IPEの果樹園2018

今週のReview

7/9-14

***************************** 

米中関係の悪化 ・・・Brexitと市民 ・・・トランプの貿易戦争 ・・・ワイマール共和国か、ハプスブルク帝国か ・・・メキシコ大統領選挙 ・・・トランプの秩序破壊 ・・・ドイツの危機 ・・・アメリカ政治の再生 ・・・職場・雇用保障 ・・・タックスヘイブン ・・・AIと地政学

[長いReview

****************************** 

主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 2018年夏の読書

FT JUNE 29, 2018

Summer books of 2018: Economics

Martin Wolf

Advice and Dissent: Why America Suffers when Economics and Politics Collide, by Alan Blinder, Basic Books, RRP$18.99

政治家はエコノミストを、支持を得るために利用する、とブラインダーAlan Blinderは言う。事態を解明するためではない。たとえ経済学が正しいときでも、政治家はそれを無視する。アメリカの税制は、その最たるものだ。

American Default: The Untold Story of FDR, the Supreme Court, and the Battle over Gold, by Sebastian Edwards, Princeton University Press, RRP$29.95

The Populist Temptation: Economic Grievance and Political Reaction in the Modern Era, by Barry Eichengreen, Oxford University Press, RRP£18.99

Saving Britain: How we Must Change to Prosper in Europe, by Will Hutton and Andrew Adonis, Abacus, RRP£8.99

Can Democracy Survive Global Capitalism?, by Robert Kuttner, WW Norton, RRP$27.95

The Value of Everything: Making and Taking in the Global Economy, by Mariana Mazzucato, Allen Lane, RRP£20

EuroTragedy: A Drama in Nine Acts, by Ashoka Mody, Oxford University Press, RRP£22.99

Straight Talk on Trade: Ideas for a Sane World Economy, by Dani Rodrik, Princeton University Press, RRP£24/$29.95

The Marshall Plan: Dawn of the Cold War, by Benn Steil, Simon & Schuster, RRP$35

Unelected Power: The Quest for Legitimacy in Central Banking and the Regulatory State, by Paul Tucker, Princeton University Press, RRP£27/$35

FT JUNE 29, 2018

Summer books of 2018: Politics

Gideon Rachman

Our Time Has Come: How India is Making its Place in The World, by Alyssa Ayres, Oxford University Press, RRP£18.99


 米中関係の悪化

FP JUNE 29, 2018

The U.S. Can’t Afford to Demonize China

BY MICHAEL D. SWAINE

アメリカと中国の間にある建設的な関与の長い記録が、危険な速さで、双方から見直されつつある。トランプ大統領や習近平主席の言葉とは逆に、最近の政策や行動は、特にアメリカ側で、両国関係に破壊的なダイナミズムをもたらした。

「アメリカ政府は中国にだけ過剰に有利な関係を放置した。」「中国はアジアからアメリカを追放しようとしている。」「中国は既存の国際秩序を破壊し、自分たちの利益に従うものに置き換えたいと願っている。」・・・こうした主張が、根拠も示されないまま、繰り返し、政治家や官僚、専門家たちの言葉に現れ、双方の国民感情を悪化させている。それは「改革開放」を促すプラグマティックな関係を変えてしまうものだ。

しかし、中国を悪者にする「新しい規範」が成功するだろうか? アメリカの政策決定について歴史家Richard Hofstadterが指摘した「偏執症的なスタイル」が、ここでも明らかに見られる。トランプのもたらしたアメリカの政治状況が、米中間の対話を妨げている。

両国政府は、長期的な資源と目標に関して、事実に基づく議論を重ねるべきだ。核心的な利益と二次的な利益とを区別し、どちらの国も、アジアや世界全体を支配することはできない、ということを明晰に理解する。相互依存が広がり、資源は制約されているから、パワーは分散しつつある。排除し、相手を弱めるのではなく、バランスを取り、協力する必要がある。

習近平体制は単一支配ではなく、改革、開放、システム内の調整を進めるために、政府は支持者の誘因を与えねばならない。中国がプラスの行動を選択するのは、アメリカ側も中国を悪者にする思考を排除して、協力するときである、と知るべきだ。

FT July 2, 2018

Washington and its allies need to contain Beijing

少しずつ、中国は南シナ海の事実上の支配権を拡大してきた。人工島を築き、そこに軍事施設を置いた。民間の漁船を使って非公式な主権を主張し、その後、彼らを保護するために、沿岸警備艇や海軍を派遣した。これがサラミ戦術だ。敵対国、特にアメリカが反応するほど大きくはない小さな行動を積み重ねて、海洋における支配的事実を変更する。

今や、北京はこの問題にアメリカが関与することを強く非難している。習近平主席は、先週、アメリカのマティス国防長官に、年間5兆ドルの貿易品が通過する重要な海域を、中国は「1インチ」も譲ることはない、と述べた。中国政府は10年前から同じ立場だが、今や、大国がその周辺の海域を支配する、とより明確に主張するようになった。

南シナ海は、いくつもの国家がその一部について主権を主張し合うが、ウクライナ、シリア、朝鮮半島に並ぶ、世界の軍事衝突危険リストに入った。中国は、2016年、ハーグの国際司法裁判所の判決を無視した。それは、この海域の大部分に関して中国の主権を無効とした。それにより中国が国際法に従わない姿勢ははっきりした。

アメリカは選択しなければならない。中国の覇権が次第に拡大するのを受け入れるか、あるいは、北京を封じ込めるか。

南シナ海で中国が行った変更を逆転するためにできることは少ない。軍事的衝突は選択肢にない。しかし、中国の支配を受け入れるべきではない。それはもっと危険な、領土的要求へ、中国を向かわせる。また、中国の台頭を懸念するアメリカの同盟諸国、特に日本と韓国は、ワシントンがもはや彼らの利益を守らない、と結論するだろう。アジア太平洋における軍備拡大競争が激化する。

トランプ大統領は、G7のような長期のパートナーを侮辱し、北朝鮮の指導者を厚遇した。これまでの大統領がした以上に、北京を重視し、他方で、貿易問題では経済圧力を加えている。南シナ海については、もっとマティス国防長官と一致して北京を牽制するべきだ。

アメリカは「航行の自由」作戦に、フランスやイギリスの艦船も参加させるのがよいだろう。フィリピン、韓国、日本など、地域の同盟諸国、そしてベトナムとも緊密に協力し、支援を拡大することだ。中国の台頭は避けられない。しかし南シナ海でも、どこでも、アメリカ政府はできる限り、アメリカの衰退を先に延ばすように努力し、次の新しい国際秩序がパックス・アメリカーナを継承するよう最善を尽くすことだ。

YaleGlobal, Tuesday, July 3, 2018

The West Scrutinizes Chinese Investment

Philippe Le Corre

NYT July 4, 2018

Why Made in China 2025 Will Succeed, Despite Trump

By Li Yuan


 Brexitと市民

The Guardian, Sat 30 Jun 2018

Welcome to Malta, playground for the frivolous grandees of the right

Nick Cohen

ナチの爆撃がマルタ島を石器時代に戻したとき、住民たちは洞窟に避難した。しかし今、マルタには、富裕層のためのショップ、ヨーット・ハーバー、ハイテク・ビジネスやホテルを集めるスマート・シティがある。

マルタが富裕層を獲得する新しい方法は、オンライン・ギャンブル、オフショア・バンキングである。さらに、人の密輸ビジネスも始めた。それは、地中海で溺れてしまうような難民を運ぶビジネスではない。また、コスモポリタンなリベラルを非難するような、西側を移民であふれさせるビジネスでもない。マルタが奨励しているのは権利の海外移転、愛国者を自認しつつ、お金を愛するから資産をどこにでも移転するような人々のためのビジネスだ。

マルタはEU市民権を、政府に65万ユーロ支払い、不動産を35万ユーロ買う者に与えている。市民権の販売は「汚職を広め、組織犯罪者を引き入れ、マネー・ロンダリングをEUに持ち込む」と、ヨーロッパ議会が警告した。

表に出ることを嫌う億万長者Christopher Chandlerは、Brexitが始まる前にマルタ国籍を買った。それによって二重生活を享受できるが、ChandlerBrexit支持のシンクタンクthe Legatum Instituteに資金を提供した。

Brexitは小さな人々のためになるとして支持された。しかし、彼らは所得の減少や失業に苦しむに違いない。他方、彼らを指導したJacob Rees-Moggのような者たちは、アイルランドに投資銀行を設立し、あるいは、Arron Banksのように、ジブラルタルからビジネスを管理する。彼らは自国を管理する権利を主張するが、自分の金がオフショアに貯める。

こうした指導者たちは、移民を攻撃しながら、タックスヘイブンに資産を移した。テリーザ・メイが「どこの市民でもない」者を批判したのは、不公平であった。彼女は、Brexitを推進した者にこそ、「どこの市民でもない」者がいた、という矛盾を知るべきだ。

PS Jul 2, 2018

The Real Threats to the EU

CHRIS PATTEN

良識と経験が示すように、利己的なスローガン、法の支配の侵犯、国際条約からの離脱は、良い政策に導かない。

EUはその挑戦に対して、効果的で、人間的な権利に関する節度のある、協力と一貫性に基づく政策を見出すべきだ。例えば、移民について、EUはその境界を堅持するべきだし、同時に、開発支援や治安の協力により、人々が逃れてくる諸国を助けるべきだ。より大きな安定性と開放された市場を提供することで、彼らはその人民ではなく、製品を輸出するようになる。

イギリスについても、われわれは自分たちのベッドを整えて、その悪夢(Brexit)に耐えるしかない。

PS Jul 4, 2018

The Decline and Fall of Brexit

JACEK ROSTOWSKI

The Guardian, Thu 5 Jul 2018

The Guardian view on the Chequers Brexit summit: putting party before country

Editorial

FT July 6, 2018

Eurosceptics in uproar at Theresa May’s Brexit plan

George Parker and Jim Pickard in London and Chris Tighe in Newcastle


 プーチンのロシア

SPIEGEL ONLINE 06/30/2018

Interview with Mikhail Khodorkovsky

'I Believe Putin Is Capable of Change'

Interview Conducted by Christian Esch and Britta Sandberg

FP JULY 1, 2018

In Russia, Plan to Raise Pension Age Draws Protests

BY AMY MACKINNON

FP JULY 2, 2018

Russia’s Goals Won’t End With the World Cup

BY DANIEL B. BAER

ロシアのプーチン大統領は、ソチ冬季オリンピックを開催するために多年の努力を費やした。この冬季オリンピックは、汚職の蔓延によって、史上最も高額の費用をかけたものになった。それは2008年の北京オリンピックを超える510億ドルである。

しかし閉会式の週末、プーチンはクレムリンで主要人物たちと会合し、急襲計画を準備した。彼の「小さな緑の男たち“little green men”」、すなわち、軍の帰属を示さないロシアの特殊部隊が、クリミア半島に派遣されたのだ。それは、ロシアの大規模なウクライナ侵攻につながる最初の軍事行動であった。この攻撃は1万人以上の死者と数百万人の難民を出した。

今年のワールドカップも、プーチンの虚栄を示すプロジェクトだ。彼はこの大会に、世界の関心を集める機会だけでなく、ロシア国民の関心を経済停滞、弾圧、汚職の蔓延から逸らせる機会を見ている。プーチンはその最初の大統領任期で、「権力をくれたら、秩序を与える」と約束したが、第2期には「繁栄を与える」、第3期には「誇りを与える」、と約束した。ワールドカップは世界におけるロシアの評価を高めるだけでなく、プーチンが国内の長期におよぶ権力を正当化するものでもある。


 トランプの貿易戦争

SPIEGEL ONLINE 06/30/2018

Back to the Jungle

WTO Faces Existential Threat in Times of Trump

By Martin Hesse

WTOの働きは、すべて、その加盟国にかかっている。WTOは、加盟国間の通商条約によってできたシステムであり、それらをモニターし、対立を緩和するためにジュネーブに置かれた。貿易が危機に直面すれば、人々はこの組織に注目する。しかし、WTOは事態を変えるイニシアティブを持たない。何があっても、組織は飽くことなく繰り返す。イニシアティブを発揮するのは加盟国だ。

しかし加盟諸国は、特にアメリカのトランプ大統領は、WTOそれ自体を身動きできない状態に押し込めている。まさに、世界貿易秩序が崩壊するかもしれない瞬間に。

アメリカ大統領は、第2次世界大戦後の世界貿易システムを攻撃することに何のためらいも持たない。「WTOはこの国にとっての災厄だった。」 彼は3月に、鉄鋼・アルミニウムの懲罰的な関税を課すとき、そう断言したのだ。

ある幹部職員は、アメリカを名指しはしないが、「単独の国の行動によって問題が生じ、(世界貿易のルールが)ジャングルにもどるかもしれない」と述べる。WTOは、強い国にも弱い国にも、工業国にも発展途上国にも、公平な競争の条件を整備し、すべての国の繁栄を目標とする。そのような精神は消滅してしまった。皮肉なことに、左派からのグローバリゼーション批判は弱くなった。

紛争処理メカニズムこそWTOの神髄であり、それが機能しなくなればWTOは終わる。紛争処理機関the Dispute Settlement Bodyはパネル(小委員会)を開いて裁定を下すが、それは加盟国に判決とみなされる。しかし今、その機能自体がドナルド・トランプ大統領の貿易戦争で主要な戦場となった。

アメリカは国家安全保障を関税の理由とする。そのような正当化はWTOの歴史上ほとんど見られなかったし、紛争処理機関が解決できる問題でもない。何が国家の安全保障にかかわるかを決めるのは、最終的に、政治である。アメリカはシステム全体を疑問視することになる。それは大国だけが生き残るジャングルの法則だ。

PS Jul 3, 2018

Defusing the US-China Trade Conflict

WING THYE WOO

PS Jul 4, 2018

Trump’s Protectionist Rube Goldberg Machine

ANNE O. KRUEGER

トランプはこんな風に考えるのだろう。アメリカの関税を恐れて輸出に割り当てを課す国は、また関税を免除する自国の輸入業者は、政治的にも、経済的にも、アメリカの利益である、と。それは真実からほど遠い。

輸出割り当ての鉄鋼製品をだれが検査するのか? それはコストも時間もかかり、供給に遅れが生じる。国内の調達コストは増し、代替する製品の質が低下するだろう。

ある推計では、鉄鋼関税だけで、自動車・自動車部品関係の雇用が195000人も失われる。

輸出割り当てや関税免除の導入は、自由な通商システムを侵食する。さまざまな業界がロビー活動を強め、ライセンス承認に関する制度への(保護主義的)圧力を増すだろう。貿易手続きは煩雑化し、汚職が刺激される。

トランプ政権はアメリカ経済を、競争の低下、高価格、サービスの劣化、革新の沈滞に向かわせる。

FT July 5, 2018

The US Midwest will suffer in Donald Trump’s trade war

JOHN KASICH


 米中エリートの富を抑える

FT July 1, 2018

US and China must find ways to control their elites

RANA FOROOHAR

米中間の緊張は市場で何が起きるかを決定する。関税、通貨、技術、貿易戦争の勝者はどちらか?

しかし、各国の将来の性向と安定性を決めるのは、もっと重要な問題だ。すなわち、資産を蓄積するエリートをどちらの国が制御できるだろうか?

1982年の著作The Rise and Decline of Nationsで、Mancur Olsonは、資産家たちの利益が政治を決めるようになれば、文明は衰退する、と主張した。これは米中両国で起きていることだ。資産の不平等は両国でそれほど違わない。中国の上位1%は経済的富の約30%を所有するが、アメリカの上位1%42%を所有する。

賛否はあるが、習近平のプリンセリング弾圧はこの問題に対処している。王岐山が指導する汚職追放キャンペーンは、低賃金・安価な融資を前提した現状維持の既得権層を打ち破ることだ、と指導者たちは考える。

他方、最近のアメリカ最高裁の判決は、国民の多数よりも少数者を優遇するものだ。反トラスト法を緩和し、イスラム諸国からの旅行者に入国禁止を命じた大統領の決定を支持し、アメリカの労働組合運動から資金を奪った。

トランプが現れたのは、一部は、民主党が過去数十年間にエリートの利益と同盟してきたからだ。ビル・クリントンとウォール街、バラク・オバマとシリコンバレー。民主党の権力ブローカーとビジネスとの間には、1980年代の「強欲は正しい」という精神とリベラルの社会的給付とが結び付いている。先週、ニューヨーク市の民主党候補者予備選では、民主党内の重鎮が、雇用保障と国民皆保険を支持した28歳の若手候補に敗北した。

アメリカのビジネス・エリートたちは、13億人の中国市場に従う。しかし、アメリカの多国籍企業が中国市場で勝てると思うのは驚きだ。中国政府はその意図を明確にしている。国内でも、中国が重要な地政学的影響を保持する地域でも、中国企業への支援は増やすし、優遇策を強化する、と。

アメリカでは、地方の白人層が支持するファシズムと、都市の若者が推進する社会主義との間で、政治は選択を求めている。どちらも投資家たちは好まない。債券市場はそれを示している。


 ワイマール共和国か、ハプスブルク帝国か

FT July 1, 2018

Fearless Matteo Salvini’s threat to the EU establishment

WOLFGANG MÜNCHAU

EUは生存に関わる2つの危機に直面する。1つはドナルド・トランプ。もう1つはサルヴィーニMatteo Salviniである。

アメリカ大統領のもたらし脅威は、明白で、直接で、野蛮なものだ。EUはおそらく自動車に対する関税を支払わされる。貿易黒字と安全保障で、EUはアメリカに依存していたからだ。

サルヴィーニの及ぼす脅威は、より潜在的なものだ。5つ星運動との連立政権合意は、1.ユーロ圏にとどまる、2.サルヴィーニが内相としてEUと論争する、というものだ。イタリアはConte首相がグッド・コップ(EUの主張をよく聴く)、サルヴィーニ内相がバッド・コップ(EUを攻撃し、脅す)の役を分担した。

EUのポピュリストたちは移民・難民危機を利用する。2015年、EUの指導的保守派にギリシャが反対したが、成功しなかった。それは仲間がいなかったからだ。イタリア右派のポピュリストはEU内で同盟を形成している。彼らはEUの諸制度を内から転覆しようと狙っている。

ヨーロッパ議会選挙で、主流派の左右政党が新しい運動によって一掃されるかもしれない。1つは、マクロンが指導する全欧リベラル集団と、もう1つはポピュリスト、ナショナリストの協力体だ。

確かに各国の右派は対立している。ドイツ人は難民をイタリアに戻したい。イタリア人はそれをドイツに押し付けたい。オーストリアはどちらにしても自国を通らせない。しかし、彼らの関心は重要な点で一致している。それは政策を再国有化することだ。全ヨーロッパの難民・移民政策は、それが最も望ましいにもかかわらず、国民に支持されない。

サルヴィーニは、イタリアがもっと攻撃的な姿勢を取るべきだ、と考える。EU政策のすべての点で、独仏同盟に対抗する。これまで、イタリアは孤立することを恐れ、自国の利益に反しても独仏の決定に従った。しかし、サルヴィーニの脅威は恐れることがない。ダヴォスやブリュッセルに仲間を持たないことを恐れない、イタリア最初の政治家である。EU指導者たちはConte首相の未熟さを軽蔑しているが、政権を動かしているのはサルヴィーニだ。

イタリアがEU2つの危機、移民危機とユーロ危機の焦点であることを忘れてはならない。トランプとサルヴィーニが生み出す危機は、イタリアを現代のワイマール共和国にする。

FT July 3, 2018

What is the best solution for eurozone reform?

FT READERS

PS Jul 5, 2018

Europe’s Overly Complex Union

HAROLD JAMES

EUの問題は、グランド・ディール(取引)で解決できるはずだ。EU諸国は多くの問題で多様な関係を結んでおり、さまざまな分野の利益を損失に対して取引できる。不確実な世界で、単独では解決できないことがほとんどだ。

しかし、それはキメラ(想像の怪物・神獣)である。EUの危機は、こうした問題に関する決定が、正常な時代なら官僚によって進めることも可能だろうが、今は、時代の変化についていけなくなっていることだ。

G7でトランプが、関税をゼロにしないのか? と言われたとき、貿易戦争に代わる彼の提案を取り上げて、G7相互間の関税をゼロにすればよかっただろう。すでに関税は非常に低く、実行できる案であった。ただし、各国内の保護された領域を説得しなければならない。

EUはあまりにも複雑で、多くの異なる動きをする部品から成っている。それは、ますますハプスブルク帝国に似てきた。帝国の政治エリートたちはグランド・ディールを目指したが、それは複雑なナショナリティーを帝国内で再編する取引だった。決して結論が出ない論争に飽きて、彼らは次第に、唯一、対外的な政治的課題、たとえば短期の戦争、だけが問題を解決できる、と考えようになった。

しかし、第1次世界大戦は短期に終わらず、帝国を救済するものではなく、その崩壊をもたらした。


 韓国の人種差別

NYT July 1, 2018

South Korea’s Enduring Racism

By Se-Woong Koo


 メキシコ大統領選挙

The Guardian, Mon 2 Jul 2018

Mexico’s narco nightmare will not be ended by an amnesty for traffickers

Ed Vulliamy

FT July 2, 2018

Mexico’s López Obrador wins a landslide but questions linger

JOHN PAUL RATHBONE

1世紀以上、メキシコの歴史において初めて、2大政党の候補者ではない、64歳、社会主義者のロペス・オブラドールAndrés Manuel López Obradorが地滑り的な勝利を収めた。議会下院の多数を征し、上院も征する可能性がある。

彼は変化を求める国民の期待を高めた。彼の勝利は、テクノクラートによる、市場志向の経済政策に対する失望を表すものでもある。

しかし、彼の支持が高まった主要なテーマは、治安の改善、メキシコに広まる汚職の撲滅、「マフィア国家」を脱することだった。その意味で、ロペス・オブラドールの勝利は、隣国アメリカのドナルド・トランプ、イタリアの同盟とは異なる。

メキシコ経済は、ブラジル、ロシア、南アフリカなど、他の新興市場に比べて健全である。中央銀行は独立し、ペソは変動レートであり、政府債務は相対的に低水準で、インフレも財政赤字も抑制されている。成長も、めざましいものではないが、堅実だ。

しかし、3つの懸念事項がある。1.財政の見通し。ロペス・オブラドールは、GDP2.5%にあたる財源を必要としている。彼が年金引き上げ、ガソリン補助金、食料価格に関して約束したからだ。350万人の職業訓練を社会政策の目玉にしている。彼は汚職をなくせば財源を得られると言うが、それはむつかしいだろう。政府支出の削減は成長を損なう。

2.エネルギー政策。ロペス・オブラドールは公共投資を増やしたい。同時に、メキシコの石油市場を開放した際、100に及ぶ契約を結んだことに見直しを求めている。それは2000億ドルを超える外国投資に遅れを生じるだろう。

3.通商政策。ロペス・オブラドールはNAFTAを支持している。前任者以上に、NAFTA見直しにも積極的だ。ドナルド・トランプ大統領は、新大統領と一緒に仕事ができるのは楽しみだ、とTweetした。しかし、彼らがどのような協力できるのか? 

新しい政府のポストをだれが満たすのか?  ロペス・オブラドールは経済学に関心を持たず、政治に一貫して関わってきた。それは多くのラディカルな声を含む巨大なテントになるだろう。不確実さと混乱のレシピである。

PS Jul 2, 2018

Mexico Gets Its Own Trump

JORGE G. CASTAÑEDA

NYT July 2, 2018

How López Obrador Can Turn His Victory Into Mexico’s Triumph

By Enrique Krauze

ロペス・オブラドールは、2006年の大統領選挙に僅差で敗れ、2012年にも再び敗北したが、なお民主主義の最高職である大統領を目指した。彼は国中を旅し、緊密な、磁石のような、ほとんど宗教的な関係をメキシコの民衆と結んだ。この絆こそ彼の勝利の源、その理由である。メキシコ人は自国の問題に愛想が尽きていたが、ALMO(ロペス・オブラドールの愛称)が多数の民衆の不満を聴き、それを「真の変革」に向けた希望に転換する力を信じたのだ。

メキシコの古来の問題は、貧困と社会的不平等である。もう一つの問題、汚職は新しいように思うだろう。しかし、これも隠されていただけで、今や、メディアや新しい期間が透明性を高めている。メキシコ人家族が最も直接に関わる問題は、犯罪による暴力である。2000年以来、25万人以上が組織犯罪のために殺害された。多くの人々は市民の安全を守れない国家に責任があると考えている。

ロペス・オブラドールがその地位と民主的制度を強化し、倫理的な、民主的な指導力を発揮してほしい。世界もそれを必要としている。

NYT July 2, 2018

A President of Paradox for Mexico

By Pamela K. Starr

NYT July 2, 2018

A New Path in Mexico

By The Editorial Board

FT July 3, 2018

López Obrador wins historic mandate for change in Mexico

Jude Webber in Mexico City

ロペス・オブラドールの勝利は政治のエスタブリシュメントを一掃した。しかし、彼は多くの約束をしただけで、それをどのように実現できるか、何も示していない。

汚職を撲滅する。財政は均衡させる。厳正な政府。インフラ投資。若者たちの職業訓練制度。高齢者・身体障碍者への年金。農民への補助金。「貧しい、忘れられた人々」を優先する。

彼はプラグマティストだ。トランプに対抗するため、強権指導者になるかもしれない。

FT July 3, 2018

Mexican voters deliver a rebuke to political elite

FP JULY 3, 2018

López Obrador Is a Pragmatist, Not an Ideologue

BY ANDREW SELEE

FP JULY 3, 2018

Mexico’s Populist New President Unlikely to Derail Energy Reform

BY KEITH JOHNSON

FP JULY 5, 2018

Mexico’s New Boss Is the Same as Its Old Bosses

BY DANIEL LANSBERG-RODRÍGUEZ


 インドの女性

The Guardian, Mon 2 Jul 2018

India is the most dangerous country for women. It must face reality

Deepa Narayan

私は自分の国、インドの美や古代の文化を誇りに思う。しかし、インドが女性にとって最も危険な国である、と最近の調査が指摘したことには誇りを持てない。

認識は重要である。われわれが何を好み、株式市場に何が起き、だれが首相や大統領になるか、認識が決定的な役割を果たす。女性をどう扱うべきかという認識が、強姦文化を創るのだ。

インドが、戦争で破壊されたアフガニスタンやシリアよりも、女性に権利を認めないサウジアラビアよりも、危険な国に順位づけたことは衝撃だ。世界最大の民主主義国家であるインドは、もっと良い位置であるべきだ。

しかし、女性たちに単純に問いかけると、文化によって、彼女たちは危険を感じている。それは常時、テロの危険を感じるようなものだ。インドの女性たちは檻の中に住んでいる。


(後半へ続く)