IPEの果樹園2018

今週のReview

7/16-21

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Brexitの結末 ・・・イタリア政治の変質 ・・・中国と貿易の未来 ・・・NATOサミット ・・・民主主義と投票 ・・・トランプ関税の評価 ・・・ヨーロッパの政治的分断 ・・・インド政治の変質 ・・・中国とロシア ・・・

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexitの結末

The Guardian, Fri 6 Jul 2018

Rudderless and riven by Brexit, the Tories have only one ambition left

Gary Younge

Brexit国民投票の目的は、EUと何も関係なかった。何十年も続く、保守党内部の心理的な葛藤を鎮める、最新の宗教儀式のようなものだ。

この2年間、われわれの政府は、国民の将来を人質にした党内抗争により、機能マヒしていた。政府は、機能しないような「解決策」を作り出す前に、異常なほどの交渉時間を費やした。彼らはそれをブリュッセルに持っていくだけで、受け入れられないものだと言われるだけだった。

問題は、彼らがウサギを出せないだけではない。そもそも(ウサギを出す)帽子も持っていないのだ。一連の自分を傷つけるような行為により、保守党政治家は幻滅、憤慨、恫喝、道化の間をさまよった。

平均で35%の有権者が支持したこの2年間の作業は、保守党の内紛だけであり、われわれはそれに付随する損害を受けた。保守党にとって、この危機は単にヨーロッパに関するものではなく、党の生存をめぐる危機になった。

今週の初め、イギリス最大の自動車メーカーであるJaguar Land Roverは、もしイギリスが単一市場を抜けるなら投資計画を見直す、と発表した。2週間前には、AirbusBrexitの懸念から、脱出ボタンを押した、と確認した。最新調査によれば、イギリス主要企業の75%Brexit交渉を悲観している。

その理由は明らかだ。ドイツの企業であるジーメンスのイギリス経営幹部Jürgen Maierが、エアバスや他の企業の懸念を引いて、イギリスの交渉姿勢を質したところ、ジョンソンBoris Johnson外相は「バカな経営者め」と応じた。

ジョンソンはアイルランドにも関心がない。南北を分断する国境線が再導入されてもかまわない、という姿勢だ。非公開の保守党内の会合で、先月、ジョンソンは述べた。「国境を定期的に使うような企業は小さいし、数も少ない。尻尾が犬を振り回すとはこのことだ。こんな愚かな話にわれわれの未来の計画が屈服するのは許せない。」

保守党は自分たちが権力を維持することにしか関心がないように見える。彼らの国内政策課題はBrexitにより圧縮された。そして、彼らが合意できるBrexitの計画はない。

彼らがこんなことを続けるなら、唯一、労働党のコービンJeremy Corbynが首相になる政変の可能性が高まるだろう。保守党は、コービンが国を亡ぼす、と恐れ、それを阻止するためだけに奮闘している。

The Guardian, Mon 9 Jul 2018

Power, not Brexit, is behind Boris Johnson’s decision to quit

Martin Kettle

昨夜、デイヴィスはメイの方針に従えないから辞任した。ジョンソンは、首相になりたいから彼に続いた。デイヴィスの辞任は原則の問題だが、ジョンソンの辞任は自己利益だ。

The Guardian, Mon 9 Jul 2018

The Guardian view on Boris Johnson’s resignation: good riddance to a national embarrassment

Editorial

FT July 9, 2018

May’s soft-Brexit Chequers deal: What it means

Alex Barker in Brussels

メイ首相は、その内閣を新しいソフトBrexitの考え方で固めた。金曜日の夜、首相の公式別荘Chequersで、2016年のBrexit国民投票の後、最も重要な経済政策の決断が下された。

しかし、メイの見解は不完全である。イギリスは財の貿易について「自由貿易協定」をEUと結ぶ。その意味では、イギリスはEUのルールを受け入れるのだ。また、イギリスの妥協は、法的な強制力に及ぶ。イギリスは裁判権限をEUと分離するが、財の貿易ルールに関してはEUの解釈に従う。

双方を合わせても、イギリスがノルウェイよりも大きな自由を得たとは思えない。

FT July 9, 2018

Theresa May’s political survival at stake after David Davis resignation

SEBASTIAN PAYNE

FT July 10, 2018

Theresa May now faces the second Battle of Brexit

ROBERT SHRIMSLEY

FT July 10, 2018

Brexiters fear ‘biggest loss of sovereignty’ since 1973

Alex Barker in Brussels

Brexit後のイギリスは、「まさしく植民地の地位に向かう」のか?

ジョンソンがその辞表で煽動したこの表現は、EU離脱がイギリス議会に政策決定能力を回復するより、むしろ侵食することになる、と恐れる離脱派の怒りを表している。

ソフトなBrexitに関するメイの計画は、離脱派から見て、1973年のEC加盟において失った以上に、国内法にかかわる多くの権限をイギリス議会は失う。それは「コントロールを取り戻せ」という離脱派の叫びとかけ離れたものだ。離脱交渉担当の元大臣David Davisは、主権を取り戻すことは単なる「幻想」だ、と述べた。

メイはこうした主張に反対する。共通のルール・ブックに従うという彼女の提案は、財と農産物に限られており、報酬の裁判所に権限を委譲していない。重要なことは、それがイギリス議会の明確かつ継続した同意に基づく、ということだ。

しかし、ブリュッセルもイギリス議会の政治家たちも、首相の計画は権限移譲の始まりに過ぎない、と考える。他の分野でもEUのルールを受け入れ、他の財やサービスもEUの判断にゆだねるだろう。メイの元EU大使Ivan Rogersは、このモデルは、コントロールを取り戻すどころか、1973年の加盟以来、最大の主権喪失である、と述べた。メイの問題は、カナダ型の自由貿易協定という提案は、摩擦のない貿易をもたらす者ではないし、深刻な経済コストを生じる、と最後は理解するだろう、ということだ。

ブリュッセルの外交官たちは、長い間、コントロールをめぐるイギリス議会の空虚な論争に呆れていた。多くのヨーロッパの小国にとって、実際、主権をEUにプールすることで、共通のルールや制度に対する彼らの影響力を強めるのだ。

「主権国家などというものは、もはや存在しない。」 あるEU加盟国のBrexit担当官は言った。「イギリス人は幻を追いかけている。それも終わった。」 EUの他のBrexit交渉担当者は、イギリスの政治ドラマを「ハツカネズミの回転車」にたとえた。

メイの計画はノルウェイのEEA取り決めに近い。オスロはEUと司法権を分離しているが、単一市場に関するEU法と司法システムを受け入れる。ところがBrexit国民投票の前には、だれもがノルウェイ型の取引を酷評した。それは離脱派が求めるものではなかったのだ。しかし、われわれは今、そこにいる。

重要なことは、ノルウェイ国民が広くコンセンサスを形成したことだ。だれもそれを好まないが、それが最善の選択肢であると認めた。困難な意思決定過程と論争、妥協、法改正の過程が必要だ。イギリスはまだそうした過程を進めていない。

FT July 10, 2018

The politics of Brexit have caught up with hard reality

DAVID ALLEN GREEN

NYT July 10, 2018

Boris Johnson Has Ruined Britain

By Jenni Russell

イギリスは混乱の極みにある。それはEU離脱派が創ったものだ。その重要な役割をBoris Johnsonジョンソンが担った。

なぜ離脱派は国民投票で離脱を叫んだのか? ジョンソンも、ゴーブも、離脱する意図はなく、離脱することを望まず、離脱派が勝利するとも考えなかった。だから、国民投票を権力闘争の道具にできたのだ。少数派の、彼らの力を、保守党の主流派に思い知らせるためだった。

当時、ジョンソンはイギリスで最も人気のある、影響力のある政治家だった。彼は、次期首相の確約を得たかった。政権が自分を取り込まなければ、どれほど危険であるか、彼は示すためにEU離脱を唱えた。

ジョンソンも、ゴーブも、離脱派が勝利する可能性がないことによって、何を主張してもよかった。どれほど愚かな主張もできたし、反対する声を無視した。しかし、彼らの通俗的な不正直さは、あまりにも重大な結果をともなった。離脱派が勝利した後の2年間、議会とEUを説得できる具体的な離脱計画を、誰も示せなかったのだ。

保守党の指導者たちは、党が分裂すれば政権を失うことを恐れた。そしてジョンソンたちは、自分たちの誤りを認めて有権者に謝罪するより、掛け金を2倍にした。離脱後の楽観論、事実に反する解決策を振りまいた。EUとの離脱交渉が進むはずはない。

メイがEUとの妥協案を認めたとき、ゴーブは空虚な完全離脱を主張して辞任し、ジョンソンは再び、自分を敵にすることが政権を脅かす、と示すために辞任した。

アメリカ人ならよくわかるはずだが、狡猾な欺瞞と、抑えられない強いエゴをもつ1人の男が、どれほど国民を破滅に導くものか、Brexitがよく示している。

NYT July 10, 2018

Brexit Meets Gravity

By Paul Krugman

BINO – Brexit In Name Onlyと言われているように、離脱派が支持するアメリカや他国との通商条約は成立しない。

EUは、簡単にイギリスが結べる自由貿易協定ではない。NAFTAと異なり、それは関税同盟である。EU内の取引は、輸入だけでなく輸出も、すべての煩雑さを免れる。イギリスの自由貿易協定はそうではない。

また、イギリスがアメリカと自由貿易協定を結べるのか? 圧倒的に非対称なGDPのもたらす「重力」に応じて、その協定はアメリカに圧倒的に有利になるだろう。イギリスはそれを拒めない。

FP JULY 12, 2018

Take Back Control’? Brexit Is Tearing Britain Apart

BY ROBIN OAKLEY

FT July 13, 2018

A new approach for UK financial services after Brexit

Philip Hammond


 イタリア政治の変質

PS Jul 6, 2018

The Migration Dilemma

PETER SINGER

移民の論争で敗北することで、ヨーロッパの人々は他のすべての価値についても極右の政治に敗北しつつある。

NYT July 7, 2018

This Italian Town Once Welcomed Migrants. Now, It’s a Symbol for Right-Wing Politics

By Jason Horowitz

警察が銃撃と殺戮を終わらせたとき、最後に、Luca Trainiはファシスト時代の記念碑である階段を登り、イタリア国旗をまとって、ファシスト式に敬礼した。

彼は6人のアフリカから来た移民を銃撃し、傷つけた。ガーナ、マリ、ナイジェリアから来た男たちだ。Macerataは、アドリア海に近い中世の町で、ナイジェリア人の麻薬ディーラーに殺害され、バラバラにされた若いイタリア人女性の復讐である、とTrainiは考えた。彼の考えでは、これは愛国者の行為だった。

しかし、イタリアの指導者たち、リベラル、反ファシストの集まりにとって、これは恐怖の前兆だった。

議会選挙が数週間後に迫っていた。この銃撃戦は、憎悪を煽る選挙戦の最中に起き、移民攻撃、不寛容、ファシズム復活を示唆した。

移民危機が高まったとき、イタリアはEUを熱烈に支持する、進歩派の牙城であった。しかしTrainiの暴力は、移民に対する逆風、極右政治の再現を、グロテスクな形で明確に示した。

ブリュッセルのある見方では、今やイタリアがヨーロッパ最大の実存的な危機なのだ。「1年以内に、統一ヨーロッパがまだ存在しているか、わかるだろう。」 イタリアの新しい内相Matteo Salviniは言った。

Salviniは、Macerataの事件が解き放った怒りを理解し、だれよりもその力を利用した。

今や、リベラルな民主主義はヨーロッパ中で重圧を受けており、イタリア政治はポピュリズムの新しい脅威によって変形しつつある。Salviniのナショナリスト政党the Leagueは、2013年、Macerata0.3%しか支持されていなかったが、3月には21%に上昇した。

以前のMacerataは、寛容さで有名な町だった。2013年、移民・難民の統合化努力でイタリア中に認められた。カソリックの慈善団体the Caritasが移民たちと協力して活動した。

イタリアの多くの町と同じく、Macerata2008年の金融危機の後遺症で苦しんだ。2016年には地震の災害も起きた。

ローマの労働者階級出身の18歳の少女Pamela Mastropietroが、ローマ郊外の静かなMacerataの魅力に惹きつけられた。そしてルーマニア人の麻薬ディーラーと付き合い始め、麻薬を打つようになった。

彼女の母親が説得して、ようやく麻薬中毒者治療センターに数週間入院した。しかし、129日、彼女はセンターを脱け出し、麻薬を買いにDiaz Gardensへ行った。そこには多くの売人が、その多くは移民が集まっていた。詳細は分からないが、Ms. Mastropietro29歳のナイジェリア人にたどり着き、殺害・解体された。男は、移民が最も多くイタリアに入った2014826日に、到着した。

少女の殺害はイタリアを恐怖させ、すぐに選挙の論争点になった。選挙戦で、Salviniはすでに世界を移民の麻薬ディーラーが若者たちを麻薬中毒にすると警告していた。今や、彼は突進した。

「この蛆虫はイタリアで何をしていたのか? この男は戦争を逃れてきたのではなく、イタリアに戦争を持ち込んだのだ。」 犯人逮捕の後、Facebookに、Salviniは「左派の手は血で汚れている。次の移民による殺害が待っている。国外追放せよ。追放だ! 監視して、追放せよ!」と書き込んだ。

イタリア人の多くは、若者たちが「失われた世代」になることを憂慮していた。若者の麻薬使用が急速に増えた、と警察は報告した。ヘロン、コカインが復活した。若者たちの不満は5つ星運動の支持に向かったが、それはSalviniの反エスタブリシュメント連合の相手である。

移民が若者から職を奪った、と主張するSalviniは過激な手段を唱える。「マス・クレンジングだ。通りから通り、地区から地区を消毒せよ!

Salviniは、Facebookに動画を載せた。それは貧しい、高齢のイタリア人がゴミ箱をあさって、食料を探す姿と、イタリアのコメについて文句を言うアフリカからの移民の姿とを対比するものだ。294000回のシェアと1000万人の視聴者がいた。

425日、ナチの占領が終わったことを記念するイタリアの休日に、数人の退役軍人たちが抵抗運動でなくなった兵士たちに敬礼した。記念式典は終わったが、散会した群衆は、売店で「Pamelaは拷問された」という見出しの新聞を観た。Piazza Vittorio Venetoでは、ボランティアたちが貧しい住民や移民に200人分の食事を提供する。牧師は法皇フランシスの言葉を引用したカードを配っていた。「私たちはみんな移民である。」

PS Jul 9, 2018

Reading the Signs of the Times

IAN BURUMA

NYT July 9, 2018

Deporting the American Dream

By Anita Isaacs and Anne Preston

PS Jul 10, 2018

A New Approach to MENA’s Refugee Crisis

NASSER SAIDI

中東・北アフリカの不安定な政治情勢は容易に改善しないだろう。その規模と長期化に見合う援助機関を設立する必要がある。

PS Jul 10, 2018

The European Union’s Dublin Conundrum

DANIEL GROS


 中国と貿易の未来

PS Jul 6, 2018

America’s Second Sputnik Moment?

YASHENG HUANG

PS Jul 6, 2018

Trade, Technology, and Xi Jinping’s Question

KAUSHIK BASU

2017年、世界経済フォーラムの講演で、習近平は、ディケンズからの有名な引用“It was the best of times; it was the worst of times”で始めた。そして語った。「今日のわれわれも、矛盾に満ちた世界を生きている。」 物質的な富は増大し、科学技術が前進している。しかし他方で、地域紛争が頻発し、テロや難民のような地球規模の挑戦、貧困、失業、所得格差が不確実さを高めている、と。

「世界の何が間違ったのか?

恐らく、その答えは技術にある。中国が所得を急速に高めたように。しかし、われわれは技術の扱いをひどく間違ったのだ。

技術はわれわれの生活を形成し、変形してきた。それは人類史の初めに、石を道具に使ったときからそうだ。18世紀半ばの産業革命もそうだった。進歩は甚だしいマイナス面をともなった。労働者は12時間から14時間も働き、不平等が増大した。今日、貧しいサブサハラ・アフリカで観られるよりも、さらに多くの児童労働が行われた。

しかし、ヨーロッパはこの挑戦に応じた。経済学が誕生し、累進性の所得税、労働制や規制が行われた。その結果、産業革命は経済発展を加速し、人類の福祉を改善した。

現在もそうだ。いわゆる第4次産業革命は、リアルタイムで大陸規模において労働者を結びつけることを含む、デジタル技術、最近では、AIやロボットを含む。技術が経済のグローバリゼーションを可能にした。その空前の進歩は、同時に、拡大する所得格差、労働者の脆弱性など、多くの挑戦を意味する。

しかし、世界は挑戦に応えていない。政治は極論に向かい、ナショナリズムが高まり、毒素を高める非難合戦となっている。最も目立つ例は、ドナルド・トランプのアメリカが貿易戦争を広めていることだ。彼らはグローバリゼーションを誤解している。それは何十億人もの人々が、利用できる可能性に基づき、毎日、決定した活動によって起きている。グローバリゼーションを非難するのは、建物の崩壊を重力のせいにすることに等しい。

互いを非難するより、協力して挑戦に応じるべきだ。

PS Jul 9, 2018

Trade Barriers Will Not Stop China’s Rise

ADAIR TURNER

貿易は3つの理由で起きる。1.資源がある。2.賃金に差がある。しかし、豊かな諸国の間では、3.特化や、製造業における規模の経済、研究開発、ブランドなどだ。

貿易のつながりがあるところで、突然、関税を引き上げれば、深刻な混乱が生じる。しかし長期的には、1人当たり所得の等しい大陸間の貿易は、思われているほど、その繁栄に重大な影響を及ぼさない。

巨大な経済圏は規模の経済と複雑な統合されたサプライ・チェーンを持つ。それでも企業間の競争を維持することが重要だ。人口500万人のアイルランドなら、すべての財を自給すると所得水準が大きく低下するだろう。しかし、人口14億人の中国はほとんどすべての規模の経済を発揮できる。インド、アメリカ、EUもそうだ。

グローバルな貿易や投資は、知識・技術・ベストプラクティスの移転を実現する。産業スパイの問題は一部でしかなく、大規模な移転が自動的に、合法かつ必然的に生じる。アメリカ企業は優れた技術や知的財産のレントを失ったこと、また安全保障のタカ派は地政学的な技術優位の喪失を嘆く。しかし、それはもはや手遅れだ。中国の台頭は、アメリカが障壁を設けても、自律的に実現する。たとえ1980年代、90年代に、経済開放より、アメリカ企業の中国投資を禁止していた場合でも、中国の台頭は、遅れただけで、阻止できなかった。

この点でインドやアフリカ諸国など、より貧しい発展途上国は、中国と異なり、貿易障壁や豊かな国の機械化によって、輸出指向工業化の機会を失う脅威にさらされるだろう。


 NATOサミット

PS Jul 6, 2018

Saving NATO From Trump

ANA PALACIO

NYT July 6, 2018

In Two Summits, a Moment of Truth for Trump

By Victoria Nuland

トランプ大統領の次の2つのサミットが、アメリカ外交とグローバルな指導力回復の成否を決める。すなわち、ブリュッセルにおけるNATOサミット、ヘルシンキにおけるロシアのプーチン大統領とのサミットだ。

The Guardian, Sun 8 Jul 2018

Whose side is Trump’s America on? The answer is becoming more and more obvious

Simon Tisdall

FT July 8, 2018

Trump is a threat to EU security and prosperity

WOLFGANG MÜNCHAU

ユーロ圏の将来や難民危機の解決と同じく、しかし、短期的には最も重要なEUの課題は、ドナルド・トランプである。

アメリカ大統領は、EUの軍事的安全保障と経済的繁栄に対する、明確かつ現在の脅威である。EUの目標は、トランプの宥和ではない。EUの弱点を解消することだ。すなわち、自律的回復力の欠如。

2つの優先目標がある。1つは、防衛費の増額。もう1つは、ユーロ圏の巨大な経常収支黒字である。ドイツはその両方で主要な役割を果たす。しかし問題は、EU全体の解決を目指すことだ。

EU3大国、ドイツ、イタリア、スペインは、2006NATOサミットが合意した防衛費の目標、GDP2%の負担を果たしてこなかった。ドイツ1.22%、イタリア1.13%、スペイン0.92%であった。4年間のドイツの財政計画では、防衛費が削減されている。

ドイツが防衛費を増額すべき2つの顕著な理由がある。第1に、連邦軍の装備があまりにも疲弊している。第2に、EUが真剣な防衛能力の実現に向かうなら、ドイツ、イタリア、スペインは応分の負担をしなければならない。

同じことは貿易収支についても言える。巨額の経常収支黒字を出し続けることは、アメリカの関税や経済制裁に対するEUの脆弱性を高めている。第1四半期の経常黒字はGDP3.9%であり、それは2017年の3.5%よりも高い。

すでに関税に対応して、ヴォルクスワーゲンは工場をアメリカに移転すると表明した。ハーレーダヴィッドソンはEUの報復関税に対応して、アメリカの外に工場を移転する。もしトランプ大統領が、消費を最大化するのではなく、アメリカの自動車生産を増やすのが目標であれば、当然、経済コストを支払うが、その目標を達成するかもしれない。

より重要な課題は、マクロ政策の転換である。ドイツはユーロ圏経常収支黒字の主要な源泉である。それでもドイツの政治家たちは、10年にわたって、この問題を否定してきた。ベルリンには、廃棄された、マクロ不均衡に関するレポートの山があるはずだ。フランスのマクロン大統領は、ユーロ圏改革について、ほとんど1年もかけてメルケルを説得してきた。

これら2つの目標は相互に強め合う。すなわち、防衛支出の増額は、経常収支黒字を減らすだろう。EUは、アメリカへの依存を減らす、戦略を形成するべきだ。

FT July 9, 2018

Nato’s continuing credibility is in America, and Trump’s, interest

SPIEGEL ONLINE 07/09/2018

A Disaster Foretold

NATO Prepares for a Trumper Tantrum

By DER SPIEGEL Staff

NYT July 9, 2018

The Finlandization of the United States

By Roger Cohen

2つのサミットを前に、トランプは明らかに、アメリカ人を「だましてきた」NATOの同盟諸国といるより、「素晴らしい」ロシアの指導者、プーチン大統領といる方が快適に見える。

トランプの問題が単に重商主義であるなら、管理できるし、解決できるかもしれない。しかし、そうではない。トランプは、そのイデオロギーとして、プーチンの専制支配体制や民主主義の見せかけを共有する。トランプは、メルケルなど、西側のリベラル民主主義に敵対し、プーチンの側にあるのだ。トランプは、非リベラルの、拡大する権威主義的国際運動に加盟料金を支払っている会員に等しい。

トランプによるアメリカのフィンランド化はほぼ完成した。冷戦下のフィンランドは、中立を維持して、ソ連が反対することはしなかった。トランプは明らかにプーチンに偏っているが、アメリカ内部の名誉ある勢力が、国務省やペンタゴンでトランプに反対している。

マドリードから美しいセゴビアまで旅行したとき、週末に首都を離れるスペイン人たちで道路は混雑していた。私はスペインの豊かさに瞠目した。40年前、独裁体制下にあったスペインがどれほど貧しかったか。これこそEUの成果である。民主主義的な安定性と繁栄をもたらすことが磁力となって、EUには5億人以上が集まった。だからアメリカは、常に、EUを支持してきたのだ。

最近、トランプに会ったヨーロッパの人間は衝撃を受けた。ヨーロッパを保護してくれと頼みながら、アメリカの製品を十分に買わないヨーロッパの同盟諸国に対して、トランプが示す嫌悪に。また、トランプの考えでは、ようやく正しい反移民政策を採用する、排外主義的なイタリアの新政権に対して、トランプが示す称賛に。

ヨーロッパの同盟諸国は確信したはずだ。いかなる同盟関係が依拠する信頼も、トランプが破壊した。ヨーロッパは自立して、トランプの価値を排除しなければならない。

なぜトランプはプーチンの傘下に入るのか?  トランプはプーチンの軍事的威嚇が好きだ。ロシアは貿易でアメリカへの黒字を利用しない。ロシアは反NATO、反EUである。2人ともその理由は同じだ。同盟を解体する方が、弱小なヨーロッパ諸国を容易に威嚇できるから。

1945年以来、ヨーロッパの平和は、他国に住む自国のマイノリティーを、たとえば、ウクライナのロシア人を、戦争や分離独立に利用しない、という原則を受け入れてきた。しかしプーチンは2度、ウクライナ東部とクリミアで、これを破った。しかし、トランプはこれに承諾のウィンクをして見せる。

FP JULY 9, 2018

Spare a Thought for the Bundeswehr

BY ELISABETH BRAW

FT July 10, 2018

Trump and Putin: inside the muddled American policy on Russia 

Courtney Weaver and Katrina Manson in Washington and Max Seddon in Moscow

FP JULY 10, 2018

The Trump-Putin Summit’s Potential Nuclear Fallout

BY JON WOLFSTHAL

NYT July 11, 2018

What America Gets Out of NATO

By Nicholas Burns

NATOサミットに向けて、ドナルド・トランプは、これまで大統領がやったことのない説明を準備した。アメリカ国民に、この取引は良くない、というのだ。彼は、ドイツのメルケル首相に、あなたの国を守るのにどれくらい金がかかっているか私は知らないが、NATONAFTAと同じくらい、まずい取引だ、と言った。さらに「ときどき私は最悪の敵はいわゆる友人たちであると思うことがある。」と付け加えた。

私はこの2週間にヨーロッパの4か国を訪問したが、彼らの眼から、アメリカの栄光がどれほど地に落ちたか、を知って驚嘆した。ヨーロッパの指導者たちは、トランプが、ハンガリー、ポーランド、イタリアの反民主的なポピュリスト政権を支持したことを指摘する。また彼らの眼には、最近のTwitterでトランプがメルケルを攻撃したことは、彼女を失脚させる明白な試みだ、と映った。

NYT July 11, 2018

Sorry, NATO. Trump Doesn’t Believe in Allies.

By Ivan Krastev

The Guardian, Thu 12 Jul 2018

Donald Trump is right. Nato is a costly white elephant

Simon Jenkins

ドナルド・トランプは豚だ。嘘つきで、女性蔑視、人種差別、暴言のモンスターだ。しかし、競争的な侮辱は彼の好むゲームである。

トランプは異常であり、アメリカ政治を冒す一時的なトラウマだ。アメリカの憲法は、共和国を深淵に引き寄せるが、それは必ず戻るものだ。たとえモンスターでも、正しい問いを発することはある。トランプがNATOに関して、ヨーロッパ諸国の防衛政策を質したのがそうだ。NATO1949年、スターリンによるベルリン封鎖に対抗して創設された。その目的は、「ソ連を排除し、アメリカを留め、ドイツを抑える」ことだった。それ以来、ヨーロッパは、アメリカの莫大な費用で、核の傘を得てきた。その他の軍事的成果は乏しい。ユーゴスラビア解体の鎮静化。アフガニスタンにおける17年もの戦争と敗北。北大西洋とは何も関係ない。

NATOはロシアがヨーロッパを攻撃することへの抑止であった。1945年、ポツダム宣言で、東欧はロシアの影響圏と認められた。鉄のカーテンは厳しく守られた。

1989年、ポツダム体制が崩壊したとき、NATOは解体したロシアと新しい合意を結ばなかった。むしろ、エリツィンの反対にもかかわらず、NATOはその境界をロシアに向けて東に移動させた。

NATOの挑発はあからさまであった。モスクワには国民の高まる愛国心を受けたポピュリスト指導者、ウラジミール・プーチンが登場した。彼とその取り巻きを創ったのはNATOの失策である。

あれから30年を経て、ヨーロッパが冷戦を再現しつつあるのは驚きだ。もしヨーロッパが今もアメリカの核の傘を求めるなら、その費用を支払うべきだろう。しかし、ロシアとの軍事的な報復合戦には意味がない。ヨーロッパの地上軍はあまりにも弱い。

トランプは、NATOがビスマルクのウィーン体制のように時代遅れだ、と言った。しかし、防衛支出が2%か、4%か、という問題ではない。むしろロシアとの緊張緩和、プーチンとも関係を少し改善し、影響圏を合意する方がよい。NATOが維持する軍事力とは、分離独立派や境界紛争の鎮静化であり、ロシアとの軍事対決ではない。

イギリスに必要な防衛計画の基礎は過去の戦争ではない。イギリスの生存を脅かす者はいない。ロシアがイギリスの占領を計画している証拠はない。イギリスは沿岸警備、教会の安全保障、テロ対策を要する。サイバースペースの防衛力もいる。イギリスのソフトパワーと外交は優れている。

Brexit危機を超えて、イギリスはヨーロッパとの防衛協力関係を見直すべきだ。

FP JULY 12, 2018

Trump Fumed, But NATO Members Got What They Wanted

BY ROBBIE GRAMER, LARA SELIGMAN


 民主主義と投票

PS Jul 6, 2018

Who Should Vote in America?

DAMBISA MOYO

NYT July 7, 2018

Progressive Populism Can Save Us From Trump

By Dan Kaufman

FT July 10, 2018

Take more care with referendums — democracy depends on it

MEG RUSSELL

EU離脱をめぐる国民投票から2年経った。その決定に参加したかどうかにかかわらず、国民投票は底辺から頂点まで、この国を分断したことが明らかになった。

特に、国民投票の危険性は、「人民」の見解を、イギリス民主主義の中心に築かれた伝統的な制度である議会と対立させることだ。それはわれわれの民主主義に対する信頼を損なう潜在能力がある。

国民投票に関する独立委員会(the Constitution Unit at University College London)がこの点について専門家の意見をまとめた報告書を発表した。

国民投票が優れた役割を果たすのは、「成文化されない」イギリス憲法だが、その修正に関わる重大な政治的決定を確立するために行われるときだ。北アイルランドの和平合意the Good Friday Agreementの承認や、スコットランド議会を設置するときがそうだった。

EUに関する2016年の国民投票では、政府が官僚によるシナリオの作製を禁止した。そのため、有権者はBrexitに関する異なる選択肢が明確に何を意味するのかわからなかった。議会は、互いを攻撃し、「裏切り」と叫んだ。今や内閣が分裂しつつある。

多国には国民投票の長い経験があるが、特に、憲法改正がそうだった。国民投票は、それが国民に問われる前に、議会によって修正案が承認された。しかし、それでもイタリアのレンツィ首相がそうであったように、政府への信任投票となる恐れがある。

独立委員会の提言で最も重要な点は、議会が修正の細部に関する承認を経た後で、国民投票を行うべきだ、ということだ。

国民投票の結果がこれらの提案と大きく異なるときは、2度目の国民投票があらかじめ計画されている。政府が提案する修正に、国民投票が反対し、代案の細部が示されない「脅迫型の投票」を防ぐことが重要だ。

国民投票は、他のやり方で、全体としての民主主義過程にうまく統合化できる。委員会は事前の慎重な準備や諮問を重視する。最近、堕胎や同性婚について、アイルランドが行った国民投票は、包括的で、丁寧な、市民会議を開いたし、人々に質問し、思慮深い、バランスの取れた討論を促した。

委員会はまた、より良い規制、例えば、有権者が選挙運動のオリジナル資料に、オンラインも含めて、どこでアクセスできるか明確にすることを求める。国民投票が成功するには、段階ごとの有権者の参加、良質の情報提供、投票による結果の明確な説明など、長い準備過程が要る。

FT July 12, 2018

Democracy has to be protected from data


(後半へ続く)