IPEの果樹園2018
今週のReview
7/23-28
*****************************
NATOサミット ・・・ポピュリズムの意味 ・・・ハイテク大企業のギグ・エコノミー ・・・Brexit論争の起源 ・・・米ロ首脳会談 ・・・保護主義の源を断つ
[長いReview]
******************************
主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign
Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● NATOサミット
NYT July 12, 2018
Trump Got From NATO Everything Obama
Ever Asked For
NATOサミットで、トランプ大統領は同盟諸国にオバマ・イニシアティブを要求した。NATOのコストをより公平に分担し、ロシアに対する強硬な声明文にも署名した。
しかし、トランプ自身がその戦略について何を考えているのか、そもそも戦略があるのか、それはわからない。
2014年にウェールズで、オバマ大統領はNATO指導者たちを説得し、軍事費の増額に同意させた。ロシアがウクライナに新たな攻撃を行った後だった。NATO加盟諸国は、2024年までに、GDP比2%まで、軍事費を増額するように努めると約束した。すべての加盟国は防衛費を増額しているし、その目標を再確認している。
しかしトランプ大統領は、公然と、アメリカの寛大さを悪用して債務を払わずに逃げている、と同盟諸国を罵倒し、侮辱した。さらに彼は、その目標(それは目標であって、義務ではない)を1月までに達成せよ、その後は4%まで増額せよ、と要求した。なぜそこまで増やすのか? 戦略的な目的、同盟に対する脅威は何か? トランプは説明しない。
このような主張に対する反応は、困惑である。トランプ大統領は軍事費を増額したが、それでも、GDPの3.2%である。しかも、その数値は2024年委2.8%へ減少する、と予測されている。アメリカでさえ4%の目標を達成する見込みはない。
確かに、同盟諸国はアメリカの兵員輸送力や装備に大きく頼っている。それはフランスが2011年にリビアを空爆する作戦で明らかに示された弱点である。
アメリカの同盟諸国が軍事費を増やすのは、アメリカが自国の軍事支出を減らし、多数の米兵を引き上げる、ということなのか。トランプがそう主張しなかったが、ドイツか、シリアか、どこであれ、米軍を引き上げる、基地を閉鎖する、としばしば語ってきた。
つまりトランプ大統領は、ペンタゴンの予算を減らし、それは今や7000億ドルに達し、アメリカ以外の上位8か国の軍事支出を合計した額に等しいが、その削減した額を、たとえばインフラ投資に使うのか? そんなことはしないだろう。トランプは絶え間なく軍の拡大を唱え、輝きを放つ兵器や軍の装備をパレードで誇示することに魅了されているように見える。
軍事支出は、NATOが今日の課題に応えるため必要な手段でも、限定されたものであり、基準として廃棄されるべきだ。たとえば、デンマークがそうだ。アフガニスタンで同盟に重要な貢献を行い、ロシアとの貿易額が、制裁のために大幅に減少した。しかし、軍事費のGDP比は2%に達していない。
他の同盟諸国は、むしろ移民危機やその他の問題を改善することで、自国の安全保障、そしてNATOの安全保障を改善できるだろう。なぜなら、それこそがナショナリズムや権威主義を煽り、民主的な諸制度を、特にトルコ、ハンガリー、ポーランドがそうだが、弱めているからだ。この傾向はロシアが狡猾に広めたものであり、NATOの同盟を内部から壊す最大の脅威と言える。
しかし、こうしたことを議論することはむつかしい。トランプはNATOからの離脱もにおわせ、不安を高めたからだ。この脅しは、トランプの一層大きな関心に沿うものだろう。彼は、ロシアがウクライナを攻撃したことも、クリミアを併合したことも、重視しない。アメリカの同盟国よりも、ロシアのプーチン大統領を丁重に扱う。2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが介入したことも認めない。
議会が、プーチンによるNATO離脱を認めず、上院は大西洋間の同盟を壊すいかなる動きも阻止する、というのは当然だ。
FT July 13, 2018
Trump lays bare Britain’s ‘special
relationship’ delusion
LAWRENCE
FREEDMAN
SPIEGEL ONLINE 07/13/2018
Friendly Fire
Trump Takes Aim at Germany and NATO
By
DER SPIEGEL Staff
NYT July 13, 2018
‘Evil Has Won’
By
Michelle Goldberg
Klaus
Schariothは、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマの政権時に、ドイツのアメリカ大使であった。1946年、第2次世界大戦でドイツが降伏した後に生まれた。アメリカについての彼の最初の印象は、大きく、寛容な国、であった。
「アメリカがマーシャル・プランにドイツを含めてくれた時のことを、決して忘れない。それは予想もしないことだった。」・・・「勝者が、敗者に対して、しかも、この戦争を始めた国に対して、CAREの援助物資を送ってきた。想像してほしい。そんなことはめったにあることではない。」
アメリカはリベラルな民主的秩序の保証人とみなされていた。その秩序の中で、ドイツは攻撃的な歴史を棄て、繁栄できるようになった。だから多くのドイツ人にとって、アメリカ大統領がその秩序を攻撃し、ロシアとの関係に夢中になるのは、大きな衝撃である。
ヨーロッパの新聞やジャーナリストたちの集まりでも、政治家と外交専門家の集まりでも、まるで葬儀のようであった。自由社会の時代が終わりつつある、と感じた。中道右派の政治学者は語った。「大西洋を越える同盟関係は、トランプの8年間を生き延びることはできない。」 4年間でも、わからない。
アメリカは長く、ヨーロッパ人に対して、自分たちの防衛にもっと支出せよ、と要求してきた。しかし、ヨーロッパのすべての国が大幅な軍備拡大を望み、自国の軍と、恐らく核武装をすれば、ヨーロッパの安全保障は損なわれるだろう。そのときでも各国は、西側に親しい、開放型の民主国家である、とは断言できない。
NATOの当初の目的は、ドイツの軍国主義を復活させないことだった。初代の事務総長Lord Ismayは、これを的確に表現した(“to keep the Soviet Union out, the Americans in and the Germans
down.”)。ヨーロッパ統合はアメリカの安全保障を前提していたのだ。今や、それは失われた。ある意味では、アメリカが脅威に見える。
ドイツ連邦議会のCem Özdemir議員に会った。彼は「自由の女神」とそれが表現する価値観を絶賛した。「それは世界の誰もが夢見ることだ。いつの日か、われわれすべてが民主主義を生きるだろう。」「公平で、公正な世界に住む。しかし、もしホワイトハウスに邪悪な人物がいたら、邪悪さが勝利する。」
Özdemirは、トルコ移民の子孫で初めて議会に議席を得た人物であり、中道左派の緑の党の元共同議長である。彼はしばしばドイツのオバマと呼ばれた。「ジェームズ・ボンドの映画を思い出す。」「ある男が」、つまりプーチンが「計画を実行する。Brexitを成功させ。トランプをアメリカ大統領にする。ヨーロッパは動揺し、日に日に権威主義体制が強化される。シリアの戦争状態は続く。彼は望むものをすべて手に入れる。」 こうして世界はボンド映画の悪役たちに支配される。しかし、「そこにボンドはいない。」
Schariothは言った。「1920年代の初めに、そんなことを考える者は1人もいなかった。イタリアが独裁体制になるとか、ドイツが、十分に豊かな文化を持つ国が、短期間に民主主義を破棄するとか。もしヨーロッパと同じ経験をしていたら、あなたは他の人よりも悲観的であるはずだ。」
FP JULY 13, 2018
Ban NATO Summits
BY
DEREK CHOLLET, AMANDA SLOAT
FT July 14, 2018
Trump’s new kind of transatlantic
alliance
NYT July 16, 2018
The Murder-Suicide of the West
By
David Brooks
YaleGlobal, Tuesday, July 17, 2018
NATO Needs New Thinking, Not New
Money
Jolyon
Howorth
アメリカ大統領は「陶器店に入った雄牛」のアプローチを採った。彼はEUを「敵」と呼び、ロシアとの「素晴らしい関係」をとの染みにしている、と語った。防衛費の目標をGDP比2%から、思い付きで、4%に引き上げる。そして、すでに2014年に合意した2%の目標を、自分の取引の勝利と宣言する。彼の訪問でNATOは大きく改善できた、というのだ。
アメリカがNATOの軍事支出を「70~90%」も負担している、とトランプは主張した。「ヨーロッパ人はNATO内でわれわれを殺す」と述べ、「非常に不公平だ」という。
アメリカは世界中の基地などで、GDP比3.5%の軍事費を支出しているが、ヨーロッパに対しては、そのわずか5%でしかない。2017年、NATOのヨーロッパ同盟諸国が支出した防衛費の合計は2500億ドルであった。これに対して、ロシアの支出額は610億ドル、4分の1以下であった。
2014年のウェールズ・サミット後、NATOのヨーロッパ同盟諸国は防衛費を増やした。5か国はすでに2%目標を達成し、他の国もそれに近づいている。確かに、ドイツ、イタリア、スペインはまだ1%ほどであるが、その支出額は大きい。この3か国が支出を倍増すれば、800億ドルが増える。しかし、NATOの防衛費は、すでに世界の軍事支出の60%を占めている。4%目標は、NATOの防衛費を1兆5000億ドルに増やすが、トランプは、それを何に使うのか、説明しない。
彼はブリュッセルで主要な目的を実現したのだ。それはNATOをリアリティー・ショーの舞台にすることだ。ヨーロッパ人たちがそれを許した。だれも、ヨーロッパは十分に負担していない、という彼の議論の前提を訂正しようとしなかった。
重要な点は、軍事支出の大きさではなく、だれが、何に、どこで支出するか、である。急速にパワーが転換する世界で、ヨーロッパとアメリカの軍事力を必要に応じて変形しなかった結果、根本的な再考が求められている。
NATOのヨーロッパ同盟諸国は、すでに、自ら決めた限定的目標に見合う以上の防衛費を支出している。すなわち、弱体で、衰微するロシアを抑止し、テロ集団に対抗し、アフリカへの限定的な危機管理を行、サイバー攻撃を防衛する。問題は、2500億ドルが28の分断された陸軍、24の空軍、21の海軍に分散されていることだ。連戦終結後も、ヨーロッパはその近隣地域、特に、バルカン諸国を安定化できなかった。他方、アメリカの戦略的関心は、ヨーロッパから中東とアジアへ移っている。
2つの答えがある。1.ヨーロッパの生存にかかわる安全保障の究極的基礎はアメリカである。2.ヨーロッパは、次第に集団的な防衛力を形成し、戦略の自律性を確立するべきだ。アメリカの主要な研究者は、NATOにおけるアメリカの責任と指導力を徐々にヨーロッパに移行するよう求めてきた。アメリカとEUは、より対等で健全なバランスの取れた同盟関係に向かうべきだ。
それがNATOのオリジナルな目的であった。
PS Jul 18, 2018
The End of NATO?
CARL
BILDT
YaleGlobal, Thursday, July 19, 2018
The Case for US Global Leadership
Marc
Grossman
PS Jul 19, 2018
What Trump Gets Wrong About EU
Defense
JAVIER
SOLANA
● 世界出生率の低下
Yale Global, Thursday, July 12, 2018
Replacement Fertility Declines
Worldwide
Joseph
Chamie
● ポピュリズムの意味
NYT July 13, 2018
Boris Johnson, Donald Trump and the
Rise of Radical Incompetence
By
William Davies
「私はますますドナルド・トランプにあこがれている。私は、彼の狂気は方法である、ということをさらに強く確信している。」 これらのコメントは、先月、ボリス・ジョンソンが続けて示したものだ。彼はイギリスの外相だった。トランプは、今週、訪英中に、「友人」のジョンソンと会談することに関心を示した。「ジョンソンは自分にとって実に良い人物で、助けてくれる。」
ジョンソンがトランプを称賛するコメントをしたとき、彼は現時点のイギリス政治をすべて支配している論争点について論じていた。すなわち、Brexitだ。テリーザ・メイ首相の内閣を解体し、彼女を失脚させるかもしれない問題とは、イギリスが「ソフト」Brexitを採用するか、「ハード」Brexitを選ぶか、ということだ。ジョンソンの見るところ、トランプは即座に後者を選ぶだろう。2人が共有するものとは、支持者たちの眼からは勇敢さに見える無謀さであり、政策決定作業や外交に対するサボタージュである。
メイは、「ハード」か「ソフト」か、というジレンマを避けるために、ロンドンとブリュッセルとが共有する「ルールブック」を作ることを提案した。これが熱狂的なユーロ懐疑派にはあまりにも「ソフト」に見えるのだ。デイヴィスに続けて、ジョンソンも閣僚を辞任した。彼はその辞表に「われわれは植民地の地位に向かいつつある」と書いている。
トランプはThe Sunとの過激なインタビューで、ジョンソンを強く支持し、メイの計画は将来の米英間の通商交渉を、いかなるものでも、「死滅」させるぞ、と脅した。ジョンソンは「偉大な首相になるだろう」とも断言した。
イギリスとEUとの関係をめぐる表面的な対立の陰に、実際は、根本的な政治権力の本質に関する対立がある。イギリス保守党内部で、リベラルな民主主義に関する論争が収まる様子はない。一方は行政府の機能に共感する者、他方は主権を再確認しようとする者だ。
行政府とは、政策や計画を実行するさまざまな技術的、官僚的な手段を意味する。行政府は、公務員、データの収集、規制、評価を意味する。行政府の問題としても、Brexitは煩雑な問題を含む。他方、主権とは、常に、究極の権力がどこにあるかという抽象的な概念だ。主権を問題として、Brexitは「人民」や「国民」に向けた勇ましい主張である。
現在、ポピュリズムが高まっているのは、行政府に対する主権の復讐である。これはグローバリゼーションへの単なる反動ではない。グローバリゼーションを推進し、技術的に、多国間で、ますます現地のアイデンティティから乖離してしまった政治権力への反動である。
「ハード」Brexitの支持者と世界中のナショナリストたちは、複雑な、現代の、事実を処理する活動と、それが求める専門家や職員に対して恨みを抱く。トランプ大統領の最初の戦略家であったスティーブ・バノンが、閣僚たちに「行政府の解体」を求めたことがある。それはヨーロッパで、ハンガリーのオルバン首相が欧州委員会を敵視するのと似ている。
現在のイギリス保守党と、クリントン政権時代のアメリカの保守主義者とは、1つの極論に達した。彼らは機能する行政府の破壊を目標としている。イギリスの強硬派、Jacob Rees-Moggは、大蔵省、イングランド銀行、首相官邸が共謀によって主権を破壊している、と非難する。元Brexit担当大臣であるデイヴィスは、選挙されない官僚のOlly Robbinsが、彼のBrexit交渉に介入した、と恨んでいる。しかし問題は、Brexitに必要な政策を動かすために、Robbinsがすすんで行う知的かつ困難な作業を、デイヴィスはやらないことだ。
メディアや政治家たち、大衆の一定割合が、唯一、主権のみが重要であり、行政府はリベラル派のエリートが発明した嘘っぱちだ、と信じたらどうなるのか? それがトランプに代表されるポピュリストの登場である。
彼らは現実から遊離したところで、人々の犠牲者意識を刺激し、「主権」の夢を布教する。
NYT July 13, 2018
It’s Time to Depopularize ‘Populist’
By
Roger Cohen
「ポピュリスト」という言葉を追放しよう。いい加減に、無意味な使われ方をしている。政治的な不満を表す様々な形態を示す別名で、使われ過ぎだ。
さらに悪いのは、所得の低迷、職場の消滅、過去20年におよぶ国民の衰退感覚に対して、主要政党が何もしなかった、と結論したすべての有権者を、「ポピュリスト」という呼び名で侮辱することだ。「ポピュリズム」とは、都市のエリートたちが理解するために十分な努力をしないものすべてに対して使用される、拒否するための言葉だ。
ポピュリストのラベルは、国民投票を幻滅させ、民主主義への蔑視を広める。
「ポピュリズム」という言葉は歴史的に、少なくとも、19世紀後半のアメリカにさかのぼる。それは普通の人々の知恵を重視する。政治イデオロギーとしては、社会を2つの敵対する、同質の集団に分割する。たとえば、「純粋な人民」と「腐敗したエリート」だ。
問題は、「ポピュリスト」という言葉が何にでも使えることだ。それは単に、いい加減な使用者が自分の不満を表現しているだけである。こんな無意味な言葉が増殖することは危険である。ナショナリストの排外主義と、トランプと他の候補を比べて投票した合理的な有権者とを区別することは重要だ。またイタリアで、既存の主流派政党を支持するより、5つ星運動を支持する方が、抵抗として優れた方法だ、と考える有権者を区別するべきだ。
現在の政治現象をあらわるには、ほとんどいつでも、「ポピュリスト」よりも適切な言葉がある。そのためには考えること、人々に語り掛け、政治の核心について語る努力が必要だ。
私はそうした。そしてトランプ支持者が犠牲者ではなくエージェントであることが分かった。彼らは「ポピュリズム」に魅了されていないし、「ポピュリスト」ではない。大統領について幻想を持っていない。大口をたたく、頭の弱い、ナルシストの愚か者だ。彼らはトランプがアウトサイダーであり、「アウトサイダーらしく話す」ことが好きなのだ。彼らはエリートが操作するシステムの混乱を求めたし、トランプは、日々、それを与えている。
自由の名において、民主主義が栄えるために必要な区別を消し去る「ポピュリズム」といういい加減な言葉を追放せよ。
FP JULY 13, 2018
Boris Johnson’s Great Leap Forward
BY
NICK COHEN
The Guardian, Tue 17 Jul 2018
America must deal with Donald Trump,
the first rogue president
Simon
Tisdall
FT July 18, 2018
How we lost America to greed and
envy
MARTIN
WOLF
だれが中国を失ったのか? これは、毛沢東が中国の内戦で勝利した1949年に、アメリカで起きた叫びだ。奇妙な疑問である。アメリカが中国を所有したことはない。しかし、この叫びは1952年の共和党の勝利を助け、Joseph McCarthyの登場をもたらした。政府に裏切り者がいる、という告発で政治を動かした点で、トランプに似た人物だ。
今、叫ぶとしたら、誰がアメリカを失ったのか? である。そして、永久に、アメリカを取り戻すことはできないのか?
戦後世界におけるアメリカは、優れた政策を広めた。アメリカは重要な価値を示した。その価値を共有する同盟諸国を守った。開放的で、競争的な市場を信じた。市場に依拠した制度が確立された。もちろんそれは不完全であったが、魅力的なシステムであり、世界を管理する新しい試みであった。民主主義や自由を信じ、法の支配、国際機関を重視した。
今のアメリカは違う。トランプはこうした価値を否定する。同盟諸国を守らない。開放的な市場や国際機関を重視しない。トランプは、習近平やプーチンと直接取引することを好む。ドイツのメルケルやイギリスのメイが民主主義国家の女性指導者であっても、トランプは侮辱する。
なぜトランプが権力を得たのか? トランプが大統領になったのは事故だったが、それは単なる偶然ではない。アメリカ政治の失敗である。
中国の台頭とグローバリゼーションは、アメリカの世界観とその役割に深刻な影響を及ぼした。トランプが、中国や他の世界はアメリカを利用して台頭した、と考えるのは、アメリカ人の広く共有する気分である。そして保護主義が支持されるようになった。
さらに、アメリカ経済の変質だ。所得分配は不平等化した。働き盛りの世代の労働力率が低い。家計の実質所得の水準は20年間変わらない。特に、中年白人(ノン・ヒスパニック)成人の死亡率が、2000年以降、上昇した。トランプはヨーロッパのテロ事件に憤慨するが、アメリカの殺人事件はEUの5倍以上だ。そのほうが心配するべきだろう。
多くのアメリカ人の生活が悪化したのは、富裕層のために政治が動いたからだ。減税、社会支出の削減、不平等の拡大は、普通選挙による民主主義と両立しない。「トリクルダウン」経済学を叫び、文化や人種による分断化を進め、選挙区を勝手に改変し続けて有権者を抑圧した。
これは「超富裕層のためのポピュリズム」であり、「強欲と憤慨」の政治である。こうした共和党はアメリカ労働者の支持を得ることに成功した。トランプは、その政治のもたらした成果である。富裕層には望むものを与え、支持基盤を広げるためにナショナリズムと保護主義を与える。この組み合わせを体現するカリスマ的指導者がトランプだった。彼は熱狂的支持者を得た。
アメリカを失ったのは、アメリカのエリート、特に共和党のエリートだ。
NYT July 18, 2018
Trump’s Road to American Martial Law
By
Roger Cohen
FP JULY 18, 2018
Why Trump Is Getting Away With
Foreign-Policy Insanity
BY
STEPHEN M. WALT
PS Jul 19, 2018
Trump Is in Denial About North Korea
KENT
HARRINGTON
● ハイテク大企業のギグ・エコノミー
FP JULY 13, 2018
The New Economy’s Old Business Model
Is Dead
BY
HENRY FARRELL
ニューエコノミーの巨大企業は、ある重要な意味で、過去の巨大企業と異なっている。それは、彼らが雇用を生まない、という点だ。
GMは、その頂点である1979年に、アメリカ国内で61万8000人、世界で85万3000人を雇用した。Facebookは2017年、わずか2万5000人余り、2015年の1万2700人から、わずかに増えただけである。Googleの親会社Alphabetは、資本評価額で世界第3位の企業であるが、約7万5000人を雇用するだけだ。
しかし、ハイテク企業の収入とその給与支払額との間に著しい相違がある状態は、続かないだろう。数十億人の利用者とわずか数万人の雇用者との差は、アルゴリズムと学習する貴下によって成り立っている。しかし、それはまた1990年代の政治的決定がもたらした結果である。これらの企業は厳しい規制を免除されているのだ。
多くのオンライン・サービス企業は、伝統的な企業と違って、ほぼ平坦な限界費用曲線に直面している。伝統的な出版業を経営している場合、顧客が増えれば雇用する労働者を増やす。しかし、Facebookは広告市場を再編する、利用者への個々の処理を、アルゴリズムに任せている。
FacebookやGoogleのような企業は、アルゴリズムによってだけでなく、その利益と急成長を1990年代の政治的決定で規制から免除されたことに拠っている。彼らは、国内・国際レベルで規制と闘ってきた。e-コマースの新しい空間は政府よりも自己規制によって統治されるべきだ、と主張した。クリントン政権は、規制が新しいビジネス・モデルに追いつけず、むしろ有害である、と信じていた。
もしこれらの企業が法的なリスクや法に対するコンプライアンスを求められるなら、その費用は彼らのビジネス・モデルを根底から変えるかもしれない。たとえばFacebookは、ヘイト・スピーチに関する人間の調整担当者を雇用した。
しかし、彼らが、伝統的な大企業に代わって、多くの雇用を生み出すことはないだろう。
FP JULY 16, 2018
Closing the Factory Doors
BY
CHRISTINA LARSON
2人の女性がPrey
Veng地方の同じ小さな村から、バスに3時間乗って、工場の勤めに通う。家に彼女が持って帰る賃金で、新しいソーラーパネルを設置し、それは家族のための最初の小さなテレビや2つの扇風機に必要な電力を供給した。工場労働は厳しく、ときには危険でもあるが、女性の村中の親せきが称賛する。2人は家族の生活を改善するために遠くまで出かけて、賃金を得たのだから。
このような話が発展途上世界で1世紀に渡り繰り返されてきた。貧しい諸国が農業から工業に重心を移し、初期の重要な時期に軽工業が拡大した。アジアの多くのケースで、それは未熟練労働者を雇用する、労働集約的な繊維工場だった。それらが地方から都市へ労働者を引き寄せた。2016年、カンボジアの衣服と靴の製造業は製品輸出の78%を占め、衣服製造業だけで工業生産の80%近くを占めた。他の国は、経済の階段を上って、より複雑な、高付加価値の製造業、すなわち、電器製品や自動車、さらに、サービスや金融に移ってきた。
しかし今、新技術が登場して、この階段をはるかに危ない状態にしている。コンピューターとAIの進歩は衣服の縫製作業も自動化しつつある。それはさらに高速で、さらに安価なものとなっている。貧しい諸国にとって、衣服産業が自動化されることは、重要な経済機会が消滅する脅威である。2016年、ILOの研究によれば、東南アジア5カ国の繊維産業の半分以上が「自動化の深刻なリスク」に直面するだろう。
衣服産業の労働は、しばしば苦汗sweatshop労働と呼ばれる。それは変動しやすく、危険な労働であるからだ。しかし同時に、多くの発展途上国に、より良い選択肢への機会でもある。Tシャツを縫い、ジーンズにアイロンを当てるような単純労働は、厳格な工業部門のための基礎訓練、発展途上国にとって重要な外貨獲得、そして、貨幣を得ることのできる職場、を提供する。
Dani
Rodrikが言うような「早期脱工業化“premature deindustrialization”」が起きるなら、貧しい諸国の都市化、未熟練労働者の雇用や資本蓄積を可能にしている、製造業の機会が失われる。将来の衣服産業には、膨大な未熟練の少女たちではなく、縫製ロボットSewbotsが並ぶだろう。Tシャツの縫製を、Sewbotsは20秒で完成する。それは人間の縫製工の2倍の速さである。
FP JULY 16, 2018
Why India Gives Uber 5 Stars
BY
RAVI AGRAWAL
開発が進んだ世界では、いわゆるギグ・エコノミーgig economyが論争になっている。支持派の主張は、特に消費者にとって、Uberはタクシーを呼ぶのに便利だ。TaskRabbitは配管工、塗装工、清掃夫を呼ぶのに便利だ。など。労働者にも利益がある。弾力的、効率的で、市場が大きい。
他方、反対論も多い。労働条件の安全性が保証されない。年金も生命保険も健康保険ない。昇進システムもない。個々の責任で投資しなければならない。賃金もかなり安い。アメリカのUberドライバーは最低賃金も稼げない。ハラスメントに弱い。ある調査によれば、回答者の70%が、フリーランスより正規雇用が良い、と答えた。
しかし、インドのような貧しい諸国では、このような論争は起きていない。その理由の多くは、労働者の受ける利益がはるかに大きいからだ。
インドの1人当たり平均所得は1670ドルであり、アメリカの5万6850ドルに比べて、3%でしかない。Uberによれば、インドのドライバーは年間5000ドルから1万2000ドルを稼ぐ。控えめに見ても、それはインドの中産階級上層に可能な所得水準だ。炎暑の下で汚れた仕事をする労働者たちと全く違う、エアコンの効いたオフィスで働く労働者に等しい。それは家賃も支払えないニューヨークのUberドライバーと対照的だ。
インドでは、元から自動車を所有していた者がUberでフリーランスの追加所得を得るのではない。彼らはローンやリースで自動車を得て、高所得をめざすタクシーの専業ドライバーになる。その数は急速に増大している。2013年にUberは35万人と契約していたし、同じサービスを提供するインドのOlaは100万人以上のドライバーに仕事を供給する。
ギグ・エコノミーが職を創造するのか、破壊するのか、というグローバルな論争は、完全な自動化の不安によって刺激されている。しかし、インドでそれは懸念されていない。むしろ問題は安定した高度なインフラの供給に限界があることだ。インドでネットの買い物をする人口とギグ・エコノミーはさらに拡大するだろう。
インドのような、貧しい諸国の労働者が、ギグ・エコノミーによって得る隠れた利益は大きい。信頼できる高所得、多くの雇用、契約の明確化と汚職・腐敗の減少、政府にとっても納税の普及など、労働市場がフォーマルな領域を拡大する。
FP JULY 16, 2018
Then They Came for the Lawyers
BY
RYAN AVENT
FP JULY 16, 2018
Who Will Care for the Carers?
BY
SARITA GUPTA, AI-JEN POO
FP JULY 16, 2018
Protect Yourself Before You Wreck
Yourself
BY
MICHAEL LIND
FT July 19, 2018
Bring on the robot carers: my mother
would have approved
LEYLA
BOULTON
(後半へ続く)