IPEの果樹園2018

今週のReview

6/18-23

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カナダG7解体 ・・・トランプの通商政策 ・・・イタリアとユーロ危機 ・・・米朝首脳会談の成果 ・・・ワールド・カップ ・・・世界の専制国家復活

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● カナダG7解体

FP JUNE 12, 2018

The West Will Die So That Trump Can Win

BY BENN STEIL

G7に集まる他の国は、いつもアメリカが彼らの堤防であると思っているようだが、大統領はそれをはっきりさせた。もうたくさんだ。」 ジョン・ボルトンはTweetした。ホワイトハウスの通商問題顧問であるナヴァロはFox Newsに出て、トルドーを非難して述べた。「地獄へ落ちろ。」

同盟諸国に対するこうした言葉を正当化できる経済政策や事実は何もない。カナダがアメリカから輸入する酪農品は輸入額の0.2%でしかない。アメリカの関税率は平均で1.6%だが、それはカナダの2倍であり、カナダに対して貿易黒字を出している。

トランプによる最近の鉄鋼・アルミニウムに対する関税はカナダに最も大きなコストを強いる。カナダは120億ドル、第2位がEU80億ドルだ。中国が強いられるのは35億ドルで、EUの半分以下、カナダの4分の1でしかない。マクロン大統領はアメリカに、共同で中国の諸問題に対応するよう呼びかけた。しかしトランプは、中国よりEUの方がひどい、と返答した。

要するに、1.トランプ政権の経済政策は事実に依拠していない。2.トランプが同盟諸国を罰するのは、アメリカが重視する国際秩序はアメリカの輸出を伸ばしていない、と考えているからだ。

FP JUNE 13, 2018

The Slow Rise and Sudden Fall of the G-7

BY DANIEL SARGENT

G7の起源とその初期の発展は、われわれの現在の位置とトランプの短気が失うものを理解する助けになる。

2次世界大戦が各国に残した混乱をアメリカはどうしなければならないか、アメリカのエリートたちは何も確信していなかった。冷戦が激化する中で、アメリカは負担を引き受け、マーシャル・プランやNATOを支持した。1950年代初めには、アメリカからの経済資源、安全保障、公共財が国際秩序の中心にあった。

もとは文化的な概念であった「西側」が、こうして地政学的な概念になった。

しかし1960年代の後半になって、西側概念は生存の危機に直面する。それは3つの要素が戦後国際秩序を疑わしいものにしたからだ。すなわち、1.ヨーロッパの戦後復興が終わった。2.ベトナム戦争はヨーロッパ諸国に、アメリカの判断を信頼できるか、という疑いを生じた。3.冷戦の緊張が徐々に緩和された。

1969年にホワイトハウスに入ったニクソン大統領は、不公正な貿易を強く非難するようになった。アメリカは西側の共通の負担を不当に大きな割合で引き受けている、と。「われわれは彼らのために何でもするが、彼らは我々のために何もしない」と、ニクソンは不平を述べた。


● トランプの通商政策

NYT June 8, 2018

The Era of American Complacency on Trade Is Over

By Peter Navarro

お前たちの通商政策が間違っているから、アメリカは毎年5000億ドルも貿易赤字を出しているのだ。

ドイツは防衛費を出さず、日本はドイツ以上に大きな赤字、特に大量の自動車を押し付け、複雑な規制でアメリカの自動車を輸入しない。アメリカの農産物には高い関税を課している。カナダは特にアメリカの厳しい非難を受けるべきだ。何十年間もアメリカに材木を安売りし、非関税障壁や酪農品の価格操作を行ってきた。

アメリカの主要な貿易相手国は、今こそ、アメリカが国際市場に満足しているという時代が終わったことを知るべきだ。

トランプ大統領とアメリカ国民は2つの目標を追求する。1.貿易は自由であるだけでなく、公平で、互恵的でなければならない。2.国家安全保障にかかわる産業を大統領は保護できる。

それらを邪魔しない限り、これまで通りG7の戦略的同盟関係や経済協力は進めてやる。だが、不公平な貿易は受け入れない。

NYT June 9, 2018

Debacle in Quebec

By Paul Krugman

ほとんどの場合、多国間サミットは退屈で、あまり意味がない。

しかし、ときには重大な結果をともなう会議もある。2009年のG20は、金融危機に陥った諸国に対して景気刺激策や融資を与えることに各国は同意し、世界が1930年代の完全な再現となるのを回避することを支援した。対照的に、2010年のサミットは、実質的に緊縮策を求め、景気回復を遅らせ、ある意味では、政治的な過激主義が登場するのを助けた。

それにしても、今回のサミットほど破滅的なものを見たことがない。それは貿易戦争の始まりを告げ、西側の同盟関係が崩壊することまで示した。最低でも、アメリカは何十年間も維持してきた頼りになる同盟国という評価を損なった。

トランプがケベックで行ったことは、アメリカ・ファーストではなく、ロシア・ファーストであった。トランプはロシアが再び参加することを求めた。それは無意味である。ロシアのGDPはスペインと同じで、ブラジルより少し小さい。主要な経済国ではない。また、戦略的な意味でも、ロシアがウクライナを侵略したときに追い出された。プーチンがトランプと個人的に親しいだけだ。

その後、トランプはG7の他の諸国に、アメリカ製品に対して彼らが課している、「愚かで受け入れがたい」関税を取り除くように求めた。しかし、その関税はすでに非常に低いものだ。平均で、わずか3%である。

確かにカナダは酪農品に高い関税を課す。しかし、こうした特殊なケースが、アメリカの軽トラックに課す25%もの関税よりひどい、とは言えない。G7諸国の市場は、全体として、非常に開放的である。

トランプは何に憤慨しているのか? 通商政策の顧問たちはEUの付加価値税VATsを繰り返し非難した。それが不公平な貿易保護であるというのだ。そんなことはない。VATsは競争上の優位に影響しない。だからWTOも認めているのだ。

トランプはVATsのことを考えたこともないだろう。彼は、単に暴れているだけだ。存在しない巨大な悪を攻撃しているつもりで。


● イタリアとユーロ危機

FT June 10, 2018

Political tale-telling is splitting the eurozone apart

WOLFGANG MÜNCHAU

物語は重要だ。

Brexitが支持された1つの理由は、ユーロ懐疑論者の主張と、それに対抗する知的なメッセージが欠けていたことだった。

最近、Der Spiegelに、ドイツの主要なコラムニストがイタリア人のことを、ありがとうと言う慎みもない乞食だ、と述べた。この非難されるべき軽蔑の感覚はドイツ人に広まっている。彼らがEUの、特にイタリアの、銀行になっている、というわけだ。しかし、真実はそうではない。イタリアはEU財政に支払っており、財政のプライマリー・バランスも経常収支も黒字である。ドイツからの救済融資を受けたことはない。

もう1つ、ドイツ人だけでなく、英語圏の人々にも広まっている感覚は、フランスがそこそこの経済成果しか出していない、というものだ。彼らは事実を知らない。20年前のユーロ誕生以来、フランスの経済パフォーマンスはドイツのそれとほぼ同じである。

物語が政治を決定するのだ。イタリアのポピュリストたちが政権を得たのは、選挙による偶然ではない。長引く経済不況が有権者たちを政治のエスタブリシュメントから離反させたのだ。政策分析においても、物語がその限界を決めている。だれも債務の相互保有を政策として議論しない。ドイツが拒否すると知っているからだ。

14人の独仏のエコノミストたちが書いた提案は、その野心を欠く点が衝撃である。しかし個人的に話すと、彼らは、ユーロ圏が安全な債券を発行し、共有することを必要としている、と答える。しかし、レポートに名前を載せるとなれば、彼らの話し方は政治家のように変わる。

ユーロ圏の危機は、憎悪を広まる宣教師たちと、権力者に対して真実を告げることができない者たちの、両方によって深められている。

PS Jun 11, 2018

How Democratic Is the Euro?

DANI RODRIK

イタリアの大統領がユーロに懐疑的なPaolo Savonaを、連立政権の財務大臣に指名するのを拒んだとき、それはイタリアの民主主義を守ったのか?

ユーロに参加することで、イタリア政府は重要な政策の権限を失った。金利や為替レートを決定すること、インフレ目標を決めることはできなくなった。財政政策も制限された。そのような外部の制約はイタリアの民主主義と衝突する可能性がある。

しかし、より良い結果をもたらすために、有権者が自ら制約を受け入れることはありうる。それが、民主主義が意思決定を独立した機関に委ねることで、パフォーマンスを上げる、という“democratic delegation”だ。その場合、独立機関は特定の行動を取ることが求められている。たとえば、中央銀行は、政治的圧力から切り離して、物価の安定を得るために独立の専門官僚たちが金融政策を決定する。

しかし、ECBの場合、選挙されない専門官僚たちがインフレ目標を実現している。これを正当化することはむつかしい。ECBがユーロ危機後にインフレ目標を引き上げた方が、南欧諸国の競争力を調整することは容易であっただろう、と主張されるのはもっともだ。政治から切り離されたことが、この場合はパフォーマンスを悪化させた。

分配をめぐる対立や目標間のトレードオフ(雇用と物価安定)があるとき、政策目標は政治が決めなければならない。政策決定を独立機関に委ねることは、政治的に決定された目標に対して、うまく機能する。

PS Jun 12, 2018

The Populists’ Euro

BARRY EICHENGREEN

イタリア人の多くは2つのものを望む。新しい政治的指導力と、ユーロだ。問題は、彼らがその両方を持てるか、ということだ。

新しい政治的指導力は間違いなくある。34日の選挙により、同盟the League5つ星運動the Five Star Movement (M5S)は、合わせて50%以上の票を得た。

2の点も、あまり知られていないことだが、イタリア国民の60-72%がユーロを支持している。だから連立政権も、ユーロを離脱するという考えを棄てた。

しかし、これらの目標を維持できるのか、と言うと、それは別問題だ。もし最初に成長を回復できなければ、新政権は支持を失う。絶望と怒りから、指導者たちは一層過激な政策に走るかもしれない。政府とその支持者は、彼らの望む最善の政策を邪魔するEUや、その主要な成果であるユーロを責めるから、ユーロへの支持も弱くなる。

実際、連立政権が野心的な政策を実行すれば、すなわち、同盟のフラット・タックス、M5Sのユニバーサル・ベーシックインカムを制度化すれば、予算赤字が膨張する。欧州委員会が制裁として、ECBによる金融の保証を止めるなら、資本逃避が始まるだろう。イタリアはすぐに、自分たちがユーロ圏を離脱し、資本規制で囲むしかないことに気付く。

しかし、同盟やM5Sとは異なる、健全な政策として、財政的な刺激策を実施できる。イタリア経済は2つの政策の組み合わせを必要とする。生産性を高め、国際競争力を改善する、労働と製品市場のサプライサイド改革と、改革の不確実さを抑え、需要不足の不安と政治論争を回避するような刺激策である。イタリアは大きな債務を負うが、低金利と財政のプラオマリー・バランスが黒字であることから、財政政策の余地がある。

しかし、連立政権がその余地を適切に使用するかどうかは疑わしい。同盟のフラット・タックスは富裕層に有利であり、彼らはそれを支出しない。不平等への不満を強める。その財政赤字が予想されるなら、M5Sのベーシックインカムは金融市場のパニックを引き起こす。

もっと良い政策は、給与税や社会保障費を減額することだ。それはM5Sの支持者に歓迎されるだろう。彼らはその多くを支出し、需要と成長をもたらす。サプライサイド改革は、労働コストを減らし、雇用を増やし、スキルを向上させるから、同盟の支持者に歓迎されるだろう。

欧州委員会はイタリアが財政赤字の上限を超えることに、どう反応するのか? いつものように、それを危険な先例になると考えて反対し、さらに強硬なイタリア政府を生むのか? EUとの紛争が大規模な資本逃避をもたらすことを考えて、最初の対立を回避するのが良いだろう。

これはアメリカで言う、チキン・ゲーム、である。その結末は、常に、好ましいものではない。

PS Jun 13, 2018

Can the Euro Be Saved?

JOSEPH E. STIGLITZ

ユーロ圏の新しい危機が迫っている。イタリアでユーロ懐疑派の政権が成立したからだ。それは間違った設計の通貨圏が示す長い物語で予想された話である。支配的国家であるドイツは必要な改革を阻み、問題を悪化させ、まるで意図したような憎悪を掻き立てる言葉を並べる。

イタリアの経済は、ユーロ成立以来、良くない。ユーロ圏全体もよくない。もしある国の経済が不調なら、政府が責められる。多くの国の経済が不調なら、それはシステムが責められる。ユーロは失敗するように設計されたシステムだ。それは政府から調整手段(金利と為替レート)を奪い、異なる状況に苦しむ国を支援する制度を築くより、財政赤字や債務、構造政策にまで新しい制限を課す。それらはしばしば経済的・政治的に怪しい理論に拠るものだ。

問題は改革のアイデアではない。フランスのマクロン大統領は2つの演説でそれらを示した。しかし、ドイツのメルケル首相は彼の提案に冷や水を浴びせた。弱い諸国で取り付けから銀行システムを守るには、共通の預金保険が必要だ。ドイツはその重要性を認めるが、その反応は鈍い。現在の苦しむ諸国を放置して、改革はずっと将来のことになる。

通貨圏の中心問題は、今、イタリアを苦しめているような、為替レートの不整合である。ドイツの答えは、高失業と低成長で苦しむ国に負担を強いるものだ。それはより多くの失業、長い低成長、多くの苦痛をもたらす。そうではなく、調整のために、より多くの負担を強い国に求めるべきだ。彼らが公共投資を増やし、高賃金と多くの需要を実現する。

ユーロ圏各地で政治指導者たちは動けなくなっている。国民はEU加盟を望むが、同時に、緊縮策を終わらせて成長することを求める。しかし、その両方はできない、と言われるのだ。ポルトガルの社会党政権、コスタ首相は成長と支持率を回復した、その例外である。

イタリアも、違う意味で例外になるかもしれない。その規模は大きく、創造的なエコノミストも多い。ユーロを事実上の離脱になっても、柔軟な二重通貨制を採用し、繁栄をもたらすだろう。そのとき事実上の離脱のコストは、ブリュッセルとフランクフルトに負わされる。

こうした結末が不可避ではない。ドイツと北欧諸国は、人間性と柔軟性を増すことで、ユーロを救出できる。しかし、何度もこうした場面を観てきたので、彼らが考えを変えるとは思えない。


● 米朝首脳会談の成果

FP JUNE 10, 2018

The Photo-Op Summit

BY JEFFREY LEWIS

金正恩とドナルド・トランプはシンガポールにいる。火曜日に会う予定だ。アメリカ時間では月曜日に、われわれは金正恩が武装解除し、ドナルド・トランプがノーベル平和賞を得ると確信してにんまりするのを観るだろう・・・

そんなわけがない。では、われわれは何を期待できるのか?

私は非常に低い水準をすすめる。破滅もないだろうが、戦略もない。どう見ても山羊のロデオだ。

サミットとは基本的に見世物pageantryである。それは無駄なことを意味しない。いや、非常に有益である。サミットの基本的価値は、期限を設けて、それに向けて各パーティーが相違を解消する必要に迫られることだ。もし作業班が取引に失敗すれば、すべてが崩壊して双方が不利な状況になる。(G7は顕著な例外であったが)それは成功をもたらす戦略だ。

しかし米朝サミットには著しい非対称性がある。北朝鮮は国際的に承認されてもいないのだ。金正恩は自国が国際社会の承認を得ること、彼がその国を支配し、核兵器を保有する権利があると承認されることを切望している。

2000年、クリントン政権は、クリントン自身がピョンヤンを訪問し、金正日に最後の譲歩を求めることを準備したが、時間切れになった。ブッシュ政権もそれを引き継いでいた。

トランプは違う。北朝鮮とこうした会合を重ねても無駄である。北朝鮮に核兵器を手放す意図がないことは明白だ。それでも会談を設定した。国家安全保障会議のMatt Pottingerは、612日という会談予定は不可能だ、と述べた(「まるで10分で準備するようなものだ」)。アメリカに目標がなければ、北朝鮮の勝利である。

それでもトランプはサミットを望む。Michael Wolffが、昨年のトランプによるサウジアラビア訪問をどのように描いたか。それは神が与えた避難所だ。会談は大統領らしく見える。やかましいメディアの追及、ミューラー特別検察官の捜査から逃れられる。

トランプは細部など気にしない。彼は、金正恩と同じく、国内政治を意識してこの見世物をもっぱら利用する。彼は、通訳だけを挟んで、金正恩と男同士で歓談する。専門家たちが言うことなど気にしないし、ポンペオの助言も、ボルトンの邪魔も、許さない。

奇妙なことだが、これは良いニュースである。G7サミットを破滅に追い込んだにもかかわらず、トランプは会談を「驚異的な成功」と述べた。米朝会談もそうだ。金正恩との直接対話以外に何もない。非核化について、ちょっと話すくらいだ。キムをホワイトハウスに招待するだろう。

しかし、核の武装解除は進まないだろう。これを成功と呼ぶとしたら、トランプは成功の意味を再定義する、ということだ。すべてに優先して、超党派で北朝鮮に非核化を求めてきたが、それは成功しなかった。1つの選択肢は、トランプが韓国のアプローチを採用することだ。韓国は、北朝鮮の非武装化を将来のずっと先に延期する。そして、本質的には、北朝鮮を法に従う国家と認め、金正恩が支配し、核兵器を保有することも認めるのだ。

もしトランプがそうすれば、キムは長距離ミサイルと核爆発の実験をしないという約束を延長する。またキムは核の技術を輸出せず、核開発計画について柔軟な話し方を採用し、野心としての非核化に言及するだろう。しかし彼は武装解除しない。それを急ぐことはない。

このような合意を多くの人は受け入れがたいだろう。いかなる交渉も無意味な宥和策だというボルトンや共和党議員たち。カメラの前で共和党の大統領が安全保障に関して正しいことをするのを望まないシューマーなど民主党議員たち。それでもトランプが彼らに合意を認めさせたら、それは良いことだろう。

ただし、トルドーを「非常に不誠実で弱虫」と切り捨てたように、キムを攻撃したら、われわれは大混乱を観る。

FP JUNE 11, 2018

How North Korea Can Strike It Rich

BY STEPHAN HAGGARD

ドナルド・トランプの魅惑戦略とは、将来の繁栄をぶら下げて、北朝鮮の指導者、金正恩に核兵器を破棄するように話しかける、というものだ。実現しそうにない約束だが。貧困にあえぐキムの国家は、「非常に豊かになるだろう」、とトランプは言う。これはトランプの幻想なのか?

その答えは、朝鮮半島の実験が示している。南半分は、権威主義国家の資本主義的経路をたどって、今や民主的な先進工業国である。北半分は国家社会主義を選択し、今も貧しく、孤立している。その結論は、北朝鮮がこの地域の韓国などの軌跡を追うことは可能だ、となる。

問題は、どうやって? 歴史が示す、その可能性と障害物を考慮しておくべきだろう。

1に、何よりも重要なことは、体制が「戦略的な転換」を決断することだ。ポンペオ国務長官は、ピョンヤンが経済発展を犠牲にして核開発することは体制の生き残りを難しくするのであって、それを助けるものではない、と何度も言及した。

サミットの主な目的は、そのような転換が実際に起きているか、見ることである。その証拠はある。金正恩はすでに4月の中央委員会で先軍路線を放棄し、これからは剣ではなく鍬を持て、と示唆した。しかし、完全な非核化には数年を要する。その行動が示される段階でも制裁措置を解除し、地域に経済統合する機会を与えるべきだろう。


● 米中対立

FT June 10, 2018

US-China: Why Taiwan is back on the agenda

Tom Mitchell in Beijing, Demetri Sevastopulo in Washington and Edward White in Taipei

アメリカ上院議員の代表団が3月に北京を訪問した。中国政府との対話は貿易戦争や米朝首脳会談にほとんどあてられるだろう、と予想していた。しかし代表5人は、もっぱら台湾に関する詰問と憤慨の声に直面した。トランプ政権と議会が、台湾旅行法を成立させたからだ。

中国側の外交官はアメリカの説明を全く受け入れなかった。北朝鮮問題ではなく、台湾とその他の領土主権に関する「核心的利益」に関する問題こそが、米中関係が戦争にまでおよぶ危険を生じる深刻な罠となる。アメリカの上院議員たちはそう理解した。


● 世界の専制国家復活

SPIEGEL ONLINE 06/13/2018

Rise of the Autocrats

Liberal Democracy Is Under Attack

By DER SPIEGEL Staff

プーチンはフットボールのファンではない。しかし、最高のホストとして、2018年のワールド・カップは、世界の専制国家復活を祝福する祭典となるだろう。2年前のクーデタ以降、エルドアンはおよそ170人のジャーナリストを投獄し、7万人以上を逮捕した。ドナルド・トランプはカナダのG7サミットをドタバタ喜劇と化し、北朝鮮の独裁者、金正恩と会うために去った。その米朝会談を主催し、最も多くの利益を得るのは習近平である。

世界政治の表舞台に、リベラルな民主主義をあからさまに軽蔑する男たちが現れた。彼らは、政治、経済、司法、メディに及ぶ絶対的な支配を要求する。グローバル化し、ハイテクに満ちる、ますます情報化、啓蒙化した21世紀の世界は、権威主義的な支配者たちの手に落ちようとしている。

この世界的な傾向をどうやって説明できるのか? 専制的支配者は本当のそれほど強いのか? リベラルな民主主義は弱いのか? それは同質的社会でしか成長を実現できないのか? 21世紀の諸問題を民主主義が解決する能力について、なぜこれほど多くの人が疑っているのか?

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The Economist June th 2018

Perfected in China, a threat in the West

Italy and the euro: Handle with care

Inside Xinjiang: Apartheid with Chinese characterstics

Banyan: Not cricket

Running San Francisco: Reach for the sky

Data Detectives: I know what you’ll do next summer

(コメント) イタリアの政治混乱とユーロ危機が連動するなら、EU解体に向かいます。

情報管理技術が社会や政治の在り方を変えてしまうことに、私たちが望む社会や政治の姿が追いつかない。高度な管理社会・警察国家を目指す中国と、政治の泥仕合を延々と続けるインド、住宅規制やホームレスの問題をめぐって市長候補たちが戦うサンフランシスコも加えて、私たちは悩み続けます。

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IPEの想像力 6/18/18

イスラエルのセキュリティー技術会社を訪れた記者は、「あなたは自分のことを私に説明することができる」と言われた。「しかし、あなたのスマートフォンを15分貸してくれたら、私があなたのほんとうの姿を説明します。」

The Economistの特集記事は探偵小説風 “Data Detectives” です。その中には、こう書いてあります。「ANPRSautomatic number plate readers)とCCTVに顔認証を組み合わせれば、国家はタイム・マシーンを手に入れる。」 つまり、都市の主要な地域に設置された多数の監視カメラと自動車のナンバー・プレートを読み取るシステム、個々人の顔認証システムがあれば、だれが、いつ、どこで何をしていたか、時間をさかのぼって追跡できる、と。

記事は、犯罪捜査において、特に、テロ対策として、情報の収集がきわめて効果的であることを認めています。ある意味では、犯罪は、それを犯す前から、人物を追跡できるのです。それに対して、固定電話や郵便物の時代にプライヴァシーを保護した法律は役に立ちません。裁判所は、さまざまな情報をどこまで証拠として認め、どのような捜査を許すのか? スウェーデンやニュージーランドのケースと、中国やロシアのケースでは、そこに大きな違いが生じています。

もし情報の収集や利用が自分たちの生活に及ぶ影響を制限したいと思うのであれば、私たちは強く、声を挙げねばなりません。特に、それが権力者によって悪用され、極端なバイアスを生じているとしたら。東ドイツの体制が1989年に崩壊したとき、人々の憎悪は国家秘密警察の情報管理部に向かい、そこを襲撃して破壊しました。

同じThe Economistに、新疆ウイグル自治区の完全な警察・監視国家が詳述されています。20151月、自治区政府はウイグル住民のすべてに、生まれた土地へ帰って新しいカードを受け取るよう命じました。そこでは国家による最新の住民管理、中国的特徴を加味したアパルトヘイト、ウイグル人への組織的なエスニック・クレンジングが遂行されています。

ウイグル自治区におけるイスラム教徒がテロを行った2009年以降、中国政府は広大な西部領域に監視システムを築いてきました。裁判所の認めた令状による捜査や逮捕ではない、共産党や警察の命令による拘束・拘留が行われます。公式には認めていない拘置所、収容所が「群島」のように広がります。それは監獄ではなく、「再教育キャンプ」です。イスラム教徒住民の多数にだけ偏った、さまざまな理由による、その期間もわからない拘束です。

携帯電話には政府の求めるアプリをインストールしなければなりません。住民たちはIDカードを携帯し、そのカードには多くの情報が記録されています。町中に監視カメラが設置され、自動車の運転も登録された者しかできません。HotanKashgarでは、8台から10台のビデオカメラを設置したポールが、すべての通りの100から200メートルおきに立っています。

ナイフや鋏を買うのは、日本で銃を買うのと同じくらい困難だ、と記事は述べます。台所の包丁は壁にチェーンで固定することを求めます。検問所ではバスを降りるように命じられ、警察はすべてのウイグル人のIDカードをスキャンし、写真や指紋を採取し、眼球の認証システムを使用します。若者はスマートフォンの提供を求められ、本人がパスワードを入力して、警察は情報を移して後でチェックします。

国家は市民を評価し、社会給付や雇用、地位、居住に反映します。改宗し、改名する者、イスラム教の伝統に従って毎日5回の礼拝をおこなう者、自宅にコーランを置き、子供にイスラム教徒にふさわしい名前を付ける者、衣装や音楽、踊り、など。警察はそれらを評価して、潜在的犯罪者のリストを作成します。

誰がこの情報世界を楽しむのか? Der Spiegel (Rise of the AutocratsLiberal Democracy Is Under Attack, SPIEGEL ONLINE 06/13/2018) は、リベラルな民主主義体制を侵食しつつある、世界の専制支配者たちを考察します。

中国共産党が権力の正当性を維持する源泉は4つある、とMinxin Peiは考えます。手堅い成長持続、ハイテクを駆使した反政府勢力の弾圧、国家の誘導するナショナリズム、さまざまな社会エリートとの共謀。歴史教育を権力の正当化に利用し、巨大な国家プロジェクトを推進します。

面接も、自己紹介も要らない世界。情報管理型・警察国家の話を読みながら、私は加計学園の理事長が安倍首相と、各地で何度も、獣医学部の新設を親しく相談している画像、音声、動画が手に入るだろう、と思いました。

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