IPEの果樹園2018

今週のReview

7/23-28

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NATOサミット ・・・ポピュリズムの意味 ・・・ハイテク大企業のギグ・エコノミー ・・・Brexit論争の起源 ・・・米ロ首脳会談 ・・・保護主義の源を断つ

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 NATOサミット

NYT July 13, 2018

Evil Has Won’

By Michelle Goldberg

Klaus Schariothは、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマの政権時に、ドイツのアメリカ大使であった。1946年、第2次世界大戦でドイツが降伏した後に生まれた。アメリカについての彼の最初の印象は、大きく、寛容な国、であった。

「アメリカがマーシャル・プランにドイツを含めてくれた時のことを、決して忘れない。それは予想もしないことだった。」・・・「勝者が、敗者に対して、しかも、この戦争を始めた国に対して、CAREの援助物資を送ってきた。想像してほしい。そんなことはめったにあることではない。」

アメリカはリベラルな民主的秩序の保証人とみなされていた。その秩序の中で、ドイツは攻撃的な歴史を棄て、繁栄できるようになった。だから多くのドイツ人にとって、アメリカ大統領がその秩序を攻撃し、ロシアとの関係に夢中になるのは、大きな衝撃である。

アメリカは長く、ヨーロッパ人に対して、自分たちの防衛にもっと支出せよ、と要求してきた。しかし、ヨーロッパのすべての国が大幅な軍備拡大を望み、自国の軍と、恐らく核武装をすれば、ヨーロッパの安全保障は損なわれるだろう。そのときでも各国は、西側に親しい、開放型の民主国家である、とは断言できない。

NATOの当初の目的は、ドイツの軍国主義を復活させないことだった。初代の事務総長Lord Ismayは、これを的確に表現した(“to keep the Soviet Union out, the Americans in and the Germans down.”)。ヨーロッパ統合はアメリカの安全保障を前提していたのだ。今や、それは失われた。ある意味では、アメリカが脅威に見える。

ドイツ連邦議会のCem Özdemir議員に会った。彼は「自由の女神」とそれが表現する価値観を絶賛した。「それは世界の誰もが夢見ることだ。いつの日か、われわれすべてが民主主義を生きるだろう。」「公平で、公正な世界に住む。しかし、もしホワイトハウスに邪悪な人物がいたら、邪悪さが勝利する。」

Özdemirは、トルコ移民の子孫で初めて議会に議席を得た人物であり、中道左派の緑の党の元共同議長である。彼はしばしばドイツのオバマと呼ばれた。「ジェームズ・ボンドの映画を思い出す。」「ある男が」、つまりプーチンが「計画を実行する。Brexitを成功させ。トランプをアメリカ大統領にする。ヨーロッパは動揺し、日に日に権威主義体制が強化される。シリアの戦争状態は続く。彼は望むものをすべて手に入れる。」 こうして世界はボンド映画の悪役たちに支配される。しかし、「そこにボンドはいない。」

Schariothは言った。「1920年代の初めに、そんなことを考える者は1人もいなかった。イタリアが独裁体制になるとか、ドイツが、十分に豊かな文化を持つ国が、短期間に民主主義を破棄するとか。もしヨーロッパと同じ経験をしていたら、あなたは他の人よりも悲観的であるはずだ。」


 ポピュリズムの意味

NYT July 13, 2018

Boris Johnson, Donald Trump and the Rise of Radical Incompetence

By William Davies

「私はますますドナルド・トランプにあこがれている。私は、彼の狂気は方法である、ということをさらに強く確信している。」 これらのコメントは、先月、ボリス・ジョンソンが続けて示したものだ。彼はイギリスの外相だった。トランプは、今週、訪英中に、「友人」のジョンソンと会談することに関心を示した。「ジョンソンは自分にとって実に良い人物で、助けてくれる。」

トランプはThe Sunとの過激なインタビューで、ジョンソンを強く支持し、メイの計画は将来の米英間の通商交渉を、いかなるものでも、「死滅」させるぞ、と脅した。ジョンソンは「偉大な首相になるだろう」とも断言した。

イギリスとEUとの関係をめぐる表面的な対立の陰に、実際は、根本的な政治権力の本質に関する対立がある。イギリス保守党内部で、リベラルな民主主義に関する論争が収まる様子はない。一方は行政府の機能に共感する者、他方は主権を再確認しようとする者だ。

行政府とは、政策や計画を実行するさまざまな技術的、官僚的な手段を意味する。行政府は、公務員、データの収集、規制、評価を意味する。行政府の問題としても、Brexitは煩雑な問題を含む。他方、主権とは、常に、究極の権力がどこにあるかという抽象的な概念だ。主権を問題として、Brexitは「人民」や「国民」に向けた勇ましい主張である。

現在、ポピュリズムが高まっているのは、行政府に対する主権の復讐である。これはグローバリゼーションへの単なる反動ではない。グローバリゼーションを推進し、技術的に、多国間で、ますます現地のアイデンティティから乖離してしまった政治権力への反動である。

「ハード」Brexitの支持者と世界中のナショナリストたちは、複雑な、現代の、事実を処理する活動と、それが求める専門家や職員に対して恨みを抱く。トランプ大統領の最初の戦略家であったスティーブ・バノンが、閣僚たちに「行政府の解体」を求めたことがある。それはヨーロッパで、ハンガリーのオルバン首相が欧州委員会を敵視するのと似ている。

現在のイギリス保守党と、クリントン政権時代のアメリカの保守主義者とは、1つの極論に達した。彼らは機能する行政府の破壊を目標としている。イギリスの強硬派、Jacob Rees-Moggは、大蔵省、イングランド銀行、首相官邸が共謀によって主権を破壊している、と非難する。元Brexit担当大臣であるデイヴィスは、選挙されない官僚のOlly Robbinsが、彼のBrexit交渉に介入した、と恨んでいる。しかし問題は、Brexitに必要な政策を動かすために、Robbinsがすすんで行う知的かつ困難な作業を、デイヴィスはやらないことだ。

メディアや政治家たち、大衆の一定割合が、唯一、主権のみが重要であり、行政府はリベラル派のエリートが発明した嘘っぱちだ、と信じたらどうなるのか? それがトランプに代表されるポピュリストの登場である。

彼らは現実から遊離したところで、人々の犠牲者意識を刺激し、「主権」の夢を布教する。

NYT July 13, 2018

It’s Time to Depopularize ‘Populist’

By Roger Cohen

「ポピュリスト」という言葉を追放しよう。いい加減に、無意味な使われ方をしている。政治的な不満を表す様々な形態を示す別名で、使われ過ぎだ。

さらに悪いのは、所得の低迷、職場の消滅、過去20年におよぶ国民の衰退感覚に対して、主要政党が何もしなかった、と結論したすべての有権者を、「ポピュリスト」という呼び名で侮辱することだ。「ポピュリズム」とは、都市のエリートたちが理解するために十分な努力をしないものすべてに対して使用される、拒否するための言葉だ。

ポピュリストのラベルは、国民投票を幻滅させ、民主主義への蔑視を広める。

現在の政治現象をあらわるには、ほとんどいつでも、「ポピュリスト」よりも適切な言葉がある。そのためには考えること、人々に語り掛け、政治の核心について語る努力が必要だ。

私はそうした。そしてトランプ支持者が犠牲者ではなくエージェントであることが分かった。彼らは「ポピュリズム」に魅了されていないし、「ポピュリスト」ではない。大統領について幻想を持っていない。大口をたたく、頭の弱い、ナルシストの愚か者だ。彼らはトランプがアウトサイダーであり、「アウトサイダーらしく話す」ことが好きなのだ。彼らはエリートが操作するシステムの混乱を求めたし、トランプは、日々、それを与えている。

自由の名において、民主主義が栄えるために必要な区別を消し去る「ポピュリズム」といういい加減な言葉を追放せよ。

FT July 18, 2018

How we lost America to greed and envy

MARTIN WOLF

だれが中国を失ったのか? これは、毛沢東が中国の内戦で勝利した1949年に、アメリカで起きた叫びだ。奇妙な疑問である。アメリカが中国を所有したことはない。しかし、この叫びは1952年の共和党の勝利を助け、Joseph McCarthyの登場をもたらした。政府に裏切り者がいる、という告発で政治を動かした点で、トランプに似た人物だ。

今、叫ぶとしたら、誰がアメリカを失ったのか? である。そして、永久に、アメリカを取り戻すことはできないのか?

戦後世界におけるアメリカは、優れた政策を広めた。アメリカは重要な価値を示した。その価値を共有する同盟諸国を守った。開放的で、競争的な市場を信じた。市場に依拠した制度が確立された。もちろんそれは不完全であったが、魅力的なシステムであり、世界を管理する新しい試みであった。民主主義や自由を信じ、法の支配、国際機関を重視した。

今のアメリカは違う。トランプはこうした価値を否定する。同盟諸国を守らない。開放的な市場や国際機関を重視しない。トランプは、習近平やプーチンと直接取引することを好む。ドイツのメルケルやイギリスのメイが民主主義国家の女性指導者であっても、トランプは侮辱する。

なぜトランプが権力を得たのか? トランプが大統領になったのは事故だったが、それは単なる偶然ではない。アメリカ政治の失敗である。

中国の台頭とグローバリゼーションは、アメリカの世界観とその役割に深刻な影響を及ぼした。トランプが、中国や他の世界はアメリカを利用して台頭した、と考えるのは、アメリカ人の広く共有する気分である。そして保護主義が支持されるようになった。

さらに、アメリカ経済の変質だ。所得分配は不平等化した。働き盛りの世代の労働力率が低い。家計の実質所得の水準は20年間変わらない。特に、中年白人(ノン・ヒスパニック)成人の死亡率が、2000年以降、上昇した。トランプはヨーロッパのテロ事件に憤慨するが、アメリカの殺人事件はEU5倍以上だ。そのほうが心配するべきだろう。

多くのアメリカ人の生活が悪化したのは、富裕層のために政治が動いたからだ。減税、社会支出の削減、不平等の拡大は、普通選挙による民主主義と両立しない。「トリクルダウン」経済学を叫び、文化や人種による分断化を進め、選挙区を勝手に改変し続けて有権者を抑圧した。

これは「超富裕層のためのポピュリズム」であり、「強欲と憤慨」の政治である。こうした共和党はアメリカ労働者の支持を得ることに成功した。トランプは、その政治のもたらした成果である。富裕層には望むものを与え、支持基盤を広げるためにナショナリズムと保護主義を与える。この組み合わせを体現するカリスマ的指導者がトランプだった。彼は熱狂的支持者を得た。

アメリカを失ったのは、アメリカのエリート、特に共和党のエリートだ。


 ハイテク大企業のギグ・エコノミー

FP JULY 13, 2018

The New Economy’s Old Business Model Is Dead

BY HENRY FARRELL

ニューエコノミーの巨大企業は、ある重要な意味で、過去の巨大企業と異なっている。それは、彼らが雇用を生まない、という点だ。

GMは、その頂点である1979年に、アメリカ国内で618000人、世界で853000人を雇用した。Facebook2017年、わずか25000人余り、2015年の12700人から、わずかに増えただけである。Googleの親会社Alphabetは、資本評価額で世界第3位の企業であるが、約75000人を雇用するだけだ。

FP JULY 16, 2018

Closing the Factory Doors

BY CHRISTINA LARSON

2人の女性がPrey Veng地方の同じ小さな村から、バスに3時間乗って、工場の勤めに通う。家に彼女が持って帰る賃金で、新しいソーラーパネルを設置し、それは家族のための最初の小さなテレビや2つの扇風機に必要な電力を供給した。工場労働は厳しく、ときには危険でもあるが、女性の村中の親せきが称賛する。2人は家族の生活を改善するために遠くまで出かけて、賃金を得たのだから。

このような話が発展途上世界で1世紀に渡り繰り返されてきた。貧しい諸国が農業から工業に重心を移し、初期の重要な時期に軽工業が拡大した。アジアの多くのケースで、それは未熟練労働者を雇用する、労働集約的な繊維工場だった。それらが地方から都市へ労働者を引き寄せた。2016年、カンボジアの衣服と靴の製造業は製品輸出の78%を占め、衣服製造業だけで工業生産の80%近くを占めた。他の国は、経済の階段を上って、より複雑な、高付加価値の製造業、すなわち、電器製品や自動車、さらに、サービスや金融に移ってきた。

しかし今、新技術が登場して、この階段をはるかに危ない状態にしている。コンピューターとAIの進歩は衣服の縫製作業も自動化しつつある。それはさらに高速で、さらに安価なものとなっている。貧しい諸国にとって、衣服産業が自動化されることは、重要な経済機会が消滅する脅威である。2016年、ILOの研究によれば、東南アジア5カ国の繊維産業の半分以上が「自動化の深刻なリスク」に直面するだろう。

衣服産業の労働は、しばしば苦汗sweatshop労働と呼ばれる。それは変動しやすく、危険な労働であるからだ。しかし同時に、多くの発展途上国に、より良い選択肢への機会でもある。Tシャツを縫い、ジーンズにアイロンを当てるような単純労働は、厳格な工業部門のための基礎訓練、発展途上国にとって重要な外貨獲得、そして、貨幣を得ることのできる職場、を提供する。

Dani Rodrikが言うような「早期脱工業化“premature deindustrialization”」が起きるなら、貧しい諸国の都市化、未熟練労働者の雇用や資本蓄積を可能にしている、製造業の機会が失われる。将来の衣服産業には、膨大な未熟練の少女たちではなく、縫製ロボットSewbotsが並ぶだろう。Tシャツの縫製を、Sewbots20秒で完成する。それは人間の縫製工の2倍の速さである。

FP JULY 16, 2018

Why India Gives Uber 5 Stars

BY RAVI AGRAWAL

開発が進んだ世界では、いわゆるギグ・エコノミーgig economyが論争になっている。支持派の主張は、特に消費者にとって、Uberはタクシーを呼ぶのに便利だ。TaskRabbitは配管工、塗装工、清掃夫を呼ぶのに便利だ。など。労働者にも利益がある。弾力的、効率的で、市場が大きい。

他方、反対論も多い。労働条件の安全性が保証されない。年金も生命保険も健康保険ない。昇進システムもない。個々の責任で投資しなければならない。賃金もかなり安い。アメリカのUberドライバーは最低賃金も稼げない。ハラスメントに弱い。ある調査によれば、回答者の70%が、フリーランスより正規雇用が良い、と答えた。

しかし、インドのような貧しい諸国では、このような論争は起きていない。その理由の多くは、労働者の受ける利益がはるかに大きいからだ。

インドの1人当たり平均所得は1670ドルであり、アメリカの56850ドルに比べて、3%でしかない。Uberによれば、インドのドライバーは年間5000ドルから12000ドルを稼ぐ。控えめに見ても、それはインドの中産階級上層に可能な所得水準だ。炎暑の下で汚れた仕事をする労働者たちと全く違う、エアコンの効いたオフィスで働く労働者に等しい。それは家賃も支払えないニューヨークのUberドライバーと対照的だ。

インドでは、元から自動車を所有していた者がUberでフリーランスの追加所得を得るのではない。彼らはローンやリースで自動車を得て、高所得をめざすタクシーの専業ドライバーになる。その数は急速に増大している。2013年にUber35万人と契約していたし、同じサービスを提供するインドのOla100万人以上のドライバーに仕事を供給する。

ギグ・エコノミーが職を創造するのか、破壊するのか、というグローバルな論争は、完全な自動化の不安によって刺激されている。しかし、インドでそれは懸念されていない。むしろ問題は安定した高度なインフラの供給に限界があることだ。インドでネットの買い物をする人口とギグ・エコノミーはさらに拡大するだろう。

インドのような、貧しい諸国の労働者が、ギグ・エコノミーによって得る隠れた利益は大きい。信頼できる高所得、多くの雇用、契約の明確化と汚職・腐敗の減少、政府にとっても納税の普及など、労働市場がフォーマルな領域を拡大する。


 Brexit論争の起源

PS Jul 16, 2018

The British History of Brexit

ROBERT SKIDELSKY

2016623日の国民投票でEU離脱を決めて以来、「Brexit論争」がイギリス政治をバラバラにした。

残留派はキャメロンの無謀さと、国民投票を制御できなかった無能さを責める。より深いレベルでは、大西洋の両岸で起きた農民反乱の一部であった。フランス、ハンガリー、イタリア、ポーランド、オーストリア、そしてアメリカだ。しかし、どちらの説明もイギリスに固有のBrexitの起源をとらえていない。

イギリスは、1940年のヒトラーが支配したヨーロッパに対して、単独で立ち向かった。それは現代史の中でイギリス人が最も誇りにする瞬間だ。EU42年間で、イギリスは常に不似合いな、ユーロ懐疑派のパートナーだった。UK1957年のローマ条約に参加せず、UKが停滞する中で、EECが繁栄していたために、1963年、加盟を申請した。しかし、その動機はダイナミックな自由貿易圏に参加することであり、政治ブロックを形成する意図は全くなかった。UK加盟にフランスのドゴール大統領は拒否権を行使したが、イギリスは「アメリカのトロイの木馬である」と疑った。

残留派は都合よく忘れているのだが、1975年のEECを支持する投票結果は、加盟には政治的な意味はない、という嘘を前提した投票だった。1986年、サッチャーは単一市場に参加したし、1992年のマーストリヒト条約では、デンマークとともに、イギリスはユーロに参加しないことを認められた。単一通貨こそ政治同盟への意思を示すものであったが、結局、2008-09年が示したように、共通の政府を持たない通貨圏は機能しない。


 米ロ首脳会談

FT July 15, 2018

The Trump Doctrine — coherent, radical and wrong

GIDEON RACHMAN

ドナルド・トランプは、ワシントン・コンセンサスを切り倒した。それはまったく混乱した彼の頭から生じた、というより、内的に一貫した意味を持つ「トランプ・ドクトリン」を示しつつある。4つの原理があるだろう。

1.経済学の優位。・・・アメリカ中西部の「大虐殺」、「錆び付いた工場群」を重視し、経済的に「アメリカを再び偉大にする」。そのために、アメリカとの間で過剰な貿易黒字を出している諸国に注目する。他方で、同盟国と敵国との違いは重要でなくなる。安全保障の観点から伝統的な同盟関係は観直される。

2.国際制度より諸国民を重視。・・・国際制度は、気候変動など、諸問題について、アメリカを「政治的な正しさ」で制約する要塞である。アメリカの市場規模が優位をもたらす、他国民との11取引が好ましい。国際機関や「ルールに依拠した国際秩序」を否定する。

3.普遍的な諸価値より、文化と民族の重視。・・・これまでのすべての大統領が支持した人権や民主主義を重視しない。トランプの考える「西側」とは文化や民族を意味する。それを真に脅かしているのは移民であり、移民の管理を求める。

4.影響圏の分割。・・・世界を、アメリカ、ロシア、中国などと、それぞれの地域を含む、非公式な「影響圏」に分割する。クリミアは当然にロシアの一部であり、アメリカのグローバルな同盟関係を信じない。他方、習近平やプーチンのようなストロングマン(強権指導者)との取引を好む。それは対立する企業と市場を分割する企業幹部の取引と同じである。彼らの価値はどうでもよい。

FT July 16, 2018

Trump’s five days of diplomatic carnage

EDWARD LUCE

ドナルド・トランプとウラジミール・プーチンとが、2時間の2人だけの会談で何を話したのか、われわれにはわからない。しかし、共同記者会見の最後に、アメリカ大統領は「魔女狩りだ」と叫んで部屋を出た。彼の頭には、終始、国内政治しかなかった。


 保護主義の源を断つ

PS Jul 17, 2018

How to Protect Workers Without Trade Tariffs

ROBERT J. SHILLER

ある調査Washington Post/Schar Schoolによれば、回答者のわずか39%しかトランプ大統領の外国に対する関税引き上げを支持せず、56%は反対だった。

しかし、39%とはいえ、なぜ彼らはトランプを支持したのか? 1776年のスミスの『国富論』は自由貿易を支持する主張を明確に行った。Jeffrey Frankel and David Romerによれば、より自由な貿易を行っている国はより高い経済成長を実現しており、この因果関係は逆ではない。

なぜ多くの国民がトランプの貿易戦争を支持するのか?

それは、ときに自由貿易と結びつく職場の不確実さから、また、損失を強いられた者が抱く不正義の感覚から生じる。多くの人々は慈善やほどこしを嫌う。アメリカの有権者たちは、トランプの「アメリカを再び偉大にする」によく反応し、オバマの「富を広く行き渡らせる」には反応しない。

政治学者のJohn Ruggieは、第2次世界大戦後の多角主義と自由貿易の関係を「埋め込まれた自由主義の妥協」と呼んだ。国際機関と低関税率とは、市民の経済生活を安定化するために政府が積極的に介入する場合だけ、政治的に支持されたのだ。

Dani Rodrikもその主張を支持した。彼は、経済の開放度とGDPに占める政府支出の割合はプラスの巣間関係を示す、ということを発見した。貿易を多く行う国は小さな政府を持つのではなく、むしろ大きな政府を支持している。

貿易によるリスクに保険原理が適用しにくいのは、それを政府が行うと、再分配政策に見えるからだ。特に、低関税率と自由貿易が維持されるリスクは長期的に続く。たとえば、外国との競争に直面して閉鎖された製鉄所の労働者たちは、永久に失業したように見える。こうした労働者たちを何十年も政府が生活支援することは不可能だ。

グローバリゼーションによって、人々は長期的な生活条件が一層リスクの高いものになると感じている。彼らをみじめな思いにすることなく、グローバル市場のリスクに対して彼らに保険を掛ける必要がある。

幸い、敗者に対する慈善とは思われない形で、政府がある種の再分配を行うことは可能である。たとえば、公教育や医療保険に税金を投入することだ。その支援は誰でも利用できるし、愛国的な姿勢に見える。あるいは、外国貿易が理由で失業した者の損失をカバーする保険に補助金を出す。どのように提供するかは民間の保険会社が競争する。

トランプの貿易戦争は悲劇である。しかし、それによって自由貿易が人々にもたらすリスクを重視し、保険メカニズムを適用してそれを緩和することに成功するなら、良い結果を生じうる。

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The Economist July 7th 2018

How India fails its women

Tech wars: FAANGs BATs

Indian women: A job of her own

Immigration to Japan: Hidden masses

Banyan: Divide and kill

Donald Trump’s trade war: Patriotic ketchup

The world if

(コメント) インドの女性差別、貧困層の社会的な排除、疎外、群衆による自衛と殺害をめぐる記事に驚きます。

ハイテク大企業のグローバル陣地戦が、名に見えにくい形で、激しい闘いを続けています。その対照にあるのは、ますますアメリカ製品を買いたくなくなったカナダ人消費者の、ソーシャル・メディアによる不買運動です。今はまだカナダの貿易収支に大きな影響がみられるわけではない、と言いますが。

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IPEの想像力 7/23/18

原始の部族的憎悪と群衆を煽る政治家、工場に並ぶ縫製ロボット、UberAlibaba、ネット情報、ネットバンクの混在する世界に、政治経済秩序をもたらすものは何か?

The Economist  July 7th 2018には、インドの記事が載っています。1つは女性が家庭に押し込められ、仕事に就けないこと。あるいは、24時間、レイプの危険にさらされて生きていることです。もう1つは、アイデンティティ政治とも関係する、群衆による殺人です。

近年の成長の結果として、逆に、インド人女性の雇用率が減っています。家庭から女性が出ることは、よほど生活に困っている場合だけ、という感覚だからです。広大な縫製工場に列をなす女工たちの姿が、成長を始める貧しい諸国には必ず見られました。インドは違います。

また記事によると、友達2人が、ゴアの海岸からアッサム州北東部の故郷まで、インドの田舎町をバイクで旅する途中、悲劇に遭いました。棍棒や金属の棒を持った村人たちに取り囲まれ、「子供の誘拐犯」とみなされて、襲われたのです。

怒りに駆られた群衆が人を殺害する事件が多発している、と言います。なぜ群衆が、全く無実の人を殺害するのか? 記事はその理由をいくつか挙げています。

1.ソーシャル・メディアの普及。携帯電話が普及し、WhatAppでうわさが瞬時に広がる。

2.多くの子どもが誘拐され、売られている。その数が大幅に増えた。むしろ事実としてインド社会にあった、底辺社会の子どもを誘拐するビジネスが、最近、さらに増加したことが重要です。子供の無い家庭、奴隷労働として、あるいは、Sexビジネスへ、売られていくと指摘します。

3.貧しい人々にとって、警察や裁判所は機能しない。自分たちを守ってくれない、と感じている。彼らは富裕層のために動くだけで、貧しい者は自衛するしかない。その不安と恐怖から、群衆は暴走します。

4.社会の分断状態、異なる社会集団に対する疑い。宗教、カースト、言語、さまざまなマイノリティが、経済の移動性を高めた結果として、田舎に現れ、あるいは、都市に集まります。互いに異質な人々が、憎悪(暴力・殺害)を正当化する条件となっています。

5.アッサムの特殊な事情。インドでも特に多様な住民を抱え、そのことが政治をアイデンティティによって刺激し、毒素をばらまいている、と述べます。有権者登録も進まず、国境管理もずさんで、識字率は低く、文書管理ができていない土地です。イスラム教徒が多数を占め、最近、バングラデシュから移住してきた者がいます。

6.アイデンティティ政治の展開。アッサム州政府は、ゆるやかな、民衆に支持された、法的な制裁によるエスニック・クレンジングを進めている、と記事は紹介します。しかし、同じような難民の差別化を合法化する中央政府と軋轢を生じています。なぜなら、中央政府はヒンドゥーやシークを難民として受け入れても、ムスリムは拒むからです。アッサムのムスリム・タカ派から見れば、バングラデシュから来るヒンドゥー難民は「侵略者」です。

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ムンバイに行くため、元ゼミ生と話していると、ムンバイは都市ではなく、巨大な田舎です、と彼が言いました。都市cityという言葉には、文明化されたcivilized空間、市民的な秩序の支配、という意味があるでしょう。インドはまだ、たとえ巨大な「都市urban」でも、そのほとんどを支配するのは田舎countryなのです。

A.O.ハーシュマンが、(私には、よく理解できなかった)不思議な古典において、情念が理性によって秩序を与えることを描いたと思います。それは、ヨーロッパ近代の人々が、なぜ戦争や殺戮ではなく、金儲けに関心を向けたのか、歴史的な転換として重視した研究でした。

トランプのアメリカは、こうした文明化された秩序を拒んでいるように見えます。私は思いました。米中のハイテク・グローバル企業が情報スタンダードをめぐる貿易戦争に入る中、トランプの本能はインドの群衆政治に回帰しつつある。

もしインドが、都市と成長の過程で民主的な統治を実現できるなら、世界も統治できるのではないか。

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