(前半から続く)
● 独仏指導とEUの民主主義
SPIEGEL ONLINE 06/18/2018
Europe's
Sputtering Motor
France and
Germany Far Apart on EU Reform
By DER SPIEGEL Staff
FT June 19, 2018
Macron and
Merkel will struggle to show Europe a united front
JUDY DEMPSEY
FT June 20, 2018
The
Franco-German engine shifts into gear
PS Jun 21, 2018
Toward a
More Democratic Europe?
KEMAL DERVIŞ
西側における過激なポピュリズムの台頭は、マクロンの大統領選挙における勝利によって逆転されるように見えた。しかし、EU創立メンバーのイタリアで、ポピュリストによる多数派政権が成立した。それは必ずしも大災厄を意味しない。
ポピュリストの運動が躍進すれば、それはヨーロッパ政治の幅広い再編をもたらすだろう。究極的にはヨーロッパ民主主義の強化につながるかもしれない。
それはマクロンの経験を強めるものだ。1度も選挙に出たことがないマクロンが、自分の新しい政党を立ち上げ、中道左派と中道右派の有権者から支持を得た。彼はフランス政治を再編しつつあるように見える。
来年の欧州議会選挙も、そのような政治的再編の潜在能力を表すものになるだろう。欧州議会は、他のEU機関に比べて、関心を集めなかった。その論争はブリュッセルとストラスブールの外に届かず、投票率は低かった。それは長年、「民主主義の赤字」の証拠とみなされた。
しかし、一連の危機がEUを襲った。特に、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアは深刻な打撃を受け、これまでのダイナミズムを変えるだろう。ヨーロッパ市民たちが、文句を言いながらも、静かにEUを受け入れた時代は終わった。今や、EUは国内政治論争の中心にある。ユーロ圏の生き残り、EUの全体が、ますます生存の危機に直面している。
来年の欧州議会選挙に参加する候補者たちは、国内問題に限って選出されることはないだろう。それもあるだろうが、初めて、ヨーロッパの将来、ヨーロッパの政策が議論される。移民、防衛、安全保障、エネルギー、気候変動、ロシアやアメリカのような主要国との関係、がそうだ。
既存政党の同盟関係で候補者が編成されることはないだろう。伝統的な政治集団に固執することは極めて困難である。マクロンは、ヨーロッパ全体に依拠した政党を立ち上げようとするだろう。真に超国家的な政治はまだ見られないが、親EUの政治家集団はその萌芽であろう。
右翼のポピュリストたちも、ナショナリストで、反EUだが、その運動を相互に支援することに熱心だ。移民、文化的アイデンティティ、貿易で、彼らは共通のテーマを持つ。他方、伝統的な中道左派と中道右派の諸政党も、支持基盤を回復しようと願う。しかし、そのためには現代の諸問題に確信をもって対処する政策綱領が必要だ。
フランスでマクロンの政党がしたように、新しい運動がこれらを呑み込むのかもしれない。ヨーロッパ政治の再編が大きく進むなら、それは民主主義の前進だ。
● 貧困対策
PS Jun 18, 2018
Which
Anti-Poverty Policies Work?
BJØRN LOMBORG
貧困対策には非常に利他主義の要素が強いものもある。しかし、精査するなら、何が貧困の解消に効果があるのか明確になる。マイクロファイナンスや債務の免除は、その意味で、利他主義であっても、他の政策に比べて効果的ではない。
● ドル、ユーロ、資産市場
VOX 18 June 2018
The rise
of the dollar and fall of the euro in global asset trade
Matteo Maggiori, Brent Neiman, Jesse Schreger
● 民主主義
FT June 18, 2018
How
Democracy Ends, by David Runciman
Review by Gideon Rachman
FP JUNE 18, 2018
Nice
Democracy You’ve Got There. Be a Shame If Something Happened to It.
BY J. MICHAEL COLE
● 移民家族の引きはがし
FT June 19, 2018
On the US
border, Donald Trump cannot shift the blame
The Guardian, Tue 19 Jun 2018
The forced
separation of families is Trump's 'Katrina moment'
Jill Abramson
ニューオーリンズの町を洪水が襲ったのを見た。それは2005年、ブッシュ大統領の「カトリーナの瞬間」であった。主にアフリカ系アメリカ人の住民たちが、苦しみながら、スーパードームに収容される光景。水浸しのハイウェイを歩き、あるいは、住宅の屋根に上がって政府の救助を待つ人たち。
われわれは今、ドナルド・トランプの「カトリーナの瞬間」を観ている。2000人の移民たちが、その多くは子供たちが、両親から分離されて、国境における鉄の檻に収容されている。アメリカ人民はこれを観るに耐えないだろう。
FT June 19, 2018
Donald
Trump plays to his supporters in the Mexican border row
COURTNEY WEAVER
FT June 21, 2018
Do not
mistake Donald Trump’s motives on immigration
JANAN GANESH
大きな領土を持つ国は自身の安全保障を手当てする。その規模はパワーをもたらすが、その無限の国境線は外の世界から侵入する機会を提供する。その結果は、半ば勇敢で、半ば恐怖の精神が、オーストラリアやロシア、そして今は特に、アメリカ合衆国の政治を特徴づける。
この深く根付いた不安が、非合法な移民たちに注目させるのであって、トランプの政治的な動機ではない。11月の中間選挙における論争テーマになるだろう。共和党候補たちは、好調な景気を話題にしたいだろうが、移民がそれを圧倒する。だれも困惑してシーツにくるまる子供たちの映像など見たくない。
しかし、人々は自分たちの共和国を真剣に考える。外国生まれの人口は、アメリカの場合、1970年の5%から、2010年の13%に上昇した。それは裕福な世界で例外的に高いというわけではないが、1920年代以来、アメリカの最も高い数字だ。当時は、反移民感情が法律の強化につながった。
トランプ政権の移民政策が非難を免れることはないが、その論争はリベラルにとってより困難なものである。アメリカの開放性は、どの程度まで支持されるのか?
FP JUNE 20, 2018
Trump Is
Playing Chicken With Children’s Lives
BY ERIC BRENNAN
アメリカ国民は、国境における移民家族の分離にショックを受けただろうが、子供の福祉にかかわる国内システムがすでに危機状態にある。
どちらについても、トランプ政権は危機が来るのを知っている。しかし、危機が悪化すればするほど、論争は過熱し、政権にとっては良いことなのだ。これはチキン・ゲームである。
● イタリアとユーロ危機
PS Jun 19, 2018
Italy’s
Quadruple Threat to Europe
MICHAEL J. BOSKIN
11月はマーストリヒト条約の25周年、来年は、ユーロ誕生の20周年である。
最近の数年は、ナショナリストや反移民の気分が広がって、EUのルールに挑戦し、ブリュッセルの官僚制を非難するポピュリストの政党が増えた。ヨーロッパ人口は高齢化しているが、財政移転、増税、非弾力的な規制では対応できない。ヨーロッパの問題は互いに関連している。移民、低成長、公的債務累積、そして、脆弱で非効率的な銀行。
移民の流入は、長期的に観れば、経済にとって好ましい。特に、退職者の率が増えていくのであるから。通貨主権を失ったことは重要だが、たとえイタリアが通貨を取り戻しても、経済問題に応える力はない。
FT June 20, 2018
The
Italian challenge to the eurozone
MARTIN WOLF
ユーロは失敗だった。それは、ずっと失敗であるとか、ユーロはなくなった方が良い、という意味ではない。部分的、もしくは完全なユーロ解体のコストは、ずっと大き過ぎる。それは、単一通貨が経済的安定性や、ヨーロッパのアイデンティティをもたらすことに失敗してきた、という意味である。
1970年、通貨同盟に関する最初の報告、ヴェルナー委員会報告について、ハンガリー系のイギリス人エコノミスト、ニコラス・カルドアが批判した。カルドアは、財政移転が必要であり、そのためには、単一通貨が財政移転を必要とし、政治同盟が成立していなければならない、と主張した。しかし、その後も内部対立で、そのような改革はできなかった。
イタリアは公的債務を減らすという前提でユーロ圏に加盟した。しかし、世界金融危機後、それは増えてしまった。競争力の低下も、為替レート無しに調整しなければならなかった。インフレを抑えたユーロ圏内部で、不均衡の調整は赤字国のデフレを意味した。赤字国の不況を悪化させたのだ。この調整メカニズムは、本質的に、19世紀の金本位制と同じだ。
ユーロ安をもたらし、ユーロ圏内の黒字諸国は高いインフレを受け入れることが、解決策の一部である。それでも財政移転がない以上、イタリアは生産性と成長率の上昇を、労働市場の弾力化を目指して、改革を進めるしかない。
イタリアにそれができるのか? もしできないのであれば、為替レートはあった方がよかった。
でふれうおVOX 20 June 2018
Euro area
reform cannot ignore the monetary realm
Jérémie Cohen-Setton, Shahin Vallee
VOX 20 June 2018
Learning
from mistakes: A ‘what if’ approach to assessing proposals for euro area reform
George Papaconstantinou
● エルドアンの支配
NYT June 19, 2018
The Man
Who Could Topple Erdogan
By Safak Pavey
エルドアンに対抗する、世俗主義の共和人民党CHPの候補Muharrem Inceがトルコの大統領選挙を変えるかもしれない。Inceは54歳の代議士だが、その父は小農であった。Inceは政治家になるまで、学校で物理を教えていた。
Inceが人々に問うのは、自由と恐怖の選択だ。国民の尊厳と孤立、信仰の強制と自由、開放性と外国人排斥とを選択する。
エルドアンの下で、社会集団、エスニック集団は分断化されてきた。Inceは和解の展望を示し、公務員採用の差別をなくす。
FP JUNE 19, 2018
Turkey’s
Wag-the-Dog Election
BY TURKER ERTURK, SELIM SAZAK
FT June 20, 2018
Turkey’s Recep
Tayyip Erdogan reaches for one-man rule
DAVID GARDNER
エルドアンは、今秋、聖杯に手が届くかもしれない。それは、選挙によって正当化された個人支配体制である。昨年の僅差による憲法改正によって、トルコの議会制は、ロシア型の大統領制に代わった。
エルドアンと彼を支持する与党AKPは、どのような手を使っても、邪魔する者を許さないだろう。彼はほとんど、しかしまだ十分にではないが、攻撃されることのない指導者である。この選挙は公平なものではないだろう。トルコは今も、2016年の失敗したクーデタに際して、発令された戒厳令が続いている。2015年に再燃したクルド人の支配的な東部と南東部は占領状態にある。エルドアンは、この3年間、3権分立を破壊してきた。
しかし、AKPの支持は雇用やサービスの改善によるものだ。この点で、経済状態の不安は重要な影響を意味する。トルコの国民の半数は、エルドアンの権力乱用に不満を持っている。
NYT June 20, 2018
I Am
Running for President in Turkey. From My Prison Cell.
By Selahattin Demirtas
FP JUNE 20, 2018
Don’t Turn
The Turkish Army Into A Political Tool
BY OZGUR OZKAN
FT June 21, 2018
Turkey
election: will Erdogan’s power grab backfire?
Laura Pitel in Ankara
選挙は、経済問題が悪化する前に、また、野党が結束して運動を強化する前に、権力強化を狙う指導者によって決定された。しかし、世論調査は議会における多数を野党が得て、大統領を阻止する可能性を示している。
これほど決定的に重要な時期はない。国内におけるクルド人との内戦、隣国イラクとシリアにおける軍事介入が続いている。アメリカやEUとの緊張が高まっている。債務に依存した経済は外国資本の流入に頼っているが、多くの投資家たちがトルコへの信用を失った。
「トルコはテキストが示すような不安定化のケースである。」
FP JUNE 21, 2018
Erdogan
Will Win by Any Means Necessary
BY HENRI J. BARKEY
● Brexit
FT June 20, 2018
Single
market in goods will come at a price for Brexit Britain
CHARLES GRANT
たとえUKがEUとの関税同盟に残っても、問題は解決しない。EUの単一市場(そして付加価値税)に残らなければ、境界線で管理する問題があるからだ。その場合のみ、アイルランドの国境線と、製造業のサプライチェーンを混乱させる問題は解消できる。
The Guardian, Thu 21 Jun 2018
The right
sees opportunity in a crisis. Why can’t the left?
Larry Elliott
FT June 22, 2018
Brexit
Britain discovers home truths on defence
● ポピュリストのナショナリズム
PS Jun 20, 2018
Nationalism
Will Go Bankrupt
ANATOLE KALETSKY
この10年の政治を決めたのは、ポピュリズムとエリート主義との対立ではなく、ナショナリズムとグローバリズムとの対決であったように見える。中国、ロシア、インドはもちろん、アメリカ、ドイツ、イタリア、イギリスでも、ナショナルな感覚が政治を動かした。
しかし、あらゆる意味で、エリートに対する「庶民」の反乱ではない。トランプ大統領の下でアメリカ政治を乗っ取ったのは超富裕層だ。「ポピュリスト」のイタリア政府を動かすのは選挙されない専門家たちだ。世界中で、金融専門家、高度技術者、企業経営者たちの膨張する所得に対して、税率は削減されている。ふつうの労働者たちは、質の良い住宅や教育、ましてや医療サービスなど受けられない、という絶望的な現実を受け入れてきた。
イギリスやイタリアは、特に、ナショナリズムに関して鈍感な人々である。彼らが、平等主義ではなく、ナショナリズムを唱えることは珍しい。イギリスでは、政府の建物が掲げる国旗、国名さえ統一されていない。イタリア人はEUの創設に際して、連邦主義を強く支持した。彼らは自分たちの文化、歴史、食べ物、フットボールに熱狂するが、その情熱は地域や都市に向かっており、国民国家ではない。極右の「同盟」は、昨年まで北部同盟と称したが、彼らの主要な政治目標は国家の廃止だった。そしてPadaniaという新しい国家を、ローマそして南部の汚職と貧困から分離した形で、繁栄する北部地域だけで形成することを要求したのだ。
突然のナショナリズム復活は何を意味するのか? それは、むしろ外国人排斥であろう。Karl Deutschが述べたように、「民族とは、自分たちの祖先に関する間違いを共有すること、自分たちの隣人に対する嫌悪を共有することで、結び付いている人々の集団である。」 経済が悪化するとき、低賃金、不平等、地域格差、金融危機後の緊縮策が広まる中ではスケープゴートが求められる。そして、外国人はその標的になりやすい。
トランプがメキシコ移民を敵視し、カナダからの輸入品を攻撃するのは、何も愛国心とは関係ない。それは良いニュースだ。経済の苦境における外国人排斥の感情は、失敗する宿命にある。
金融危機後、市場原理主義者のエコノミストたちが招いた経済崩壊において、「強欲な銀行家たち」を攻撃するときもそうだった。銀行家を叩いても、大衆の怒りは収まらなかった。なぜなら、それは賃金を上げるとか、不平等を減らすとか、社会的な無視から人々を救い出すということがなかったからだ。移民や貿易を責めるのも同じである。
例えばイギリスは、ヨーロッパの諸問題が、「離脱」に投票する理由となった彼らの政治的絶望と何も関係ないことを、次第に、理解するようになった。アメリカやイタリアの有権者たちも、同じことを学ぶだろう。外国人排斥で、彼らの生活水準は上がらないし、彼らの政治的不満も解消できない。
イタリアにはEUを憎む正当な理由がある。難民や階上の救助に関して偽善的、不公平な政策を強いられ、失敗するしかない財政規律、経済的に無意味な金融政策を押し付けられた。しかし、新政権もまたナショナリズムの高まりを利用し、ヨーロッパとは何も関係ない、イタリア経済の再生に欠かせない改革を攻撃している。
金融危機後のイタリア政府は、年金制度、労働市場、銀行改革を徐々に進めてきた。昨年、景気が回復したのは、こうした改革があったからだ。しかし、それは政治的に不人気である。もし新政権がこれらの改革を廃止するなら、イタリアは景気回復の希望を失い、さらに10年の不況を迎える。
アメリカもそうだ。外国の利益を攻撃しても、それは万能薬ではない。事態を悪化させることもある。トランプは、中国やドイツ、カナダからの輸入を阻止し、アメリカ人の雇用を作るという。アメリカが不況やデフレに苦しんでいるなら、それも正しいだろう。しかし、世界には十分な需要があり、インフレが進んでいる。ドイツや中国の輸出はほかの市場を見いだし、アメリカの製造業は他の供給業者を見つけるのに苦労する。関税はアメリカの消費者に対する課税となり、物価上昇と高金利により、アメリカの労働者、企業、住宅所有者を苦しめる。
ポピュリストの唱えるナショナリズムは、グローバルなエリート主義を攻撃するとしても、その敵は経済のリアリズムである。最後には、必ず敗北する。
● アーレント
NYT June 20, 2018
The
Illuminations of Hannah Arendt
By Richard J. Bernstein
● ビットコイン狂騒
FT June 21, 2018
Bitcoin birthday
boy is an absurd star of a serious industry
JAMIL ANDERLINI
ビットコインなど、暗号通貨によるぼろもうけと詐欺師の集団が、日本、中国など、アジアに集まっている。投機の中から真の革新が生まれるのか?
● メディア統合
FT June 21, 2018
Vertical
media mergers are just so 19th century
ANNE-MARIE SLAUGHTER
● 核エネルギー
PS Jun 21, 2018
Rediscovering
the Promise of Nuclear Power
WADE ALLISON
● 中東の宗教政治
PS Jun 21, 2018
The
Political Decline of Religion in the Middle East
SHLOMO BEN-AMI
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The Economist June 9th 2018
Demolition man
The new
Spanish government: The gain in Spain
Football: How
to win the World Cup
Donald Trump
and the world: Present at the destruction
The Trump-Kim
summit: Pushing the envelope
Banyan: One
country, two systems
Hospices:
Loved to death
Trade war (1):
Friends and foes
Trade war (2):
Backfire
(コメント) 解体屋。爆破魔。トランプはそう呼ぶに値する、と記事は考えます。しかし、その本当の理由は、彼の性格や考えではなく、アメリカ人が戦後秩序を自分たちの利益にならないもの、と考えるようになったからです。
しかし、秩序が無くてもよい、というのは間違いだ、と記事は主張します。アメリカは世界最大のいじめっ子になることができる。どの国に対しても威嚇し、脅迫し、市場を閉ざしたり、巡航ミサイルを撃ち込んだりできる。しかし、その費用は非常に高くつく、ということを次第に知るだろう。秩序を守ることは、アメリカの維持コストを減らし、多くの利益をもたらしている。
貿易戦争、スペインとイタリアの比較、マレーシアの政治システム転換が興味深いです。そして、北京のホスピスに関する記事の書き出しが心に残ります。
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IPEの想像力 6/25/18
国際政治経済学IPEとは何か、その研究の目標を示すことは、ある意味で、簡単です。新しい「ガバナンス」を見つけること。新しい「秩序」を築く中で、これまで解決できなかった問題に、新しい解決の可能性を与えること。そう考えてもよいでしょう。
Q. IPEの論文とは、どのように書くのか? 何かの仮説を立て、それを実験データによって検証する、という手続きを取らないのであれば、何が正しいのか?
それが「正しい」とすれば、IPEは「正しい」答えを出す学問ではありません。仮説を立てて、検証する、という手続きによって「正しい」と言えるのは、問題の性質によるでしょう。
単純化すれば、あなたの5年後の結婚相手を予測できる、という主張は「正しい」でしょうか? あなたとあなたの関係者を決めて、いくつかの観測可能な変数を使って代表させる。その中から結婚相手が決まるとするなら、そして5年以内に結婚する場合、相手はこの人だ(あるいは、その人ではない)、とかなり正確に断定できる。
しかし、そんなことはないでしょう。手続きの「正しさ」を、その主張の「正しさ」と混同してはなりません。(他方、常識の範囲で、この主張は十分に正しいのです。もちろん、私たちの結婚する相手は、親しい友人の1人ですから。) こうしたデータの相関や関係性の束は、考察のための「物差し」や「ヒント」になるのです。
こう考えてはどうでしょうか? 化学式や、化学反応は、常に「正しい」。いつ、どこでも、誰によっても、実験結果として検証できます。それは、「酸素」や「水素」がその内部で争わないからです。
化学式を変えるために、さまざまな政治目標を掲げ、集団や同盟を形成し、敵対することはありません。「酸素」の政党や、「窒素」の組合はないし、「鉄」と「銅」とは、互いに愛することも、憎み合うこともない。「アルミニウム」が「ストロンチウム」と戦争するとか、「プルトニウム」の帝国が形成されたことによって、多くの化学反応が支配され、以前とは違う結果になる、ということもない。
IPEの論文は、仮説というより、問題提起で始まります。これまでの説明では十分に納得できない現象を取り上げます。なぜそうなっているのか? 経済学の「正しい」主張は現実と一致せず、しばしば、その理由は政治経済条件にさかのぼります。その法律や制度的な条件ができたのはなぜか? それを生じた社会的な力学を問題にします。そして、具体的な条件が歴史的に決まったものであり、大きく変化していることがわかります。
「答え」を求めて、研究は経済学の領域を超え、広がるでしょう。政治学や社会学はもちろん、その問題に加わる政治経済的な圧力、国境を超えた構造のもたらす制約、歴史に向かいます。その国の文化、過去にあった重要な社会対立、紛争、危機について調べるかもしれません。なぜなら、どのようにして彼らが現在の「ガバナンス」に至ったのか、さまざまな問題が「秩序」の一部として理解できるからです。
IPEの論文は、こうした理解を深めた成果として、最初に示した問題が全く違う景観の中でどう見えるか、そこで得られた視点が興味深い、説得的なものであれば良いのです。考察の途中で、データや検証作業を取り入れることはあるでしょう。しかし、それが目的ではありません。
Q. なぜトランプは、敵も味方もなく、世界中に貿易戦争を挑むのか?
ドナルド・トランプが不動産取引で巨大な富を得た、また、テレビのリアリティー番組を司会して人気を高めた人物であることは、いくらか、関係あるはずです。
しかし、トランプの政策は、その成長率や株価、失業者数によって、正しいと言えるでしょうか? ある行為と、その結果とを、私たちはデータによって結びつける前に、それを正しく理解していなければなりません。
貿易や関税に関する経済学の諸理論、経済成長や失業を説明する様々な要因について、仮説を立て、検証することも含めて、十分に考察することを通じて、私たちは「ガバナンス」を観るのだと思います。そしてトランプの暴言、国際秩序を破壊し、同盟関係を損なう暴挙を通じて、これまで維持されてきた社会的・政治的均衡が破壊され、新しい秩序に向けたダイナミズムが解放された世界を観ます。
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