IPEの果樹園2018

今週のReview

6/25-30

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国際秩序の破壊者 ・・・貿易戦争とは何か ・・・米朝首脳会談の成果 ・・・新しい移民政策 ・・・独仏指導とEUの民主主義 ・・・エルドアンの支配 ・・・ポピュリストのナショナリズム

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● 国際秩序の破壊者

NYT June 15, 2018

The Trump Doctrine Is Winning and the World Is Losing

By Kori Schake

何十年か経って、われわれは20186月の第1週に世界史は変わった、と振り返るのかもしれない。リベラルな秩序の終焉。

カナダのサミットで、アメリカのトランプ大統領はカナダ首相を侮辱し、その数日後、世界最悪の抑圧体制に依拠する独裁者、金正恩をほめちぎった。地域の同盟諸国の相談することもなく、彼は韓国から米軍を撤退させたいと繰り返した。

アメリカの同盟国の安全保障に関するこのような無思慮、互恵的な貿易に対する敵意、アメリカの意図的な度率は、これまでにないものだ。これがトランプ政権の外交政策である。まったくあからさまに、自由世界の指導者が、その同盟関係、通商関係、この70年間、アメリカが指導する秩序の特徴であった国際機関の破壊を望んでいる。

同じ考え方を共有する諸国の利益を攻撃的に軽蔑し、民主主義や人権に無関心な、独裁者たちを奨励することが、トランプの築きつつある新しい世界秩序だ。われわれは新しい、恐怖の時代に入ろうとしている。

大統領の考えでは、リベラルな世界秩序というのは騙し合いだ。アメリカはあまりに多くを支払い、仲間たちにだまし取られている。アメリカは同盟関係から抜けて、もっと国内の必要に応じた支出をする、と彼は求める。アメリカ人が世界の変化を恐れ、その指導者たちがその変化を、そして労働者やその家族に対する影響をうまく説明できないとき、彼の主張に共鳴する者が現れる。

成果に大きなばらつきが生じ、機会が失われるほど、既存システムの公平さが疑われる。イラク戦争の大失敗、2008年の金融危機が、こうした失策を犯しながら、その責任を取らない専門家たちの信用を失墜させた。アメリカの同盟諸国は自分たちの手厚い社会保障システムを自慢し、アメリカのシステムを非難するが、自分たちの防衛にはわずかしか支出しない。

こうした彼らの姿勢がトランプの登場とリベラルな秩序の衰退を促した。しかし、それは決してこのシステムを維持することの重要さを損なう理由にならない。

NYT June 17, 2018

What Did the Romans Ever Do for Us?

By Paul Krugman

ローマ帝国は特別だった。それは普通の前工業化経済ではなかった。

ローマは平和と、地域間交易、高度なビジネスと金融システムにより、驚くほど生産的であった。その全体的な生活水準は、恐らく、17世紀のオランダ共和国まで、匹敵するケースがなかった。

ローマは政治面でも注目すべき成果を示した。ローマ人は決してナイスガイではなかった。彼らは奴隷を使役し、しばしば残酷に扱った。帝国の支配に挑戦する者には容赦ない軍事力を行使した。しかし、暴力による脅迫は常に背後に控えたものだった。ローマ帝国は恐怖によって統合されたものではなかったのだ。パックス・ロマーナの大部分は、各地のエリートたちが帝国に協力する意志によって維持されていた。

その秘密は、ローマが駆使した多くのソフトパワーにあった。ローマの魅力、Amphitheaters! Bathhouses! Wine! Stuffed dormice! そして地方の才能ある人物を中央にひきよせる開放型の帝国システムがあった。そして、繁栄する、相互依存した経済が、ローマの諸価値を採用し、ローマのシステムに助けられた人々に多くの報酬をもたらしたことだ。

言い換えれば、ローマは欲張り過ぎず、システムを長期に維持するために、近視眼的な搾取を抑制したのだ。

パックス・アメリカーナは、第2次世界大戦後、3世代にわたる比較的平和で繁栄した時代をもたらしたが、細部ではローマ帝国と異なっている。われわれはローマ人が想像するよりもはるかに裕福であるし、はるかに節度があった。アメリカはローマ人が怒りに駆られてしたようなことは何もしなかった。

それでも、ローマと同じように、われわれのある種の帝国は、暴力よりも、主としてソフトパワーによって維持されてきた。アメリカは、圧倒的に支配的な経済・軍事大国であったときも、一般に抑制した態度で、同盟諸国を、あからさまに強制するのではなく、われわれのシステムに入るように促した。

それはうまく行ったのだ。しかし、今や野蛮人たちが侵入し、すべてを破壊しようとしている。蛮族は、残念なことだが、アメリカを真に偉大にした諸価値を拒んで、ゲートに立ったのではなく、ゲートの中に、実際、大統領執務室に入ったのだ。彼らはアメリカ生まれである。


● 貿易戦争とは何か

NYT June 15, 2018

Chinese Tariffs Are Already Hitting Trump Voters

By The Editorial Board

アイオワでは、毎年、農家が4050トンの豚を育てる。メキシコからの鉄鋼とアルミニウムに対してトランプ大統領が課した関税は、すでに豚の生産者たちに56000万ドルのコストを強いている。どうしてそんなことがわかるのか? メキシコはすでにアメリカの豚肉に20%の関税を含む、報復措置を示した。その予告だけで、豚の価格が急落したからだ。

中西部における大豆農家は、アメリカの大豆の4分の1を買う中国がトランプ政権の声明に対抗して、彼らの作物を標的にすることを心配している。トランプは、1000項目以上の「産業的に重要な技術」に500億ドルの関税を課すだろう、と予告した。2国間の貿易は「長期にわたって、きわめて不公平」であった、とアメリカ大統領は声明で述べた。もし中国が報復すれば、アメリカはさらに関税を課す項目を追加するという。中国の商務大臣は同様の措置を告げた。アメリカ中部は一斉にため息をつく。

アメリカ5大湖の周辺諸州では、伝統的な鉄鋼生産者がトランプ政権の関税で利益を受ける。しかし、鉄鋼の利用者には全く別の話だ。関税が発表されてから、鉄鋼生産者たちは、もはや安価な輸入品との競争を恐れることなく、価格を引き上げ始めた。

特に奇妙なことだが、トランプはカナダにこだわって、その怒りをトルドー首相にぶつけた。しかし、2017年のアメリカとカナダの間で財・サービス貿易がどうなっていたか、見ればよい。アメリカは84億ドルの黒字である。カナダは、他のどの国よりも多く、240億ドルもアメリカの農産物を買っている。

確かに酪農製品では、カナダが規制によって農家を支援している。しかし、補助金は出していない。アメリカでは、酪農家が非常に苦しんでいる。価格は生産コストを下回っているが、その理由は、一つには、需要が減っているのに農家が家畜を維持していることだ。しかしトランプは、自分たちの農業政策の失敗をカナダのせいにしている。

中立の研究機関が試算したところ、鉄鋼関税だけでも、失われる雇用は40万人に達するだろう。USスチールはイリノイ州で2つの高炉再開を祝福するかもしれないが、それは800人の雇用が増えるだけで、他の分野で7500人が雇用を失う。

こうした現実を、貿易赤字にこだわる大統領は何も認めない。「なぜ私が、アメリカ合衆国大統領として、こうした諸国が何十年もしてきたように、巨大な貿易黒字を出すことを許すだろうか? われわれの家族、労働者、納税者は、これほど大きな、不公正な価格を支払っているのに。」 トランプはTweetした。

しかし、ノーベル経済学賞を受賞したエコノミストたちが説明するように、貿易赤字はそれだけで良いとも悪いとも言えない。アメリカ市民は、競争的な価格でメキシコ製品、日本車、カナダの鉄鋼を買うことで利益を得ている。外国は彼らの製品を売って得た資金を、アメリカの株式、債券、産業に投資する。アメリカのドルは、輸出品を高価にし過ぎない程度に、強いままである。日本は2011年まで30年連続で貿易黒字を出した。それでも日本経済の停滞を免れなかった。

通商条約は再交渉できる。例えば中国だ。経済が変化し、市民の必要も変化する。アメリカ経済もかつて製造業に依拠していたが、今はサービス輸出の方がもっと重要だ。トランプにはそれがわからない。彼はまだピッツバーグが鉄鋼都市である世界に生きている。だが、1960年代と違い、ピッツバーグは鉄鋼よりも、高度なロボットを輸出している。

貿易戦争の脅し、近隣諸国や同盟国への侮辱、それらはわれわれの経済を変えることなく、単に損なうだけだ。

NYT June 17, 2018

Thinking About a Trade War (Very Wonkish)

By Paul Krugman

かなり最近まで、私は本当に貿易戦争が起きると思っていなかった。私は、これが歌舞伎のプレイだと思った。すなわち、アメリカの主要貿易相手国は見せかけの譲歩を行い、それはトランプの支持者に利益をもたらし、トランプが勝利を宣言するのだが、貿易はこれまで同様に続く。

それは、トランプが助言を受け入れる、というわけではない。そうではなく、それだけ多くの資金が妥協を求めるからだ。大企業は、開放型の通商システムが、すなわち、国境を超えて広がる付加価値チェーンが恒久的な環境に固定されるだろう、という前提で数兆ドルを投資している。貿易戦争はその投資すべてを混乱させる。私は、大企業がそのメッセージをトランプ大統領に届けると思ったし、少なくとも議会の共和党に届くし、彼らには政策に関する裁量の余地がある、と思ったからだ。

しかし、こうした政治的考察は、数か月前に比べて強力ではなくなっている。Gary Cohnが去り、議会の共和党員は大統領に逆らうことを恐れている。トランプの思い付きだけで通商政策を決めるのは、だれも貿易論を教えないからだ。Peter Navarroが、本人はそう思わないようだが、貿易論を理解していないことは明らかだ。

また、トランプ外交が世界に憤懣を巻き起こした。今や、だれもトランプに勝利のメンツを与える気はないし、そんなことをすれば彼らが有権者に処罰されるだろう。

こうして貿易戦争は起きることも可能な状況となった。問題は、そのような貿易戦争か? ということだ。1.関税率はどこまで上がるか? 2.世界貿易はどこまで縮小するか? 3.そのコストはどれくらいか?

しかし、貿易戦争の深刻な影響は、アメリカ各地の雇用や生産システムが再編される過程で、大きな混乱と失業が生じることだ。「チャイナ・ショック」で起きたことが逆転するのである。


● 米朝首脳会談の成果

PS Jun 16, 2018

The Singapore Summit’s Uncertain Legacy

RICHARD N. HAASS

シンガポールの米朝首脳会談は、わずかな声明文しか残さなかった。たった391語だ。それは非核化の詳しい内容がなく、弾道ミサイルなど、関連する問題にも触れていない。

全てはレーガン大統領の名言「信頼せよ、しかし、検証せよ。」を逆立ちさせたように見える。「検証するな。しかし、信頼せよ。」

トランプの成果は、むしろ非核化を難しくしたことだろう。このまま交渉も、圧力も、成功しない。そして、キムが彼の信頼に応えなかった、という理由で、即時の非核化を求める。

そして、ボルトンの軍事的強硬策に代わる。


● 新しい移民政策

PS Jun 19, 2018

Europe’s Left Turns Right on Immigration

MICHAEL BRÖNING

ヨーロッパの既存の左派政党が消滅の危機に瀕している。この2年足らずで、フランス、オランダ、ドイツ、イタリアの選挙において、社会民主政党が大幅に議席を減らした。左派政党の衰退にはいくつかの要因がある。しかし最大の理由は、有権者がますます移民を恐れ、その点で、左派政党の姿勢を信用しなくなったことだ。

右派政党、ポピュリスト運動は、移民と難民危機について、巧妙にブルーカラー労働者の不安を煽った。伝統的な左派政党は、事実上、何もチェックしないで、移民の入国を許すだろう、と有権者に思わせたのだ。これに対して、中道左派は、彼らの伝統的な強さを生かし、ポピュリストの挑戦を退けようとした。論争を彼らの得意な分野、失業、不平等、社会正義、に導いたのだ。

しかし、選挙結果が明確に示したのは、有権者の懸念はもっぱら移民であり、たとえ正当な主張でも、平等ではない、ということだった。こうしていくつかの国で、中道左派政党の移民政策は転換し始めた。

ドイツ社会民主党の論争は党を分裂させた。オーストリアでは、移民支持ではなく、統合支持に変えた。デンマークの社会民主党も、「正義と現実性」を唱えた。「難民受け入れセンター」をヨーロッパの外に設けて審査する。こうしてデンマークへの移民流入は減る。同時に、国連との協力を拡大し、アフリカのための「マーシャル・プラン」を行い、移民たちが自国にとどまって開発に参加することを促す。スウェーデンでは、難民申請者で認められなかった者への社会給付を止める。

こうした変更には批判が高まっている。社会民主党は有権者の姿勢の変化に対応しなければならないが、同時に、移民を抑える政策が人種差別や外国人排斥を意味する中身であってはならない。あまりに急激な転換は、中道左派にとって自己破壊的である。極右の自国民優先という姿勢をまねただけになってしまう。それは社会にとって非生産的で、自分たちの進歩的な諸価値を裏切り、コスモポリタンな支持者を見捨てるものだ。

ヨーロッパの中道左派勢力は、バランスを取る必要がある。国内・国際連帯と、効果的な移民の規制、統合化の推進、大規模な人道上の惨禍を緩和する努力。求められるアプローチは、過剰なレトリックを避け、現実的で、前向きな、道義的に支持される解決策を示すものだ。それはポピュリスト的ではないが、ポピュラーなものにする必要がある。


● 独仏指導とEUの民主主義

PS Jun 21, 2018

Toward a More Democratic Europe?

KEMAL DERVIŞ

西側における過激なポピュリズムの台頭は、マクロンの大統領選挙における勝利によって逆転されるように見えた。しかし、EU創立メンバーのイタリアで、ポピュリストによる多数派政権が成立した。それは必ずしも大災厄を意味しない。

ポピュリストの運動が躍進すれば、それはヨーロッパ政治の幅広い再編をもたらすだろう。究極的にはヨーロッパ民主主義の強化につながるかもしれない。

それはマクロンの経験を強めるものだ。1度も選挙に出たことがないマクロンが、自分の新しい政党を立ち上げ、中道左派と中道右派の有権者から支持を得た。彼はフランス政治を再編しつつあるように見える。

来年の欧州議会選挙も、そのような政治的再編の潜在能力を表すものになるだろう。欧州議会は、他のEU機関に比べて、関心を集めなかった。その論争はブリュッセルとストラスブールの外に届かず、投票率は低かった。それは長年、「民主主義の赤字」の証拠とみなされた。

しかし、一連の危機がEUを襲った。特に、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアは深刻な打撃を受け、これまでのダイナミズムを変えるだろう。ヨーロッパ市民たちが、文句を言いながらも、静かにEUを受け入れた時代は終わった。今や、EUは国内政治論争の中心にある。ユーロ圏の生き残り、EUの全体が、ますます生存の危機に直面している。

来年の欧州議会選挙に参加する候補者たちは、国内問題に限って選出されることはないだろう。それもあるだろうが、初めて、ヨーロッパの将来、ヨーロッパの政策が議論される。移民、防衛、安全保障、エネルギー、気候変動、ロシアやアメリカのような主要国との関係、がそうだ。

既存政党の同盟関係で候補者が編成されることはないだろう。伝統的な政治集団に固執することは極めて困難である。マクロンは、ヨーロッパ全体に依拠した政党を立ち上げようとするだろう。真に超国家的な政治はまだ見られないが、親EUの政治家集団はその萌芽であろう。

右翼のポピュリストたちも、ナショナリストで、反EUだが、その運動を相互に支援することに熱心だ。移民、文化的アイデンティティ、貿易で、彼らは共通のテーマを持つ。他方、伝統的な中道左派と中道右派の諸政党も、支持基盤を回復しようと願う。しかし、そのためには現代の諸問題に確信をもって対処する政策綱領が必要だ。

フランスでマクロンの政党がしたように、新しい運動がこれらを呑み込むのかもしれない。ヨーロッパ政治の再編が大きく進むなら、それは民主主義の前進だ。


● エルドアンの支配

FT June 21, 2018

Turkey election: will Erdogan’s power grab backfire?

Laura Pitel in Ankara

選挙は、経済問題が悪化する前に、また、野党が結束して運動を強化する前に、権力強化を狙う指導者によって決定された。しかし、世論調査は議会における多数を野党が得て、大統領を阻止する可能性を示している。

これほど決定的に重要な時期はない。国内におけるクルド人との内戦、隣国イラクとシリアにおける軍事介入が続いている。アメリカやEUとの緊張が高まっている。債務に依存した経済は外国資本の流入に頼っているが、多くの投資家たちがトルコへの信用を失った。

「トルコはテキストが示すような不安定化のケースである。」


● ポピュリストのナショナリズム

PS Jun 20, 2018

Nationalism Will Go Bankrupt

ANATOLE KALETSKY

この10年の政治を決めたのは、ポピュリズムとエリート主義との対立ではなく、ナショナリズムとグローバリズムとの対決であったように見える。中国、ロシア、インドはもちろん、アメリカ、ドイツ、イタリア、イギリスでも、ナショナルな感覚が政治を動かした。

しかし、あらゆる意味で、エリートに対する「庶民」の反乱ではない。トランプ大統領の下でアメリカ政治を乗っ取ったのは超富裕層だ。「ポピュリスト」のイタリア政府を動かすのは選挙されない専門家たちだ。世界中で、金融専門家、高度技術者、企業経営者たちの膨張する所得に対して、税率は削減されている。ふつうの労働者たちは、質の良い住宅や教育、ましてや医療サービスなど受けられない、という絶望的な現実を受け入れてきた。

イギリスやイタリアは、特に、ナショナリズムに関して鈍感な人々である。彼らが、平等主義ではなく、ナショナリズムを唱えることは珍しい。イギリスでは、政府の建物が掲げる国旗、国名さえ統一されていない。イタリア人はEUの創設に際して、連邦主義を強く支持した。彼らは自分たちの文化、歴史、食べ物、フットボールに熱狂するが、その情熱は地域や都市に向かっており、国民国家ではない。極右の「同盟」は、昨年まで北部同盟と称したが、彼らの主要な政治目標は国家の廃止だった。そしてPadaniaという新しい国家を、ローマそして南部の汚職と貧困から分離した形で、繁栄する北部地域だけで形成することを要求したのだ。

突然のナショナリズム復活は何を意味するのか? それは、むしろ外国人排斥であろう。Karl Deutschが述べたように、「民族とは、自分たちの祖先に関する間違いを共有すること、自分たちの隣人に対する嫌悪を共有することで、結び付いている人々の集団である。」 経済が悪化するとき、低賃金、不平等、地域格差、金融危機後の緊縮策が広まる中ではスケープゴートが求められる。そして、外国人はその標的になりやすい。

トランプがメキシコ移民を敵視し、カナダからの輸入品を攻撃するのは、何も愛国心とは関係ない。それは良いニュースだ。経済の苦境における外国人排斥の感情は、失敗する宿命にある。

金融危機後、市場原理主義者のエコノミストたちが招いた経済崩壊において、「強欲な銀行家たち」を攻撃するときもそうだった。銀行家を叩いても、大衆の怒りは収まらなかった。なぜなら、それは賃金を上げるとか、不平等を減らすとか、社会的な無視から人々を救い出すということがなかったからだ。移民や貿易を責めるのも同じである。

例えばイギリスは、ヨーロッパの諸問題が、「離脱」に投票する理由となった彼らの政治的絶望と何も関係ないことを、次第に、理解するようになった。アメリカやイタリアの有権者たちも、同じことを学ぶだろう。外国人排斥で、彼らの生活水準は上がらないし、彼らの政治的不満も解消できない。

イタリアにはEUを憎む正当な理由がある。難民や階上の救助に関して偽善的、不公平な政策を強いられ、失敗するしかない財政規律、経済的に無意味な金融政策を押し付けられた。しかし、新政権もまたナショナリズムの高まりを利用し、ヨーロッパとは何も関係ない、イタリア経済の再生に欠かせない改革を攻撃している。

金融危機後のイタリア政府は、年金制度、労働市場、銀行改革を徐々に進めてきた。昨年、景気が回復したのは、こうした改革があったからだ。しかし、それは政治的に不人気である。もし新政権がこれらの改革を廃止するなら、イタリアは景気回復の希望を失い、さらに10年の不況を迎える。

アメリカもそうだ。外国の利益を攻撃しても、それは万能薬ではない。事態を悪化させることもある。トランプは、中国やドイツ、カナダからの輸入を阻止し、アメリカ人の雇用を作るという。アメリカが不況やデフレに苦しんでいるなら、それも正しいだろう。しかし、世界には十分な需要があり、インフレが進んでいる。ドイツや中国の輸出はほかの市場を見いだし、アメリカの製造業は他の供給業者を見つけるのに苦労する。関税はアメリカの消費者に対する課税となり、物価上昇と高金利により、アメリカの労働者、企業、住宅所有者を苦しめる。

ポピュリストの唱えるナショナリズムは、グローバルなエリート主義を攻撃するとしても、その敵は経済のリアリズムである。最後には、必ず敗北する。

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The Economist June 9th 2018

Demolition man

The new Spanish government: The gain in Spain

Football: How to win the World Cup

Donald Trump and the world: Present at the destruction

The Trump-Kim summit: Pushing the envelope

Banyan: One country, two systems

Hospices: Loved to death

Trade war (1): Friends and foes

Trade war (2): Backfire

(コメント) 解体屋。爆破魔。トランプはそう呼ぶに値する、と記事は考えます。しかし、その本当の理由は、彼の性格や考えではなく、アメリカ人が戦後秩序を自分たちの利益にならないもの、と考えるようになったからです。

しかし、秩序が無くてもよい、というのは間違いだ、と記事は主張します。アメリカは世界最大のいじめっ子になることができる。どの国に対しても威嚇し、脅迫し、市場を閉ざしたり、巡航ミサイルを撃ち込んだりできる。しかし、その費用は非常に高くつく、ということを次第に知るだろう。秩序を守ることは、アメリカの維持コストを減らし、多くの利益をもたらしている。

貿易戦争、スペインとイタリアの比較、マレーシアの政治システム転換が興味深いです。そして、北京のホスピスに関する記事の書き出しが心に残ります。

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IPEの想像力 6/25/18

国際政治経済学IPEとは何か、その研究の目標を示すことは、ある意味で、簡単です。新しい「ガバナンス」を見つけること。新しい「秩序」を築く中で、これまで解決できなかった問題に、新しい解決の可能性を与えること。そう考えてもよいでしょう。

Q. IPEの論文とは、どのように書くのか? 何かの仮説を立て、それを実験データによって検証する、という手続きを取らないのであれば、何が正しいのか?

それが「正しい」とすれば、IPEは「正しい」答えを出す学問ではありません。仮説を立てて、検証する、という手続きによって「正しい」と言えるのは、問題の性質によるでしょう。

単純化すれば、あなたの5年後の結婚相手を予測できる、という主張は「正しい」でしょうか? あなたとあなたの関係者を決めて、いくつかの観測可能な変数を使って代表させる。その中から結婚相手が決まるとするなら、そして5年以内に結婚する場合、相手はこの人だ(あるいは、その人ではない)、とかなり正確に断定できる。

しかし、そんなことはないでしょう。手続きの「正しさ」を、その主張の「正しさ」と混同してはなりません。(他方、常識の範囲で、この主張は十分に正しいのです。もちろん、私たちの結婚する相手は、親しい友人の1人ですから。) こうしたデータの相関や関係性の束は、考察のための「物差し」や「ヒント」になるのです。

こう考えてはどうでしょうか? 化学式や、化学反応は、常に「正しい」。いつ、どこでも、誰によっても、実験結果として検証できます。それは、「酸素」や「水素」がその内部で争わないからです。

化学式を変えるために、さまざまな政治目標を掲げ、集団や同盟を形成し、敵対することはありません。「酸素」の政党や、「窒素」の組合はないし、「鉄」と「銅」とは、互いに愛することも、憎み合うこともない。「アルミニウム」が「ストロンチウム」と戦争するとか、「プルトニウム」の帝国が形成されたことによって、多くの化学反応が支配され、以前とは違う結果になる、ということもない。

IPEの論文は、仮説というより、問題提起で始まります。これまでの説明では十分に納得できない現象を取り上げます。なぜそうなっているのか? 経済学の「正しい」主張は現実と一致せず、しばしば、その理由は政治経済条件にさかのぼります。その法律や制度的な条件ができたのはなぜか? それを生じた社会的な力学を問題にします。そして、具体的な条件が歴史的に決まったものであり、大きく変化していることがわかります。

「答え」を求めて、研究は経済学の領域を超え、広がるでしょう。政治学や社会学はもちろん、その問題に加わる政治経済的な圧力、国境を超えた構造のもたらす制約、歴史に向かいます。その国の文化、過去にあった重要な社会対立、紛争、危機について調べるかもしれません。なぜなら、どのようにして彼らが現在の「ガバナンス」に至ったのか、さまざまな問題が「秩序」の一部として理解できるからです。

IPEの論文は、こうした理解を深めた成果として、最初に示した問題が全く違う景観の中でどう見えるか、そこで得られた視点が興味深い、説得的なものであれば良いのです。考察の途中で、データや検証作業を取り入れることはあるでしょう。しかし、それが目的ではありません。

Q. なぜトランプは、敵も味方もなく、世界中に貿易戦争を挑むのか?

ドナルド・トランプが不動産取引で巨大な富を得た、また、テレビのリアリティー番組を司会して人気を高めた人物であることは、いくらか、関係あるはずです。

しかし、トランプの政策は、その成長率や株価、失業者数によって、正しいと言えるでしょうか? ある行為と、その結果とを、私たちはデータによって結びつける前に、それを正しく理解していなければなりません。

貿易や関税に関する経済学の諸理論、経済成長や失業を説明する様々な要因について、仮説を立て、検証することも含めて、十分に考察することを通じて、私たちは「ガバナンス」を観るのだと思います。そしてトランプの暴言、国際秩序を破壊し、同盟関係を損なう暴挙を通じて、これまで維持されてきた社会的・政治的均衡が破壊され、新しい秩序に向けたダイナミズムが解放された世界を観ます。

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