IPEの果樹園2018

今週のReview

6/4-9

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米朝会談のキャンセル ・・・イタリア連立政権の模索 ・・・トランプ対アマゾン ・・・インド民主主義の浸食 ・・・中規模国家の同盟 ・・・国際政治におけるドルとユーロ ・・・世界を統治する

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


● 米朝会談のキャンセル

The Guardian, Fri 25 May 2018

The North Korea summit farce makes it clear again: Trump is dangerous

Simon Tisdall

これはトランプの尊大さ、傲慢さの表れだ。米朝会談を無期限に延期して、朝鮮半島の平和を実現する絶好の機会を失い、アジア太平洋地域に新しい不安の時代をもたらす。同盟諸国の意見を聞かず、核戦争の危機を煽る。

これは指導力ではない。日替わりの、人為的な、カオスの仮面舞踏会である。「アメリカ・ファースト」ではなく、「アメリカ・フーリッシュ」である。

PS May 26, 2018

Trump Cancels, China Wins

BILL EMMOTT

トランプ大統領は、612日に計画されていた金正恩との首脳会談を突然キャンセルした。東アジアにおける戦略的アクターの中で、アメリカの地位は低下した。特に、中国に比べて。

この数か月における金正恩の地位の改善はめざましい。国際的な孤立から脱して、平和の推進者になった。

もちろん、東アジアのだれもキムの変身を信用していない。彼はなおも野蛮な独裁者である。しかし、近隣諸国のすべて、日本、韓国、中国、ロシアが、キムの外交戦略を、トランプよりも予測可能なもの、信頼できるものとさえ、考えている。

キムが本気で「非核化」を交渉するのか、核抑止力を得るための開発の努力と時間を考えれば、疑うのは当然だ。しかし、軍事的緊張を鎮静化し、おそらくは、平和条約や地域の枠組みを構築することが、好ましい展開であるのは当然だ。特に、韓国人と中国人にとって。

アメリカの交渉姿勢は異なる。トランプ政権は、北朝鮮の核兵器と軍事力を完全かつ検証可能な形で解体するよう求めた。それは全く現実的ではない。さらに悪いことに、トランプがイラン核合意を離脱し、ボルトンやペンス副大統領がカダフィのリビアを非核化のモデルとしたことは、アメリカの信用を破壊した。

問題は、サミットなしに、アメリカが北朝鮮の非核化、さらには体制転換をするのか、ということだが、それは地域の戦略的な同盟諸国の反応を観る必要がある。日本と韓国は、トランプの衝動的な決定に打ちのめされ、排除され、無視されたと感じている。特に日本は、北朝鮮よりアメリカの行動を恐れているだろう。日本がトランプの鉄鋼関税を免れることもない。

トランプのキャンセルを、北朝鮮は対話の継続として対応している。重要な点は中国の姿勢だ。昨年、中国はアメリカに協力して北朝鮮への経済圧力を強めた。それは地域の安定性を確保するためであった。最近、キムは2度も北京を訪問した。トランプとの首脳会談を前に、習の支援を求めて服従したのだ。

トランプは中国に好条件をプレゼントした。米中貿易紛争の材料として北朝鮮を利用できる。また、キムには北朝鮮が中国に大きく依存していることを確認できる。また、EUや日本はアメリカとの貿易紛争を抱えている。

米朝首脳会談がどうなるにせよ、軍事衝突がなければ、中国の勝利である。今や、アメリカではなく、中国こそが地域の平和と安定性を保証していることは明白なのだから。トランプの言動で、アメリカの影響力は失われ、中国の戦略的優位が高まった。


● イタリア連立政権

SPIEGEL ONLINE 05/25/2018

Will Populists Stall Europe?

Italy's New Goverment Is Bad News for the Euro

By DER SPIEGEL Staff

2つのポピュリスト政党が、たっぷり支出することにだけ合意して、連立政権を成立させるかもしれない。それはユーロ圏にとって悪いニュースだ。

この政権は、この70年間で67番目の政府であり、その中でも最も異常な、経験を持たない政府である。両党はともにEUを嫌い、ロシアに友好的であるが、政策目標において、ほとんど共通するものがなく、互いに憎しみ合っている。Matteo Salviniが率いるLegaは北部の富裕層に支持され、Luigi Di Maioが指導するM5Sthe Five Star Movement)は南部の貧困層に支持されている。

イタリアの政府債務は23000億ユーロ、GDP比で132%に達する。イタリアは今もまだ金融危機の後遺症に苦しみ、特に、若者の高失業率、同時に、地中海を越えてイタリアに来る移民たちへの対処にも苦しんでいる。

2人の指導者Salvini and Di Maioは大きく異なる政策綱領を掲げて、そこには減税、ベーシックインカム、年金改革の逆転、が含まれる。ある推計では、これらの結果、少なくとも、年間で1090億ユーロの赤字が発生する。両者の連立に向けた合意は、国家財政を破たんさせる青写真である。

EUとユーロはGrexitを生き延びることはできただろうが、イタリアが離脱するとしたら、それはむつかしい。81歳の経済学教授Paolo Savonaが経済金融大臣に指名されたが、かれは新著 "Like a Nightmare, Like a Dream" でベルリンを批判している。「ユーロはドイツが作った拘束衣だ。」 ベルリンは、「ナチスの時代から何も変わっていない。」 「ユーロ圏に加盟するのは、独裁者のいないファシズムであり、経済的には、軍国主義を除いたナチズムだ。」

このサルジニア出身の老人が、次のEUサミットでドイツの大臣と並んで座るのか?

M5SDi Maioたちは、誇大妄想的なポピュリスト運動でイタリアを動かすために全力を注ぐだろう。ポピュリストの勝利が、アメリカとの貿易戦争、Brexit交渉など、EUの困難な時代に重なっていることが問題だ。ギリシャ救済にともなった破壊的な政治紛争が、ヨーロッパ全体で再燃するかもしれない。

ドナルド・トランプの元主任戦略官であったスティーブ・バノンは、Salvini and Di Maioの勝利を大いに歓迎した。彼らがブリュッセルと闘うことは非常に重要だ、と。しかし、ECBがイタリア政府の債券を数億ユーロも購入して経済を維持しているのに、連立政権が合意した政策が、ECB2500億ユーロの債務を免除せよ、というのは現実を無視している。幻影政治"Fantapolitica"だ。

イタリアの破たんはEUが受け入れられないから、救済を前提に強硬策を採る、と懸念されている。しかし、ドイツの専門家は、2001年のアルゼンチンがそうであったように、共通通貨圏を離脱することはイタリアにとっても最悪のシナリオだ、という。

FT May 28, 2018

Italian deadlock sets stage for fierce battle over the EU

TONY BARBER

少なくともこの5年間、イタリア・ポピュリズムの抑えがたい勢力は、この国の政治、官僚、金融、産業のエスタブリシュメントと衝突するコースを進んできた。次の解散、総選挙が、恐らく10月にあれば、その衝突は早まるだろう。選挙はユーロ圏をめぐる戦いになるはずだ。

ヨーロッパ中で、多くのEUを支持する政治家たち、銀行家たちが、19カ国の国民が不完全な貨幣同盟に参加することで、次の金融危機にさらされている、と不安を感じている。イタリアが政治と憲法の危機に陥っていく恐怖は、ユーロ圏を守るためにはリスクを共有する改革が必要だ、というフランスのマクロン大統領の提案を議論できなくするだろう。

イタリアの過激な経済実験が続く限り、ドイツなど、他のユーロ圏加盟諸国は、より多くの財源や意思決定を共有することに反対する。イタリアで再び選挙が行われれば、反エスタブリシュメント、反移民の、左右のポピュリスト政党が支持を伸ばすだろう。イタリア大統領Sergio Mattarellaが、政党に属さない、元INF理事のCarlo Cottarelliを暫定政権の首相に任命したことは、エスタブリシュメントの最後の抵抗を示している。

まるで包囲された中世のイタリア都市国家が、その城壁に迫る敵の大軍に対して、必死で防衛線を強化しているように見える。Cottarelliの行為は、憲法のかつて使われたことのない権限によるものであり、ユーロ圏の義務を果たすために、次の選挙でイタリア解体につながるかもしれない。

一方には、19世紀以来のイタリア統一と解放の原理、国民主権と民族の自決を掲げる勢力がある。他方には、ブリュッセル、ベルリン、フランクフルト、そして彼らに媚びるイタリアのエスタブリシュメントとして、4半世紀の政治的な無能さ、経済衰退を非難されている者たちがいる。

FT May 29, 2018

Driving Italy out of the euro makes no sense at all

BILL EMMOTT

もしユーロ圏を離脱すれば、政府債券を保有するイタリアの銀行は破たんする。債券価格は急落し、銀行救済によって政府の債務がさらに増える。債務の組み換えやデフォルトがうまくできるのか? それはわからない。しかし、イタリアの家庭は損失を被る。

イタリアは政権合意の枠内で、こうした財政支出の余地を得る交渉を実現できる。かつて2011-2013年にMario Monti首相がしたことだ。議員でもない、ユーロ圏離脱を唱えるPaolo Savonaの指名が問題を生じた。

反ユーロで連立政権を組む選挙にファイブ・スターが挑むことはイタリアの家庭を怯えさせるだろう。同盟との連立策は愚行である。同盟の過去は、地方でも中央でも、政治汚職やクローニズムに満ちている。それはファイブ・スターの支持者が強く反対するものだ。

だれにとっても、レンツィが首相となって政府が経済改革と成長策を進める方が望ましいだろう。汚職撲滅、司法制度改革、再雇用に向けた福祉の充実、という政策には十分な意味があり、ファイブ・スターも支持している。

しかし、そのような改革も、金融市場と対立し、ユーロ圏を離脱すれば無駄である。


● トランプ対アマゾン

NYT May 25, 2018

America Last: Trump’s Attack on the Amazon Job Machine

By Timothy Egan

トランプ大統領は、アメリカ第2の企業、アマゾンに宣戦布告した。アマゾンは、いくつかの州の雇用を上回る人々を雇用している。すべての主要都市が、その第2本社と5万人の高賃金職を誘致するため競い合っている。

それはおそらくアメリカ最大の雇用創出マシーンであるが、トランプは大統領の権力を行使してそれを損なっている。他方、犯罪にかかわった中国の通信企業ZTEからは手を引いて、中国の雇用を邪魔するのはやめた。

アマゾンはもちろん聖人ではない。倉庫では低賃金で雇用し、多くの零細小売店をつぶした。多数のIT企業が日常生活に侵入する。しかし、トランプはこうした複雑な問題を懸念して行動しているのではない。彼にとっては好悪の問題だ。

トランプは、アマゾンの創立者で会長のベゾスJeff Bezosが大嫌いだ。郵送による書籍販売を世界最大のオンライン商店に変えて成功したことを嫌うのかもしれない。しかし、もっとありそうな理由は、ベゾスがThe Washington Postを所有しているからだ。それはトランプが好んで観るFox Newsとは全く違う。

ポストを攻撃することは憲法が阻むから、トランプはその所有者を攻撃する。しかし、ベゾスはポストの編集に関わっていない。トランプはアマゾンの郵送料を2倍にするよう求めたという。これが制約のない強権を行使できる者の考えることだ。敵を処罰し、黙らせるために、国家を利用する。トランプはこの点を明快に示した。自由な新聞は「人民の敵」である、と彼は言う。

他方、専制支配者は友人を報奨する。北朝鮮やイランと取引したことで処罰されたZTEは、中国がトランプ・ファミリーのビジネスを優遇したことで、その処分を取りやめた。アメリカの利益は最後になり、トランプ・ファーストである。

専制支配は、隠れた、深夜の密談から生まれる、と思っていた者は、その考えを改めるべきだ。トランプは明瞭な違反行為を毎週のように示す。民主主義は真昼でも死ぬのだ。


● インド民主主義の浸食

NYT May 30, 2018

India’s Embattled Democracy

By Hartosh Singh Bal

公平で、独立した選挙過程、独立した司法、大いに声を上げる反対派のいる議会、比較的自由な新聞、政治から距離を措いた軍隊。1950年に憲法を決めてから、こうした特徴がインドの民主主義を定義してきた。

行政、立法、司法が憲法に基づいて機能する国として、インドは発展途上諸国の中で傑出した存在であった。しかし、Narendra Modiモディが率いるBJPthe Bharatiya Janata Partyが政権に就いてわずか4年しか経たないが、この国が達成したものがいかに脆いもので、その破壊が進んでいるかについて、理解するには十分だった。

インドのガバナンスはかなり分権化されたシステムである。各州は首相によって統治されており、選出された政党もしくは連立政党の指導者である。州議会の多数議席を得ることで首相が決まる。また、州には連邦政府が指名する知事もいる。知事は儀礼的な存在であり、選挙後、諸政党を呼んで、最大議席の政党・連立に組閣を求める。

しかし、カルナタカ州でモディに反対する連立勢力が勝利したとき、その州知事で、かつてのモディの補佐官であったVajubhai Valaは、憲法に反して、BJPに組閣を命じた。最高裁がこれに介入する必要があった。

同様の腐食は議会にも、予算配分の議論をモディが打ち切ったのだ。それは「ギロチン」と呼ばれる措置だ。最高裁の判事にも圧力をかけている。

インドで尊敬されている法律家の1Prashant Bhushanは、モディ政権を批判する。「政治的に微妙な裁判」では都合の良い結果が出るように、政府が裁判官を排除する。それは明らかに政治的な操作、政府の利益に従う司法の悪用である。

インドの軍隊も、選挙管理委員会も、メディアも、モディやBJPは影響力を強めて、自分たちの政治的勝利を導いている。

政府が高い支持を得ていたときでさえ、反対派への弾圧、民主的制度の浸食を進めてきた。モディが、支持率の低下と来年の選挙に向けて、どれほど民主主義を破壊するか、考えるのは恐ろしいことだ。


● 中規模国家の同盟

FT May 27, 2018

Mid-sized powers must unite to preserve the world order

GIDEON RACHMAN

国際政治はますます合意、規範、ルールを捨て去りつつあるように見える。グローバルな貿易システムを攻撃し、気候変動やイラン核合意から離脱したアメリカ。国際裁判所や近隣諸国の訴えを否定し、南シナ海で軍事基地を建設する中国。クリミアと隣国の一部を併合してしまったロシア。

アメリカも中国も、国際条約を無視して、自由に、一方的なパワーの行使により目標を達成する誘惑に駆られている。

こうした事態は、世界の中規模国家にとってジレンマを生じる。ドイツ、フランス、日本、イギリスは、大国のように軍事力を行使できない。しかし、国際的なプレイヤーとしてグローバルな経済・安全保障に関心を持つ。彼らはルールを持つ世界を必要としている。

共通の問題があることは、1つの機会でもある。中規模国家がインフォーマルな同盟を形成し、ルールに依拠したグローバルな秩序を支持するべきだ。個別の国家としてはできないけれど、集団となれば、パワーや嬌声に頼らない、ルールや権利に依拠した世界を守れる可能性がある。

少数の国から始めることだ。6か国(人口規模の順でJapan, Germany, Britain, France, Canada and Australia)は、裕福で、民主的な諸国である。したがって、類似した利益と価値を示すだろう。すべて大規模な貿易国であり、(日本を除き)軍事力を国際展開する意志がある。これらの国は、貿易や投資だけでなく、国際的なルールの構築に共通利益を見出し、人権の国際基準を支持する。韓国、南アフリカ、イタリア、ブラジルのような諸国が、さらに候補として追加できる。

彼らがこれまで国際的な立場を決めてきた2つの支柱が失われつつある。すなわち、アメリカとの緊密な関係と、EUAPECNAFTAのような地域協定である。

ヨーロッパやアジアには、ロシアや中国との関係を強化して国益を守る姿勢を示す国もある。しかし、それは危険であろう。また、EUの果たす役割も怪しくなっている。

中規模諸国のグローバルな同盟というのは奇妙な、実現困難な目標かもしれない。しかし、時代が代われば、発想も変えるべきだ。


● 国際政治におけるドルとユーロ

FT May 30, 2018

Donald Trump is jeopardising the dollar’s supremacy

EDWARD LUCE

1次世界大戦が勃発したとき、投資家たちはドルを売って、ポンド・スターリングを買った。それは外貨準備であった。イギリスは宣戦布告し、アメリカは部外者であった。危機において人々は安全な非難所を求める。誰もイギリスが戦債を支払えないとは思わなかった。

2008年のリーマンブラザーズが倒産した後も、市場は同様に行動した。ウォール街が危機の震源地であったが、ドルは値上がりした。アメリカはその罪悪によって利益を得たのだ。しかし、財政の無駄遣いは永久に続けられない。ドナルド・トランプの行動は、人々のドル保有を躊躇させるだろう。

トランプの減税がこのままなら、アメリカの政府債務はGDPに対して77%であるが、2028年末には105%になると予測された。イタリアは131%である。しかも、次の不況が来る。その場合、トランプ以前よりも、アメリカの財政赤字は急速に増大するだろう。トランプは財務省が不況を戦う弾薬を奪ってしまった。

さらに、アメリカ連銀はその量的緩和をまだ正常化できていない。4兆ドルに近い政府債券を売却し始めたばかりだ。もしトランプが2020年に再選を目指すなら、その前に不況が来るかもしれないが、財政刺激策は巨大な規模になるだろう。ヒラリー・クリントンの敗北で、民主党も、もはや財政均衡を訴える気はない。11月に下院で多数を回復しても、アメリカの債務を増やす機会にするだろう。

アメリカの政治的危機がドルの優位を破壊するのはいつか? イタリアと違って、アメリカは自国の通貨を発行できる。日本の政務債務がGDP200%を超えていることを観ても、財政赤字だけでは危機にならない。しかし、世界の準備通貨であるためには、日本の基準は適用できない。

Eswar Prasadが書いたように、ドルの信頼とは、その背後にある制度、法の支配、政治的安定性、グローバルな指導力、に対する信頼である。しかし、トランプはすべてを損なっている。

Barry Eichengreenが予告するように、世界は複数準備通貨体制に向かっている。それは歴史の多くの時代に存在したものだ。戦間期は、ドルとポンド・スターリング、それにフランス・フラン、ドイツ・マルクが加わった。今は、ドル、人民元、ユーロである。以降はスムーズに進むかもしれないが、戦争によって引き起こされるアメリカの債務ショック、あるいは、2008年規模の金融崩壊かもしれない。保護主義への転換も同じ結果をもたらす。そのとき、ドルの王様は死ぬ。

何が起きるとは言えないが、トランプの気質はスムーズな移行を受け入れない。


● 世界を統治する

FP MAY 29, 2018

Trump’s Kaiser Wilhelm Approach to Diplomacy

BY JEREMI SURI

トランプの外交は、これまでの指導者による外交の基準からみて、まったく異常な、直観的スタイルである。彼はキムがTwitterで返信して来るのを待っているのだろうか?

このような外交の破たんは、1世紀さかのぼって探すことができる。ドイツのヴィルヘルム皇帝が、1908年、Daily Telegraphのインタビューでイギリス人に対して示した姿勢である。

「あなたたちイギリス人は春のウサギのように狂って、狂って、狂いまくっている。」・・・「私は嘘やごまかしが嫌いだ。私の行動は明白なのに、あなたたちはそれを誤解し曲解する。私はそれが私に対する侮辱であると感じる。残念だ。」

イギリス人は、皇帝が和平交渉を担うにはふさわしくない、と判断した。

FT May 30, 2018

The world’s progress brings new challenges

MARTIN WOLF

この半世紀で世界は豊かになったが、新しい挑戦が始まっている。

1970年代の初めには、1人の女性が5人近くの子どもを産んだ。多くの者が人口爆発による破滅を予言した。しかし今、世界の出生率は2.4に下がっている。それは豊かな人々が少ない子供に多くの教育費をかけるからだろうが、それ以上に、貧しい人々も子供の多くは生き残ると分かったからだ。また、世界的に平均寿命が延びた。絶対的貧困も大幅に減少した。

新しい挑戦とは、急激な都市の拡大を管理すること、感染症がますます短時間で広がること、がある。そして、グローバルな紛争と環境破壊は最も大きな課題だ。

西側は科学と技術を獲得し、世界人口の8分の1が他を支配したが、その時代は終わった。相対的なパワーが変化する中で平和的な調整を実現することは難しい。人類が豊かになることで環境への負荷は増している。温暖化ガスの抑制を達成するには、数十億人が豊かになることを拒まれるのか? それは不道徳なだけでなく、実行できない。

進歩を維持し、危機を回避するには、平和的な協力が必要だ。国際的な合意を形成して、中国にも参加するように促すことだろう。しかし、トランプがそれに逆行する。

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The Economist May 19th 2018

There is a better way

Coalition negotiations in Italy: Fiddling before Rome burns

The dollar: About that big stick

Banyan: A Malaysian tsunami

Burundi’s referendum: Back to the old days

Zimbabwe: In a while, Crocodila

Italy’s coalition talks: The wills of the people

China’s economy: Disappearing trick

(コメント) パレスチナ難民がイスラエルの占領や無国家状態を終わらせるために、徒手空拳で重武装のイスラエル警備隊に向かうことは正しくない。もっと良い方法を見いだすことだ、と記事は主張します。

イタリアの左右ポピュリスト政権はユーロ圏を脅かし、トランプ政権はドル圏を脅します。ジンバブエのハイパーインフレーションは沈静化したと言えず、他方、中国の経常黒字は消滅しました。ブルンジは、他の多くの諸国で起きたように、憲法による大統領の権力抑制を失うかもしれません。マレーシアでは、3つの異質な反政府勢力が結集し、強権政治を変えました。

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IPEの想像力 6/4/18

インドとアフリカには行ったことがありません。

インドの調査旅行を計画して、バタバタするうちに時間が無くなりました。インドはさすがにハードルが高いです。

人口は13億人。ということは、アメリカとEUと日本を足したよりも大きいわけです。ムンバイ(ボンベイ)に行くつもりですが、マハラシュトラ州の人口だけで1億人に近い規模です。

多くの予防注射が必要だ、とわかりました。短期の旅行者ではなく、長期の滞在や生活圏に入る調査を行う場合、6種類、あるいは、さらに多くの予防接種が必要になります。日本では犬が狂犬病の予防注射を義務付けられ、人間の罹病はゼロだと思いますが、インド、そして世界の多くの地域でそれは逆なのです。

8月は雨季です。毎日スコールが降って、下水のインフラが不十分なために、道路が川になります。人は膝近くまである泥水の中を歩きます。

生水や生野菜は食べない方がよい、ということです。

そもそも、はたして英語が通じるのか? 私の会話能力には限界があります。インドの英語は(とても)早口で、とてもBBC放送のようなは発音ではない、と感じます。それは偏見だ、言語に優劣はない、と思いますが。

それより、ムンバイのような大都市には、インド各地の人々が集まった結果、異なる言語集団が存在し、英語圏とは決して言えない多言語状態が広がっているでしょう。

今はインターネットが世界をつなぎ、旅行者のハードルは大幅に下がったはずです。飛行機やホテルの予約は簡単でした。しかし、意外なことに、インドの都市はGoogle Viewが見えません。

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アカデミックな研究は混沌とした現実に視野を与えるものです。久保田さんの助言に従い、『現代インド 1~6』を読み始めました。第1巻の序章は述べます。

「現在のインドは、「貧困と差別にあえぐ閉じられたカースト社会」という枠組みを大きく超え、「成長力をもつ開放的な多様性社会」という顔を有するに至った。」・・・「多様な民衆が公共参加を遂げるなかで、インドは活気に満ちている。」

研究者たちが提示するのは4つの視角です。1.生存基盤的歴史観。2.南アジア型発展経路。3.開発民主主義への体制変容。4.多様性のつながりへ向かう構造変化。

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何を観たいのか? 都市の生活圏を観たい。急速に開発される地区やショッピングモール、町工場の集積を観たい。市場を歩く人々の活気、輪タクの若い労働者たちを観たい。鉄道に乗って近郊都市を訪ね、せめて車窓からでも農村の暮らしが観たい。

インドは、一種のEUなのです。多言語で、多文化、経済発展に地域や階層による大きな差があります。しかし、人は自由に移動し、通貨を共有しています。それは植民地時代からの官僚制を引き継いだから、というだけの理由ではないはずです。

ユーロ危機や共通通貨の限界がヨーロッパでは議論されています。多文化主義や移民政策に関して、EUやアメリカは逆転しつつあると思います。インドはどうなのか? むしろ近代化への革命を人々が支持し始めたのではないでしょうか?

トランプの保護主義、中国の外交攻勢、ヒマラヤ、インド洋での衝突が懸念されます。新興市場の通貨不安が再現しつつあります。

どのような運動や政策が、インドの選挙で影響力を持つのか? 私たちの未来は、中国のような、漢民族が圧倒的多数を占める、共産党が指導的地位を維持する世界秩序ではないと思います。それは、もしかすると、インドのような姿なのかもしれない、と私は思いました。

インドが成長し、民主的な社会を統治できるなら、世界だってできるかもしれません。私はその姿を観てみたい。予防注射をいっぱい打たれても、親しい若手研究者がいる間に、初めてインドへ行ってみよう。

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