IPEの果樹園2018

今週のReview

7/9-14

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米中関係の悪化 ・・・Brexitと市民 ・・・トランプの貿易戦争 ・・・ワイマール共和国か、ハプスブルク帝国か ・・・メキシコ大統領選挙 ・・・トランプの秩序破壊 ・・・タックスヘイブン

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 米中関係の悪化

FP JUNE 29, 2018

The U.S. Can’t Afford to Demonize China

BY MICHAEL D. SWAINE

アメリカと中国の間にある建設的な関与の長い記録が、危険な速さで、双方から見直されつつある。トランプ大統領や習近平主席の言葉とは逆に、最近の政策や行動は、特にアメリカ側で、両国関係に破壊的なダイナミズムをもたらした。

「アメリカ政府は中国にだけ過剰に有利な関係を放置した。」「中国はアジアからアメリカを追放しようとしている。」「中国は既存の国際秩序を破壊し、自分たちの利益に従うものに置き換えたいと願っている。」・・・こうした主張が、根拠も示されないまま、繰り返し、政治家や官僚、専門家たちの言葉に現れ、双方の国民感情を悪化させている。それは「改革開放」を促すプラグマティックな関係を変えてしまうものだ。

しかし、中国を悪者にする「新しい規範」が成功するだろうか? アメリカの政策決定について歴史家Richard Hofstadterが指摘した「偏執症的なスタイル」が、ここでも明らかに見られる。トランプのもたらしたアメリカの政治状況が、米中間の対話を妨げている。

両国政府は、長期的な資源と目標に関して、事実に基づく議論を重ねるべきだ。核心的な利益と二次的な利益とを区別し、どちらの国も、アジアや世界全体を支配することはできない、ということを明晰に理解する。相互依存が広がり、資源は制約されているから、パワーは分散しつつある。排除し、相手を弱めるのではなく、バランスを取り、協力する必要がある。

習近平体制は単一支配ではなく、改革、開放、システム内の調整を進めるために、政府は支持者の誘因を与えねばならない。中国がプラスの行動を選択するのは、アメリカ側も中国を悪者にする思考を排除して、協力するときである、と知るべきだ。

FT July 2, 2018

Washington and its allies need to contain Beijing

少しずつ、中国は南シナ海の事実上の支配権を拡大してきた。人工島を築き、そこに軍事施設を置いた。民間の漁船を使って非公式な主権を主張し、その後、彼らを保護するために、沿岸警備艇や海軍を派遣した。これがサラミ戦術だ。敵対国、特にアメリカが反応するほど大きくはない小さな行動を積み重ねて、海洋における支配的事実を変更する。

今や、北京はこの問題にアメリカが関与することを強く非難している。習近平主席は、先週、アメリカのマティス国防長官に、年間5兆ドルの貿易品が通過する重要な海域を、中国は「1インチ」も譲ることはない、と述べた。中国政府は10年前から同じ立場だが、今や、大国がその周辺の海域を支配する、とより明確に主張するようになった。

南シナ海は、いくつもの国家がその一部について主権を主張し合うが、ウクライナ、シリア、朝鮮半島に並ぶ、世界の軍事衝突危険リストに入った。中国は、2016年、ハーグの国際司法裁判所の判決を無視した。それは、この海域の大部分に関して中国の主権を無効とした。それにより中国が国際法に従わない姿勢ははっきりした。

アメリカは選択しなければならない。中国の覇権が次第に拡大するのを受け入れるか、あるいは、北京を封じ込めるか。

南シナ海で中国が行った変更を逆転するためにできることは少ない。軍事的衝突は選択肢にない。しかし、中国の支配を受け入れるべきではない。それはもっと危険な、領土的要求へ、中国を向かわせる。また、中国の台頭を懸念するアメリカの同盟諸国、特に日本と韓国は、ワシントンがもはや彼らの利益を守らない、と結論するだろう。アジア太平洋における軍備拡大競争が激化する。

トランプ大統領は、G7のような長期のパートナーを侮辱し、北朝鮮の指導者を厚遇した。これまでの大統領がした以上に、北京を重視し、他方で、貿易問題では経済圧力を加えている。南シナ海については、もっとマティス国防長官と一致して北京を牽制するべきだ。

アメリカは「航行の自由」作戦に、フランスやイギリスの艦船も参加させるのがよいだろう。フィリピン、韓国、日本など、地域の同盟諸国、そしてベトナムとも緊密に協力し、支援を拡大することだ。中国の台頭は避けられない。しかし南シナ海でも、どこでも、アメリカ政府はできる限り、アメリカの衰退を先に延ばすように努力し、次の新しい国際秩序がパックス・アメリカーナを継承するよう最善を尽くすことだ。


 Brexitと市民

The Guardian, Sat 30 Jun 2018

Welcome to Malta, playground for the frivolous grandees of the right

Nick Cohen

ナチの爆撃がマルタ島を石器時代に戻したとき、住民たちは洞窟に避難した。しかし今、マルタには、富裕層のためのショップ、ヨーット・ハーバー、ハイテク・ビジネスやホテルを集めるスマート・シティがある。

マルタが富裕層を獲得する新しい方法は、オンライン・ギャンブル、オフショア・バンキングである。さらに、人の密輸ビジネスも始めた。それは、地中海で溺れてしまうような難民を運ぶビジネスではない。また、コスモポリタンなリベラルを非難するような、西側を移民であふれさせるビジネスでもない。マルタが奨励しているのは権利の海外移転、愛国者を自認しつつ、お金を愛するから資産をどこにでも移転するような人々のためのビジネスだ。

マルタはEU市民権を、政府に65万ユーロ支払い、不動産を35万ユーロ買う者に与えている。市民権の販売は「汚職を広め、組織犯罪者を引き入れ、マネー・ロンダリングをEUに持ち込む」と、ヨーロッパ議会が警告した。

表に出ることを嫌う億万長者Christopher Chandlerは、Brexitが始まる前にマルタ国籍を買った。それによって二重生活を享受できるが、ChandlerBrexit支持のシンクタンクthe Legatum Instituteに資金を提供した。

Brexitは小さな人々のためになるとして支持された。しかし、彼らは所得の減少や失業に苦しむに違いない。他方、彼らを指導したJacob Rees-Moggのような者たちは、アイルランドに投資銀行を設立し、あるいは、Arron Banksのように、ジブラルタルからビジネスを管理する。彼らは自国を管理する権利を主張するが、自分の金がオフショアに貯める。

こうした指導者たちは、移民を攻撃しながら、タックスヘイブンに資産を移した。テリーザ・メイが「どこの市民でもない」者を批判したのは、不公平であった。彼女は、Brexitを推進した者にこそ、「どこの市民でもない」者がいた、という矛盾を知るべきだ。


 トランプの貿易戦争

PS Jul 4, 2018

Trump’s Protectionist Rube Goldberg Machine

ANNE O. KRUEGER

トランプはこんな風に考えるのだろう。アメリカの関税を恐れて輸出に割り当てを課す国は、また関税を免除する自国の輸入業者は、政治的にも、経済的にも、アメリカの利益である、と。それは真実からほど遠い。

輸出割り当ての鉄鋼製品をだれが検査するのか? それはコストも時間もかかり、供給に遅れが生じる。国内の調達コストは増し、代替する製品の質が低下するだろう。

ある推計では、鉄鋼関税だけで、自動車・自動車部品関係の雇用が195000人も失われる。

輸出割り当てや関税免除の導入は、自由な通商システムを侵食する。さまざまな業界がロビー活動を強め、ライセンス承認に関する制度への(保護主義的)圧力を増すだろう。貿易手続きは煩雑化し、汚職が刺激される。

トランプ政権はアメリカ経済を、競争の低下、高価格、サービスの劣化、革新の沈滞に向かわせる。


 米中エリートの富を抑える

FT July 1, 2018

US and China must find ways to control their elites

RANA FOROOHAR

米中間の緊張は市場で何が起きるかを決定する。関税、通貨、技術、貿易戦争の勝者はどちらか?

しかし、各国の将来の性向と安定性を決めるのは、もっと重要な問題だ。すなわち、資産を蓄積するエリートをどちらの国が制御できるだろうか?

1982年の著作The Rise and Decline of Nationsで、Mancur Olsonは、資産家たちの利益が政治を決めるようになれば、文明は衰退する、と主張した。これは米中両国で起きていることだ。資産の不平等は両国でそれほど違わない。中国の上位1%は経済的富の約30%を所有するが、アメリカの上位1%42%を所有する。

賛否はあるが、習近平のプリンセリング弾圧はこの問題に対処している。王岐山が指導する汚職追放キャンペーンは、低賃金・安価な融資を前提した現状維持の既得権層を打ち破ることだ、と指導者たちは考える。

他方、最近のアメリカ最高裁の判決は、国民の多数よりも少数者を優遇するものだ。反トラスト法を緩和し、イスラム諸国からの旅行者に入国禁止を命じた大統領の決定を支持し、アメリカの労働組合運動から資金を奪った。

トランプが現れたのは、一部は、民主党が過去数十年間にエリートの利益と同盟してきたからだ。ビル・クリントンとウォール街、バラク・オバマとシリコンバレー。民主党の権力ブローカーとビジネスとの間には、1980年代の「強欲は正しい」という精神とリベラルの社会的給付とが結び付いている。先週、ニューヨーク市の民主党候補者予備選では、民主党内の重鎮が、雇用保障と国民皆保険を支持した28歳の若手候補に敗北した。

アメリカのビジネス・エリートたちは、13億人の中国市場に従う。しかし、アメリカの多国籍企業が中国市場で勝てると思うのは驚きだ。中国政府はその意図を明確にしている。国内でも、中国が重要な地政学的影響を保持する地域でも、中国企業への支援は増やすし、優遇策を強化する、と。

アメリカでは、地方の白人層が支持するファシズムと、都市の若者が推進する社会主義との間で、政治は選択を求めている。どちらも投資家たちは好まない。債券市場はそれを示している。


 ワイマール共和国か、ハプスブルク帝国か

FT July 1, 2018

Fearless Matteo Salvini’s threat to the EU establishment

WOLFGANG MÜNCHAU

EUのポピュリストたちは移民・難民危機を利用する。2015年、EUの指導的保守派にギリシャが反対したが、成功しなかった。それは仲間がいなかったからだ。イタリア右派のポピュリストはEU内で同盟を形成している。彼らはEUの諸制度を内から転覆しようと狙っている。

ヨーロッパ議会選挙で、主流派の左右政党が新しい運動によって一掃されるかもしれない。1つは、マクロンが指導する全欧リベラル集団と、もう1つはポピュリスト、ナショナリストの協力体だ。

確かに各国の右派は対立している。ドイツ人は難民をイタリアに戻したい。イタリア人はそれをドイツに押し付けたい。オーストリアはどちらにしても自国を通らせない。しかし、彼らの関心は重要な点で一致している。それは政策を再国有化することだ。全ヨーロッパの難民・移民政策は、それが最も望ましいにもかかわらず、国民に支持されない。

サルヴィーニは、イタリアがもっと攻撃的な姿勢を取るべきだ、と考える。EU政策のすべての点で、独仏同盟に対抗する。これまで、イタリアは孤立することを恐れ、自国の利益に反しても独仏の決定に従った。しかし、サルヴィーニの脅威は恐れることがない。ダヴォスやブリュッセルに仲間を持たないことを恐れない、イタリア最初の政治家である。EU指導者たちはConte首相の未熟さを軽蔑しているが、政権を動かしているのはサルヴィーニだ。

イタリアがEU2つの危機、移民危機とユーロ危機の焦点であることを忘れてはならない。トランプとサルヴィーニが生み出す危機は、イタリアを現代のワイマール共和国にする。

PS Jul 5, 2018

Europe’s Overly Complex Union

HAROLD JAMES

EUはあまりにも複雑で、多くの異なる動きをする部品から成っている。それは、ますますハプスブルク帝国に似てきた。帝国の政治エリートたちはグランド・ディールを目指したが、それは複雑なナショナリティーを帝国内で再編する取引だった。決して結論が出ない論争に飽きて、彼らは次第に、唯一、対外的な政治的課題、たとえば短期の戦争、だけが問題を解決できる、と考えようになった。

しかし、第1次世界大戦は短期に終わらず、帝国を救済するものではなく、その崩壊をもたらした。


 メキシコ大統領選挙

FT July 2, 2018

Mexico’s López Obrador wins a landslide but questions linger

JOHN PAUL RATHBONE

1世紀以上、メキシコの歴史において初めて、2大政党の候補者ではない、64歳、社会主義者のロペス・オブラドールAndrés Manuel López Obradorが地滑り的な勝利を収めた。議会下院の多数を征し、上院も征する可能性がある。

彼は変化を求める国民の期待を高めた。彼の勝利は、テクノクラートによる、市場志向の経済政策に対する失望を表すものでもある。

しかし、彼の支持が高まった主要なテーマは、治安の改善、メキシコに広まる汚職の撲滅、「マフィア国家」を脱することだった。その意味で、ロペス・オブラドールの勝利は、隣国アメリカのドナルド・トランプ、イタリアの同盟とは異なる。

新しい政府のポストをだれが満たすのか?  ロペス・オブラドールは経済学に関心を持たず、政治に一貫して関わってきた。それは多くのラディカルな声を含む巨大なテントになるだろう。不確実さと混乱のレシピである。


 トランプの秩序破壊

FT July 4, 2018

Donald Trump’s war on the liberal world order

MARTIN WOLF

1855年から58年、1859年から65年にイギリス首相となったパーマストン卿は、世界大国の頂点において外交方針を語った。われわれは永遠の同盟国も、永遠の敵も、持たない。われわれの国益こそが永遠であり不滅である。われわれの外交はそれに従う、と。

ドナルド・トランプはパーマストン型の指導者だ、と、先週、アメリカ国務省の元高官は語った。しかし、トランプはパーマストンではないし、21世紀は19世紀ではない。トランプの取引外交には破滅のリスクがある。

2次世界大戦後のアメリカは異なる見解を取った。互いを疑い、ナショナリズムに染まった、大国同士のポジション争いが、2度の世界大戦に至った。この惨禍を前にして、いかなる合理的な利益もなかった。世界は国際関係に関する啓蒙を必要としていた。

新しい見解は3つの要素からなる。12度の大戦がアメリカを孤立主義から離脱させた。アメリカは安定化を促す大国になる。2.アメリカは、価値を共有する永遠の同盟関係を構築する。3.国際合意の組み合わせが、最初はもっぱら経済から、その後は気候変動にまで至る、予測可能なリベラルな世界経済をもたらし、グローバルな課題への解決能力を形成する。アメリカの政策担当者たちは、その中で、アメリカの合理的な国益を実現できる、と考えた。

アメリカは大きな失敗も犯した。何より、軍事介入を過信した。しかし、パックス・アメリカーナは総じて成功した。世界貿易の回復はかつてないグローバルな繁栄をもたらした。西側の政治・経済的成功が、ソ連の共産主義に勝利した。中国は台頭したが、アメリカと同盟諸国の経済的・軍事的優位は維持されている。

しかしトランプは同盟諸国に嫌がらせをする。あからさまに嘲弄する。その貿易戦争も、根拠や成果は疑わしい。Gavyn Daviesが注意したように、報復の連鎖は長く続くだろう。その不確実さを考えると、グローバリゼーションを逆転するコストは非常に大きい。通商と安全保障の分離が崩壊する、とAdam Posenは注目する。軍事紛争がエスカレートするだろう。

トランプが再選される可能性はある。アメリカ国民は、ヨーロッパが安全保障でアメリカにただ乗りし、中国は世界貿易において不当に優遇され、国際秩序を悪用している、という主張を広く受け入れるようになった。トランプが去った後も、トランプ主義は残るだろう。

PS Jul 4, 2018

America the Loser

J. BRADFORD DELONG

ドナルド・トランプ大統領は、20172月、Harley-Davidsonの経営幹部と組合代表をホワイトハウスに招いて会談した。彼は、「アメリカで生産してくれたこと」に感謝し、彼の下で、このアメリカを代表するオートバイ企業がさらに繁栄するだろう、と予言した。

1年でそれはどうなったか。最近、Harley-Davidsonは、トランプの課した鉄鋼・アルミニウム関税に対してEUが導入する報復関税を回避するため、生産を一部海外に移転する、と発表した。トランプはTwitterに書いた。「驚いた。Harley-Davidsonが最初に白旗を掲げる企業とは。」

その後もトランプはTweetを重ねる。「今年の初めに、Harley-Davidsonはカンサス・シティの工場をタイに移転すると言った。」「関税戦争は言い訳でしかない。」 しかし、それは事実ではなかった。Harley-Davidsonはカンサス・シティの工場を閉鎖したとき、ペンシルベニアのヨークに移転する、と言ったのだ。

トランプは脅迫した。「大幅な税金を支払うことなしには、Harley-Davidsonがアメリカで販売できないぞ。」 これも事実ではない。Harley-Davidsonは海外工場からEUに輸出するのだ。トランプは最後に宣告した。「Harley-Davidsonは他国で生産できないぞ。決してさせない。」 彼は企業も、その労働者も破壊してやる、と約束する。「奴らは降伏した。奴らは抜けた。オーラの消えた企業だ。かつてない重税を課してやる。」

言うまでもなく、これは異常だ。法の支配など全く無視している。まるでヘンリー8世の時代にもどったようだ。衝動的で、狂った王様に、超富裕層、追従者、ごますり、お世辞が取り巻いていた。彼らの繁栄は王様がいる限り続く。

選挙がすべてを解消してくれる。私たちはそう信じたい。しかし、選挙区の変更(ゲリマンダリング)、投票率の低下、さらに、ソーシャル・メディアやケーブルテレビによる不安を煽る情報の流布、偽情報、最悪の本能を刺激するキャンペーンが行われるだろう。

11月の中間選挙結果にかかわらず、アメリカの世紀は2016118日に終わった。その日、アメリカは世界を指導する超大国ではなくなった。平和と繁栄、人権を世界で守護するキンドルバーガー的な覇権の時代は終わり、多くのトランプ主義者がそれを信用することは2度とない。


 タックスヘイブン

NYT July 3, 2018

If Ronaldo Can’t Beat Uruguay, the Least He Can Do Is Pay Taxes

By Gabriel Zucman

ワールドカップのポルトガル・スペイン戦があった日、レアルマドリードでプレーするロナルドは、2011年から2014年に1470万ユーロ(1710万ドル)の課税を回避していたことを認めた。その額は、スペインの小学校教師800人の年間給与、あるいは、1000人の乳がん患者の年間治療費に等しい。

ロナルドだけではない。2017年、アルゼンチンのライオネル・メッシも、FCバルセロナのプレーヤーだが、同じ罪で21か月の禁固刑の判決を受けた(その代わりに、250万ドルの罰金を支払った)。

スペイン当局は、選手たちが肖像権からの所得を課税回避したことで告発した。多くのプロスポーツ選手が、その権利をタックスヘイブンのシェルカンパニーに移してしまった。全世界では、莫大な税収が失われている。

パナマ文書やパラダイス文書が示すように、課税回避は富裕層、プロ選手、不労所得者の間に広まっている。なぜか? 彼らが邪悪な性格であるとか、その行為がもたらす結果を知らないからではない。グローバルな課税回避ビジネスにより勧誘されたからだ。

あなたはスイスの銀行からマイアミのゴルフ大会や、パリの展示会に招待されただろうか? 私もそんな経験はないが、世界の超富裕層たちは、アメリカでも、フランスでも、世界のどこに住んでいても、定期的に招待を受けている。法律事務所や仲介業者がシェルカンパニーを通じて、オフショアバンクの口座、信託、基金を売る。それによって資産とそこから生じる所得を課税から切り離すのだ。

なぜわれわれはロナルドの所得や課税回避を懸念するのか? それは、社会がグローバリゼーションに適応できていないことを示すからだ。

過去30年間、グローバリゼーションの勝者は所得を急激に増大させてきた。しかし、彼らへの税率は、上昇するどころか、むしろ劇的に減少した。1930年から1980年まで、アメリカの所得税の最高限界税率は、平均、78%であったが、今では、37%である。これは経済的にも政治的にも持続可能ではない。

われわれは、成功した者に課税することは不可能だし、非生産的だ、と言われる。このような議論は、プロスポーツ選手が示すように、間違っている。

課税回避を阻止するため、政府は仲介業者に厳しい制裁を科すべきだ。長期の禁固刑や莫大な罰金を科していたら、ロナルドやメッシはやらなかっただろう。あまりに高額の所得は選手たちを社会的に好ましくないものにする。アメリカのプロスポーツでは、N.F.L.が給与の上限を、N.B.A.が高額の課税を求めている。

ヨーロッパ・サッカーはわれわれ社会の進む1つの道を示している。プロスポーツは経済の一部であり、不平等とは選択である。政策によって拡大することも、縮小することも可能だ。

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The Economist June 23rd 2018

The Saudi revolution begins

Turkey: Time to go

Immigration: Separation anxiety

Andrés Manuel López Obrador: Mexico’s answer to Donald Trump

Banyan: A Chinese lake

Urbanization: A tale of 19 mega-cities

(コメント) サウジアラビアもトルコも、改革の可能性と独裁的な権力者の危険な挑戦を、西側の国際秩序が制御不能な時代になっていることを懸念する内容です。イラク戦争や世界金融危機だけでなく、EUの多重危機、Brexitとトランプの秩序破壊は、とどまるところを知らず、新しい秩序への触媒となる各地の模索を収拾する新しい人類学や地政学に関心が向かうのでしょう。

中国の壮大な権力者の抗争は、南シナ海を湖とし、巨大都市圏を政策的に配置する、地球規模の大実験に至ったようです。

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IPEの想像力 7/9/18

インドでも、グローバリゼーションと成長の加速が見られました。反市場・反資本主義的な権力エリートに従ってきた貧しい旧植民地が、冷戦の終焉とIMF融資を契機に、貿易・資本移動の自由化へ転換したのだろうか。それはグローバル・エリートと貧富の格差をもたらし、形だけでも続いてきた民主主義の不安定化が増幅したのではないか。

世界最大の民主主義国家、インドこそ、Brexitとトランプの時代の条件をすべて備えた、ポピュリストたちの楽園ではなかったか? なぜインドで「民主主義」が機能したのか?

そんな私の印象は、次第に、崩れ始めました。

インドは不思議です。住民の間でエスニシティや文化、宗教、特に言語が大きく異なることは、国家統合を危うくするはずです。市場統合=社会的分業に参加することで豊かになることが共通の市民意識、市民的な法律のもたらす秩序に向かうとすれば、逆に、インドが示す極端な貧富の差やカースト制、女性・マイノリティへの差別は、法的秩序も危うくするはずです。

インドは、民主主義や、ナショナリズム、国家主権、市場自由化=グローバリゼーション、帝国を考える原点であると思います。主権国家や自由貿易体制が、常に、さまざまな政治経済モデルの答えではない、と示すだけでなく、それでも、民主主義が持つ可能性を考える原点となる。グローバリゼーションというカオスの原点。

「国家と国家システムへの信頼が揺らいでいる。」(長崎暢子)

1857-59年、インド大反乱(セポイの乱)。「そこにはヒンドゥーの生活文化やムスリムの宗教規律を脅かすものへの危機感が目覚め、やがては共通の文化をもつインドの諸階層の人々の広範な共感を呼び起こしていった。」「インドを一つの国家=共同体として多民族性、多宗教性のなかでイメージすることを容易にした。」(長崎暢子) 帝国的な支配者、イギリスとの戦いによって生まれるインドの人々の共同体。「民族的単位」のなかに含まれる、ヒンドゥーとムスリムの協調、女性の指導者、などのイメージ。

「為政者にとっても、宗教やカースト、そしてエスニシティや地域などさまざまなアイデンティティが存在するインドで、そのようなアイデンティティを基盤とする分裂的政治を起こさせないためにも、つまり、国家の統合を維持するためにも、人々の信頼をつなぎとめるだけの社会経済発展が必要であった。」(近藤則夫)

独立後、半世紀のインド政治をどのように理解すればよいのか。「インドにおける国家運営の基本モチーフは、独立の堅持、国民統合の達成、開発の促進という3点に集約できる。」(堀本武功)

なぜインドは民主主義が可能なのか? 独立運動を、非暴力の大衆運動として組織した国民会議派の成果、そして、帝国主義が残した軍・警察と官僚制に依拠した議会制民主主義を継承したことが、インドの政治を「非西欧型社会の中にあって、複数政党による競争政治を続けてきた例外的存在」にした、と考えます。

経済的不平等を是正する、また、欧米資本に対抗する経済ナショナリズムとして、インドは「社会主義カード」を駆使しました。しかし、経済的成果が乏しい中、会議派が示した第2のカードが「ヒンドゥー・ナショナリズム」でした。しかし、それは憲法が定める国家理念としての政教分離主義から外れる動きです。多宗教国家としてのインドの国民統合を危うくする会議派の生き残り戦略でした。その選択が、会議派の国民統合という役割を終わらせた、と見ます。

19846月、シク教本部寺院の武力解放。シク護衛兵によるインディラ・ガンディー首相の暗殺。北部インドを中心にシク教徒に対する暴動。首都ニューデリーで約1000人を超えるシク教徒の殺害。こうした騒乱は、エリート政治からマス政治へ、地方分権へ、脱冷戦へ、インドの政治軸をシフトさせる地殻変動とともに生じました。

BJPによるヒンドゥー・ナショナリズムの影響と、特に各州における「後進カースト・不可触民の政治化」(堀本武功)とが拮抗する形で、インドの多元的な民主主義は活性化し続けている、ということに驚きます。会議派がきった最後のカードこそ「自由化」であり、その後の政権もこれを継承します。

「しかし、経済成長加速の原動力を親市場主義的な経済政策の採用に求める見解は、強い批判にさらされている。」(柳沢悠)

なぜ成長率は高まったのか? 1990年代の自由化以前に高まった成長率を、「19世紀末以来の長期の農業生産の発展過程」、「20世紀初頭から始まる、村落社会の社会経済的な支配構造の変容」、「下層民を含めた農村社会が工業品やサービスの市場として発展」した、と考えます。それは、「独立以降の全面的な保護関税制度や国家主導の国民経済建設の戦略のもとで」産業構造を高度化し、自給できる体制を構築していたから、自由化の利益を実現できたのです(柳沢悠)。

インドのことを調べる中で、それは中国と比較されることが多いけれど、むしろアメリカと、EUと、あるいは、メキシコと比較する必要があるのか、と思い始めました。

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