語った。イギリスの労働運動は、「ユニークなヨーロッパ社会モデル」を受け入れるべきだ。そして、「社会的権利を保障するプラットフォーム」として欧州委員会を支持するべきだ、と。

その12日後、マーガレット・サッチャーはブルージュ演説で返答した。「イギリスの運命はヨーロッパの中にある」と彼女は認めながらも、当時のECが何に向かうのか、ドロールが示した方向に疑問を表した。ローマ条約は「経済的自由に向けた憲章」であったが、ヨーロッパの最近の優先目標、すなわち、単一市場を超えて、「社会的ヨーロッパ」や単一通貨の建設は、集団主義やコーポラティズムを導入する試みであり、「ヨーロッパの複合体に権力を集中する」ものである、と。


 アメリカの次の不況

PS Aug 27, 2018

The Depth of the Next US Recession

JEFFREY FRANKEL

アメリカの次の不況は厳しいものになるだろう。

アメリカの成長率は4.1%に達している。世界的な企業の高い債務依存やアメリカの株式市場を考慮すれば、株価の下落が不況をもたらすかもしれない。そのようなショックは、インフレを再燃させるか、貿易戦争を激化する形で、トランプ大統領が自ら生み出すかもしれない。あるいは、トルコの通貨危機のように、海外から起きるかもしれない。

その引き金が何であれ、アメリカの不況が厳しくなる理由は単純だ。アメリカ政府の財政政策、マクロ・プルーデンシャル、さらに、金融政策までが、景気変動と同じ方向で、それを強める性格に変わったからだ。

PS Aug 28, 2018

The Myth of Secular Stagnation

JOSEPH E. STIGLITZ

2008年の金融危機の後、アメリカは「長期停滞」に入る、というエコノミストたちが現れた。それは大不況の後に初めて主張された。景気回復は第2次世界大戦が起きるまで実現せず、戦争が終われば、経済は再び停滞する、と恐れたのだ。

こうした不吉な予測は間違いだった。

2008年の景気回復に責任ある者たちは(危機前に規制を甘くした責任者たちであったが)、急速かつ堅固な回復が生じなくても、自分たちは責められない点で、長期停滞論を好んだ。

オバマ政権は、もっと大規模な、長期の、より良い構造の、弾力的な景気刺激策を取らなかった、という決定的な失策を犯した。より大きな銀行の救済策ではなく、金融システムの根本的な改革が必要だった。より多くの政府支出だけでなく、より積極的な所得再分配が必要だった。

しかし政治家たちは、貧しい人々が住宅を失うことも十分に防がなかった。この政治的な失敗の結果は十分に予測されたことだ。彼らはデマゴーグたちに関心を向けたのだ。

成長は回復するのか? その主要な条件は、技術革新であり、研究開発への投資である。そこには多くの不確実さがある。しかし、この挑戦は政治的なものだ。

経済を完全雇用状態で維持し、その成果を人々が共有することを妨げる理由は、本来、存在しないのだ。


 大幅な経常赤字・黒字

PS Aug 27, 2018

The Current Account Counts

STEPHEN S. ROACH

ますます相互に緊密な結びつきを深める世界で、国境を超える貿易や投資はかつてないほど重要になっている。経常収支は、国内の貯蓄と投資との差を示しており、こうした結びつきを理解する鍵である。経常収支のギャップはグローバルな不均衡を示し、金融危機の予兆となる。

大幅な経常赤字に苦しむ国は、国内の貯蓄不足であることが多い。経常収支の赤字国と黒字国の、どちらに不均衡の責任を問うべきか、論争が起きる。赤字国は国内貯蓄を無視して成長を外国から融資しており、黒字国は自国の生産物を外国市場で売ることで成長するという選択をしている。相互の非難合戦は、長期において、国際経済政策や貿易摩擦の中心にあり、特に今日、その不満を強めている。

アメリカは世界最大の経常赤字を出している。2000-2017年に、アメリカが出した経常赤字の合計は、91000億ドルに達する。これは、ドイツ、中国、日本の3大貿易黒字国の累計額89000億ドルより大きい。

アメリカは世界のために巨額の慢性的な経常赤字を出して会っている、と考える。しかし、私も含めて、アメリカの長期的な過剰消費性向に批判的な者もいる。黒字国はそれに付随しているだけだ。いずれの意見にも中身があり、アメリカの役割が不安定化することこそ重視されるべきだと思う。

アメリカの消費優先・貯蓄後回しの考え方が、その政治経済に深く埋め込まれている。アメリカの税制、資産バブルのもたらした富効果、がそうだ。黒字諸国はそれに便乗して喜んでいる。輸出を過剰に行うことで成長する国は、特にそうだ。

それが中国であり、アメリカのパターンと対照的だ。しかし、多くの点で、黒字国と赤字国とは共棲関係の下で繁栄していた。しかし、2008年に世界金融危機が起き、音楽が止まった。双方の非難は強まり、貿易戦争に向かっている。トランプ大統領の敵対的な姿勢は特に重要だ。

しかし、トランプ政権は、アメリカの慢性的な貯蓄不足に、巨額の連邦予算赤字を追加する。その中国に対する非難は的外れだ。中国よりもドイツの経常黒字の方が大きく、しかも、中国の黒字額は減少してきた。中国が次第に消費による成長にバランスを変えていくなら、貯蓄過剰から貯蓄不足を吸収する国になるだろう。それでもアメリカの赤字傾向は残されるだろう。中國ではなく、その他の世界はアメリカの赤字を埋めるだろうが、トランプ政権はますますグローバリゼーションから離脱しつつある。

歴史が示すように、経常収支不均衡を解決するには、グローバルな均衡を実現する大きな取引が必要だ。不均衡な世界は、この数年に、苦しい教訓を学ぶだろう。


 北欧の混合経済

FT AUGUST 28, 2018

What the Nordic mixed economy can teach today’s new left

Martin Sandbu

予想されたことだが、驚くべきことに、英米で「社会主義」が政治的に復活している。アメリカ人の若者の間では、「社会主義」が「資本主義」よりも好まれている。

しかし、「社会主義」とは何か? それは北欧型の社会民主主義のことだろうか? 国民皆保険制度や労働条件を改善する政策を実行する。あるいは、「社会主義」を唱えるとは労働者を解放することか? その場合、社会主義と資本主義とは敵対し、相容れないシステムとなる。

北欧諸国は「混合経済」とも呼ばれる。それは社会主義の要素と資本主義の要素とを組み合わせたものだ。生産手段の私的所有と国有、公的な規制と市場競争、再分配的な税制と労使協議による賃金の決定。

北欧モデルの特徴は3つある。第1に、グローバリゼーションを受け入れる。北欧の混合経済は、国際貿易に深く結びついた諸国で登場した。貿易は繁栄をもたらすが、グローバルな変動は厳しく、予測できないから、北欧型の福祉国家が保険として強く支持されたのだ。

2に、北欧の経済的平等主義は、市場による賃金決定を高度に圧縮する。これに比べて、資産や資本取得の分配、政策による所得の平等化は普通のことである。北欧が成功したのは、大幅な再分配政策によるのではなく、国家が再分配に過度に関わらなくてもよいような経済を設計したからだ。

3の教訓は、北欧では、直接の国家介入ではなく、社会組織間で適切に均衡のとれた相互作用が、特に、労働市場で実現していることだ。労働組合だけでなく、経営者の組織化も進んでいる。双方で組織化が進むことは、個々の負担が業界全体の利益になることを認識できる点で優れている。

北欧諸国で賃金格差が抑制されていることは、生産性を高めるためにも有効である。高度な労働力が比較的安価であるなら、企業は投資を加速して新技術を採用する。組織された雇用主側は(新技術の採用と変動について)労働者、業界、政府が調整するのを助ける。

もしこれが社会主義であるとしたら、それはより弾力的な資本主義の誕生を促すものである。


 インドのルピー

FP AUGUST 30, 2018

Don’t Buy the Panic About the Rupee’s Fall

BY ARVIND PANAGARIYA

1月以来、インドのルピーは9%も減価した。ルピーの価値が減少したことで、メディアや政策関係者たちの手を縛り、アジア最悪のパフォーマンスを嘆いている。

しかし、インドの中央銀行は何かすべきだろうか? 為替レートを管理する責任があることで、その価値が下落するのを逆転させるのか? 私の答えは、No、である。

為替レートは自国の財価格と他国の同様の財価格とを交換する比率である。ドルに対するルピーの価値が下落すれば、インドの輸入財はルピー建て価格が上昇し、インドの輸出財はドル建て価格が下落する。それゆえ、輸入は減少し、輸出は増加するだろう。インドは巨額の貿易赤字を出しているから、これは良いことだ。貿易赤字は外国からの融資を増やし、対外債務を増やす。

さらに、ルピーの価値下落が望ましいかどうか、判断するには、インフレが問題になる。貿易相手国より高いインフレ率は競争力を失わせる。それゆえエコノミストたちは、実質為替レートを重視する。インドの実質為替レートは、主要な貿易相手国に対して、2014年と2018年初めの間に増価している。

これは懸念すべき副作用を持つ。第1に、財の多数は貿易されるが、サービスの多くは貿易されない。インド経済はサービス部門が支配的であるから、実質為替レートの上昇は財生産に不利、サービス生産に有利である。サービス部門が製造業ほど高賃金の雇用を増やさない点を重視し、モディ首相は批判し、「メイク・イン・インディア」キャンペーンを推進している。

2に、実質為替レートの上昇が政府に関税の引き上げを求める国内の政治圧力を強めることだ。それは正しいが、実質為替レートが是正されても、関税は残るだろう。むしろ正しい対応は、名目為替レートを低くして、輸出可能財や輸入と競争する財の生産を増やすことだ。この夏のルピー下落は、まさにそのようなことを意味する。

ルピーの価値が下がると、特に海外の投資家たちは、それを災難とみなして騒ぐ。しかし政策担当者としては、真にインドの利益が何か、を考えるべきだ。


 トランプ支持者に示す政策

FP AUGUST 30, 2018

Planning for the Post-Trump Wreckage

BY STEPHEN M. WALT

トランプの支持者たちを説得する最も良い方法は、もっと優れた政策・制度を示すことだ。

ドナルド・トランプ大統領が示す、無遠慮、腐敗、気まぐれな外交政策により、アメリカの長期的な世界構想力は損なわれている。彼は、アメリカが持つその制度的な能力を徐々に蝕んでいるのだ。それでも彼はすべての関心を自分に集める天才である。

外交専門家たちがトランプ後の世界を準備するのは、今でも、早すぎるとは思えない。それはトランプ以前の状態を維持するのではなく、新しい現実に応じた、われわれの未来を目指す条件についてアレンジすることだ。

1.大国間政治の構築 ・・・外交は未来に向けて動き始めている。アメリカはヨーロッパやアジアを放置するのか? NATO諸国や日本は、ロシアや中国を抑えるために地域のパートナーと組むのか? アメリカはモスクワと北京の間にくさびを打つのか? インドのような国はどのような役割を果たすのか?

今後数十年にわたり、どのような大国間関係が現実的であり、また、望ましいのか? 考え抜く必要がある。大国の指導者たちは、自分たちの利益を守りながら、大国間政治を想像し、理想的には軍事力を使うことなく、その構想を実現する必要がある。

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The Economist August 11th 2018

Stuck in the past

Democracy in America: Sign me up

Foreign direct investment: Prudence not protectionism

Land-value tax: On firmer ground

Liberal thinkers: Alexis de Tocqueville: The French exception

(コメント) 税制をめぐる欠陥は、金融危機や政治の混乱、ポピュリストたちの反乱にもつながります。もっと公平で、透明な税制はないのか? リベラルは昔から、土地に課税せよ、と求めてきました。ヘンリー・ジョージの土地に対する課税に注目している。不労所得であること、関連する公共投資や民間経済活動の隆盛によって利益を私物化すること、市場の効率性を損なうこと。

フランスの貴族でありながら、個人の自由を重視したトクヴィルが取り上げられています。政府は個人の自由を守らねばならないが、民主的な政府が自由を制限するかもしれない、という(フランス革命政府に関する)悲観論を克服するために、アメリカの民主主義に注目します。

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IPEの想像力 9/3/18

自民党総裁選挙のニュースは、いくつもの意味で不満です。

何より、これは事実上の日本の首相を決める選挙である、という説明が不満です。安倍や石破は自民党内の権力闘争をしているのであって、現に首相であることを放棄して、その時間や能力を党内の多数派工作に費やしているのです。こうした姿勢は、むしろ国民に対する犯罪行為です。

これは自民党内の、彼らが勝手に決めたルールに従う、権力争奪ゲームであって、何の公的な行事でもありません。いわば、夏祭りのようなものです。

その意味で、自分たちの都合の悪い話題には見向きもせず、自分たちの宣伝にしっかり協力し、互いの攻撃や、相手の主張を批判するふりをします。国民のためではなく、自民党の優位を得るために行っているのです。党内抗争としての潰し合いは、水面下で、金や地位、コネや利権、情報操作、(言葉や組織)恫喝や暴力を駆使して、すでに終わった話です。

党内ゲームの対外ショーは、日本の国政や公共放送、国民意識の形成に歪みを生じる、特殊利益の偽装である、と思います。自民党だけがそうではなく、アメリカの共和党も、イギリスの労働党も、ドイツの社会民主党も、習近平やモディでも、そうでしょう。

それが意味のある日本の(そして世界の)政治過程に役立つとしたら、批判的なメディアや有権者の問題意識、疑問や不満を、彼らが強く意識して、真剣になる条件がそろっているからです。自民党一強、安倍翼賛体制の中で、福島原発廃炉問題、沖縄基地問題、トランプ政権やプーチン政権との不透明な関係、北朝鮮の核兵器や拉致問題、安倍政権が進めた国内諸政策への評価は何もなく、実にいい加減にしか議論されていない、と私には見えました。

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安倍内閣の顧問になった浜田宏一が、かつてアベノミクス「3本の矢」を評価して、ABEと駄洒落にしたのは、欧米のメディアに関心を持ってもらう宣伝の一環でした。今もそうです。

Adam Posenは「1.日本の民間銀行が国債の購入を促された.2.それを支えるため,日本の預金者が低金利を耐えた.3.国債の外国人保有率が低く,日銀が購入を強いられたため,市場圧力が生じなかった.4GDPに占める政府支出と税収の規模が低かった.」と指摘しました。今もそうでしょうか。

安倍首相の本心では、保守主義・憲法改正と対中強硬論が最優先課題であり、The Economistの評価は妥当なものだと思いました.安倍首相の経済重視は,”only skin-deep である,と疑っていたのです.(IPEの想像力 3/18/13

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私は日本の問題を、「ABCDフィッピー」(A高齢化、B官僚制、C中国、Dデフレ、F財政赤字・債務累積、I不平等・貧困の拡大、P政治的混迷、Y若者)と示しました。

自民党が安倍晋三にぶらさがり、このまま議席を保持することを願うのであれば、野党やジャーナリストが積極的に応えてほしいです。日本各地を回って有権者の声をよく聴き、専門家たちの検討会を重ねて、諸問題を統一した形で、解決への道を示してください。そして、政府にもっと強く迫るべきでしょう。

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