前半から続く)


 トランプ関税の評価

NYT July 6, 2018

Making America Unemployed Again

By Jamie Lincoln Kitman

NYT July 7, 2018

How to Lose a Trade War

By Paul Krugman

ナヴァロ=トランプの関税は、貿易不均衡を是正できないだけでなく、そもそも1960年代の世界をイメージしていることが問題だ。当時は、貿易が最終財、小麦や自動車、の交換だった。輸入自動車に関税を課せば、消費者は国内自動車にスイッチし、自動車産業の雇用が増す、というわけだ。

今の世界は違う。貿易の大部分が中間財、例えば、自動車部品だ。関税が雇用を増やすかどうか、最初の効果も不確実だ。なぜなら、国内の部品メーカーは雇用を増やすが、コストも押し上げ、競争力を低下させるからだ。

関税を使うスマートな貿易戦争をやるなら、政府は最終財のみに関税を課すだろう。トランプ政権はそうしなかった。消費財にはほとんど関税を課さず、対象の95%が中間財や資本財だ。それは国内投資を悪化させる。

他方、中国政府の報復関税は全く異なる。中間財ではなく、ほとんどが最終財だ。政治的に重要な、トランプにとって重要な有権者を狙っている。

PS Jul 9, 2018

A “Reagan Moment” for International Trade?

MOHAMED A. EL-ERIAN

トランプが始めた中国に対する貿易戦争は、1980年代に、レーガンがロシアに対して仕掛けた軍備拡大競争と同じような、国際貿易システムと地政学の転換をもたらすのか?

1980年代、アメリカのレーガン大統領は、ソ連との軍備拡大競争を導き、それはグローバルなバランス・オブ・パワーを変えて、多くの国に影響を与えた。現在、トランプが中国に対して、意図するかどうかに関係なく、同じことを導く可能性がある。

NYT July 9, 2018

Trump, Tariffs, Tofu and Tax Cuts

By Paul Krugman

FT July 10, 2018

Conflict over Donald Trump’s trade tariffs escalates

PS Jul 10, 2018

How To Avoid a Trade War

DANI RODRIK

トランプの保護主義が労働者の利益になるとは思えない。しかし、その結末を考えるためには、他国のインセンティブを観なければならない。貿易戦争となるのは、他国が報復し、エスカレートするからだ。しかし、そうしない、と考える理由がある。

原点となった1930年代の経験では、各国が世界不況に陥り、大規模な失業や政策対応の不足によって大不況に落ち込んだ。景気循環を抑える財政政策の考え方はまだなかった。金本位制は金融政策を、無益どころか、有害にしていた

そのような条件では保護主義を採用することには理由があった。しかし、今は違う。トランプの保護主義を支持することはないが、かといって単純に、報復することが好ましい、と考える国もない。ヨーロッパも中国も、その国内経済状態から、保護主義を支持する理由はない。また、アメリカの保護主義の影響を緩和する手段もある。

トランプが勝手に自分たちの経済的利益を損なうというなら、それを無視して、自国経済に最適な政策をすればよい。所得や雇用、国民の福祉が重要であり、貿易そのものではない。

NYT July 10, 2018

Someone Should Tell Donald Trump About America’s High Tariffs

By The Editorial Board

FT July 11, 2018

Donald Trump creates chaos with his tariffs trade war

MARTIN WOLF

カオスを創り出すトランプを説得し、交渉するのは難しい。彼が何を求めているのか、わからないからだ。これは異常である。

トランプ政権は安全保障を理由に輸入財に関税を課し、中国からの輸入にも関税を課した。中国が報復したことに対して、さらに関税品目を拡大する。それに対しても中国は報復する。こうしてアメリカは、中国からの輸入の約3分の18000億ドルに達すると予告した。

安全保障、中国の産業政策、強制的な技術移転、とトランプ政権はその目的を説明した。しかし、その説明は愚劣であり、交渉しても無駄であり、もっと国際協調するべき問題だ。ところが、トランプは西側諸国にも関税を課す。

完全雇用状態のある国が貿易赤字を減らす有効な方法は、不況にすることだ。トランプはそれを望まない。他国はどのように対応するべきか? もし報復するしかトランプの失策を説得できないのであれば、報復するべきだ。そして、アメリカ以外の国は協力する。

しかし、最も望ましいのは、トランプ政権が望むと称する、完全な関税撤廃を支持することだろう。

FT July 12, 2018

China switches strategy to deal with Trump tariffs

FT July 12, 2018

China presses on America’s pain points in the trade war

KEYU JIN

PS Jul 12, 2018

The Economic Consequences of Trump’s Trade War

BARRY EICHENGREEN

なぜ1兆ドルに及ぶかもしれない貿易戦争の予兆に対して、経済状態や金融市場は大きく反応しないのか?

1.それは起きない、と思っている。2.トランプが言うように、容易に勝利できる。3.マクロ経済に及ぼす影響は非常に小さい。

いずれも間違っているかもしれない。不安を感じる者は、事態の推移を待つしかない。

FT July 13, 2018

A trade war risks all Donald Trump’s economic successes

ANTHONY SCARAMUCCI


 ヨーロッパの政治的分断

NYT July 6, 2018

Why Europe Could Melt Down Over a Simple Question of Borders

By Max Fisher

The Guardian, Mon 9 Jul 2018

Liberal Europe isn’t dead yet. But its defenders face a long, hard struggle

Timothy Garton Ash

Merkron(ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領)とOrbvini(ハンガリーの指導者Viktor Orbánとイタリア副首相Matteo Salvini)とがヨーロッパの政治を分割して争っている。

Merkronが勝つためには、非常に困難ではあるが、リベラルな民主主義が築いた成果の上に、それがもたらした問題に解決策を示す必要がある。そして、それを政党の政策綱領に掲げて、選挙戦で勝利しなければならない。マクロンがフランスでしたように。

確かに、Orbvini陣営は優勢である。しかし、ヨーロッパにおけるMerkron陣営は敗北しないと思う。長い、苦しい戦いが待っている。

SPIEGEL ONLINE 07/09/2018

Europe's Next Test Case

A Journey Down Austria's Path to the Right

By Ullrich Fichtner

FP JULY 9, 2018

The Future of Europe, for Better or Worse, Is Sebastian Kurz

BY FRANZ-STEFAN GADY

FT July 10, 2018

Nothing can stand between Ukraine and its European ambitions

PETRO POROSHENKO

FP JULY 10, 2018

3 Versions of Europe Are Collapsing at the Same Time

BY IVAN KRASTEV

ヨーロッパは崩壊しつつあるのか? NATOの防衛費を負担しない。移民を規制する不十分な合意が繰り返される。東欧では権威主義体制が顕著に復活してきた。

確かに、ヨーロッパは何度か崩壊した。それらの失敗からヨーロッパは制度を鍛えたのだ。しかし、今は違うようだ。ヨーロッパ全体がばらばらに崩壊していく音が聞こえる。

ヨーロッパには3つの異なるバージョンがある。1945年以後のヨーロッパ、1968年の革命を経たヨーロッパ、そして、冷戦終結後に生まれたヨーロッパ。それらはヨーロッパの戦後プロジェクトから生まれた。

戦後ヨーロッパは、第2次世界大戦の恐怖と破壊の記憶と結びついている。それは次の戦争を防ぐためにあった。しかし、1990年代、ユーゴスラビア内戦ではカオスが再現される。決して大陸規模ではなかったが。

戦後ヨーロッパが崩壊したのは、その歴史が過去の記憶になったからだ。戦争の生き残りは死去し、大陸の外から多くの難民たちがやってきた。彼らにとっては自分たちの戦争ではない。そして、多数派のヨーロッパ人たちは、世界がますます危険な場所に代わり、アメリカがもはやヨーロッパを防ッ御することに関心を持たないことを知った。

また異なるヨーロッパも崩壊した。それは1968年の革命後のヨーロッパだ。人権を尊重し、特に、マイノリティーの権利を重視した。1968年のパリ学生革命がヨーロッパに与えた教訓は、国家が市民を守るだけでなく、市民を脅かすこともある、ということだった。68年後の世代は、最も弱い立場の者から見て社会を告発した。民主化を進めただけでなく、民主的な想像力をグローバルに拡大した。一言で表せば、包摂であった。

しかし、1968年後のヨーロッパも崩壊する。最近の数十年で、人口が劇的に減少し、社会変化を経験した多数派は、何もかも持っていたが、何かを失うことを恐れる、政治の多数派であった。彼らはグローバリゼーションの敗者になることを恐れた。それがともなう大規模な人の移動を恐れた。そして、多数派の恐れが政治を変えた。多数派の文化を守る権利を主張した。

2015年の移民・難民危機は、ヨーロッパの911であった。それは1968年後のヨーロッパを破壊し、1989年後のある種の社会モデルを破壊した。

20世紀の初め、もっとも多様であった中東欧が、今では最もエスニックについて同質的である。西ヨーロッパは、文化的に非常に異なる社会から来た多くの人々を統合する方法について苦しんだ。他方、中欧では、多くの国民が西ヨーロッパに流出するのを阻止することに苦しんだ。中東欧の人々は西ヨーロッパの生活を得たいと願った。

しかし、中東欧の市民が西側を模倣することは問題を生じた。西側は金融危機や難民危機で失敗を経験した。他方、西側のあらゆるものを模倣し、リベラルな民主主義も輸入したが、彼らは道徳的、心理的な挫折を味わった。そして、もっと逆のモデル、極右や非リベラルな指導者に期待した。


 インド政治の変質

FP JULY 6, 2018

Motherhood Is Kicking Indian Women Out of Work

BY NAMITA BHANDARE

NYT July 10, 2018

A Mythical River Flows Through Indian Politics

By Shirley Abraham and Amit Madheshiya

FP JULY 10, 2018

India’s Secularists Have an Authoritarianism Problem

BY ALEX TRAUB

西ベンガル州のBirbhumは、人口350万の貧しい地方である。その政治は、選挙によって多数の支持を争わないムスリムの指導者と、ヒンドゥー・ナショナリズムを広めるBJPとの間で、激しい暴力を含む、権力闘争となっている。

Anubrata Mondalは、the All India Trinamool Congressの指導者である。彼は、選挙を経ない個人的な支配力を誇っており、ムガール帝国の皇帝のようにふるまう。インドの少数民族を支援するという目的で、西ベンガルを支配し、インド政治にも影響力を持っている。Trinamoolはムスリムのための公務員雇用、高等教育枠を求め、ヒンドゥー・ナショナリズムの与党Bharatiya Janata Party (BJP)を批判する。

しかし、Trinamoolの道徳的権威は、権力を維持するため、暴力を行使したことで損なわれた。西ベンガルは長く、インドの政教分離主義の砦であった。もしBJPがこの州を取れば、ヒンドゥー・ナショナリズムがインド政治の新しいコンセンサスになった、と多くのインド人は見るだろう。

Trinamoolはパンチャヤート(村など地方行政)の87%以上の議席を支配するが、それは対立候補を暴力的に排除することで実現している。そのやり方に対して、Narendra ModiBJPの支持者たちは「民主主義が暗殺される」と主張する。Rahul Gandhiが指導する国民会議派など、多元主義の政党は、候補者の暗殺や汚職を非難されてきた。

ベンガルの政治は長く左派によって支配された。しかし、インド共産党The Communist Party of India (Marxist)CPI(M)が、次第に、草の根のラディカルな行動主義から自分たちの権力追及に変化した。左派フラントthe Left Frontという連携を共産党が指導し、選挙を暴力的に支配した。2006-2007年には暴力が頂点に達し、地方警察や共産党員が、政府による産業開発の土地収用に抗議した農民を、少なくとも14人、殺害した。Trinamoolの創設者Mamata Banerjeeは共産党の不正義と戦った指導者である。

しかし、Trinamoolが権力を握ると、同じような絶対主義支配に陥り、暴力を行使し始めた。対立候補は、7歳の息子に銃を向けて脅されたり、Trinamoolの支持者たちから殺害の脅迫を受けたり、BJPだけでも52人の支持者が殺された、という恐るべき話が多くある。

Trinamool に対抗できる選択肢として、BJPの理論的指導者たちは、先住民族をBJPの支持基盤に取り込むチャンスと見ている。Birbhumのムスリムたちは、左派フロントからTrinamoolの支持へ向かったが、それ以外の選択肢がなかった。しかし、政党のあまりに深刻な腐敗について、急速に、失望が広がっている。

ムスリムは再び共産党を支持することも試みたが、共産党は彼らを守る資金もマンパワーも持たなかった、と農民の1Jiaul Ansariは語った。命の危険と、政治的基盤を求め、ムスリムたちは驚くべき決断をした。BJPに合流したのだ。

しかし、西ベンガルのムスリムMohammed Afrazulの物語がある。Afrazulは、BJPが支配するRajasthanで働いていたが、ヒンドゥーの女性と恋に落ち、それを理由にヒンドゥー過激派たちは彼を殺害した。その殺害を映像として流した。

こうした凶悪なヒンドゥー・ナショナリズムがインドに広がり、西ベンガルにも及んでいる。ヒンドゥー過激派の暴力に対する対抗こそ、Trinamoolの権力を正当化する最大の根拠である。西ベンガルの政教分離主義という理想が伝統としての力を失い、選挙は権力者の策謀に変わり、熱狂的な攻撃、戦争を叫ぶ声が勝利しつつある。

FT July 11, 2018

India’s cleanest village is a distant model in a polluted nation

KIRAN STACEY

PS Jul 11, 2018

India’s Social-Media Lynch Mobs

SHASHI THAROOR

ソーシャル・メディアTwitter, Facebook, and WhatsAppの普及により、与党であるBJPは、過激な好戦的主張、ヒンドゥー・ナショナリズムを広めるサイバー部隊を育てている。インドのソーシャル・メディアには有毒な政治的主張、フェイクニュース、映像があふれている。その攻撃はBJPに敵対する思想や政党、政治家だけでなく、その指導者モディにも向けられる。


 中国とロシア

FT July 8, 2018

Russian and Chinese sharp power puts democracies in peril

CHRISTOPHER WALKER

中国とロシアの権威主義体制は、リベラルな民主主義に対してもオープンな闘いで優位を占めている。特に、中国は経済的なレバレッジを使い、アイデアの世界にも支配力を強化した。それは外国との情報戦にも優位を示す「シャープ・パワー」を手にしつつある。

FT July 9, 2018

China’s Belt and Road difficulties are proliferating across the world

JAMES KYNGE

インフラ投資は政治家の汚職を広め、政権を崩壊させた。

NYT July 10, 2018

This World Cup, Remember the Russian People

By Musa Okwonga

PS Jul 11, 2018

Xi Jinping’s Vision for Global Governance

KEVIN RUDD

習近平体制はグローバル・ガバナンスに関する意識的な構想を示しはじめた。

FT July 12, 2018

China and the world: how Beijing spreads the message

Emily Feng in Beijing


 日本のエネルギー政策

FT July 9, 2018

Japan is nervous about its energy security

NICK BUTLER


 世界経済予測

PS Jul 9, 2018

The Global Economy’s Uncertain Future

JIM O'NEILL


 北朝鮮

FP JULY 9, 2018

The Singapore Honeymoon Is Over

BY DANIEL RUSSEL

FT July 10, 2018

North Korea would find Vietnam’s road to modernisation hard going

HUONG LE THU

FP JULY 11, 2018

Trump Has Nobody to Blame for North Korea but Himself

BY COLIN KAHL


 アメリカの変質

FT July 10, 2018

Trump takes another step to remake America

EDWARD LUCE

SPIEGEL ONLINE 07/11/2018

Interveiw with Madeleine Albright

'I Am an Optimist Who Worries A Lot'

Interview by Christoph Scheuermann


 ECBの金融政策

VOX 10 July 2018

Next steps after the Euro Summit

Agnès Bénassy-Quéré, Markus K Brunnermeier, Henrik Enderlein, Emmanuel Farhi, Marcel Fratzscher, Clemens Fuest, Pierre-Olivier Gourinchas, Philippe Martin, Jean Pisani-Ferry, Hélène Rey, Isabel Schnabel, Nicolas Véron, Beatrice Weder di Mauro, Jeromin Zettelmeyer

PS Jul 12, 2018

Time to Untie the ECB’s Hands

STEFAN GERLACH

ECBQEをやめる方針を示した。それは次の金融危機に備えて金利の下げ幅を確保することである。しかし、同時に、インフレ目標を下回っても金利を引き上げるという判断は、これまでのインフレだけを目標にした金融政策を改める機会にすべきである。


 民主党の左派

FT July 11, 2018

A left turn could be a dead end for the Democrats

JANAN GANESH


 洞窟救出劇

NYT July 11, 2018

Can the Cave Rescue Save the Thai Government Too?

By Pavin Chachavalpongpun


 ロボット・AIと働く

FP JULY 11, 2018

Learning to Work With Robots

BY MOLLY KINDER

PS Jul 12, 2018

Work in an Age of Automation

SUSAN LUND, ERIC HAZAN

FP JULY 12, 2018

First They Came for the Immigrants. Then They Came for the Robots.

BY BRUCE STOKES


 アメリカとの「特別な関係」

The Guardian, Thu 12 Jul 2018

For May, the ‘special relationship’ means craven compliance

Gary Younge

FT July 12, 2018

Brexit and a not-so-special relationship

PHILIP STEPHENS

******************************** 

The Economist June 30th 2018

The tech giant everyone is watching

The war in Syria: The new Palestinians

China’s university entrance exam: The gaokao grind

Netfixonomics: The television will be revolutionised

Immigration policy: When good men do nothing

Fixing the internet: The ins and outs

(コメント) インターネットとハイテク企業に関する考察があります。どちらも面白いですが、物足りませんでした。NetfixFAANGSの中で、消費者から支持される、新しい優位に向かうモデルなのでしょうか?

シリア内戦の過程が新しい「パレスチナ難民」を生む、という問題提起に驚きます。

****************************** 

IPEの想像力 7/16/18

インターネット世界に秩序を築く必要があります。リアルな世界の秩序は、急速に、インターネットとの接続に依存し、全く異なる秩序に転換し始めているからです。

インターネットにつながった途端、歴史的・政治的な障壁は崩れ出し、市場を介して富と権力が波打つように集中し、集積するように見えます。ワールド・カップの出場選手たちは、世界の視聴者をさらに多く獲得し、そのプレー次第で次の契約金額を何桁も変えたでしょう。それはFAANGSの利益や資本額にも起きるのです。

貿易戦争は、貿易収支の黒字や赤字とは全く違う意味で、「正しい戦争」になるのかもしれません。トランプ政権が、中国の先端技術支配を狙った産業政策について、アメリカ企業の保護や介入、制裁措置で抑え込もうとしています。グローバリゼーションは、一方で、関税や規制、税制の違いから生じる煩瑣な手続きが必要ない、統一経済圏に至り、他方では、貿易戦争の背後で、グローバルな産業構造を動かすハイテク技術のスタンダードを確立する、陣地戦に向かうのか?

前者において、アメリカや日本の企業はそれぞれの巨大経済圏に拠点を得たいと願うでしょう。そして後者では、スタンダードの異なる技術に依拠するハイテク大企業と権力者たちが、市場も政治も支配するように思います。ハイテク地代を権力者に収める、権威主義的王朝支配です。

The Economistの特集記事 Fixing the internet: The ins and outs” を読みました。私が知りたいテーマ(独占禁止法、特許法、知的財産、インフラ・公共財、税制・相続、社会保障、資本市場、など)と異なる内容でしたが、もちろん、どこかでクロスするのでしょう。

The Economistは、インターネットが創生期の人々が夢見た、権力や富の「分散化」ではなく、むしろGoogle, Amazon, Facebook, Tencentなど、集中を強めていることに注目します。20年前に、地球の秩序を改善できる、と唱えた「インターネット革命」は失敗したのか?

確かに、素晴らしい成果です。通信能力は高まり、利用料金は下落し、パソコンから携帯通信機器により、名目的には無料のサービスを提供しつつ、利用者を爆発的に増大させました。しかし、そこに現れるのは醜い姿です。グローバルな巨大企業が多くの商店や企業を一掃し、情報の流れを支配して、ゆがみを生じ、情報の集積から莫大な利益を上げ、閉ざされた、偏った集団が過激な主張を支持し、テロ集団から独裁者までがインターネットを愛用します。

ネット世界の独立とフロンティア拡大、旧世界秩序の解体は、アメリカ独立革命のように、新しい連邦国家の樹立を求めているのでしょうか?

The Economistは、その初期の理想を破棄するのではなく、関係者たちは3つのモデルを考えている、と紹介します。すなわち、ジェファーソン型の大企業解体、ハミルトン型の国家改造、そして、双方を合わせた規制とその調整です。

ハイテク大企業が市場における他の企業活動の生存、市民生活の自由を奪うことは、阻止しなければなりません。集権的な体制が情報を操作し、市民を監視するシステムによって民主主義も失われつつあります。経済も政治も、分散することです。

しかし、企業分割を含む独占禁止法は、良い結果をもたらさない、とアメリカに始まる多くの諸国でハイテク大企業の拡大が許されました。実際、AT&Tの独占を開放し、IBMの支配からソフトウェアを分離し、MicrosoftからGoogleが飛躍したように、かつて政府は競争を促すことに成功したわけです。ハイテク大企業に対抗する国家の能力を高める必要があります。

FAANGSは、アメリカやその統一経済圏の資本家から見て、正しい世界を意味するとしても、市民的な理想に反しています。基本的な技術や特許は、もっと規則的に公開し、新規参入や新サービスによるアイデアの競争を促すべきでしょう。そして、株式市場に頼らず、普及のための長期投資を促します。Netfixに関する記事は、その可能性と限界を論じています。

アメリカ企業の利潤追求にも、中国政府の権力強化にも、私は従いたくありません。インターネットとコンピューターの能力が飛躍的に改善する中で、国家に分割された世界と異なる世界、情報をめぐるグローバルな市民社会的秩序の未来を構想することです。

******************************