IPEの果樹園2018
今週のReview
6/11-16
*****************************
EUの危機 ・・・政治的悲観論 ・・・民主主義と代議制議会 ・・・トランプ通商政策の破たん ・・・イタリアのポピュリスト政権 ・・・米朝会談と国際秩序 ・・・Brexitとヨーロッパ ・・・富裕層の流出 ・・・アルゼンチンの通貨危機
[長いReview]
******************************
主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● EUの危機
VOX 28 May 2018
Europe’s future:
The value of an institutional economics perspective
Nauro Campos, Jan-Egbert Sturm
PS May 29, 2018
How to
Save Europe
GEORGE SOROS
EUは生存の危機にある。この10年間、すべてがうまく行かなくなった。私が若い頃、ジャン・モネに率いられた一握りの思想家たちが石炭鉄鋼共同体を立ち上げ、それは共同市場となり、現在のEUになった。私の世代の人々は、このプロセスを熱狂して支持したのだ。
私はEUを、開かれた社会の理念を実現したものだと思っていた。それは対等な諸国の、自発的な集まりであった。それらは一緒に、共通の財を得るために主権を部分的に犠牲にした。
しかし、2008年の金融危機以降、EUは道を見失ったようだ。財政緊縮計画を採用し、それがユーロ危機につながった。ユーロ圏は債権者と債務者の関係に変わった。債権者は債務者が満たすべき条件を決めたが、債務者はそれを守れなかった。その関係は、自発的でも、対等でも、なくなった。EUの依拠する原則と反対のものに変わったのだ。
その結果、今や、多くの若者たちはEUを敵とみなしている。彼らの職を奪い、未来を奪ったからだ。ポピュリストの政治家たちはこの怨嗟を利用する。これに、2015年の難民流入が加わった。また、イラン核合意を離脱したトランプの行動がEUを苦しめる。
EUは3つの問題に直面している。難民危機。緊縮政策。Brexitに代表される、領土的な分解。
私は、EUが難民を配置する場合、それが自発的に受け入れられること、また、難民たちがそれに従うかどうかも自発的に決めさせること、を主張してきた。強制的な配分は間違いだ。ヨーロッパの移民政策を実行するべきであり、イタリアなど、地中海諸国に負担を強いるのも間違いだ。
他方で、EUは合法的な移民を受け入れねばならないし、EU内で移動を妨げることも許されない。政治的難民や経済移民を拒む「要塞ヨーロッパ」は間違っているし、実現不可能だ。
ヨーロッパは、アフリカや移民を生み出す他の諸地域に対して、民主的体制への支援を拡大するべきだ。そして、教育や雇用機会を増やすのを助けることだ。それはEUによる「アフリカへのマーシャル・プラン」である。EUは、もっと財規模な財源を債券発行で調達できるし、それを民主的な体制の拡大に使用できる。今のEUは、各地の独裁者と取引して、難民や移民が流出しないように、弾圧強化を依頼している。それは、長期的には、政治難民を増やす。
ドルへの資本回帰が新興諸国の通貨危機を生じつつある。アフリカへの支援は重要だ。財源管理は特別目的会社によって行えば、政府の債務を増やさず、管理も透明になる。
EUの領土的な分解は誰の利益にもならない。イギリスの離脱は、最終的に、議会によって否決されるべきだ。また、イギリスの復帰や他のEU諸国が望むように、政治的統合は多様なスピードで進めるべきである。
The Guardian, Wed 30 May 2018
The
Guardian view on eurozone reform: correct the mistakes of the past
Editorial
The Guardian, Thu 31 May 2018
Macron’s
plan to save Europe is compelling – but he’s on his own
Timothy Garton Ash
フランスが戻ってきた。精力的で、明快で、野心的な指導者。ヨーロッパを再び前進させるのに、これほどふさわしい者はいない。政権の揺らぐイタリア、国内分裂の危機があるスペイン、大きな動揺を発するポーランド、離脱寸前のイギリス、ソファーに停滞するドイツではなく、フランスだ。
マクロンは、ヨーロッパを再生する明確なビジョンを示している。フランス国内の改革にも全力で取り組む。ユーロ圏が成長するには、そしてイタリアの危機を解決するには、成長だけでなく、多くの雇用が要る。
マクロンは現実から出発する。ヨーロッパは決して70年間の平和と自由を楽しんだのではない。旧ユーゴスラビアやウクライナを考えよ。われわれは忘却の中で、注意を怠れば、再び戦争に向けた夢遊病者になってしまう。
マクロンは、「ヨーロッパの主権」を唱える。このアイデアは、もちろん、フランス国民戦線のル・ペンや、イギリスのBrexit派に対して、主権という言葉を取り戻すためだ。彼はこの言葉で、われわれの共有された利益と価値を、ナショナリストのポピュリズムから、そしてロシア、中国、気候変動、大量移民、デジタル革命から守るパワー、を意味する。しかし、トランプには言及しなかった。
巨人たちの世界では、ヨーロッパも巨人になるか、あるいは、われわれは分裂し、巨人たちに踏みつぶされることになる。ジャガーノートの前で恐怖にすくんではならない。勇気を持て、ヨーロッパの仲間たちよ。勇気を持って戦え。
問題は、彼だけではできない、ということだ。今はまだ、だれも彼に協力しない。最も緊急の問題はイタリアであり、最も重要な国はドイツだ。イタリアの危機で、中途半端なユーロ圏の内在的問題が表面化している。しかし、メルケルのマクロン演説に対する反応は、形だけの拍手だ。
マクロンの多くの美点の1つは、意見の相違をオープンに結びつけることを恐れないところだ。アメリカの議会演説でもそうだった。彼はドイツに呼び掛けた(「親愛なるアンゲラ。私はあなたがそれをわかっていると思う。」)。永久に黒字予算や貿易黒字を信じる姿勢を続けてはならない、と。
6月末の欧州サミットでは、新しい独仏の収れんではなく、新しい乖離が現れた。フランス大統領はトランプの保護主義にEUが統一して反対するべきだ、と考える。しかし、ベルリンは妥協を目指す。それは、マクロンの顧問の1人が述べたように、ドイツの輸出を守るための重商主義的な行動だ。フランスは、法の支配をショッキングなほど侵食するポーランドに対して、欧州委員会が強硬姿勢で臨むことを求める。しかし、ここでもドイツは妥協を目指す。
その意見の相違は政府間レベルのものだが、6月後半には独仏の共通戦略が進むのではないか。あるいは、もしそれができないなら、マクロンは各国の指導者たちを越えて、直接ヨーロッパの有権者たちに呼びかけることも考えるだろう。
確かにマクロンは、トップダウン型の、人々が嫌うヨーロッパ官僚型エリートである。しかし、彼は我々が手にした最高の指導者だ。もし彼が失敗すれば、それはフランスだけでなく、ヨーロッパの統合プロジェクトを挫折させる。ドイツは彼の言葉に応えるべきだ。
● アジアの高齢化
PS May 29, 2018
Making the
Most of Asia’s Aging Populations
LEE JONG-WHA
● アメリカの財政赤字
PS May 29, 2018
America’s
Exploding Budget Deficit
MARTIN FELDSTEIN
● 金融規制の緩和
NYT May 29, 2018
Sounding
Code Red: Electing the Trump Resistance
By Thomas L. Friedman
FT May 31, 2018
Trump’s
deregulators risk repeating past mistakes
PATRICK JENKINS
PS May 31, 2018
Controlling
the Supreme Court of Finance
SIMON JOHNSON
トランプは、2008年の金融危機後に強化された規制を緩和した。
歴史的に、金融規制を大銀行に頼ってきた議会の姿勢は、2008年の金融危機で、間違いであったとわかった。しかし、皮肉なことに、危機を防げなかったにもかかわらず、中央銀行の権力はますます強化されている。この状況で、トランプが、規制当局の主要ポストに自分の好む人物を就けることは、非常に危険である。
VOX 30 May 2018
The
changing fortunes of central banking
Philipp Hartmann, Haizhou Huang, Dirk Schoenmaker
FP MAY 31, 2018
It’s Time
to Choose Democracy Over Financial Markets
BY LUIGI ZINGALES
NYT June 4, 2018
Fix the
Volcker Rule, but Look for Alternatives, Too
By Charles W. Calomiris
FT June 6, 2018
Why the
Swiss should vote for ‘Vollgeld’
MARTIN WOLF
● コロンビア
FT May 30, 2018
Colombia
turns a page in polarising election
● トランプ移民政策
NYT May 30, 2018
Trump
Immigration Policy Veers From Abhorrent to Evil
By Nicholas Kristof
NYT May 31, 2018
Is the
United States Losing Its Humanity?
By Anne C. Richard
● プエルトリコ
FT May 31, 2018
Puerto
Rico’s ordeal by hurricane is not yet over
NYT May 31, 2018
An
American Tragedy
By David Leonhardt
● スペインの政治危機
FT May 31, 2018
Stop
tinkering at the margins and resolve Spain’s political crisis
MIRIAM GONZÁLEZ DURÁNTEZ
● 中国株式市場
FT May 31, 2018
Chinese
shares to transform emerging market investing
Emma Dunkley in Hong Kong and James Kynge in London
● 政治的悲観論
PS May 31, 2018
Overcoming
the Politics of Pessimism
PHILIPPE LEGRAIN
西側の政治がこれほど悪化している最大の理由は、有権者たちが将来に対して悲観的になったからである。
悲観主義は経済的な損失を強いられた者たち、次に自分もそうなると恐れる者たちやコミュニティーを苦しめる。ロボット、中国、移民が人々の生活や文化を損なう、西側の人々は世界においても、自分たちの周りでも、特権的地位を失う、と。分配をめぐる対立が深まり、アイデンティティの衝突に圧倒される。西側政治が好転するには、政治家たちが不安の根源に対処することだ。
悲観主義は3つの形を取る。第1に、右派の有権者に多い、受容型の悲観論者だ。システムを変えることは不可能であり、望ましくもない。自分たちの国は衰退していく。衰退をうまく管理することしか政治家にはできない。
第2は、中道左派に多い、不安に苦しむ悲観論者だ。未来に悲観的であり、その最悪の部分を緩和することに満足する。彼らは技術革新やグローバリゼーションを恐れ、そのスピードや範囲を制限しようとする。
最後に、憤慨する悲観論者だ。彼らの見方によれば、経済は詐欺だ。政治家は腐敗している。アウトサイダーは危険だ。彼らは衰退を管理するのではなく、現状の破壊を目指す。皆が悪化する中では、他者に多くの苦しみを求める。
悲観論者に共通するのは、有効な解決策が欠けていることだ。リスクを強調し、変革のむつかしさを説くばかりで、行動しないことの問題を観ようとしない。システムからの利益を守りながら、システムを破壊できると考える。西側社会が、欠陥はあっても、繁栄、安全、自由を保障してきた。権威主義的なナショナリズムと経済的ポピュリズムがそれを脅かしている。
相対的な地位が低下するのは避けられないが、経済の機能不全は避けられる。ところが悲観論者が自己実現的な衰退を導く。(ドイツのように)困難な決定を延期し、(トランプやBrexitのように)事態を悪化させる。
フランスのマクロン大統領のように、希望、開放、包摂のメッセージを広めることは可能であり、それが正しい。信頼に足る改革に依拠して、進歩の思想を促進することだ。第1に、生産性を高めて成長をもたらす。投資を刺激し、研究開発、リスク資本、規制の改革を行う。
第2に、価値の創造を促し、価値の搾取を攻撃する。開発規制を止めて、投機を抑え、住宅供給を増やす。債務を奨励するような規制を撤廃し、実物経済への投資を促す。競争を促し、独占を解体し、起業を助ける。
第3に、政府は働く機会と職場の安定性を保障する。人々が変化を受け入れ、積極的にリスクを取るには、柔軟なスキルを得ること、市民としての生活にふさわしい所得を得られること、信頼できるセーフティーネットがあること、を必要とする。高等教育をすべての者にアクセス可能にし、生涯教育を提供することだ。
実質賃金を引き上げる必要がある。最低賃金、低賃金労働者への減税、福祉国家の現代化。遺産相続や土地保有に課税し、1万ユーロ・ドル・ポンドの資金を若者に賦与してはどうか。社会に参加し、不運を避け、未来に向けて投資する。スウェーデンのように、年金は労働者の数に応じて自動的に調整され、移民労働者を歓迎する。
優れた経済政策は社会的・文化的な病気を治し、悲観論を一掃する。リベラルな政治、進歩的な楽観論を広めることができる。
● 中国のハイテク大企業
NYT May 31, 2018
Worried
About Big Tech? Chinese Giants Make America’s Look Tame
By Raymond Zhong
ハイテク大企業間で最大の戦争は、Forget
Google 対
Facebookではない。Uber
対
Lyftでもない。Amazon
対、その他のすべての者の戦いではない。
それは中国のTencent
Holdings と
the Alibaba Groupとの戦いだ。7億7000万人の利用者を奪い合っている。通信でも、小売りでも、娯楽でも、貯蓄や投資、医者の診察に行くのも、彼らの戦場だ。
2つの巨人は、そのコア・ビジネスが、ゲームとソーシャル・メディアのテンセンツ、e-コマースのアリババ、と異なっていた。しかし、彼らは買収を繰り返し、中国人の生活のあらゆる面を取り込もうとしている。ビデオ配信やクラウド・コンピューティングもそうだ。
いま最も激しい戦いは、スマートフォンによるデジタル・マネーである。
こうした2社による独占は、アメリカには再現しないだろう。アメリカ政府やEUによる介入が、Apple, Amazon, Google and Facebookのような企業の他分野への拡大を制限している。つまり、中国の2つの巨人では、中国政府との強力な同盟関係が維持されているのだ。
中国では、小売業の小規模店が支配的である、病院は混雑し、医者はオーバーワークだ。多くの人がクレジットカードを持たない。だからAlibabaやTencentには、AmazonやFacebookよりも、多くのチャンスがある。
FT June 1, 2018
Asia has
learnt to love robots — the west should, too
JOHN THORNHILL
● 民主主義と代議制議会
PS Jun 1, 2018
America’s
Founders vs. Trump
J. BRADFORD DELONG
アレクサンダー・ハミルトンは、アメリカ建国の指導者の1人だが、民主主義に深刻な疑念を抱いていた。「ギリシャとイタリアの小共和国の歴史を読むとき、独裁者と無政府状態との間を永久に変動する状態に、恐怖と嫌悪の感情を持たずにはおれない。」
しかし、ハミルトンは民主主義を称賛するに至った。「権力を分割した部局に配分する。チェック・アンド・バランスを法制化する。正しい行動を取る判事たちに裁判所を委ねる。人民の代表が立法府を治める。」 これらは、共和制の政府がその優秀さを維持し、その欠陥を抑え、回避するための、強力な仕組みである。
こうした改善策は、王制にも共和制にも適用できるし、実際、王制の歴史から生まれたものである。では、なぜ、ハミルトンは王制より共和制を支持したのか? ジェームズ・マディソンがこの点を説明した。マディソンの主張は、「代表制」への支持と、「派閥」への警戒に集約できる。
代表を選出することで、マディソンは、政府が外に目を向け、人々の関心を取り入れ、彼らの知識やアイデアに従うことを期待する。慎重な代表制を通じて、政府は職業化、専門化の利点を享受し、しかも、公衆の関心に従い、社会から新しいアイデアを取り入れることができる。
同時にマディソンは、派閥の偏向を避ける重要性を強調した。それをマディソンは、「他の市民の権利に反して、また、コミュニティーが永久かつ総体として利益を得ることに反して、ある種の情熱や関心を共有する衝動」と定義した。もちろん、王室や貴族は、まさにこうした派閥である。共和制では、マディソンによれば、有権者の多数から支持を得た派閥が統治する。それゆえ共和制の方が、多様な集団と利益を反映し、他の市民の権利を侵害するような共通の利益が支配することは少ないだろう、と。
しかし、問題は、悪意のある「共通利益」を持つ多数派が現れたときだ。アメリカの歴史にはその例がある。南北戦争における人種差別の法律。第2次世界大戦中に日系人を強制収容所に入れたこと。1832年、最高裁判所がチェロキー族に事実上の主権を認めたときも、アンドリュー・ジャクソン大統領はそれを無視し、エスニック・クレンジングを進めた。
他方、ヨーロッパ各地の王朝は、憲法によって認められてからも政治危機を超えて継承されてきた。彼らは権力の集中と社会主義的な独裁制にも、国民投票的なエスニック型専制支配にも向かわなかった。むしろ王制下で、代表制の議会による民主主義を維持した。
アメリカの実験は、まだそのような生存の危機を経ていない。しかし、トランプの登場こそ、マディソンが警告したように、衝突する諸利益を公共の善に従わせる「啓蒙された政治家たち」が常に権力を握るとは限らない、という時代を意味している。
● アフリカ工業化
PS May 31, 2018
A Roadmap
for African Industrialization
AKINWUMI ADESINA
● トランプ通商政策の破たん
The Guardian, Fri 1 Jun 2018
Trump’s
trade war threatens global peace
Martin Kettle
FT June 1, 2018
Make
America 1929 again
EDWARD LUCE
共和党の上院議員Ben Sasseはうまく言った。「アメリカを再び偉大にする」というのが、「アメリカを再び1929年にする」となってはいけない。
世界のほとんどが、アメリカのビジネス界の多くの人も含めて、ドナルド・トランプの懲罰的な通商政策を懸念している。そこには経済的な根拠はない。彼は政治的な衝動で動いている。金属や自動車の輸入を阻止するのは、アメリカ人の雇用も損なうが、トランプは「忘れられたアメリカ人」のために行動している、と言う。彼らもそれを知っている。たとえ彼らが苦しむものでも、
最大の問題は地政学的なものだ。トランプは国家安全保障を理由に輸入制限を乱発する。通商拡大法の232条は、以前2度だけ行使されたが、トランプは大統領の権限として好んでこれを利用する。彼は自動車にも適用し、大西洋の通商システムを完全に破壊することはできないが、政治的気まぐれが支配するシステムに変えようとしている。
中国に対しても、アメリカは同盟諸国と一緒に、「中国製造2025」をグローバルな投資ルールに従うよう圧力を強めるべきだ。他国も中国政府が技術移転を強要することに不満を持っている。しかしトランプは、協力すべき相手を懲罰的に扱う。他方、中国のZTEに対する制裁措置を、習近平からの譲歩で、さっさと免除してしまう姿勢は、無思慮である。
同盟諸国にも、敵対国にも、貿易戦争を叫ぶのは国際ルールを無視している。それは国内物価を上げ、アメリカ人の雇用を破壊し、アメリカの国際的な影響力を低下させる。WTOを破壊するものだ、という指摘にも耳を貸さない。アメリカはジャッジを出さず、WTOの紛争処理に協力しない。アメリカがジャッジなのだ。
1930年代との比較で、トランプを現在の「スリープウォーカー(夢遊病者)」と呼ぶのは間違っている。彼は何をしているか知っている。グローバルな秩序を脅しているのだ。
FT June 1, 2018
Wilbur
Ross, a global financier turns protectionist
NYT May 31, 2018
America
Declares War on Its Friends
By The Editorial Board
NYT May 31, 2018
Oh, What a
Stupid Trade War (Very Slightly Wonkish)
By Paul Krugman
トランプ政権が鉄鋼とアルミニウムに関税を課す安全保障上の理由は何もない。この政権は嘘をつくことを何とも思わない。
しかし、これで雇用が増えるなら、良いではないか?
たとえそうだとしても、マクロ経済で考えて、雇用は増えない。アメリカは完全雇用状態にあると考える連銀が金融政策を決めているからだ。雇用が増えるとしたら、金利を早く引き上げる。
トランプの貿易戦争が、たとえ金融政策の効果を考えないとしても、雇用を増やすことはない。むしろ、雇用を破壊するものだ。
第1に、トランプは中間財に関税を課した。それは、自動車など、最終財のコストを引き上げる。第2に、他国がトランプの関税に報復する。
トランプはさらに、一層の幻影を追っている。他国がアメリカに多くの輸出をするのだから、アメリカが輸入を止めても、困るのは外国だけだ、と。
第1に、しっぺ返しの貿易戦争になれば、われわれの輸出も減少する。第2に、複雑なバリュー・チェーンが破壊される。第3に、貿易戦争で消費者物価が上昇し、一般家庭が減税で何を得たとしても、それを奪う。第4に、民主主義が反発する。他国の有権者たちは、こうしたトランプのやり方を嫌悪するだろう。たとえ指導者たちがアメリカとの妥協を求めても、有権者はそれを許さない。
NYT June 1, 2018
Herbert
Hoover’s Ghost
By Bret Stephens
NYT June 3, 2018
Donald
Trump picks the wrong trade fight
RANA FOROOHAR
NYT June 2, 2018
The EU
must respond to Trump’s trade offensive
NYT June 3, 2018
A Trade
War Primer
By Paul Krugman
FT June 5, 2018
Donald
Trump’s trade policy violates every rule of strategy
LAWRENCE SUMMERS
トランプは経済問題について攻撃的な貿易政策を中心においている。しかし、ほとんどのエコノミストが同意するように、貿易政策で雇用や成長は増えず、管理貿易より自由化によってアメリカは繁栄する。
アメリカ大統領の重商主義的前提は、アメリカが最優先するのは世界の市場を開放し、より公平にすることだ。この目標が正しいか、その判断はともかく、アメリカがそれを実現する姿勢はあまりにも戦略を欠き、効果のないものである。実際、戦略の基本を顕著に破っている。すなわち、
1.目標を明確に定義し、交渉を混乱させない。しかし、アメリカの交渉は、Tweetの後に、またTweetであり、高官たちも違うことを言う。どれでも最重要だと示して、何が最優先課題なのかわからない。これでは解決のために相手が譲歩することもないだろう。
2.仲間を団結させ、敵を分断する。しかし、アメリカは仲間にも貿易戦争を唱えている。
3.交渉のために、脅威を、本気で実行するものとして示す。しかし、アメリカの関税は自国の利益を損なう。
PS Jun 5, 2018
Trump’s
Shot Heard Round the Foot
DANIEL GROS
ヨーロッパは自尊心を抑えて、報復をせず、アメリカとの貿易戦争を回避するべきだ。
FT June 6, 2018
How Donald
Trump is empowering China
EDWARD LUCE
FT June 6, 2018
Mexican
‘Silk Road’ trade corridor is set to spice up US tension
JUDE WEBBER
SPIEGEL ONLINE 06/06/2018
A Vicious
Cycle
Berlin
Worried about Losing Trump's Trade War
By DER SPIEGEL Staff
PS Jun 6, 2018
The Shape
of Sino-American Conflict
MINXIN PEI
中国は短期的に貿易戦争を回避するだろう。しかし長期的には、全面的な米中の冷戦時代に向かっている。
NYT June 6, 2018
Despite
Trump, the West Must Stay United
By Donald Tusk
PS Jun 8, 2018
Trump
trade blasts send a chill over Canada
Sam Fleming in Montreal
● イタリアのポピュリスト政権
The Guardian, Fri 1 Jun 2018
If
Brussels doesn’t budge, calamity beckons for Italy – and the EU
Owen Jones
FT June 1, 2018
Deutsche
Bank’s systemic risk puts Italian lenders in the shade
MILES JOHNSON
SPIEGEL ONLINE 06/01/2018
Crisis
Redux
Italy
Sends a Jolt Through Europe
By DER SPIEGEL Staff
PS Jun 1, 2018
Italy’s
Slow-Motion Euro Train Wreck
NOURIEL ROUBINI, BRUNELLO ROSA
ポピュリストの、ユーロ懐疑派が政権を組む可能性に対して、金融市場は反応した。イタリアの株価が下落し、特に銀行株が売られた。それはカントリー・リスクを示す。イタリアが新しいグローバル金融危機の引き金となるかもしれない。特に、もしユーロ離脱問題が選挙を事実上の国民投票に変えてしまう場合。
イタリアの根本的なジレンマは、ユーロ圏内にとどまるか、経済・政治・制度の主権を取り戻すか、である。イタリアは、1992年に離脱したERMに1996年復帰してから、通貨主権をECBに与えた。しかし、それと交換に得た低インフレと低コストの借り入れを、イタリア人はうまく利用してこなかった。
特に、周期的な切下げによってイタリア経済システムの非効率性を修正し、競争力を得た中小企業にとって、為替レートを失ったことは深刻である。非効率性の理由はよく知られている。労働市場の硬直性、研究開発投資の少なさ、汚職と脱税、司法や官僚制の機能不全。しかし、イタリアの政治家たちは外からの制約を口実にして、改革を怠ってきた。
イタリアには、ユーロ圏に属することで、ドイツから、また欧州委員会やECBから来る要請と、首相と閣僚がイタリア国民に対して負う責任とがある。これらは一致することが前提だが、一致しない場合は問題である。ユーロ圏であることの優位を生かせず、1人当たりGDPは1998年に比べて減少している。ギリシャでさえ、2009年以降の不況にもかかわらず、1998年よりプラスである。
ドイツなどの「中枢」が、イタリアなどの「周辺」から、労働や資本を奪ったのか、イタリアがルールを守らず、改革を怠ったのか。もはやその論争は手遅れだろう。イタリア人は自国の経済停滞をユーロのせいだと信じている。もしイタリア人がユーロ圏残留と離脱の選択を問われたら、ギリシャと同様に、取り付けや破たん、混乱を恐れて残留を選ぶだろう。しかし、デフレが続くなら、残留の長期的なコストがイタリア人に離脱を求めさせる。
Brexit推進派と同様、イタリア人は自分たちの力だけで世界に出て成功する自信がある。実際、イタリアの北部には大規模な工業部門があり、世界中部輸出する能力がある。だから通貨が安くなることは有利である、と考えるかもしれない。すでに起きつつあるように、イタリア産業が外国に買収されてしまう前に、ユーロ圏から離脱するべきだ、と。
もしイタリアが離脱すれば、その直接のコストは、価値の下がった貨幣に変わることで、預金者が支払う。銀行ホリデーや資本規制を含めて、金融危機になれば、コストはさらに大きくなる。イタリア有権者はそれを知って慎重に考えるだろうが、目をつぶって飛び降りるかもしれない。
NYT June 1, 2018
A Cheer
for Italy’s Awful New Government
By Roger Cohen
FT June 2, 2018
Italy’s
new government: Europe on edge after palace takeover
James Politi in Rome and Rachel Sanderson in Montebelluna
NYT June 2, 2018
Italy’s
eclectic new cabinet raises eyebrows
James Politi in Rome
NYT June 2, 2018
Lack of
European reform, not Italy, will break the eurozone
WOLFGANG MÜNCHAU
ユーロ圏を信認の問題にしてはいけない。これはヨーロッパを改革するかどうか、という問題だ。イギリスでBrexitやその再投票を論争するのも、イタリアのM5Sと同盟がEUとの対決やユーロ圏離脱を論争するのも、問題への非常に愚かな対応だ。
ユニラテラリズムを棄てて、イタリアがユーロ圏に残り、繁栄できる条件について争え。
FT June 4, 2018
Italy,
democracy and the euro cage
GIDEON RACHMAN
イタリア内閣の閣僚はユーロを「ドイツの檻」と称した。
しかし、連立政権はユーロ圏にとどまることを表明した。ヨーロッパの政治では、おなじみの変化だ。ポピュリスト政権が、ブリュッセル、ベルリン、金融市場からの圧力を受けて、EUの正統的な見解にもどることを強制される。
EUに批判的な者は、これを非民主的である、と主張する。ギリシャの元財務大臣Yanis Varoufakisも、EUとIMFが2013年にキプロス政府に加えた圧力を「クーデタ」と呼んだ。それは2015年、ギリシャがEUによる救済融資案を拒む国民投票を行った後、その方針を逆転する圧力のリハーサルであった、と。
たとえユーロ圏にとどまると表明しても、同盟は15%のフラットタックスを主張し、M5Sはユニバーサル・ベーシックインカムを主張している。その結果、EUのGDP3%という予算上限を吹き飛ばすのは確実だ。その場合、彼らに加えられる圧力は厳しく、さらに金融市場の反応を考えれば、人民の意志を挫く陰謀だ、と主張するのかもしれない。
しかし、そのような主張は粗雑である。確かにイタリアは、減税や財政支出を制約されている。それはユーロ圏の制約ではなく、もし離脱してリラにすれば、EUが何も言わなくても、イタリアは債務危機に陥るからだ。他方、イタリアは通貨価値の切下げや、債務をインフレによって軽減する可能性を失った。そのような過去の悪癖をユーロ圏が是正したのだ、と言うが、成長を失った今では、それを求める声が出てくる。
さらに、ドイツ人も、イタリア人と同じくらい、ユーロを「檻」だと感じている。ドイツの未来は、近隣諸国の不幸に結びついてしまった。もしユーロ圏が分裂し、金融危機を南欧に封じ込めることができなければ、一気にそれが債権を保有するドイツの銀行や貯蓄者たちのリスクになる。
経済的破局により、通貨圏だけでなく、EUそのもの、戦後のドイツ外交すべてが破滅するだろう。
The Guardian, Tue 5 Jun 2018
If the EU
punishes Italy, it will reap the whirlwind
George Soros
PS Jun 5, 2018
Will
Italy’s Populists Upend Europe?
MARK LEONARD
The Guardian, Wed 6 Jun 2018
The best
thing Germany could do for Europe is quit the single currency – but it won’t
Larry Elliott
たとえ衰退は明らかであっても、ソ連the Soviet Unionは崩壊しなかった。第2次世界大戦を勝利したシステムが経済を破たんさせたことを、支持者たちは認めなかったからだ。
同じことはthe European Unionについても言える。熱心な支持者にとって、EUは、高い成長率、進歩的な諸価値、サッチャリズムとの闘い、政治統合への前身、を意味している。しかし、現実はそうではない。
ソ連のゴルバチョフ時代と同様、EUにもラディカルな改革を叫ぶ者たちがいる。UKにおける左派的なEU残留派は、EU改革においてUKの改革が重要な役割を果たし、Brexit支持者たちを説得できる、と主張する。ゴードン・ブラウンのBrexit批判がそうだ。すなわち、低賃金、不確実さ、移民、NHS(国民医療保険)を解決する。
EUには、どのような選択肢があるのか? 第1に、マクロンが主張するアメリカ型統合だ。それは、ドイツも含めて、EU内で支持されていない。第2は、イタリアが唱えるユーロ圏からの離脱だ。しかし、金融市場によって金利が高騰するから、実行できないだろう。第3は、財政緊縮ルールの緩和である。新自由主義的な調整を放棄し、移民に関しても「アフリカへのマーシャル・プラン」を採用する。
こうした改革案を阻むのはドイツの強い反対であり、そのEU観である。最善の選択肢は、ドイツがユーロ圏を離脱することだ。そして北欧諸国と小さなグループを形成する。この新しいユーロ圏は、悪いイメージを一掃し、大幅なユーロ高によってEU内の不均衡を解消し、ドイツの本来の通貨同盟を実現する。ヨーロッパ統合と「マルチ・スピード」案も、実行できるだろう。
しかし、これはマクロンの統合案が幻想であることを意味する。現在の単一通貨において、ドイツだけが利益を受けている国だ。そして、フランスを排除するハード・マルク型の新ユーロ圏を拒否している。
もしヨーロッパの指導者たちが時間をユーロ誕生前に戻せるなら、これこそ実行するべき通貨統合だ。そして、もしEUが機能していれば、イギリスはBrexitを選択しなかっただろう。
SPIEGEL ONLINE 06/06/2018
Fixing the
Euro
The Time
to Act Is Now
An Essay by Henrik Enderlein
PS Jun 6, 2018
Scapegoating
the EU Won’t Fix Italy
DANIEL GROS
イタリア国民は、移民を押し付けられたとEUを非難する。しかし、それは間違っている。イタリアはEUのルールに従う形でした、受け入れていない。むしろ、イタリア政府の移民処理スピードが遅く、都市部の近くに移民を滞留させて住宅不足を激化させていることが問題だ。
イタリアのポピュリスト政権がEUに責任を押し付ける移民危機も、財政危機も、金融危機も、その源はイタリアにある。移民管理や債務削減、ユーロ離脱を実現できても、イタリアは何も解決しないことを知るべきだ。
(後半へ続く)