IPEの果樹園2018

今週のReview

7/2-7

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トランプの秩序破壊 ・・・ポピュリズムが広める恐怖と怒り ・・・トルコ大統領選挙 ・・・ギリシャとユーロ圏の関係修復 ・・・移民政策のモデル ・・・法人税率の低下 ・・・貿易戦争 ・・・インドの選挙 ・・・米中首脳会談の評価 ・・・

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランプの秩序破壊

The Guardian, Fri 22 Jun 2018

Inspired by Trump, the world could be heading back to the 1930s

Jonathan Freedland

ナチスに言及するのは、第3帝国の研究を現代の早期警報システムとしてあつかうからだ。

ドナルド・トランプが、アメリカの政府機関に、南部の国境において移民の子供たちをその親から分離するように、また、泣き叫ぶ幼児を父親から、赤ん坊を母親の胸から引きはがすように命じたのは、ホロコーストを再現するわけではなかった。彼はある民族を根絶し、あるいは、数百万人を虐殺するよう命じたのではなかった。しかし、そこには共通するものがある。

1つは、分離する行為そのものが共通している。ホロコーストの生き残りが証言するように、当時は子供であった人々が、老人となった今でも、親と別れた瞬間を涙なしに語れない。その恐怖が今も人々から去ることはない。

メキシコ国境で2300人もの子供たちが親から分離された。それは殺害するためではなかったが、子供たちは2度と両親に会えず、何千マイルも離れた土地に送られるかもしれない。英語も話せない2歳の子供に何ができるのか? 今から80年経っても、老いた男女は、このときの恐怖に涙を流し、アメリカ政府がしたことを決して忘れないだろう。

さらに、針金の檻が共通している。すすり泣く子供たちが、互いを抱きしめることも禁止した。国境警備隊は、子供を連れ去る、と常に告げたわけではなかった。「あなたの子供を風呂に入れてやる」と言った。そして、半時間が経って、私の子供はどこか、風呂が長い、と訊かれると。「あなたは2度と子供に会えないだろう」と告げた。ガス室に送られたユダヤ人たちが、シャワーを浴びるだけだ、と言われたことに、そっくりである。

攻撃を受ける集団を非人間化する破滅的な事態を観るには、1930年代のドイツまでさかのぼる必要はない。それは1990年代のルワンダやバルカン半島で起きたし、現在のアメリカにも起きている。「こいつらは人間じゃない。獣だ。」と、先月、大統領は書いた。やつらは「われわれの国になだれ込み、はびこる(pour into and infest)。」 この言葉 infestはネズミや昆虫に使用する表現だ。人間的な同情を捨て去り、そこで苦しむ者たちが人間ではないことを示すための言葉だ。

涙を流す幼児たちを「子役たち」と呼んで、リベラルなメディの悲鳴など無視し、「強硬策」を続けるべきだ、という人々をFox Newsは報道した。イタリア政府の新しい内相Matteo Salviniは、居住区ごとに、通りから通りを、純化し、クレンジングするよう求めた。

1945年以後のグローバルな成果が崩壊しつつある。トランプは西側の同盟を破壊し、権威主義体制に有利な世界を創り始めた。それはまた、ホロコーストを目撃した世界が獲得した、規範やタブーの感覚を侵食する。人種差別や外国人排斥は、確かに、タブーとされてからも、なくなったわけではなかった。しかし、それはチェックされた。そのような憎しみを放置すればどうなるか、われわれは知っていたからだ。

今、アメリカ、イタリア、ハンガリー、ポーランド、そのほかの国で、抑制が失われた。むしろタブーを破ることが男らしい。それは人類史の最悪の時代に共通する。

FT June 23, 2018

Donald Trump and the 1930s playbook: liberal democracy comes unstuck

Edward Luce in Washington

1930年代との共通性はあまりにも明白である。

「間違いなく、立憲主義的なリベラル秩序に対する攻撃の共謀が存在する。」 ブルッキングス研究所のドイツ人研究員Constanze Stelzenmüllerはそう述べた。「しかも、それを指導するのはアメリカの大統領である。」

トランプのその週はアメリカの重要な同盟国を攻撃することで始まった。アンゲラ・メルケルはドイツの「脆弱な」連立政権を率いて、「何百万もの移民たちに自国の文化を強烈に、そして暴力的に変更されるままに任せている」、と。

ワシントンに戻って、トランプは国民の怒りに負けて、幼年者の移民を集めて、拘置センターに分離する政策を停止した。それでも彼は、ペンタゴンに2万人の子供の収容所を準備するように命じた。先週末、トランプはハンガリーの「非リベラル」、ビクトル・オルバンに電話し、「強固な国境線」を求める共同声明を発した。

1930年代とは明らかに異なる。戦争を予想する者はいない。旧秩序を倒す日本帝国も、ナチ・ドイツも、ファシストのイタリアも存在しない。アメリカも超然としてはいられない。しかし、類似性は無視できない。ヨーロッパでは、解体に向かう力が高まっている。

フランス大統領とドイツ首相だけでは、アメリカ大統領が積極的に破壊する秩序を維持する十分な力にならない。

来週、メルケルは、連立政権がEUの移民割り当てを受け入れるように、連立相手に頼む。しかし、イタリア首相はすでに拒否する意向を示しており、キリスト教社会同盟出身のドイツ内相も、メルケルの連立相手だが、移民たちを国境線に戻したいと考えている。それは、オーストリアやハンガリーがこの数年やってきたことだ。

「アメリカ大統領が、われわれの最も緊密な同盟諸国の中で、非民主的勢力を煽動する姿を観るのは、かつてなかったことだ。」 「トランプはメルケルを貶め、その権力を失わせようとしている。」

EUサミットの数日後に、トランプはヨーロッパに来てNATOの年次総会に出席した。彼はNATOをあからさまに嫌っている。今週、ホワイトハウスは、トランプがロシアのプーチン大統領と別に会談を設ける、と発表した。それはNATOにとって警戒を要することだ。

同時に、トランプは戦間期の通商政策をまねることに最善を尽くしているようだ。1930年、アメリカ議会はスムート=ホーリー法を成立させ、アメリカの貿易相手国に鉄鋼の関税を課した。それが貿易戦争とヨーロッパのファシズム台頭に火を付けたのだ。トランプは、カナダから日本まで含めて、同盟諸国に関税を課し、G7サミットの共同声明から「ルールに依拠した国際秩序」という文句を取り除くように求めた。そしてカナダ首相を非難し、署名から離脱した。

ワシントンの保守派コメンテーターRobert Kaganは、「1930年代が同じ形で起きることはないだろう。」と述べた。「しかし、人々は第2次世界大戦後の秩序がすたれたことを忘れ、トランプ大統領は、多極化した競争の世界に向かっている、」

トランプは1930年代の術策の多くを借り受けている。ヒスパニックや非合法移民について、民主党が、この国にはびこることを許した、という。トランプの「嘘つきのメディア」に対する攻撃も、アドルフ・ヒトラーとよく似ている。トランプは、ドイツの犯罪が増加している、と主張する。実際は、歴史的に低い水準だ。メルケル政権はそれを訂正した。しかし、今もトランプはその話を信じているようだ。

「われわれは、日々、代表制民主主義への攻撃、リベラルな秩序への攻撃、憲法への攻撃を経験している。」と、上院議員で市民権運動家であったEmma Boninoは言う。

ダイナミズムが明らかに間違った方向に向かっている。かつてエコノミストのRudi Dornbuschは述べた。「経済学において、変化が起きるのに予想以上の時間を要する。その後、その変化は、起きるかもしれないと思った以上に急速に起きる。」

リベラルな民主主義は、彼の警句の第2局面に入ったようだ。変化が加速している。

PS Jun 25, 2018

When Politics Trumps Economics

STEPHEN S. ROACH

トランプ政権は経済学に注意を払わず、政治的パワーを攻撃的に行使する。

貿易論は特にひどい。貿易赤字がマクロ経済の貯蓄と投資の関係を時間を経て結びつく、という経済学を全く無視して、大統領は2国間の不均衡、特に、中国の黒字を非難する。同様に、G7の共同声明を拒み、アメリカは誰もが金を引き出して利用する貯金箱として利用されている、と主張する。こんなに低い貯蓄率で、何を取られると心配するのか? トランプの財政政策は、結局、彼が解決すると主張している貿易赤字を増大させるものだ。

トランプの主張はでたらめが多い。気候変動、移民、外交、銃規制。事実ではなく、パワー・プレイが彼にとっては重要だ。だが、貿易論だけがこれほど注目される。

それはトランプが中国との競争を重視しているからだ。中国は、ますます、自分たちの対外的な主張を実現しつつある。ポール・ケネディ―が「帝国の過剰拡大」を警告したのは30年も前だが、アメリカはその後も優位を維持してきた。ソ連は崩壊し、日本は自ら爆発し、ドイツは再統合とEU統合に躓いた。

アメリカの軍事的優位は今も圧倒的だ。だからトランプは、政治的なパワーを使って経済を有利に変えることが可能だと信じている。しかし、それが通用するのは、中国がその野心を今の形に抑えている場合だけだ。すなわち、自国の技術革新、先端技術と軍事力の優位、アジアにおける覇権。

トランプと違って、中国は経済と政治の関係をよく理解している。トランプの貿易戦争が勝利しているように見えるが、それは結局、経済学に従って、アメリカのパワーを失わせる。

The Guardian, Wed 27 Jun 2018

Trump is hellbent on destroying the Nato alliance

Martin Kettle

The Guardian, Wed 27 Jun 2018

China will not tolerate US military muscle-flexing off our shores

Liu Xiaoming

NYT June 27, 2018

How, Exactly, Does This Travel Ban Keep Us Safe, Mr. President?

By Bret Stephens

PS Jun 28, 2018

The Transatlantic Rupture

DOMINIQUE MOISI


 ポピュリズムが広める恐怖と怒り

The Guardian, Fri 22 Jun 2018

Hungary is making a mockery of ‘EU values’. It’s time to kick it out

Owen Jones

NYT June 23, 2018

How the G.O.P. Built Donald Trump’s Cages

By The Editorial Board

トランプ大統領は、共和党からの批判を含む、多くの国民の怒りを受けて、その移民の子供たちを分離する政策を観直した。しかし、共和党は自画自賛している暇はない。自分たちの党が推した大統領が、こうした政策をどのように感じているか、自問するべきだ。

主要な共和党議員が移民に関して穏健な意見を表明したのは、わずか数年前のことである。しかし、ますます多くの共和党指導者たちは、ネイティビストたち(アメリカ生まれの国民を優先する・移民排斥)のジャングルに飛び込み、不安と怨嗟の政治を利用した。トランプが共和党の「他者」の悪魔化に投資したのではない。それは徐々に進み、また、突然、広がった。

共和党の支持者たちが移民に関心を持つようになったのは、長い期間をかけて、多くの理由が関係している。1990年代、2000年における保守強硬派のPat Buchananが共和党を刺激した。金融危機とその後の不況に刺激され、ネイティビストやティー・パーティーが強まった。しかし、政治家たちは移民攻撃には加わらなかった。オバマの移民法改革は、むしろ保守派の怒りを刺激した。

しかし、オバマ政権の終盤に、共和党政治家たちは変身を決意したのだ。

The Guardian, Sun 24 Jun 2018

The Guardian view on hyper-populism: it’s infecting politicians and technocrats

Editorial

PS Jun 25, 2018

Anger in America

ANDREW SHENG, XIAO GENG

西側におけるポピュリストたちは、労働者たちの不満に応えてやる、と主張して選挙に勝ち、同時に、恐怖を煽り、分断を強めた。しかし、大衆の怒りを利用する指導者たちを責めるより、その怒りのパワーがどのように生まれたか、にもっと注意するべきだ。それは、この30年間、ロケット噴射のように富を増大させた富裕層と、所得の増えなかった中産階級、労働者階級の現実に由来する。

アメリカのジャーナリストSteven Brillが新著Tailspinで論じたように、アメリカの諸制度はもはやその目的に従っておらず、裕福な少数者だけを守り、他の者たちが「自由市場」という名の略奪行為にさらされているのに、それを放置している。これがアメリカのメリトクラシーの結果なのだ。優秀な者たちはトップに登りつめると、自分たちが登ったはしごを外してしまう。そして民主的な制度を牛耳って、自分たちの特権的な利益を拡大するのだ。

1980年代半ば、ピークにおいて、アメリカの富・資産は人口の下位90%によって、その35%が所有されていた。30年後に、彼らが所有するのは20%に減少し、その失ったものすべてが、最上位0.1%の所有となった。2つの集団に挟まれた9.9%の人々を、かつては中産階級と呼んだが、作家Matthew Stewartは「アメリカの新貴族」と呼ぶ。1963年、下位の90%の人々が、この9.9%の集団に入るとは、富が6倍になることだった。2010年代になると、それは25倍である。

アメリカ人の多くはより熱心に働いているが、生活水準は低下してきた。一般の家計はより大きな債務を負い、多くの場合、健康保険がなかった。上位10%の人々は、容易に高等教育を受けられ、子供たちにも同じ特権を享受させてやる。下位90%の人々は、天文学的な高額の授業料を支払うために必死で働き、卒業しても多額の債務を負う。

税制はこうした不平等な条件を平準化しなかった。共和党は長い間、富裕層の税率を引き下げてきた。限界税率を下げれば、投資、雇用、成長が高まり、その他の社会にも利益が行き渡る、と主張した。実際は、富裕層のための減税が不平等を拡大した。さらに、貧困層は多くの間接税を支払っている。人口の最下位20%は、トップ1%の人々より、2倍も多くの州税を支払っている。機械化、ロボット、ますます激しくなる自然災害に苦しみ、多くの人々が怒りを高めるのは当然だ。

歴史家Walter Scheidelによれば、不平等が緩和されたのは、戦争、革命、国家崩壊、そして自然災害によってだけだった。そのような事態を避けるために、90%の人々に、もっと良い職場が提供されるべきだ。しかし、経済的な近視眼と政治のポピュリズムが、移民排斥、中国や貿易への攻撃を繰り返す。

内部の矛盾や不均衡が国家間の戦争に至るのか? それは歴史的に見て不可避なことではなく、指導者の質によって決まった。

アメリカのトランプ大統領は、自分の利益のために、大衆の怒りを利用してきた。しかし、彼がその怒りを創り出したのではない。アメリカのエリートたちが何十年も、トランプのような指導者が登場する条件を創り出したのだ。

「アメリカを再び偉大にする」には、内部の不正義を正すことであり、輸入関税や国境の壁とは関係ない。

PS Jun 26, 2018

Putin Family Values

ROBERT SKIDELSKY

冷戦終結後、ロシアが西側に参加する、という期待は実現しなかった。

ロシアの政治学者Alexander Lukinによれば、西側は、ロシアをNATOEUに入れ、新しいマーシャル・プランを提供することもできた。しかし、そうではなく、ロシアの影響圏を少しずつ削り取ることを選択した。ロシアのリベラル派は、それがロシアの権威主義者を刺激する、と警告したが、無視された。

この説明は、ロシアの行動を防衛的な反応として説明する。国際関係論の「リアリスト」による解釈、主権国家はバランス・オブ・パワーの原理に従って、その対外関係を規制することを試みる、というものだ。

対照的に、西側の一般的な見方は、国家が国際法に従うべきだ、というものだ。この論争は、E.H.カーの『危機の20年』にさかのぼる。カーは、国際法が「満足する」諸国家には、常に、支持されるが、国際システムを自国の利益に合ったものに変えたい諸国には、常に、挑戦を受ける、と主張した。

西側はロシアを、国際法の違反について制裁を科すが、ロシアは西側を、「自国の生存圏」を奪ったと責めている。双方がその野心を抑えるか、共通の利益を認めるまで、新しい冷戦は続くだろう。

ウクライナの政治学者Anton Shekhovstovは、ロシアの反応を、「権威主義的泥棒国家体制」が西側の野心的な試み、ウクライナやグルジアに対する信仰主権国家の独立を擁護した行動に対する、精神分裂症的な行動だ、と考える。プーチン体制は、ロシアの国土と魂の統一性を防衛する、という物語を広めてきた。

なぜプーチンの物語は多くの国民に支持されるのか? その理由の一部は経済にある。かつて、1980年代末に、ロシアの改革派は経済リベラリズムを情熱的に支持した。それはケインズ的な経済学ではなく、ミルトン・フリードマンやマーガレット・サッチャーのネオリベラリズムであった。こうした原理をロシアに導入した結果が、経済的な破滅であった。

ポスト・ソビエトの最初の首相Yegor Gaidarが示した改革派の情熱、民営化、規制のない市場、マネタリズムは、国家資産の急ぎ過ぎた売却、無慈悲な規制緩和、野蛮なデフレを招き、その破局こそがプーチンの泥棒支配体制を生んだ。ロシアのリベラリズムは、共産主義体制から権力を継承する時間を持てなかったのだ。

イタリア新政府を形成した同盟の指導者Matteo Salviniは、特に、プーチンと親しく話し合ったことを覚えている。ロシア制裁はばかげている。非合法移民から自国の自律性、伝統的価値を守るべきだ、というのだ。今やプーチンは、西側の中に自分の主張を支持する指導者たちが現れたことを喜んでいるだろう。

FT June 28, 2018

Poland tries to stay on the right side of Donald Trump

TONY BARBER

PS Jun 28, 2018

Profiles in European Denial

YANIS VAROUFAKIS

PS Jun 28, 2018

A Crisis of Ethical Leadership

NINA L. KHRUSHCHEVA


 トルコ大統領選挙

The Guardian, Fri 22 Jun 2018

Bully-boy Erdoğan is a threat to Turkey – and the world

Simon Tisdall

エルドアンRecep Tayyip Erdoğanが再選され、権力を集中することは、国民にとってだけでなく、国際社会にとっても大きな脅威である。日曜日の選挙でエルドアンが実質的な独裁者となれば、シリアから中東全域にかけて、不安定さが増すだろう。

エルドアンによる政治の私物化は、ナショナリストたちから支持されており、スンニ派イスラム教徒、地方の保守派にも支持を広げた。それは分断をもたらす、ポピュリスト的な政策によって維持され、近隣諸国に挑戦するものだ。

エルドアンの主要な助言者、高名な教授であったAhmet Davutoğluは、2003年から2016年にかけて外相と首相を務め、「全方位善隣外交」を推進した。それは最初、地域にプラスの効果をもたらし、いわゆる「新オスマン主義」として大いに流行した。

しかしDavutoğluが影響力を失うと、エルドアンは方針を逆転した。アラブ民族の権力を握るため基軸となる、エジプトとの関係が重要だ。2011年、アラブの春でムバラクが失脚した直後、エルドアンはカイロを訪問し、イスラム教徒の世界に君臨する指導者になる、という野心を極めた。

しかし、ムスリム同胞団のモルシが権力を得たが、軍事クーデタで追放され、事実上、エルドアンは宣戦布告に至る。シリアのアサドも、エジプトのシシも、違いはない。国家によるテロリズムが信仰している、と2013年にエルドアンは述べた。

今もエルドアンは新しいスルタン国家を目指すが、その中身は善隣外交に反するものとなった。カイロとの反目は続き、湾岸諸王朝もエルドアンの軍事的野心を警戒している。サウジアラビアのサルマン皇太子はトルコを、イラン、イスラム主義者と並ぶ「悪の三角形」の1つにしている。

「クルド問題」へのこだわりと暴力の行使、シリア・トルコ国境地帯におけるクルド人への軍事攻撃は、アメリカと協力する軍事拠点を破壊するものになった。エルドアンは地域全体に紛争を拡大している。2016年のクーデタに関わり、容疑者を渡すことを拒んだアテネに対して、ギリシャ領の島に戦闘機を送った。ガザにおけるパレスチナ人の死者に関して、エルドアンの言及はイスラエルとの関係改善を破壊するものだ。

アメリカ上院はトルコへのF35戦闘機売却を阻止しようとした。エルドアンは世界中でアメリカの利益を損なっている、とあからさまに非難した。NATO加盟国であるトルコに対して、「同盟諸国を標的にした敵対行為、われわれの敵に対する支援、教唆」を激しい言葉で警告した。

同様に、難民や将来の加盟審査に関して、ヨーロッパ諸国との関係も悪化している。人権を蹂躙し、民主的な基準を破壊し、プーチンとの軍事的協力関係は、ロシアのS400ミサイル導入に示されている。

トルコの有権者は、自分たちのためだけでなく、世界のためにも、エルドアンを追放するべきだ。

SPIEGEL ONLINE 06/22/2018

Erdogan's Endgame

Turkey's All-Powerful President Grabs for More

By Maximilian Popp

FP JUNE 22, 2018

Erdogan Is Making the Ottoman Empire Great Again

BY MICHAEL COLBORNE, MAXIM EDWARDS

トルコの大統領が、皆、サラエヴォを訪ねて公認を得たわけではないが、エルドアンはそれを得た。先月、選挙前の運動で、ボスニアの首都サラエヴォでは、ボスニアのイスラム教徒であるBakir Izetbegovic議長(3つの党派で大統領を輪番制にしている)がヨーロッパ中のトルコ人に、エルドアンへの支持を呼びかけた。

彼とエルドアンは長年の政治的な盟友であるから、この公認は当然だった。しかし、Izetbegovicの主張はさらに尊大なものであり、エルドアンを神そのものと認めたのだ。「今、トルコ民族は神によって1人の人物を得た。それがエルドアンだ。」

トルコとボスニアは、歴史、文化、宗教にわたる共通点を持ち、400年以上もオスマン帝国の一部であった。その遺産は今も国中に見られる。特に1990年代の戦争の後、オスマン帝国時代のイスラム教寺院の特徴である尖塔が、トルコの支援で再建された。ボスニアの小さな町や村まで、トルコの影響は甚大だ。

トルコは、サラエヴォだけでも2つの私立大学をはじめ、教育分野に目に見える投資を行った。エルドアンは、サラエヴォとベオグラードとを結ぶ高速道路に対する投資も約束した。ますます多くのトルコ人観光客がボスニアを訪れている。

ボスニアへの最大の投資者はEUである。しかし、ボスニア国民の心をつかむ点で、トルコからの投資は、少なくともローカルな世界で、もっと効果的であった。EUはボスニアを加盟に導く点で不十分な姿勢にとどまった。大きな影響力があるのに、それを行使しなかったのだ。ボスニアの庶民に伝わる形で投資を説明することに失敗した。たとえばEUは水道のインフラを整備したが、それはトルコの支援したモスク再建に比べて、庶民には見えなかった。

NYT June 22, 2018

Is Time Up for Turkey’s Erdogan?

By The Editorial Board

The Guardian, Mon 25 Jun 2018

Blame liberal democracy’s flaws for Erdoğan’s win, not the voters

Simon Jenkins

FT June 25, 2018

Turkey’s long streetcar ride away from democracy

LEYLA BOULTON

NYT June 25, 2018

Now, Erdogan Faces Turkey’s Troubled Economy. And He’s Part of the Trouble.

By Carlotta Gall

エルドアンは紙一重の勝利を得た。

エルドアンが、一連の経済問題、国民に拡がる不満、西側諸国との関係悪化、をもたらしている。最大の障害物は、彼の外交政策と経済的必要とが衝突していることだ。

ますます権威主義体制に向かうエルドアンが、西側諸国のトルコ人の子孫たちに投票を呼び掛けることを、ボスニアを除くヨーロッパは歓迎しなかった。しかし、選挙結果に対しては、一部の疑念を持ちつつも、民主主義を強化することにつながる期待を持っている。

PS Jun 26, 2018

Erdoğan the Magnificent

SINAN ÜLGEN

FT June 27, 2018

Turkey’s Erdogan risks being bitten by his ‘wag the dog’ strategy

DAVID GARDNER


 訃報Charles Krauthammer

FT June 22, 2018

Charles Krauthammer, conservative columnist, 1950-2018

Edward Luce in Washington


 ワールド・カップと政治経済

FT June 22, 2018

Football’s minnows demonstrate how poor countries can catch up

TIM HARFORD

世界の他の地域は先頭を行く諸国に追いつくのか? それは場合による。経済の生産性について考えているなら、その答えはあいまいだ。しかし、フットボールの成績については、はっきり言える。

まず、地球上の生活水準に関して、世界は「収れん」している、という考え方が重要だ。すなわち、貧しい諸国は豊かな諸国よりも急速に成長する。

貧しい国は、わずかな、単純な投資にも、高い収益が実現できる。2つの町の間に道路を整備すると、大きな成果がある。同じことは、電力供給、鉄道、港湾の整備にも言える。貧しい国に投資が向かうことは、豊かな国に比べて、より高い成長率を実現する。

それは理論的な話だが、少なくとも、戦後の日本やドイツ、1970年代、80年代の韓国、中国、エチオピアなどを観れば、納得できる。人々は貧困を脱し、世界の不平等は縮小するだろう。残念ながら、Dani Rodrikによれば、それは真実ではない。経済史の事実として、1820年から1990年まで、世界経済は急速に分散してきた。現代の富裕諸国は、世界所得の20%から70%にまで、そのシェアを増大させたのだ。

しかし、それ以後、その趨勢は逆転した、とRichard Baldwinは言う。ただし、キャッチアップは高度に集中して起きた。1970年から2010年の間、6つの新興工業諸国、中国、韓国、インド、ポーランド、インドネシア、タイは、世界の製造業生産の割合を、ほぼゼロから、4分の1以上にまで増大させた。その間、G7のシェアは3分の2から50%に落ち、その他の世界は水面下にある。

こうしてエコノミストたちは普遍的な「収れん」を棄て、「条件付きの収れん」概念を採用した。ベネズエラや北朝鮮の政府は「収れん」によって救われないが、政策と制度、そして経済の秘密の力が「収れん」を実現する。

Rodrikは、条件づけない収れんが、経済全体ではなく、個別産業には当てはまることを発見した。マカロニ、ニットのアパレル、プラスチック・バッグ。そうした分野で世界の指導的な産業から大きく遅れているなら、労働生産性を年4-8%10年から20年で倍増することが可能だ。

その理由は、製造部門がグローバル・サプライチェーンに入るからであろう。彼らは競争の圧力に対して、急速に学習する。サプライヤーや顧客との迅速なフィードバック、説明を受け入れて、ビジネスする。現代のグローバル経済では、ノウハウが急速に伝わり、個々の作業が分解され、完成部品、設備が国境を超えて往復する。それはグローバル・サプライチェーンへの統合化を強める。

フットボールもそうだ。国際的なフットボール・チームの強さは収れんしている。製造業と同じく、競争は苛烈で、成果が求められ、最良のアイデアはコピーされる。さらに、グローバルなプレイヤーの市場が形成され、優れた選手は外国のトップ・クラブで過ごす。彼らの成長は、その母国に利益をもたらす。

その教訓は、知識のグローバリゼーション、国際競争への参加、国際移民を受け入れることの優位。しかし、何より、ばかげたリアリティーTV政治の時代に、われわれはフットボール中継で競争の劇的瞬間を楽しめる。

FP JUNE 24, 2018

Xi Jinping Is the World’s Most Powerful Soccer Coach

BY JONATHAN WHITE

PS Jun 28, 2018

Four Lessons from Egypt’s World Cup Experience

MOHAMED A. EL-ERIAN

FT June 29, 2018

Germany’s defeat leaves Merkel down but not out


(後半へ続く)