IPEの果樹園2018

今週のReview

9/3-8

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ジョン・マッケイン訃報 ・・・ギリシャ救済融資 ・・・中国とアジアの軍拡 ・・・ネオリベラリズム ・・・中国のアフリカ投資 ・・・アメリカの次の不況 ・・・大幅な経常赤字・黒字 ・・・北欧の混合経済 ・・・インドのルピー ・・・トランプ支持者に示す政策 ・・・アルゼンチンとIMF

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ジョン・マッケイン訃報

NYT Aug. 25, 2018

John McCain, a Maverick We Can Learn From

By Nicholas Kristof

ジョン・マッケインの最も勇敢であった瞬間は、北ベトナムで戦争捕虜になって、ほとんど死にかけていたときではない。そのとき彼は、衰弱と高熱、両手の骨折、片足の骨折に苦しみ、膝が砕かれていた。それでも彼を捕虜にしたことに抗議し、一層厳しい扱いを受けた。

そのときではなく、むしろ、それは2007-08年に共和党の大統領候補を争ったときだ。世論調査では、共和党支持者の3分の2が拷問を支持していた。それでもマッケインはこの問題でチェイニー副大統領と論争し、繰り返し拷問に反対した。

論争では、極端な尋問はジュネーブ協定だけでなく「既存の法律に違反する」と、マッケインはアイオワの有権者に語った。「私は敵がどれほど邪悪であるか知っている。」 そして付け加えた。「これは、アメリカ合衆国がどのような国であるか、ということについて非常に基本的なことなのだ。」

これこそ有権者が聞きたくないことだった。当時、民主党員でさえ、多くは拷問を非難しなかった。新聞社は「拷問」という言葉を使わなかった。

しかし、2007年の共和党大統領候補は、「水責め(拷問)」に関して有権者に反論し、アルカイダのテロリストという疑いをかけられた者の権利を支持して立ち上がったのだ。これこそ政治的勇気であり、道義をともなう指導力である。われわれはマッケインから学んだ。

私は多くの問題でマッケインと意見が対立した。彼は保守派で、私はリベラルだ。しかしすべての対立を超えて、私は彼を称賛した。その道徳心に従うガッツ、情熱、決断力。彼の死は、ワシントンに巨大な穴を残した。

2008年、大統領選挙のビデオを観ることだ。ある男性が、「オバマが大統領になることにわれわれは怯えている」と言った。マッケインはその人物に反対した。「彼(オバマ)は立派な男である。アメリカ大統領になっても、あなたが怯えることはない。」

そのとき、ある女性が声を上げた。彼女はオバマを信じることができない、と。彼はアラブなのだから。

マッケインは言う。「いいえ、奥さん」と。「彼は家族を大事にする立派な男であり、私とたまたま重要な諸問題で意見が対立する1人の市民なのです。それこそ、この選挙が行われている理由なのです。」

ワシントンには、大衆が望むものを望み、それを率先して駆け出す政治家が多い。マッケインは違った。あえて有権者の気持ちに反しても、攻撃にさらされるシリア市民、選挙資金、移民問題といった不可能な問題に挑んだ。矛盾することもあったが、彼は必死にアメリカを指導するために奮闘した。

FT August 26, 2018

John McCain, Republican senator, 1936-2018

Jurek Martin in Washington

NYT Aug. 26, 2018

John McCain’s Parting Message: Our Greatness Is in Peril

By David Leonhardt

FP AUGUST 26, 2018

John McCain Was Always There for America

By Will Inboden


 ギリシャ救済融資

The Guardian, Sun 26 Aug 2018

Greece was never bailed out – it remains locked in an EU debtor's prison

Yanis Varoufakis

この1週間、世界のメディアは、2010年に始まった、EUIMFによるギリシャの金融救済プログラムが成功した、と主張してきた。ギリシャ救済の成功、緊縮の終わり、とまで言う。

この現実が違ったものであることを示す、事実を注意深く見ることだ。新しく42年間(2018-2060年)の厳しい緊縮と債務による拘束に、破滅したギリシャが入ったことを、いったい、どうやったら緊縮の終わり、ギリシャの金融的独立とみなせるのか?

救済という言葉が間違っている。2008年に銀行業が破たんしたとき、ほとんどすべての政府が銀行を救済した。英米では、政府が顕著な形で、それぞれ、イングランド銀行、アメリカ連銀に青信号を示し、銀行が破たんしないように莫大な公的資金を印刷することを許した。さらに英米政府は、巨額の資金を借りて破たんしそうな銀行を支援した。その資金の多くは中央銀行が融資した。

他方、ヨーロッパ大陸では、もっとひどいドラマが展開された。それは1998年にさかのぼる通貨同盟の成立に関するEUの決定が、政治的な支持を与える国家のない中央銀行ECBと、金融危機に際してそれぞれ自国の銀行を救済する責任があっても、中央銀行を持たない19の政府という仕組みを与えたからだ。

なぜこんな奇妙な仕組みなのか? それは、いかなる中央銀行も銀行や政府、たとえば、イタリア政府やギリシャ政府、に対して融資してはならない、というのが、ドイツがマルクをユーロに代えることに付けた条件であったからだ。

だから、2009年にドイツやフランスの銀行がウォール街やシティよりもさらに支払い不能であるが、これを救済する中央銀行も政治的な意志もない、とわかったとき、ドイツのメルケル首相はパニックになった。ドイツ政府は銀行のために公的資金を4060億ユーロも投入したのだ。

だが、それでも足りなかった。数か月後、メルケルの補佐官たちは、ドイツの銀行と同様に、ギリシャの国家が過剰な債務を負って、その債務を借り換えできなくなる、と知らせた。もしギリシャが破産を宣言したら、イタリア、アイルランド、スペイン、ポルトガルも破産し、その結果、ベルリンとパリは自国の銀行を救済するために1兆ユーロを要しただろう。

返済するという嘘を維持するため、支払い不能のアテネを、「ギリシャ人への連帯」というごまかしで、人類史上最大の融資が、ドイツとフランスの銀行を救済するために即座に承認された。ドイツ議会の怒りを鎮めるため、この巨大な融資にはギリシャ国民の野蛮な緊縮策と、それがもたらす永久の大不況が条件として付けられた。

要するに、ヨーロッパで最も貧しい国民を犠牲にしてドイツとフランスの銀行を救済し、ギリシャを債務者の監獄に入れた後、先週、ギリシャの債権者たちは勝利を宣言したのだ。ギリシャがこん睡状態にあることを、彼らは永久に維持し、「安定」と呼ぶ。彼らはギリシャ人民を崖から突き落とし、大不況の岩に跳ね返る様子を「回復」と称賛する。

タキトゥスを引用しよう。「奴らは砂漠をつくって、それを平和と呼んだ。」

NYT Aug. 28, 2018

A Green Light for Banks to Start ‘Redlining’ Again

By Jesse Van Tol

FT AUGUST 29, 2018

Populism was not sparked by the financial crisis

Janan Ganesh

時間の経過が精神を集中させるから、バラバラな事件のつながりを金融危機として意識するとき、リーマンブラザーズの倒産が記憶される。来月で10周年だ。

しかし、この10周年は恣意的だ。倒産事件が他のすべての事件の原因ではない。ドナルド・トランプがホワイトハウスに入るに至った政治的な意気消沈が、このときに始まったとされている。スティーブ・バノンは、それが「マッチを擦って、爆発が起きた。トランプだ。」

この都合のよい説明は、危機前に中道派が怠慢であったこと、危機後に潰走したことを誇張するものだ。右派のポピュリストたちは1994年に共和党が議会を制圧するころには勢力を広めていた。トランプは金融危機の前から、貿易問題を取り上げ、アメリカの弱腰を批判していた。政治エリートたちを、危機前から、愚か者と詐欺師とみなしていた。有権者たちはそれを信じていた。

現代のポピュリズムは2008年に誕生したわけではない。トランプは有権者に広まる政治的不信感を自分の武器にした。その由来は明白だ。世論調査は、政府に対する信頼を、20世紀の半ばから示している。1964年、およそ77%が、政府を信頼する、と答えた。それはリンドン・ジョンソン大統領が米地上軍をベトナムに送った前年だ。10年後に、その率は半減した。ウォーターゲート事件後、さらに低下し、昨年は、18%であった。

ウォール街を規制し、金利を決める者として、政府・金融当局は金融バブルとその後の破壊に責任があった。しかし、銀行を支援し、景気刺激策を出すことで、不況を緩和した。ベトナム戦争における政府の記録は、技術的な無能さ、勝利の間違った予測、など、弁解できないものだった。また、経済的な苦痛は戦死者と全く異なる。

50年前に、シカゴで民主党の全国大会があった。反戦デモと州警察とが暴力的に対峙していた。作家のノーマン・メイラーは「われわれは40年戦い続けるだろう」と書いた。しかし、それはアメリカと北ベトナム人民との戦いではなく、アメリカ人民とその政府との戦いでもない、と。

後者に関して、10年以上、彼の計算は間違っていた。

PS Aug 29, 2018

Was the Financial Crisis Wasted?

HOWARD DAVIES

The Guardian, Thu 30 Aug 2018

Ten years after the financial crash, the timid left should be full of regrets

Larry Elliott

FT August 30, 2018

Populism is the true legacy of the global financial crisis

Philip Stephens

金融危機によって大きな負担を強いられたのは労働者たちであった。金融システムや中央銀行家たちは生き延びた。

危機の最大の犠牲者は、リベラルな民主主義と、開放された国境線である。人々の非難は、緊縮策や大量移民に向けられた。労働者たちがポピュリズムに向かうのは当然だ。

PS Aug 30, 2018

The Three Tribes of Austerity

YANIS VAROUFAKIS

FT August 31, 2018

Have we learnt the lessons of the financial crisis?

Gillian Tett

FT August 31, 2018

Three traps that could ensnare a rampant Wall Street

Michael Mackenzie


 トランプの道化と政策

FT August 26, 2018

Donald Trump’s circus act is a sinister distraction

Edward Luce

サーカスにおける道化師は重要である。子供たちは道化師が大好きだ。道化師が現れると、舞台で行われる他のことに関心を失う。背景が変わっても、象が空中ブランコに代わっても、炎を食べる曲芸師や、ライオンが現れても。

トランプは、われわれの時代のサーカス団長だ。彼が大統領になってから、アメリカの規制文化は失われた。スティーブ・バノンは、それを「行政国家の破壊」と呼んだ。われわれはあまりにもトランプの言動に注目し過ぎている。彼は話題を提供する天才だ。情報は氾濫し続ける。

その間に、労働行政、教育行政、環境行政は失われた。これまでと全く異なる人物に、トップが変わったからだ。

トランプは、国家を最高額の指値をした人物に与えた。それは、大きく見るなら、公共財の略奪だ。学生たちは債務を支払うのが困難になった。金融業者は契約から処罰条項を隠すことが容易になった。国民の健康は、毒物や汚染された大気で損なわれた。彼はワシントンの腐敗をさらに蔓延させ、アメリカ人がさらに幻滅するのを許した。

それでもトランプはわれわれすべてを楽しませる。その間に、彼の仲間はワシントンの泥沼を原始のスープに変えてしまう。

NYT Aug. 30, 2018

The Religion of Whiteness Becomes a Suicide Cult

By Pankaj Mishra

「白人は、これまで劣っていると見なしてきた黒人や黄色人種によって退けられ、いじめられ、追いやられるだろう」と、オーストラリアの学者Charles Henry Pearson1893年に書いた。人種のせん滅を図る暴力への傾向がある、近隣のアジア植民地で暮らすPearsonは、「高度な人種が生き残り、自由に増大し、高度な文明を繁栄させるために、世界の最後に残された場所を」守るのは当然だと考えた。

その人種的自衛の呼びかけは、世界中の白人英語圏にこだました。アメリカのセオドア・ルーズベルトもそうだ。

20171月、ドナルド・トランプはオーストラリアの野蛮な、しかし、広く支持された移民政策をモデルとして取り上げた。トランプは、ターンブル首相が、難民を集めて遠くの島に閉じ込める戦術を説明すると、「お前は私より悪だな」と述べた。

FT August 31, 2018

Steven Mnuchin’s flawed O-zone plan to tackle poverty in the US

Gillian Tett

PS Aug 31, 2018

American Political Economy, Disrupted

WILLIAM H. JANEWAY


 中国とアジアの軍拡

FT August 26, 2018

Battle stations: Asia’s arms race hots up

Jamie Smyth in Sydney

北京が軍備の近代化と紛争海域における領土的主張を10年にわたって強めてきたことは、近隣諸国の軍備強化を刺激している。

「中国の経済・軍事・戦略的な力が急速に増大することで生じた不安と不確実さが、この地域で最近、軍備増強が関心を高めていることの背景である。」 その規模と速さが新しい、不安定化をもたらす軍備拡大競争のリスクを高めている。

軍備強化と並行して、伝統的な同盟関係の再編が起きている。オーストラリアは地域の大国である日本やインドとの関係を強化するだけでなく、シンガポール、フィリピン、インドネシアなどのASEAN諸国とも関係を築いている。それは中国の経済・軍事的な強大化に対する防壁を得るためである。

「だれもが他国のすることに反応している。だれが始めたにせよ、その趨勢に遅れることは望まないし、そんなつもりはない。昔から言われることだが、平和を望むなら、戦争に備えよ。」

しかし、軍事支出の増大は、制御不能の「軍備拡大競争」を意味しない。各国は基本的に、GDPの増大に比例して軍事費を増やしている。それは冷戦の頃とは異なる。

トランプの姿勢は問題を悪化させている。しかし、「彼は問題の兆候でしかなく、問題を生み出しているのではない。」 外交的不確実性は、第2次世界大戦にさかのぼる地域の同盟関係を再考させている。インド、アメリカ、日本、オーストラリアは「4極」として、中国のパワーと影響力に対抗して制度化された。2016年、オバマ政権はベトナムに対する武器禁輸を廃止し、これに対してハノイは、ベトナム戦争終結以来、初めて、アメリカの戦艦が入港することを認めた。

「われわれはアジアにおける伝統的な防衛同盟を離脱しつつある。それはアメリカとの2国間パートナーシップが基本であった。諸国が軍備拡大競争に参加する中で、地域を包括する防衛関係が、特に、日本、インド、オーストラリアが中国に対抗する防壁を模索している。」

「しかし、ここにはパラドックスがある。」・・・「彼らが新しい軍備のために軍事費を増やせるのは、中国の成長による利益を受けるときだけだ。言い換えれば、彼らは中国に対して防衛するのだが、同時に、中国の成功に依存している。」


 ユーロ

FT August 26, 2018

Tinkering will not deliver a stronger role for the euro

Wolfgang Münchau

FT August 27, 2018

Central Europe: running out of steam

James Shotter in Poznan

FT August 27, 2018

Germany must abandon its record surplus and rebalance

Anke Hassel


 ネオリベラリズム

NYT Aug. 26, 2018

Capitalism, Socialism, and Unfreedom

By Paul Krugman

ネオリベラリズムのイデオロギーは何が間違っていたのか? 低税率、規制緩和で、小さな政府が経済パフォーマンスを高める鍵である。たとえ、そのような主張が支配的であった時代でも、それなりの成長はあったが、普通の労働者たちは利益を受けなかった。

他の主張として、自由な市場は個人の自由をもたらす、というのはどうか。なぜなら、政府であれ、雇用主であれ、あなたが彼らの善意に頼らなくとも、気に入らなければ、いつでも去ることができるから。しかし、それも現実ではない。巨大な経済主体がますます経済を支配している。彼らは共謀して賃金を切り下げ、競争を回避し、あなたの選択肢を奪っている。

PS Aug 31, 2018

Saving Capitalism from Economics 101

SIMON JOHNSON


 中国のアフリカ投資

FT August 27, 2018

The Chinese model is failing Africa

Luke Patey

中国のアフリカ投資には問題がある。すでに10年ほど前に、中国はアメリカを抜いて、アフリカの最大の貿易相手国になった。昨年、そのアフリカ・中国の輸出入額は1700億ドル、アメリカとの貿易額の4倍であった。

しかし、中国の関与はアフリカの将来の経済発展を犠牲にするものである。

一帯一路戦略の前でも、中国はスーダンの水力発電所や、ナイジェリア、エチオピアの鉄道建設を行った。戦略的に重要な字プチには、初めて海外軍事基地を設けた。

習近平主席には、中国を発展途上世界の政治。・済モデルにする、という意欲がある。中国がインフラに融資し、建設することで、その後のアフリカの工業化と発展を加速するのだ。

しかし、中国が建設したインフラは、経済発展のための効果的なインフラとして、その基準を満たさず、しかも、ケニヤで建設した鉄道は、旧軌道に基づく標準的なコストの3倍もする、新設計画であった。巨大なインフラ計画は債務問題を悪化させている。

アフリカは中国からの製造業の移転、投資と雇用を期待していた。しかし、中国企業は機械化に向かうか、アフリカではなく東南アジアへの移転を進めている。

PS Aug 28, 2018

How Cities Are Saving China

ANDREW SHENG, XIAO GENG

FT AUGUST 29, 2018

China’s partners should not turn a blind eye to fate of Uighurs

FT August 30, 2018

Supply chains: the dirty secret of China’s prisons

Yuan Yang in Jinxiang

YaleGlobal, Thursday, August 30, 2018

Rethinking Belt-and-Road Debt

Philip Bowring

FP AUGUST 31, 2018

Chinese Aid and Investment Are Good for Africa

BY J. PETER PHAM, ABDOUL SALAM BELLO, BOUBACAR-SID BARRY


(後半へ続く)