IPEの果樹園2018

今週のReview

6/18-23

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カナダG7解体 ・・・トランプの通商政策 ・・・イタリアとユーロ危機 ・・・米朝首脳会談の成果 ・・・ワールド・カップ ・・・世界の専制国家復活

[長いReview

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● カナダG7解体

PS Jun 8, 2018

Why “America First” Means “Europe United”

GUY VERHOFSTADT

NYT June 8, 2018

How Trump Helps Putin

By Susan E. Rice

伝統的に、職を去る大統領は後継者に知恵を授ける。オバマは、ジョージ・W・ブッシュが8年前に彼にしたように、トランプに手紙を残した。

もしウラジミール・プーチンがトランプに手紙を渡したとすれば、それには何が書いてあっただろうか? プーチンは、アメリカの諜報機関によれば、トランプが選挙に勝利するのを助けた。

プーチンの目標は、簡単に言えば、アメリカを犠牲にしてロシアの世界的な偉大さを取り戻すこと、NATOEUを弱体化してヨーロッパを分断することである。プーチンのゼロサム型思考法では、アメリカとヨーロッパが揺らぐことはロシアの利益なのだ。プーチンは、アメリカのグローバルなパワーが、アメリカの軍事的・経済的な強さだけでなく、ヨーロッパとアジアに及ぶ比類ない同盟関係であることを知っている。

プーチンの狙いは、アメリカの信頼性を失わせ、アメリカが約束を反故にして、その価値やイメージを汚すことである。彼はトランプに、こんな助言をしただろう。

1に、TPPから離脱しろ。それは中国(とロシア)を犠牲にして、太平洋地域の諸国がアメリカと結ぶ協定だ。そして、パリ協定も離脱しろ。

2に、NATOを批判しろ。代金を払わない同盟国の防衛など、アメリカがする必要があるのか、と疑いを示せ。同時に、EUを侵食し、Brexitを応援し、バノンを派遣してヨーロッパの反エスタブリシュメント運動に力を貸せ。最強の国家、ドイツを崩すことだ。

3に、クーデタを起こせ。最も親しい同盟諸国に貿易戦争を挑むのだ。カナダ、メキシコ、ヨーロッパ諸国にも鉄鋼・アルミニウムの関税を課し、さらに自動車への関税で脅せ。イラン核合意を離脱して、ヨーロッパの同盟国がそれを残す努力を挫け。

最後に、プーチンはアメリカ大統領がその指導力を損なうことを勧める。アフリカやハイチを口汚くののしり、ラテンアメリカの移民を強姦魔と決めつけ、いくつかの国からはイスラム教徒の入国を禁止する。合法移民でも、国境で親子を引きはがす。

こうしてトランプが同盟諸国を憤慨させ、アメリカは国際社会のすべての国を敵に回す。一部の例外として、イスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、そしてロシアが友達だ。G7も解体し、アメリカは一人ぼっちになる。

プーチンがアメリカの政策を支配している、という証拠はない。しかし、彼が望んだことをアメリカがやるとして、これ以上に素晴らしいことはないだろう。

NYT June 8, 2018

The G6+1

By David Leonhardt

FP JUNE 8, 2018

The United States and Europe Still Need Each Other

BY JULIE SMITH, AMANDA SLOAT

FT June 9, 2018

Donald Trump calls on G7 to readmit Russia as he lashes out at allies

Sam Fleming in La Malbaie, Canada and Jim Pickard in Québec City

The Guardian, Sun 10 Jun 2018

The Guardian view on Trump and the G7 summit: a watershed moment

Editorial

カナダにおけるG7の失敗は、21世紀の民主主義にとっての分水嶺となるだろう。国際秩序を混乱させるトランプの存在は、悩ましい脅迫ではなく、危険な現実となった。

NYT June 10, 2018

Trump Tries to Destroy the West

By David Leonhardt

The Guardian, Mon 11 Jun 2018

If Trump wants to blow up the world order, who will stop him?

Yanis Varoufakis

FT June 11, 2018

US relations with closest allies fall to new lows

Chris Giles in London

SPIEGEL ONLINE 06/11/2018

The G-7 Fiasco

It's Time to Isolate Donald Trump

A Commentary by Roland Nelles

明らかに、アメリカのトランプ大統領は、その敵よりも、同盟諸国をひどく扱った。ヨーロッパはその結果として、トランプを国際政治の舞台で孤立させるべきだ。

西側の死亡。戦後国際秩序の終焉。トランプの政策の最悪の部分は、トランプその人である、とわかった。

NYT June 11, 2018

Who Is Peter Navarro? He Said There’s a ‘Special Place in Hell’ for Trudeau

By Deborah B. Solomon

NYT June 11, 2018

Donald Trump Is Not Playing by Your Rules

By David Brooks

FP JUNE 11, 2018

Trump’s Creative Destruction of the International Order

BY ZACHARY KARABELL

FP JUNE 11, 2018

By Bungling G-7, Trump Sabotaged Singapore

BY WILL INBODEN

FP JUNE 11, 2018

Justin Trudeau Is Running a Milk Racket

BY JONATHAN KAY

FP JUNE 12, 2018

The West Will Die So That Trump Can Win

BY BENN STEIL

G7に集まる他の国は、いつもアメリカが彼らの堤防であると思っているようだが、大統領はそれをはっきりさせた。もうたくさんだ。」 ジョン・ボルトンはTweetした。ホワイトハウスの通商問題顧問であるナヴァロはFox Newsに出て、トルドーを非難して述べた。「地獄へ落ちろ。」

同盟諸国に対するこうした言葉を正当化できる経済政策や事実は何もない。カナダがアメリカから輸入する酪農品は輸入額の0.2%でしかない。アメリカの関税率は平均で1.6%だが、それはカナダの2倍であり、カナダに対して貿易黒字を出している。

トランプによる最近の鉄鋼・アルミニウムに対する関税はカナダに最も大きなコストを強いる。カナダは120億ドル、第2位がEU80億ドルだ。中国が強いられるのは35億ドルで、EUの半分以下、カナダの4分の1でしかない。マクロン大統領はアメリカに、共同で中国の諸問題に対応するよう呼びかけた。しかしトランプは、中国よりEUの方がひどい、と返答した。

要するに、1.トランプ政権の経済政策は事実に依拠していない。2.トランプが同盟諸国を罰するのは、アメリカが重視する国際秩序はアメリカの輸出を伸ばしていない、と考えているからだ。

1947年に戻れば、アメリカ代表がジュネーブでITO(国際貿易機構)の交渉に、パリではマーシャル・プランの交渉に参加していた。イギリスは帝国特恵関税を廃止することを拒んだ。しかし、アメリカはマーシャル・プランによって、ポンド危機を理由にするイギリスを説得しようとした。ところがワシントンは、そのような交渉を認めなかった。それはイギリスの労働党左派とクレムリンに好機を与える、と考えたからだ。イギリスの関税を残しても、冷戦で不利なことは避けるべきだった。

1980年代にレーガン大統領がG7に求めたのも、モスクワとの戦略的な西側の協力であった。1983年、モスクワとの歴史的な中距離核ミサイル合意を達成する。

しかし、トランプは違う。しかも、トランプが異常な大統領である、というわけではない。アメリカ国民の考え方が、安全保障ではなく、貿易不均衡をより重視するようになったのである。

The Guardian, Wed 13 Jun 2018

Donald Trump was right. The rest of the G7 were wrong

George Monbiot

FP JUNE 13, 2018

The Slow Rise and Sudden Fall of the G-7

BY DANIEL SARGENT

G7の起源とその初期の発展は、われわれの現在の位置とトランプの短気が失うものを理解する助けになる。

2次世界大戦が各国に残した混乱をアメリカはどうしなければならないか、アメリカのエリートたちは何も確信していなかった。冷戦が激化する中で、アメリカは負担を引き受け、マーシャル・プランやNATOを支持した。1950年代初めには、アメリカからの経済資源、安全保障、公共財が国際秩序の中心にあった。

もとは文化的な概念であった「西側」が、こうして地政学的な概念になった。

しかし1960年代の後半になって、西側概念は生存の危機に直面する。それは3つの要素が戦後国際秩序を疑わしいものにしたからだ。すなわち、1.ヨーロッパの戦後復興が終わった。2.ベトナム戦争はヨーロッパ諸国に、アメリカの判断を信頼できるか、という疑いを生じた。3.冷戦の緊張が徐々に緩和された。

1969年にホワイトハウスに入ったニクソン大統領は、不公正な貿易を強く非難するようになった。アメリカは西側の共通の負担を不当に大きな割合で引き受けている、と。「われわれは彼らのために何でもするが、彼らは我々のために何もしない」と、ニクソンは不平を述べた。

FP JUNE 14, 2018

2018 Diplomat of the Year Chrystia Freeland: Read the Transcript

BY FP STAFF


● トランプの通商政策

PS Jun 8, 2018

Trump’s Trade Disaster

ANNE O. KRUEGER

アメリカのトランプ大統領は、国際条約や規範に関して、一人、暴れまわる水夫である。その乱暴は、今や、さらに広がり、深まっている。

TTIPTTPを破壊したトランプだが、アメリカ、カナダ、メキシコの間で合意された自由貿易協定NAFTAには今も不快感を募らせている。NAFTA、特にメキシコの役割は、2016年の大統領選挙で最も大きな関心を集めた主張だった。

2次世界大戦後、メキシコは多くの間違った経済政策を採用した。工業製品に関税障壁を設け、輸出商品、特に石油に重く課税した。ストップ・ゴーの循環型景気変動、インフレ高進、国際収支の悪化、そして緊縮策を強いられた。商品価格が回復すると、またそれを繰り返し、成長率は低かった。

1990年代になって、サリナス大統領と彼の経済チームが通商政策を転換し、NAFTA交渉に積極的に応じた。クリントン政権もサリナスのアプローチを支持した。その経済的な成功にもかかわらず、アメリカ国内では多くの反対意見があり、彼らはメキシコ人労働者がアメリカ人を脅かしている、と考えた。

しかし、NAFTAが始まった1994年初めから2000年にかけて、アメリカの失業率は6.9%から4%に下がった。現在、それは3.8%であり、エコノミストたちは4-4.5%でアメリカ経済は「完全雇用」状態にあると考えている。

トランプ政権はNAFTA再交渉を求めているが、それは1990年代初めからの変化を受けて改革することではない。その1つは、メキシコ労働者の賃金をアメリカの水準に引き上げることだ。メキシコの最低賃金は14ドル程度、製造業で6ドルほどである。これをアメリカの時給16ドルにするには、21倍にしなければならない。そのようなコストの上昇を受け入れる生産者は世界中どこにもいない。

他にも不可能な要求がある。それは合意した条件に5年という期限を付け、5年ごとに再交渉する、というものだ。北米全体にビジネス環境は恒久的な不確実さに支配され、企業は5年の条件でしか投資を決定できない。

トランプ政権が韓国に求めている鉄鋼輸出の削減は、これまでアメリカが非難してきた「管理貿易」の最悪のタイプを要求することである。しかも、たとえ彼らがそれを受け入れても、その結果はトランプのチームが意図したようなものにはならないだろう。

アメリカの鉄鋼部門は8万人を雇用しているが、自動車部門では90万人以上、鉄鋼とアルミニウムを使用する部門は100万人以上を雇用している。トランプの関税は彼らに追加のコストを強制し、雇用を失わせるのだ。

2次世界大戦後、アメリカはルールに依拠した通商システムの確立に向けて指導力を示した。貿易摩擦が起きると、2国間ではしばしば効果的な解決ができず、WTOを通じて行動することが良い結果を示していた。トランプ政権もこの事実を認めるまで、破壊的な通商政策のコストが増すばかりだろう。

NYT June 8, 2018

The Era of American Complacency on Trade Is Over

By Peter Navarro

お前たちの通商政策が間違っているから、アメリカは毎年5000億ドルも貿易赤字を出しているのだ。

ドイツは防衛費を出さず、日本はドイツ以上に大きな赤字、特に大量の自動車を押し付け、複雑な規制でアメリカの自動車を輸入しない。アメリカの農産物には高い関税を課している。カナダは特にアメリカの厳しい非難を受けるべきだ。何十年間もアメリカに材木を安売りし、非関税障壁や酪農品の価格操作を行ってきた。

アメリカの主要な貿易相手国は、今こそ、アメリカが国際市場に満足しているという時代が終わったことを知るべきだ。

トランプ大統領とアメリカ国民は2つの目標を追求する。1.貿易は自由であるだけでなく、公平で、互恵的でなければならない。2.国家安全保障にかかわる産業を大統領は保護できる。

それらを邪魔しない限り、これまで通りG7の戦略的同盟関係や経済協力は進めてやる。だが、不公平な貿易は受け入れない。

FT June 9, 2018

Inside the chaos of Donald Trump’s trade wars

Demetri Sevastopulo, Sam Fleming and Shawn Donnan in Washington

NYT June 9, 2018

Debacle in Quebec

By Paul Krugman

ほとんどの場合、多国間サミットは退屈で、あまり意味がない。

しかし、ときには重大な結果をともなう会議もある。2009年のG20は、金融危機に陥った諸国に対して景気刺激策や融資を与えることに各国は同意し、世界が1930年代の完全な再現となるのを回避することを支援した。対照的に、2010年のサミットは、実質的に緊縮策を求め、景気回復を遅らせ、ある意味では、政治的な過激主義が登場するのを助けた。

それにしても、今回のサミットほど破滅的なものを見たことがない。それは貿易戦争の始まりを告げ、西側の同盟関係が崩壊することまで示した。最低でも、アメリカは何十年間も維持してきた頼りになる同盟国という評価を損なった。

トランプがケベックで行ったことは、アメリカ・ファーストではなく、ロシア・ファーストであった。トランプはロシアが再び参加することを求めた。それは無意味である。ロシアのGDPはスペインと同じで、ブラジルより少し小さい。主要な経済国ではない。また、戦略的な意味でも、ロシアがウクライナを侵略したときに追い出された。プーチンがトランプと個人的に親しいだけだ。

その後、トランプはG7の他の諸国に、アメリカ製品に対して彼らが課している、「愚かで受け入れがたい」関税を取り除くように求めた。しかし、その関税はすでに非常に低いものだ。平均で、わずか3%である。

確かにカナダは酪農品に高い関税を課す。しかし、こうした特殊なケースが、アメリカの軽トラックに課す25%もの関税よりひどい、とは言えない。G7諸国の市場は、全体として、非常に開放的である。

トランプは何に憤慨しているのか? 通商政策の顧問たちはEUの付加価値税VATsを繰り返し非難した。それが不公平な貿易保護であるというのだ。そんなことはない。VATsは競争上の優位に影響しない。だからWTOも認めているのだ。

トランプはVATsのことを考えたこともないだろう。彼は、単に暴れているだけだ。存在しない巨大な悪を攻撃しているつもりで。

FT June 10, 2018

Trump is trading on the protectionist mood

RANA FOROOHAR

FT June 11, 2018

Donald Trump, Boris Johnson and the route to trade mayhem

GIDEON RACHMAN

FT June 12, 2018

Forecasts of the impact of a US-China trade war fool markets

MEGAN GREENE

SPIEGEL ONLINE 06/13/2018

Economic Trumpism

U.S. President Makes Life Tough for German Companies

By DER SPIEGEL Staff

PS Jun 13, 2018

The Republicans’ Protectionist Pedigree

JEFFREY FRANKEL

共和党が自由貿易を支持し、民主党が保護主義論者である、と考えるのは間違いだ。共和党はかつて保護主義を主張した。建国から第2次世界大戦まで、共和党が保護貿易を推進し、農業が中心の選挙区を支持基盤とした民主党が自由貿易を支持した。

戦後も、アメリカの保護政策を実現したのは、共和党の3人の大統領であった。ニクソン、レーガン、ジョージ・W・ブッシュである。

FT June 15, 2018

Canada stands firm against US pressure


● ポピュリストとの闘い

FT June 8, 2018

Doug Ford owes Ontario poll victory to his economic message

JOSHUA OLIVER

カナダ最大の州で、トルドーの自由党はポピュリストに敗北した。

NYT June 9, 2018

The Resource Curse of Appalachia

By Eliza Griswold

PS Jun 12, 2018

Sweden’s Russia Problem

PAULINA NEUDING

FT June 13, 2018

Bavaria crosses a line to fend off the far-right

FREDERICK STUDEMANN


● 政治指導者

FT June 8, 2018

Emmanuel Macron is neither Margaret Thatcher nor Tony Blair

SOPHIE PEDDER

PS Jun 11, 2018

The Divine Right of Donald

ELIZABETH DREW

アメリカのトランプ大統領は、北朝鮮の独裁者、金正恩と共通点が多いとは思えないが、その先生的な傾向はますます顕著になっている。

アメリカ建国の父たちはこのことを明らかに懸念し、新しい王様にならないよう、対策を憲法に書き込んだ。しかし今、議会は委縮し、トランプに服従している。

FP JUNE 13, 2018

Ben Rhodes Led From Behind in Life

BY JEREMI SURI


● イタリアとユーロ危機

SPIEGEL ONLINE 06/08/2018

Finance Minister Olaf Scholz

'Germany Has a Special Responsibility'

An Interview by Christian Reiermann and Michael Sauga

FT June 10, 2018

Political tale-telling is splitting the eurozone apart

WOLFGANG MÜNCHAU

物語は重要だ。

Brexitが支持された1つの理由は、ユーロ懐疑論者の主張と、それに対抗する知的なメッセージが欠けていたことだった。

最近、Der Spiegelに、ドイツの主要なコラムニストがイタリア人のことを、ありがとうと言う慎みもない乞食だ、と述べた。この非難されるべき軽蔑の感覚はドイツ人に広まっている。彼らがEUの、特にイタリアの、銀行になっている、というわけだ。しかし、真実はそうではない。イタリアはEU財政に支払っており、財政のプライマリー・バランスも経常収支も黒字である。ドイツからの救済融資を受けたことはない。

もう1つ、ドイツ人だけでなく、英語圏の人々にも広まっている感覚は、フランスがそこそこの経済成果しか出していない、というものだ。彼らは事実を知らない。20年前のユーロ誕生以来、フランスの経済パフォーマンスはドイツのそれとほぼ同じである。

物語が政治を決定するのだ。イタリアのポピュリストたちが政権を得たのは、選挙による偶然ではない。長引く経済不況が有権者たちを政治のエスタブリシュメントから離反させたのだ。政策分析においても、物語がその限界を決めている。だれも債務の相互保有を政策として議論しない。ドイツが拒否すると知っているからだ。

14人の独仏のエコノミストたちが書いた提案は、その野心を欠く点が衝撃である。しかし個人的に話すと、彼らは、ユーロ圏が安全な債券を発行し、共有することを必要としている、と答える。しかし、レポートに名前を載せるとなれば、彼らの話し方は政治家のように変わる。

ユーロ圏の危機は、憎悪を広まる宣教師たちと、権力者に対して真実を告げることができない者たちの、両方によって深められている。

PS Jun 11, 2018

How Democratic Is the Euro?

DANI RODRIK

イタリアの大統領がユーロに懐疑的なPaolo Savonaを、連立政権の財務大臣に指名するのを拒んだとき、それはイタリアの民主主義を守ったのか?

ユーロに参加することで、イタリア政府は重要な政策の権限を失った。金利や為替レートを決定すること、インフレ目標を決めることはできなくなった。財政政策も制限された。そのような外部の制約はイタリアの民主主義と衝突する可能性がある。

しかし、より良い結果をもたらすために、有権者が自ら制約を受け入れることはありうる。それが、民主主義が意思決定を独立した機関に委ねることで、パフォーマンスを上げる、という“democratic delegation”だ。その場合、独立機関は特定の行動を取ることが求められている。たとえば、中央銀行は、政治的圧力から切り離して、物価の安定を得るために独立の専門官僚たちが金融政策を決定する。

しかし、ECBの場合、選挙されない専門官僚たちがインフレ目標を実現している。これを正当化することはむつかしい。ECBがユーロ危機後にインフレ目標を引き上げた方が、南欧諸国の競争力を調整することは容易であっただろう、と主張されるのはもっともだ。政治から切り離されたことが、この場合はパフォーマンスを悪化させた。

分配をめぐる対立や目標間のトレードオフ(雇用と物価安定)があるとき、政策目標は政治が決めなければならない。政策決定を独立機関に委ねることは、政治的に決定された目標に対して、うまく機能する。

PS Jun 12, 2018

The Populists’ Euro

BARRY EICHENGREEN

イタリア人の多くは2つのものを望む。新しい政治的指導力と、ユーロだ。問題は、彼らがその両方を持てるか、ということだ。

新しい政治的指導力は間違いなくある。34日の選挙により、同盟the League5つ星運動the Five Star Movement (M5S)は、合わせて50%以上の票を得た。

2の点も、あまり知られていないことだが、イタリア国民の60-72%がユーロを支持している。だから連立政権も、ユーロを離脱するという考えを棄てた。

しかし、これらの目標を維持できるのか、と言うと、それは別問題だ。もし最初に成長を回復できなければ、新政権は支持を失う。絶望と怒りから、指導者たちは一層過激な政策に走るかもしれない。政府とその支持者は、彼らの望む最善の政策を邪魔するEUや、その主要な成果であるユーロを責めるから、ユーロへの支持も弱くなる。

実際、連立政権が野心的な政策を実行すれば、すなわち、同盟のフラット・タックス、M5Sのユニバーサル・ベーシックインカムを制度化すれば、予算赤字が膨張する。欧州委員会が制裁として、ECBによる金融の保証を止めるなら、資本逃避が始まるだろう。イタリアはすぐに、自分たちがユーロ圏を離脱し、資本規制で囲むしかないことに気付く。

しかし、同盟やM5Sとは異なる、健全な政策として、財政的な刺激策を実施できる。イタリア経済は2つの政策の組み合わせを必要とする。生産性を高め、国際競争力を改善する、労働と製品市場のサプライサイド改革と、改革の不確実さを抑え、需要不足の不安と政治論争を回避するような刺激策である。イタリアは大きな債務を負うが、低金利と財政のプラオマリー・バランスが黒字であることから、財政政策の余地がある。

しかし、連立政権がその余地を適切に使用するかどうかは疑わしい。同盟のフラット・タックスは富裕層に有利であり、彼らはそれを支出しない。不平等への不満を強める。その財政赤字が予想されるなら、M5Sのベーシックインカムは金融市場のパニックを引き起こす。

もっと良い政策は、給与税や社会保障費を減額することだ。それはM5Sの支持者に歓迎されるだろう。彼らはその多くを支出し、需要と成長をもたらす。サプライサイド改革は、労働コストを減らし、雇用を増やし、スキルを向上させるから、同盟の支持者に歓迎されるだろう。

欧州委員会はイタリアが財政赤字の上限を超えることに、どう反応するのか? いつものように、それを危険な先例になると考えて反対し、さらに強硬なイタリア政府を生むのか? EUとの紛争が大規模な資本逃避をもたらすことを考えて、最初の対立を回避するのが良いだろう。

これはアメリカで言う、チキン・ゲーム、である。その結末は、常に、好ましいものではない。

PS Jun 13, 2018

Can the Euro Be Saved?

JOSEPH E. STIGLITZ

ユーロ圏の新しい危機が迫っている。イタリアでユーロ懐疑派の政権が成立したからだ。それは間違った設計の通貨圏が示す長い物語で予想された話である。支配的国家であるドイツは必要な改革を阻み、問題を悪化させ、まるで意図したような憎悪を掻き立てる言葉を並べる。

イタリアの経済は、ユーロ成立以来、良くない。ユーロ圏全体もよくない。もしある国の経済が不調なら、政府が責められる。多くの国の経済が不調なら、それはシステムが責められる。ユーロは失敗するように設計されたシステムだ。それは政府から調整手段(金利と為替レート)を奪い、異なる状況に苦しむ国を支援する制度を築くより、財政赤字や債務、構造政策にまで新しい制限を課す。それらはしばしば経済的・政治的に怪しい理論に拠るものだ。

問題は改革のアイデアではない。フランスのマクロン大統領は2つの演説でそれらを示した。しかし、ドイツのメルケル首相は彼の提案に冷や水を浴びせた。弱い諸国で取り付けから銀行システムを守るには、共通の預金保険が必要だ。ドイツはその重要性を認めるが、その反応は鈍い。現在の苦しむ諸国を放置して、改革はずっと将来のことになる。

通貨圏の中心問題は、今、イタリアを苦しめているような、為替レートの不整合である。ドイツの答えは、高失業と低成長で苦しむ国に負担を強いるものだ。それはより多くの失業、長い低成長、多くの苦痛をもたらす。そうではなく、調整のために、より多くの負担を強い国に求めるべきだ。彼らが公共投資を増やし、高賃金と多くの需要を実現する。

ユーロ圏各地で政治指導者たちは動けなくなっている。国民はEU加盟を望むが、同時に、緊縮策を終わらせて成長することを求める。しかし、その両方はできない、と言われるのだ。ポルトガルの社会党政権、コスタ首相は成長と支持率を回復した、その例外である。

イタリアも、違う意味で例外になるかもしれない。その規模は大きく、創造的なエコノミストも多い。ユーロを事実上の離脱になっても、柔軟な二重通貨制を採用し、繁栄をもたらすだろう。そのとき事実上の離脱のコストは、ブリュッセルとフランクフルトに負わされる。

こうした結末が不可避ではない。ドイツと北欧諸国は、人間性と柔軟性を増すことで、ユーロを救出できる。しかし、何度もこうした場面を観てきたので、彼らが考えを変えるとは思えない。

FP JUNE 13, 2018

Xenophobia Meets Reality in Italy

BY AARON ROBERTSON


● 米朝首脳会談の成果

PS Jun 8, 2018

Getting to Yes With Kim Jong-un

YOON YOUNG-KWAN

Bloomberg 201868

China's Long Game for the Singapore Summit

By James Stavridis

北京が米朝会談の仲介役を果たした。その長期的な戦略目標は南シナ海の支配だ。北京にとって、朝鮮半島は分断されている方がよい。北朝鮮の非核化は永久に引き延ばされる。

NYT June 9, 2018

North Korea, Trump and Human Rights

By Nicholas Kristof

Bloomberg 201869

The Best – and Worst – That Can Happen in Singapore

By Tobin Harshaw

会場がシンガポールに決まったのも1か月前だった。会談内容が何かもミステリーだ。短時間の面談? 核弾頭の劇的な削減? 朝鮮半島に駐留する米軍の撤退? 朝鮮戦争の終結?

FP JUNE 10, 2018

This Is What North Korea Sanctions Relief Should Look Like

BY PETER E. HARRELL

FP JUNE 10, 2018

Here’s How the Trump-Kim Summit Could Play Out

BY JON WOLFSTHAL

FP JUNE 10, 2018

What a Secret Cold War Game of Nuclear Hide-and-Seek Teaches Us About North Korean Verification

BY SHARON WEINBERGER

FP JUNE 10, 2018

The Photo-Op Summit

BY JEFFREY LEWIS

金正恩とドナルド・トランプはシンガポールにいる。火曜日に会う予定だ。アメリカ時間では月曜日に、われわれは金正恩が武装解除し、ドナルド・トランプがノーベル平和賞を得ると確信してにんまりするのを観るだろう・・・

そんなわけがない。では、われわれは何を期待できるのか?

私は非常に低い水準をすすめる。破滅もないだろうが、戦略もない。どう見ても山羊のロデオだ。

サミットとは基本的に見世物pageantryである。それは無駄なことを意味しない。いや、非常に有益である。サミットの基本的価値は、期限を設けて、それに向けて各パーティーが相違を解消する必要に迫られることだ。もし作業班が取引に失敗すれば、すべてが崩壊して双方が不利な状況になる。(G7は顕著な例外であったが)それは成功をもたらす戦略だ。

しかし米朝サミットには著しい非対称性がある。北朝鮮は国際的に承認されてもいないのだ。金正恩は自国が国際社会の承認を得ること、彼がその国を支配し、核兵器を保有する権利があると承認されることを切望している。

2000年、クリントン政権は、クリントン自身がピョンヤンを訪問し、金正日に最後の譲歩を求めることを準備したが、時間切れになった。ブッシュ政権もそれを引き継いでいた。

トランプは違う。北朝鮮とこうした会合を重ねても無駄である。北朝鮮に核兵器を手放す意図がないことは明白だ。それでも会談を設定した。国家安全保障会議のMatt Pottingerは、612日という会談予定は不可能だ、と述べた(「まるで10分で準備するようなものだ」)。アメリカに目標がなければ、北朝鮮の勝利である。

それでもトランプはサミットを望む。Michael Wolffが、昨年のトランプによるサウジアラビア訪問をどのように描いたか。それは神が与えた避難所だ。会談は大統領らしく見える。やかましいメディアの追及、ミューラー特別検察官の捜査から逃れられる。

トランプは細部など気にしない。彼は、金正恩と同じく、国内政治を意識してこの見世物をもっぱら利用する。彼は、通訳だけを挟んで、金正恩と男同士で歓談する。専門家たちが言うことなど気にしないし、ポンペオの助言も、ボルトンの邪魔も、許さない。

奇妙なことだが、これは良いニュースである。G7サミットを破滅に追い込んだにもかかわらず、トランプは会談を「驚異的な成功」と述べた。米朝会談もそうだ。金正恩との直接対話以外に何もない。非核化について、ちょっと話すくらいだ。キムをホワイトハウスに招待するだろう。

しかし、核の武装解除は進まないだろう。これを成功と呼ぶとしたら、トランプは成功の意味を再定義する、ということだ。すべてに優先して、超党派で北朝鮮に非核化を求めてきたが、それは成功しなかった。1つの選択肢は、トランプが韓国のアプローチを採用することだ。韓国は、北朝鮮の非武装化を将来のずっと先に延期する。そして、本質的には、北朝鮮を法に従う国家と認め、金正恩が支配し、核兵器を保有することも認めるのだ。

もしトランプがそうすれば、キムは長距離ミサイルと核爆発の実験をしないという約束を延長する。またキムは核の技術を輸出せず、核開発計画について柔軟な話し方を採用し、野心としての非核化に言及するだろう。しかし彼は武装解除しない。それを急ぐことはない。

このような合意を多くの人は受け入れがたいだろう。いかなる交渉も無意味な宥和策だというボルトンや共和党議員たち。カメラの前で共和党の大統領が安全保障に関して正しいことをするのを望まないシューマーなど民主党議員たち。それでもトランプが彼らに合意を認めさせたら、それは良いことだろう。

ただし、トルドーを「非常に不誠実で弱虫」と切り捨てたように、キムを攻撃したら、われわれは大混乱を観る。


(後半へ続く)