IPEの果樹園2018
今週のReview
7/2-7
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トランプの秩序破壊 ・・・ポピュリズムが広める恐怖と怒り ・・・トルコ大統領選挙 ・・・ギリシャとユーロ圏の関係修復 ・・・移民政策のモデル ・・・米中首脳会談の評価 ・・・
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● トランプの秩序破壊
The Guardian, Fri 22 Jun 2018
Inspired by Trump, the world could
be heading back to the 1930s
Jonathan
Freedland
ナチスに言及するのは、第3帝国の研究を現代の早期警報システムとしてあつかうからだ。
ドナルド・トランプが、アメリカの政府機関に、南部の国境において移民の子供たちをその親から分離するように、また、泣き叫ぶ幼児を父親から、赤ん坊を母親の胸から引きはがすように命じたのは、ホロコーストを再現するわけではなかった。彼はある民族を根絶し、あるいは、数百万人を虐殺するよう命じたのではなかった。しかし、そこには共通するものがある。
1つは、分離する行為そのものが共通している。ホロコーストの生き残りが証言するように、当時は子供であった人々が、老人となった今でも、親と別れた瞬間を涙なしに語れない。その恐怖が今も人々から去ることはない。
メキシコ国境で2300人もの子供たちが親から分離された。それは殺害するためではなかったが、子供たちは2度と両親に会えず、何千マイルも離れた土地に送られるかもしれない。英語も話せない2歳の子供に何ができるのか? 今から80年経っても、老いた男女は、このときの恐怖に涙を流し、アメリカ政府がしたことを決して忘れないだろう。
さらに、針金の檻が共通している。すすり泣く子供たちが、互いを抱きしめることも禁止した。国境警備隊は、子供を連れ去る、と常に告げたわけではなかった。「あなたの子供を風呂に入れてやる」と言った。そして、半時間が経って、私の子供はどこか、風呂が長い、と訊かれると。「あなたは2度と子供に会えないだろう」と告げた。ガス室に送られたユダヤ人たちが、シャワーを浴びるだけだ、と言われたことに、そっくりである。
攻撃を受ける集団を非人間化する破滅的な事態を観るには、1930年代のドイツまでさかのぼる必要はない。それは1990年代のルワンダやバルカン半島で起きたし、現在のアメリカにも起きている。「こいつらは人間じゃない。獣だ。」と、先月、大統領は書いた。やつらは「われわれの国になだれ込み、はびこる(pour into and infest)。」 この言葉 “infest”
はネズミや昆虫に使用する表現だ。人間的な同情を捨て去り、そこで苦しむ者たちが人間ではないことを示すための言葉だ。
涙を流す幼児たちを「子役たち」と呼んで、リベラルなメディの悲鳴など無視し、「強硬策」を続けるべきだ、という人々をFox Newsは報道した。イタリア政府の新しい内相Matteo Salviniは、居住区ごとに、通りから通りを、純化し、クレンジングするよう求めた。
1945年以後のグローバルな成果が崩壊しつつある。トランプは西側の同盟を破壊し、権威主義体制に有利な世界を創り始めた。それはまた、ホロコーストを目撃した世界が獲得した、規範やタブーの感覚を侵食する。人種差別や外国人排斥は、確かに、タブーとされてからも、なくなったわけではなかった。しかし、それはチェックされた。そのような憎しみを放置すればどうなるか、われわれは知っていたからだ。
今、アメリカ、イタリア、ハンガリー、ポーランド、そのほかの国で、抑制が失われた。むしろタブーを破ることが男らしい。それは人類史の最悪の時代に共通する。
FT June 23, 2018
Donald Trump and the 1930s playbook:
liberal democracy comes unstuck
Edward
Luce in Washington
1930年代との共通性はあまりにも明白である。
「間違いなく、立憲主義的なリベラル秩序に対する攻撃の共謀が存在する。」 ブルッキングス研究所のドイツ人研究員Constanze Stelzenmüllerはそう述べた。「しかも、それを指導するのはアメリカの大統領である。」
トランプのその週はアメリカの重要な同盟国を攻撃することで始まった。アンゲラ・メルケルはドイツの「脆弱な」連立政権を率いて、「何百万もの移民たちに自国の文化を強烈に、そして暴力的に変更されるままに任せている」、と。
ワシントンに戻って、トランプは国民の怒りに負けて、幼年者の移民を集めて、拘置センターに分離する政策を停止した。それでも彼は、ペンタゴンに2万人の子供の収容所を準備するように命じた。先週末、トランプはハンガリーの「非リベラル」、ビクトル・オルバンに電話し、「強固な国境線」を求める共同声明を発した。
1930年代とは明らかに異なる。戦争を予想する者はいない。旧秩序を倒す日本帝国も、ナチ・ドイツも、ファシストのイタリアも存在しない。アメリカも超然としてはいられない。しかし、類似性は無視できない。ヨーロッパでは、解体に向かう力が高まっている。
トランプは1930年代の術策の多くを借り受けている。ヒスパニックや非合法移民について、民主党が、この国にはびこることを許した、という。トランプの「嘘つきのメディア」に対する攻撃も、アドルフ・ヒトラーとよく似ている。トランプは、ドイツの犯罪が増加している、と主張する。実際は、歴史的に低い水準だ。メルケル政権はそれを訂正した。しかし、今もトランプはその話を信じているようだ。
「われわれは、日々、代表制民主主義への攻撃、リベラルな秩序への攻撃、憲法への攻撃を経験している。」と、上院議員で市民権運動家であったEmma Boninoは言う。
ダイナミズムが明らかに間違った方向に向かっている。かつてエコノミストのRudi Dornbuschは述べた。「経済学において、変化が起きるのに予想以上の時間を要する。その後、その変化は、起きるかもしれないと思った以上に急速に起きる。」
リベラルな民主主義は、彼の警句の第2局面に入ったようだ。変化が加速している。
● ポピュリズムが広める恐怖と怒り
PS Jun 25, 2018
Anger in
America
ANDREW SHENG, XIAO GENG
西側におけるポピュリストたちは、労働者たちの不満に応えてやる、と主張して選挙に勝ち、同時に、恐怖を煽り、分断を強めた。しかし、大衆の怒りを利用する指導者たちを責めるより、その怒りのパワーがどのように生まれたか、にもっと注意するべきだ。それは、この30年間、ロケット噴射のように富を増大させた富裕層と、所得の増えなかった中産階級、労働者階級の現実に由来する。
アメリカのジャーナリストSteven Brillが新著Tailspinで論じたように、アメリカの諸制度はもはやその目的に従っておらず、裕福な少数者だけを守り、他の者たちが「自由市場」という名の略奪行為にさらされているのに、それを放置している。これがアメリカのメリトクラシーの結果なのだ。優秀な者たちはトップに登りつめると、自分たちが登ったはしごを外してしまう。そして民主的な制度を牛耳って、自分たちの特権的な利益を拡大するのだ。
1980年代半ば、ピークにおいて、アメリカの富・資産は人口の下位90%によって、その35%が所有されていた。30年後に、彼らが所有するのは20%に減少し、その失ったものすべてが、最上位0.1%の所有となった。2つの集団に挟まれた9.9%の人々を、かつては中産階級と呼んだが、作家Matthew Stewartは「アメリカの新貴族」と呼ぶ。1963年、下位の90%の人々が、この9.9%の集団に入るとは、富が6倍になることだった。2010年代になると、それは25倍である。
アメリカ人の多くはより熱心に働いているが、生活水準は低下してきた。一般の家計はより大きな債務を負い、多くの場合、健康保険がなかった。上位10%の人々は、容易に高等教育を受けられ、子供たちにも同じ特権を享受させてやる。下位90%の人々は、天文学的な高額の授業料を支払うために必死で働き、卒業しても多額の債務を負う。
税制はこうした不平等な条件を平準化しなかった。共和党は長い間、富裕層の税率を引き下げてきた。限界税率を下げれば、投資、雇用、成長が高まり、その他の社会にも利益が行き渡る、と主張した。実際は、富裕層のための減税が不平等を拡大した。さらに、貧困層は多くの間接税を支払っている。人口の最下位20%は、トップ1%の人々より、2倍も多くの州税を支払っている。機械化、ロボット、ますます激しくなる自然災害に苦しみ、多くの人々が怒りを高めるのは当然だ。
歴史家Walter Scheidelによれば、不平等が緩和されたのは、戦争、革命、国家崩壊、そして自然災害によってだけだった。そのような事態を避けるために、90%の人々に、もっと良い職場が提供されるべきだ。しかし、経済的な近視眼と政治のポピュリズムが、移民排斥、中国や貿易への攻撃を繰り返す。
内部の矛盾や不均衡が国家間の戦争に至るのか? それは歴史的に見て不可避なことではなく、指導者の質によって決まった。
アメリカのトランプ大統領は、自分の利益のために、大衆の怒りを利用してきた。しかし、彼がその怒りを創り出したのではない。アメリカのエリートたちが何十年も、トランプのような指導者が登場する条件を創り出したのだ。
「アメリカを再び偉大にする」には、内部の不正義を正すことであり、輸入関税や国境の壁とは関係ない。
● トルコ大統領選挙
The Guardian, Fri 22 Jun 2018
Bully-boy Erdoğan is a threat to
Turkey – and the world
Simon
Tisdall
エルドアンRecep
Tayyip Erdoğanが再選され、権力を集中することは、国民にとってだけでなく、国際社会にとっても大きな脅威である。日曜日の選挙でエルドアンが実質的な独裁者となれば、シリアから中東全域にかけて、不安定さが増すだろう。
エルドアンによる政治の私物化は、ナショナリストたちから支持されており、スンニ派イスラム教徒、地方の保守派にも支持を広げた。それは分断をもたらす、ポピュリスト的な政策によって維持され、近隣諸国に挑戦するものだ。
エルドアンの主要な助言者、高名な教授であったAhmet Davutoğluは、2003年から2016年にかけて外相と首相を務め、「全方位善隣外交」を推進した。それは最初、地域にプラスの効果をもたらし、いわゆる「新オスマン主義」として大いに流行した。
しかしDavutoğluが影響力を失うと、エルドアンは方針を逆転した。アラブ民族の権力を握るため基軸となる、エジプトとの関係が重要だ。2011年、アラブの春でムバラクが失脚した直後、エルドアンはカイロを訪問し、イスラム教徒の世界に君臨する指導者になる、という野心を極めた。
しかし、ムスリム同胞団のモルシが権力を得たが、軍事クーデタで追放され、事実上、エルドアンは宣戦布告に至る。シリアのアサドも、エジプトのシシも、違いはない。国家によるテロリズムが信仰している、と2013年にエルドアンは述べた。
今もエルドアンは新しいスルタン国家を目指すが、その中身は善隣外交に反するものとなった。カイロとの反目は続き、湾岸諸王朝もエルドアンの軍事的野心を警戒している。サウジアラビアのサルマン皇太子はトルコを、イラン、イスラム主義者と並ぶ「悪の三角形」の1つにしている。
「クルド問題」へのこだわりと暴力の行使、シリア・トルコ国境地帯におけるクルド人への軍事攻撃は、アメリカと協力する軍事拠点を破壊するものになった。エルドアンは地域全体に紛争を拡大している。2016年のクーデタに関わり、容疑者を渡すことを拒んだアテネに対して、ギリシャ領の島に戦闘機を送った。ガザにおけるパレスチナ人の死者に関して、エルドアンの言及はイスラエルとの関係改善を破壊するものだ。
アメリカ上院はトルコへのF35戦闘機売却を阻止しようとした。エルドアンは世界中でアメリカの利益を損なっている、とあからさまに非難した。NATO加盟国であるトルコに対して、「同盟諸国を標的にした敵対行為、われわれの敵に対する支援、教唆」を激しい言葉で警告した。
同様に、難民や将来の加盟審査に関して、ヨーロッパ諸国との関係も悪化している。人権を蹂躙し、民主的な基準を破壊し、プーチンとの軍事的協力関係は、ロシアのS400ミサイル導入に示されている。
トルコの有権者は、自分たちのためだけでなく、世界のためにも、エルドアンを追放するべきだ。
● ギリシャとユーロ圏の関係修復
FT June 25, 2018
Greece
wins a fresh chance to go it alone
あまりにも長かった。しかし、8年経って、3つの緊急融資を受けた後、ギリシャはついにユーロ圏の融資計画による拘束から逃れる。救済パッケージは債務返済負担を減らし、当面の展望は明るくなった。欧州委員会は、ユーロ圏の混乱期を脱する、ギリシャ国民も、近代ヨーロッパ史上で最悪の不況を脱する、という楽観論が生じている。
先週、ユーロ圏の財務大臣たちとギリシャ政府は合意に達した。それは、注意深く、すべての関係者が政治的に受け入れ可能なものになっている。今年末から来年に選挙を迎えるギリシャ首相Alexis Tsiprasは、自国をユーロ圏の独裁から解放した、と主張できる。ドイツが率いるユーロ圏の債権諸国・強硬派は、アテネの経営失敗を彼らが支払う、と責めて、債務免除に反対する、という姿勢を転換した。さらに、ギリシャ政府の財政が容易に赤字に流れないよう、救済パッケージには多くの条件を付けている。
合意は、金利だけの返済期間を10年延長した。これによって平均返済期間は40年に延びる。これは、中期的に、ギリシャの債務返済負担を大幅に軽減する。その代わりに、ギリシャは構造改革と制度改革に関する約束を守り、モニタリングを受ける。財政運営の目標は、2022年までに、プライマリー・バランスで3.5%の黒字となる。その後、2060年まで、平均で2.2%の黒字を維持する。
ギリシャ国民は、こうした合意が遅れたことで苦しみ続けた。最初の救済融資は2012年にさかのぼる。多年にわたる緊縮策は深刻な結果をもたらした。公式の失業率はなお20%に達し、きわめて脆弱で、市場における財政資金の調達も難しい。
今後、いくつかの問題が待っている。第1に、救済融資が終わる8月以後に、政府が安定した成長経路を見出し、雇用を増やして、大衆の怒りを鎮静化できるか、である。
第2に、来年1月、国民が特に嫌っている年金改革が導入される。それは債権諸国にとって絶対に譲れない要求だ。ギリシャの政党が国民に犠牲を求める力が試される。
第3に、汚職の蔓延、権力の乱用、法の支配に関する疑念がある。
それでもギリシャ政府の支払い能力に関して、当面の問題は解消された。自分の足で立つことができる。その力が維持されることを望む。
● 移民政策のモデル
FT June 25, 2018
Vanishing
Frontiers: the forces driving Mexico and the United States together, by Andrew
Selee
Review by John Paul Rathbone
アメリカ=メキシコ国境の両側で、生活は急速に変化している。大統領に就任して2日後に、ドナルド・トランプはNAFTAの再交渉、あるいは、停止を宣言し、その3日後、「巨大な、美しい壁」の建設を命じた。
トランプ支持者たちは大喜びだ。彼を大統領にしたのは、メキシコ人を「麻薬の運び屋、犯罪者、強姦魔」と呼んだ野蛮な主張であった。しかし、Andrew Seleeは、彼のネイティビストの主張が両国を切り離そうとしても、それは物語の一部でしかない、と主張する。アメリカとメキシコを動かす諸力は、フルスピードで統合化を推進し続けている、と。
誤解されたアメリカ=メキシコ関係は政治家たちの訴えに利用された。メキシコは、グローバリゼーションや影響力低下に関するアメリカ人の不安によって、その標的となってきた。
Seleeはペンシルベニアの小さな町Hazletonに注目する。そこはこの問題群の小さな宇宙となっている。
1世紀前、Hazletonは北欧からの移民を集める磁石であった。アメリカで唯一、チロル風のカトリック教会があることを町は自慢した。しかし、近くの炭鉱が閉鎖されて、町は衰退する。その傾向が止まったのは、1990年代半ば、ビジネスの指導者たちが3つの工業開発区を設け、国際的企業が集まったからだ。アメリカの食品を生産する著名なメキシコ系多国籍企業が集まった。
メキシコ系や他のヒスパニックの移民たちが流入し、経済は再生したが、同時に町は変化した。2006年には住民の3分の1がヒスパニックになり、Hazleton市長が英語を公用語とした。ここはアメリカ移民論争のグランド・ゼロになった。2016年、バラク・オバマを2度支持したHazletonが、トランプの勝利に加わった。
どれほどポピュリスト政治家たちが分断を叫んでも、相互の信頼は統合を推進するダイナミズムを失わない、と著者は確信する。
The Guardian, Tue 26 Jun 2018
What
Europe could learn from the way Africa treats refugees
Alexander Betts
ヨーロッパの移民政策に関しては各国の意見が対立している。アフリカ諸国との協力を強める、という点だけで一致する。しかし、その中身は、国境の警備強化、移民流入の阻止、ヨーロッパからの送還、である。
むしろ、ヨーロッパはアフリカ諸国の移民受け入れ政策からもっと学ぶべきである、と国連高等難民弁務官Filippo Grandiは指摘した。特に、東アフリカの3か国、エチオピア、ケニア、ウガンダがそうだ。
広く称賛されているのは、ウガンダが1990年代に打ち出した「自律戦略」である。難民に働く権利や自由な移動を認めている。独立したときから、ウガンダの難民は人口の少ない地域で土地を与えられ、開発のための手段も提供された。こうした難民は地域社会の利益になっている。最近、南スーダンや今後からの難民が増え、160万人に達しているが、政府はこの方式を支持している。
● 米中首脳会談の評価
FP JUNE 26, 2018
With North
Korea, Good Intentions Aren’t Enough
BY ROBERT A. MANNING
アメリカのポンペオ国務長官が北朝鮮の金正恩と2度の直接会談を経て、少なくとも5回の板門店会談を行った後で、わずか391語のあいまいな声明が、非核化も、新しい米朝関係と、朝鮮半島の「平和体制」を確立した後で行われるというのは、どういう意味なのか?
これは多くの交渉の始まりに過ぎない。トランプ大統領が金正恩を同意させたことは素晴らしい成果である。しかし、それが実行されるまでには、単なる指導者の善意だけでは不十分だ。また、トランプ大統領の2国間交渉は、北東アジアの枠組みを何も示さず、他のアクターたちにとって新しい地域関係に向けたフリー・フォールの競争状態を創り出した。
中国も、韓国も、ロシアも、そして、ようやく姿勢を転換した日本も、彼らが描く地域の姿は互いに異なっている。何より、キムの意図が重要だ。キムは「鄧小平の瞬間」を迎えたのか? 軍事ではなく、経済成果を、権力の正当性として目指すのか。また、体制崩壊をともなった「ゴルバチョフの瞬間」を超えたのか? それを試すには、まず国際機関が北朝鮮と加盟交渉を進めてみることだ。
トランプには朝鮮半島外交がない。主要なアクターは、再び6か国協議の枠組みを使って、目標達成のメカニズムにするべきだろう。
FP JUNE 28, 2018
How North
Korea Could Go From Hermit Kingdom to Factory Hub
BY ELIAS GROLL
シンガポールの米中首脳会談は、2人の指導者が長年の懸案を解決し、世界で最も孤立した国を開放する、という希望をもたらした。
それは幻想ではない。韓国の研究機関Samsung Securitiesが報告書を出した。サミットの成功と経済制裁解除を予想して、外国資本が北朝鮮に殺到し、ヤドカリ国家を、経済繁栄に向けた決死の国に変えるだろう、と結論する。
「韓国がその富と工業化のノウハウを、北朝鮮の人的資源・自然資源に組み合わせれば、両国民の経済は長期的な大飛躍を実現する。」
そのために克服すべき障害物は多い。しかし、世界最大の経済圏に挟まれた有利な位置を生かせるだろう。アメリカは「完全、かつ、検証可能な、不可逆的な核軍備の削減」を求めるが、北朝鮮は「完全、かつ、検証可能な、不可逆的な繁栄」を求める。
しかし、ケソン工業団地の再開はその手始めでしかない。北朝鮮が製造業のハブになるには、根本的な改革が必要である。William Brownの分析によれば、それは通貨・金融システム、所有権、そして「国家指定価格、市場価格、賃金、金利、為替レートに存在する巨大なギャップを橋渡しする単一の価格システム」を含む。
● ユーロ改革
FT June 27, 2018
Should
Merkel embrace Macron’s vision for eurozone reform?
Isabelle Mateos y Lago and Hans-Werner Sinn
メルケルはマクロンのユーロ改革案を支持するべきか?
Isabelle Mateos y Lago ・・・Yes
ユーロ圏は、競争力の差を為替レートで統制できず、近畿循環が異なるのに十分な財政政策が取れないために、加盟諸国間の拡散を強めている。ドイツがそのルールを変えるか、イタリアがユーロ圏を離脱するしかない。
ユーロ圏を維持するために、ドイツは改革を支持するべきだ。
Hans-Werner Sinn ・・・No
市場の統合と競争を支持するだけで、改革を避けるための財政支援をしてはならない。共通の預金保険も、アメリカの経験が示すように、ドイツの銀行をカジノに変えてしまう。ケインズ主義がもたらしたブームは、バブルを生んだだけだった。
アメリカの経験から学ぶべきは、各州が予算を均衡させ、治安・安全保障と国境管理、その他の公共財に集中すべきだ、ということである。
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The Economist June 16th 2018
Kim Jong Won
Politics: How
democracy dies
Russia: Free
Oleg Sentsov
The Singapore
summit: Enough to make a Rodman cry
Geopolitics:
Democracy’s retreat
(コメント) 米朝首脳会談に関する記事が、バランスの取れた評価を示します。これは不動産開発の取引だったのか? 核兵器はどうなったのか? 米韓合同軍事演習を中止して、何を得たのか? アジアの同盟諸国、韓国と日本はそれぞれに異なった評価と動きをし始める。中国だけが利益を得たのか? そして、もし金正恩の時間稼ぎでしかないと分かったとき、次の激しい言葉の応酬は、軍事衝突を避けられるのか?
世界で強権的な指導者が復活していることを、どう考えたらよいのか? 「民主主義の死」を誇張してはいけない。しかし、その再生を支持するには、もっと改善しなければならないことが多くある。
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IPEの想像力 7/2/18
実家で、朝日新聞を取り始めました。それまでは読売でしたが、記事が面白くない。外交や国際関係についても、政府を支持する学者が書いていることも多く、あまり面白くないと思いました。
ようやく契約期間が終わったので朝日に変えると、読売の配達所から、社員が洗剤を持ってわざわざ来てくれました。何か問題がありましたか? ・・・記事が面白くなかった、と私は答えました。安倍首相がこれほど我慢ならない答弁を繰り返すことに、読売の記事は何も切り込まない。安倍さんにはあきれたが、悪いけれど、読売も取りたくない、と。
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近所の医者に行くと、待合室に『ナショナル・ジオグラフィック』という面白いアメリカの写真雑誌があります。日本語版です。それは地理学のような、人類学のような、探検家や植民の時代から引き継がれた、境界線を越える帝国のサイエンス、という不思議な中身です。映像がとても印象的です。私が購読しているThe
Economistも、少し似た雰囲気があります。
朝日新聞が発行しているGLOBEという週刊の別刷りは、この2つを合わせたような感覚で、読みたいな、と思っていました。とても面白いのです。
日系ブラジル人の斎藤俊男さんの話。・・・ その年譜が示すように、斎藤さんは1967年にブラジルで生まれました。州立大学を卒業し、体育の先生になった、とあります。
しかし、出稼ぎで日本に来る。1990年、日本の出入国管理法が改正され、日系3世まで就労が認められるようになったから。この改正には、バブルで労働力不足になった日本の企業が、ひどくこじつけた(?)労働力の輸入を始めた、と感じています。しかし、彼にとってはチャンスでした。「親の祖国を観たかった。」
斎藤さんは岐阜県や埼玉県の自動車部品工場で働きました。日系ブラジル人は、仲介業者を通じて仕事を見つけました。日本語がうまくなり、面倒見が良い斎藤さんに、仲介業をビジネスにしたらよい、という助言があったそうです。妻と必死に働いて、27歳で起業します。おそらく、起業を目指す背景には、日系人の出稼ぎ労働者に対する差別もあっただろうと思います。
子持ちの日系人が職を得にくいことに対して、斎藤さんは、日系人がポルトガル語で子供を世話する保育所を会社の中に設けました。安価な労働力と斎藤さんの魅力で、派遣先企業が大きく増えたそうです。
しかし、まだまだこの人の冒険は続きました。2008年のリーマン・ショックで受注が激減します。日系人社員のために建てたアパートの負債が3億円。毎月の返済額は300万円以上もした。斎藤さんは、自殺して保険金で返済できないか、とまで考えます。しかし、妻と3人の子供、残った社員とその家族を支えねばならない、と彼は考えます。
税金が払えない相談をするために町役場に向かう途中、斎藤さんは放棄された畑を見ます。そして、これからは農業だ、と考えます。後継者がいない農地を集めて、自分が社員たちと耕そう、と決意したのです。自動車を手放し、農機具を買って、賛同してくれた社員と、銀行からの融資も得ました。「給料は払えない。パートナーとしてやってくれ。利益は平等に分ける。」
すごいな。おもしろい。まるで近代初期の冒険商人です。植木屋が倒産した後の、2000平方メートルの土地を借りて、手作業で開墾し、土づくり、肥料や栽培技術は農家に教えてもらったそうです。それでもなかなか利益が出ません。もっと安定した価格で売れる野菜を探し、長ネギを栽培します。百貨店や高級スーパーに販路を拡大し、ブランド「葱王」を売りました。
斎藤さんは、50歳でこのビジネスを仲間に譲ってしまいます。「会社は社長のものじゃない。従業員のものだから。」 そして、日系ブラジル人の教育に取り組みます。いじめられたり、中退したりする子供が多いから。「英語、ポルトガル語、日本語ができる、世界で暮らせる人を」「日本の将来を担う子供たちを育てる。」
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GLOBEの記事をさらに読みました。死んだペットを10万ドルで復元する韓国のクローンビジネス。・・・JICAが日本の円借款112億円を投じたエルサルバドルの失敗したコンテナ港開発。・・・インテルが1.7兆円で買収した自動運転技術を開発したイスラエル軍の天才たち。・・・
安倍政権も終わるでしょう。彼が1つの時代をどのように変えたのか、歴史として総括されるのは先の話です。少なくとも、世界中が変化する中で、大国政治の怪しげな神話と日米軍事・政治同盟の強化を外皮とした日本の時代は、民主主義をたくましく生きる、もっと多くの挑戦する若い世代を求めています。
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